ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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215話

 

 

B級ランク戦が終了して1週間が経った。

B級ランク戦の最終結果が公表され、上位1位の二宮隊と2位の玉狛第2はA級への挑戦権を得たと同時にアフトクラトルへの遠征選抜試験の受験資格も得たことになる。

そしてA級から遠征希望者を募り、1週間の募集期間が終わった時点で太刀川隊、風間隊、加古隊、三輪隊、そして玉狛第1が遠征参加を表明した。

個人ではB級の影浦、村上、東がB級合同部隊として受験する予定である。

 

この遠征ではアフトクラトルという敵の本拠地に乗り込むのであるから大規模侵攻の時のように地の利を活かすことができない上に援軍は望めない。

さらに敵はハイレインのベルティストン家だけとは限らず、場合によっては四大領主の別の軍とも戦う可能性もある。

そして遠征艇に乗せられる人員にも限りがあり、最大で30人くらいになるとすれば戦闘員は22-3人といったところだろう。

少数精鋭で臨まなければならないという非常に厳しい戦いになるのは明らかだ。

よってその()()を試験によって選ぶわけだが、参加資格のある人間はすべて参加させたいと城戸は考えている。

そこでツグミが提案した方法によって試験を行い、不合格者以外は全員短期集中訓練に進むという段取りになった。

開発室では鬼怒田と寺島の作業によって試験に使う仮想フィールドは完成し、エネドラッドによる監修でほぼ()()だとお墨付きのものとなっている。

後は試験当日を待つだけである。

 

 

 

 

これまでの遠征のようにA級部隊(チーム)から参加希望者を募るところは同じだが、A級ともなれば(ブラック)トリガーに対抗できるだけの実力者であるから試験など行う必要はなかった。

もっとも戦闘を前提としたものではなく、隠密裏に潜入して新しいトリガーを入手するというものだからさほど危険なものではないので「一度近界(ネイバーフッド)を見てみたい」ということで参加希望する者もいた。

そこで人員を減らすために試験を行っていたのだった。

しかしアフトクラトルへの遠征は間違いなく戦闘が行われるので、物見遊山的な感覚での参加は許されない。

()()生還できるという保証のある隊員でなければ安心して送り出せるはずがないのだ。

よって遠征に行きたいという強い意思があってもそれだけではダメで、試験に合格しなければその先の訓練に進むことはできない。

覚悟と実力を兼ね揃えた者だけがアフトクラトルへの遠征に参加できるのだ。

受験者たちはその試験方法がこれまでのように部隊(チーム)ごとのランク戦になるだろうと想像していた。

遠征の責任者である忍田さえも当初は部隊(チーム)戦を行って、その勝率とチームワークやその他のポイントを鑑みて決めるつもりでいたのだから当然である。

しかしそこにツグミが()()()試験方法を提案したものだから上層部は彼女の案を採用し、さらに訓練にも利用しようということになった。

そして試験日は3月15日の〇九〇〇時からと発表され、試験の様子はランク戦のように公開されることも同時に知らされたものだから、受験者だけでなく他の居残り組の隊員たちも一種の祭りのような盛り上がりを見せていたのだった。

 

 

 

 

玉狛支部では玉狛第1と第2の両部隊(チーム)が選抜試験に臨むため、ゆりが玉狛第1のオペレーターとして復帰することになった。

ゆりは栞が玉狛支部に転属してくるまで玉狛第1のオペレーターを勤めていて、しばらく現場を離れていたのだがそのブランクをまったく感じさせない。

これで栞は玉狛第2に専念することができるようになり、修たちと共にアフトクラトルを目指すこととなる。

 

 

「宇佐美先輩、遠征のための選抜試験というものはどんな内容なんですか? 以前に近界(ネイバーフッド)へ行った経験があると言ってましたけど、その時にも試験があったんですよね?」

 

修が栞に訊く。

 

「うん。その時は部隊(チーム)単位じゃなくて個人での募集だったんだけど、やっぱ部隊(チーム)のみんなで一緒に参加したいって希望者が多くて結果的に希望部隊(チーム)が総当りで戦って、その結果の上位3部隊(チーム)が参加できるってことになったの。当時のアタシは風間隊のオペレーターで風間隊が参加することになったからそれで一緒に行ったってわけよ」

 

参加希望部隊(チーム)の総当り戦での結果と聞き、修の表情は沈痛な面持ちでいる。

それを見た栞がフォローするように言った。

 

