ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
「Restart」の章の「156話」でオリ主・霧科ツグミはS級隊員になりましたので、1話冒頭に記載したプロフィールで変更と追加があった部分を載せました。
1話のプロフィールと合わせてご覧下さい。
【霧科ツグミ 変更・追加データ】
◆家族:祖母、叔父 に加えて9年前に死亡した父と母
(物語が始まった頃はまだ家族として強い意識を持っていませんでしたが、キオンの諜報員による拉致事件などを経て記憶がよみがえりつつあり、大事な存在だと改めて気付かされました)
◆所属:ボーダー本部 → ボーダー玉狛支部 → ボーダー本部
◆階級:A級隊員(旧東隊隊員 → 無所属) → B級隊員(無所属 → 霧科隊隊長) → S級隊員
◆肩書き:
本部異動と同時にS級となりますが、通常任務にはノーマルトリガーを使用するため肩書きはそのままです。
なお、唐沢の外部・営業の手伝いをする時には「外務・営業部長
(これは自称ではなく城戸も認めた公式の肩書きで、唐沢に名刺も作ってもらっています)
◆パラメーター:(過去 → 207話から / ミリアムの
トリオン16 → 18 / 82
攻撃8 → 9 / 45
防御・援護 8 → 9 / 13
機動 5 → 6 / 8
技術 8 → 9 / 15
射程 20 → 21 / ∞ (視認できる範囲がすべて射程であり、彼女の強化視覚を活かせば実質的には
指揮 5 → 5 / 5
特殊戦術 5 → 6 / 0 (測定不能のために便宜的に数値はゼロとしています)
◆サイドエフェクト:名称不明「自分で自身の記憶を操作することができ、常人よりも記憶力が高く頭の回転が早い」
記憶を操作することで、覚えたことや経験したことを脳内の適切な場所へ確実に保存し、必要な時にすぐに取り出せるだけでなく、不要であるものは本人の意思で取り出さない限り思い出さないようにできるというものです。
例えで言えばパソコンでデータを保存する時に任意の「ファイル」に「セーブ」し、作業を開始する時にはそこから「ロード」するのと同じです。
そして不要なものは「ゴミ箱」に入れておくことで、あえて「ゴミ箱」を開いて元の場所に戻さない限り当該データを「ロード」することができないということに似ています。
本人はこの能力に気付いておらず、無意識に自分に暗示をかけるという手段で「都合の悪い記憶」を封印しており、9年前の幼い彼女も同様に「目の前の惨劇」を封印してしていました。
公式には「強化視覚」となっているため、上記の能力はごく一部の人間(忍田・林藤・城戸・迅)しか気付いていません。
なお「強化視覚」は彼女の父親の出身であるエウクラートンの人間固有の能力でサイドエフェクトではありません。
◆ミリアムの
能力は「
弾丸トリガーで、使用者が一度
ハウンド(ホーネット) の強化版ですが、分割された弾のひとつひとつが別の敵に向かって飛んで行きます。
(特に決まった軌道を描くことはありません)
またハウンド(ホーネット)よりも高速度で飛び、追尾する能力も高いために「狙った獲物は逃さない」。
(ハウンドなら身をかわすことも可能ですが、
「トリオン」に反応して飛んで行くため、自動的にトリオン供給器官もしくはトリオン伝達脳を破壊することになります。
またトリオンキューブの大きさ(出力)を調整できる点がボーダーの弾トリガーとは大きく違い、一度で1~125弾(5×5×5)まで分割可能。
換装を解いて生身になってもトリオン器官を狙って攻撃されるので、狙われた者はほぼ全員死亡することになります。
射程距離は風刃と同じで「使用者の視界の範囲」。
隠密トリガーで姿を消していれば「敵と認識されない」ために防げますが、ツグミにはトリオン体が見えてしまうために意味はありません。
対抗するには大規模侵攻での出水vsハイレイン戦のように分割された弾を同様に分割された弾で撃ち落とすか、向かって来る弾を忍田のように全部斬るか、千佳並みのトリオン能力を持つ者なら
