ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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243話

 

 

まだ忍田の許可が下りていないのだが、ツグミがキオンへ行くことが本決まりとなったことをゼノンたちに伝えると同時に迅の同行を依頼すると、ゼノンたちはあっさりとOKした。

ゼノンたちにとって迅の同行は都合が悪いものではなく、ツグミが望むことであれば可能な限り叶えてやりたいと思っているからだ。

もっとも彼らの遠征艇は4名定員でそれを3人で使用するものに改造されていたものだから、それを今度は5人で使用できるようにしなければならない。

その改装作業でツグミたちの出立は予定よりも数日遅れることになるだろう。

しかしこれが結果的に彼女にとって都合が良いことになるのだが、ただそれを知るのはもう少し先のことだ。

 

倉庫をツグミに部屋を改装するとか、キオンへ持ち帰る「お土産」の保管場所をどうするかなどを話し合い、必要なものの手配までを済ませるとその日の作業を終えることにした。

それぞれが片付けをしていると、リヌスが迅に近付いて「ちょっとこっちへ来てくれ」と言って操縦室へと連れて行った。

 

「こんなところに連れて来るなんて、ツグミには聞かせられない話でもあるのか?」

 

迅が冗談半分で訊くと、リヌスは真剣な顔で頷いた。

 

「そうだ。彼女に聞かれると都合が悪い。…いや、彼女を不安にさせたくはないんだ。私たちは彼女を玄界(ミデン)へ送り届ける約束をしたし自信もある。それにきみが未来視(サイドエフェクト)で視た未来でも彼女は無事に帰還しているだろう。しかし最悪の事態を想定して行動するのは当然で、その備えとしてきみに頼みがある」

 

「俺に?」

 

「ああ。きみにはこの艇の操縦を覚えてもらいたい。もちろんキオンへ行くまでは私たちが操縦をするから問題はないが、もし復路で私たちが同行できなくなった場合にはきみにこの艇で玄界(ミデン)へと彼女を連れ帰ってもらわなければならないからな」

 

「……」

 

「そこで出立する前にきみに操縦技術を完璧にマスターしてもらうつもりだ。もちろんこのことは彼女に知られたくはないから私たちだけの秘密にしておいてくれ」

 

リヌスの言う最悪の事態とはツグミの身に危険が生じても自分たちが対処できない場合のことで、迅に彼女を連れて国外へ逃げてもらうためには艇の操縦ができなければならないという意味だ。

もちろんツグミひとりを連れて行く場合にも最悪の事態は想定していたが、その時にはリヌスが命に代えてもその役目を負うことになっていた。

だから迅の未来視(サイドエフェクト)でも彼女が無事帰還する姿が視えていたのだ。

ただし100%安全だという保証がない以上は複数の別案があった方が良いということで、それには迅も賛成である。

 

「わかった。明日の午後は空いているからここに来るよ。ツグミには何か別の用を押し付けてここには来させないようする。それでいいか?」

 

「ああ、頼む。これが私の取り越し苦労で済めば良いのだが…」

 

リヌスにとって迅は恋敵であるからいない方が都合が良いのだが、ツグミの身の安全を考えれば彼女の味方になる人間が多い方が心強いというもの。

それに明るく振舞っていても近界(ネイバーフッド)の未知の国に行くのだから、ツグミに不安や恐れがないわけではない。

それを迅がぬぐい去ってくれるのならばと、リヌスは自分の叶わぬ恋心を胸の奥底に押し込んでおくことにしたのだった。

一方、同じ女性を好きになった迅であるからリヌスの辛い気持ちがわからないでもない。

しかし「譲る」ことができるものではないし、何よりも迅自身がツグミを失っては生きていけないわけで、申し訳ないと思いながらも同じ目的を達成する同志として協力し合うしかないのだ。

リヌスも迅と手を組むことについて異論はなく、ここで隠しごとをして信頼を失うことを恐れたものだからツグミとの「約束」についても告白することにした。

 

