ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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211話

 

 

ゼノンたちに弁当を届けた足でツグミはボーダー本部基地へと向かった。

毎月第一金曜日の午後は各部隊の隊長が集まって行う月例隊長会議があり、S級隊員になったもののその会議に出席しなければならないからだ。

もっとも会議自体に参加するのではなく、彼女がS級になったことのお披露目的な意味を持つものである。

彼女がS級になったことはまだ公にはされておらず、今後も発表する意思がないために急遽隊員たちに周知させるための場を忍田が設けたのだ。

2月の会議にはツグミもB級部隊の隊長として初参加したのだが、その時にはまさか翌月にはこのような形で出席することになるとはまったく想像もしていなかった。

それだけこのひと月の間に様々なことが起きたという証拠でもある。

B級ランク戦では最下位からスタートしてRound4の段階で暫定とはいえ1位になるという前例のない快進撃。

大規模侵攻からB級ランク戦にかけて無理をしていたことによるトリオン不足と過労による体調不良。

キオンの諜報員による拉致事件。

この事件によって父親が近界民(ネイバー)であったことを知らされ、城戸によって秘匿されていたミリアムの(ブラック)トリガーが再び日の目を見ることなる。

他にもガロプラの人間たちと関わったり、千佳の「撃てない問題」をきっかけに玉狛支部を家出同然で出て行くことになるなど、このひと月の出来事が彼女の人生を大きく変えることになったのは間違いない。

 

 

本部長室で待機していたツグミの携帯に忍田から連絡があり、彼女は隊長会議が行われている会議室へと向かって歩いている。

彼女にはこの後の展開が見えており、面倒なことにならないようにどうすべきかは昨夜のうちからずっと考えていてひとつの答えを出していた。

 

無所属(フリー)ならともかく部隊(チーム)に所属している隊員ならS級になりたいなんて思わないだろうから、わたしが(ブラック)トリガーを持つことに反対はしないはず。でも入手経路不明の(ブラック)トリガーがいきなり登場して、風刃の時のような適合者探しや所有者の選抜らしきことをしなかったんだから、そのことを疑問に思ったり不満を持つ人は出るに決まっている。おまけに突然B級ランク戦にひとり部隊(ワン・マン・アーミー)で参加して暫定1位になったところで急にドクターストップで不戦敗。そんなことをしている間にS級に昇格というんだから、きっと『詳しく事情を説明しろ』という声が上がるだろう。やっぱりデモンストレーションして見せるのが手っ取り早い。だけどあまり時間がかかるとその後の計画が台無しになってしまうから、さっさと終わらせなきゃ)

 

会議室の前で呼吸を整えると、ツグミは中にいる人物に声をかけてから扉を開けた。

 

「霧科ツグミ、入ります」

 

すっと扉が開き、ツグミが一歩足を踏み入れたと同時にその場にいたメンバー全員が彼女に視線を向けた。

忍田からはまだ彼女がS級隊員になったということは知らされておらず、なぜ彼女が呼び出されたのか理由がわからないといった表情である。

ツグミは忍田の隣に立ち、そこでやっと忍田が事情を説明し始めた。

 

「実は昨日付けで霧科ツグミ隊員は城戸司令からミリアムの(ブラック)トリガーの所有者として正式に認められてS級隊員となった。同時に玉狛支部から本部に転属となったことをここで報告する」

 

(ブラック)トリガー」や「S級」という言葉を聞いた途端、隊長たちの視線が刺すように鋭いものとなり、疑念、好奇、嫉妬…様々な感情が彼女に向けられた。

さらにざわめきが発生し、明らかに「きちんとした説明がほしい」という顔をしている。

 

「きみたちが言いたいことはわかっている。今から私が説明をする。もっとも私の説明できみたちが納得するかどうかはわからないが、この人事はきみたちが不満に思って城戸司令に掛け合ったところで覆ることはない」

 

忍田の言葉で室内は静かになり、ツグミから手渡されたミリアムの(ブラック)トリガーを皆に見せた。

 

「これがミリアムの(ブラック)トリガーだ。城戸司令の指示により詳しいは説明できない。ただ城戸司令の判断でずっと厳重に保管されていて、つい最近になって()()()()()で限られたごく一部の人間のみにその存在を知らされたものだ。これは彼女の父親の遺品なのだが、親友であった城戸司令が預かっていて霧科本人もその存在を知らずにいた」

