ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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21話

 

 

修と京介がA級トリオと合流した時点で、迅はツグミに修との合流を指示していた。

 

(やっと()()()が来たみたいね。でも温存しておいた戦力を投入って、キョウスケたちの援護もかなりヤバイってこと? レイジさんも緊急脱出(ベイルアウト)しちゃってるし。…まあ、とにかくこの辺りは全部片付いたようだから急いで行かなきゃ!)

 

修たちが本部基地から直線距離約500メートルの地点にいること、これから彼らが進むであろう進路と自分の現在位置を確認し、最短距離となるルートを確定して全速力で駆け出した。

するとその途中でちびレプリカが衝撃的な情報を伝えた。

 

〔マズイぞ、ツグミ。チカがキューブにされた〕

 

「なんですって!? チカちゃんがキューブって…、それでオサムくんはどうなの?」

 

〔オサムは無事だ。チカのキューブを抱えて本部基地へと向かっている。護衛はいないようだが、ユーマが私の本体を向かわせた〕

 

キューブにされても命に別状はないということを知っているものの、修が捕まったりキューブにされてしまったら千佳は簡単に連れ去られてしまう。

一刻も早く合流しなければならないが、レプリカの本体が向かっていると聞き安堵した。

しかしそれでも緊急性は変わらない。

 

「もう、まどろっこしい!」

 

複雑な住宅街の道路を走っていくのもじれったいようで、ツグミはそばにあった4階建てのビルの壁を斜めに駆け上がり、そのまま民家の屋根伝いに一直線で駆けて行った。

 

 

 

 

修とレプリカは本部基地まであと200メートルという場所までたどり着いたところでツグミと合流した。

 

「お待たせ、オサムくん」

 

「霧科先輩!」

 

修は援軍の登場に胸をなで下ろした。

ツグミはというと、修の抱えているキューブに視線がいく。

 

「それがチカちゃんなのね?」

 

「はい…。ぼくのせいで千佳が…すみません」

 

謝る修にツグミが言う。

 

「オサムくんがわたしに謝る理由はないわ。もし自分の行動に反省すべき点があるなら、この戦いが終わってからゆっくりすればいい」

 

「…はい」

 

「そのためにみんなで玉狛へ帰りましょ。わたしが来たんだから大丈夫。あなたたちはわたしが無事に帰してあげるから」

 

そう言ってツグミは修を励ます。

ひとまず敵の目を避けるために一軒の民家に隠れて情報交換をすることにした。

 

「キョウスケの報告によると、あなたたちを追っている(ブラック)トリガーが超チートなヤツってことらしいわね。ヤツの攻撃はトリオンにしか効かないってことらしいけど、やっかいなトリガーだわ。鳥や魚の形の弾を使って攻撃したり防御に使ったりして、弾が当たるとそこがキューブ化してしまうそうだけど、チカちゃんもそれでやられたのね?」

 

「そうです」

 

「おまけに空間操作をするトリガー使いもいるらしいし、出水さんやキョウスケが勝てなかった相手だもの、正面から戦うべきではないわ。奇襲ってのも条件悪すぎだから、ここは一芝居打ってみない?」

 

「芝居って…?」

 

「それはね…」

 

ツグミは自分のプランを修とレプリカに説明した。

 

「…ということ。今のわたしたちの役目は人型と戦って勝つことじゃなくてチカちゃんを守りぬくこと。この方法ならまず間違いなく成功するはずよ」

 

「はい、ぼくは先輩のプランに賛成です」

 

〔私もツグミに賛成だ〕

 

修とレプリカの賛同を得て、ツグミは行動を開始する。

 

「まずちびレプリカを先行させて本部入口の様子を調べてもらう。わたしとレプリカはハイレインの相手をしに行くから、オサムくんはここでしばらく待機。そしてレプリカが戻って来たら、以降は最後までレプリカと一緒に行動すること。もし敵が現れたり5分経ってもわたしが戻って来なかったら、本部に救援を求めて本部の指示どおり行動しなさい。いい? じゃ、行ってくるわ」

 

ツグミはそう言ってレプリカと共に民家を出た。

 

「さて、わたしはちょっと派手に動くから、巻き込まれないようにしてね。あなたはさっき話したとおりに動いてちょうだい」

 

