ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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222話

 

 

早朝5時、まだ日の出前だというのにツグミは稽古着を着て庭で木刀の素振りをしていた。

声を出すと近所迷惑になるということで声は出さないものの、寒い朝のことだから吐く息は真っ白だ。

30分も続けていると身体はポカポカに温まり、額の汗を拭いながら素振りをしていると、忍田がパジャマにスウェットのパーカーを羽織った姿で自室の窓から顔を出した。

 

「おはよう、ツグミ。今朝も精が出るな」

 

「おはようございます、真史叔父さん。こんな時間に起きているなんて、…もしかして素振りの音がうるさかったですか?」

 

「いいや、明るくなってきたので自然と目が覚めただけだ」

 

「じゃあ、少し早いですけど朝ごはんにしましょうか?」

 

「ああ、頼む。きちんと汗を拭って着替えをし、風邪をひかないようにしてからにしてくれ」

 

「はい」

 

ツグミが木刀を袋に入れて自室へと戻って行く後ろ姿を忍田は複雑な気分で見送っていた。

叔父と姪でありながら父と娘であり、さらに職場では上司と部下という関係の忍田とツグミ。

毎朝彼がボーダーに出勤するまでと、帰宅してから眠るまでの短い時間がささやかな父娘の時間である。

その時間もアフトクラトル遠征計画が進むにつれて短くなり、父娘でいる時間よりも上司と部下の時間の方が長くなりつつあった。

以前は慈しんできた娘が大人になって自分の手を離れていくことを「寂しい」と感じていたのだが、最近になって「怖い」と思うようになっていた。

迅が未来視(サイドエフェクト)で視た「ツグミのいない未来」に近いものを()()で感じ取り、それに恐怖しているのだ。

しかしその漠然とした怯えを気のせいであると思い込むことで否定しようとしているものの不安は消えずにいる。

特にアフトクラトル遠征がきっかけとなるような気がして常に気を留めているのだが、彼女の考えが読めずにいるから「何のために何をしようとしているのか」わからず、ゼノンたちとの交流も黙って見ているだけでいいのか悩んでいた。

 

(アフト遠征を万全なものとするためには必要なことなのだろうが、それがあの子の未来を歪めてしまうものになってしまってはいけない。あの子には美琴姉さんたちの分も幸せになってもらわなければならないのだからな)

 

忍田がそんな不安を抱えているなどツグミは露ほども知らず、鼻歌交じりで朝食を作っていた。

 

 

◆◆◆

 

 

忍田を送り出したツグミはここしばらく手抜きをしてしまっていた掃除や3日も溜めてしまった洗濯物を片付けていた。

高校が春休みになったことでインターネット授業もないため、ボーダー活動オンリーの状態となっていたからアフトクラトル遠征に関わる雑務に専念していて、その分家事が疎かになっていたのだった。

とはいえ最低限のことはちゃんとやっていたから、忍田も彼女がゼノンたちの遠征艇へ通って近界(ネイバーフッド)の情報を仕入れてくることに目を瞑ってくれている。

近界民(ネイバー)それもキオンの人間と深く関わってもらいたくないというのが忍田の本心なのだが、彼女の得た情報がアフトクラトル遠征の役に立つとなればダメとは言えない。

トドメとして毎朝出勤する際に玄関まで見送ってくれて、可愛い顔で「いってらっしゃい。お仕事頑張ってください」なんて言われたら忍田はすべてを許してしまうしかないのだ。

ツグミ自身も忍田の気持ちを知らないわけではない。

しかし今の彼女は遠征を成功させることとゼノンたちの帰国のことで頭がいっぱいで、忍田に申し訳ないと思いながらも「今やるべきこと」をやっている。

せめて家にいる時には快適に過ごしてもらおうと部屋をきれいにし、清潔な着替えを用意し、美味しい料理を作って待つのだが、ここ数日間はそれを疎かにしてしまっていた。

そこで城戸から特別休暇をもらったことから、これまで滞っていた部分を全部片付けてしまおうというのだが、手は作業をしていても頭の中はやっぱり遠征のことである。

 

(昨日の試験で判明した参加メンバーの問題点については報告書で城戸さんにも伝わっているはずだから、今後の訓練内容もそれを考慮したわたしの案が採用されると思う。参加する非戦闘員の護身のための訓練にも反対はしないだろうし、逆に銃が使える人間を遠征に参加させるという方がいいんじゃないかな?)

