ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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217話

 

 

ツグミはコントロールルームに入るやいなや、先に到着していた忍田に声をかけた。

 

「忍田本部長、玉狛第2の件は済ませてきました」

 

「三雲くんたちの反応はどうだった?」

 

「かなり動揺していたみたいですけど、わたしがこれまで何度も言ってきたことを彼らが正しく理解していれば難しいことはありません」

 

ツグミが修に対して厳しいのは本人のためであること、この試験内容が理にかなっていることを忍田は理解しているものの、まだ納得できない部分もあった。

 

「しかし彼は正隊員になって間もない。それなのにベテラン隊員たちと同じ条件なのはどうかと思うぞ。ちょっと厳しすぎやしないか?」

 

するとツグミが冷たく言い放つ。

 

「ではアフトクラトルで敵に殺されそうになったら、その時には本部長が『こいつは正隊員になって間もないのだから助けてやってくれ』とお願いしてください。見逃してくれるかどうかわかりませんけど」

 

「……」

 

「それに正隊員になって間もないとおっしゃいますけど、三雲隊長は昨年の5月に入隊しているんですよ。もっとも入隊試験に落ちて『ボーダー隊員としての資質がない』と判断されたのに諦めきれなくて上層部に直談判しようとして警戒区域内に侵入し、そこでトリオン兵に襲われましたが()()()迅隊員に助けられたことで命拾いし、()()()上層部に影響力のある彼との接点を持ったことで裏口入学的なカンジで入隊したという経緯があります。雨取隊員を守るために入隊したという立派な目的は持っていますが、彼は正隊員になるための努力はしませんでした。わたしは城戸司令の許可を貰って三雲隊長の過去のトリガー使用履歴を調べてみましたが、彼はほとんど訓練をしていません。入隊式の時の対近界民(ネイバー)戦闘訓練で時間切れオーバーだったのですから自分の力不足は身をもって理解したはずなのに。同期入隊のC級たちは仲間同士でランク戦をやって切磋琢磨したり、師匠を見付けて弟子入りして技を学んだりと努力を重ねてきましたが、彼はその努力の様子が一切ありませんでした。それではいつまで経っても正隊員になれるはずがありませんよね」

 

「……」

 

「おまけにB級ランク戦を見学したこともなかったようです。彼はボーダー隊員になったことで満足していた…とは言いませんが、スタート地点でただ立ち尽くしていただけで半年以上も前進していなかったんです。正隊員にならなければ防衛任務ができず、雨取隊員を守るという目的を果たせないというのにですよ。大規模侵攻後の記者会見のことを覚えていらっしゃいますか? 彼は訓練生でありながらトリガーを使用して、その結果トリガーの情報が漏れてしまってC級隊員が拉致されてしまいました。『正隊員であったら…』と記者たちから責められた時に彼は『ぼくはヒーローじゃない。誰もが納得するような結果は出せない。ただその時やるべきことを後悔しないようにやるだけです』と大口を叩きました。その時わたしは彼のことをまだ良く知りませんでしたから、彼の言い分を賞賛しました。ですが努力をした上で正隊員になれなかったのではなく、何も努力をせずにいて訓練生のままだったんです。この事実を知って呆れ果てました。彼は自分がトリオン能力でボーダー隊員に相応しくないと知っていました。ならばトリオン器官を鍛えようと思うのが当然ですし、トリオンが少なくても技術でカバーしようと考えるものです。彼は半年以上も何をしていたのでしょうか? いえ、何もしないでいたからこのような結果になったのではありませんか?」

 

「それは…」

 

「三雲隊長が空閑隊員と()()出会ったことで、彼のボーダー隊員としての時間がやっと動き出しました。それまで彼はボーダー隊員になったと言ってもC級の底辺でうろついていただけでしたが、ラッド事件における空閑隊員の功によってB級に昇格しました。彼の実力ではありません。下駄を履かせてもらってやっとB級になれただけです。さらに雨取隊員がボーダー隊員になって遠征に参加すればお兄さんや友人の行方を探すことができると()()()したことで部隊(チーム)を組んでA級を目指すことになりました。別にどんな理由でボーダー隊員になろうとかまいませんが、組織に属する人間である以上はその組織のルールに従うのが大原則。しかし三雲隊長はボーダーという組織の人間であるという意識が希薄で『ぼくがそうするべきだと思ってるからだ』という理由だけで行動しています。その行動がボーダーという組織にとってマイナスになってはいけません」