〔了解した〕

 

 

ツグミはレプリカと別れて、わざと目立つように大きくジャンプすると3階建てアパートの屋根の上に飛び上がった。

すると本部基地から200メートルほど離れた場所の建物の屋上看板の上に立っているハイレインの姿を見つけた。

彼女のいる場所からは450メートルくらい離れている。

同時にハイレインも彼女の姿を認め、すっと浮かび上がると彼女の方へ近付いて来るので、ツグミは臨戦態勢をとった。

 

「あの数のトリオン兵やラービットを相手によく無事でいられたものだ」

 

ハイレインはすぐに攻撃をせず、ツグミに話しかけてきた。

 

「雑魚ばかりだったけど、新型には苦労させられたわ。…ったくいい迷惑よ。まあ、おかげでだいぶポイントを稼げたけどね」

 

「フッ…。稀なるトリオン量、イルガーやラービット相手に一歩も退かぬ豪胆さ。さらに大胆かつ精緻でスキのない攻撃…。玄界(ミデン)に置くのはもったいない。どうだ、俺の部下にならぬか? ついさっき、部下のひとりを失ったばかりなのだよ」

 

「それって基地の中で暴れた(ブラック)トリガーのことでしょ? あなたのお仲間さんが惨殺したって聞いているわ。どういう理由か知らないけど、そんな(ブラック)な職場環境じゃ働きたいとは思わない。お断りよ」

 

「ふむ…自らすすんで来てくれるのなら易く済んだものを…。仕方がない。力ずくでも来てもらおうか」

 

冗談のような会話をしながら、ツグミはハイレインへの攻撃のタイミングをうかがっていた。

ハイレインも周囲に鳥型の弾を飛ばしていて、攻撃のチャンスを狙っている。

 

鳥型(これ)ってチカちゃんがやられたヤツよね…。威力10、射程10、弾速80に設定して…)

 

通常弾(アステロイド)!」

 

ツグミは両手にトリオンキューブを浮かべると、弾速の値を優先して分割した通常弾(アステロイド)を撃った。

しかしそれは全部鳥型の弾ですべてキューブ化され地上に落ちてしまう。

 

「つまらぬな…。さっきの兵はもっと頭を使った複雑な攻撃をしてきたものだが」

 

ハイレインが挑発する。

 

「そう? でもこれがわたしのやり方なの。気に入らないなら、これでおしまいにするわ。じゃあ、()()()

 

「は?」

 

呆気にとられるハイレイン。

なにしろ勇んで自分の前に飛び出してきた人間がダメージも与えられず、また自身もダメージを受けたわけではないのに、たった一度の攻撃のみで撤退するというのだから。

しかしこれはツグミの作戦の一部で、彼女はテレポーターでハイレインの死角へと飛んだ。

 

「消えた…!? 逃げたか…?」

 

突然目の前から消えたのだ、ハイレインがそう思うのは当然である。

 

「…って思うじゃん」

 

「…!?」

 

ツグミは空中に浮かんでいるハイレインの真下におり、拳銃(ハンドガン)型トリガーを取り出すと鉛弾(レッドバレット)を8発撃ち込んだ。

逃げたと思った相手がまさか自分の真下から攻撃してくるとは想像もしていなかったハイレイン。

慌てて魚型の弾で防ごうとしたが、鉛弾(レッドバレット)であるためトリオンの干渉を受けずにハイレインの下半身を中心に撃ち込まれた。

両脚に2発ずつ、腹部に3発、右腕に1発、撃ち込まれている。

残りの2発はマントに命中した。

予想外の場所から防ぎようのない攻撃を受けたハイレインはバランスを崩し、地上へと落下してしまった。

 

「くっ…小癪なマネを…!」

 

「わたしの攻撃をつまらないって言ったからよ。これでわたしの用事は済んだわ。バイバイ、ミスタ・(ブラック)トリガー」

 

わざと挑発するような言葉を残し、ツグミはテレポーターでハイレインの射程から抜け出してオサムの待つ民家へと戻って行った。

 

 

 

 

「お帰りなさい、先輩」

 

「ただいま。チカちゃんは?」

 

「隣の部屋の押入れにあった布団の間に隠しました」

 

「OK。レプリカは戻って来てる?」

 

〔私はここだ、ツグミ〕

 

