ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
夏休みに突入するとツグミはいつものように7月中に宿題をすべて片付けてしまい、8月はボーダー活動に専念した。
東とはもちろんのことだが三輪や二宮との関係も良好で、連携の訓練も好調である。
ツグミは
三輪が
そして東が
もっともこの頃は
嵐山隊は嵐山と柿崎のふたりで結成していたが9月になって入隊した時枝、佐鳥が加入するまで広報をメインに仕事をしていてランク戦に参加するかどうか判断に迷っていた。
木崎隊はレイジと小南と迅という最強メンバーであるが、わけあってランク戦には参加できない。
林藤とクローニンが独自のルートで入手した
太刀川と風間は現在
太刀川がトップであったが、迅がスコーピオンを使うようになったことで太刀川と迅のツートップに風間が続くという形になっていく。
諏訪は9月入隊の堤が訓練生の時にスカウトしていて彼が正隊員になったタイミングで諏訪隊を結成するが、戦闘員2名では戦力不足と考えて今回の
他の第2期入隊のメンバーは既存の
◆◆◆
近・中距離を得意とする
こういった点で東隊と似ているが戦闘の経験値や
だがチームワークの面では嵐山隊も負けてはおらず、むしろ連携では東隊を上回るかもしれない。
よってどちらが勝ってもおかしくない状況であるから、試合を観戦しようとする隊員や職員が試合開始時間の30分以上も前から観客席に陣取っている。
これまでは訓練の延長として一対一の
特に
ここで
しかし人気の原因はこの
もちろんこれは個々の隊員の成長を促すために公開するのだが、娯楽に飢えている青少年にショーとして見せることで楽しませようという意図も含まれている。
「やるなら楽しんでもらった方がいいだろ」と言う林藤の提案で公開試合となり、さらに
その林藤の目論見は成功し、以降このシステムが防衛隊員の質を向上させることになる。
◆
東隊の作戦室では最終ミーティングが開かれていた。
今回の試合は初回であるためまだ順位が付けられていないので、下位の
そこで隊長同士のじゃんけんで勝った嵐山隊が「マップ・市街地B」と「時間帯・昼」「天気・晴れ」を選んだ。
基本中の基本であり、両陣営のポジションもほぼ同じであるから東隊にとっても都合が良く、お互いに作戦を練りやすいために戦術とチームワークが勝敗を分けることになるだろう。
ただしまだこの頃は攻撃用トリガーを中心に開発していた時期であったから、旋空や
「嵐山隊の戦力をもう一度確認しておこう」
東はコンソールパネルを操作して嵐山隊隊員の基本情報を表示した。
「このように嵐山、柿崎はメインに
東に名指しされたツグミはすぐに答える。
「嵐山隊の基本戦術は
「では俺たちはどうしたらいい?」
「
ツグミは「市街地B」のマップを表示して指差す。
「狙撃に適しているのはこのマンションと中学校の校舎、そしてショッピングモールといった高い建物の屋上で、それぞれ児童公園と校庭と駐車場という戦闘フィールドがあります。この中で児童公園は広さが適当で園内に遊具があって身を隠すのに使えますから、この3つでしたらここがベストだと思われます。嵐山隊はここを狙って来る可能性が高いです。よってマンション屋上の狙撃ポイントを先にこちらが占拠できれば良いですが、佐鳥さんに取られたら面倒ですので彼はわたしが何とかします。そういった点を踏まえて東隊は動くことになりますが、まず敵と戦う際に絶対に一対二になってはいけない。一対二の状況になったらとにかく逃げること。そしてチームメイトと合流して自分たちに都合の良い場所で戦うことを心掛ける。無理はしない、です」
ツグミがスラスラと答えるものだから、東は月見と顔を見合わせて微笑んだ。
東は弟子の成長が嬉しいし、月見にとってもツグミは妹のようなものだから彼女が年長者にわかりやすく説明する様子を見ているのは楽しいに違いない。
ただ東は口にはしなかったものの、ひとつだけ気になる点があった。
東はツグミの状況によって臨機応変に対処できる能力を高く買っているので、彼女には比較的自身の判断に任せている部分がある。
だからさっきの「わたしが何とかします」も彼女に策があって上手くやってくれるのだと信じているが、何を根拠にそう言えるのかわからないからだ。
ツグミは第一次
東にさえもまだツグミは話をしていないのだ。
これは彼女にとっての切り札で、いずれは知られることであってもまだ教えるタイミングではないと彼女は考えている。
いや、自分で言うことはせずバレるまで内緒にしておくことにした。
◆
一方、嵐山隊の作戦室でもミーティングが行われていた。
彼らも東隊の対策を講じており、一対一にはならないようにして常にふたり以上で攻撃することを心掛けている。
よって転送直後のから合流までの時間を可能な限り短くし、戦闘状態に突入するまではバッグワームを必ず起動しておくことに決めた。
佐鳥はツグミが想定しているようにマンションの屋上に直行し、嵐山たちが東隊のメンバーを児童公園に誘い込むのを待つことになった。
ただし中学校の校庭とショッピングセンターの駐車場という第2案と第3案も考えており、状況に応じて柔軟に対応するという点も忘れてはいない。
