ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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247話

「迅、ツグミ、お疲れだった。ゼノン、リヌス、テオ、きみたちにも世話になった。ありがとう」

 

城戸はツグミたちだけでなくゼノンたちに対してもきちんと礼を言って頭を下げた。

するとゼノンは困惑した様子で言う。

 

「キド司令、頭を上げてください。我々はツグミから友人として扱われています。ならば彼女が大切なものを守ろうとしているのですから、我々も全力を尽くすのは当然のこと。しかしこれくらいのことで今までの恩返しができたとは思っておりません。帰国まであまり時間はありませんが、滞在中はできる限りの協力をします」

 

「それはありがたい。アフトクラトル遠征はボーダーにとって最大級のプロジェクトになる。防衛隊員や職員たちに可能な限りの武装をさせて送り出したい。それが最高責任者としての私の役目だと考えているからだ」

 

「その気持ち、良くわかります。若い者たちを戦地へ送り出す時の辛い気持ちは住む世界が違っても同じなのですね。特に可愛い娘を拉致しようとした近界民(ネイバー)に預ける決断をするのは相当な心労があったはず。我々のことを信頼してくださってありがとうございます。ツグミのことは我々が命に代えても守ってみせます。ですから安心してここで彼女の帰還を待っていてください」

 

「ああ、わかっている。…ところで今回の件は最高機密案件であり、さらに近界民(ネイバー)が協力者となって解決したなどと知られてしまっては困ることになる。よって私の個人的な礼で勘弁してもらいたい」

 

城戸はそう言うと迅にメモ用紙を手渡した。

 

「18時に城戸の名で予約を入れてある。個室を用意してもらっているから彼らも安心して食事を楽しめるはずだ」

 

迅はメモ用紙に書かれている店名を見て驚いた。

 

「城戸さん、太っ腹ですね~」

 

城戸が予約した店はA5ランクの国産黒毛和牛のすき焼きが評判の「ボーダー上層部が接待に使う高級割烹店」である。

コース料理だと最低でも1万円からという店だから、城戸の感謝の気持ちがその分大きいということだろう。

 

「好きなものを好きなだけ食べてこい。しかしその前におまえとツグミにはもうひと仕事やってもらうが、な」

 

「わかってますって。まずは報告ですね。ツグミ、おまえから頼む」

 

「はい」

 

迅に促され、ツグミは自分が警戒区域内でふたりの男に拉致された時のことから詳細に説明を始めた。

そして最後に大事に抱えていた「証拠」の国旗と肖像写真を城戸の前に置いた。

 

「敵の身元がわかるものはこれだけしか持ち出せませんでした。しかし重要な証拠となるはずです」

 

「ああ。あの国の情報機関なら過去に何度か失敗しているから、今度こそはと意気込んでいただろう。それをここまで完璧に潰されたなら二度と手を出さなくなるはずだが、ここは徹底的にやっておこう。さあ、次は迅、おまえの番だ」

 

迅は自分がツグミの乗せられたトラックを追跡して六会市まで行ったことから、彼女が監禁されている港湾施設内のアジトでの戦闘まで自分とゼノンたち4人の活躍を話した。

 

「今回、俺は運転手と後始末の役しかしなかったけど、この3人の活躍は目覚しかった。特にリヌスとテオが見せた格闘術はカメレオンとの相性も最高だし、仕事が早く片付いたのはゼノンの(ゲート)を開く(ブラック)トリガーのおかげだ。まあ、ツグミの捨て身の潜入があってこそだから今回のMVPはツグミなんだけどな。そこんところは城戸さんも覚えておいてよ」

 

「迅、良くわかった。…皆、下がって良い」

 

ゼノンたちはもちろん迅とツグミといった全員をこれ以上関わらせないことに城戸は決めていた。

ここから先は()()の仕事であり、ボーダーの明と暗の暗の部分であっても最もダークなものとなるわけで、若者たちには見せられないというのが城戸の考えなのだ。

しかしツグミはそんな配慮があるとは気付かず、城戸に申し出た。

 

