ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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24話

 

 

ハイレインにとってヴィザが負けるということは想定外のことである。

星の杖(オルガノン)を持つヴィザを倒した遊真に加勢されたら、ますます状況は悪化する。

 

「ミラ、当初の目的のひとつは果たした。ならば一刻も早く『金の雛鳥』を回収して撤退するしかない。そうしないともうひとつの目的を遂行せねばならなくなるからな」

 

「はい、承知しております」

 

「では一気にいくぞ」

 

 

 

 

一方、ツグミは本部基地の入口が完全に封鎖されていることで本部基地内からの援軍が望めないことを知った。

 

(オサムくんは脚をやられているし、ユーマくんは戦闘体を失っている。三輪さんを待つにしても連携は望めない。だとしたらわたしが何とかしなきゃ。だったら当初の計画を少し変更して、と…)

 

ツグミはハイレインたちの前へ歩み出た。

 

「ほう…観念したとみえる。おとなしく『金の雛鳥』を渡す気になったか?」

 

「まさか。チカちゃんが連れて行かれるくらいなら、わたしが身代わりなった方がマシよ」

 

「フッ…もっと早くその言葉を聞きたかったな。しかしもう遅い。『金の雛鳥』は貴様を倒して奪い取るだけだ」

 

ハイレインは鳥型の弾をツグミに向けた。

 

通常弾(アステロイド)!」

 

ツグミは ミラの「小窓」による攻撃を避けながら、両手の通常弾(アステロイド)で応戦する。

 

(やっぱりふたり一緒だと面倒だわ。…さて、やるか)

 

ツグミはハイレインの鳥型の弾を落とすためにさらに通常弾(アステロイド)を繰り出す。

 

「俺のトリオン切れを狙っているようだが、先に貴様のトリオンが切れる。無駄なことを」

 

「トリオン切れなんて狙っちゃいないわよ。わたしの狙いは…」

 

ツグミはそう言うと抱えていたトリオンキューブを落とし、足元に散らばっているたくさんのトリオンキューブの中に紛れさせてしまう。

さらに足でかき混ぜたものだから、どれが彼女の持っていたキューブなのかわからなくなってしまった。

 

「…!」

 

ハイレインもここでやっとツグミの作戦に気付き、表情を強ばらせる。

 

「貴様…!!」

 

その様子を見たツグミはハイレインを馬鹿にするように言った。

 

「さあ、これでどれが本物かわからなくなったでしょ? わたしはおまえたちを倒した後にゆっくりと探せばいいんだもの。これで勝敗は決したわ!」

 

そんな会話をする間も、ツグミは足でトリオンキューブをかき混ぜている。

ツグミはあくまでも自分の持っていたキューブを『金の雛鳥』だと思わせようとしていた。

そうすることで民家に隠した()()()千佳のキューブの安全が保証される。

仮に偽物(フェイク)だとバレたとしても「本物=千佳」を探すためには時間がかかり、その間に援軍がやって来るという、これがツグミの作戦なのだ。

 

「ならば貴様だけでも…!」

 

ハイレインは最後の力を振り絞るかのように大量の蜂型の弾を撃ち始めた。

ツグミも両手で細かく分割した通常弾(アステロイド)を撃ちまくるが、さすがの彼女も押され気味になり、とうとう右脚に弾を受けてしまう。

続いてミラの「小窓」が開き、棘がツグミの左脚を貫いた。

両脚にダメージを受けて歩くのがやっとという状態になってしまい、彼女はテレポーターで攻撃を避ける。

そんな彼女の不利な状況を見ていた修は通信でツグミに呼びかけた。

 

[霧科先輩、これからぼくとレプリカが遠征艇を乗っ取ります。だから先輩は少しの時間でいいですから敵を引きつけていてください]

 

[乗っ取るって…? いいわ、あなたたちに任せる。でも危険なことは絶対にしないで]

 

[わかってます]

 