「問題はツグミくんの動向だ。彼女は近・中距離対応の
嵐山はそう言うと、柿崎が意見した。
「ああ、そのアイビスの件なら心配はいらない。前に仲の良い
「たしかに射線が通らない場所なら東さんからの狙撃も防げるが、こちらも佐鳥の援護なしで戦うことになる。そうなれば三対二でこちらに有利のように思えるが、ツグミくんが接近して来た場合は三対三で五分になるぞ。なにしろ戦闘員が4人でポジションも
嵐山が言うようにポジションが確定していないことでツグミは「どの盤面でも使える最強の駒」になっていた。
単に
特にトリオン量と強化視覚の合わせ技でイーグレットの射程が東や佐鳥よりはるかに長いものだから、彼女を危険視するのも無理はない。
しかし嵐山には勝算があった。
「強敵かもしれないがおれたちの最強の武器『チームワーク』を駆使すればきっと勝つことができる。とにかく冷静に行動し、敵の術中に陥らないようにすること。そして多少無理はしてもかまわない。なにしろ試合に負けたところで死ぬわけじゃないんだからな」
そう言って嵐山は笑った。
実戦での負けは死につながるが、仮想空間での模擬戦では死ぬどころか傷つくことすらないのだから。
手や足の1本や2本失ったところで勝てばいい。
この考えは防衛隊員全体に広まっていくのだが、ツグミだけは頑として納得せずにいて4年経った現在でも無傷で勝利する戦いを長い間ずっと続けている。
その始まりがこの試合なのであった。
◆
本部司令執務室では城戸、忍田、林藤の3人がまもなく始まろうとしている
ランク戦のシステムを考えた林藤と本部長としての立場上観戦する必要がある忍田は当然なのだが、城戸までもが見ようというのだからそれだけ期待度が高いことを意味している。
もっとも
そして彼らの腰掛けているソファの前のテーブルの上には写真立てに入った写真が2つ置いてある。
ひとつは城戸、忍田、林藤、有吾、最上、織羽、美琴の7人が写っているボーダー創設から2年ほど経った頃の写真。
もうひとつはツグミ以外の19人の隊員で撮った集合写真。
皆が笑顔で写っており、その後に起きる悲劇などまったく想像していないほど幸せに満ちた写真だ。
しかしこの2枚の写真の中の人物の半数以上がもうこの世にはいない。
多くの仲間や大切な人を喪いながらもボーダーを引き継いできた3人。
この
「まだそんなものを後生大事にしていたのか? 未練がましいな」
城戸が冷たい目で言う。
「そうはいっても彼らは今でも俺たちの仲間で、彼ら…特に有吾さんはこのランク戦を楽しみにしていたんだぜ。まだ隊員が10人にも満たない頃に隊員を
林藤がそう答えると、忍田も昔を懐かしむように会話に参加した。
「有吾さんは『ボーダーの戦いは
そこで本部長として参加する隊員たちの防衛任務のローテーションを融通して訓練時間を増やしてやったり、できる限り多くの隊員に観戦させるためにこの時間だけ市内巡回任務はなしにした。
その代わりに全員が出勤して本部基地に詰めており、いざという時には試合を中止して正隊員全員で出動できるような体制にしている。
試合時間60分の間、
城戸も
別に有吾や最上たちのことを嫌っているというのではなく、林藤や忍田が過去に引きずられているように思えるからだ。
旧ボーダーの思想は夢物語である。
城戸にとって
特に彼は
だというのに林藤は
もちろん林藤にその意思はまったくないのだが、城戸にとっては写真を見ることで記憶が呼び起こされてしまう。
写真の中の子供たちがくったくのない笑顔でいるから余計に自分の無力さ不甲斐なさを責めてしまい、その罪の意識から逃れたくて城戸は早々と旧本部を捨てて現在の新本部基地の建設に乗り出した。
玉狛にある旧本部には楽しかった想い出がたくさんあるからこそ、一刻も早く出て行きたかったのだ。
彼が集合写真を自分の部屋に残していったのも、若い隊員の笑顔を見たくなかったからである。
城戸は林藤や忍田が過去に引きずられていると思っているが、誰よりも城戸自身が過去の悲劇に囚われていて雁字搦めになっているのだが本人はそれに気付いていない。
城戸は過去を振り返らないようにして「
それなのに林藤は未だに旧ボーダーの意思を継ぐべく「本部の意思」とは違う勝手な行動をしていた。
今はまだ黙認しているが、今後の動きによっては城戸も黙ってはいられなくなるだろう。
実際、林藤は城戸の考え方に同調できずに本部を出て「玉狛支部」を創設した。
これは決定的な亀裂が生まれる前に林藤が自ら身を引いた結果である。
ボーダー全体の意思である「
こうしてそれぞれが様々な思いを胸に抱きながら、試合開始時間を今か今かと待っていたのだった。
そこで当作品では新ボーダー始動から2年目の10月ということにしました。
BBFでは9月頃に時枝や佐鳥、堤らが入隊したことになっているので、それを参考にしています。
そして攻撃用
そういったことで、テレポーターのない嵐山隊の機動力は現在より低いです。
さらに正隊員になったばかりの時枝はまだ
三輪も
現在(原作の時系列)と比べるとまだ素人っぽい戦いを繰り広げることになります。