「これから事情聴取とかするんですよね? 事件の当事者であるわたしも立ち会った方が良いのではありませんか?」

 

「いいや、おまえは必要ない。ここから先は()()の仕事でおまえたちの出る幕じゃない。それに予約の時間まであと1時間しかないのだからさっさと行け」

 

「わかりました。それなら遠慮なく下がらせていただきます」

 

ツグミはそう答えてから敬礼をすると本部司令執務室を出た。

それに続いてゼノンとリヌスとテオが出て行き、最後に迅だけが残る。

 

「城戸さん、ツグミが事情聴取に立ち会うと言い出すとわかっていて店の予約の時間を決めたんだろ? それに俺への配慮もあるんだろうけど、俺には気を遣わないでいいんだぜ。こういうことは慣れているし、R-18の内容だって俺は問題ない。19歳だし、あとちょっとでハタチになるんだから」

 

「フッ…ならば成人してから頼むことにする。今回は私たちに任せておきなさい」

 

「はいはい、わかりました。じゃ、美味しいものを目一杯食べてきますよ。城戸さんが真っ青になるくらい、ね」

 

迅が冗談半分で言うと本部司令執務室を出て行った。

城戸はひとりになると携帯電話を使って唐沢に連絡を入れる。

 

「予定よりも早くカタがついた。悪いが後はきみ()()に任せても良いか?」

 

「ええ、かまいませんよ。いつものメンバーを集めて1時間以内にそっちへ向かいます」

 

「頼む。いつも悪いな」

 

「いえいえ、こういうことは慣れていますんで。じゃ、また後で」

 

ツグミたちの仕事は終わったが、城戸の仕事はこれからなのである。

 

 

◆◆◆

 

 

豪華な夕食を終えたツグミと迅はゼノンたちを遠征艇に送り届けた後、ふたりきりで河川敷を散歩していた。

 

「敵を捕まえるというわたしたちの役目は無事に終わったわけですが、あの男たちがどうなるか最後まで見届けたかったです」

 

ツグミが残念そうな顔で言うと、迅が彼女の肩に手を置いて答えた。

 

「こっから先、おまえは知らない方がいいって城戸さんは判断したんだ」

 

「まさか…殺すの?」

 

「いいや、そこまではしないさ。これまでのように記憶を全部消して適当な場所に放り出すだけ。ただ尋問の時に少々乱暴なマネをすることになるかも知れないってこと。相手は諜報のプロだ、素人のやり方じゃ口を割らない。ならばこっちもその手のプロに頼んでやってもらうしかない」

 

「……」

 

「今、おまえ怖いことを想像しただろ? さすがにテレビドラマや映画なんかでスパイから情報を引き出すために拷問にかけるシーンなんかあるけど、実際にあんなことはしない。まあ、肉体的に苦痛を与えるよりも効果の高い方法はいくらでもあるからな」

 

「……」

 

「大人の世界は汚いものだらけで、いずれはおまえだってそんな大人の世界にどっぷりと浸かることになる。だけど今はまだ子供の世界できれいなものだけを見て楽しいことをやっていればいい。それが城戸さんのおまえに対する思いやりだ」

 

「それはわかっています。だけどわたしはもうそんな無邪気な子供なんかじゃないです。目的のためなら手段を選ばずにいろんなことをやってきました。今回だって弱い子供のフリをして相手を騙し、こちらの都合の良いように相手を動かした。人を殺めたことだってあります。そんなわたしを子供扱いしたって意味ありません。大人の世界が汚いと言うのなら、わたしはもうその汚泥の中に下半身ズッポリと沈んでいるようなものですからね」

 

