ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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197話

 

 

目的の茶屋にたどり着く前に雨が降り出してしまった。

おまけに雷まで鳴っているから屋外にいるのは非常に危険であり、雨具を着る時間も惜しいとしてずぶ濡れのままで全力疾走。

土砂降りの雨の水煙の向こうにぼんやりと茶屋の建物が見えてきた時にはホッとしたのだったが、その軒先に入ったところでその違和感に気が付いた。

 

「ジンさん、この店…閉まってますね」

 

「ああ、そうみたいだな」

 

「そういえば連休でもっと人出があると思っていたのに、わたしたち以外にハイキングしている人にまだ出会ってませんよね? この扉も木の板が打ち付けられていて、定休日っていう感じでもありません。もしかしたら廃業してしまったのかも。でも他に雨宿りできそうな場所はありませから、中に入らせてもらいましょう」

 

ツグミはそう言って木の板を剥がそうと手を伸ばした。

 

「勝手に中に入るのはマズイだろ? これって不法侵入とかになるんじゃないのか?」

 

迅の心配はもっともである。

これはボーダーの任務の上での行為ではあるが、その任務は極秘で公にできない。

つまり警察沙汰になれば自分たちが勝手にやったこととして処理されるわけだ。

不法侵入という軽犯罪法に抵触する行為であるから、最悪の場合「個人的な行動によってボーダーの体面を傷付けた」としてボーダーをクビになってしまう恐れもある、と考えていたのだ。

しかしツグミは自信満々で言う。

 

「心配はいりませんよ。これはいわゆる『緊急避難』になります。『危難を避けるため、やむを得ずにした』ことで、建物の中に入って雨宿りをした程度では『避難行為によって生じた害が避けようとした害の程度を超えない』のですから『刑法37条1項』の『自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない』が適用されるはずです」

 

ツグミは「刑法」を持ち出した。

落雷から身を守るためにはこの建物に入るしか他に手段がなかったのだから「緊急避難」であるといえる。

建物を破壊したり中にあるものを盗んだりすれば問題になるが、単に雨宿りをするだけなら所有者に損害を与えることもない。

なにしろこれは「学生ふたりが休日にハイキングをしている途中でにわか雨に降られ、落雷から身を守るために近くにあった()()()建物に避難しただけ」である。

誰からも非難されるようなことではなく、むしろこの茶店の所有者がこのことで不法侵入だと言って騒ぎ立てるようであれば逆に世間がツグミたちの味方をすることだろう。

 

「かろうじて軒先で雨をしのぐことはできるでしょうが、すでに全身びしょ濡れになっているから早く服を乾かさないと風邪をひいてしまいます。戦闘体に換装してしまえば良いとも思いますが、そんなことをして付近に潜伏しているかもしれない近界民(ネイバー)にわたしたちの存在を察知されてしまえばこの先の任務遂行に支障が出ます。とにかくこれからのことは中に入ってから考えましょう。雷が近付いて来ているようですから」

 

「わかった。俺に任せろ」

 

迅は扉に打ち付けられている木の板を剥がし、南京錠を壊して扉を開けた。

扉だけでなく窓にも木の板が打ち付けられているので中は暗くて良く見えないが、手探りで室内灯を探してスイッチを入れるとパッと明るくなって中の様子が見えた。

どうやら電気はまだ通じているようだが、店の営業は長い間していなかったらしく廃業してしまったのは間違いなさそうだ。

店内は4人掛けのテーブル席が3つと、中央に大きな囲炉裏がある20畳くらいの広さの座敷に分かれていて、テーブル席の奥が厨房になっている。

 

「そういえば…去年の夏に大きな台風が三門市に被害を与えました。その時にこの山の登山道が土砂崩れで通行禁止になったことを思い出しました。それでこの店は廃業しちゃったんじゃないでしょうか? もしかしたらわたしたちが歩いて来た登山道自体がもう廃道になってしまったのかも。そう考えれば他のハイカーに会わなかったのも頷けます」

 