「いやあ、アタシの時がそうだったからと言って今回も同じとは限らないんじゃないかな~。相手はA級と元A級部隊(チーム)なんだし、そこんところは忍田本部長たちも考慮してくれると思うよ。それに修くんたちもB級ランク戦を経て強くなったじゃないの。2位だよ、2位。最終戦なんてひとりひとりが自分の役目をきちんと果たして見事なチームワークで勝利したんだもの、きっと大丈夫だよ」

 

「そうだといいんですが…」

 

それでもまだ煮え切らない態度の修に腹を立てた遊真が口を出す。

 

「オサム、おれもしおりちゃんと同意見だぞ」

 

「空閑…」

 

「おれたちがランク戦で勝ったのは事実だし、他の部隊(チーム)もおれたちを勝たせるために手を抜いたわけじゃない。ちゃんとB級2位の実力を身に付けたって証拠だろ? オサムがひとりで戦うなら無理だけど、おれたちは玉狛第2という部隊(チーム)だ。チームワークなら他の部隊(チーム)にも負けちゃいないさ」

 

「そうだよ、修くん。修くんは頑張ってるし、最終戦で射手(シューター)1位の二宮さんを倒したのは修くんだよ。もっと自信持とうよ!」

 

千佳にまで励まされては修もウジウジしていられない。

 

「うん、わかったよ。ぼくはひとりじゃない。空閑と千佳とヒュース、それに宇佐美先輩がいるんだから希望はある。やる前から諦めていたらダメだよな」

 

B級ランク戦全8戦の経験は修たちの戦闘技術の向上だけでなく戦うことの意味を考えさせ、それぞれの意識を変えてきた。

明らかに大きな成長が見られ、遊真に出会う前と後の修ではまるで別人のようになっている。

千佳も自分で人を撃つ覚悟を持つことができたのだし、玉狛第2の進む先は明るい日差しが差し込んでいるようにも思えるのだが、修たちの様子をヒュースは冷ややかな視点で傍観していた。

 

「時間はあまりないけどやれるだけのことをやろう。選抜試験がどんなものかはわからないけど、少なくとも仮想空間での戦闘というランク戦と同じシステムになるのは間違いないんだ。そこでどんなマップになっても対応できるように作戦を練ろう。宇佐美先輩、よろしくお願いします」

 

了解(ラジャ)

 

隊長らしい態度で修は栞に指示をしてランク戦で使用するマップの中からいくつかを選択してもらうと、それを元に作戦会議を始めたのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

本部所属の隊員となったことでツグミにも本部基地内に作戦室を与えられている。

いくらS級で通常の防衛任務がなくなったとはいえ、ボーダー隊員である以上は義務を果たさなければならない。

その義務とは直属の上司である城戸の命令に従うことである。

彼女が午後の時間をゼノンたちのために働いていることを城戸に認めさせる条件として、午前中はアフトクラトル遠征に関する雑務を引き受けていた。

もっとも選抜試験の提案者であるのだから彼女が直接関わるのは当然で、また彼女にしかできないことが多いために忍田から「アフトクラトル遠征部隊選抜試験委員会」の委員長に命じられたのだった。

ツグミは後輩だからといって審査に手心を加えるなどということは絶対にしない。

逆に厳しく審査して遠征に耐えられない隊員は参加させないという「公平で正確な判断ができる」という確信が忍田にはある。

実力不足の隊員を温情やお目溢しで合格させてしまったら、本人たちの生死に関わるわけだから絶対にしてはならない。

そういう強い信念がある彼女だから忍田は選抜試験に関することを彼女に一任し、城戸もそれを認めているのだ。

 

 

そして選抜試験の前日の14日、最終確認や関係部署との擦り合せなどの作業をしているツグミの元に朝から何人もの来客があった。

 

「ツグミちゃん、来たよ~」

 

「いらっしゃい、柚宇さん」

 

ツグミは机の上の書類をさり気なく引き出しに隠して柚宇を笑顔で迎える。

 

「は~い、これ。バレンタインのお返しだよ~」

 

柚宇は某有名菓子店の紙袋をツグミに手渡した。

その中には綺麗にラッピングされた菓子の箱と20センチ弱の大きさのクマとウサギのぬいぐるみ、そして北海道産のブランド米の2合袋が入っている。

 

「これは…」

 