「だからまだ全身浸かってしまうようなことにさせたくはないんだろう。とにかく立ち会ったところでおまえの将来に役立つことはない。それに事件そのものをうやむやにしてしまった過去の例を反省して今回は何らかの行動をするだろうから、俺たちはそれを黙って見守るしかないのさ。その結果が不満なものであっても、それは城戸さんの判断によるもので俺たちに口出しする権利も資格もないんだからな」

 

「さっきの豪華な食事も任務の報酬だけでなく『余計なことはするな』ということを含めてのことなんですね。わかりました、この件に関して城戸司令にすべてお任せして、もう口も手も出しません。これでいいんですよね?」

 

「そういうこと。物分りが良くて助かるよ」

 

迅はそう言ってツグミの頭を撫でた。

するとツグミはムッとした顔をする。

 

「もう、そうやって子供扱いするんだから。子供でいられる間は子供でいろという意味なんでしょうけど、わたしは早く一人前の大人として認められるようになりたいんですからね」

 

事あるごとに子供扱いされたくはないと言い、大人になりたいと背伸びをしている16歳の少女。

たった16年の間に本人の意思に関わらず彼女は普通の人間なら一生かかっても経験することのないことを何度も経験してきて、それが今の彼女を形作っているわけだが、やはり16歳の子供であることには違いない。

 

(ボーダーってのはトリオン器官の成長の関係で未成年が多い。中には小学生で入隊して戦っている奴もいる。俺たち旧ボーダーのメンバーだって同じだ。だからかなり早いうちから大人の世界に足を踏み入れちまってるトコがあるんだよな。除隊を希望する連中からボーダーに関する記憶を消すってのも情報漏えいを危惧してなんだろうが、ボーダーとは無縁の世界に戻ったんだから普通の生活を楽しめって意味もあるんだと思う。これも城戸さんたち大人の思いやりだと俺は信じている)

 

アフトクラトルとの戦いの後、自ら除隊を希望した隊員たちがいた。

あの戦いを経験すればそれがトラウマになって日常生活に支障をきたすこともあるだろう。

除隊を申し出た隊員たちを城戸たち上層部は引き留めようとはしなかった。

彼らは記憶を操作されてトリオン兵や人型近界民(ネイバー)といった敵のことや、トリオンやトリガー関連のシステムや本部基地内の様子、訓練についてなどのことは一切覚えていないことになっている。

通常大人の社会では働いていた会社を辞める時には守秘義務を負わされるが、それを中高生程度の子供に強いるのは少々無理がある。

それに民間人に戻ったとはいえ過去に正隊員であったのだから顔と名前は一般に知られているわけで、身を守る手段を持たない元隊員が()()に狙われる可能性もある。

これまでいくつもの情報機関がボーダーに潜入しようとして諜報員を送り込んで失敗したケースがあり、その度に城戸たちは連中の記憶をすべて消して放り出した。

それは公にはそんな事件が「なかったこと」にするという意味と、ボーダーには記憶を消す技術があるというアピールのためである。

除隊した元隊員にも同様の処置が施されて記憶が消されていると知れば「拷問等で無理やり情報を吐かせることができない」として彼らが拉致されるといった危険な目に遭うことはなくなる。

彼らが除隊後の長い人生を平穏に生きていくために()()()記憶を消してしまう。

それは戦いに巻き込んでしまった子供たちにできる城戸たち大人によるせめてもの償いと感謝の気持ちの表れでもあるのだ。

 

迅は隣を歩くツグミの顔を見て思った。

 

(俺たちもいつかトリオン器官の衰えによってトリガーが使えなくなる時が来るだろう。それがいつになるかはわからないが、非戦闘員として残るのでなければボーダーを辞めることになる。その時、俺やこいつは記憶を消されることになるのだろうか? それが俺たちのためだとしてもたぶんこいつは嫌がるだろうな。…いや、こいつのことだからトリガーが使えなくても戦う手段はあるとか言ってボーダーに残り、近界民(ネイバー)たちとの交渉役を買って出るに違いない。結局ボーダーという()に囚われて一生を終えることになるんだろうか…?)