ツグミはそう判断したが、まさにその通りであった。

昨年の台風のよる土砂崩れでふたつある登山道のうちのひとつ、つまりツグミたちが歩いて来た方の道はこの茶店から200メートルほど先で通行止めになってしまっていた。

この登山道の管理は三門市であるが、現在の三門市は近界民(ネイバー)絡みの莫大な支出のせいで登山道の修復にまで手が回らないのだ。

ツグミが貰ったマップも第一次近界民(ネイバー)侵攻以前に印刷された古いもので、新しいものを印刷するどころか廃道になったのに訂正されていなかったために彼女たちは知らずにここまで登って来てしまった。

(ゲート)誘導装置のおかげで近界民(ネイバー)の出現が本部基地周辺に限定されるようになったものだから、ツグミの頭の中のデータベースの更新がされておらず、このようなミスを犯してしまったというわけである。

 

「まあ、事情はともかくそこに囲炉裏がありますから、何か燃えるものを探して火を点けましょう。早く服を脱いで乾かして、身体を温めないと」

 

そう言うとツグミは店内を見回して燃料になりそうなものを探した。

廃業して1年以上経っているのでめぼしいものは見付からないが、壁に張ってあった観光ポスターや古びた暖簾などを剥がして囲炉裏にくべた。

そしてリュックサックの中からマッチと固形燃料を取り出して火を点ける。

迅は厨房の中を探していて、部屋の隅に積んであった古新聞の束を見付けて運んで来た。

ひとまず火は確保できたので、続いて服を乾かすことにしたツグミ。

濡れていたパーカーを脱ぎ、さらにTシャツとキュロットスカートを脱ぐとブラトップのキャミソールとショーツだけの姿になってしまった。

その様子が恥じらいの欠片もなく、まるで迅がそこに存在しないかのような振る舞いなので、逆に迅の方が戸惑ってしまうほどだ。

 

「ツグミ、俺はこれでも男なんだぞ。服を脱ぐにしてももう少し遠慮するというか…」

 

「ジンさんのことを男の人だって意識したら余計に恥ずかしくなっちゃうから『そこにいるのは6年前に一緒にお風呂に入ったり同じ布団でお昼寝していた頃のジンさん』なんだって思うようにしてるんです! それよりもわたしに遠慮させる前にジンさんが見ないように気を使ってくれてもいいんじゃないですか?」

 

「あ…すまなかった。じゃ、俺はこっちを向いてる」

 

ツグミに叱られて、迅はさっと後ろを向くと自分もTシャツとカーゴパンツを脱いでトランクス1枚の「パンツ一丁」となった。

それを椅子やテーブルの上に広げてから囲炉裏で暖を取る。

ツグミは自分のリュックサックの中からタオルを2枚取り出して、そのうちの1枚を迅に手渡した。

 

「これで髪と身体を拭いてください」

 

もう1枚のタオルで自分の髪を拭きながら、リュックサックの底の方に入れてあったカーディガンを出してキャミソールの上に羽織った。

 

「こうすれば少しはジンさんも気にならなくて済むでしょ? それはそうと、雨が止むまでここを動けないんですから今後の対策について話をしておきましょうか」

 

そう言ってツグミは迅の隣に腰を下ろすと地図を広げた。

向かい合って話すよりも同じ向きで地図を見ながらの方が良いと考えたからなのだが、そうなると自然に身体が近付いてしまう。

普段はそばにいても特に意識しなかったことでも下着姿にカーディガンを羽織っただけの少女、それも自分が好意を寄せている相手であるから妙な感情が湧き上がってしまうのは当然のこと。

おまけに濡れた黒髪をかき上げる仕草がやけに色っぽく、囲炉裏の火に照らされてほんのり紅潮する白い肌からは甘い匂いが漂ってくるようで、この「好きな女子とふたりきり」のシチュエーションに動揺せずにはいられない。

17歳の心身共に健康な男子であればいろいろと頭の中で妄想し、ひとり悦に入ることもある。

迅も当然この健康な男子のひとりであるからツグミを登場させ、実際にはありえないことを()()()楽しんだことも一度や二度ではない。

その妄想の中でのツグミは迅の理想の姿となって現れ、今まさにその夢想した彼女と現実の彼女が重なって視えるものだから、近界民(ネイバー)や任務の話に集中できずにいた。