 

「彼の存在はボーダーにとってマイナスになるというのか?」

 

「少なくとも今回のアフトクラトル遠征においてはマイナスだと断言します。C級隊員を生還させるという目的で行う遠征だというのに彼の頭の中には他に優先事項があってC級のことは二の次三の次になっています。そして最も恐ろしいのはがアフトクラトルへ行くことしか考えていなくて、無事に帰還することこそが重要で難しいのだとわかっていないことです。さらにこの遠征は三門市民に周知されていますから失敗は絶対に許されません。完璧に成功させなければ市民の期待を裏切ったことになり、今後のボーダーの運営にも大きく影響を与えることでしょう。この遠征の完璧な成功とは『C級隊員32人と遠征に参加した隊員たちが全員生還すること』で仮にC級や遠征部隊からたったひとりでも犠牲者が出てしまったらそれだけで失敗となります。大規模侵攻の時よりも相当叩かれることになるでしょう。そして自信満々でC級を連れ戻すと宣言した三雲隊長は…言うまでもありません。それはおわかりですね?」

 

「ああ。では彼はどうすれば良いというんだ?」

 

「本部長、開始時間です。始めましょう」

 

ツグミは忍田の質問に答えず、三輪隊と玉狛第2の作戦室への回線を開いた。

 

[時間になりましたので、転送開始のカウントダウンを始めます。よろしいですか? …では転送開始60秒前!]

 

 

◆◆◆

 

 

マップ名「アフトクラトル城郭都市」、時刻「昼」、天気「晴れ」に転送された三輪隊4人と玉狛第2のふたり。

この2部隊(チーム)がランク戦のようにガチ対決をするのであれば結果は目に見えているのだが、彼らが戦う敵は他にいる。

転送位置は三輪隊が南東側の貴族や比較的裕福な市民の住む住宅エリアで、玉狛第2は北西側の庶民の店が軒を連ねている商業エリアであった。

本来ならどちらのエリアであっても昼間なのだから人通りがあるものだが、さすがに通行人まで再現するのは技術的に無理があったため無人となっている。

受験者たちは中世ヨーロッパの街並みを再現したテーマパークのような場所に放り出され、周囲の様子を確認する間もなく敵侵入のアラートが鳴り響き、開け放たれていた城門は4ヶ所同時に閉められた。

これで城外へ出るには城壁を乗り越えるか壊すか、城門を守る兵士と戦って勝った後に城門を開けて出て行くかの3択となる。

バッグワームの効果はあるのでレーダーでは発見されないが、敵兵と遭遇(エンカウント)すればそこで戦闘開始である。

 

 

「ここはどこなんだ…?」

 

修はそう呟き、すぐに自分が馬鹿なことを言ったことに気が付いた。

この試験は情報収集のために現地の民間人を装って街の中に侵入できたもののバレてしまったという設定であるから、城郭都市の中の情報はまったくないのだ。

わかっているのは直径約2000メートルのほぼ円形の街が高さ約15メートルのトリオンでできた城壁で囲まれており、中心にベルティストン家の居城、その周囲には配下の貴族の館、さらにその周りは庶民の生活する市街地になっていること。

そしてこの街の中心から北東約5000メートルの地点に遠征艇が停まっていて、そこに帰還することがクリア条件ということだけだ。

だから周囲の家並みを見ただけでどこにいるのかなどわかるはずがない。

 

「どっちへ行けばいいんだ…?」

 

居場所がわからない以上は無闇に動かない方が良いのだが、制限時間が45分決まっているのだから悠長にしてはいられない。

焦りを覚える修だが、遊真は冷静に周囲を観察していた。

そしてオロオロしている修に言う。

 

「オサム、だいたいの場所はわかったぞ」

 

「ええっ!?」

 

「たぶんここは街の北西側にある庶民の住むエリアだ」

 

「なんでそんなことがわかるんだ?」

 

「オサム、あそこを見てみろ」

 

そう言って遊真は腕を伸ばして指を差す。

その先にあるのは低い建物の奥にある大きな建物だ。

 