 

「は~い、忍田さん! …ってことはツグミの親父さんはボーダーの人間だったってことですか?」

 

太刀川が手を挙げて訊く。

 

「ああ。彼女の父親の霧科織羽はボーダー創設メンバーのひとりで、後輩の私や林藤支部長はずいぶんと世話になった。9年前の交通事故で亡くなった時に城戸司令がこのトリガーを預かったのだそうだ」

 

ツグミの父親がボーダー創設メンバーであったことを知ったものだから、なぜ彼女が旧ボーダー時代からの隊員なのか、また忍田が剣の師匠であった理由など腑に落ちたようで何人かが頷いている。

続いて風間が手を挙げて訊いた。

 

「事情があるようですけど、どうして城戸司令は今まで秘密にしていたんでしょうか? 天羽の(ブラック)トリガーも入手先やあいつが所有者になった経緯など秘密なんですから、この(ブラック)トリガーについてゴチャゴチャ言うつもりはありません。ですが第一次侵攻やこの前のアフトクラトルとの戦いでもしその(ブラック)トリガーを使ったら被害を抑えられたんじゃないですか?」

 

「たしかにそうなのだが…城戸司令はこのトリガーの能力を知っていて、その上で封印して使用しない道を選んだ。適合者を探さなかったのはこのトリガーの能力と使用者の負担を知っていればこそで、そのすべてを知って納得した上で霧科は所有することを選んだのだ」

 

「その言い方ですと近界民(ネイバー)による被害の拡大と使用者の負担を秤にかけて、後者の方が大事だと判断したということでしょうか?」

 

「そういうことに…なるな」

 

「忍田本部長、ここから先はわたしが説明してもかまいませんか?」

 

「ああ、頼む。だが、わかっているな?」

 

「はい。余計なことは喋りませんからご安心を」

 

あまり深く追求されると立場上困るといった忍田の表情を見て、ツグミが代わって説明することにした。

 

「お許しをいただきましたから、ここからはわたしが説明をいたします。といってもわたし自身もまだ知らないことはありますが、訓練室で2度使ったことがありますから使用者の立場から忍田本部長よりはディープな内容をお話しできると思います。まあ、口で説明するよりも実際に見てもらった方が手っ取り早いというか、わかりやすいと思います。これから訓練室でデモンストレーションを行いますが、いかがでしょうか?」

 

隊長会議自体は終わっているので、ここで解散しても良い状態になっている。

興味のある者は付き合うだろうし、なければさっさと帰ってしまえばいい。

ツグミはここで何人かが帰ると思っていたが、意外なことに全員がデモンストレーションを見物するということになった。

 

 

 

 

ツグミと太刀川、風間、三輪、二宮、諏訪の5人の隊長たちが「市街地A」のフィールドに転送された。

残ったメンバーは狭い管制室の中で様子を見物している。

当初はツグミがトリオン兵を倒すというこれまでのものと同じことをする予定であったが、太刀川が「見ているだけじゃつまらない」と言い出し、体験してみたいという希望者5人が()()として参加することになったのだ。

流石に正体不明の(ブラック)トリガーを相手にするのだからいくら手練の隊長たちであっても不利である。

よって予め弾丸トリガーであり追尾能力が高いものであること、そしてトリオンに反応してどこまでも追尾することを公表しておいた。

トリオン兵はバムスター、モールモッド、ラッドを合計100匹で、そこに適当な距離に転送された隊長5人。

フィールドの中央に転送されたツグミは周囲をぐるりと見回すと追尾弾(アピス)を撃った。

 

追尾弾(アピス)!」

 

巨大なトリオンキューブが125分割され、近くにいるトリオン兵に向かって飛んで行った。

トリオン兵は回避や防御をしないので正確にその()を撃ち抜いていき、100匹のトリオン兵はツグミを中心として波紋が広がるように次々に機能を停止していく。

それを見ていた太刀川と風間と三輪はシールドを併用しながら自分に向かって来る弾を斬り、二宮と諏訪は背後にシールドを展開しながら正面の弾を撃ち落として第一波の攻撃は退けた。