昨日、城戸からこの任務を命じられた時に迅にはこうなることが確定した未来として視えていた。

 

(昨日視えたのはツグミのセミヌードの姿だけだった。どうして任務中にこいつが服を脱ぐことになるのかわからなかったが、これでやっと腑に落ちた。雨に降られて濡れたら服を脱ぐもんな。…あの時は単純に『ラッキー』としか思ってなかったが、実際にこうして見てみるとラッキーどころか目のやり場に困る。気にしないようにと思えば思うほど頭の中がこいつのことでいっぱいになって、つい目が行っちゃうんだよな…)

 

ツグミが地図を指差す時に前屈みになるものだから、キャミソールの奥に胸の谷間 ── 谷間とは言い難いほどささやかなものだが ── が見え隠れし、まるで迅の精神力を試しているかのようである。

もちろん彼女にはそんなつもりは一切なく、迅が自分の胸元をチラチラ見ているなどと想像もしていない。

しかし迅にとっては嬉しいと同時に苦痛でもあるのだ。

 

(ちょっと見ないうちに成長、したよな…。中学に入った頃から妙に女っぽくなってきたと言うか…いや、俺がこいつを女として見るようになったからそう見えているだけか。単に身体が大きくなったってだけでなく、胸とか尻とかこう…柔らかそうで、つい触ってみたいって思っちまう。だけどこいつにとって俺は兄という立場で、もし安易に触れたらそこで俺とこいつの関係はおしまいになる。俺はこいつにとっての良い兄を演じなければならないんだ。そうしないとこいつはもう俺のそばにいてくれなくなる。俺のことを無条件に信頼して寄り添ってくれているこいつを裏切ってはいけない。俺が少し我慢すればいいだけのこと。その我慢ができなくなったら俺はかけがえのない大切なものを失うことになるんだ。そう思えばこれくらいのこと我慢できないはずがない!)

 

「…さん、わたしの話を聞いてますか? ねえ、ジンさん、ってば」

 

迅がぼんやりとしていたものだから、ツグミは彼の肩を手で掴んで揺すりながら言う。

 

「あ…ああ、ちゃんと聞いてるさ。で、何だっけ?」

 

「何だっけ、って…やっぱ話を聞いてなかったじゃないですか~。もう、わたしの話を聞かずに何を考えていたんですか? もう一度初めから説明しますから、今度はちゃんと聞いていてくださいね」

 

ツグミが口を尖らせて怒るが、そんな顔も可愛らしいと迅は思ってしまう。

 

「悪かった。今度は一言一句聞き逃さないようにするから勘弁してくれ」

 

迅はそう言って謝るが、さっきと体勢は変わっていないのでツグミの胸元の様子が気になってしまうのはどうしようもない。

 

「じゃ、説明します。最初の計画では登山道を山頂まで登り、その先にある北西側の山に続く尾根を歩く予定でした。ですがこの先で通行止めになっているようなので、予定を変更してさっきお弁当を食べた展望台まで戻ります。この地図を見るとここに旧道らしき道が描かれていて、そこを北に向かうと昔の石切場の跡地に出ます。それでふと思ったんですが、艇を隠すにはこの石切場の跡地は最適なんですよ。もしわたしたちが探している近界民(ネイバー)がこの場所を見付けていたら絶対にここに艇を隠すはずです。なにしろ今では誰も近付かない上に適当な広さの空間が広がっている。トリオン反応を消していれば絶対に見付からないので、近界民(ネイバー)の目的が情報収集だろうが亡命だろうが、どちらであっても都合が良い。もしわたしが近界民(ネイバー)の立場だったらこの場所に艇を隠しますね」

 

ツグミの言う石切場とは今から50年くらい前まで「三門軟石」と呼ばれる凝灰岩の石材を採掘していた場所で、当時は大型トラックが走る専用道路のようなものもあったのだが、十数年前の地震で山崩れが起きて採掘場の一部と道路が土砂で埋もれてしまっていた。