 

戦闘員が出払っている時に遠征艇が襲撃される可能性を想定し、千佳以外の機関員や技術者(エンジニア)たち非戦闘員には簡易トリオン銃などのトリガー使いでなくても使用できる武器の携帯をツグミは提案していた。

大規模侵攻で本部基地内にエネドラが侵入した際には技術者(エンジニア)がトリオン体に換装する機能()()を装備した「護身用トリガー」を使用した。

それで助かった者もいるがこれは逃走できる安全な場所があることが前提で、そこへ逃げるまでの「その場しのぎ」でしかない。

そもそも遠征艇を襲撃されてしまっては逃げ場などどこにもないのだ。

ならば非戦闘員であっても自らと仲間の命を守る()()をすべきであると考えたツグミは彼らにも戦闘訓練を行うべきだというのである。

そして今の千佳ならば人を撃てる()()なので、彼女には特別な訓練内容を考えていた。

 

狙撃手(スナイパー)用トリガーだけでなく炸裂弾(メテオラ)追尾弾(ハウンド)を使うようになったのだから、遠距離だけでなく中距離もカバーできるはず。最低でも自分の身は自分で守ってもらわなきゃね。いつまでもオサムくんやユーマくんを頼ってちゃダメ。…いや、チカちゃん本人よりもオサムくんの極度な過保護っぷりの方が問題か。遠征はB級ランク戦とは別物なんだから、必ずしもオサムくんがチカちゃんを守れるわけじゃないというのに。とにかく彼女のトリオンがあれば特殊工作兵(トラッパー)と協力して威力の高いトラップを設置できるかもしれない。何か良いアイデアが浮かんだら提案してみよう)

 

ツグミという人間は幼い頃からさまざまな経験をし、たくさんの知識を吸収し、常人よりも記憶力が高く頭の回転が早いという能力を持つ上に他人に影響されることのない磐石な価値観を持っている。

常識や一般的な通念に当てはまらない型破りな戦術を思い付いたり、いくつかの情報の欠片を総合してひとつの結論を導いたりするのが得意である。

そして他人の目を気にして小さく収まるようなことはなく、自分自身を信じているからこそ誰もが躊躇するようなことにでも飛び込んで行けるのだ。

もしツグミがアフトクラトル遠征に参加することができたなら、現地で情報を収集して即座に適切な作戦を練ることができるだろうが、城戸が過去に「二度と遠征には参加させない」とした処分を撤回するはずがなく、彼女は遠くで参加した隊員とC級隊員たちの無事を祈ることしかできない。

だから今のうちにできる限りのことをしようというのだ。

常に彼女の頭の片隅には遠征のことがあって、思い付いたことをすぐにメモできるように手帳とペンをポケットに入れているくらいだ。

 

(そうだ! 今日、ゼノン隊長たちのところに行ったらアフトクラトルの城郭都市に潜入した時の方法や情報収集のコツを教えてもらおう。彼らの得意分野だものね。諜報員としてどんな訓練を受けたのかを教えてもらえたら、とっても役に立つと思う。…まあ、教えてくれるかどうか難しいトコだけど、今日のお弁当はテオくんの大好物のトマトソース煮込みハンバーグだからテオくんから上手く聞き出せるかもしれない。それにお土産もたくさんあるから、あとはわたしの腕次第ね)

 

ツグミはほくそ笑み、続いてキオン諜報員3人組の()()方法を考えるのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

ツグミの持って来た弁当の容器がいつもと違うことで怪訝そうな顔をしているキオンの3人組。

普段は漆塗りの重箱におにぎりとおかずを詰めてきて、それを各自が自分の皿に取り分けて食べるといったパターンなのだが、この日に限ってひとり1個の弁当箱になっているからだ。

それも弁当屋などで売っているような簡易なプラ製の器であるから、勘の良いリヌスがすぐに反応した。

 

「ツグミ、これには何か仕掛けがありますね?」

 

リヌスに言われ、ツグミはイタズラっぽい笑顔で答える。

 

「はい。この弁当箱には特別な仕掛けがあります。きっとビックリしますよ。でも何でそう思ったんですか?」

 

するとリヌスも意味深な笑みを浮かべて言った。

 

「あなたの性格や行動パターンが読めるようになってきましたからね。あなたが机の上に並べている時の表情を見てすぐに気付きました。きっとこれには何か仕掛けがあって、私たちを驚かそうとしているのだと」

 

「顔に出ていました? まあ、みなさん、座ってください。そして容器の横から出ている紐を引っ張ってください」

 

