ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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227話

 

 

アフトクラトル遠征についてツグミがいくつもの提案書を提出して次々に採用されていくものだから、忍田は正式に彼女を今回の遠征計画のアドバイザーとして任命することに決めた。

遠征に参加することはできないが、参加する隊員や職員たちの訓練内容を考案したり、新しいトリガーに関する情報と技術の提供といったサポート面で彼女の力を欠かすことができないのは明白である。

そこでもっと自由に活動できるようにと権限を与え、より一層働いてもらおうという()()()魂胆が見え見えなのだが、ツグミ自身も城戸の思惑を利用しているのだからこれも「Win-Win」の関係ともいえよう。

しかし任命した忍田自身はツグミの身体のことが心配なものだから常に自分の目の届く場所に置くことにし、夜は11時までに就寝することを義務付けた。

ツグミは毎朝5時に起床して朝稽古することから最低でも6時間の睡眠時間を確保ために11時と決め、彼女も忍田の気持ちを大切にするために快諾したのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

ツグミの作戦室のホワイトボードに貼られた付箋紙は何枚か剥がされたもののほぼ同じ数の新しい付箋紙が貼られるものだから一向に減る気配はない。

そして今朝も新しい付箋紙が貼られた。

そこには「ジョーカーを懐柔する方法」と書かれているのだが、そのジョーカーとはヒュースのことである。

この部屋に他人が入って来た時にヒュースの名前が書かれているとマズイので()()としてジョーカーの名称を使ったのだ。

 

 

ツグミが遠征に参加する職員の訓練スケジュールについて考えていると、そこに忍田がやって来た。

 

「ツグミ、特別訓練のことでちょっと訊きたいことがある。今、いいか?」

 

「はい、もちろんです。それでどんな内容ですか?」

 

すると忍田は書類を取り出してツグミに見せながら言う。

 

「遠征メンバーの中でオペレーターが国近、月見、宇佐美の3人だけにしたのはわかる。遠征艇の定員の関係で参加するすべての部隊(チーム)のオペレーターを連れて行けないのだから仕方がない。しかしその3人に簡易トリオン銃の訓練をさせるらしいが、そこまでする必要はあるのか? 技術者(エンジニア)枠で寺島と冬島のふたりが参加するのだし、寺島は現役を離れたとはいえ凄腕の攻撃手(アタッカー)だ。さらに戦闘員なら雨取がいるのだから、狙撃の訓練よりも他にやるべきことがあるのではないか?」

 

「まあ、本部長が何てことを言うんでしょうか? 参加者全員が自分の身は自分で守れるようになってもらわなければ困ります。同伴する医師(ドクター)にも銃の訓練はしてもらいますよ」

 

「そこまでしなくても…」

 

忍田は苦い顔をするが、ツグミは平然と答えた。

 

「わかりました。ではわたしは遠征艇の居残り組に関しては一切関与せず、本隊の方の訓練だけに専念します。その代わり居残り組についての全責任は引率者である忍田本部長に…ということで良いですね?」

 

「え?」

 

「寺島さんには不安はありませんが、雨取隊員については不安要素しかありません。いくらトリオン能力が高くても、それを上手く活かすことができなければ宝の持ち腐れ。このまま放っておけば本当に『トリオンタンク』としか役に立たず、遠征艇の防衛に関しては寺島さん頼りってことになります」

 

「うっ…」

 

「あ、でも寺島さんは現役を離れて久しいですから、戦闘訓練にも参加してもらわなければなりませんね。でもそうなると遠征艇の建造やトリガーの改造などの作業時間が削られてしまいそう。ただでさえ寝る間も惜しんで働いているのに、これ以上の負担を強いたら死んじゃうかも?」

 

ツグミはわざと忍田にプレッシャーをかけていた。

しかし現実はそうなのである。

今の状態の千佳では使()()()()ことは百も承知で、そうなると戦えるのは寺島しかいないのだ。

 

「まあ忍田本部長が居残り組に加わるなら安心ですが、そうなると本隊の戦力が落ちて不安になります。…じゃあ、こっちは予定よりも厳しい訓練内容に変更しておきます」

 

「いや、待ってくれ! 居残り組の方の訓練もおまえに任せる。本隊の戦力を削るわけにはいかない」

 

するとツグミはニコリと笑って言った。

 