「あれがハイレインたちのいる城だ。つまりあそこがこの街の中心だということ。そして…」

 

遊真は続いて太陽を指差した。

 

近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)とは違うけど太陽の動きは似ている。朝になると東の地平から太陽が出て昇っていき、夕方には反対側に沈む。だから太陽の位置を見れば方角がわかるんだ」

 

「ああっ!」

 

「詳しい時間はわからないけど、太陽がある方向が南だってことにすればハイレインの城の位置を合わせて考えるとここは街の北西エリアだってことがわかる。そして建物を見ると庶民の住む家っぽいから中心部よりも城壁に近い場所だろな」

 

「……」

 

修はショックを受けていた。

 

(空閑はすごいな…。いや、ぼくがダメなだけか。空閑はぼくと同じものを見ていても、わずかな手がかりだけで答えを見付けることができる。やっぱりこれは実戦経験の差なのか?)

 

「ここからだと城壁まで比較的近いから敵に見付からないように移動して壁を乗り越えよう。こっちだ」

 

遊真は民家に隠れながら敵がいないことを確認して修を呼んだ。

 

 

 

 

コントロールルームではツグミと忍田が三輪隊と玉狛第2の様子をモニターでチェックしていた。

 

「両部隊(チーム)とも自分たちが転送された位置を把握したようですね。この試験ではまず自分たちの居場所を把握しないとどう動いて良いのかわかりませんから、無闇に動かず冷静に周囲の状況を確認することが大切です」

 

ツグミが忍田に説明をする。

 

「時刻を昼、天気を晴れにしたことで太陽のある方角が南であることはすぐにわかります。問題はそこに気が付くかどうかです。そして中央のベルティストン家の居城はどこにいても目に付きますから、太陽と城の位置関係から自分が今いる場所がどこなのかおおよそ見当が付きます。三輪隊は古寺隊員がすぐに気付いたようで、さっそく行動を始めましたね。彼はオペレーターの月見さんから戦術を学んでいるのですから当然といえば当然ですね。一方、玉狛第2は空閑隊員が先に気が付いたみたいです。近界(ネイバーフッド)で有吾さんに鍛えられた成果ではないでしょうか。…あ、それぞれ動き出しました。そして敵役の隊員たちもそれぞれ自分の持ち場に向かって移動しています」

 

ツグミは楽しそうにモニターを見つめていた。

「敵役」として荒船隊、生駒隊、嵐山隊の3部隊(チーム)と個人では緑川の12人が参加してくれて、それぞれが東西南北の城門の詰所に転送された直後のアラートを合図に出動している。

アフトクラトルのトリガー使いは部隊(チーム)で行動することはないらしいとゼノンたちから聞かされていたので、ツグミは隊員たちを部隊(チーム)を単位ではなく彼女の判断で4つのグループに分けてそれぞれの城門に転送をしていた。

ツグミは城郭都市内をベルティストン家の居城を中心として東西南北の4つの扇型のエリアに分け、それぞれを3人で担当してもらっている。

東門は生駒・水上・穂刈、南門は荒船・南沢・隠岐、西門は時枝・緑川・佐鳥、北門は嵐山・木虎・半崎となっていて、それぞれ自分の担当エリア()()を死守する決まりだ。

よって敵が12人いても三輪隊と玉狛第2はそれぞれ最大3人の敵とだけ戦えば良いので、無理ゲーということにはならない。

また水上と南沢と緑川と木虎は城門の守りではなく、それぞれが時計回りに城壁沿いに移動して城壁を乗り越えようとしている隊員を発見するのが役目で、城門以外の場所をカバーしようというのである。

 

「城壁の高さは約15メートルありますから、グラスホッパーを持っている空閑隊員はそれを使って城壁を乗り越えようとするでしょう。武装が不明で何人いるかわからない敵を相手にするよりも警備の薄い城壁を乗り越えた方が楽…だと考えますからね。空閑隊員も三雲隊長を守りながらの戦闘では本来の実力を出すのは難しい。今回の試験は遠征艇にたどり着ければOKなのですから、戦闘を回避して逃げの一手でいくことでしょう。一方、三輪隊はグラスホッパー持ちはいませんから城壁を乗り越えるのは難しいです。破壊するのにも狙撃手(スナイパー)ふたりのアイビスでは火力が足りませんから、城門を守る敵を倒して門を開いて出るしかないでしょうね。まあ、わたしなら()()()()()を使って城壁を乗り越えますけど、たぶん彼らは戦っても切り抜けられるでしょうから心配は要りませんね。ただ問題は…」