「お願いごとをしていながらこんなことを言うのは図々しいかと思うのだが、隠していてもいずれバレるのだから前もって話をしておく。…実はツグミとの約束で帰国する前に私たちは4人でミカドファミリーパークへ遊びに行くことになっている。これは彼女が言い出したことで、キオンにはない娯楽施設で楽しんでもらおうという意図と、私たちにとって無念の場所であるからそれを良い思い出に変えてほしいという優しい気遣いだ」

 

「いいんじゃないか? あいつが自分で考えて正しいと思うことをやっているだけだし、別に俺に遠慮することはないと思うぜ」

 

迅は快く答えるが、それに続く話には少し眉を顰めた。

 

「それだけではない。…私はこれとは別に彼女とふたりだけで出かけることにもなっている」

 

「え?」

 

「どこへ行くのかは知らないが、ボーダーにステルストリガーの改良について技術協力をしたものだからそのお礼に、と…」

 

「……」

 

「私には断る理由はないし、純粋にお礼をしたいという彼女の気持ちであることはわかっているから承諾した。ただ、きみには内緒にしておきたくはないから話をした次第だ。別に許しを乞うつもりはない。これは私と彼女のふたりの約束だからな」

 

「…俺は気にしてないから、玄界(ミデン)を楽しんで来てくれ」

 

気にしていないと言いながらも、迅は複雑な気分である。

ツグミのリヌスに対しての好意は異性に対するのものではなく単純に友情であり、女性を大切にするキオンの習慣からリヌスが彼女に不埒なマネをすることは絶対にないだろう。

ただツグミの気持ちが自分に向いていることを100%確信しているから、彼女とリヌスの間に「何も起きない」とわかってはいるものの、やはり自分の恋人が他の男と「デート」するのだからモヤモヤするのは当然だ。

 

ツグミ(あいつ)はあいつなりにキオンの連中に気を遣っているんだ、俺ももっと大人の対応をしなきゃいけないな。それに俺がリヌスに嫉妬してるなんて知られたら笑われそうだ)

 

迅はリヌスに見つからないように苦笑すると、何食わぬ顔で操縦室を出て行った。

 

 

◆◆◆

 

 

迅を交えて3人での夕食の後、ツグミは忍田に近界(ネイバーフッド)へ行くための「承諾書」にサインをもらうため説得をしていた。

ホーダー本部基地での会議では本部長として「迅の同行」を条件に賛成とまではいかないが反対もしなかった。

しかしそれは父親として承諾書にサインをしないという最後の手段が残っているからであり、どんなことがあっても彼女を近界(ネイバーフッド)へ行かせる気はない。

ツグミもそうなることは承知の上で、穏便な話し合いで解決できないとわかると「切り札」を使うことにした。

 

「はあ…これだけは絶対にしたくはなかったんですけど、真史叔父さんが許してくれないのなら伝家の宝刀を抜くことにします」

 

ツグミは嫌々ながらというか仕方がないといった顔で言う。

これは嘘やハッタリではなく本当に使いたくはない裏ワザというか奇策であり、実行してしまったら彼女は「忍田ツグミ」でいられなくなってしまうのだ。

 

「伝家の宝刀だと? いったい何をしようと言うんだ?」

 

忍田は怪訝そうな顔でツグミに訊く。

するとツグミは本部基地からキオンの遠征艇へ行く途中に立ち寄った市役所で貰ったA3の書面を見せた。

 

「これに必要事項を記入して明日にでも提出します」

 

ツグミが忍田に見せた書面とは婚姻届の用紙である。

しかし忍田には彼女の意図するものがわからず、不可解な面持ちで訊いた。

 

「これはどういう意味だ? なぜ婚姻届と承諾書のサインが関係あるというのだ?」

 