「わかりました。本隊・居残り組、どちらもビシビシいきます。…それはそうと、本部長が遠征に参加している間の三門市防衛計画に関しては大丈夫なんでしょうか? 本部長代理は誰がやるか決まったんですか?」

 

ツグミの質問はもっともなことで、城戸という司令塔がいても現場の責任者は忍田なのである。

その忍田がいないとなると万が一の時には非常に困る。

いや、困るという程度で済めばいいが、大規模侵攻の時の規模ではないにしても近界民(ネイバー)の襲撃があれば残りの隊員で応戦しなければならないのだから誰でも良いというわけにはいかない。

 

「私の代理は林藤にやってもらうことになっている」

 

「林藤支部長ですか…。まあ、無難なところですね」

 

考えてみれば他に適当な人材がいないのだから当然のことである。

 

「それにおまえが残ってくれるのだから心配はいらないと思っている」

 

忍田はツグミの頭を撫でながら言う。

 

「期待してくれて嬉しいです。その期待を裏切らないように頑張ります」

 

「ああ、ほどほどにな。…ところで今日はキオンの連中に弁当を持っていかないのか? そういえば昨日も作っていなかったような気がしたが」

 

「はい。リヌスさんがここに来た一昨日の夜にゼノン隊長から連絡があったんですが『しばらくの間こちらのことを心配せずにボーダーのことに専念してくれ』って言われました。たぶんわたしが忙しいので気を使ってくれたんだと思います。用事があればわたしの携帯電話にかけてくるでしょうから、それを待つことにします」

 

「そういうことか。彼らのことは城戸司令からも自由にさせていいと言われている。ここは放っておいていいということだな」

 

「ええ。彼らはバカではありませから、どういう行動をすればどういう結果になるかわかっています。彼らも自分たちの将来のことを考えて、最善の選択をしようとしているようです。最悪の出会いでもこちらの誠意が伝われば腹を割って話もできるというもの。そう遠くない未来に有吾さんや父が目指した『ボーダーを近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)の架橋になる組織にする』ことができるかもしれませんね」

 

「そうだな。おまえのような考え方が浸透すればそれもきっと夢じゃなくなる。諦めるなよ」

 

「はい」

 

「では、私はこれで失礼する。次に会うのは午後の会議だな」

 

「ええ。今日の会議、すごく楽しみにしていたんですよ」

 

「楽しみ…なのか?」

 

「だって久しぶりにジンさんに会えるんですから。そして一昨日の電話の話がどうなったのかも聞きたいと思っていて」

 

「電話?」

 

「はい。一昨日の夜に害虫駆除の話でかけてきたんですよ。だから退治のコツを教えてあげたんです。()()は1匹見たら100匹はいるというアフトクラトルの連中より手強い全人類の敵ですからね、徹底的に始末してしまわないといけませんから」

 

「ハハハ…たしかにな。じゃ、またな」

 

忍田は笑いながら作戦室を出て行った。

そしてツグミは自分の仕事に戻ったのだが、ふと気が付いた。

 

(あれ? こんな時期にゴキブリが出て困っているなんて…。たぶん玉狛支部の中の話なんだろうけど、わたしがいた時にはそんなに見かけたことないんだけどな。もしかしてヨータローがお菓子の食べ残しを散らかしたままにしたのかも?)

 

やはり彼女は迅の言う「害虫」を普通のゴキブリだと思っているようである。

 

 

◆◆◆

 

 

午後の会議とは遠征計画における参加メンバーの強化策についての話し合いである。

城戸、忍田、鬼怒田、東、迅、そしてツグミの6人が顔を合わせ、難しい顔をしていた。

ツグミの提案した特別訓練メニューにはいくつかのリクエストがあり、調整するのに手間がかかるためであった。

まず本隊の訓練には敵役として大勢の狙撃手(スナイパー)が必要である。

城郭都市を外部から攻略するとなれば城壁の頂面からの狙撃の対策を考えなければならず、そのためには実戦と同様に戦ってみることでどうしたら良いのかわかるだろうというツグミの「経験に勝るものはない」という教育方針によるものだ。