 

ツグミの視線は玉狛第2の映っているモニターに向けられた。

 

 

 

 

修と遊真は注意深く城壁へと直進していた。

 

「オサム、敵の姿はない。たぶんおれたちがバッグワームを使っているから居場所を特定できないんだろうな。敵の数はわからないけど、敵の方だっておれたちの数はわからないだろうし、街は広いからピンポイントで探し出すのは不可能だ」

 

「ああ。このまま見付からずに城壁までたどり着ければ後は空閑のグラスホッパーで乗り越えればいい。ぼくたちふたりだけでの戦闘は不利だから、できるだけ戦闘は避けよう。城壁の外がどうなっているかわからないけど内側よりは安全だろうな」

 

ツグミが想像したように戦闘は避けてグラスホッパーを使って城壁を乗り越えようというのだ。

一番近い場所から街を脱出して後は緊急脱出(ベイルアウト)可能なポイントまで城外を全速力で走ろうという計画だが、ツグミの術中にはまっているなどと想像もしていない。

敵の本拠地にいて潜入がバレてしまったら、誰であっても一刻も早く城外へと逃げようとするもの。

そうなればいつまでも街の中にいるのではなく自分の現在地から最も近い城壁もしくは城門へと向かうはずだ。

だからツグミは敵役の隊員に街の中心部は無視して城壁付近()()に戦力を集中させた布陣にしたのである。

いくら敵役の数を増やしても直径2000メートルの円形の都市の中から特定の人間を見付けるのは無茶というもの。

なにしろ某ドーム球場の67個分の面積ともなれば走り回るだけでも大変だ。

普通に考えたら誰でもそこに気付くはずなのだが、それは第三者の立場であるからで当事者になってしまうと意外にわからないものなのである。

そしてもうひとつ重要なことに気が付いていない。

それはツグミのような戦術を学んだ者ならすぐにわかるのだが、そうでない隊員ではなかなか気付くことのできないポイントである。

実戦経験豊富な遊真ですら()()()()()のだから、修が気付くはずなど100%ありえない。

だから城外が「内側よりは安全だろう」などと平気で言えるのだ。

 

 

修と遊真はようやく城壁の足元にたどり着いた。

最も外縁にある建物とは20メートル弱離れていて、戦闘状態になっても十分な広さがある。

ただしこのふたりは目の前の城壁を乗り越えて外へ出てしまうのだからそんなことは関係ない。

 

「オサム、おまえが先に壁の上に登れ。おれは後を追う。念の為に上に着いたら周囲を確認して、すぐに頭を引っ込めておけ」

 

それは万が一敵に見付かった時に遊真が下にいた方が対応は楽だからだ。

遊真ならひとりでも戦えるし、修が城壁の上から射手(シューター)として援護もできる。

しかしこれが逆だとせっかく登った遊真が下に降り、敵を蹴散らしてからもう一度登るという二度手間にもなるのだ。

 

「わかった」

 

遊真はグラスホッパーを出して修に踏ませ、ジャンプした先に新たな()を出すということを繰り返し、修は城壁の頂面に到着した。

 

(万里の長城みたいだ。幅が…120センチくらいあって、人が通行できるようになっている。ここからだと街が良く見えるな…)

 

修は街の全体を見渡しながらそんなことを思っていた。

後は遊真が登って来てそのまま外側に降りればいいだけなので気持ちに余裕ができたのだろう。

 

(ここまで敵に見付からずに済んだ。あとひと息でふたり揃って試験に合格して、玉狛第2として遠征部隊の訓練に参加できるぞ。…だけど霧科先輩が提案したっていう試験だから、そんな簡単に終わるはずがない。最後に何かどんでん返しのようなことがあるに決まってる)

 

修がそう考えて遊真に声をかけようとした時だった。

彼が見たものは遊真だけでなく黒いフード付きのコートを被った人物で、ふたりは既に臨戦態勢に入っている。

 

「空閑!」

 

「オサム、おまえは隠れてろ! 他にも敵がいるかもしれない!」

 