「え~っとね…お菓子はニャンコの顔とか肉球の形をしたマシュマロの詰め合わせで、唯我が買って来たんだよ~。不本意だけどクッキーを貰ったんだからそのお返しはしておかないといけないって言って。でもマシュマロってホワイトデーに贈ると『あなたが嫌いです』って意味なんだよね~。たぶん唯我はそんなこと知らないで、ツグミちゃんが猫好きだっていうから可愛いって理由で買って来ただけだと思う。深い意味はないだろうから許してやってね~」

 

「ええ、わかっています。あれからずっと会っていないけどずいぶんと礼儀正しくなったものですね」

 

「うん。それとクマのぬいぐるみは太刀川さんが、ウサギは公平くんがクレーンゲームで取って来たヤツ。ツグミちゃんにはお菓子よりもモフモフの可愛いものの方が喜ぶだろうからって。お米はあたしの北海道の親戚が作ってるお米だよ~。雨取ちゃんって白いご飯が大好物なんだって聞いたから、ツグミちゃんから渡しておいてね~」

 

「なるほど…よくわかりました。チカちゃんの分は責任を持って渡しておきます。きっと大喜びしますよ。どうもありがとうございました」

 

バレンタインデーに千佳と一緒に手作りのクッキーを全部隊に配ったことのお返しが朝から相次いでいて、その多くはオペレーターの女子が持って来る。

そのお返しもそれぞれ部隊の特色が出ていて、ツグミと長い付き合いで彼女の好みを知っている隊員は「モフモフ系」のものを持って来るし、お座なりのお返しだとコンビニのホワイトデーコーナーで売っている菓子だ。

太刀川隊のメンバーは全員ツグミと親しいだけでなく、修が唯我の弟子になっているということで千佳の好みまでリサーチしてお返しを選んだのだろう。

 

「ところで~、ツグミちゃんってS級になったんだってね? 太刀川さんから聞いて驚いたよ~」

 

「はい。突然の人事でわたし自身もまだしっくりきていないんです。まあ、普段はこれまでのノーマルトリガーを使うので、大きな戦争にならない限りS級らしい戦いをお見せすることはないでしょう」

 

訪ねて来たオペレーターたちは全員決まって柚宇と同じことを訊いてきて、ツグミはすでに10回以上も同じ会話を繰り返していた。

 

「ツグミちゃんはアフトへの遠征には参加しないんだって~?」

 

「はい。太刀川隊は遠征希望で明日選抜試験を受けるんでしたね?」

 

「そだよ~。太刀川さんが絶対に行くって言ってるから、唯我抜きの3人で参加する予定なんだ~。もしツグミちゃんがいたら、またウチの部隊(チーム)に入ってもらえたのに、残念だよ~」

 

「ですね~」

 

ツグミは柚宇に合わせてそう言うと笑った。

ツグミが先の大規模侵攻で特級戦功を与えられたほどの戦いっぷりを見せたことは隊員の誰もが承知していて、その上(ブラック)トリガーを持つS級になったのだから参加するのが当然だと思うものだ。

しかし選抜試験の実施日や受験者の氏名が発表されたというのに受験者の中に彼女の名前がなくて不信に思っている隊員たちがいた。

S級だから試験なしで参加するのではないかという噂が流れていたものだから、ツグミは自分からすすんで言うことはないが他人から訊かれたら参加しない旨を伝えているのだった。

 

「太刀川隊なら不合格ということはないでしょうけど、気を抜かずに試験に臨んでください。おおっぴらには言えませんが、わたしは皆さんのことを応援していますので」

 

「うん、ありがと~。本部にいるんだからたまにはウチの隊室にも遊びに来てね~。じゃあね~」

 

柚宇が手を振るものだから、ツグミも同じように手をパタパタと振って見送った。

そして扉が閉まると同時に大きくため息をついた。

 

「はぁ~」

 

来客があるたびにツグミは机の上の書類を隠さなければならず、こうして遠征絡みの会話もするからなかなか仕事が捗らないでいた。

 

(ひと月前の2月14日にはまだ玉狛支部にいて、その時には自分がS級となって本部に転属しているなんてまったく想像もしてなかったな。いろんなことがありすぎて目まぐるしい1ヶ月だったけど、この短い時間で何人もの近界民(ネイバー)と出会ってきた。最初はみんな敵だったけど、言葉を交わして相手の状況や立場を知ることで和解できた。なにしろキオンのゼノン隊長たちはミリアムの(ブラック)トリガーを探して、ガロプラのガトリン隊長はハイレインにボーダーの遠征を妨害するよう命令されたから戦うことになっただけで、彼ら自身にはわたしやボーダーに対して怨恨や敵意なんてものはなかった。戦争をやりたい連中に利用されているだけなのよ)