レプリカが隣の部屋からツグミのもとへ来た。

 

「例のものは?」

 

〔ここにある〕

 

レプリカは口の中からトリオンキューブをふたつ吐き出した。

それはついさっきツグミが通常弾(アステロイド)でハイレインを攻撃した時に生じたキューブであり、レプリカが拾っておいたのだ。

つまりあの攻撃はトリオンキューブを作るためのものであったというわけである。

 

〔見た目はまったく同じで、触れてみなければ区別がつかない。これで敵の目を誤魔化すことができるだろう。もっとも奪われた時点で偽物(フェイク)だとバレてしまうがな〕

 

「いいのよ、それで。次に本部の様子はどう?」

 

〔入口は閉まっていて、現在子機が解析中だ。開錠にはもうしばらく時間がかかるだろう。屋上には空間を繋げる(ブラック)トリガー使いが待機しており、新型と共に狙撃手(スナイパー)組の仕事を邪魔しているようだ〕

 

「敵が分散しているのはありがたいわね。…じゃあ、これからが本番。もう一度確認するわよ。まずわたしとオサムくんはそれぞれこのキューブを抱えて玄関と裏口から外へ出て、別々のルートで本部入口へと向かう。わざと二手に分かれたところを見せて、片方が本物でもう片方は囮だと思わせる。たぶん高確率でわたしの持つキューブを本物だと思って卵男の方がわたしを追いかけてくる。でもオサムくんの方が本物の可能性もあると考えて、確認のためにワープ女がオサムくんの前に現れると思う。だからオサムくんは無理して戦おうとせずにとにかく逃げて。そして適当なタイミングでわざとらしくないようにキューブを手放す。ここまではいい?」

 

「はい」

 

「オサムくんの方が偽物(フェイク)だとわかれば、ワープ女は元の場所に戻るか卵男と合流するはず。そうしたらあなたはそのままちびレプリカが開けてくれた入口から本部へ入る。場合によっては緊急脱出(ベイルアウト)でもいいわ。それであなたの役目はおしまいよ」

 

「でもそれだと先輩がふたりの(ブラック)トリガーを相手にしなければならなくなります。だからここはぼくがワープ使いを引きつけて時間稼ぎを…」

 

「ダメよ。オサムくんはここまでよくやったわ。だからこれ以上無茶はしないで。本部のすぐ近くだから誰か応援に来てくれるだろうし、キョウスケのおかげで敵のトリガーのこともわかっている。地の利もあるし、わたしなら大丈夫」

 

「……」

 

「ところで、オサムくんの腕に刺さっているそれ、何?」

 

ツグミは修の右腕に撃ち込まれた蝶の盾(ランビリス)に破片に気付いて訊いた。

 

「ああ、これは人型にやられた時に…。でも別に痛くはないですし、磁力を使う新型さえいなければ問題ありません」

 

「それならいいけど、念のためにレプリカに調べてもらった方がいいんじゃない? レプリカ、お願い」

 

〔心得た〕

 

レプリカは触手のようなものを出し、破片を解析してそれを破壊する。

 

〔これはワープ使いの発信機(マーカー)だ〕

 

「そうか…だからあのワープ使いはぼくの居場所をピンポイントで見つけて襲ってきたのか」

 

修は逃げる途中で何度も人型や新型からの攻撃を受けていた。

それを不思議に思っていたのだ。

しかしこれでもう安心だ。

 

「じゃ、準備をして。あまり時間がないわ。…行くわよ、3…2…1…GO!」

 

ツグミとオサムはそれぞれ民家の壁を派手にぶち破って玄関側と裏口側から外へ飛び出した。

 

 

◆◆◆

 

 

本部基地の屋上で狙撃手組の邪魔をしているミラとラービット。

そこにハイレインからの通信が入る。

 

[ミラ、目標が二手に分かれた。おそらく片方は囮だ。本命は例の女の方で、少年の方が偽物(フェイク)だろう。そこで俺が女を押さえる]

 

[では、念の為に私が少年の方の確認をしましょう。ここはラービットに任せますが、たぶん突破されます。よろしいですね?]

 

[ああ、かまわぬ。そちらは任せた]

 

ハイレインとミラはツグミの思惑どおりの行動を開始した。

 

 

 

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