ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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225話

 

 

夕食時、忍田とツグミは父娘としての会話をしていた。

 

「今日の小鉢は菜の花の辛子味噌和えか。春らしくて、いいな」

 

忍田が箸でつまみながら言う。

 

「実はその菜の花は市民の方から貰ったんですよ。お孫さんがC級隊員で、その彼がボーダーの話を良くするんですって。その時にB級ランク戦の話をして、ひとり部隊(ワン・マン・アーミー)で戦うすごく強い隊員がいるってわたしの顔写真を見せたみたいなんです。ボーダーの正隊員ってネットで公開されていますからね、きっとその写真だと思います。それでそのお婆さんがわたしの顔を知っていて、通りがかった時に声をかけられて少し立ち話をしたんです。そうしたらすごい偶然なんですけど、そのC級隊員というのがガロプラに拉致された武川くんだったんですよ。もちろん彼はあの時のことを覚えてはいませんから口外はしていませんけどね。彼は自宅の蓮乃部から週に1回のペースで様子を見に来てくれる優しい少年なんですって。畑仕事も手伝ってくれたりして。彼の記憶を消してボーダーを続けさせたのは正解だったと思います。彼がボーダーに入隊したのはそのお婆さんのことが心配だからという理由だったそうですから」

 

「そうだったのか…。あの事件からまだ2週間も経っていないのに、その間にいろいろなことがありすぎてずっと昔のことのように思えるよ」

 

「ガロプラの人たちがハイレインたちに対して上手く立ち回ってくれるといいんですけど。あれだけのものを用意したんですから上手く嘘をついてくれさせすればバレないはずです。彼らもボーダーと手を組んでハイレインたちを騙そうとしているんですから下手は打たないと思いますが、こればかりは神様にでもお願いするしかないですね」

 

ガロプラとボーダーが一時的とはいえ利害が一致して手を結んだのは偶然である。

よってこの両者が協力関係にあるとはさすがのハイレインでも想像できるはずもなく、上手くいけばガロプラ側は任務を全うしたということで祖国に堂々と帰還できるし、ボーダーは遠征の成功の確率が格段に上がるというもの。

結果を確認することができないのが残念だが、ツグミは手応えを感じていた。

 

近界民(ネイバー)だって人の子。自分たちとは無関係な戦争のせいでやりたくもない任務をするよりも早く家に帰って家族と一緒に団欒を楽しみたいもの。絶対にこちらの指示に従ってくれているはずよ)

 

ツグミたちが知る由もないが、ガロプラのガトリン隊は近界(ネイバーフッド)へ戻ったその足でアフトクラトルへ直行し、ハイレインたちに証拠の品を提出していた。

そして技術者(エンジニア)が解析した結果、それが玄界(ミデン)の技術によって造られた遠征艇の破片であることを確認した。

さらにその破片の切り口を調べ、ガトリンの処刑者(バシリッサ)とラタリコフの踊り手(デスピニス)によって斬られたものであるとの結果を出したのだった。

こうした物的証拠もあるものだからハイレインもガトリンの報告を信じ、ガトリン隊のメンバーは全員無事にガロプラへと帰国した。

ハイレインは二度もツグミによって一杯食わされたわけだが、それでおしまいではない。

ツグミはさらにその先を考えており、ハイレインも一筋縄ではいかない策士であるから、このふたりの頭脳戦はまだ続くことになろう。

 

「そういえば城戸さんがこぼしていたぞ、せっかく特別休暇を与えたのに休みの日までトリガーや遠征のことを考えて本部基地までやって来るなんて鬼怒田さんみたいな仕事中毒(ワーカホリック)にならなければいいが、と」

 

忍田自身も城戸と同じことを考えていたが、そのことを言い出す前にツグミによって制止させられた。

 

「だって新しいトリガーを作ることになるかもしれないんです。1分1秒でも早く、って思うじゃないですか。それにリヌスさんが自分の時間を割いてまで協力してくれると言うんですから断るのも悪いですよ。まあ、彼に対してはちゃんとお礼を兼ねたお詫びをする予定ですから」

 

「お礼?」

 