通信を切るとツグミは再びテレポーターで移動し、ハイレインを本部基地から引き離そうとした。

しかしテレポーターでは1回の移動距離は十数メートルで、再使用までのインターバルが数秒かかってしまう。

そのカラクリを知ったハイレインはそのインターバルの数秒を狙って攻撃を仕掛けてきた。

 

「トリガー、解除(オフ)!」

 

間一髪でツグミは換装を解くと、自由になった脚で近くの民家に逃げ込んだ。

その行動を見て、ハイレインも彼女への攻撃を一旦停止した。

ハイレインの攻撃はトリオン体にしか効かないのだから、生身の彼女には意味がない。

しかしそれは同時にミラの「小窓」の攻撃には()()()無防備な状態となる。

 

「ミラ、女を殺すな。足を封じるだけでいい」

 

「金の雛鳥」を得られない以上、ツグミだけでも連れ去ろうと考えるのは当然だ。

だからここで殺してしまっては身も蓋もない。

しかし逆に言えば「死んでいなければどんな状態でもかまわない」ということにもなる。

 

「了解しました」

 

ミラはツグミのいる民家の中へ入った。

ツグミにはマーカーが付いていないので、実際に標的の場所を確認しないと攻撃ができないのだ。

ミラはツグミが薄暗いダイニングルームにいるのを見つけた。

 

「おとなしくしなさい。暴れると痛い思いをするだけよ」

 

「痛いのはやだなー。でもおとなしくする気もないのよねー」

 

ツグミは微笑みながら後ろ手に隠していた拳銃(ハンドガン)型トリガーをミラに向け、腹部に通常弾(アステロイド)を4発撃ち込んだ。

 

「な、なに…!?」

 

生身の身体ではトリガーを使うことはできないはずだという顔で驚いているミラ。

もちろんツグミは民家に逃げ込んだ時点で再び戦闘体へ換装していたのだ。

戦闘体が破壊されて緊急脱出(ベイルアウト)した場合は戦闘体を構築するのに時間がかかるが、換装を解いただけなら再び換装するのに何の問題もない。

それを知らなかったミラはツグミが生身のままでいると思っていた。

なにしろツグミは戦闘体と生身の身体での服装を同じものにしておいたので、見た目では見分けがつくはずがないのだ。

ただし戦闘体が修復できるわけではないから、封じられた脚はそのままである。

その脚を見られたら戦闘体に再び換装したことがバレてしまうだろうが、そこはツグミもわかっていて下半身はテーブルの陰で見えないように隠していた。

ダメージを受けたミラの戦闘体は限界に近い。トリオンも残り僅かだ。

それでも彼女は「小窓」でツグミを攻撃するが、それはシールドで防がれた。

 

「くっ…。こうなれば…!」

 

自分が圧倒的に不利だと気付いたミラはツグミの逃げる先に「大窓」を開き、彼女を本部基地入口へと飛ばした。

そしてハイレインに助けを求める。

 

[ハイレイン隊長、すみません、玄界(ミデン)の女にしてやられました。最後の力で『大窓』を開け、砦の入口付近に飛ばしました。隊長は女を追ってください。私もすぐに参ります]

 

 

◆◆◆

 

 

修とレプリカは「大窓」によって繋がっている遠征艇の20メートルほど手前までたどり着いた。

片脚だけで歩くために時間がかかってしまったが、ツグミの陽動のおかげでやっとここまで来られたのだ。

 

〔あと少しだ、頑張れオサム〕

 

レプリカの半身を抱え、修が足を引きずりながら歩いていると突然目の前に「大窓」が開き、そこからツグミが現れたことに驚いた。

 

「せ、先輩!? どうしたんですか!?」

 

「オサムくん…!? ってことは、ここは…!」

 

ツグミは自分が本部基地前に飛ばされたことにやっと気付いた。

 

「ヤダ、ふりだしに戻っちゃったじゃないの…。でもオサムくん、今のうちに ──」

 