そこで狙撃手(スナイパー)の合同訓練日に合わせることにより、アフトクラトル兵士の役をやってもらうことになった。

遠征に参加しない狙撃手(スナイパー)にとっても人間を撃つ練習にもなるので東から異論は出ずにすぐに解決した。

続いて遠征艇の居残り組に関しての人選だが、ツグミの案に全員が賛成。

ただし忍田のようにオペレーターと医師(ドクター)に簡易トリオン銃の訓練は必要ないとの意見が上がった。

しかしツグミが忍田の時と同じように説明と()()をして、彼女の意見がそのまま通ることになる。

簡易トリオン銃は2-3日で用意できるとのことで、スケジュールの調整もツグミが担当することになった。

こうして見るとツグミの負担が多いようだが、S級になったことで本来の業務から完全に解放されてフリーになったのでいくらでも遠征関係の作業ができる時間はある。

しかし彼女がトリオン切れで倒れたことをこの場にいるメンバー全員が知っているので、全部任せっぱなしにすると取り返しのつかないことになりかねないとわかっているのだが、他に適任者はいないのだから仕方がないと皆が諦めた。

これまでにない規模の遠征を行うわけで手探りな部分が多いのは否めず、それをひとつひとつ片付けていくしかないのだが、誰も気付かないようなことにツグミが気付くものだから彼女は欠かせない人材となっている。

本隊の戦術・戦略指南については特別に時間を割く余裕がないということで、戦闘訓練の中で東が気付いたことをその場で説明するという程度で済ますしかなさそうだ。

最後に迅から「しばらくは近界民(ネイバー)による大掛かりな襲撃はなさそうだ」と報告があった。

彼の未来視(サイドエフェクト)は絶対ではないが信頼のおけるものであるから、そこにいたメンバー全員が安堵の表情をした。

ただし遠征がいつ実施されるのかが未定であるから、彼の言う「しばらく」の間に実施されない場合はどうなるのかわからない。

アフトクラトルへの遠征が成功すれば、今後は第一次近界民(ネイバー)侵攻で連れ去られた400人の行方不明者を探すという次回以降の遠征にも期待が持てるというもの。

絶対に成功させなければというプレッシャーを誰もが感じているのだが、ツグミは「越える山が大きければ大きいほど、頂上に着いた時に遠くが良く見える」とか言って張り切ってしまうキャラなので、忍田たちのように深刻にはならずに済んでいる。

それが城戸や忍田、そして迅にとっての救いであった。

 

 

◆◆◆

 

 

小一時間ほどで会議は終わり、ツグミはひとりで残って片付けをしていた。

どこの世界でもその場の一番の年少者が損な役回りをすると決まっていて、ホワイトボードの文字を消したり机の上を雑巾拭きしたりと雑務はいろいろある。

それでも参加人員が6人と少数で、おまけに「禁煙」であったから灰皿の始末がない分作業は少ない。

そして10分ほどで作業を終えると、はやる気持ちを抑えて屋上へ向かうエレベーターに乗り込んだ。

 

(ジンさんはまだ来ていないみたい…)

 

通用口のドアを開けて周囲を見回すが、ツグミの視界に迅の姿はない。

彼女は屋上で迅と待ち合わせをする約束をしていたのだ。

 

(メールには用事を済ませてからと書いてあったから、その用事がまだ終わってないってことかな? でもここで待っていれば必ず来るはず。15分待って来なかったらメール入れればいいよね)

 

ツグミは通用口に近くて日当たりの良い場所に腰を下ろし、コンクリート製 ── 表面はトリオンでコーティングされているのでトリオン兵の攻撃にも耐えられる ── の壁に背を預けた。

南側に面しているため、何時間も太陽の光を浴びていて温まっている。

 

(うわぁ…ほかほか…)

 

背中側からと太陽の直射による日差しの両面から加温されているものだから、激務 ── ツグミ本人はそんなことは思っていない ── で疲れていた身体は彼女の意思とは無関係に睡魔に支配されていく。

そしてウトウトどころか爆睡してしまうまでに5分もかからず、その直後に屋上へ現れた迅が見たものは小さく寝息を立てて気持ち良さそうに眠っているツグミの姿であった。

 

(フッ…やっぱ疲れてんだな…。そのまま寝かせてやろう)

 

迅は自分の上着をツグミに掛けてやり、彼女の隣に腰を下ろした。

 

(暖かいな…。なんだか昔にもこんなふうにふたりで寄り添って暖まったことがあるような気がするが、いつだったんだろ…?)

