ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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237話

 

 

訓練開始の合図と同時に千佳は遠征艇の上に飛び乗って敵が出現するはずの南西の方角を見渡した。

それを見ていたツグミが言う。

 

「周囲の状況を確認するためには少しでも高い場所に移動するのがセオリー。この平原で一番高い場所が遠征艇の上なんですから当然の行動です。でもこのまま艇の上で戦おうというのならそれは愚策というもの。まあ、しばらく様子を見ていましょう」

 

ツグミはそう言って忍田の隣の椅子に腰掛ける。

モニターの中の千佳はアイビスを抱えた状態でどこから来るかわからない敵をいち早く見付けようとしてキョロキョロしている。

その様子を5分ほど見物していると、忍田がツグミに訊いた。

 

「いつになったら敵が現れるんだ?」

 

「まだずっと先ですよ。前半の30分は敵の出現はありません。ただ待つだけです」

 

「待つだけ?」

 

「そうです。狙撃手(スナイパー)は待つのが仕事。いつどこから敵が来るかわからない状態というのはとても不安でストレスが溜まるものです。でも()()()30分のことです。()()()訓練でそれくらいのストレスに耐えられないようでは実戦で使いものにはなりませんよ」

 

そんなこととはつゆ知らぬ千佳は依然として周囲をキョロキョロと見回している。

 

「このパターンだと通常はイーグレットを起動させておくんですけど、彼女はアイビスを抱えている。たぶん彼女はB級ランク戦の時のトリガーセットのままなんだと思います。彼女はメインにアイビス、追尾弾(ハウンド)、シールド、ライトニング、サブにバッグワーム、炸裂弾(メテオラ)、シールド、鉛弾(レッドバレット)をセットしていました。Round5で追尾弾(ハウンド)を入れるためにイーグレットを外してそのままになっているんですよ、きっと。Round5以降はイーグレットを使用していませんからまず間違いありません。たしかにB級ランク戦を勝ち抜くためにはトリガーセットの変更は必要なことだったのでしょうが、ランク戦はもう終わったんです。遠征に参加するというのであれば今度はB級ランク戦で勝てるトリガーセットではなく、遠征で役に立つセットにしなければいけません。そんなことも考えずに訓練に参加したんでしょうね」

 

ツグミが推測したように、千佳のトリガーセットはB級ランク戦の時のままであった。

もちろんライトニング+鉛弾(レッドバレット)もそのままで、いつでも撃てるようになっている。

それは未だに「撃てない」ではなく「撃ちたくない」などと甘えたことを考えている証拠で、撃てるようになったといってもギリギリまで追い詰めなければ「撃たない」ことはRound8でハッキリと証明されている。

 

「…それはそうと、彼女には人が撃てないという問題があったが、それは解決できたのか?」

 

「追い詰めれば仕方がなく撃つようですから、撃たせたいなら追い詰めればいいだけです。それに敵の防御がエスクードのような物質化するものでなければ鉛弾(レッドバレット)狙撃は効果がありますから、人型近界民(ネイバー)に対しては問題なく撃てるはずです。ただしトリオン兵に対しては鉛弾(レッドバレット)もあまり効果はありませんから、人型とトリオン兵と両方が接近して来た時にどう対処するかが見ものです」

 

「ふむ…ところでさっき雨取に説明した時、『艇が一定のダメージを受けるとそこでおしまい。さらに遠征艇から20メートル以内に接近されてもゲームオーバー』だと言っていたが、実際には遠征艇の強度はバンダーやモールモッド程度の攻撃なら平気だし、遠征艇の周囲は冬島のトラップで近付けないようになっているんじゃなかったのか?」

 

忍田が訊くと、ツグミが首を横に振って答えた。

 

「そんなことを今から教えてしまったら訓練の意味がなくなります。遠征艇が頑丈で破壊される可能性が低いとか、トラップがあるから敵は簡単に近付けないと知ってしまったら、彼女は自分が撃たなくても大丈夫だと安心してしまって戦おうとしてくれなくなります。それに遠征艇がいくら頑丈でも何度もダメージを受ければ破壊されるでしょうし、トラップも有限ですから敵が何百何千と現れたら効果ありません。彼女には『わたしが艇と仲間を守る!』という強い覚悟をしてもらわないとダメなんです。だからわざと『遠征艇と遠征メンバーの命運は雨取千佳、あなたひとりの手に握られている』的な感じで少々()()を含めて言ったんです」