「この機会にジンさんと結婚することに決めました。ジンさんは19歳でわたしは16歳、民法第731条に定めた結婚可能年齢に達していますので問題はありません。そして同第753条には『未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす』という条文があり、わたしは結婚した時点で成年ということになり、保護者の承諾なしに成年同様の権利を行使できるようになるんです。つまり保護者のサインなしに遠征に行けるということになります」

 

ツグミは自信満々で言うが、そこは忍田も30年以上の人生経験を積んだ大人であるから反論をする。

 

「しかし『未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない』という条文もあったはずだ」

 

「良くご存知で。そして不備がある婚姻届出は受理されないということになっていますが、何らかの手違いにより不備がある婚姻届出が誤って受理されてしまった場合、その婚姻届出は有効なものとなります。なぜなら不備があったことがわかっても条件に違反した婚姻の取り消しを定めている民法第744条ではその取り消しの対象となる条件違反の中に『未成年者が婚姻する場合の父母の同意』を挙げていないからです。つまり未成年者が提出する婚姻届出にその父母の同意が無くても受理されてしまえば、これを取り消すことはできなくなるってことです」

 

「ならば提出させないか、もしくは受理させなければ良いだけだ」

 

「それは難しいですよ。提出させないというのは事実上不可能ですし、受理させないためにはどうするんですか?」

 

「市役所の市民課に迅悠一と忍田ツグミの婚姻届を受理させないよう伝えておけばいい」

 

「あら、婚姻届は別に本籍地の役所に限らずどこでも受け付けてくれるんですよ。…わたしはそんな卑怯な手を使うのは嫌なんですけど他に手段がないというならやるしかありません」

 

ツグミがきっぱり言ものだから忍田は突然不安になってきた。

彼女が冗談半分で言うはずがなく、常に一度やると決めたことはやり遂げるという強い意思を持って行動しているから必ずやるだろう。

ここで強硬に反対しても止めることはできないが、だからといって近界(ネイバーフッド)へ行かせたくもない。

親として娘の心配をしているだけなのだが、いくら大事にしている娘だといっても自分の所有物でも愛玩動物でもなく、一個の独立した人格をもつ人間であるから彼女の自由を縛ることはできないのだ。

近界(ネイバーフッド)行きを渋々認めたのは本部長としてであり、それも父親として止める手段があると高を括っていたからで、こうなると行き詰まってしまってどうしようもない。

 

そんな悩み苦しんでいる忍田の姿を見るのは忍びなく、ツグミは申し訳ないという気持ちで胸がいっぱいになった。

 

(真史叔父さん、ごめんなさい。あなたを苦しめたいわけじゃないの。わたしはどうしても近界(ネイバーフッド)に行かなきゃならない。これはわたしにしかできない大切なことだから)

 

そしてツグミは思わず本音をこぼした。

 

「わたしだってもう少し忍田ツグミでいたかったのにな…」

 

「何!?」

 

意図せずに口から出たツグミの言葉に忍田が大きく反応した。

 

「だって予定では二十歳になるまでは戸籍上でも忍田真史の娘でいるはずだったんですもの。近界(ネイバーフッド)へ行きたいがための策略として忍田の籍を捨てるなんて不本意なことはしたくなかったんです。やっぱり真史叔父さんにはきちんと認めてもらい、そして祝福してもらってからジンさんのお嫁さんになりたかったです」

 

「ツグミ…」

 

忍田の目にはうっすらと涙が浮かんできた。

それは嬉し涙なのか哀しみの涙なのかは本人にしかわからないが、少なくともツグミの自分に対する深い愛情は感じているはずである。

 

「真史叔父さんの気持ちは痛いほどわかりますが、近界(ネイバーフッド)へ行くことを危険なものとしてしまっては隊員を遠征に向かわせることだって同じく危険なものとして中止にせざるをえません。それにわたしの場合は戦争をしに行くのではなくアフトクラトルへの遠征の被害を抑えるための工作をするためであり、わたしひとりを4人の優秀なトリガー使いが守ってくれるんです。激しい戦闘が想定される遠征部隊のメンバーよりもはるかに安全で、自分の娘だから危険なことをさせられないという理由は他のボーダー隊員に対して不公平です。同じことを他の隊員がやると言ったら反対するよりも先にボーダーとしての利益を考えるんじゃありませんか?」