ただし何発も撃ち続けていくと制御できなくなり、トリオン切れになるまで止まらなくなって
そうなると使用者は最悪死亡してしまうために、その事実を知っていた城戸は封印していました。
元になった人間「ミリアム」が彼女の意思でツグミにしか使わせないと決めたようなので、現在のところ他に適合者はいない模様です。
以上が、変更・追加分のプロフィールです。
これまでは原作の流れに沿うようにしてオリ主を中心とした物語を進めてきましたが、とうとう原作に追いついてしまいましたので、ここからは原作に矛盾しない程度に完全オリジナルで進めてまいります。
207話は3月6日の朝から始まります。
207話
ツグミは普段よりも早く目が覚めてしまったものだから、朝食の支度の前に荷物の片付けをしようと考えた。
窓を全開にするとまだ少し肌寒いものの、春らしい日差しが部屋の奥まで差し込んできた。
そして外を見ると庭の白梅が満開になっており、甘い香りを漂わせている。
桜の蕾はまだ固いものの、開花予報を信用するならあと半月もすれば花がほころび始めることだろう。
「う~ん…気持ちのいい朝だわ。さて、荷物を片付けなきゃ」
ツグミは部屋の隅に積み重ねてあるダンボール箱を開けて中身を取り出し、クローゼットや本棚などに整理しながら入れていく。
たくさんのぬいぐるみたちは昨夜の内に以前の場所に戻されたが、洋服や教科書などはそのまま手付かずになっていたのだ。
ツグミがいつ帰って来ても良いようにと、忍田が彼女の部屋をそのままにしておいたおかげで突然玉狛支部を飛び出した時もすぐに元の生活に戻れたのだが、こうして私物を全部持ち出してそれを片付けていると、玉狛支部で過ごした日々が懐かしく思えてきて感傷的になってしまう。
(でもこれは自分の意思で決めたこと。わたしがこれからやろうとしていることに必要なことだもの後悔は絶対にしない。でも
感傷的になる気持ちを紛らわそうとして直面した問題に頭を切り替えるものの、こちらも解決法が見付からなくて思い悩んでしまう。
しかしそんなツグミも鼻をくすぐる梅の香りで気分が晴れやかになった。
(やらなきゃいけないことがたくさんあるなら、ひとつひとつ片付けていくしかない。その優先順位を考えて、早速今日から始めよう。S級になったおかげで市内巡回任務はなくなったんだもの、この時間を使わない手はない。せっかく
城戸から「お墨付き」を貰ったことで、ツグミはボーダーという組織の中にいながらその立場に縛られない自由を得られた。
これは彼女が危険を承知でミリアムの
もちろんそのことをツグミは知らないし、迅は彼女に教えるつもりもない。
ただ、ツグミには無制限の自由を与えられたように見えるが、実際は城戸の手のひらの上にいて彼の怒りに触れるようなことになればそのまま握り潰されてしまうという非常に不安定な立場であることも忘れてはならない。
これまでは玉狛支部と林藤支部長の存在が彼女を守っていた部分が大きいのだが、城戸の直属となった以上はすべて城戸の胸三寸で決まってしまうのだから。
◆
「忍田本部長に面会をお願いしたいと思うんですけど…」
ツグミは朝食の席で忍田に言い出した。
「いや、今ここで言えばいいだろ?」
怪訝そうな顔をする忍田にツグミは改めて言った。
「アフトクラトル遠征の責任者である忍田
「選抜試験のアイデア?」
「はい。前回までは遠征に参加する隊員は
具体的な名前を出さないものの、忍田にもそれが誰を指しているのかはすぐにわかった。
「そこでそういった実力不足の隊員を落とすため…ではなく、自分がどれだけ愚かであったかを身を持って知ってもらうためにこれまでのようなランク戦形式ではない別の試合をしたらどうかと考えたものですから。わたしの直属の上司は城戸司令ですが、遠征に関することなら忍田本部長にお話しした方が良いかと思って」
「まあ、そうなるな。…わかった。しかし今日の予定は午前と午後の両方に会議が入っていて、夜もスポンサーとの会食があって帰りは遅くなる。暇なのは昼休みしかない。その時間で良ければ…」