しかしここからが本番である。

ツグミは続いて第二波として125分割の弾を撃つ。

1撃目はトリオン兵100匹を倒した残りの25弾を防げば良かったのだが、2撃目は125弾がすべて5人の隊長たちに襲いかかって来る。

さらに2撃目に対応すべく動いている彼らに対してツグミは間髪入れず第三波の攻撃をしたものだから、計250弾がまるで本物の蜂のように複雑でバラバラな動きをしながら襲いかかる。

その様子を見ながらツグミは考えた。

 

(トリオン兵だけなら数がたくさんでも問題はないけど人型だと回避や防御をするし、そのうちに反撃を仕掛けてくるだろう。でも一番近い場所にいる二宮さんですら無防備のわたしに攻撃できるほどの余裕はないみたい。弾数を増やして攻撃を密にすれば反撃のチャンスを見付けるのに苦労する。今のところ125分割までしかしたことがないけど、もう少しイケるかも?)

 

追尾弾(アピス)で取り囲まれている太刀川たちに対し、ツグミは第四波の攻撃をしようとトリオンキューブを手のひらの上に浮かべ、頭の中で6×6×6のイメージをしながらトリオンキューブを216分割にして撃ち出した。

トリオンを消費しない仮想戦闘だから()()を警戒しないで攻撃できるため、いくらでも「人体実験」ができる。

弾は視線誘導ではなくトリオン供給機関や伝達脳のトリオンに反応して自動で追尾するものだから、一度撃ってしまえば後は放っておいても勝手に追いかけてくれる。

なので余裕で()がどう対処するのか見物できるのである。

 

()()二宮さんですら回避と防御に徹して反撃できずにいるなんて面白いものが見られたわ~。ミリアムの(ブラック)トリガーは攻撃に特化していて防御能力がないけど敵の射程距離に入らなければ大丈夫。1000メートル先にいる狙撃手(スナイパー)の顔だって見えるくらいだもの、一度ロックオンしてしまえば後は身を隠していてもOK。わたしとこのトリガーの相性は最高よね~)

 

使い過ぎてしまえば使用者自身に危険が及ぶというミリアムの(ブラック)トリガー。

だからこそツグミは使わないことに決めたわけだが、場合によっては無駄な戦いを回避するためには()()()使う必要が生じる。

そのためには能力を知っていなければならず、このデモンストレーションは彼女にとって都合の良い「実験場」となった。

 

 

いくらボーダーでトップクラスの隊員であっても不規則に飛び回る蜂のような弾を回避したり防御し続けているのには限界がある。

追尾弾(アピス)はトリオン体のトリオン供給機関や伝達脳を狙って攻撃するので、1発でも命中した時点で緊急脱出(ベイルアウト)となってしまう。

勝つためなら手足の1本2本失ってもかまわない、という()()()()()()()戦い方をしていてはダメなのである。

それでは時間稼ぎにしかならず、いずれは消耗してトリオン体の換装が解けて生身になってしまい、次の1発で命を奪われることになるのだから。

 

5人のうちで最初に緊急脱出(ベイルアウト)したのは諏訪であった。

トリオン切れを心配しなくても良いためにいくらでも攻撃も防御もできるのだが、気の短い彼にとって長期戦は向いていない。

武器(トリガー)散弾銃(ショットガン)による火力重視のものだから、追尾弾(アピス)のような攻撃とは相性が悪いのである。

建物の壁を背にしてメインの 散弾銃(ショットガン)とサブのシールドで追尾弾(アピス)を凌いでいたが、とうとうキレてしまってその隙にシールドで防ぎきれなかった弾が彼の後頭部に命中したのだった。

壁を背にしていたといっても隙間があってそこに入り込まれてしまったのが運の尽き。

追尾弾(ハウンド)のように決まった軌道を描くものとは違うので回避・防御は難しい。

そこを突かれたわけだ。

諏訪が緊急脱出(ベイルアウト)したことがきっかけになったかのように、続いて三輪と太刀川が連続で緊急脱出(ベイルアウト)

ツグミが何発も追尾弾(アピス)を撃ち、無限に弾が増えてくるものだから次第にストレスが溜まっていって、緊張の糸がプツリと切れた瞬間にそれぞれトリオン供給機関や伝達脳を殺られてしまったのだった。