 

「それは…」

 

「ボーダー本部長ともあろう方が任務に私情を挟んではいけません。城戸さんがわたしの提案をすぐに正式な会議にかけてくれたのは最高司令官としての立場を優先してボーダーのために役立つと判断したからだと思うんです。でもだからといってあの人がわたしの身の安全をまったく考えていないと思いますか? あの人が隊員たちを近界(ネイバーフッド)へ送り出すのは彼らが自分の身内ではなく赤の他人だから死んでもかまわないと考えているからでしょうか? …いいえ、違います。あの人はもう誰ひとりとしてボーダー隊員から犠牲者を出したくはないと思っているから、一刻も早く連れ去られたC級たちを取り戻そうとしているんです。そのための戦いが過酷なものとなると想像できるから、少しでもリスクは減らしたいと考え、わたしの提案に賛同してくれているのだと思います」

 

「……」

 

「かつての遠征での悲劇を繰り返さないために、あの人はあの人なりの最善の選択をしているとわたしは考えています。そこに血のつながりがあるとかないとか関係はなく、また対象の人間の数も関係ありません。わたしは昼間の会議で小を切り捨てて大に就くことが当然であるという言い方をしましたが、それはあの場での方便であり本気でそう思っているのではありませんよ。場合によっては小を救うために大が犠牲になることだってありうるわけで、それを否定も肯定もしません。ただその時、自分が正しいと思うことを選んで行動し、のちに後悔しないことが大切なんじゃありませんか?」

 

「……」

 

「わたしは常にそれを心掛けて日々を過ごしています。もし目の前に選択肢がふたつあってどちらかを選ばなければならないとしたら、その時点でどちらが正解かなんてわかりませんから一方を選んでもう一方を捨てます。そしてその結果が出た時、仮に自分の選んだ方が間違いだったとしてもわたしに後悔はありません。だって選ぶ時に自分が正しいと思う方を選んだからです。そしてそのために全力投球して、それで結果がダメであったなら仕方がないって諦めもつくというものです。あなたはわたしをボーダーに入隊させたことを後悔していますか? わたしは自分がボーダー隊員であることにプライドを持って生きています。あなたがボーダー隊員であるわたしを否定するなら、それはわたしという人間そのものも否定することになるんですよ」

 

「……」

 

「忍田真史という人間が正しいと思う判断をしてその結果がわたしを近界(ネイバーフッド)へ行かせないと言うのであれば、それをわたしは否定することはできません。ただし本当にそれが正しいと判断し、結果が出た時に後悔をしないというのであれば…ですけど。そしてわたしの答えとあなたの答えが相反するのであれば、わたしは自分の意思を貫くためにどんな卑怯な手を使ってでも成し遂げる覚悟です。だから真史叔父さんがわたしをどんな手を使ってでも止めようというのなら、物理的な手段…力ずくでどこかに監禁してしまうとかするしかありません。それをわたしは卑怯だと言って責めることはありませんから。…あ、でもボーダー隊員を辞めさせるというのは無理です。わたしにその気はありませんし、ボーダー隊員としての生殺与奪の権利を持っているのは城戸司令ですからね」

 

「……」

 

「これは話し合いという名の一対一の戦いです。それもお互いに真剣を握った状態で、どちらかが負けを宣言するまで続くものですからお互いにギブアップをしなければボロボロになって共倒れになるでしょう。でもそれすらも覚悟の上でわたしはあなたと戦っているんです。あなたは娘可愛さでボーダーにとっての利益を無視し、近界(ネイバーフッド)へ行くリスクは誰でも同じだというのに娘であるからという理由でわたしを危険に晒したくはないと個人的な感情を優先しました。そしてこれまで築いてきた父娘関係を壊したくないという甘い考えでいる。そんな鈍ら刀でわたしを斬ることができるとお思いですか?」