「それでけっこうです。ではわたしが忍田本部長の分のお弁当を用意して持って行きますので、本部長室でパワーランチでもいかがでしょうか?」
「ああ、それは助かる。食堂の料理は若者向けのものばかりだからボリュームがあって味付けが濃いものが多い。最近はあっさりしたものでないと胃が受け付なくなってな」
「フフフ、そんな年寄りじみたことを言わないでください。まだ33歳、若いんですから」
「いや、そうでもないぞ。おまえが家に帰って来てくれたものだから、おまえの作った料理に舌が慣れてきてしまった。だからたまに食堂の味噌汁を飲むとおまえが鰹節や昆布から丁寧に出汁を取って料理をしていることがわかるんだ」
「でもわたしの味に慣れてしまったらお嫁さんが来てくれなくなってしまいますよ。わたしよりも美味しいものを作ってくれる女性を早く探して結婚してください。わたしだっていつまでもご飯を作ってあげられるわけじゃないんですからね」
ツグミがそう言った途端に忍田の顔が曇る。
「言っておくが私は迅との交際は認めたが、まだ結婚することは許さないぞ。少なくとも成人するまではダメだ」
「それは大丈夫です。わたしだってまだしばらくの間は
どこにでもあるごく普通の父と娘の朝の光景。
その当たり前のことがとても大切で幸せなことであることをツグミは良く知っているから、ボーダー隊員と本部長の会話は朝食の時には無粋であると考えたのだ。
拉致未遂事件後、自分の父親が
家族とは血の繋がりや法律によって定められている部分もあるが、彼女は「繋がり方は問題ではなく、お互いに愛し愛されていることが重要」と考えていて、そういった点で彼女にとって真の父親は忍田真史なのだ。
◆◆◆
S級、さらに城戸の直属となったことでツグミは一般隊員のような市内巡回の任務はなくなり、ランク戦や合同訓練といった戦闘訓練も義務ではなくなった。
つまり城戸から呼び出されでもしないかぎり本部基地に行く必要はなく、おまけに玉狛支部にいた時のように交代制の料理や掃除などの当番がなくなったものだから時間はたっぷりとある。
しかし自由に使える時間が増えたものの、やりたいことはもっと増えてしまい期限付きのものもあるので時間を上手く使わないとすべてが水の泡になってしまう恐れもある。
そこでツグミはまず迅に連絡をしてゼノンたちのスケジュールを確認した。
彼らは午前9時に3人一緒にレイジの運転する車で遠征艇へと向かい、途中で1時間の昼食休憩を挟んで午前と午後に2時間ずつトリオンを抽出する作業を行うということである。
ゼノンたちはボーダーの捕虜という立場であったものの、これ以上彼らの口から情報を得られないと判断して釈放されたことで自分たちの遠征艇で寝泊まりしてトリオンが溜まるまでここで生活をするらしい。
念の為に迅やその他の手の空いている玉狛支部の隊員たちが監視をすることになっているのだが、林藤は監視を不要だと考えていた。
なぜならゼノンたちに三門市民に害をなすことはできないし、そんなことをする理由がまったくないからである。
まず彼らのトリガーは本部から玉狛支部に移送されて林藤が預かっているので、
さらにキオンではこちら側の世界の人間を戦闘員やトリオン目的で拉致する必要性がなく、仮に拉致しても遠征艇のエネルギーが溜まるまでの10日間はどこにも逃げられないのだから、そんな危険を承知で無駄なことをするはずがないのだ。
そして彼らがツグミに対して後足で砂を掛けるような行為をするはずは絶対にない。
彼女のおかげで捕虜となっても人権を守られて十分な待遇を受けられたのだし、彼女が自分たちのために何かしようと考えてくれていることも知っている。
だから彼らを監視などせずとも10日間はおとなしく遠征艇の燃料としてのトリオン抽出作業に専念し、それ以外の時間も街中を歩き回っていても何もトラブルも起きないと断言できるわけである。
ツグミはゼノンたちの自由時間を利用して彼らが帰国する際、祖国に戻った時に有利に働く材料を集めようと考えている。
既にインスタント食品やコンビニエンスストアなどに深く感銘を受けたゼノンたちであるから、こちら側の世界の人間にとってはごく当たり前のものでも彼らにとっては宝の山に見えるはずなのだ。