ツグミが現れてすぐにハイレインが、その直後にミラが現れ、ツグミと修の前に立ち塞がった。

 

「ここまでだ。女、別に命まで取ろうとは言わん。無駄な抵抗はせずに我々に投降しろ」

 

ハイレインは王手を決めたとばかりに言う。

しかしツグミはハイレインの変化に気付いていた。

 

(この男…自分のトリオンは問題ないけどワープ女のトリオン切れを危ぶんでいる。たしかにこいつのトリガーは凄いけど、トリオン体にしか効果がないわけだから焦るのも仕方がないわよね…。だったらワープ女の方を攻めてトリオン切れに持ち込んで孤立させるべきね)

 

ツグミは修から離れると、ミラに向けて拳銃(ハンドガン)型トリガーで攻撃する。

さらにハイレインからの攻撃を防ぐためにもう一方の手で通常弾(アステロイド)を調整しながら撃つという離れ技を繰り出す。

(ブラック)トリガーふたりを同時に相手するなど正気の沙汰ではないが、ここで負けたらすべてが水の泡となるから必死である。

その間に修は自分の役目を果たそうと、人型ふたりに気付かれないように彼らの死角を進んで行った。

 

しかしツグミのトリオンも無限ではないのだから、次第にパワーで押され気味になってきた。

両脚が封じられ、それが負担になりキレのある動きが見られなくなっている。

それでも時間稼ぎにはなり、修はレプリカの半身を遠征艇の中に力いっぱい投げ入れた。

自力では動けないレプリカを修の力で遠征艇の中へ放り込み、レプリカが遠征艇のシステムを乗っ取ろうという作戦である。

近界(ネイバーフッド)のシステムであるから、レプリカはいとも簡単に侵入して完全に乗っ取ってしまった。

ハイレインたちはそれに気付いたがすでに時遅し。

レプリカは遠征艇に「帰還」の命令を入力したのだった。

 

 

修が自分の使命を成し遂げたことでツグミは安心し、ほんのわずかだが油断をしてしまった。

その油断が隙を生み、ハイレインの放った鳥型の弾がツグミを強襲。

その内の一発が彼女に命中し、あっという間にツグミはトリオンキューブにされてしまう。

 

「せんぱーい!! …トリガー、解除(オフ)!」

 

修はキューブ化されたツグミを守ろうと、咄嗟に換装を解いて全力で走った。

そしてハイレインの手に渡る直前にツグミのキューブを抱え込んで身体を丸く屈める。

 

「それをよこせ、小僧!」

 

「絶対に渡すものか!!」

 

修は自分の命と引換えにでもという気力でキューブ(ツグミ)を守ろうとしていた。

生身の身体をミラの『小窓』による棘で串刺しにされながらも、修はキューブを離そうとしない。

それに苛立ち、ハイレインは修からキューブを引き剥がそうと修の肩に手を伸ばした。

 

その次の瞬間、二方向から(ブラック)トリガーによる同時攻撃がハイレインを襲った。

 

『弾』印(バウンド)二重(ダブル)『強』印(ブースト)『射』印(ボルト)五重(クインティ)!!!」

「風刃、起動!!!」

 

ちびレプリカの位置情報の支援を受けた遊真と三輪がそれぞれハイレインに向けて一撃を放ったのだ。

その攻撃は一分のズレもなくハイレインに命中。

その戦闘体を破壊した。

遠征艇の発進まで残り20秒を切り、こうなってしまったらハイレインたちは撤退するしか道はない。

 

「ミラ、ヴィザを回収しろ。『金の雛鳥』を逃した以上、ヒュースはここに置いていく」

 

ハイレインはミラに指示をし、遠征艇の中に消えていった。

 

遠征艇の中に取り残された形となったレプリカは修に向けて最後の言葉を残した。

 

〔お別れだ。ユーマを頼む〕

 

そして…指定された時間となり、遠征艇は門の中へ吸い込まれるように消えていったのだった。

 

 

 

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