ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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23話

 

 

遊真はヴィザとの戦闘を続けている。

レプリカ本体を修の護衛に回したため、彼の(ブラック)トリガーは本来の威力を出せずにいた。

ヴィザはというと遊真を足止めするためにのらりくらりと攻撃をかわしている。

さらに遊真の戦闘体からはトリオン漏れが相次ぎ、このままでは活動限界を迎えて負けとなってしまう。

 

「攻撃から多彩さが失われた。自律トリオン兵と離れたのは失敗でしたな」

 

ヴィザの言葉に耳を貸さず、遊真はちびレプリカに修たちの状況を訊く。

 

「レプリカ、オサムとチカは?」

 

〔ついさっきツグミが合流した。気にしなくていい。目の前の敵に集中しろ〕

 

ツグミの援護があれば安心とばかりに微笑む遊真。

しかしだからといって「最悪の未来」を回避できるとはかぎらない。

ただ自分のできることをやるだけだと気合を入れる。

 

〔この老人はおそらく敵の中で一番の使い手。しかも面倒なのはこの相手が我々に対し『足止めで充分』と考えていることだ。余裕のある相手を崩すのは難しい。こちらが欲を出せばその隙を突かれるぞ〕

 

「わかってる」

 

遊真は父・有吾の教えを思い出していた。

自分より強い相手と戦う時は勝とうとしてはいけない。

引いて守って時間を稼ぐことで、他の仲間が楽になる。

「弱い駒が強い駒の働きを止めてる」ことで、すでに戦果としては充分である、と。

自分の力を見極めて、自分にやれることをやる。

戦場で自分の力を見誤ると死ぬことになる。

それは遊真自身が4年前に身をもって経験したことだ。

 

「でも、勝ち目が薄いからって逃げるわけにはいかない。空間操作のトリガー使いが仲間にいるんだ、倒さないかぎりオサムやチカが危険な目に合う可能性がある。時間稼ぎで済ませられる敵じゃない」

 

遊真は父の教えに反し、徹底的に戦うことに決めたのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

三輪はハイレインとの戦闘に有利に動いていた。

彼は鉛弾(レッドバレット)を上手く使いこなし、さらに魚型の弾は細かく分割したシールドで相殺。

そして弧月での斬撃を加える。

(ブラック)トリガー相手にひとりでこれだけ押しているのはさすがA級の万能手(オールラウンダー)といったところだ。

しかし、魚型の弾の攻撃にばかり気を取られ、足元に忍び寄ったクラゲ型の弾には気付かなかい。

 

「!!」

 

三輪は左脚に何かぶつかったような感触を覚えた。

見るとちびレプリカが『盾』印 (シールド)で三輪の脚をクラゲ型の弾から守ったのだ。

 

「ちっ、失せろ。近界民(ネイバー)の手は借りない」

 

〔戦いに集中しろ。おまえのためにやってるわけじゃない。謝意は無用だ〕

 

「豆粒が…」

 

三輪にとって全近界民(ネイバー)は敵だから、レプリカの協力に感謝するどころか邪魔扱いする。

しかし助けられたのは事実であり、今は「敵の敵は味方」として共闘するしかない。

 

そこにミラからハイレインへ通信が入る。

 

[ハイレイン隊長、女の方が来ました]

 

[わかった。(ゲート)を開けてくれ]

 

ハイレインの前に「大窓」が開く。

 

「逃げるのか、近界民(ネイバー)!?」

 

「大窓」に入ろうとするハイレインに叫ぶ三輪。

 

「貴様の相手をしている暇はなくなった。こちらにもこちらの都合があるのでな」

 

「ふざけるな!!」

 

三輪は鉛弾(レッドバレット)を数発撃ち込むが、それが届く前にハイレインは(ゲート)の向こう側へ消えていってしまった。

 

「ちくしょう!!…っ、おい、豆粒。ヤツがどこへ行ったかわかるか?」

 

三輪がちびレプリカに訊く。

 

近界民(ネイバー)の手は借りないのではなかったのか?〕

 

ちびレプリカが嫌味を言う。

しかし続けた。

 

〔あの(ブラック)トリガーはツグミを追って行った。行き先は本部入口だ〕

 

「霧科を…?」

 

〔そうだ。彼女とオサムの行動の成否が未来の分岐点となっているのだ〕

 

「ちっ…」

 

三輪は舌打ちをすると、本部基地入口へと全力で走り出した。

 

 

◆◆◆

 

 

「爺さんはさ、自分より強いやつと戦ったことあんの?」

 

遊真がヴィザに訊く。

 

「はて…有利な相手、不利な相手なら覚えがありますが、真に己より強いか弱いかは勝負決してのち判ることでありましょう」

 

「なるほど、強いやつのセリフだ」

 

