ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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22話

 

 

(本部までの距離はオサムくんが250メートル、わたしは200メートル。おまけに戦力はわたしの方が上。こうなれば絶対にわたしの方を本命だと思うはず。…って、さっそく追いかけてきたみたい)

 

ツグミはハイレインの気配を背に受けて、パッと振り返った。

さっき撃ち込んだ鉛弾(レッドバレット)も削ぎ落とされているが、ツグミ自身も鉛弾(レッドバレット)の効果は一時的なものとして考えていたから、これは想定内の範囲である。

 

「そのキューブを渡せ」

 

「嫌よ。これは絶対に渡さない。これ以上おまえたちの好きにはさせないから!」

 

ツグミが大げさにキューブを抱きしめ、ハイレインを威嚇する。

 

「あまりしつこいと今度はその顔面に弾を()ち込むわよ!」

 

右手に拳銃(ハンドガン)型トリガー、左手にキューブを抱え、ツグミは臨戦態勢をとりながら叫んだ。

ツグミは 鉛弾(レッドバレット) を数発撃ってハイレインの注意を自身から外すと、すぐそばのアパートのドアを破って中に飛び込んだ。

 

(あんまり家を壊したくないけど、ここは勘弁してね。家の持ち主の人、ごめんなさい!)

 

ツグミは心の中で顔も知らない誰かに謝りながら走っていく。

ハイレインはというとツグミの先回りをしていて、建物の反対側で迎え撃つ気であった。

 

 

 

 

一方、修はレプリカと一緒にツグミとは別ルートで本部基地へと向かっていた。

その行く先にミラが立ち塞がる。

 

「そのキューブを渡しなさい」

 

「バカを言え! 絶対に渡すものか!!」

 

「それなら無理にでも奪うだけよ」

 

ミラは薄笑いを浮かべた。

 

〔オサム、逃げるぞ。…『門』印(ゲート)

 

レプリカはそう言うと遊真型ラービットを召喚した。

遊真型ラービットはミラめがけて拳を振り上げる。

 

〔今のうちだ、オサム〕

 

修は全力で駆け出した。

 

[ミラ、状況を知らせろ]

 

ハイレインがミラに呼びかける。

 

[現在、運び手の少年の連れた自律トリオン兵が召喚したラービットと交戦中です]

 

[ラービットだと?]

 

[はい。それもヴィザ翁と交戦中の(ブラック)トリガーの性能を持つモッド体のようです。大窓で飛ばそうにもトリオンの消費が大きすぎます]

 

[わかった、俺が対処する。小窓を繋いでくれ]

 

[了解致しました]

 

ミラが「小窓」を開くと、ハイレインはその中に鳥型の弾を撃ち込む。

するとその小窓を通り抜けてきた弾が遊真型ラービットを襲った。

遊真型ラービットは弾に触れたところからキューブ化してしまい、ついには活動を停止してしまう。

 

[敵ラービット沈黙しました]

 

[では敵の砦の正面に(ゲート)を開き、遠征艇と繋いでおけ。目標は必ずそこへ向かう]

 

ハイレインの指示で、ミラは本部基地入口の真正面に「大窓」を開いた。

 

 

 

 

ツグミの先回りをしていたハイレインであったが、ツグミがなかなか姿を見せないことで苛立っていた。

それもそのはずで、ハイレインが遊真型ラービットへの攻撃をしていた隙に彼女はふたつ隣の民家に移動していたのだ。

そして彼女は強化視覚(サイドエフェクト)を使って壁越しに標的(ハイレイン)の姿を確認した。

相変わらず自身の周囲を魚型の弾で覆っていて、トリオンによる攻撃からがっちりと身を守っている。

 

(ヤツの攻撃の特徴はトリオンによる攻撃を無効化してしまうというもの。これまでの情報によると広範囲を攻撃する時は鳥型、集中攻撃・防御時は魚型、四肢を狙う時はトカゲ型と使い分けている。たぶん大きい弾ほどトリオン消費が激しい。攻撃の無効化というのはこちらのトリオンとの相殺だと仮定してみれば…こちらのトリオンが大きければ相殺できなくてヤツ本体にまで攻撃が届くんじゃないかしら。やってみる価値はあるわね)

 

ツグミはスラッシュをアイビスモードに設定してハイレインに照準を定めた。

すでにリザーブの分のトリオンを使い切ってしまっているが、彼女は自身のトリオンで十分狙撃できると判断したのだ。

 

「射程35、弾速60、威力75…威力補正プラス30…」

 

ツグミが今まさに引き金を引こうとした瞬間、彼女の照準器(スコープ)の中に新たな人型をしたトリオン体を発見した。

 

「…え? ワープ女がもう来たの? それとも援軍?」

 

ツグミは引き金から指を離し、新たなトリオン体の正体を確認するためにそっと民家の外に出た。

 

「うわぁ…あっぶな~。一歩間違えれば同士討ちになるとこだったよ…」

 

ツグミがそこに見たものは、ハイレインと対峙している三輪の姿だった。

彼女が隠れていた場所とハイレインとの一直線上に三輪が立ったものだから、同時にスコープに映ったのだ。

三輪のことをツグミは苦手としているが、援軍としては非常に頼もしい。

 

(ちょうどいい。三輪さんに協力してもらおうっと)

 

ツグミは三輪たちがいる大通りに飛び出した。

 

「霧科…そんなところで何をしている!?」

 