 

ツグミが研ぎ澄まされた刀の切先を忍田の喉元に突き付けていて、忍田は彼女の気迫に気圧されてしまっているといった状態である。

これでは勝負が決まったようなもので、忍田が「降参だ」と言えばそこでおしまいとなるだろう。

しかし忍田にも勝機は残っていた。

ツグミの「大切なものを守るためにはどんな犠牲も厭わない」という姿勢は矛盾している部分があることに気が付きさえすれば良い。

彼女は忍田との父娘の絆を大切にしており、その絆を守るためにその父娘関係に大きくヒビが入ってしまうようなことをしている。

その矛盾を突かれたら彼女の論理は脆く壊れ去ってしまうのだが、忍田はそこに気付いていない。

そこが彼女の「弱点」だが、その弱点を相手に気付かせないところが彼女の「強み」で、迅は安心してこの父娘の勝負を見守っていられるわけだ。

ツグミが迅に同席してもらったのも味方になってもらうのではなく、当初からこの父娘が冷静に話し合いできるように立会人としていてもらうためである。

そんな迅もそろそろ潮時だと判断し、忍田に声をかけた。

 

「忍田さん、俺はツグミの味方ではないし忍田さんの味方でもない。俺がここにいるのは単純に親子ゲンカがヒートアップしないように見届けるためだ。だけど仲の良い父娘がこれ以上不毛な戦いをするのを見ているのは忍びない。俺がこいつを守るって約束するんだから、それでも反対するってことは俺のことを信用していないってことと同じだろ? ここは俺の顔を立ててくれないかな」

 

迅の言葉がきっかけとなり、とうとう忍田は折れたのだった。

 

「わかった…承諾書にサインをしよう」

 

忍田は絞るような声で言うと、ツグミの出した「承諾書」にサインをした。

それを見ていたツグミは感謝の気持ちで胸がいっぱいになり、心からの言葉で礼を述べた。

 

「真史叔父さん、どうもありがとうございました。こんな親不孝な娘をここまで育ててくれただけではなく、わたしのワガママを許してくださったこと、心から感謝しております。その感謝の気持ちをカタチにするために、わたしは必ず無事に生還してみせます。だから心配しないでください」

 

そう言われたからといって100%安心できるものではないが、それでも今の忍田にとってはそれで十分だった。

 

「ああ。おまえは一度約束したことを違えることはない娘だからな、その言葉を信じることにする」

 

 

こうしてツグミは無事に承諾書にサインを貰うことができ、近界(ネイバーフッド)へ向かうための障害をまたひとつ乗り越えたことになった。

迅は帰りしなにツグミに質問をした。

 

「なあ、ツグミ、忍田さんとのやり取りの後半はアドリブだったんだろ?」

 

「わかりました? 真史叔父さんの心身のすり減った姿を見た時に、つい本心を漏らしちゃったものだからそのまま勢いに任せて言っちゃいました」

 

「本心ってのはもう少し忍田ツグミでいたかった、ってアレか?」

 

「ええ。わたしは忍田真史の娘であることを誰にも言えませんけど誇らしく思っているんです。だからこんなバカバカしいことで忍田姓を捨てるなんて元々する気はありません。でもそうしなければ近界(ネイバーフッド)へ行けないなら仕方がないと覚悟を決めていたんです。それなのにあの人の苦しんでいる姿を見たらうっかり本音が口から出てしまいました」

 

「おまえにとって忍田さんは世界で一番素敵な男性だもんな」

 

「そうです。…でもこれで一番の難関をクリアしたってカンジです。あとは出発までの短い時間を効率良く使って万全の態勢で近界(ネイバーフッド)へ乗り込むだけです。でも行くことは簡単でも、無事に帰還することが難しいんですよね…」

 

そう言ってツグミは夜空を見上げたのだった。

 

 

 

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