ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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208話

忍田が本部長室へ戻って来たのは12時半を少し回った頃であった。

 

「すまない。会議が紛糾して長引いてしまった」

 

髪を乱し、息を切らせて本部長室に飛び込んで来た忍田の第一声がこれだった。

ツグミはその姿を見て苦笑してしまう。

 

「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。今、お茶を淹れますからそこに座って息を整えて待っていてください」

 

ツグミは緑茶を淹れながら忍田に話しかける。

 

「午前中にゼノン隊長たちのところへ行ってきました。彼らは玉狛支部を出て遠征艇で過ごすことにしたようです。まあ、彼らが街に出て悪さをするようなことは絶対にありませんから、林藤支部長もOKを出したんでしょうね」

 

「ああ、その話はさっき聞いた。林藤が彼らのトリガーを預かっているということらしいな」

 

「ええ。林藤支部長は返してくれると言ったそうですけど、ゼノン隊長が自分たちの誠意の証明として預けると言い出したんですって。(ブラック)トリガーを預けるくらいですから、彼らを監視する必要もないでしょう。この後また彼らのところに行って、今後の相談をしようと思っています」

 

ツグミは前夜に玉狛支部で林藤やゼノンたちの前で話したことを忍田にも説明した。

忍田にとってはゼノンたちが帰国してしまえばそれでおしまいなのだが、ツグミは彼らの将来についても憂いていて、親身になっている姿を見ていればやめろとも言えない。

しかしだからと言って勝手なことをされても困るわけで、特に城戸に目を付けられたら今度こそボーダーをクビになる。

忍田はそれが不安でならない。

 

「キオンの連中にあまり入れ込みすぎるなよ。いくら彼らに親切にしてやったところで、ボーダーにとって何の見返りもないんだぞ」

 

するとツグミは目を吊り上げて怒る。

 

「何を言っているんですか!? 他人に親切にするのに見返りを期待してその効果が大きいとか小さいとか、そんなことを気にして行動するのであればそれは親切とは言えません」

 

「それはそうだが…」

 

「それにわたしは彼らに対して親切で行動しているのではありませんよ」

 

「は?」

 

「わたしの行動の基本は自分と自分の手の届く範囲の人間の平穏な日常を守ることで、そのために可能な限り何でもやっているというだけです。その証拠に少しですけど面白い情報を仕入れてきました」

 

「面白い情報だと?」

 

「はい。それは食事の後にお話します。…さあ、先にお弁当を食べちゃいましょう」

 

ツグミはふたり分の弁当をテーブルの上に広げると、忍田と向かい合って食事を始めた。

忍田が「あっさりとした味付け」を希望しているので、弁当のおかずは若鶏の香草焼きと切干大根煮とほうれん草の胡麻和えである。

 

 

 

 

「そろそろ話してくれてもいいんじゃないのか? 本部長である私に話したいこととは何だ?」

 

食後のお茶を啜りながら、忍田が訊く。

 

「朝も言ったように遠征選抜試験の内容についてです。今回はA級隊員とB級1位2位の中から希望者を募っての選抜試験、そして合格者を集めて短期戦闘訓練を行うということでしたよね?」

 

「ああ、そうだが」

 

部隊(チーム)単位での参加ですから選抜試験はランク戦のようなカンジになって、勝率の高い部隊(チーム)を合格にして、逆に低い部隊(チーム)を不合格にする、なんてつまらない通常の試験をするはずはないと思うんですが…」

 

ツグミはそう言うと、忍田は眉を顰めた。

彼女の言ったことが図星であったようで、それを「つまらない」と称されたのだから機嫌も悪くなるだろう。

 

「ではそう言うならおまえには名案があるのだな?」

 

「名案というほどではありませんが、現在のシステムよりも実戦に近い形式で行うという点では面白いはずです」

 

ツグミは自信ありげに自分の案を忍田に説明した。

 

「ふむ…なるほどな。たしかにその案ならこれまでのランク戦形式のものよりもはるかに実戦に近い」

 