ツグミは寒冷地でも育つ作物や育成技術、トリオンに代わるエネルギーなどをキオンに伝えたいと考えているが、キオンの国土の情報がない上に素人のツグミに短時間でそんな難しいことができるはずもなく、
その代わりに「お湯を注ぐだけでできるカップ麺」や「酸化鉄の発熱作用を応用した使い捨てカイロ」などの簡単に手に入れられるものを
そうすれば同盟国とまではいかずとも不可侵条約を結ぶことはできるのではないかとツグミは策を練っているのだった。
もちろんこれは城戸の許可がなければ実行することはできないことなのだが、そのための布石は既に打ってあった。
5人分の弁当を作ったツグミはそれをデイバックに詰めるとクロスバイクで家を出た。
向かう先はゼノンたちのいる廃工場で、弁当の5つの内3つはゼノンたちの分である。
廃工場の正門だった場所には立ち入り禁止の看板が立てられている。
そして鉄条網が張り巡らされ民間人が間違って入ってしまうことのないようになっている工場敷地の奥に大きな倉庫があって、その中に遠征艇が格納されていた。
ツグミはクロスバイクを人目に付きにくい場所に停めると、その奥にある従業員用通用口へと向かう。
通用口は自動車道路に面しておらずチェーンが1本張ってあるだけで中に入るのは簡単だということを前もって調べてあって、そこを軽く飛び越して倉庫へと歩いて行った。
10日ほど前に自分が監禁されていた場所だというのに懐かしい気分になり、友人の家を訪ねるかのような感覚で遠征艇の扉を開いた。
「こんにちは~! 霧科ツグミがお昼のお弁当を持ってまいりました~!」
ツグミが声をかけると奥の方からバタバタと音を立ててテオが走って来た。
そしてツグミの顔を見ると驚いたような表情で叫ぶ。
「何でツグミがここにいるんだ!?」
「何でって言われても…。今日から遠征艇の燃料用にトリオン抽出作業をするって聞いたから、お弁当を作って持って来たのよ」
「お弁当!? オレたちのためにツグミが作ってくれたのか?」
「そうよ。ジンさんから聞いたんだけど、玉狛支部を出てここで暮らすようにしたらしいじゃないの。だからまた
ツグミがそう言うと、テオは急に両目から涙を溢れさせて泣き出してしまった。
それを見られまいとして屈み込んで小さくなり、さらに袖で顔をゴシゴシと拭くのだが、逆にその子供っぽい仕草がツグミの母性本能をくすぐってしまう。
「どうかしたの、テオくん?」
「オレ、もうツグミのメシが食えなくなると思ってスゲェ悲しかったんだ。またこうしておまえのメシが食えると思ったら嬉しくて…。だけど恥ずかしいからこっち見るなよな」
見るなと言われてもツグミにはテオの仕草が「ハムスターが顔をくしゅくしゅしと毛繕いしている」姿に見えてしまって、彼女の「萌え」に火が点いてしまった。
ツグミはテオの頭をモフり始めた。
「ち、ちょっと…何すんだよ、ツグミ!? や、やめろ~!」
遊真ほどではないがテオの髪もモフモフしていて触ってみたいと思っていたものだから、
「ごめん…。テオくんの髪って柔らかそうで、モフったら気持ち良さそうだったから」
「そんなことで褒められても嬉しかねーよ。やめてくれよ。こんなトコを隊長やリヌスに見られたら恥ずかしいだろ」
「じゃあ、見られなかったら恥ずかしくないってことでモフってもいい?」
一度は手を止めたツグミだが、まだモフり足りないらしい。
テオも若い女性と接する機会の少ないキオンの青少年であるから苦手ではあっても嫌ではないので、ツグミの物欲しげな表情を見るとNOとは言いにくい。
「…まあ、ふたりきりの時なら少しくらいは…いいかな」
「ありがとう!」
そう言ってテオに抱きつくツグミ。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
凄まじい叫び声を上げ、テオは全力でツグミを引き剥がすと部屋の隅に退いた。
その大げさな様子にツグミはムッときた。
「何よ、その態度は?」
「き、急に抱きつくからだろ!
