ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
時が経つに連れてボーダーの認知度と信頼度が高まり、入隊希望の若者が増えつつあった。
それは隊員・職員たちの地道で誠実な働きが市民に認められたからである。
その姿を見て自分も戦おうという意思を持つ人間が現れることはとても喜ばしいのだが、すべての入隊希望者が戦闘員として実戦に耐えられるというものではない。
そこで試験を行って可能性のある者だけに絞り込み、訓練生という形にして入隊させてから
それは「トリオン」だとか「トリガー」といった
しかし防衛隊員となるための素質として最も重要な「トリオン能力」を持たない者が多く、筆記試験で合格しても面接の際にこっそり受験者のトリオン能力を測定し、その数値が一定レベルに達していなければ不合格にせざるをえない。
事情を説明してオペレーターや事務職員などに転向してくれる者は良いが、
そこで防衛隊員となる人材をもっと効率良く集めるためにと、防衛隊員や職員を三門市外に派遣して「スカウト活動」を行うようになった。
三門市民と違って
そして防衛隊員の数が増えてくると
当初、B級からA級への昇格は
つまり個人では優秀な隊員であってもひとりだけではA級になれないことになり、さらにチームメイトのレベルやチームワークが他の
もちろん
そうなるとB級隊員は強い隊員を勧誘して自隊に入れ戦力増強を図り、さらにC級の中に有望な人間を見付けてB級昇格の後にチームメイトにするといった活動が見られるようになった。
そうなるとA級隊員で特定の
しかしツグミはすべての勧誘を断り、おまけに自分の
別に
むしろ
それではなぜツグミが
◆◆◆
迅が風刃の所有者となったのは2ヶ月ほど前のことであった。
最上は自らの定められた運命に抗いながらも迅の予知した結果を迎えた時、その命と全トリオンを注いで
城戸は遠征から帰ってすぐに風刃を金庫に入れてしまい、そのまま2年もの間ずっと誰の手にも触れさせずにいた。
ところが急に適合者探しをするということになり、全隊員が起動実験を行った。
その結果、20名以上もの人間が適合者であったため全員で争奪戦を行うことになり、迅が圧倒的な強さで勝ちを得たのだった。
そして城戸や忍田といった上層部の
迅の趣味が「暗躍」と言われるようになったのはこの頃からで、他の隊員には知られないようにコソコソと動くことが増えてきたからである。
ツグミは迅の行動は「城戸たちの密命」によるものだと察し、自分も迅の手伝いがしたいと思うようになったことから
ボーダーは謎の多い組織である。
民間人には知られないようにするのは当然だが、前線で戦う防衛隊員にすら内緒にしていることは多い。
そういった点で「一般隊員にすら知られたくない面倒な案件」を処理する人間が必要となる。
そしてその人間はすでにボーダーの内情を深く知っており、今さら隠してもどうしようもない人物であることが望ましいとして、旧ボーダー時代からの隊員の中から選ぶことになった。
そうなると候補者は迅、レイジ、小南、ツグミの4人となるが、城戸は予めレイジと小南のふたりは除外していた。
小南には不向きな仕事であり、レイジはその人柄から
さらにツグミは東隊で
迅が風刃の所有者となったことは好都合で、彼を「本部司令直属」の隊員とした判断が正しいことはすぐに証明される。
しかし単独行動である上に、彼は
そこでツグミは
もちろん迅の
それなのに本人が様々な手がかりを総合して導き出した事実を忍田は否定することができず、城戸に進言して表向きは
「一般隊員にすら知られたくない面倒な案件」にはいくつか種類がある。
その中で最も面倒なものは
トリオン兵の出現に関しては隠す必要はないし隠し通せるものではないが、
なにしろキオンの諜報員が潜入してツグミの両親を殺害した事件が発生し、事件が表面化するのを阻止するためにいろいろと手を回して事件を強盗殺人事件として隠蔽した過去があるくらいだ。
軍事的な面で「
常に戦争が行われている
もちろん誰もがそれを運命として受け入れて我慢をしながら暮らしているのだが、さすがに命の危機に直面すると
そこで崖っぷちまで追い詰められた人間がやることは逃亡なのだが、中にはこちら側の世界の存在を知っていて亡命を求めて
どうやら「
その情報の発信源は掴めなかったものの、「ユーゴ」という名の男が息子とふたりで様々な国を旅していて、その男が
「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず」という言葉もあるくらいで、ボーダーにとって都合が悪いことにならないと断定できるケースに限り亡命者の希望を叶えることで