「ええ。彼だけでなくゼノン隊長とテオくんも一緒にミカドファミリーパークへ遊びに行くことにしました。キオンには…いえ近界(ネイバーフッド)では庶民の娯楽が乏しいそうですから、参考になればと思うんです。もちろんローラーコースターや観覧車などの大規模な遊具は無理ですけど、小動物に触れることのできる『ふれあい農場(ファーム)』なんてトリオンを使わずに済むアトラクションですよ。近界民(ネイバー)にだってモフモフの動物が大好きな人がいるでしょうから、そういう人に喜ばれるはずです、きっと」

 

自信満々で言うツグミの表情が年相応の少女のものだったので、忍田はつい微笑んでしまった。

 

(ボーダーや遠征のことばかり考えているようだが、中身は普通の少女のままだ。少しだけだが安心したよ)

 

忍田は菜の花の小鉢に箸を伸ばし、ほろ苦い早春の味覚を存分に味わった。

 

 

◆◆◆

 

 

アフトクラトルへの遠征についてツグミは大きく分けてふたつのことを考えている。

ひとつ目は参加する隊員たちの強化で、それは単にトリガーの扱いや隊員同士の連携といったものだけではなく、近界(ネイバーフッド)で戦う為に必要な知識や精神面での強さを身に付けさせることが必須であるのは試験結果から明らかだ。

そしてふたつ目は敵、すなわちベルティストン家の勢力の弱体化である。

アフトクラトルの四大領主のひとつであるベルティストン家をアウェイで敵に回すのだから、三門市防衛戦のようなわけにはいかないのは誰もが承知している。

しかしわかっていても具体的にどうすれば良いのか見当が付かず、参加する隊員たちや引率者の忍田は頭を悩ませていた。

ボーダーの戦いは基本的に三門市に来襲する近界民(ネイバー) ── それも大部分がトリオン兵 ── で、対人戦闘の訓練はしていても敵地で戦うことを想定していない。

その状態でいきなり近界(ネイバーフッド)で有数の軍事大国のトリガー使いと戦うのだ。

キオンですら戦争となればお互いに大きな被害が及ぶとわかっていて手出ししないようにしているくらいで、そんな相手に近界(ネイバーフッド)での戦闘に慣れていないボーダー隊員を送り込むのは自殺行為と言っても過言ではない。

だがボーダー側が圧倒的に不利な状況のように思えるが、勝ち目はまだある。

ただしそれは敵がこれ以上強くならないのが前提であり、さらにボーダーが手筋を間違わなければという難しい条件があってのことだ。

そうなると敵の弱体化を考えるのは当然で、ボーダー側に使える()があるとなれば利用しない手はない。

今回の遠征でボーダーが戦うのはベルティストン家一党で、アフトクラトルという国全体を敵に回すのではない。

ベルティストン家は四大領主の一端を担う存在であるが、他の3つの貴族たちとの関係性は非常に悪い。

そもそも4つの貴族がアフトクラトルの覇権を争っている状況で、誰もがライバルとなる自分以外の貴族を出し抜いてやろうと躍起になっている。

その中でベルティストン家が頭ひとつ抜けているということで、他の貴族たちは鵜の目鷹の目でライバルの動向を監視しているのだ。

よってベルティストン家を弱体化、もしくは排除できれば都合が良いと考えているのは明らかで、そういった連中を味方に付ければC級隊員奪還もやりやすくなるなるだけでなく、邪魔をさせないようにもできるはず。

遠征の前に前もってライバルとなる貴族たちと内通して共同戦線でベルティストン家の本拠地を攻めるという手もありうるのだ。

もっともそれが非常に難しいことであることはツグミも重々承知しており、一歩間違えればベルティストン家一党だけでなくアフトクラトル全体を敵に回してしまうことにもなりかねない綱渡りのような策であるから、彼女は非常に慎重になっている。

そしてひとつ気掛かりなことがあった。

 