遊真は敵の強さを再認識し、さっと後退して姿を消した。

正攻法では太刀打ちできないと判断したのだ。

 

「撤退…ということでもなさそうですな。できれば向こうの決着がつくまでおしゃべりをしておきたかったが…向かって来るならば手は抜きますまい」

 

ヴィザは星の杖(オルガノン)で無差別攻撃を開始した。

警戒区域内であるから人的被害は出ないものの、軌道上にある建物はすべて斬られて瓦礫の山と化す。

遊真に隠れる場所を与えないようにをあぶり出すためだ。

 

〔今の私のサイズでは複合印や多重印を使うには時間がかかる。最初の蹴りで付けた『鎖』印(チェイン)も外された。まともにやり合っては分が悪いぞ〕

 

「わかってる。火力勝負にはつきあわない。…『響』印(エコー)

 

『響』印(エコー)はソナーのように音波を発し、周囲の地形や相手の位置などを把握する印である。

姿を隠しながら敵の死角に移動するなど、奇襲攻撃に適しているといえよう。

遊真は地下道を通ってヴィザの真下から攻撃する。

 

『強』印(ブースト)

 

「下か」

 

ヴィザは足元の遊真に気付き星の杖(オルガノン)を振るう。

 

『射』印(ボルト)

 

予め仕掛けておいた弾を『射』印(ボルト)によって撃ち出した遊真。

しかしそれは星の杖(オルガノン)のブレードによって防がれた。

 

「ふむ…星の杖(オルガノン)に対して足元の死角から攻めてきたのはあなたで8人目ですな。追撃もしっかりしている。なかなか悪くない攻撃でした」

 

「この野郎…」

 

強者の余裕で遊真の戦術を評するヴィザに遊真はムカついた。

再び遊真は星の杖(オルガノン)のブレードの軌道の外へと逃げる。

 

「どんどん近付けなくなるな」

 

〔こちらの動きに対応されている。もう一度策を練ろう。この相手は意識の外から攻めなければ勝てない〕

 

「…いや、たぶんそれでもだめだ」

 

〔…!〕

 

「揺さぶり合いじゃ勝負になんないのはわかった。このままじゃ時間とトリオンを削られるだけだ。勝負をかけるなら、技術とか経験とかとはちがうとこだろ。しかけはシンプルにして正面から最短最速で叩く。読み合いのポイントをしぼって相手を()()()に引き込むんだ」

 

〔勝算はあるのか?〕

 

「ないと思うか?」

 

〔…いや、それを決めるのは私ではない。ユーマ自身だ〕

 

遊真は頑丈なコンクリートの壁に『鎖』印(チェイン)を打ち込み、ヴィザに向かって大きく壁を蹴る。

星の杖(オルガノン)のブレードを避けて真っ直ぐに飛ぶが、自分の足の裏とコンクリートの壁を鎖で繋いでいたものだから、ヴィザのところまで飛ばずに止まってしまう。

続いて 『弾』印(バウンド)で再び勢いをつけて飛ぶが、星の杖(オルガノン)のブレードで両脚を切断されてしまった。

 

〔さすがに読んでいた…いや、備えていたというべきか、ブレードの軌道を一本だけ視界の外に広げていたのか。しかし即死は避けた。攻撃も届く。こちらの狙い通りの展開だ〕

 

しかしヴィザの斬撃で遊真の両脚は膝の部分で切り裂かれてしまう。

 

〔よし〕

 

戦闘体を失ったが遊真は勢いそのままでヴィザめがけて飛んで行く。

ヴィザは遊真が生身で特攻してきたものだと勘違いをして、一瞬だけ反応が鈍った。

さらに星の杖(オルガノン)本体には『錨』印(アンカー)による重石がつけられていたために(ブレード)を振ることができない。

遊真が自身の戦闘体を斬らせたのは、この重石をつけるためだったのだ。

 

『強』印(ブースト)

 

遊真は『強』印(ブースト)で強化した拳をヴィザの腹に叩き込んだ。

しかし遊真の()()はトリオン体でできている。

だから戦闘体を解除しても生身にはならず、トリオン体であるから攻撃は可能である。

ヴィザはそのことを知らなかったために「生身での攻撃ではトリオン体である自分を倒すことはできない」と高を括っていた。

よって遊真の行動に反応できなかったのだ。

 

「…やれやれ、これだから戦いはやめられない」

 

戦闘体を破壊されたヴィザは、戦闘体を失いながらも仲間の危機にかけつける遊真の背中を見ながらハイレインに連絡する。

 

[申し訳ありません…。突破されました。…ご安心を。星の杖(オルガノン)は無事です…。しかしお気を付けください。(ブラック)トリガーの使い手がそちらに向かっています]

 

ミラと合流したハイレインはヴィザが負けたことを知り焦りだした。

 

 

 

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