 

プラーヌスからの亡命者の事件で、近界民(ネイバー)の捜索していたツグミと迅は茶店で雨宿りをしたことがあった。

その時に身を寄せ合って暖をとったのだが、その時の記憶はふたりとも消されている。

事件そのものをまったく覚えていないはずなのだが、迅はその時の記憶の欠片がよみがえってきたらしい。

記憶を「消す」といっても正確には「封印」なのだが、ボーダーの処置は完璧であるから記憶がよみがえることは滅多にない。

しかしその時に経験した「身体に刻まれた記憶」までなかったことにはできないため、似たような状況になると「既視感(デジャヴ)」のように感じてしまうわけだ。

迅は思い出せないことが気になるものの、無邪気な寝顔で眠っているツグミの顔を見ているとどうでもよくなってきた。

 

(こいつはいつでも俺の隣にいてくれた。そしてこいつがいるだけで俺の心は暖かくなる。そういうことなんだろうな…)

 

 

それから30分ほど迅はツグミの隣でじっとしていたものの、彼女が目覚める様子が一切ないので気を揉んでしまう。

 

(可愛い寝顔を見ているのは楽しいけど、いつまでもこうしていられないんだよな…。起こすのは可哀想だが、だからと言ってこれ以上寺島さんを待たせるわけにもいかないし。…仕方がない、起こすか)

 

迅は腰を上げると、うつむき加減で眠っているツグミの顎を指でつまみ、顔を上に向けるとわずかに開いている彼女の唇に自分のそれを重ねた。

ツグミは突然の生暖かい感触に違和感を覚え、意識が朦朧としている状態で目を開けると男が自分の上に覆い被さっていたのだからパニックにもなる。

その男を迅と確認する前にツグミは発作的に両手で迅の胸に手を当ててありったけの力で突き飛ばした。

 

「いやぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

「ぐはぁっ!」

 

もしツグミが戦闘体であったら、きっと迅の身体は簡単に宙を舞い、下手をすれば弧月で一刀両断にされていたかもしれない。

生身であっても死に物狂いのツグミと油断をしていた迅であるから、迅の身体は2メートルくらい後方へ吹っ飛んだ。

 

「あ…ジンさん…。ああっ、ごめんなさい!」

 

正常な思考を取り戻したツグミは自分が何をしたのかようやく気付き、腰を摩りながら立ち上がろうとしている迅に駆け寄った。

 

「イテテテ…。俺のお姫様は乱暴だなぁ…」

 

「だってビックリしたんだもの。でも寝てて無防備な状態な女の子にキスするのはもっと乱暴だと思うけど」

 

「眠り姫を起こすのは王子のキスって決まってるだろうが。それにこんなところで寝ているなんて危機感が足りないぞ。見付けたのが俺だから王子のキスで済んだが、どこかのヘンタイだったらどうするんだ?」

 

「……」

 

迅の正論にツグミは返す言葉がない。

 

「まあ、自然に目が覚めるまで寝させてやりたかったけど、急ぎの用事があるから仕方なく起こしたんだ」

 

「実力派エリートは大忙しですね」

 

「ああ。だけどおまえも居眠りするほど疲れてんだろ? 無理すんなよ」

 

「無理はしていませんよ。ほんのちょっとうたた寝しただけです」

 

「いや、俺が来た時には爆睡していたし、30分以上寝てたんだからよっぽど疲れてんだよ」

 

「30分!? わたし、そんなに寝てたんですか?」

 

「俺がここに来たらもうおまえは寝ていて、それから30分くらいおまえの寝顔を見てたからな」

 

「……」

 

隣に人がいたにも関わらず何も気付かないで爆睡していたことを知り、おまけに迅とはいえ男性に30分も寝顔を見られていたのだから恥ずかしいに決まっている。

みるみる間に顔が真っ赤になり、迅の前から逃げ出したくなった。

そんなツグミのそわそわしている様子が可愛らしくて、迅は彼女をもっといじめたくなってきたのだが、そんなことをしている暇はない。

 

「ツグミ、悪いが俺と一緒に研究室(ラボ)まで来てくれ。寺島さんがおまえに用事があるみたいだ」

 

突然仕事モードに戻った迅。

ツグミもそれに釣られ、寝顔を見られた恥ずかしさが頭の中から一瞬で消えた。

 

「寺島さんがわたしに? 何のことかしら?」

 

「一昨日の夜に話した害虫駆除の件だよ」

 

