ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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239話

 

 

短期集中訓練の初日を終えたツグミは()()予定どおりに進んだことで安堵していた。

 

(これで訓練の本隊の分は手が離れて仕事も半分になったことだし、そろそろ例の件を進めなきゃ。明日、玉狛支部へ行ってみようかな? 一対一よりも林藤支部長に入ってもらって3人で話をした方がいいかも。明日の予定を聞いてみよう)

 

ツグミは上着のポケットから携帯電話を取り出すと、林藤からの着信履歴が残っているのを見付けた。

 

(林藤支部長から電話があったみたい。訓練中はマナーモードにしてあったから全然気付かなかった。もしかしたらコナミ先輩の件かな?)

 

周囲に人がいないことを確認すると、ツグミは林藤に電話をかけた。

 

「林藤支部長、何かご用ですか?」

 

「おう、訓練中だってこと忘れて電話しちまってすまねぇな。実は小南のことなんだ」

 

ツグミの予感は的中した。

 

「午前中の訓練でいろいろあったみてぇだな? 話は聞かせてもらったが、とりあえずあいつは自分が悪かったって反省して、おまえに謝りたいという気持ちはある。おまえも忙しいだろうが、あいつに会って話を聞いてやってくれないか?」

 

「ええ、もちろんいいですよ。わたしだって彼女と仲違いしたままなのは嫌ですし、わたしのやっていることにはちゃんと意味があるってことを知ってもらえたらそれで十分ですから。…実はわたしも林藤支部長にお願いがあって電話をしようとしていたところなんです」

 

「俺にお願い?」

 

「はい、支部長に同席してもらってヒュースと話がしたいんです。これは忍田本部長にも内緒の話で、ゼノン隊長たちが近界(ネイバーフッド)へ帰る前に考えつく限りいろいろやっておきたいと考えたものですから。ヒュースに協力してもらえるなら計画を進めようかと思っています」

 

ツグミの言葉に林藤は迅と同じ「未来が視える人間の企て」のにおいを感じた。

 

「何やら面白そうなことをやろうとしているみたいじゃねぇか。話によっちゃ協力しないでもない。…よし、明日の午前中、玉狛支部(こっち)に来い。まず小南との話をつけてしまい、その後おまえの話を聞いて賛同できる内容ならヒュースを加えて3人で話しをする。それでどうだ?」

 

「それでかまいません。では明日の9時にそちらへ伺います。くれぐれもこの件は誰にも悟られないようにしてください」

 

「わかってるさ。じゃあ、待ってるぜ」

 

電話を切ったツグミは自分の「計画」を本格的に進めることへの高揚感で胸がドキドキしてきた。

 

(ここから先はもう引き返すことができない。失敗した時のことを考えるとものすごく怖いけど、そんな恐怖感よりもやり遂げた時の達成感を味わってみたいという気持ちの方が大きくて、今からもう身体がウズウズして止まらない。いくつもの問題はあるけど、絶対にすべて解決して遠征を成功させてみせるわよ!)

 

 

◆◆◆

 

 

翌朝、ツグミは半月ぶりに玉狛支部へと向かった。

支部の建物に足を踏み入れた瞬間、彼女は妙な感覚に陥った。

 

(約1年間住んでいた場所だから懐かしいと感じるのは自然なことだけど、その感情はもうここは自分の居場所ではないという証拠でもある。玉狛支部という『家』や玉狛支部に所属する人間たちを『家族』だと執着していたのはたったひと月前のことで、それがまるで遠い昔のことのように感じる…)

 

ツグミの「家族」は単にボーダーという組織の中の玉狛支部というごく小さなグループの構成メンバーでしかない。

そんな血のつながりのない赤の他人の集団を家族とみなすのだから、彼女は誰よりも絆というものを大事にしていた。

そんな彼女の心の中にあったのは「良い子でいなければ嫌われてしまう」という強迫観念。

嫌われたら家族でいられなくなってしまうという思い込みが常に周囲の期待以上の結果を出し続けていた。

元々賢いし器用だったからそれほど苦労はしなかったものの、幼い時に両親を亡くしているから「失う」ことへの恐怖心は彼女の深層心理に刻み込まれている。

そんな彼女であったがこの短期間で大きく変わったのは彼女自身が家族だと思っている人たちから少し距離を置き、周囲の期待以上に応えなきゃいけないと気負っていたその肩の力が抜けたことで過去の自分を第三者視点で見られるようになり、その上で冷静に物事を判断できるようになったからなのだ。