「ですからこの形式の試験で合格できないようであれば、遠征に参加する資格がないとハッキリわかるはずで、不合格者も納得するでしょう」

 

「しかしよくキオンの連中がそんな情報まで提供してくれたな? あれだけ頑なに口を割ろうとしなかったネタをおまえにはこっそりと話したのだから驚きだ」

 

「彼らはボーダー(わたしたち)の敵じゃありませんから。それに女性に対して非常に紳士的で、わたしが彼らの態度に対して好意的に接していますから、良い関係を築けたと思っています。さらにこれまで彼らの食事の世話をしていくうちに胃袋をしっかりと掴みましたから。今日もお弁当を作って持って行ってあげましたから、きっと更なる情報を得ることができると思います。もっとも彼らはわたしに何も教えてはくれませんでしたよ。彼らは真面目なキオンの諜報員ですから、並のやり方では絶対に口を割りません。さっきのネタはわたしが彼らの会話を盗み聞きしただけです」

 

盗み聞きと言ってもゼノンたちがツグミに聞かせるためにアフトクラトルのことについて話をしていたわけで、祖国に忠誠を誓った軍人としてはこうするしか彼女の恩に報いる手段はない。

ツグミは「胃袋をしっかりと掴みました」と言っていたが、一般的に「胃袋を掴む」とは女性が意中の男性をゲットするための手段のひとつとされている。

しかしツグミにはそういった意思はない。

食生活の貧しいキオンの人間にとってこちら側の世界の料理は魅力的なものばかりで、玉狛支部にいた頃はツグミが毎日彼らの好みに合うものを作ってきたのだから結果的に彼女の「お願い」を聞き届けてやりたいと思ってしまったわけだ。

しかし忍田はツグミの話を聞いて良い意味でも悪い意味でもショックを受けていた。

 

(ツグミが先の先まで読んで行動しているのは昔からのことで、子供らしくはないが将来が期待できると喜んでいた。特に防衛隊員としてその素質は戦況を左右するほどで、大規模侵攻の際には特級戦功を与えられるくらいの活躍を見せた。…だが、キオンの連中を手懐けるなどと、そら恐ろしい娘に育ってしまった。それは私の父親としての教育が正しかったのかそれとも間違っていたのか…)

 

忍田はツグミの行動に不安を抱えていたが、特に心配することなどないのだ。

彼女はゼノンたちのことを利用するために食事の面倒をみたのではなく、友人として喜んでもらいたいという気持ちだけであった。

しかし結果的に彼らがツグミに対して全幅の信頼を寄せることとなり、そのおかげで情報を得ることができたのである。

悪意を向けてくる敵に対しては容赦せずに罠に嵌めたり利用したりするが、友好的な相手に対しては同様の態度で接するのが彼女の信条なのだから。

 

「今お話したことは家に帰ってから書面にします。遠征会議の議案に正式に提出させてもらってよろしいですか?」

 

「ああ、もちろんだ。ただし採用されるかどうかはわからないが」

 

「承知しています。…でもわたしは遠征に参加できないんですから、こうして裏方で働かせてください。32人のC級隊員を全員無事に取り戻すためには一刻も早くアフトクラトルに行って救出しなければなりません。ですが急いては事を仕損じるとも言います。ですからあらゆる方向から遠征に参加する隊員たちの無事帰還を担保することに努めたいと思っています」

 

「そうか…」

 

「はい。そういうことですので城戸司令にご挨拶をしてから帰ろうと思っています。昨日の様子ですとボーダーのルールの範囲であればわたしの好きにしても良いと言うカンジでしたから、ボーダーのために役立つことだとわかれば多少のことは目を瞑ってくれますよね?」

 

「まあ、そうなるかな」

 

「いざと言う時には最終手段に訴えるつもりですが、城戸司令は賢明な方ですからきっとわたしのやりたいようにさせてくれるはずです」

 