地震発生時には廃坑になっていたから道路を復活させる理由がなくてそのまま放置されていて、そこに辿るには展望台からの旧道を3時間ほどかけて歩いて行くしか方法はない。

近界民(ネイバー)の艇なら飛行している途中で採掘場に気付き、そのまま着陸したのではないかと考えられる。

もし森の中に着陸したのであれば上空から捜索されたら着陸の形跡ですぐに見付かってしまうだろうが、坑道の中なら発見される恐れはないのだ。

手がかりがほとんどない状態では数少ない証拠とそれを元にした推測で行動を決めるしかない。

その点でツグミの理屈は筋が通っている。

確証はないが、可能性は非常に高いのだから探ってみる価値はあるのだ。

 

「しかしいくつか問題となるものはあります。まず石切場に近界民(ネイバー)が隠れている証拠はありませんから、実際に行ってみて空振りであったということにもなりかねません。片道3時間以上の時間を費やしても空振りであったなら丸一日を無駄にしてしまうことになります。わたしたちには時間があまりありませんから、この時間のロスは痛手となります。続いて旧道ですが、この大雨でぬかるんで非常に歩きにくい状態になっていると思われます。場合によってはこの旧道も通行止めになっているかもしれません。そして最初の予定では山の稜線を歩くことで高い場所から森の中に隠れているであろう艇をわたしの強化視覚(サイドエフェクト)で探すというものでしたが、これが地下に隠れているとなるとわたしの力ではどうしようもありません。なので現場に行くまでわからないのでこれはもう『イチかバチか』ってカンジですね」

 

ツグミ自身は自分のやったことが無駄骨であったとしてもそれは仕方がないと思えるのだが、それに迅を巻き込むことを危惧していた。

そんなツグミの様子を察した迅は言う。

 

「俺はどんなに分の悪い賭けであってもおまえの作戦に従う。これまでに何度もおまえの知識や経験、そして()が役立ってきたんだから、今回だっておまえのやろうとすることに俺は賛成する。ただし条件はあるが、な」

 

「条件?」

 

「ああ。単独での行動は絶対にダメだ。おまえのことだから俺に無駄骨折らせては申し訳ないなんて思って、リスクの高いことは自分ひとりでやろうと考えているだろ?」

 

「ジンさんは何でもお見通しなんですね。それも未来視(サイドエフェクト)の力ですか?」

 

「いいや、おまえのことをずっと見てきたからわかるんだ。おまえが俺のことを信頼してくれるように、俺もおまえのことを信頼している。だから一緒に任務を遂行するなら一心同体、一蓮托生、毒を食らわば皿まで、ってとこかな。だから安心して俺を頼れ。自分ひとりですべてを抱え込むな」

 

「…はい」

 

「それで …ハ…ハァ…ハックション!」

 

迅は最後に大事なことを言おうとしたのだが、大きなくしゃみをしてしまう。

それを見たツグミは急いで迅の背中に触れた。

 

「ジンさん、寒いんですか? …あ、身体が冷えてる。もっと火のそばに近付いて身体を温めなきゃ」

 

ツグミは地図を片付けて迅を囲炉裏のすぐそばに座らせた。

そして言う。

 

「ジンさん、ひとまず作戦会議は中断します。まずは身体を温めて、それからにしましょう」

 

「わかった」

 

「それからひとつお願いがあります。わたしがこれから『いい』と言うまでずっと目を瞑っていてください」

 

「は? どういうことだ?」

 

「わたしを信頼しているのなら言うことをきいてください。そうでなかったら絶交です」

 

ツグミの言葉には有無を言わせない迫力があり、迅はその勢いに飲まれて頷いた。

 

「あ、ああ…」

 

迅はそう言って囲炉裏の正面にあぐらを掻いて座ると目を瞑った。

 

「これでいいか?」

 

「はい。絶対に目を開けちゃダメですよ」

 

迅は衣擦れの音を聞きながらツグミが何をしようとしているのかを考えた。

しかし答えが出る間もなく、背中に柔らかくて温かいものが覆い被さったのを感じて一瞬心臓が止まりそうになり、続いて尋常ではないほどの動悸で胸が苦しくなる。

その柔らかくて温かいものがツグミの素肌であることに気付いたのは数秒経ってからのことだった。

衣擦れの音は彼女がキャミソールを脱いだ時の音であったのだ。

 