未だに失うことへの恐怖心は残っているが、故にアフトクラトル遠征に参加するメンバーに対して全員が無事に帰還できるようにと心を砕いている。

 

 

「おう、来たか」

 

ツグミが玄関先で過去の自分をしみじみと思い出していると、林藤がやって来て彼女を出迎えた。

 

「おはようございます、林藤支部長」

 

「さあ、上がれ」

 

「はい、お邪魔します。半月前まで住んでいた場所に『お邪魔します』って言うのも何だか妙ですけど」

 

「ハハハ…。まあ、独り立ちしたかもしれねぇが、ここはおまえの実家みたいなもんだ。いつ帰って来てもいいんだぞ」

 

「用事がある時と気が向いた時には来ますので、その時はお茶菓子でも用意して待っていてください。それにしても支部長自らお出迎えとはVIP待遇ですね」

 

「そろそろ来るだろうと思って窓から外を眺めていたら、おまえの姿が見えたもんだからな。小南は自分の部屋で待ってる。早く行ってやれ」

 

「はい」

 

 

ツグミは小南の部屋の前で深呼吸をひとつしてからドアをノックした。

 

「どうぞ」

 

いつもと変わらない小南の声に安心してドアを開けるツグミ。

 

「お邪魔します」

 

ツグミがドアを開けて中へ入ると、小南はぽつんとベッドに腰をかけていた。

ここが小南の部屋だといっても実家から通っているためあまり生活感はない。

深夜や早朝に任務がある時に寝泊りするだけだからそれも当然である。

それでもカーテンや寝具などのインテリアが彼女の好きな赤色で統一されていて、女の子らしい小物が部屋の片隅に置かれていて「小南らしさ」を漂わせている。

 

「忙しいのにわざわざ来てもらって悪かったわね」

 

ツグミに視線を合わせないままで言う小南。

謝罪する気はあるものの、まだ少し納得できないという部分があるのかも知れない。

 

「いえ、わたしも玉狛に用事があったので気にしないでください。それにコナミ先輩はわたしに対する非を認めたのと同時に言いたいこともあるでしょうから、わたしはそれを受け止める覚悟で来ました。こういった問題はお互いに腹を割って話すことでしか解決しないものですからね」

 

「そうね。あんたがあたしに何も相談なしで勝手にいろいろ決めちゃうから、あたしは何が何だかわからないんだもの」

 

「訓練内容に関しては開始前にネタばらししてしまったら意味がありませんから内緒にするのは仕方ありません。でもあなたが『何も相談なしで勝手にいろいろ決めちゃう』と言うのはわたしがB級ランク戦に参加したこととか、S級になって玉狛支部を出て行ったことを言っているんでしょうから、それについては今からお話できる部分はお話します」

 

小南の視線がツグミに向き、本格的に話ができるようになったところでツグミは床に敷いてあるフカフカなラグマットの上に正座をして姿勢を正した。

 

「話したいことはたくさんありますが余計なことを話している暇はありませんから、コナミ先輩が訊きたいと思うことをわたしに質問してください。それについてお答えします」

 

ツグミの態度が真摯なものだから、小南も真面目な顔をして言った。

 

「わかったわ。じゃ、B級ランク戦に参加しようと決めたことについて教えて」

 

「はい。あれは大規模侵攻の論功行賞の授賞式の前日のことです。林藤支部長から上層部…と言うよりも城戸司令がわたしを本部に戻して太刀川隊に入れようとしていると聞かされたんです。あの時は玉狛支部のメンバーではわたしとユーマくんが特級、ジンさんとコナミ先輩とオサムくんが一級、レイジさんとキョウスケが二級というように受賞者が大勢いて、スポンサーや協力者たちには玉狛支部の存在が強く印象に残るものだから、3派閥の勢力バランスが崩れてしまうと城戸司令は恐れたんでしょう」

 

「バッカみたい。玉狛を裏切ったおっさんは自分がボーダーの支配者でいるつもりなのよ。何を考えてるんだかぜんぜんわかんないわ」

 

「城戸司令が何を考えているのかがわかるのは本人だけです。でもあの人が単なる裏切り者ではないことと、あの人なりにボーダーのためにやっているのだということはわたしにはわかります」

 