 

「まだ入隊して3ヶ月だというのに厳しいな」

 

「ええ、3ヶ月しか経っていません。そんな経験も知識も乏しい彼女が危険を伴う近界(ネイバーフッド)遠征へ参加するというのですから、他のベテラン隊員たちよりも厳しい訓練をしなければ現地で仲間の足を引っ張るだけです。それに艇を守ることがどれだけ重要で危険なものであるかはわたしよりも実際に経験した忍田本部長の方が良くわかっているんじゃありませんか?」

 

5年前、参加した隊員の半数を失った近界(ネイバーフッド)遠征で、遠征艇を最後の砦として戦ったことは忍田の記憶に深く刻み込まれている。

もし彼らの犠牲がなければ忍田や城戸、迅たちが生還できたかどうかわからない。

それほど厳しい戦いだったのだ。

ツグミは伝聞でしかないものの、忍田はその目で見ていて良く知っているはずである。

 

「本来なら艇の防衛のためには木崎隊長のようなどんな敵にも冷静に対応できるようなベテラン隊員に残ってもらいたいところですが、C級隊員を救出することが容易なことではない以上は彼には本隊に参加してもらわなければなりません。そうなると雨取隊員の責任は重く、彼女には単なるトリオンタンクとしてだけではなく、遠征艇を死守するという役目も負ってもらわなければなりません。いくら本隊メンバーがC級隊員を救出して全員で戻って来ても艇がなかったら帰還できない。彼女はまだ自分の立場をまったく理解しておらず、わからせるためには少しくらい厳しくしなければダメなんです。まあ、彼女が使()()()()のであれば仕方ありませんが本隊メンバーには少し苦労をしてもらうことになっても木崎隊長を遠征艇の防衛に残すしかないでしょう」

 

「おまえの言い分はもっともだな」

 

「それに彼女は自分が遠征計画の要であることを認識できていません。彼女のトリオンが遠征艇のエネルギーとなり、彼女が参加することを前提としているからこそ大きな艇を造ることができるんです。それによって参加者を増やすことができるのですし、アフトクラトルへの行程も期間を短縮することができ、遠征全体の期間を短縮できれば食料等の必要な物資も減らすことができるようになります。もし彼女が不参加となれば計画自体を最初から練り直さなければならないというのに、彼女はまだ承諾書に保護者のサインをもらえていません。自分が参加できないことになったら大勢の人間が困るということを理解しているのかどうかわかりませんし、不参加となっても単に『近界(ネイバーフッド)へ行くチャンスだったのに、残念…』くらいにしか感じないのかも知れません。これまで彼女は自分の力ではどうにもできないことにぶつかると逃げるか誰かに助けてもらうという手段で済ませてきました。今回も自分だけでは両親を説得できないでいて、誰かが助けてくれること待っているだけなんです」

 

「それでどうするつもりなんだ? 他人の心の問題を解決するのは難しいぞ」

 

「ええ、わかっています。すでに手は打ってあります。効果があるかどうかはわかりませんが、少なくともわたしが彼女を説得するよりも有意義な方法ですから期待はして良いと思います。なにしろわたしは彼女に厳しいことを言って心の傷を抉ってしまいましたから、彼女には嫌われているはずなんです。ならば最後まで徹底的に悪役に徹してビシビシといきたいと考えています。周りが彼女のことを甘やかしてばかりなんですから、わたしのように厳しく接する人間がいなければバランスが取れませんよ」

 

ツグミは涼しい顔で言うが、彼女がやっていることは並大抵のことではない。

彼女はアフトクラトル遠征に関わるすべての人間の中で最も高みから全体を見渡していて、実際に遠征に参加する隊員たちよりも広い視野で物事を考えることができる。

それはツグミにしかできないことで、故に彼女は自分の責任の重さを十分承知していて、行動のすべてが「遠征を成功させるため」に繋がっている。

そして目的達成のために「何かを犠牲にする」という痛みを伴う覚悟を持っているからこそどんなことでもできるのだ。

多くの人間が目標を持って「頑張ろう」としても何も成すことができないのは「何かを犠牲にする」ことができないからである。

世の中には「成し遂げたいことがあるのなら何かを犠牲にしなければならない」ことは多い。

ダイエットなら甘いものを食べるのをやめるとか、試験に合格したいなら遊んでいた時間を勉強に費やすとか、何らかの形で「犠牲にする」という痛みを伴うことになる。

家族や仲間との絆を大切にするツグミにとって親しい人間から嫌われることは何よりも辛いことであるが、その結果が好ましいもの ── この場合は千佳を含めた遠征に参加したメンバーがC級隊員の救出という目的を果たして全員無事に帰還する ── となればその犠牲は報われる。