この時はまだ遊真には勝算があって、修の援護なしで切り抜けるつもりでいたようだ。

しかし彼が両手にスコーピオンを握ると敵も同様にスコーピオンを両手に握り、その様子で相手が()()()()面倒なヤツであることに気付いたのだった。

 

「しゅん、おまえと殺り合うのは久しぶりだな?」

 

「あれ? やっぱ、遊真先輩にはバレバレかぁ…。でも悪いね、遊真先輩。オレ、勝つつもりでいるから」

 

緑川はフードを取ると覆面を外して素顔を出した。

遊真は別の敵が集まって来ないうちに自分だけでなく修も一緒に城外へ逃げなければならない。

時間がかかればそれだけリスクが高まるわけで、悠長に緑川と戦ってはいられないのだ。

 

(戦わずにグラスホッパーを使って逃げる手もあるが、しゅんが追いかけて来るのは間違いない。オサムを巻き込まないようにするには地上(ここ)で決着をつけるしかないな)

 

先に攻撃を仕掛けてきたのは緑川だった。

さすがはA級4位草壁隊の隊員、さらにボーダー№1の機動力「11」は伊達じゃない。

軽量級攻撃手(アタッカー)としての攻撃の鋭さは遊真といい勝負で、すなわちレベルが拮抗しているから勝敗が決まるまでに時間がかかってしまうわけだ。

修はふたりの様子を黙って見守っていた。

なにしろ援護をしたくても遊真の邪魔にしかなりそうにないのだ。

スパイダーでワイヤー陣を張ろうにもその場合は地上に降りなければならず、逆に足手まといになってしまうだろう。

さらに張るとしても住宅地まで戻らなければならず、さらにワイヤー陣を張ったところでそこに緑川が誘われて入ってくれるはずがないのだ。

緑川は遊真を倒さなくてもかまわないのだから。

制限時間45分の間、緑川の役目は受験者を緊急脱出(ベイルアウト)が可能な場所へ行かせないこと。

修がワイヤー陣を張ってそこで遊真と緑川の戦いを有利に運ぼうとしても、無駄に時間を長引かせてしまってその分不利になってしまう。

よって遊真の指示どおり隠れて見ているしかない。

 

(ぼくにできることは本当に何もないんだろうか…?)

 

 

修がそんな()()()()()ことを考えている様子をイーグレットの照準器(スコープ)の中に捉えて見ている者がいた。

 

[嵐山さん、三雲くんを見付けましたが撃っちゃダメなんすか?]

 

北門の上にある見張り小屋で待機している半崎が()()()()()訊いた。

 

[ああ。ツグミくんの指示でまだ撃つなということになっているだろ。もうしばらく待て]

 

ツグミからの敵役の隊員への指示はいくつかあった。

狙撃手(スナイパー)は城門の上にある見張り小屋に詰めてそこから一歩も出ず、ツグミの指示があってから撃つこと。

リーダー役は移動しないで城門の前で受験者がやって来るのを待って戦うこと。

城壁沿いに移動して受験者を探す担当は単独で戦っても良いし、仲間のいる城門付近へと誘い込んで戦うのも良しで個人の判断に任せるというものなど他にもある。

その指示の意味は嵐山にもわからず、彼自身もまだ誰も来ないので城門を背に立っているだけであった。

 

(ツグミくんの意図が全然読めない…。彼女は何を考えているんだろうか?)

 

嵐山の疑問はもっともだ。

この試験での嵐山たち「アフトクラトルのトリガー使い」の役目は敵、つまり三輪隊と玉狛第2のメンバーを城外に逃がさないようにしてミッションクリアを妨害することにある。

だから別に戦闘で勝たなければならないというわけではなく、時間稼ぎをしてタイムオーバーにするという手もある。

しかし手っ取り早く倒してしまえば良い。

実戦でも敵を発見すればその場で戦闘となるはずなのだ。

 

(彼女のことだから意味のないことはしない。しかし倒せるチャンスに敵を見逃すなんて変だ。城外に逃げられたら狙撃手(スナイパー)が撃って倒すしかないが、そうなる前に確実に仕留められる状況で撃つべきではないのか?)

 

嵐山には時間がたっぷりとあるものだから、つい考え込んでしまうのだった。

 

 

 

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