「そんなことはないわよ。家族とか恋人とか…あと親しい友人くらいで、誰でもかまわないってわけじゃないからね」
ツグミが口を尖らして言うと、テオは顔を真っ赤にして訊いた。
「オレもその親しい友人ってことなのか?」
「もちろん。ゼノン隊長もリヌスさんも大事な友人よ。だからこうしてお弁当を持って来たんじゃないの」
「そっか…そうだよな。…何か嬉しいな」
「わたしもわたしの作ったお弁当を喜んで食べてくれる人がいると思うとすごく嬉しいし作る時も楽しいわよ。…ところでゼノン隊長とリヌスさんは作業中なの?」
「ああ。トリオン抽出用の機材がふたつしかないから交代でやるしかないんだ。機関室に3人でいた時にツグミの声がしたんだけど、隊長とリヌスは作業の途中だったからオレだけが出迎えに出たってわけ」
「ふ~ん…でも作業中でも話はできるわよね?」
「もちろん。弁当はここに置いてこっちへ来いよ」
ツグミはデイバックの中から1冊の本を取り出した。
「それは?」
「
「ああ」
テオはツグミを案内して機関室へと向かった。
するとそこには首輪のようなものを着けて椅子に腰掛けているゼノンとリヌスの姿があった。
彼らの首輪からは細い管が伸びていて、背後のトリオン抽出装置と思われる機材に繋がっている。
「やあ、ツグミ。ずいぶんと賑やかだったが、何かあったのか?」
ゼノンがツグミに訊く。
「いえ、特にこれといったことは。十代の子供というものは些細なことでも笑ったり怒ったりと騒がしいものです。気にしないでください」
ツグミはそう言って微笑んだ。
続いてリヌスが声をかける。
「こんにちは、ツグミ。お弁当を持って来てくれたみたいですね。私たちのためにわざわざすみません」
「いいえ、そんなこと気にしないでください。それよりも今日はゼノン隊長たちにお願いがあってまいりました」
「お願い?」
ゼノンたちは首を傾げた。
自分たちがツグミに頼みごとをすることはあっても、彼女が自分たちに頼むようなことはありえないと考えていたからだ。
「はい。皆さんは
「うむ…」
ゼノンは腕を組んで難しい顔をして黙り込んでしまった。
彼らは祖国のために様々な国に潜入して情報収集をしたり、破壊工作やツグミを拉致しようとした時のような要人誘拐、任務であれば暗殺ですら行うキオンの諜報員である。
アフトクラトルにも何度か潜入しているからツグミの知りたがっている情報を与えることは可能だが、彼らが集めたからといって情報を他言することは軍命に背くこととなる。
「俺たちはキオンの軍人だ。祖国に忠誠を誓い、祖国のために働くことを誇りにしている。だから任務で赴いた国の情報を他人に口外することはできない」
「……」
ゼノンの言い分は当然である。
だからツグミは何も言えなかった。
しかしゼノンの言葉には続きがあった。
「いくら世話になった恩人であっても教えるわけにはいかないが、俺たちが話している時に別の部屋でこっそりと聞かれてしまったとしたら、それは俺たちの与り知るところではない」
「!」
「そういうことで俺たちはきみにアフトクラトルの情報を教えることはできないのだが、ちなみにどんなことを知りたかったんだ?」
ゼノンに訊かれたツグミは目を輝かせて言った。
「どんなことでもかまわないんですが、できることなら四大領主のひとつであるベルティストン家のことを知りたいです。城下の様子とか、直属の兵士がどれくらいいるのかとか、他の領主とのパワーバランスとか…」
「う~ん、どれも教えることはできない機密事項だ。やはりきみに話すことは何もない。俺たちはまだここで今後の話し合いをしなければならないから、きみは隣の倉庫か居住スペースにでも行ってくれ。くれぐれも俺たちの話に聞き耳を立てるようなことはしないでくれよ。聞かれてはマズイ話をするのだからな」
「わかりました。…あ、そうだ。皆さんの暇潰し用にと思って本を持って来ました。
ツグミは抱えていた本をゼノンに手渡した。
するとゼノンはページをパラパラとめくりながら言う。
「ほう…これは面白そうだな。しばらく借りておく」
ツグミは機関室を出て機関室とは壁一枚を隔てただけの倉庫に入った。
そして30分ほどゼノンたちの会話を盗み聞きし、彼女が知りたいと思っていたことのいくつかの情報は手に入れることができた。
昼休みに忍田との面会の約束をしていることをゼノンたちに告げ、午後にもう一度訪問することを約束してツグミは遠征艇を後にしたのだった。