ツグミは自信満々の笑顔で言った。

城戸は「近界民(ネイバー)は殲滅すべき存在である」と謳っているが、ボーダーの最高司令官としては当然のスタンスである。

ツグミも理解はしているが納得できないという気持ちでいたから2年前の彼女の隊務規定違反によって大きな亀裂が生じ、以来ずっとふたりの関係は悪化してしまった。

ところが大規模侵攻以降に起きた様々な出来事によってふたりだけで話をする機会を得て、お互いの気持ち…と言うか信念のようなものを知ることとなり、歩み寄るきっかけとなった。

だからこそ城戸はツグミのやろうとしていることに期待していて、彼女が危険を承知でミリアムの(ブラック)トリガーを所持することを許可したと言えよう。

そしてツグミも城戸の期待を裏切らないという誓いのような意味でS級、つまり城戸の直属の部下になることを承知した。

城戸はツグミを利用しようとしているのは間違いないのだが、彼女自身も城戸を利用しようと考えている。

もちろんそんなことはおくびにも出さないが、いざという時には彼の最高司令官という立場を利用することを前提で秘策を練っていた。

たぶんボーダーの誰も想像もしないことで、仮に考えたとしても絵空事に過ぎないと一蹴するものだが、彼女はそれを本気でやろうとしているのだ。

よって城戸との関係を良好なものとするために「御機嫌伺い」は必須である。

これはツグミがひとりでコソコソ動いていると思われたくないために城戸に適宜報告をしようという意味であり、城戸も彼女の行動をある程度把握することで安心して好きにさせることができるというものだ。

これまではお互いの間に秘密のようなものがあったために疑心暗鬼になっていたわけで、そこをオープンにすることで相手の誤解を回避することができる。

ただし全部曝け出すようなことはせず時には重要なことでも秘匿し、時には城戸が誤解するような言い方をすることもあるだろう。

なぜならツグミは孫子の「兵は詭道なり」の言葉を好み、正道な手段のみでは戦に勝てないと知っているからこそ騙し討ちもアリだと信じているからだ。

しかし百戦錬磨の城戸を相手にし、彼女がどこまでやれるのかはわからない。

もしかしたら城戸は彼女のそう言った性格まで承知の上でやれるところまでやらせてみようと考えているのかもしれないのだが、ツグミ自身も城戸が曲者であることを知っているわけで、このふたりの()()は相当面白いものとなりそうである。

 

 

「そうだ…すっかり言うのを忘れていた」

 

テーブルの上の片付けをしていたツグミに忍田が突然言い出した。

 

「明日の隊長会議におまえも出席してもらいたい」

 

「ええっ? わたしはもう隊長ではありませんし、部隊の解散届もきちんと受理されているはずですよ。なんで会議に出席しなければならないんですか? もう出席しなくてもいいってことで、報告書だって書いていませんよ」

 

「いや、隊長として出席するのではなく、今回の人事異動の件の報告…と言うか紹介をする場としてちょうど良いものだからな。昨日付けでおまえは本部異動となりS級に昇格したわけだが、事情が事情なだけにあまり派手に発表はしたくない。しかしだからと言って内緒にしておくこともできないわけで、今回は隊長たちにだけ報告し、隊員たちには隊長の口から伝えてもらうという形にした」

 

「はあ…なるほど。S級ということはすなわち(ブラック)トリガーの所有者であるということ。その(ブラック)トリガーの入手先とかなぜわたしが所有者になったのかなど不明な点が多く、納得できない人も出てくるかもしれない。そこで隊長たちに納得させることで隊員の中から上がる不満等を抑えようということですね?」

 

「そういうことだ」

 

「入手先や適合者の調査、所有者の選抜をしなかったことについては明かせませんけど、わたし以外に適合者がいないことを認めさせるのは簡単ですね。希望者に起動実験をしてもらえばいいんですから。ミリアムさんはわたし以外に使わせる気はないと言っていましたから、誰ひとりとして起動できないとなれば諦めざるをえないでしょう」

 

「うん。…しかし(ブラック)トリガーになった人間と会話ができるということがまだ信じられない」

 

忍田がそう思うのはもっともであるが、ツグミが証明する方法はない。

 