「それは…そうだけど、じゃ何であんたはあの人の言いなりで太刀川隊に入らなかったの? B級ランク戦に参加するということはA級に戻りたかったからでしょ?」

 

「いいえ。旧ボーダー時代からの隊員で特級戦功を授賞するような人間が支部のB級でいるのはおかしいという声が()()から上がったそうで、A級に昇格させろと言ってきたスポンサーがいたらしいんです。いろいろな大人の事情があって、それを解決するためにはわたしを太刀川隊に放り込むのが最適だと上層部は判断したようです。林藤支部長も賛成だったようで、あの時のわたしは『寝耳に水』『青天の霹靂』といった感じで腹を立てていたものですから、大人たちにひと泡吹かせてやろうと考えたわけです。結果、誰にも相談する時間も余裕もなくて事後承諾という形になりました。この方法ならスポンサーに対しては自分の力でA級になるという意思を示すことになり、玉狛支部所属のB級隊員としての生活も守ることができる。…もっとも途中でリタイヤしてしまったのでA級になるチャンスは失われましたが、別にわたし自身はA級になりたいとは思っていませんでしたから残念には感じていません」

 

ツグミの事情も理解できるとし、小南もこの件については納得したようだ。

しかし他にもまだ不満はある。

 

「じゃあ、S級の件は?」

 

「あの(ブラック)トリガーの存在はわたし自身もまったく知りませんでした。しかし知ってしまったわけですからボーダーのために使用するのが筋というもので、適合者がわたし以外にいないのですからわたしが所有者となるのはごく自然な流れです。ただとんでもない破壊力を持ちながら使用する人間にもリスクがあるという厄介なものですから、城戸司令のように『封印』しておくという道もありました。でもそうなると貴重な(ブラック)トリガーを眠らせてしまうことになり、命を懸けて(ブラック)トリガーになったミリアムさんの遺志を無にしてしまうことにもなります。そこで自分なりに使用方法を考えたわけですが、これは誰かに相談すれば絶対に反対されると思ったから誰にも相談せず自分だけで決めました」

 

「反対されるから相談しないって…。それはあんたの考え方に誰も賛成できないようなことをするからでしょ?」

 

「ええ。それがみんなのわたしに対する愛情によるものだとわかっています。わたしが危険なことをするとわかっていて止めようとするのは当然のことで、わたしはそれが嫌で勝手に決めてしまいました。それに関しては謝罪すべきことなのでしょうけど、これはわたし自身の問題であってわたしが正しいと判断したことですから誰にも止める権利はありません」

 

「それはそうだけど、やっぱ納得いかないわ。でも相談されていたとしても結果は同じだったんでしょうね。あたしだけでなくレイジさんや迅がいてもあんたの弁舌には敵わないから。それに城戸司令だけでなく忍田本部長や林藤支部長(ボス)が認めたんだから、今さら何を言っても遅いんだし。…それとあたしたちが留守中に玉狛支部を出て行ったことについては迅から話を聞いている。見送られたくないという気持ちはわからないでもないけど、やっぱ裏切られた感は大きかったわよ。その前にいろいろあったみたいだけど、夜逃げみたいにいなくなられてすごく悔しかったんだからね」

 

「それについては謝ります。ごめんなさい。見送られたくないというのは自分の勝手で、見送ってくれるコナミ先輩たちの気持ちを考えていませんでした」

 

「この件についてはもういいわ。だけど二度とこんなマネはしないでね。勝手にいなくなったりしたら絶対に許さないんだから」

 

「はい、わかりました。()()()()()()()()ちゃんと言ってからにします」

 

「そういうんじゃなくて、大事なことはあたしたちに相談しなさいってこと。…まあ、いいわ。今度こんなことをしたら絶交だから、それを覚えておきなさい」

 

小南はツグミが素直に謝ったものだから溜飲を下げたようで、当初のツンケンした雰囲気が消えた。

 

「話は変わるけど、昨日はごめんなさい。あの後、東さんやレイジさんにいろいろ言われて反省会に参加しないで飛び出しちゃったんだけど、これからの訓練は忍田本部長と東さんに任せるってことになったらしいわね。あんたはそれでいいの?」

 

「はい、もちろんです。わたしも東さんに直接会ってお願いしておきました。わたしのやりたかったことは東さんに正しく伝わっていますから、何の心配もいりませんよ」

 

ツグミの言い方がまだ何かを隠しているようで小南は気に入らないが、これは「訓練内容の種明かし」になるのだからどうせ訊いても教えてくれないのだろうと諦めた。

しかし他にも言いたいことはある。

 

