ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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250話

 

 

近いうちに近界(ネイバーフッド)へ渡航しようとしているものだから、それまでにやってしまわなければならないことがツグミにはたくさんある。

着替えや日用品といった普通の旅行に必要なものはもちろんだが、近界(ネイバーフッド)で戦闘になった時のことも考えて武器(トリガー)の準備もしておかなければならない。

彼女は(ブラック)トリガーを持つS級であるが、実際にそれを使用することはないのだからノーマルトリガーを携帯することになる。

問題はどんな武器(トリガー)の組み合わせにするかである。

普通の隊員なら自分のポジションの種類で自然と決まるものだが、完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)の彼女はどれでも一定のレベル以上で使えるからその時の状況に応じて入れ替えて使っていた。

しかし今回は近界(ネイバーフッド)へ行くのであり、どんな状況になるのか彼女にも想像もつかないから悩んでしまう。

結局、チップを全部持って行って自分で交換することに決めた。

 

(そういえばバッグワームの改良は進んでいるのかしら?)

 

バッグワームの改良とはツグミが開発室にキオンの変身トリガーを参考にして改良を依頼したもののことである。

C級隊員の救出にはまず彼らの居場所を特定しなければならず、そのために少数の精鋭隊員が危険を承知で城郭都市内に潜入することになるわけで、通常マントの形をしているものをアフトクラトルの一般庶民の服と同じデザインのものにすれば、街の中に潜入する時に見た目を誤魔化せると考えたのだった。

生身であればレーダーに察知されないがトリオン体であればバレてしまう。

しかしだからといって生身での潜入任務は非常に危険である。

よって見た目を現地人っぽくして庶民に紛れ込んでしまえばリスクは下がるはずということで、ツグミの依頼は上層部からも正式に認められて作業が進んでいるはずなのだ。

 

(明日にでも本部に行って作業状況を確認した方がいいかもね。間に合うようならわたしも持って行きたいし)

 

ツグミはゼノンたちがキオンに帰国する際に遠征艇に同乗させてもらうことになっていて、4月1日に出発の予定である。

よって残りは10日もないので、それまでに済ませてしまわなければならないことが山積みとなっていた。

アフトクラトル経由でキオンへ行くとなると往路が約10日かかり、復路は約15日かかる計算であるから、それぞれの国の滞在の時間等も考慮して40日くらいの長旅になる。

場合によってはもっと長くなる可能性もあるが、少なくともアフトクラトルへの遠征部隊が出発する前に戻らなければならないから日程的にかなり厳しいものになろうだろう。

さらにアフトクラトルでエリン家当主・ディルクを説得することや、キオンの元首と会談してボーダーと友好関係を築くといった「誰も考えつかず、誰もやろうとしない」ことを成功させようとしているのだから、日程以上にもっと厳しいものとなるはずなのだ。

当初の計画とは違って迅が同行してくれることになり心強いものの、やはりボーダーの未来を左右するかもしれない重要な任務に臨むのだと考えると身震いする。

もっともそんなことで萎縮するような性格ではないから、ツグミは「誰も考えつかず、誰もやろうとしない」ことがやれるのだ。

 

(適度な緊張は自分を律するのにちょうどいい。わたしが近界(ネイバーフッド)へ行くのはこれまでの遠征と違って非常にデリケートだし危険を伴うもの。それに自分だけでなくジンさんやゼノン隊長たちを巻き込んでしまうわけだから、遠足気分でいてはダメ。…だけどやっぱり知らない国へ行くのはワクワクするな。とにかくこの『旅』を楽しくて有意義なものにするためには準備が大事。何か他に手配しておくことはあったかな…?)

 

ツグミは机の上に置いてあるチェックリストを再確認した。

 

「あ…忘れてた」

 

遠征に直接関係はないものの、ツグミにとっては重要な案件があり、それをずっと放置していたことに気が付いたのだった。

 

(今月末にはリフォームが終わるということだったけど、進捗具合はどうなのか知りたいな)

 

彼女が気にしているのは須坂からボーダーに無償譲渡された社員寮をリフォームしてボーダー隊員用の寮として使うという話のことである。

玉狛支部を出て行くあてがなかった彼女は一時的に実家に帰った。

しかしいつまでも忍田家にいることはできず、寮のリフォームが完成したらすぐに入居する予定であったのだ。

 

(まあ、こっちは帰って来てからの入居になるのは確定だから急ぐ必要はないけど確認はしておいた方がいいわね)

 

優先順位が低いため後回しにすることにした。

 

続いて優先順位「中」のものを見付けた。

 

(4月はまったく出席できないんだし、場合によってはアフトクラトル遠征の件があるから来年度の授業は5月もほとんど無理っぽい。今のうちに休学届を出しておこう。これは真史叔父さんにも許可をもらっておかなきゃ)

 

ボーダー活動で授業を欠席がちになる隊員たちと違って通信教育での授業を受けているとはいえ、新学期の最初のひと月以上を近界(ネイバーフッド)は行くことで潰してしまうのだから学校側への連絡はきちんと処理しておかなければいけない。

ひと月やふた月の遅れは取り戻せる自信があるため、ツグミは「休学」として済ませることに決めた。

 

そうやってひとつひとつ片付けられるものから片付けていくと、残ったのは最も重要な「イベント」をどうするかという内容のものであった。

イベントとは4月9日の迅の誕生日のことで、当初の予定では当日にできなくなるから先に済ませてしまおうと考えていたのだが、計画が変わったものだから当日に行えるようになったのだ。