 

それが本人にとって幸せであれば良いのだが、自分が近界民(ネイバー)との混血(ハーフ)であるからとか、父親の遺志を継ぐのは娘である自分の役目であるとか、そういった義務感によるものであれば彼女にとってボーダーの存在は不幸の元凶である。

ならばボーダーに関する記憶をすべて消してしまって普通の世界で生きられるようにするべきだとも迅は思ってしまう。

 

(まあ、そんなもんはまだずっと先のこと。忍田さんだって33歳にもなってまだ現役でも通用するくらいのトリガー使いだ。いずれ決断をしなければならない時が来てもその時にはこいつも大人になっている。今だって自分で自分の道を決められるくらいなんだ、俺が心配することじゃない。それにきっとこいつが近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)の関わりについて変えようとしている今の努力の結果が出ているはずだろうし。今はただできることを精一杯やっているだけでいい。俺がヤキモキすることじゃない)

 

たしかに迅の言うとおりである。

日常生活の中にも選択肢はいくつもあって、昼食をパンにするかご飯にするかという他愛もないものから進学にするか就職にするかといった人生を大きく変えるものまである。

それらがいくつも絡み合っていて、場合によってはその人物の生死にも関わってくる場合もありうる。

そして選んだ答えが正しかったのかそうでないのかの結果が出るのはその後のこと。

迅のように未来視(サイドエフェクト)なんてものがない普通の人間は毎日いくつも現れる選択肢を目の前に悩んばかりではいられない。

ツグミはどれ選択をしてどんな結果が出ようとも、後悔をしないように精一杯の努力をしている。

だから彼女は将来ボーダーを続けるか去るかの選択を迫られても自分で決めるだろうし、どちらを選んだとしても後悔のない生き方をするはずなのである。

 

(俺も未来の俺が後悔しない生き方をするだけ。こいつに軽蔑されるような人間にだけはなりたくはないからな、身を引き締めて生きることにしよう。少なくとも女性の尻に触るのだけはダメだ。一瞬であってもあの大男を半死半生の目に遭わせようと考えたくらい尻に触るのはNGってことなんだからな)

 

そして迅は再びツグミをチラリと見た。

 

(でも俺がこいつに触る分にはかまわない…よな、きっと。俺はこいつの恋人なんだし、いずれは尻を触る以上のことをするわけだから。さすがに今やらせてほしいなんて言えば『ジンさんのヘンタイ!』とか言われて信頼度ガタ落ちになるのはわかってる。そんな自ら地雷を踏むようなことだけは絶対にしないが、尻をちょっと触らせてくれというくらいなら許してくれるかな?)

 

幸い夜間の河川敷で人は誰もいないから、焦らずに順を追っていけば大失敗をすることもないだろう。

そこで迅はツグミの手にそっと手を伸ばし、ごく自然に恋人繋ぎに成功した。

ツグミはちょっとだけ驚くが嫌ではないので外そうとはしない。

むしろ嬉しそうに微笑み、迅の手に軽く力を入れた。

迅の下心などまったく気付いていない無邪気な笑顔だったものだから、逆に迅は気が削がれてしまう。

 

(いいさ、こいつがそばにいて俺のことを慕ってくれている事実だけで十分幸せなんだから)

 

ツグミの気持ちに応えるように迅も握る手に軽く力を込めて微笑みを返した。

 

 

◆◆◆

 

 

防衛隊員及び技術者(エンジニア)の拉致監禁事件はツグミや迅の手を離れたが、城戸と唐沢のふたりの手によってある程度まで事実関係を明らかにすることができた。

もっともそのために少々人権を無視した手段を講じたのだが。

敵の正体はツグミが推測したとおりに△△国の諜報機関であった。

隣国との国境争いが長期化していたため、ここでトリガーの技術を導入して一気に形勢を変えようとして大胆な行動に出たのだが、失敗したというお粗末な結果となったわけだ。

これまでであれば捕らえた男たちはすべて記憶を消去した状態で解放することになるのだが、今後このような面倒事が繰り返されるのは御免被りたいということで、今回の事件はボーダーの広報番組の特番で発表することとした。