ツグミが容器の底に近い場所から出ている紐を引っ張り、ゼノンたちも彼女の真似をする。

すると2分ほどすると容器の隙間から蒸気が吹き出してきて、中身のハンバーグの匂いが漏れてくるとテオは目を丸くした。

 

「何、これ!? 湯気が出てきたぞ!」

 

「うん、加熱しているからね。熱いから火傷しないように触らずにいて」

 

興味津々で容器を見つめるのはテオだけでなく、ゼノンとリヌスも黙ってはいるがツグミにいろいろ訊きたそうである。

弁当が温まるまでの間にツグミはお茶を淹れるなど準備をしているが、ゼノンたちの視線はずっと弁当箱に釘付けだ。

 

「これは見ていただいたように冷たいお弁当を温めて美味しく食べるための仕掛けがしてある容器です。とても簡単な化学反応を利用したもので、温まるまでにちょっと時間がかかりますので、その間に容器を分解して中をお見せしますね」

 

ツグミたちにとってはありふれたごく普通の技術や知識であっても、近界民(ネイバー)にとっては未知のものだというものはいくつもある。

トリオンやトリガーに関しては近界民(ネイバー)に一日の長があるとはいえ、その他の面ではこちら側の世界の方が先を行っているのが事実だ。

ツグミは未使用の容器を紙袋から取り出すと、それをトレイと発熱ユニットといった部品に分解する。

 

「この発熱ユニットをご覧ください。この中には生石灰と水の入った袋がセットされていて、紐を引っ張ることで袋が破れて生石灰と水が化学反応を起こして消石灰になると同時に発熱するんです。この化学反応は玄界(ミデン)では誰もが学校で習う化学の初歩で、この発熱反応を利用した商品はいくつも市場に出回っています。なおこの容器は一般には販売されておらず業務用のものですが、唐沢部長のツテを利用して業者から安く分けてもらえますので、キオンへのお土産にちょうど良いと思いますよ」

 

ツグミの言うようにこれは「酸化カルシウム+水→水酸化カルシウム+熱エネルギー」という中学で習う化学反応である。

近界(ネイバーフッド)にも学校はあるが、そこは貴族の子供が通う幼年学校だったり、庶民階級でも優秀な子供が技術者(エンジニア)やトリガー使いになるための養成所のようなものだから、普通の子供が勉強できる機会はない。

いや、トリオンとトリガーに関するもの以外は価値が低いもしくは不要とされている世界だから、技術者(エンジニア)やトリガー使いに()()()()大多数の人間にとっては学問は特に重要ではないのだ。

こちら側の世界と比べて進んでいるものはかなり進んでいるのだが、遅れているものは極端に遅れていて数百年前のレベルのものも多い。

だから巨大なトリオン兵を造ることができる近界民(ネイバー)でも、冷たい弁当を温める生石灰を使った発熱システムに驚愕してしまうわけだ。

よって逆にこちら側のごく当たり前の技術を近界(ネイバーフッド)に持ち込めば、日本が明治維新の時に大きく変わったように新たな一歩を踏み出すかもしれない、とツグミは考えているのだ。

特にトリオンに頼らない技術革新によってトリオンを巡る戦争がなくなるのであれば、ボーダーが防衛機関としてでなく近界(ネイバーフッド)のトリオン技術を医療や防災といった「市民を守る」ために転用する研究機関にできるかもしれない。

現実を自分の目で見て経験している人間ならそれが絵空事だと言ってツグミの「夢」を一蹴するだろうが、他人の()()に良い意味で耳を傾けない彼女のことである、自分が納得するまで努力を続けることだろう。

たとえそれが自らの未来に暗い影を落とすことになろうとも。

 

 

 

 

本日のランチメニューはトマトソース煮込みハンバーグに付け合せのニンジンのグラッセと茹でブロッコリー。

テオの大好物であったから、情報を引き出すのにそう手間はかからなかった。

 

「テオくんたちと街へ出かける時に使っている変身トリガーのことだけど、あれってトリオン反応を消す装置が付いているからトリガー使いだとはバレないのよね?」

 

「うん、そうだよ。ボーダーにもバッグワームっていう似たようなトリガーがあるらしいじゃん」

 

「そうなんだけど、バッグワームは起動するとフード付きのマントを羽織ったような状態になるのよ。なんでキオンの変身トリガーでは見た目が普通の姿でトリオン反応を消せるの?」

 

「はあ? 別に難しいことじゃないぞ。ボーダーのバッグワームのマントをオレたちは普通の服と同じものにしているだけ。換装する時に身に付けるものって別にマントの形じゃなくても良いんじゃねーの?」