ツグミは反撃される心配がない場所で一方的に攻撃をし、後は高みの見物である。

 

(もっとも実戦ではそうもいかないのよね…。自分のトリオン残量や精神バランスを確認しながら暴走しないよう努めなければならないんだけど、その弱点を明かさなければ無敵の武器(トリガー)だと勝手に勘違いしてくれる。そうやってミスリードを狙うのがわたしの戦術。たぶん真相を知っているレイジさんとオサムくん以外は全員『ヤバイ』って思ってるわよ、きっと)

 

残った風間と二宮は普段から冷静に対処できるタイプであるから、長期戦になっても余裕があった。

お互いにトリオンが減らないので延々と戦い続けることはできるのだが、ツグミが本気で攻撃しているように見えないものだから二宮は自分がおちょくられているように感じて、さらに追尾弾(アピス)を回避・防御しながらツグミを射程に入れようと接近すると、彼女は余裕の表情でパッと逃げてしまう。

それの繰り返しに耐えられなくなってしまった二宮が先に殺られ、残った風間もこれ以上続けても勝ち目はないとして自発的に緊急脱出(ベイルアウト)をして戦闘は終了したのだった。

戦った5人が5人とも不満げな顔をしているが、そもそも初見の(ブラック)トリガーに対してノーマルトリガーで敵うはずもなく、当然の結果である。

彼らの力不足ではなく、この5人の隊長であっても手に負えない武器(トリガー)であるとその場にいた誰もが理解したはずだ。

しかしこうなると父親の遺品だからという理由でツグミが所有者となったことを狡いとか卑怯だなどと妬む者も現れる。

口にしなくてもそう心の中で思っている人間は必ずいて、それこそ卑怯な陰口を叩くものである。

もっともこの場にいる隊長たちの中には()()()()()()()そんなことを考える人間はいないが、ツグミは管制室へ戻ると全員に声をかけた。

 

 

「この(ブラック)トリガーの能力はおわかりいただけたと思います。補足事項ですが、この追尾弾(アピス)は一度ロックオンした敵が()()()()するまで対象のトリオン反応を追い続けます。ボーダーの正隊員なら戦闘体が破壊されても緊急脱出(ベイルアウト)してしまえば戦闘フィールドから撤退してしまうので問題はないのですが、もしこれが近界民(ネイバー)相手の実戦であったとしたら恐ろしいことになります。換装が解けてしまった近界民(ネイバー)は次にその身体のトリオン器官を狙われることになり、そして生身の身体が機能停止するまで容赦なく追われ続けるのです。この意味はおわかりですね?」

 

「……」

 

生身の身体の機能停止…つまり死ぬまで止まらないということである。

いくら相手が近界民(ネイバー)だといっても、通常ボーダー隊員なら相手を殺すことまではしない。

それは敵であっても殺害するまでに至るほどの憎しみで戦っているのではなく、また人の命を奪うまでの覚悟はないからである。

それに近界民(ネイバー)同士の戦いでも換装の解けた兵士は捕虜となり、自軍の捕虜との交換に利用するのが常で、余程の事情がない限り殺したりはしないのだ。

しかしミリアムの(ブラック)トリガーを使うと相手が死ぬまで攻撃し続けると聞いたのだから言葉を失うのも無理はない。

 

「この(ブラック)トリガーは使用者の意思でロックを解除することができないものですから、一度敵であると認定してしまったらわたしに殺意がなくとも弾が勝手に追いかけて行ってトドメを刺してしまうことになります。もちろん必要以上に弾を撃たなければ良いのですが、今回のようにトリオン兵だけでなく人型近界民(ネイバー)が混じっていたら、人型の兵士だけを敵とみなさないで戦うのは不可能。だって彼らはわたしのことを敵として攻撃してくるのですから。この(ブラック)トリガーは攻撃オンリーで防御はできません。よって近界民(ネイバー)と戦うのにこれを使うことになると、自分の身を守るためには敵をすべて機能停止させなければならないのです」

 

「……」

 