(この遠征でヒュースの存在はトランプでいうジョーカーなのよね…。切り札にもなるけど、その札を持っていることによって負けが決まるゲームもある。扱いに苦しむ存在だけど彼だって言葉が通じる人間だし、自分の信念に従って行動しているという点は立派だと思う。問題は彼のご主人であるエリンという人がどういう人物かということ。それによってヒュースの行動が決まるもの。…まずはエネドラッドから話を聞くのがいいかも。でもわたしが訊いてアイツが素直に口を割るかな? う~ん…難しいなぁ…)

 

クリア条件は難しいものの不可能なものではない。

ツグミは努力をせずに諦めるのを嫌うし、誰よりも頭を使って戦うタイプであるからきっとエネドラッドから必要な情報を引き出すことだろう。

なにしろ「難しい」などと言いながらも彼女はすでにエネドラッド攻略法を考えていてニヤニヤしているのだから。

 

(将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、よね)

 

 

◆◆◆

 

 

キオンの遠征艇の中、リヌスは昼間の出来事についてゼノンとテオに報告をしていた。

アフトクラトルへの対策が進むことでツグミが喜んでいたという良い報告をすることができたのだが、同時に彼女が発した言葉を伝えるとゼノンの表情がにわかに曇る。

「わたしは自分とその周囲の親しい人たち()()幸せなら良い。他人によってその幸せが奪われるのは絶対に許せない」というツグミの言葉でゼノンは自分だけが抱えている秘密の重さに耐えられなくなってしまったのだ。

その様子の変化にいち早く気付いたのはテオで、ゼノンに詰め寄った。

 

「隊長、オレたちに隠しごとをしてるだろ? 隠しているのはオレやリヌスに対する思いやりなんだろうけど、オレたちに秘密にしていることで余計に重荷になっているんじゃないのか? だったら全部話してくれよ。隊長の背負っているものをオレたちに分けてくれたとしてあまり効果はないかもしれないけど、オレは隊長のそんな顔を見たくない。リヌスだって同意見だろ?」

 

「はい。私たちはゼノン隊長を中心とした部隊(チーム)であり、家族でもあるんです。家族だからといってすべてを話して情報共有しなければならないということはありませんが、隊長がそんな顔をするような秘密を抱えているとわかった以上は話してもらいたいです」

 

ふたりにそう言われてしまってはゼノンも秘密にし続けることができず、9年前の事件のことを告白した。

その内容はリヌスとテオも絶句するもので、自分たちが無関係であると理解はしていても罪の意識から逃れることはできない。

 

「ツグミの両親を殺したのがキオンの人間だったなんて…。それをあいつは全然知らずにいて、オレたちのために一所懸命になってくれているんだよな? こんなことってアリかよ…。畜生!」

 

テオは目の前のテーブルを思い切り強く拳で殴りつけた。

一方、リヌスは肩を震わせて今にも涙がこぼれ落ちそうになっている。

 

「秘密を知ってしまった以上黙っているのは彼女に対して嘘をつき続けることと同義ですが、だからといって正直に告白すれば彼女の心を壊してしまうことにもなりかねない。だから隊長は私たちにも内緒にしていたんですね?」

 

「ああ…」

 

「ですが話してもらって良かったです。…ただこれから彼女にどんな顔をして会えば良いのかわかりません。私は少しの間彼女に会うことをやめます」

 

「オレも。ツグミの弁当が食べられなくなるのはヤダけど、あいつの笑顔を見たらオレはきっと泣きたくなる気がする。だったら弁当は我慢するよ」

 

テオがツグミの弁当を我慢するというくらいであるから、ツグミの両親の死の真実がよほど堪えたに違いない。

 

「ではツグミに連絡をして、しばらくはこちらのことを心配せずにボーダーのことに専念してもらうよう頼んでおく」

 

ゼノンはよろよろと立ち上がると引き出しの中に入れてあった紙片を取り出した。

それには緊急連絡用にとツグミの携帯電話の番号が書かれている。

彼らは携帯電話を持っていないので近所のコンビニへ行ってかけるしかないのだが、今まで一度も使ったことはなかった。

連絡しなければまた明日の昼には彼女が笑顔で弁当を持って来てしまうのだから、早いうちに電話をしなければならないのだ。

リヌスが行くと申し出たが、ゼノンは自分の責任だということで自らやるべきだと言って遠征艇を出て行った。

 

 

◆◆◆

 