「ツグミ、おまえ…」

 

「身体が冷えている時に人肌で温めるというのがテレビのドラマとか小説でよくありますが、実際のところはどうなのかって思います。でもこうして身体を接している部分からは熱が奪われませんから、まったくの無駄ではないはずです」

 

「だけど火のそばにいる俺はいいけど、それじゃおまえは寒いだろ?」

 

「わたしは大丈夫です。背中側は乾いているカーディガンを羽織っていますから寒くありません。それに女性は男性よりも体脂肪率が高いので、多少の寒さは平気なんですよ」

 

ツグミは迅の背後で膝立ちし、彼を抱きかかえるような姿勢になった。

この状態なら迅は前に囲炉裏の火があり、背中はツグミの胸や腹と接しているので身体の熱が奪われにくくなる。

 

「恥ずかしくない…のか?」

 

「恥ずかしいに決まってるじゃないですか。だから目を瞑っていてくださいとお願いしているんです。…でもこうしていると恥ずかしいというよりも昔ジンさんにおんぶしてもらった時のことを思い出します。わたしにとってあなたはあの頃と変わらず頼もしいお兄さんのままで、この優しい時間がずっと続けばいいとさえ願ってしまいます」

 

「……」

 

「でもそれじゃダメだということも良くわかっていて、早く人としてもボーダー隊員としても一人前になりたいとも考えています。この矛盾したふたつの気持ちを抱えていて、自分でもどうしたら良いのかわかりません。ただひとつだけ確実にわかっていることは…」

 

そこまで言ってツグミは口を閉じた。

その先を言ってしまえば取り返しがつかないことになるとわかっているからだ。

 

(わたしはジンさんのことが好き。あと何年か経ってわたしがジンさんの好みに合う女性になれたら、その時にはあなたのことを男性として好きなのだと勇気を出して言おう。それまでにジンさんが恋人を作ってしまうかもしれないけど、その時には笑顔で祝福してあげなきゃいけない。だけどそんな自信はないな…)

 

ツグミが濡れた服を脱ぐ時に迅に言った「恥ずかしくなる」は異性に裸を見られたくないという意味ももちろんあるのだが、本音は「自分の貧相な身体を見て、他の女性と比べられるのが嫌だ」であった。

勉強はできるし防衛隊員としての実力もあるが、同年齢の少女と比べると肉体の成長面で少々劣る部分がある。

簡単な言葉で言えば「ロリ体型」で、そういう女性を好む男性もいるが迅にはその趣味はないようだ。

彼は成熟した女性のお尻が大好物であり、この頃にはその片鱗を覗かせていた。

迅が性的な欲求を持て余す年齢にあり、様々な()()で性欲を発散しているだろうと想像できるものだから、女性の水着姿が載ったグラビア雑誌やDVDに登場する女性のような魅力的な身体でなければ見向きもされないだろうと考えてしまうわけだ。

 

「ねえ、ジンさん…こうして身体を密着させていて、えっちな気分になったりしませんか?」

 

ツグミが迅の耳元で囁くように訊くと、迅は平静を装いながら答えた。

 

「な、なるわけないだろ。俺はおまえのことをそういう目で見てはいないし、妹のようなおまえに欲情するような性癖はない」

 

迅が自分の動揺を隠すためにわざと強い言い方をしたものだから、ツグミは無性に悲しくなった。

 

(やっぱりジンさんはわたしのことなんて…。わかってたことだけど、こうして本人の口からこうはっきりと言われると悲しくなる。だけどこれで少しは気持ちの整理ができたかも。ジンさんに女性として見てもらうよりも妹のままでいた方がいい。その方が苦しい思いをしなくて済むし、ジンさんもそう願っているに違いないから)

 

この一件でツグミは迅が自分を異性として意識してくれていないことを改めて確認したことで、これまで以上に妹として接することに決めたのだった。

 

 

 

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