 

「ああ…そうか! 当たり前のことすぎて全然気付かなかった!」

 

ツグミは自分がボーダーでも戦いに慣れ過ぎていることを反省した。

彼女を含めた防衛隊員がバッグワームを使用するのは実戦ではなく主にランク戦である。

仮想空間に転送された隊員、特に狙撃手(スナイパー)が自分の位置を敵部隊(チーム)に見付からないように使用するのであり、フードが付いたマントの形をしているのも戦闘フィールドの状況に応じて景色の中に紛れるためである。

雪のマップであれば白、夜間のマップなら黒というように色を変えるのも、視覚によって発見されるのを少しでも回避するための迷彩なのだ。

ならばテオの言うようにマントの形をしている必要はない。

戦闘体を覆うことでトリオン反応を消すという目的を果たすことができるのなら、普通の服の形でも良いのだ。

「木を隠すなら森」という言葉があるように物を隠すには同種の物の群がりの中に紛れ込ませる方法が最適であり、現地の人間に似せた格好をして不自然に思われない行動をしているうちはハイレインたちに発見されるおそれは低くなるというものだ。

 

「アフトクラトルの一般庶民の服と同じデザインのものにすれば、街の中に潜入する時に見た目を誤魔化せる。戦闘体の顔も肌や目の色とか骨格とかをそれっぽいものにすればバレにくくなるはず。…あ、でも遠征艇の中にある装置を使わないと換装できないってことだけど、それは何で?」

 

「それは潜入する現地の人間のデータを入力する必要があるからさ。オレたちはいろんな国に行くだろ? その度にデータを書き換えて使うから、遠征艇にその機械が置いてあるんだよ。おまけにこの変身トリガーはすっごく古いタイプのヤツで、ひとつのトリガーホルダーにひとつのトリガーしかセットできないから、別のトリガーを使う時にはここに戻って来て換装を解いてからでないとダメなんだ。戦闘用のトリガーは人手やトリオンや時間をかけて新しいものを開発するくせに、諜報員のためのトリガーはいっつも後回しなんだよ」

 

「そうなんだ…」

 

「そう。オレたちみたいな諜報員は戦闘員から見ると陰でコソコソ動く臆病者なんだって。オレたちが苦労して敵の情報を集めて来て、そのおかげで戦争が楽になるのにさ」

 

不満げに口を尖らせて言うテオ。

ツグミは同意という意味で大きく頷いた。

 

「そうよね~。情報がなければどうやって作戦を立てるのよ、ってね。敵の武装や兵力、配置といったものがわからなかったら無策で突っ込んでいくしかないのに」

 

「だろ? やっぱツグミならわかってくれると思ったんだ」

 

テオのはしゃぐ様子を見ながらも、ツグミの頭の中はトリガーのことでいっぱいであった。

 

(バッグワームのデータをちょっと改造すればリスクを軽減しての潜入調査ができるようになるし、万が一の時にはすぐに戦闘用のトリガーも使えるようになる。これはなかなかの収穫だわ。あとは現地の人間に同化できるかどうかだから、もっとアフトクラトルのことを知らなければいけない。できることならヒュースの口から聞きたいけど、あいつはなかなか口を割らないだろうな。でもやり方はある。折を見て交渉してみよう)

 

ツグミとテオの会話を少し離れた場所でゼノンとリヌスが聞いていた。

テオがキオンのトリガーについてペラペラ喋っていても制止されないのはこのふたりも認めているということ。

少しでもツグミの役に立つならキオンの情報の漏洩も仕方がないと考えているのだ。

もっとも古いトリガーの仕組みと軍に対する愚痴程度では祖国への裏切りとはいえないのだから良しということだろう。

 

「しかしまだ重要なことを教えていないですよね? どうしますか?」

 

リヌスがゼノンに訊く。

 

「教えておかなければ彼女の仲間たちが危険な目に遭うだけでなく、そのような状況にしてしまった彼女の責任が問われることになるだろう。いや、そんなことにならずとも本人が自分自身を責め苛むことになる。ならば俺の責任で彼女にすべてを話すことにする」

 

ゼノンはそう言うとツグミに声をかけた。

 

「ツグミ、大事な話がある。ステルストリガーの件でテオが言っていない重要な問題点があるんだ」

 

「問題点って何ですか!?」

 

真剣な目のツグミに見つめられ、ゼノンは少々たじろぎながら言う。

 