 

仕事を中断されてしまったついでに休憩をすることにしたツグミ。

保温中の電気ポットの湯を再沸騰させ、家から持って来たお気に入りの茶葉で紅茶を淹れる。

 

(こちら側の世界でも戦争をすることで利益を得る連中がいて、全人口の99.9%が平和を求める人間であっても残りの0.1%の連中がそれを阻む。そりゃ軍事関連の仕事や兵器を作る産業に携わる連中は戦争がなくなったら食いっぱぐれてしまうものね。限られた資源を奪い合う戦争と、国の支配権を巡っての内戦。どちらの世界でもごく一部の人間の金銭力、権力欲、名誉欲といったものを満たすために多くの人間に犠牲を強いている。別に欲というもの自体が悪ではない。誰だって欲はある。食欲や睡眠欲だって欲には違いないんだから。それに他人から認められたいという承認欲求とか、美味しいものを食べたいと思うのも生存本能による食欲とはまた違う高次の欲求。わたしがたくさんの本を読みたいというのも自分の好奇心や知識欲を満たすものだし。要は自分のために他者を犠牲にして良いものではないということよ)

 

ツグミの脳裏にはハイレインの顔が浮かんだ。

 

(あー、ムカつく。そりゃ、あいつにだって事情はあるだろうけど、自分が権力握りたいからって他所から人をさらって来て生贄にしようだなんて絶対に許せない。なんとかして仕返ししてやりたいけど、遠征に参加できないわたしは直接手を出せない。だからジンさんでも太刀川さんでもかまわないから誰かにぶん殴ってもらいたいな~。あ、ぶん殴るならレイジさんのレイガストパンチの方がいいかも? …それじゃダメだ。換装を解いて生身にした後に素手で元の顔がわからないくらいにボコボコにしてもらわないと意味ないや)

 

自分の過去の行動によって遠征に行けなくなったことを後悔はしていないが、ハイレインに()()仕返しできないことが悔しくてたまらない。

だから()()()()ハイレインの野望を阻止しようとしていろいろ策を練っているのである。

良い香りの紅茶の注がれたカップを手に、ツグミは再び書類を引き出しから取り出すとチェックを再開した。

 

 

 

 

仕事を再開してまもなく来客があった。

それがわざわざツグミを訪ねて来るような人物ではないものだから、彼女はその顔に「やれやれ」といった表情を浮かべてしまう。

それに気付いた二宮は渋い顔で言った。

 

「それは俺に会いたくないという顔だな?」

 

「いえ、そういうわけではなく、朝から何人もの来客があって仕事が捗らないだけです。別に二宮さんだからというのではありません。それよりも何かご用ですか?」

 

「これだ」

 

二宮は後ろ手に隠していた紙袋をツグミに手渡した。

そのパッケージはスイーツ好き女子なら誰でも知っている超有名マカロン専門店のもので、中身を見なくても何が入っているのかはわかる。

 

「これはホワイトデーの…?」

 

ツグミが恐る恐る訊くと、二宮は当然だと言わんばかりに答えた。

 

「バレンタインデーにクッキーを貰ったのだから、そのお返しをするに決まっているだろ」

 

「食べてくれたんですか?」

 

「当たり前だ。Round4でおまえは面白い試合を見せてくれたからな、約束どおり食べてやった。まあ、美味かったぞ」

 

「食べてもらえて良かったです。…でもわざわざ二宮さん自らお越しいただかなくても氷見さんにお願いすればよろしいのでは?」

 

「あの日は俺がおまえから直接受け取ったのだから、俺が持って来るのが礼儀というものだ」

 

「律儀ですね…。二宮さんらしいです。ということは、これを選んだのも二宮さんですね?」

 

「そうだ。マカロンはホワイトデーの定番だと聞いたからな」

 

「ありがとうございます! このマカロンは前からずっと食べてみたいと思っていたものなので、すごく嬉しいです。大事に食べますね」

 

「気に入ってくれたなら幸いだ。では、これで失礼する。何をしているのかは知らないが仕事の邪魔はしたくないからな」

 