もちろん国際問題に発展する恐れがあるために真実を公開することはできず、城戸と唐沢のでっち上げた「嘘」の内容である。

B級隊員の拉致はあったもののすぐに救出されたことで人的・物的被害はゼロであったとし、犯人は特定できなかったが会話の内容から第一次近界民(ネイバー)侵攻で家族が行方不明になった男であることはわかっている。

犯行動機は行方不明になった市民を探すよりも先にC級隊員を救出に行くというアフトクラトル遠征に不満を持ったことで、ボーダーの隊員を誘拐して抗議をしようというものであった。

事情が事情だけにボーダーは被害届を出さず、犯人の捜索も行わないことになった。

事件があったことを公表したのはボーダーの活動に対して不満を持つ市民が存在することを認め、城戸が最高責任者として謝罪をし、その上でボーダーの活動の正当性を説明して市民に理解してもらうためである。

C級隊員の救出を先にしたのは彼らの居場所がアフトクラトルであることが特定されているからであり、第一次近界民(ネイバー)侵攻での行方不明者の居場所は特定できていないためであること。

アフトクラトルの再侵攻が危惧されているため、アフトクラトルとの決着を図る方を優先する。

そしてこの遠征に成功すれば新しいトリガーの技術を手に入れることができ、さらに大規模な遠征を行う足がかりにもなるという説明をしたことで大多数の市民の賛同を得ることができたのだった。

なお、今後同様の事件が起きることを防止するためにボーダーのサイトで正隊員の紹介をするページは削除することも発表をした。

 

これが表向きの事件の顛末であるが、「裏」では別の形でケリをつけることとなる。

犯行グループが△△国の諜報員であることはアジトにあった国旗と写真という物的証拠と男たちの証言で確定している。

そこでこの国の大使館に連絡をして抗議を行ったのだが初めのうちはシラを切っていた駐在武官も今回のボーダーの動きがこれまでと違うことで自分の判断では答えられないということになり、結果その翌日に公使から直接謝罪を受けた。

そして双方で取引が行われ、今回の事件は「なかったこと」にする代わりに二度とボーダーに手を出させないという約束をさせた。

もちろんこれは公にならない裏取引であり書面にサインをした正式なものでなく「口約束」でしかないのだが、()は公表することで国際問題に発展することを匂わせていたから迂闊なことはしてこないはずだ。

さらにこの事件は公にはしないものの()()()には広く知れ渡ることとなるのだから、これ以上傷口を広げないためにはボーダーと「手打ち」をしておいた方が賢いというもの。

また△△国の情報機関の人間()()()失敗したとなれば他の国の諜報員もボーダーを警戒するようになる。

しばらくはこの手の問題に頭を悩ますことなくアフトクラトル遠征に専念できることだろう。

なお、捕らえた男たちは全員記憶処理をされた状態で大使館へ送り届けられ、六会市の方は事務所で使用されていた石油ストーブ用の灯油に何らかの火が引火して起きた火事ということで処理された。

新聞にも三面の片隅によくある火事として載っただけで、そこに国際的陰謀が関わっていたなど誰ひとりとして想像できる者はいないはずだ。

そしてこの事件はボーダーの内部でも真実を知る者は城戸、唐沢、迅、ツグミだけで、当事者の高木ですら眠っていたために何も知らずにいる。

この事件のせいで城戸はゼノンたちに借りを作ってしまったのだが、それは後に()()()()で返されることとなるのだった。

 