「実はな…ボーダーのトリガーで使われているバッグワームとかいうトリガーのステルスは近界(ネイバーフッド)の国々、少なくともアフトクラトルとその従属国のレーダーには効果がないと思った方がいい」

 

「うそ…」

 

信じられないといった顔のツグミだが、ゼノンがここで嘘をつくはずもなく信じるしかない。

 

「それはどういうことですか? だってアフトクラトルと戦った時には特に問題はなかったはずですけど」

 

「ああ、その時には効果はあっただろう。しかし近界民(ネイバー)と一度でも戦ってしまったら、トリガーの情報はすべて敵に筒抜けになってしまったと考えなければいけない」

 

「そんな…」

 

ツグミはショックを受けるが、ゼノンの言葉の意味に心当たりがあった。

ガロプラが本部基地を襲撃した時のことだ。

遠征艇の格納庫前で太刀川たちが戦ったガトリンやラタリコフ、那須隊が捕えたウェン・ソー、三輪隊が捕えたコスケロはボーダー隊員たちの目の前で緊急脱出(ベイルアウト)をして逃走してしまった。

それはアフトクラトルからの情報を元にアフトクラトルかガロプラのどちらかが緊急脱出(ベイルアウト)のシステムを開発・導入したからである。

ならばバッグワームや鉛弾(レッドバレット)など使用されたトリガーの情報が敵に渡り、その対策を講じているのはほぼ間違いない。

バッグワームの対策がされていたら、いくら見た目を現地の人間と同じようにしてもトリオン体の反応で()()()()()トリガー使いだとバレてしまう。

もちろんステルスの効果があれば取り越し苦労ということになるが「バッグワームは効果がない」という可能性を知ってしまったらそれを前提として何らかの対策をせねばならない。

 

「そこでだ…俺たちは技術協力を申し出たいと思う」

 

「え?」

 

ゼノンの言葉に首を傾げるツグミ。

そんな彼女にゼノンは続けて言う。

 

「俺たちの使っている変身トリガーだが、これは戦闘用ではないからアフトクラトルの奴らの前で使ったことがないわけで、奴らにとっては未知のトリガーとなるから、このトリガーのシステムを使用すればボーダーのステルストリガーを使うよりは安全性が高い。少し待っていたまえ」

 

ゼノンはそう言って自分のトリガーをツグミに手渡した。

 

「これをきみに貸そう。本部の技術者(エンジニア)に解析してもらい、ボーダーのトリガーに役立ててもらえたら俺は本望だ」

 

「いいんですか?」

 

「もちろんだとも。どうせ戦闘用のトリガーは散々調べられたのだし、それにこれの解析が済むまでは俺たちは玄界(ミデン)に居残る理由ができる。俺たちもサクラの花が見てみたいのだよ。だから気にしなくていい」

 

あと10日もすれば桜の花が咲く。

ツグミが彼らに桜の花を見せたいと言っていて、遠征艇のトリオンが溜まった以上は滞在を延長するために何らかの理由が必要だと考えていたものだから、ゼノンはトリガーの解析という()()()を作ったわけだ。

 

「それなら私のトリガーの方がいいでしょう」

 

リヌスはそう言って自分のトリガーをツグミに手渡して、ゼノンのトリガーと交換した。

 

「私はエウクラートンの人間ですから、こうして見た目が玄界(ミデン)の人間に良く似ています。変身トリガーなしでも街中で目立ちません。それにトリガーの解析には使用者本人の生体データも必要となります。今日は私の外出日ですから、彼女と一緒に本部基地へと行くにも都合が良いです」

 

「リヌスさんがそうおっしゃるのならこちらもすごくありがたいです。ですがせっかくの街歩きの時間を潰してしまうことになりますよ」

 

ツグミが申し訳なさそうな顔で言うと、リヌスは笑顔で答えた。

 

「その分は帰国の前にちゃんと穴埋めしてもらいますから。私はどうしてもあなたと一緒に行きたい場所があるんです」

 

「わかりました。ではそういうことでお願いします」

 

近界(ネイバーフッド)やトリガーの情報ならどんなものであっても欲しいのだから、こうして積極的に協力してくれるのはツグミにとって非常にありがたい。

少しでもアフトクラトルへの遠征の成功の可能性が高まるのであれば、最優先で行動すべきである。

 

「それでは今からすぐにまいりましょう。…っと、その前に忍田本部長に確認を取りますね」

 

ツグミは急いで忍田に事情を説明し、リヌスの入館許可を得るとすぐに出発した。

 

 

 

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