だから悲しいとか辛いなどという素振りはけっして誰にも見せず、平然としているように振る舞っていられるのだ。

 

「雨取隊員がお兄さんと友人を探して連れ戻したいという理由で入隊したことに異論はありません。わたしも賛成して入隊を勧めたくらいですから。遠征に行きたいという気持ちも良くわかりますから応援するつもりでいました。しかし彼女と三雲隊長は周囲の手助けによってトントン拍子の事が進んでしまい、実力を伴わないうちに近界(ネイバーフッド)遠征参加のチャンスが巡ってきてしまいました。わたしは今でも三雲隊長と雨取隊員が()()()()()()()()()遠征に参加することに反対です。ですが彼らが参加する気満々でいて止めることができない以上は絶対に死なせないように育てるしかありません。厳しい訓練に耐えうる根性と遠征に対する正しい認識と()()()()()覚悟、そして十分な戦力と危険を回避する知恵や技術を身に付けてもらわなければ、安心して送り出すことなんてできません。本隊の方は忍田本部長と東隊長にお任せしたのですからそちらはおふたりになんとかしてもらうとして、居残り組メンバーについて本部長がわたしに訓練・指導を続けさせようとしているのですから、わたしの好きなようにさせていただきます。わたしのやり方に文句があるのなら誰か他の人間にやらせてください」

 

ツグミが少し強気で言うと、忍田も彼女の意見に同意した。

 

「…わかった。私も若い前途ある隊員を戦場に送り込む責任者である以上はできる限りのことする義務がある。そして私自身の力の及ばない部分はお前に任せるしかないのだから、おまえが正しいと思うやり方でやれ」

 

「了解しました」

 

ツグミは姿勢を正して忍田に敬礼をした。

続いてモニターに視線を戻すと、そこには自分のやるべきことがわからずにオロオロしている千佳が映っている。

 

「訓練開始から20分、あの表情だと雨取隊員は敵がなかなか現れないことで不安と同時にイライラが溜まりつつあるようです。どこまで我慢できるか見てみたいところですが、あと10分()()様子を見ましょう」

 

東はツグミに敵の出現をいつまで待てるかの忍耐力のテストをしたことがあり、彼女は30分でギブアップした。

当時の彼女は狙撃手(スナイパー)として未熟であったから長時間じっとしていることに耐えられなかったのだが不安は一切なかった。

それはどんな敵がいつどこから現れようとも対応できる心構えがあったからだ。

しかし千佳は心の準備ができておらず、いざ敵が現れた時にはどう対処すれば良いのか自分で考えることができないから不安になるのだ。

彼女は他人から指示されたことはきちんとやるが、自分で考えるということをしないから何をすべきなのかわからない。

B級ランク戦では試合の前に修たちと何度も打ち合わせをして、自分の役割を頭に入れているから彼女は動くことができるものの、今回の訓練は具体的に何をしろという指示がないものだから何をすべきなのかがわからないのだ。

 

「遠征に限らず実戦では前もって作戦を立てていたとしてもそのとおりに戦えるというものではありません。敵がこちらの想定どおりに動いてくれるとは限りませんから。今の雨取隊員は敵が出て来ないものですから、自分の想像していたものとは違っていて狼狽えてしまっているんです。すべての事象を自分自身の狭い世界、貧相な知識や経験だけで判断していますからね。それを急に視野を広くしろと言っても無理ですが、狙撃手(スナイパー)ならじっと耐えるということに慣れてもらわなければなりません。わたしが初回で30分が限界でしたから彼女にも30分は我慢してもらい、その後は彼女の純粋な狙撃手(スナイパー)としての腕を確かめさせてもらいます」

 

 

ツグミが一方的に喋ってそれを忍田が聞いているという状態が続いていたが、そこにひとりの人物が現れた。

コントロールルームのドアをノックする音に続いて中にいるツグミを呼ぶ。

 

「霧科先輩、三雲です。ぼくも中に入れてください」

 