「それじゃもうひとつ訊くけど、何であんたは昔ほどあたしたちを頼ってくれなくなったの? 小さい時にはあたしに何でも相談してくれたし甘えてもくれた。それがいつの頃からか弱みを見せることはなくなって、何でもひとりで頑張っちゃうようになったものだから、嫌われたとは思わないけど頼られなくなったのはあたしたちのことを必要としなくなったからなんじゃないかって悲しかったのよ」

 

小南にとってツグミの態度の変化は胸に刺さったトゲのようなもので、激しい痛みはないもののチクチクとした小さな痛みがずっと続いていた。

そしてそのトゲを抜く手段もなく、それがストレスとなって溜まりに溜まっていたのだった。

 

「いつの頃からか…ですか。それは5年前の同盟国の戦争にボーダーが参加した遠征の後ですよ。わたしだけでなく遠征から帰って来たみんなも変わってしまったじゃないですか。わたしもあの遠征によっていろいろと変わったんです。わたし自身は参加していませんが、参加できなかったことが今のわたしを形作っている土台のようなものなんですよ」

 

「どういうこと?」

 

「当時のわたしは子供で、遠征に参加する実力を伴わないのに近界(ネイバーフッド)へ行きたいとダダをこね、結局自分の無力を思い知らされて留守番することになりました。そしてみんなが出立する時にも笑顔で見送ることができなくて、それが最上さんや進さんたちとの最後になるなんてわかりませんでしたから、わたしはその時のことを今でもすごく悔やんでいるんです。彼らが死んでしまうほど激しい戦いであったんですから、わたしが参加していたら足でまといになっていたことでしょう。彼らがわたしの遠征参加に反対してくれたから、わたしは命拾いをしたのです。わたしのことを娘や妹のように可愛がってくれた人たちに最後に見せたのが泣き顔であったことは哀しいというか悔しいというか…何とも形容しがたい感情が湧き上がってきて、二度とこんなことがないようにしようと決めました。見送る側も見送られる側もお互いに笑顔で手を振り、必ず笑顔で再会するために心と身体を鍛えよう、って」

 

「……」

 

「これは誰にも言っていなかったことですがコナミ先輩だからお話します。遠征から帰って来た人たちは皆それぞれ大切なものを失ったことで苦しんだり哀しんだりしていて、それはあなたも同じでした。あなたの『弱いやつはキライ』という言葉もこの頃から聞くようになりました。それは他人に対してでもあるのでしょうが、自分に対しての『戒め』であったともわたしは思うんです」

 

「…!?」

 

「戦いで死んでいったのは弱かったから。もっと強ければ誰も死なずに済んだのだから弱い彼らを『悪』であったことにして、辛い想い出や哀しみから逃れる方便としていた。一方、自分がもっと強ければ仲間を助けることができたんじゃないかとも思ってしまう。自分の弱さもまた『悪』であり、そんな自分が大嫌いだから強くなろうと必死になって訓練をした。…違いますか?」

 

「……」

 

「わたしはその言葉を聞いて思いました。強くならなくてはいけない。その強さとはトリガー使いとしての戦力に限らず、生きていく上で必ずぶつかるであろう艱難辛苦を乗り越えることができる精神的な面でも必要なことであると。だから何かあったらすぐに誰かに相談したりお願いしたりするのではなく、自分の力でやれるだけのことをやってそれでもダメだった時にだけ頼ろうって決めました。だってそうしないと『弱い』ことを理由に嫌われてしまうと思ったからです」

 

「じゃあ、あたしに嫌われたくないから強くなろうって…?」

 

「はい。正確にはコナミ先輩だけでなく、他の人たちからも嫌われたくなくて彼らの期待に応えようと必死になっていました。わたしが誰にも頼らないでいたから他人との間に壁のようなものを作っているように思えたのかも知れません。だとすれば勘違いをさせてしまったわたしに非があるのですから謝罪しなければなりませんね」

 

戦争がある世界の中に身を置いている人間であれば強いことが「善」で弱いことは「悪」と考え、常に強くなろうと訓練を重ねるものだ。

もっとも「強い・弱い」を単純に「善・悪」と決めつけられるものではないのだが、強ければ生き残ることができ、弱ければ死んでしまう状況の中ではこうした考えを持つことを否定できない。