 

ゼノンからの突然の連絡で少々面食らってしまったツグミだが、真相を知らないものだから気軽に考えていた。

 

(まあ、彼らにもわたしに内緒でやりたいこともあるわよね。もう彼らは捕虜ではないんだし監視も付けなくていいほど信用されているわけで、自由に行動する権利はある。もしかしたらわたしに気を使ってくれたのかな? 毎日お弁当を作って持って行くのはわたしにとって負担じゃないけど、そう思われても仕方がないもんね。…じゃあ、せっかく時間を貰ったんだから有意義に使わせてもらおうっと)

 

ツグミは机の上に広げた模造紙の中央下部に「ボーダー」、左上に「アフトクラトル」、右上に「キオン」、アフトクラトルの下に「ガロプラ」の枠を作る。

さらにアフトクラトルの枠の中に「ベルティストン家」と「四大領主のうち他の3領主」のエリアを作り、その間に矢印と「対立関係」と書き加えた。

そしてボーダーの枠の隅に小さく「ヒュース」と書き、ベルティストン家の中に同様に「エリン」と書いて、両者の間に矢印と「主従関係」と記入する。

そうやってボーダーとアフトクラトルとキオンの現在の相関図を次々に書き加えていくとツグミの頭の中にあるものが具体的に、それも誰にでもひと目でわかるように視覚化されていった。

 

(口で説明するよりもこうやって図で見せることでわかりやすくなる。明後日は午後から第1回目の遠征会議が行われるから、午前中に忍田本部長に面会して話をしておいた方がいいかもね。だからこの相関図は早めに仕上げておかなきゃ)

 

ツグミの仕事量を知っている者なら彼女がいつ睡眠を取っているのか不思議に思うだろう。

また彼女にだけ1日が30時間あるのではないかと疑いたくもなるはずだ。

しかし彼女は特別な人間ではない。

普通の人間と同じように1日は24時間だが、その時間の使い方が非常に効率良いというだけ。

家事にしても同時進行できるものはすべて同じタイミングで行って時間を節約している。

「1日の行動を朝のうちに決めておき、タイムスケジュールを作ってそれに従っているからそう難しいことではない」とツグミは言うが、それを普通にできる彼女が特別なだけなのだが本人はまったく気付いていない。

 

(ボーダーとキオンの関係性はまだ不安定な部分が多いから、ここをハッキリさせることで次の段階に進めるんだけど…()()をいつにするかが問題。真史叔父さんは絶対にダメって言うだろうけど、ジンさんの後押しがあれば何とかなると思う。…ただそのジンさんが味方になってくれるかどうかが不確定要素。ボーダーのことを優先するなら味方になってくれるだろうけど、わたしがひとりで行動すると知れば許してくれそうにないものね)

 

そこでツグミは気が付いた。

 

(前にはわたしがハイレインとの取引のことを考えただけでジンさんにバレてしまったのに、なんでこのことには何も言ってこないんだろ? 言わないってことは視えていないってことかな? もしくはジンさん的には賛成ってことなのかも。だったら安心して根回しをするんだけど…)

 

 

ツグミが不安になっていた頃、迅には彼女の未来が視えていた。

何をどのようにするのかもわかっていて、それで何も言わないのは彼女の行動がボーダーのためになることと、彼女の身の上に危険が及ぶことがないからである。

個人的には是が非でも止めたいのだが、言ったところでツグミが諦めるはずもなく、それがきっかけで無茶な行動をして悪い未来に続くフラグを立ててしまうよりはマシだと考えているのだ。

賛成ではないが反対もできないという板挟みの状況で悩んでいる迅だが、そのことをツグミが知る由もない。

 

 

◆◆◆

 

 

修と千佳は非常に重要なことを失念していた。

それは親に「近界(ネイバーフッド)への遠征に参加する」ことを伝えていなかったというもの。

選抜試験後に忍田から渡された「承諾書」を見て途方に暮れていたふたりはその承諾書に保護者のサインをもらうためにと実家へと向かっていた。

 

「修くん、わたし自信ない…」

 

不安そうな千佳に修は言う。

 