観覧室で見物していた修だったが、さすがに20分間も何も起きないので状況を確認したくなったのだ。

ツグミはドアを開けて修を中へ招くと、さっそく修はツグミに質問をしてきた。

 

「どうして何も起きないんですか?」

 

「この訓練は制限時間が60分間。前半の30分はただ待つだけで、30分経過したところでトリオン兵が出現するようになっているわ。45分経過した時点で人型も現れるようになっている。初級者向けの簡単な的当てだけど、人を()()()()()()雨取隊員にとっては終盤の15分間が大変でしょうね」

 

「……」

 

「三雲隊長、何か言いたげな顔だけど遠慮しないで言ってもいいのよ。彼女はあなたのチームメイトなんだから」

 

すると修は口を開く。

 

「こういう言い方はしたくないんですけど、霧科先輩は千佳に対して厳しすぎるんじゃありませんか? もちろん近界(ネイバーフッド)遠征に参加するのだから仕方がないと言えばそうなんですけど、先輩が玉狛支部を出て行ったきっかけになった例の件の時から意地悪なほど厳しいように思えるんです。千佳が人を撃てないって悩んでいる時にも真剣に向き合ってくれたのに急に態度が変わってしまって、千佳も戸惑っていました」

 

「それで?」

 

「たしかに千佳の()()が原因で本人が悪いんですけど、だからといって入隊してまだ3ヶ月の新人に対してここまでする必要はあるんでしょうか?」

 

「ええ。入隊してまだ3ヶ月の新人がベテラン隊員を差し置いて遠征に参加したいと言うのよ、せめて先輩たちの足を引っ張らないレベルにまでならないと本隊が留守中の遠征艇の防衛を任せられない。彼女はトリオンタンクである以前に戦闘員なの。その自覚を持ってもらわなきゃ困るわ。本隊メンバーの訓練と同じで武器(トリガー)を扱う技術的な面は個人的にやってもらうしかない。この訓練でわたしが鍛えるのは精神的な面がメインなの。それはあなたもわかっているはずでしょ?」

 

「はい」

 

「だったら黙って見ていなさい。あと少しでトリオン兵が現れるから。それをどうやって捌いていくか見ものね。トリオン兵は遠征艇を中心にして360度どこからでも現れる可能性はあるけど、一応初回ということで南西からだけにしておいたわ。これまで本隊メンバーの訓練では城郭都市の北東側に遠征艇があるという設定だったから。()()()()()()()()()()()()にはちゃんと難易度を低くしてあるから心配しないで。ちなみに発生する場所は約1000メートル離れた場所。雨取隊員ならかなり早いうちに見付けて射程に入ったらすぐに撃つことは可能。それに彼女のアイビスなら大型トリオン兵でも1発で倒せるし簡単でしょ」

 

自分のことのように胸が不安で押し潰されそうな気分の修だが、彼自身がどうすることもできずにただ黙って見守るしかない。

そのうちに開始時間から30分が経ってトリオン兵が現れた。

ツグミが言ったように南西方向からバンダーとモールモッドが1匹ずつ現れ、真っ直ぐ遠征艇に向かって来る。

 

「さあ、始まりました。今のところトリオン兵が2匹だけですが、5分後には4匹、10分後には8匹と倍々に増えていきます。ですがトリオン兵はここでストップ。そして15分後のタイミングで人型近界民(ネイバー)が4名現れますが人型はその後の増員はありません。今回の訓練で登場するトリオン兵はモールモッド、バンダー、バドの3種のみ。出現したトリオン兵の特性を把握していて冷静に対処すればそれほど難しくはないはずなんですが、今の雨取隊員ではちょっと無理かも知れません」

 

ツグミの言う「特性」とは、トリオン兵の進行速度と攻撃手段や射程距離、さらに装甲の強度や機動力といったもので、それを整理して頭に入れておけばどういった順番で攻撃すれば良いのかわかるはずなのだ。

しかしツグミはこの「ゲーム」は千佳の負けだと確信していた。

 

 

第1弾のトリオン兵はバンダーとモールモッドで簡単に退()()できた。

千佳もやっとトリオン兵が現れたものだから、じっと待つという不安から解放されて気分が楽になったように見える。

 

そして5分後の第2弾のトリオン兵はバンダー1匹とモールモッド2匹にバド1匹の合計4匹である。

 