「わたしはこの(ブラック)トリガーを所有して管理するにあたり、どのように使用するのが正しいのか考えました。詳しいことはお教えできませんが、城戸司令はわたしの考えに納得してくれて正式に所有者として認めてくれました。…それともうひとつ。城戸司令がこのトリガーの適合者を探さなかったのは使用者の負担を考えてのことであると忍田本部長はおっしゃっていましたが、仮に探したとしてもわたし以外にはいなかったはずです。その根拠についてはちょっとした守秘義務があって教えられませんが、もし疑うようでしたらどなたか起動実験してみませんか? 適合者はひとりもいないはずですから」

 

ツグミはそう言ってミリアムの(ブラック)トリガーを見せたが、手を挙げる者はいなかった。

ここまでの話だと城戸とツグミの間に何らかの密約があって、両者の利害関係が一致したことにより彼女が所有を認められたのだろうから無関係な自分たちに今回の人事に口を挟む資格はない。

さらに忍田の言った「使用者の負担」が人間を皆殺しにしてしまう「精神的なもの」だと考えたのだ。

たとえ敵性近界民(ネイバー)であっても相手はコミュニケーションの取れる人間である。

命のないトリオン兵なら()()することに躊躇いはないが、人間を()()することには誰もが抵抗を感じ、仮に適合者であっても使いたくないと思うもの。

近界民(ネイバー)を倒すことがボーダー隊員としての正義であり責務であっても自らの手を血で汚したくはない。

面倒なものに関わらない方が身のためであると判断したわけだ。

もっともただひとりだけツグミに対して個人的にジェラシーを感じている隊長がいるが、ここで名乗りを上げて適合者でなかったら恥をかくとして歯ぎしりをしながらダンマリを決め込んでいる。

しかしこのタイミングで東がツグミに問いかけた。

 

「霧科、きみはそんなものを持つ必要はないだろ? 適合者であるからといってもきみには拒否する権利があったはずだ。きみは本気でそんなものを使って戦う気なのか?」

 

「はい。わたしは()()の遺志に沿う形で使うと決め、()()が認めてくれたことで所有することを許されたのですから。いくら正当な後継者であったとしてもわたしに所有する資格がなければ適合者であっても使用はできません。そういうことですのでわたしはわたしのやり方でS級隊員としての責務を果たします」

 

「…きみが何を考えているのかイマイチ良くわからないが、俺はきみのことを信じている。元々俺たちに異議を唱える権利はないのだから、これ以上はもう何も言わずにおこう」

 

東がそう言うのだからと、誰もが異議を挟む気はないようで沈黙を続けている。

 

「ありがとうございます、東さん。…ではこれでみなさんに納得していただけたと判断いたします。今後わたしは城戸司令の直属の隊員として本部基地で活動するようになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。…あ、なお通常はこれまでのノーマルトリガーを使用し、非常時においてのみ()()()()()()()この(ブラック)トリガーを用いることとなります」

 

そう言ってツグミは忍田の方を振り返って訊いた。

 

「これでわたしからの説明は以上ですが、他に本部長から何かありますか? なければこの後予定が詰まっていますのでこれで失礼させていただきたいのですが」

 

「ああ、もういいぞ。忙しいところを呼び出して悪かったな」

 

「いえ、これもお仕事ですから。…では失礼いたします」

 

ツグミは隊長たちに一礼すると管制室を出て行った。

 

 

 

 

ツグミがS級隊員になったことは隊長から部下の隊員たちに知らされ、さらに彼らの口から無所属(フリー)のB級隊員やC級隊員たちに情報が広まっていことでボーダー全体に知れ渡った。

隊員たちの中には事情がわからないことで納得できないという顔の者もいたが、実際に「威力は絶大でも自分でコントロールできないヤバイ武器(トリガー)」の能力を見せられた隊長たちから「関わらない方がいい」と言われたら黙り込むしかない。

そもそも部隊(チーム)で戦っている者はS級になりたいなどとは考えないし、無所属(フリー)の隊員でも得体の知れない(ブラック)トリガーを持ってS級になるメリットはない。

それにツグミの父親の形見であるというのであれば、彼女が持つには当然と考えるのが普通である。

持つべき者が持つのであるから誰も異論を唱えようがないということで、ツグミのS級昇格人事については騒ぎにならずに済んだのだった。

 

 

 

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