ボーダー隊員である以上は子供であろうが大人であろうが戦いに身を投じ、生と死の狭間を行き来することになる。

そうなれば「強い」ことが何よりも大事で「弱い」人間が切り捨てられてしまうのは仕方がない。

ツグミが考えたように小南は目の前で死んでいった仲間たちのことを思い出すたびに胸が押し潰されそうになっていたから「弱い人間が死ぬのは仕方がないこと」「弱いやつはキライ」として自分の心を誤魔化していた。

そして自分もまた弱い人間であることが耐えられず、強くなろうと脇目も振らずに訓練を重ねた結果、ボーダーの攻撃手(アタッカー)としてトップレベルにまでなったのだ。

ただ彼女の場合はツグミと違って精神的な面は子供のままなところがあり、実年齢以上に大人びているツグミの心までは理解できなかったのだった。

 

「なるほど…相手の話をしっかりと聞いて自分で考えることが大事だって良くわかったわ。つまりあんたの考える訓練内容は技術的な面ではなく精神的な面を鍛えることを優先し、口で言うのではなくあたしたちに実際に経験させてわからせるということなのね?」

 

「はい、そのとおりです。技術的な面はそれぞれのレベルに合わせて独自にやってもらう方が効率は良いですから、わたしは近界(ネイバーフッド)においての戦いが普段の三門市防衛任務とは別のものだと理解してもらうことから始めようと考えました。選抜試験と称した訓練も緊急脱出(ベイルアウト)を使うことによって生じる危険性をわかってもらうため。昨日の訓練では敵側に有利な状態での戦いであることと、ボーダーが近界民(ネイバー)の技術を取り入れた武器(トリガー)を使うのと同じように敵側もボーダーの技術を使用する可能性があることを知ってもらうためのものでした。アウェイで戦う以上は何が起きても冷静に対処できるよう心の準備が必要です。…ねえ、コナミ先輩、あなたは今度のアフトクラトルへの遠征で一番大切なことは何だと思いますか?」

 

突然ツグミに訊かれた小南は慌てて答えた。

 

「それはC級を全員助け出すという目的を果たすことでしょ? 当たり前じゃない」

 

その答えにツグミは苦笑する。

 

「やっぱりあなたも同じですね。C級隊員を救出するだけじゃダメなんです。参加した隊員全員が無事に帰還することまで含めて大切なことなんですよ。もしC級全員を無事奪還できても、そのために誰かの犠牲が生じてしまったら手放しで喜べないじゃありませんか」

 

「……」

 

「5年前の悲劇を二度と繰り返さないために、やれることをやらなければ後悔することになります。それが嫌だからわたしは遠征に参加しても絶対に無事に帰還できる隊員を育てようとしているんです。わたしの願いは遠征に参加する人たちが笑顔で手を振り、それを残る人たちが笑顔で見送る。そして無事に帰還した時には笑顔で再会すること。わたしは見送る側にしかなれませんが、だからこそ参加する隊員たちが『自分たちはやれるだけのことはやったから心配はいらない』と自信持って言えるようにしたい。そして送り出す側も新しい武器(トリガー)を開発するといった面からもサポートをして『自分たちはやれるだけのことはやったから心配はいらない』と言えるように頑張っています。自信を持つということは笑顔に繋がるんです」

 

「自信を持つことが笑顔に繋がる…」

 

「ええ。逆に自信がないと不安で自分たちの未来を悲観しがちになります。それでは持っている力を出し切ることはできず、助かる命も助からないなんてことにもなりかねません。参加するメンバーは一部を除いて武器(トリガー)の扱いに関してはハイレベルな隊員ですけど近界(ネイバーフッド)での戦闘経験はなく、また人型近界民(ネイバー)との経験も少ない。だからわたしは近界(ネイバーフッド)で戦うことについての知識や覚悟を身に付けることこそが重要だと思うんです。そのための訓練であったことがわかってもらえましたか?」

 

「ええ、よくわかったわ。お互いに顔を合わせて話をしないといけないってこともね。だからこれからはあんたもあたしたちに遠慮しないで話しなさい。もちろん全部は話せないってことはわかってるけど、あんたの考えていることはあたしたちには難しいことが多いんだからね」

 

「はい、善処します」

 

ツグミは笑顔で答えた。

 

 

こうしてツグミと小南の「いざこざ」は無事に解決したのだが、ツグミにとっての「本題」はこれからであった。

 

 

 

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