「ぼくだって自信はないけど、未成年の隊員は承諾書に保護者のサインを貰わなければ遠征に参加できないというんだから仕方がないさ」

 

「うん…」

 

「まだ時間はある。提出期限は22日、それまでに何とかして許しをもらおう」

 

修の玉狛支部への転属と千佳のボーダー入隊の際はツグミが味方になってくれたおかげで無事に希望が通った。

しかし今回は彼女のサポートは望めない。

それは修と千佳自身が招いたことであり、さらに林藤やレイジといった玉狛支部のメンバーも今回は手を貸さないことにしていて、すべて自分の力で解決しなければならないことになっている。

なぜならツグミが「他人の親切や援助に慣れきってしまっている彼らに対し、さらに手助けをするなんて甘やかしが通ると思っているんですか?」と先に釘を刺されてしまっているからだ。

たしかに何でもかんでも面倒を見て甘やかし放題であったことで、玉狛第2は遠征に参加するだけの実力がないというのにB級2位になって浮かれていたのは事実である。

さらに選抜試験での結果で、このままでは死にに行くだけだという確証を得たものだから、ツグミが「親の説得くらいは本人たちだけでやらせよう」と提案して、それに皆が従うことになったのだ。

 

修は千佳を家の前まで送り届けると、彼女が家の中に入るのを見届けてから再び歩き出した。

 

(入隊試験で落ちたぼくを迅さんが助けてくれて、そのおかげでぼくは入隊できた。B級に昇格したのは実力じゃなくてラッド事件での空閑の功績のおこぼれだし、大規模侵攻で死なずに済んだのはレプリカのおかげ。B級ランク戦で勝ち抜いてこられたのだって空閑の近界(ネイバーフッド)での実戦経験によるものと千佳のトリオン能力が大きい。ぼくはいったい何をしてきたんだ…? 勝つために隊長としての努力はしてきたつもりだけど、それも烏丸先輩が本部のA級隊員に声をかけてくれたおかげだし、自分で積極的に動いて何かをしたのではなく、全部誰かの厚意によって助けられてきたことばかりだ。前に木虎が『親切にされることに慣れ切っちゃったの?』とぼくを責めるようなことを言ったけど、まさにそのとおりだった。その時のぼくは木虎に目標を訊かれて『遠征部隊に入ること』と答えて頭を下げたことでスパイダーの使い方を教わった。だけどそれで遠征部隊に入る資格は得たけど、その先のことを考えていなかったぼくはまた立ち止まってしまった。そんなことの繰り返しだ)

 

身の丈に合わないことをしようとしても無理で、周囲の厚意によって下駄を履かせてもらって目先の問題をクリアしたは良いが実力を伴っていないのは事実で、さらにそこをその場しのぎの技で誤魔化してきたからいざという時に何の役にも立たない。

木虎は修にスパイダーの使い方を教えたのはまさに「遠征部隊に入ること=B級上位2位までに入ること」をクリアするためで、彼女はきちんと責任を果たした。

もしあの時に「近界民(ネイバー)と戦って身を守る手段」を教えてもらいたいと言えば、スパイダーではない他の武器(トリガー)の使い方をレクチャーしたかもしれない。

修の頭の中には「B級上位2位までに入ること」しかなかったから、スパイダーを使えるようになり自分が強くなった気になっていた。

いや、2位までに入れば遠征部隊選抜試験を受けることができて、もし不合格でも誰かがまた救いの手を伸ばしてくれると楽観していたのではないかと問われたら「違う、そんなことはない」と修は言い切ることができないに決まっている。

そこに親の承諾が必要となったわけで、こればかりはもう誰の手も借りることはできなくて、自分自身の力で解決するしかない。

 

(自分では誰かを頼っているつもりはなかったし、自分の力で解決してきたつもりだった。でも振り返ってみたらどれもこれも先輩や仲間たちの厚意によるもので、ぼく自身のやってきたことなんて誰もがやってきたことで、努力なんて呼べるものじゃない。それも先輩たちに教えられたことを受動的にやってきただけだ。そんなぼくに何ができるというんだ…?)

 

弱腰のまま、修は実家の敷居を跨いだのだった。

 

 

 

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