「三輪さん、わたしはこのキューブを本部まで運ばなければなりません。援護をお願いします!」

 

「俺の任務は陽介が連れてくるC級の護衛だ。お前の事情など関係ない。勝手にしろ」

 

三輪はツグミのことを邪魔だといわんばかりの態度で弧月を握り締めながら言った。

 

標的(ターゲット)を確認した。処理を開始する」

 

三輪には目の前にいる近界民(姉の仇)にしか興味はない。

本気でツグミのことなどどうでもいいのだ。

一方、ツグミはちびレプリカに言った。

 

「あなたは三輪さんのフォローをお願い。三輪さんがあの人型を押さえてくれれば、わたしがワープ女を相手にできるようになって楽になるから」

 

〔了解した。オサムを頼むぞ、ツグミ〕

 

ツグミはちびレプリカと別れて単独で本部基地入口へと急いだ。

 

 

 

 

修は本部基地の入口の近くまでたどり着いたが、入口の真正面に「大窓」が開いてミラが姿を現した。

そして入口のドアを開けようと解析していたちびレプリカを見付け「小窓」のトゲでちびレプリカを串刺しにしてしまう。

 

〔子機がやられたようだな。これでは中へ入ることができない。こうなればツグミの指示どおりに上手く芝居を打って緊急脱出(ベイルアウト)するのがよさそうだ〕

 

レプリカはそう言うが、修は首を横に振った。

 

「いや、緊急脱出(ベイルアウト)するのはギリギリ最後だ。ここで戦場離脱してしまったら霧科先輩の援護ができなくなる。相手は(ブラック)トリガーふたりだ。なるべく先輩だけに負担はかけさせたくない」

 

〔そうか。決めるのは私ではなくオサム自身だ。しかしいつまでも隠れていることはできないぞ〕

 

「わかってる。タイミングを見計らってぼくが飛び出す。レプリカは援護を頼む」

 

〔了解した〕

 

ミラが本部基地への入口を塞いでいて、中へ入るには別の入口を探さなければならないという情報をツグミに報せると、修はキューブを抱えて飛び出した。

 

「来たわね…。そのキューブをこちらに渡しなさい!」

 

修の姿を見つけたミラは、彼めがけて「小窓」で黒い棘の攻撃をする。

 

〔オサム、危ない!〕

 

レプリカの体当たりで修は攻撃から逃れた。

といっても攻撃はその1回だけで終わるものではない。

次の「小窓」が開き、黒い棘の攻撃が来た。

しかしそれは修への攻撃ではなく、レプリカへのものだった。

レプリカは棘の直撃を受け。真っ二つに切り裂かれてしまう。

 

「レプリカぁぁー!!」

 

修の足が止まるが、レプリカが呼びかけた。

 

〔オサム、私のことはかまうな。おまえはおまえのやるべきことをやれ〕

 

レプリカは修を叱咤し、修は再び走り出した。

 

「待ちなさい!」

 

ミラが「小窓」での攻撃を続ける。

修はその攻撃を掻い潜り、本部基地の入口へと走って行く。

 

「無駄よ。そこは開かないわ」

 

それでも修は走り、ミラは攻撃を続けた。

 

「ちょこまかと小賢しいネズミね」

 

ミラは苛立ちの色を隠せない。

 

(ぼくのトリオンはあとわずかだ。戦闘体を維持するのがギリギリで、もう通常弾(アステロイド)を一発撃つだけの力もない。でもできるかぎり引きつけておくことで先輩の援護になるはずだ)

 

「…っ!?」

 

修は周囲を複数の「小窓」で囲まれた。

 

〔オサム、キューブを放せ!〕

 

レプリカの指示で修はキューブを()()()()()で放り出した。

するとミラはキューブの方へ注意が向き、「小窓」は攻撃をしないまま消える。

つまりそれは「大窓」や「小窓」を使うためにはかなりの量のトリオンを消費することを意味していて、無駄な攻撃はせずトリオンを節約しようというわけだ。

もちろん修はキューブを拾おうと手を伸ばすが、先にミラに拾われてしまう。

 

「…! これは…やはり偽物(フェイク)か…」

 

ミラは修の持っていたキューブが「金の雛鳥」ではないことを確認するが、それは想定通りのことなので平然としている。

 

「余計な手間をかけさせてくれたわね。これは罰よ」

 

そう言ってミラは修の背後に「小窓」をひとつ開き、左脚を串刺しにした。

 

「そこでおとなしくしてなさい」

 

修にはもう用はないといった感じで、ミラは彼を放置してハイレインに連絡をする。

 

[ハイレイン隊長、やはりこちらは偽物(フェイク)でした。運び手は足を奪い、邪魔な自律トリオン兵は活動を停止させました。次の指示をお願いします]

 

[では、そちらにもうひとりの運び手が向かっている。着いたら教えてくれ。俺もそちらへ行く。そして金の雛鳥を捕え次第、艇で離脱だ]

 

[了解致しました]

 

ミラは修のことなどもう障害にならないという感じで、次にやって来るツグミを待っている。

その隙に修は左脚を引きずりながらレプリカのもとへ行き、しゃがみこむと地面に落ちているレプリカの半身を抱えた。

 

〔オサム、私は平気だ〕

 

「レプリカ、本当に大丈夫なのか…?」

 

〔予備のシステムに切り替えた。ほとんどの機能は停止したが、まだやれることはある。そこで私の提案なのだが…〕

 

レプリカが説明を始めた。

 

 

 

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