「ここからはちょっと複雑になります。同時に複数のトリオン兵が別々に攻撃を仕掛けて来ることになるので『並列思考』ができないとバンダーやモールモッドに手を焼いているうちにバドに接近されてしまうなど、下手を打てばそこでゲームオーバーとなってしまいます。今は仮想空間での訓練ですからゲームオーバーなどと軽く言っていられますが、実戦で失敗すれば命を失うことにもなりかねません。これはそうならないための訓練であり、たかがトリオン兵の4匹程度で慌ててはいけません。順番に倒していけば良い()()ですが、その順番を決めるのがこれまでに蓄えた知識や経験、そして重要なのがトリガーセットとなります」

 

ツグミは忍田と修に解説しながらモニターを見つめている。

 

「バンダーは砲撃をメインとした遠距離攻撃タイプのトリオン兵ですから、離れた場所からでもどんどん攻撃をしてきます。モールモッドは(ブレード)による近距離攻撃タイプのトリオン兵。近付けなければ怖くありません。しかし接近されたら彼女だと使える武器(トリガー)炸裂弾(メテオラ)だけになります。破壊力はまあまあですが炸裂する時に地面を抉って土埃が舞い、視界を奪われるので避けたいところです。バドは飛行型のトリオン兵で大規模侵攻の際には三門市上空に多数出現しましたが攻撃はしなかったので偵察用と考えられています。しかしゼノン隊長の情報では上空からの攻撃用として使う国もあるとのことなので安心はできません。今回の訓練では攻撃しませんが20メートル以内に接近されたらダメというルールなので適当なタイミングで撃ち落とさなければなりませんね」

 

 

モニターの中の千佳はアイビスをバンダーに向けて撃つ。

バンダーの砲撃と大差ない威力を持つ彼女の一撃で、バンダーは腹に大穴を開けて地面に突っ伏した。

 

「すごいですね…。雨取隊員のアイビスは地形さえ変えてしまうほどの破壊力を持ちますから、当たりさえすれば効果は大きい。真っ直ぐに遠征艇へ向かって来るのですから、弱点である()も狙いやすい。でもこれはバンダーという大きな的で動きが遅いからで、モールモッドのような動きの早いトリオン兵をアイビスで撃つのは難しい。その点ではアイビスよりもイーグレットの方が使い勝手が良く、イーグレットが狙撃手(スナイパー)の基本装備であるのは当然と言っていいでしょう。それを外したままというのは迂闊ですね。まあ、三雲隊長の言うように新人ですからそこまで頭が回らないのかしら? いえ、新人だからこそ基本が大事。それなのに鉛弾(レッドバレット)を使いたいがために射手(シューター)の技術をちょっと覚えただけで追尾弾(ハウンド)をセットして、それをそのままにしておいたままだなんてずいぶんと生意気な新人(ルーキー)ですね、彼女は。きっとまだまだB級ランク戦の気分のままなのでしょう。それとも彼女の部隊(チーム)の隊長がそういう点に気付いてあげられないのかしら?」

 

ツグミは修に対して嫌味を言うが、修は反論しなかった。

黙ってモニターの向こうにいる千佳の様子を見守っている。

 

(オサムくん、反論はしないけど表情を歪めたのだからわたしの声は聞こえてはいるみたい。この訓練が終わったらさっそくトリガーセットについて再考しなきゃって思うはず。ううん、そうしてもらわなければわたしがあえて嫌味を言った意味がなくなってしまうもの)

 

2匹のモールモッドは全速力で遠征艇目指して走って行く。

それを千佳はなんとか撃破したが、その間にバドが上空を旋回していた。

千佳はアイビスからライトニングに持ち替えて撃つのだが、真上の標的というものは非常に狙いにくく、おまけに太陽がほぼ真南の高い位置にある正午の時間帯設定なので目が眩んでしまう。

 

[上空でも遠征艇の20メートル以内に侵入されたらそこでおしまい。さっさと始末してしまいなさい。もうすぐ第3陣のトリオン兵が出現するから、早くしないとそっちのトリオン兵が接近してひとりじゃ手に負えなくなるわよ]

 

ツグミが通信を入れると千佳はライトニングを乱射し、数十発撃った弾のうちのいくつかが命中して遠征艇のすぐそばに落下した。

 

[遠征艇に近付かれたらアウトだけど、撃破したトリオン兵の落下だからセーフってことにしておくわ。さあ、次が来るわよ]

 

 

 

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