「信じられないのは仕方がありませんが、疑われるのは不愉快ですね。わたしは彼女と話をして彼女がどういった事情で(ブラック)トリガーになったのかや、彼女の親族のことについて話を聞きました。それから彼女はエウクラートンにいた頃の父のことを良く知っていて、わたしが父に似ているとも言っていました。それでわたしがこれを使える理由にも納得がいきました」

 

ツグミはそう言ってミリアムの(ブラック)トリガーを忍田に見せた。

 

「父が起動することができなかった理由もその時に聞き、わたしはミリアムさんの無念と願いを知りました。だからこそわたしはこれを責任持って管理することを心に誓ったんです。この話を信じるか信じないかは忍田本部長の勝手ですが、わたしはこれからも彼女の助言を受けて行動していくと思います。なにしろ彼女は近界(ネイバーフッド)やトリガーのことをボーダーの人間よりずっと詳しく知っているんですから」

 

人としての肉体を失ったミリアムであるが、魂は(ブラック)トリガーの中に確実に生きている。

そして彼女の想いを知ってしまったのだから、その遺志を大事にしたいと思うのは当然だ。

それが自分の祖母であれば尚更で、彼女は自分こそがミリアムの(ブラック)トリガーの正当な継承者であるという自負があるからこそ、危険を承知で「使用しない」という使い方を選んだのである。

忍田はまだ不安であるが彼女の意思に任せると決めた上に直属の上司ではないために命令をすることもできない。

よって父親として彼女のやることを見守るしかないのだ。

 

「とにかく明日の隊長会議の件は承知しました。…ですが会議の開始時間前に会議室に着席しているのはおかしいですから、本部長に呼び出されるまでこの部屋で待機していてかまいませんか?」

 

「ああ、そうだな。明日の議題は先月の防衛任務の活動報告の他、B級ランク戦の結果とそれに伴う遠征計画及び参加隊員の募集に関しての説明を行う予定だ。それが終わったタイミングで呼び出すことにする」

 

「了解しました。では会議開始時間にはここで待つことにします」

 

これで明日の午後の予定は埋まってしまった。

ツグミは仕方がないと諦め、明日の予定の変更を余儀なくされたのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

本部司令執務室へ向かうツグミであったが、到着する前に城戸と廊下で出会ってしまった。

 

(もう午後の会議が始まっちゃうんだ…。城戸司令への御機嫌伺いはまた折を見て、ってことにしよう)

 

ツグミが無言で会釈をすると城戸の方から声をかけてきた。

 

「私に会いに来たのだろ? まもなく会議が始まるが5分だけなら時間を割いてもいい。歩きながら話そう」

 

「ありがとうございます。…先ほど忍田本部長に遠征参加者選抜試験の内容について少々お話しをさせていただきました。まだ正式なものではありませんが、本部長は気に入ってくださったようですので明日には書面にて正式に提案させていただきます。それからキオンの諜報員たちが釈放となり、彼らは遠征艇の燃料用のトリオンが溜まるまでしばらく三門市に滞在することになりますが、玉狛支部の方ではもう監視はいらないと考えているようで、わたしが彼らの様子を見に行くことにしました。彼らもわたしに対してはもう一切危害を加える気はありませんし、なによりもわたしのことを信頼してくれていますから」

 

「わざわざそんなことを報告に来たのか?」

 

城戸は冷たい言い方をするが、ツグミは平然と答えた。

 

「わたしが隠れてコソコソやっていると城戸司令も胃が痛くなってしまうでしょうから、全部包み隠しなく報告しようかと思いまして。毎日通うのは時間的に無理なので、2-3日に1回はこうしてお目にかかりたいと考えています。もちろん司令のお仕事のお邪魔はいたしません」

 

「玉狛にいた頃とは人が変わったようじゃないか」

 