「へ?」

 

「まあ、行こう。行けばわかる」

 

そう言うと迅はツグミの手を握って歩き出した。

 

 

 

 

「迅、もう1匹捕まえたぞ」

 

研究室(ラボ)へやって来たツグミと迅。

寺島は前置きもなしに15センチくらいの長さの尻尾のようなものが付いている黒っぽい楕円形の塊をふたりに見せた。

それは例の偵察用ラッドをずっと小型にしたようなトリオン兵で、前回のものはお掃除用ロボットサイズで、今回のものは黒板消しほどの大きさだ。

色も闇に紛れる黒に近いものだから、ますます()()に近い。

しかしなぜかそれはダンボール紙に張り付いていて、6本の脚と腹の部分が固定された状態になっている。

まるで粘着シート式の捕獲器に囚われたゴキブリようである。

 

(ジンさんは昨日の害虫駆除の件って言ってたけど、もしかして()()のことだったの…?)

 

さらに別の捕獲器に張り付いた同じタイプのトリオン兵が作業台の上に置いてあるのをツグミは見付けた。

それは外殻が外されて中身が見えるようになっていて、すでに解析に入っているものと思われる。

 

「ツグミ、迅から話を聞いていると思うが ──」

 

「ちょっと待った。まだこいつには何も説明していない」

 

寺島がツグミに話をしようとすると、迅がそれを妨げた。

 

「なんだ、迅、まだ話をしてなかったのか?」

 

「ああ。ちょっと事情があってさ。今から説明する」

 

 

迅はツグミにこれまでの経緯を簡単に説明した。

彼女との電話の後すぐに城戸の許可を得て、翌朝一で業務用のネズミ捕獲シートを大量に用意して研究室(ラボ)や格納庫、さらには遠征に関わる主要なメンバーの部屋 ── 城戸や忍田の執務室やツグミの使用する作戦室等 ── に設置していた。

そして午前中に格納庫で1匹発見され、昼過ぎに研究室(ラボ)でも1匹見付かったということである。

 

「なるほど、良くわかりました。一昨日の害虫駆除の話はこの超小型ラッドの捕獲の件だったということで、あんな言い方をしたのは余計な仕事を増やさないようにというジンさんのわたしへの配慮ですね?」

 

「そのとおり。…で、寺島さん、何かわかったことは?」

 

迅が寺島に訊くと、分解されている超小型ラッドの内部を指差して説明を始めた。

 

「こいつは従来の偵察用ラッドよりも小型化するために(ゲート)発生装置は当然のことながら周囲の人間からトリオンを吸収して自らのエネルギーに利用する装置といったものは一切ない。動力源はこの赤く点滅している小さなカプセルのような部品で、ここに蓄えたトリオンを使用して動いているらしく、したがって活動時間に限界があると思われる。だいたい24時間から36時間ってトコだろ。そしてたぶんこれが記録装置で、映像や音声を記録しては活動限界を迎えるまでに()()()にある『巣穴』に戻り、そこでトリオンをチャージしてまた活動をするんじゃないかと考えている」

 

「じゃあ、発信機を付けて放てば巣穴に案内してくれるんじゃありませんか?」

 

「そうだ。ひとまず巣穴の場所だけでも確認しておこうかと考えている。そこでできればこいつを逆に利用してやりたいと思うんだが、敵の企みを見抜き、その裏をかくといった心理戦はおまえの得意の分野だろ?」

 

「ええ、まあ…」

 

「技術的なことは全部俺たちでやるから、おまえはこれの使い道を考えてくれ」

 

「わかりました。できるだけ早く考えてお知らせします。…ああ、明後日の第1回遠征参加者の合同特別訓練ですが、例の件は終わってますか?」

 

「もちろんだ。最終調整はまだだが、訓練までには完璧なものにしておく」

 

「ありがとうございます。お礼はいつもの()()でいいですね?」

 

「ああ、研究室(ここ)の連中はおまえの作ったレモンのハチミツ漬けが好物だし、何よりも疲労回復には一番だ。このところ二徹や三徹してるヤツもいるからな、助かるよ」

 

「了解しました。できれば明日にでも良いお返事とお土産を持って来たいと思います」

 

ツグミと迅は他の人の仕事の邪魔をしないようにと、用件だけをさっさと済ませて研究室(ラボ)を出た。

 

 

 

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