こういった案件は年に2-3回は発生し、多くは織羽と同様に戸籍を作ってこちら側の世界で生きていけるようにしている。
実はボーダー本部基地の食堂のおばちゃんや清掃係の若い男性、本部基地の最寄りのコンビニの女性店員の3人は海外から出稼ぎに来ている外国人のように見えるが実際は亡命した
艇を手に入れて
当然のことながらボーダーの目の届く場所に置くのは彼らがこちら側の世界に悪影響を及ぼさないか監視するためでもある。
回収した艇や所持していたトリガーは開発室で事細かに調べられ、その結果ボーダーの遠征艇のエンジンの強化やトリオン効率の良い
そして彼らがもたらす
こうして
しかし2年も経つと組織も盤石なものとなっていて、それが逆に離反を招いたとなれば何とも皮肉なものだ。
「玉狛支部」が創設されるきっかけとなった事件も亡命
そしてその玉狛支部の存在がツグミの人生を大きく変えることになるとは本人すらも想像できずにいた。
◆◆◆
事件が起きたのはまだ残暑の厳しい9月中旬の金曜日の夜であった。
本部作戦室に
発生場所は本部基地の北約400メートル地点。
直ちに現場へ防衛隊員を派遣することになったのだが、
通常は
バッグワームのような機能を備えた新種のトリオン兵である可能性を考慮し、巡回任務に就いていた二宮隊と本部待機をしていた冬島隊の2
警戒区域内であるから目撃者もおらず、考えられるのは「探査システムの誤作動」であったため直ちに開発室の
しかしシステムは正常に作動していた。
システムエラーでなければそこで
それがないということはステルス性能を持ったトリオン兵が送り込まれたか、やはりステルス性を有する艇に乗った人型
ただトリオン反応がないということはバッグワーム的なステルスであるから、現場で目視することで存在を確認できるはずなのだが発見はできなかった。
この時点でトリオン兵か人型
さらにスパイの潜入あるいは亡命者のどちらであっても、その存在を民間人に知られることにでもなればトリオン兵を
なにしろトリオン兵というこちら側の世界の最新鋭の兵器を用いても倒せない怪物を作って異次元から送り込んで来るような
これまで
◆
本来なら年少者、つまり18歳未満の
これは「労働基準法」第61条で定められていることで、特に当時のツグミは14歳で、児童扱いされるために20時以降の勤務は認められない。
しかしボーダーはその特異な組織であるがゆえに防衛隊員の多くが年少者となるため、「特例」が設けられていて深夜の防衛任務であっても問題はないのだった。
そもそも第一次
超法規的措置は当然のことなのだ。
本部司令室に入室すると城戸、忍田、林藤、鬼怒田、そして事件発生当時オペレーターとして対応した沢村の5人が待っていて、迅とツグミは忍田と沢村から詳しい話を聞かされた。
「なるほど…
迅はいとも簡単に引き受けた。
もっとも断ることはできないし、何より心強いパートナーがいるのだから当然の反応かもしれない。
ツグミも迅がやると言うなら自分に異論はないと言わんばかりに頷いた。
「今日は金曜日。ラッキーなことにちょうどシルバーウィークで明日から来週の火曜まで学校は休みになります。4日間あれば何とかなるでしょうから」
ボーダー隊員としての任務であれば欠席も公欠扱いとなるのだが、ツグミが学業を疎かにしたくはないと頑張っている姿を誰もが見ていて、当然のことながら迅も知っている。
その迅が「4日間あれば何とかなる」と言うのだから「4日間で必ず片付ける」という意味であると皆が理解した。
「よし、お前たちに一任する。手段は選ばずとも良い。必ず
城戸は険しい目つきでそれだけ言うと「後は現場責任者の忍田と調整して任務に挑め」という顔でいる。
彼にとって人型
彼が顔と心に一生消えない大きな傷を負った原因は人型
しかしこれで本部司令からの「お墨付き」を貰ったことになり、迅の判断で行動できるようになったわけだ。
彼の
今回もその力を使って
(俺にとって、そしてツグミにとっても未来に大きく影響する4日間になりそうだ…)
迅には少しだけ先の
ただそれは誰にも話せないことで、特にツグミに知られたら白い目で見られること確定な内容である。
よって心の中を悟られないように笑顔を必死になって堪えたものだから妙な顔になり、逆にツグミに不審がられたという始末。
しかし迅にとって異性として意識し始めたツグミとふたりきりになるオフィシャルな理由ができたのだから、そわそわした気分になるのも無理はない。
一方、ツグミは迅の役に立てることが嬉しいのと同時に、ふたりとも無事に任務を遂行して忍田に褒めてもらうのだと気合を入れていた。
(ジンさんの役に立って、それが真史叔父さんのためにもなる。こんなチャンスは滅多にないんだから頑張るぞ~!)
そして翌日からの4日間、ちょっと遅めの「ひと夏の冒険」が始まるのだった。