「いえいえ、まったく変わっていませんよ。変わったのは直属の上司だけで、報告する相手が林藤支部長から城戸司令になっただけのことです。それに城戸司令からはわたしにS級隊員としての権限を与えてくれましたから、わたしはそれを利用するだけでなく義務もちゃんと果たすつもりでいます。報告は義務のひとつだと思っていますので、こうして本部基地まで足を伸ばしたというわけです。お邪魔であるとおっしゃるなら、呼び出された時だけまいりますけど、いかがしますか?」

 

「わかった。私も忙しい身だ。用事があれば呼ぶから、報告はその時だけで良い」

 

「了解しました」

 

「それでこれからおまえはどうするんだ?」

 

「ゼノン隊長たちのところへ行き、今後のことについて相談しようと思っています。せっかくキオンという近界(ネイバーフッド)の大国の人間と接触できたのですから、ボーダーにとっての敵をひとつ減らすだけでなく、近界(ネイバーフッド)に味方を増やすくらいの気持ちでキオンと関わっていきたいと考えています。アフトクラトルへの遠征を控えてボーダーは他国とのいざこざを避けたいところですから、キオンは敵ではなく味方であってほしい。そのためにできることは何でもやってみたいんです。ゼノン隊長たちとは出会いこそ最悪なものでしたが、今は非常に良好です。キオンは国土が貧しいゆえ、国民を養っていくために他国を侵略して食料庫としているのですから、胃袋を満たす手段があれば彼らは戦う理由すらなくなります。わたしたちは近界(ネイバーフッド)という異世界のトリオンやトリガーの技術を取り入れました。ならば近界民(ネイバー)がこちら側の世界の文明を知り、優れた技術を導入して自分たちの生活の向上を図ってもいいんじゃないでしょうか? …っと、会議室に着いてしまいましたね。続きのお話はまたいずれ城戸司令のお時間のある時にでもいたしましょう。では、失礼いたします」

 

ツグミはもっと話したいことがあるのだが、5分という約束で城戸の時間をもらったのだからこれ以上無理は言えずにその場を退いた。

城戸自身も彼女の話には興味があるが、自分が5分と言い出した以上はここまでだ。

 

(ツグミの考えは甘いかもしれないが、これまで誰もやらなかったことをやろうとしている気概は認めてやりたい。有吾や織羽がボーダーを近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)の架け橋になる組織にしようとしたのに、私たちはその願いを叶えることができずにいる。しかしツグミならばできるのではないかと淡い期待を抱かずにはいられない。夢物語かもしれないが、それは私たちが20年前に語り合った未来と同じものであり、彼女は私たちが果たせなかった意思を継ごうとする大事な私たちの娘なのだから、私は父親として陰ながら応援してやるべきなのだろうな…)

 

去って行くツグミの後ろ姿を見ながら、城戸は自分が歳をとったと感じていた。

有吾や最上、織羽というかつての朋友たちは早々に鬼籍に入り、自分だけが取り残されてしまっただけでなくトリオンも換装するのが精一杯で武器(トリガー)を生成する力はもうない。

 

(今の私はただ最高司令官という椅子に腰掛けて若い隊員たちを戦わせることしかできない。5年前、私は多くの若者たちの犠牲によって()()()()()。今の私は彼らの命の価値に見合うだけの働きをしていると彼らに堂々と言えるだろうか? 私が奪ってしまった彼らの夢や希望を私に代わって引き継いでいるのはツグミだ。不甲斐ない私のためにまた若い彼女が犠牲になることだけは絶対にあってはならない。私がさせてはいけないのだ)

 

城戸がそんなことを考えていると、背後から声をかけられた。

 

「城戸司令、そんなところで何をしているんですか?」

 

声の主は唐沢であった。

ツグミが姿が見えなくなっても立ち尽くしていたものだから、その場に居合わせた唐沢が疑問を持ったのだ。

 

「あ…いや、何でもない」

 

「? …もう会議の開始時間ですよ。午前中のように会議が長引くと今度はスポンサーとの会食に影響しますから急ぎましょう」

 

「わかっている」

 

唐沢が扉を開けると、城戸は忍田たちの待つ会議室へと入って行った。

 


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