今回のエピソードはボーダーの持つ近界(ネイバーフッド)の技術や知識を盗もうとする組織が存在するだろうという想像から始まっています。
こちら側の最新の兵器が通用しない未知の敵と戦う武器なのですから、戦争をビジネスにしている連中や戦争中の国の元首などは喉から手が出るほど欲しがっているに違いない。
そこでスパイが潜入するのではなく、防衛隊員と技術者(エンジニア)を拉致するという話にしました。
スパイの潜入というミッションは案外効率が悪く、危険を伴うものですからそう簡単に成功するとは思えないのです。
第一にいくらスパイとして優秀であっても修のようにトリオン能力が低かったら試験で落とされますし、そもそもトリオンというものの概念が一般にはないのですからトリガーを使えるだけのトリオン能力者を送り込むことは簡単にはできそうにありません。
第二に試験に合格したとしても正隊員になるまでに時間はかかりますから長期戦覚悟ですね。
それにトリガーという最高機密を未成年の子供たちに扱わせるわけですから、城戸たちは新入隊員の身元はしっかりと確認するはずです。
いくら敵が巧妙に偽の履歴を偽造したとしても、子供がボーダーで戦うという理由に納得できるものがなければ不自然となって疑われるのは必須。
原作の登場人物の多くは三門市出身者で、第一次近界民(ネイバー)侵攻で何らかの影響(被害)を受けている人間です。
もちろん関係者がスカウトをした他県出身者もいますが、スカウトするくらいですから身元はしっかりしている人物ばかりでしょう。
三門市に縁もゆかりもなくふらりとやって来てボーダーの存在を知ったから入隊するというのでは怪しさだけしかありません。
ボーダーに入隊するためにやって来たとなれば、もうそれは怪しいというレベルではありませんね。
潜入作戦よりもトリガーを持つ正隊員とトリガーの技術・知識を良く知る技術者(エンジニア)を拉致する方が簡単です。
なにしろ正隊員はボーダーのサイトで紹介されているくらいですから。
そして技術者(エンジニア)がいなければトリガーの解析や量産は不可能だという理由でこのエピソードは拉致事件となりました。
犯人らを解放する際に記憶を消すというのは、ボーダーには記憶を操作する何らかの技術があるという公式の設定があるので利用させてもらいました。
ボーダーにとって都合の悪いものを見てしまった民間人(修のクラスメイトの3バカ)を機密保持のために該当する記憶を消してしまいましたが、バムスターはともかくトリオン兵を倒した「謎のトリガー使い」の存在を知られていては都合が悪いからだと思うのです。
だから3バカの記憶を消してしまうのは当然の処置と言えましょう。
また鳩原のような最高レベルの違反行為をした時にも記憶封印処置が行われるということですが、これは除隊させた後にトリガーの秘密を知りたい連中に利用されないため。
さらに隊員の希望によって除隊する際にも記憶を消すというのは作中でも触れたように、今後の元隊員に危険が及ばないようにするためだとわたしは考えています。
原作の第199話で茜がボーダーを辞めて那須たちとお別れをするシーンがありますが、ボーダーで那須隊に所属していたことや後輩のことを忘れてはいませんから、きっとボーダーに関することであっても一般人に知られては都合が悪い「近界民(ネイバー)とは自分たちと同じ人間である」とか「近界民(ネイバー)はトリオン能力の高い人間をさらうためにやって来る」といったものや、ボーダーの組織・訓練方法など一部の「秘密にしておきたいこと」についてのみ消してしまうのではないかと思っています。
いずれにしろ元隊員の未来に不都合がないようにするための処置であり、彼らを疑ったり危険視しているのではないとわたしはそう結論を出しました。
特に三門市から出て行くのであれば今後一切近界民(ネイバー)に関わることはないのですから、トリオン兵や人型近界民(ネイバー)のことなんてすっかり忘れてしまった方が楽しい日々を過ごすことができるはず。
那須たちのことはきちんと良い思い出として残し、不必要な記憶は消してしまう。
それは城戸が彼女に対してこれまでの働きに感謝して送った「餞別」で、新しい生活の中でボーダーの経験は良い形で活かされることになるでしょう。



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