「申し訳ありません。今日と明日はちょっと忙しいもので。でも時間ができたらお茶にお誘いしてもいいですか?」

 

ツグミがそう言うと、二宮はほんの少しだけだが表情を和らげて答えた。

 

「ああ…楽しみにしている。おまえの作った菓子と淹れる紅茶は美味いからな」

 

そう言って二宮は軽く手を挙げると作戦室を出て行った。

 

 

 

 

そしてしばらくするとユズルがツグミを訪ねて来た。

 

「霧科先輩、これ…光に頼まれて持って来た」

 

ユズルがツグミに突き出したのは淡いピンク色の包みの箱である。

 

「影浦隊としてのバレンタインの時のお返し。霧科先輩が好きそうなイチゴ味のマドレーヌだってさ」

 

「ありがとう。わざわざすまないわね」

 

「ううん、別に。それで…」

 

ユズルが口ごもる。

その表情で何か言いたいのはわかるが、何を言いたいのかがツグミにはわからない。

 

「何かあるなら言っちゃいなさい。そっちがメインの用事なんでしょ?」

 

「うん…実は、これを雨取さんに渡してもらいたいと思って」

 

そう言ってユズルが差し出したのはツグミのものよりも小さい箱で、こちらは赤と白のギンガムチェックの包装に「For You」と印字された可愛いシールが貼ってある。

 

「これはユズルくんが直接手渡しすべきものなんじゃないの? たぶん今日は一日中玉狛支部にいるはずよ。ほら、明日は選抜試験があるから」

 

「オレには無理です。だから霧科先輩にお願いしたくて…」

 

「なぜ? チカちゃんのことが好きなんでしょ?」

 

ツグミの言葉で一瞬にして顔を真っ赤にし、動揺してしまうユズル。

 

「ど、どうしてそれを…?」

 

「ユズルくんの気持ちなんてみんなにバレバレよ。だから恥ずかしがらずに堂々と渡せばいい。その方がチカちゃんだって喜ぶだろうし」

 

「喜ぶ…んですか?」

 

「当然。チカちゃんだってユズルくんのことが好きだから。といっても恋愛感情によるものじゃなくて友情の延長線上だと思うけど」

 

「……」

 

「彼女が人を撃てないと悩んでいた時に一緒に解決法を考えてあげたでしょ? 彼女は『人が撃てない』ではなく『人を撃ちたくない』だったけど、あなたが鉛弾(レッドバレット)を使った狙撃方法を教えてあげたことがきっかけとなって、人を撃つことに臆病になっていた彼女を変えることになった。たぶん彼女はあなたに感謝していると思うの」

 

「だけど霧科先輩は鳩原先輩が撃てなくて悩んでいた時に鉛弾(レッドバレット)とライトニングを使った改造トリガーを開発室にお願いしたことがあるって聞きました。なぜ霧科先輩は雨取さんに教えてあげなかったんですか?」

 

「だってわたしが答えを教えちゃたら何も努力しなくなるじゃないの。他人から与えられるばかりじゃダメなのよ。わたしが何も教えなかったから、彼女はユズルくんやイズホちゃんと一緒にいろいろ試行錯誤して答えを見付けた。それで結果オーライだったでしょ?」

 

「それは…そのとおりですね。雨取さんは強くなったと思います。ちゃんと人を撃てるようになったし、B級ランク戦の最終戦でも玉狛第2の一員としての役目を果たしていました」

 

「そう。だからチカちゃんのユズルくんに対する好感度が一気に上昇している今がチャンスなのよ。それはあなたが直接彼女に渡しなさい。…まあ、他の隊から彼女へのお返しを預かっているから夕方に玉狛支部へ行かなきゃならないけど、わたしからは彼女にユズルくんの気持ちを伝えることはできない。そのチカちゃんのために用意したプレゼントもタダの義理返しのひとつになるだけよ。それでもいいの?」

 

「……」

 

「自分のことなんだからどうするかも自分で決めなきゃ。結果がどうなってもわたしはかまわない。あなたの判断に委ねるわ」

 

「わかりました。どうしても無理だってことになった時にはまた来ますので、よろしくお願いします」

 

「うん、わかったわ。タイムリミットは午後3時。わたしも忙しくて、3時になったらここを出るからね」

 

「はい。お邪魔しました」

 

ユズルはそう言ってペコリと頭を下げてから作戦室を出て行った。

 

 

 

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