しかしツグミはまだ迷っていた。

 

(ジンさんが一緒に行ってくれるのは心強いし嬉しいけど、他の人たちにとっては不安になってしまうはず。旧ボーダー時代からずっとあの人の未来視(サイドエフェクト)を頼りにしてきたのに、アフトクラトル遠征を前にしてその頼りとなるものが長期間なくなるわけだから。わたしたちの近界(ネイバーフッド)への渡航は極秘任務でごく一部の関係者しか知らないこと。玉狛支部のメンバーだって知っているのは林藤支部長とヒュースだけでレイジさんすら知らないのだから、突然いなくなってしまったら混乱を起こすだろう。もしかしたらサプライズパーティーを計画していたら残念がるというよりも教えてくれなかったことに腹を立てるに決まってる。特にコナミ先輩やヨータローあたりが手を付けられないほど暴れそう。本当にこれでいいのかな?)

 

忍田から保護者としての了解を得るために迅が同行すると言い出したわけであり、ツグミは自分が近界(ネイバーフッド)へ行きたいがために迅を巻き込んでしまったと考えている。

迅の未来視(サイドエフェクト)では彼の同行の有無に関わらずツグミが無事に帰って来るということだから、別に迅がいなくても問題はないはずなのだ。

 

(玉狛支部のメンバーのジンさんの誕生日を祝うパーティーのことはともかく、あの人の存在はボーダーの精神的支えにもなっているのだからやっぱり残ってもらうべきなんじゃ…)

 

そんなことを考えているとツグミの携帯電話に着信があった。

発信者は林藤である。

 

「ツグミ、夜遅くにすまねえ。今、いいか?」

 

「はい、かまいませんけど…こんな時間にどうしたんですか?」

 

「ヒュースの奴が例の件でおまえと話がしたいと言ってんだが、明日の予定はどうかと思ってな」

 

「明日ならいくつかの雑用を片付けてしまおうかと思っていました。まだ何をいつにするかは決めていないので、1日まるまるフリーのようなものです」

 

「そりゃいい。それなら明日の午前10時に来てくれ。この時間ならみんな出払っていて誰もいないからな」

 

「わかりました。では明日の午前10時にそちらに伺います」

 

「面倒かけて悪ぃな」

 

「いいえ、とんでもありません」

 

ツグミはちょうど良いタイミングとばかりに林藤に訊いた。

 

「ところで林藤支部長はジンさんが一緒に近界(ネイバーフッド)へ行くことになったのを知っていらっしゃいますか?」

 

「ああ、本人から聞いた」

 

「支部長は反対しないんですか? たぶん相談もなしに本人ひとりで決めてしまったと思うんですけど」

 

「別に賛成も反対もねぇぞ。本人が行きたいってなら行かせてやるのが筋だろ」

 

「でも順調にいって40日も留守をするわけで、そうなると他の人たちへの影響が…」

 

「そりゃあいつがいないと困ることもあるだろうが、だからって年がら年中あいつの未来視(サイドエフェクト)に頼ってばかりじゃいけない。それに少なくともおまえたちが帰って来るまでの間、あいつのチカラが必要になるほどのことは起きないそうだから安心して行って来いと言ってある」

 

「玉狛のメンバーには内緒にしてありますよね?」

 

「もちろん。だけどどうせ出発してしまえばバレるんだろうがな。そん時の()()は俺がひとりで受けるから心配するな」

 

「でも…来月ジンさんのハタチの誕生日が来ます。みんなでお祝いするつもりでいるんじゃないですか?」

 

「たぶんな。でも帰って来てから帰還祝いと一緒に派手にやりゃいい。もちろんそん時はおまえもここに来いよ」

 

「はい。でもコナミ先輩にひどく怒られそうです。また相談もなしに勝手に決めたって言われて」

 

「そりゃ仕方がねーな。散々叱られて泣かれるんじゃねーかな」

 

「今から覚悟しておきます」

 

「ハハハ、じゃ、明日待ってるぜ」

 

林藤の電話を切ると、ツグミは大きくため息をついた。

 

「はあ…」

 

ゼノンたちと一緒に近界(ネイバーフッド)へ行くことはツグミが決めたことだが、やはりこれも相談なしに自分だけで決めてしまったことだ。

 

(大事なことを相談なしで決めてしまうことで叱られたばかりなのに、また同じことを繰り返してしまうんだ…。明日、林藤支部長にそこんところ上手くフォローしてくれるようお願いしておこう、っと。…それにしてもヒュースの用事って何だろ? もちろんエリン家ご当主の件だろうけど、何か気になる点でもあるのかな?)

 

考えても材料がないのでツグミは諦めることにした。

 

(どうせ明日になればわかることだもの)

 

 

◆◆◆

 

 

ヒュースがツグミを呼び出したのは彼の主人であるディルク・エリンとその家族に宛てた手紙を書き終えたという理由であった。

それを彼女に手渡すためなのだが、それ以外にも用があったらしい。

 

「ツグミ、おまえは本気でキオンの連中のことを信用しているのか?」

 

屋上の柵に手をかけて遠くを見つめながら訊くヒュース。

ツグミは彼の問いにふざけて言う。

 

「まるでわたしのことを心配してくれているみたいなことを言うじゃないの」

 

「バカを言え。おまえはキオンの連中を利用していると言っているが、奴らに利用されているとも考えられる。おまえがキオンに行ったままで帰って来られなければこの計画は水の泡になるんだぞ。俺はそこを心配している。俺にとっての憂いは主の身のことだけだ」

 

「相変わらず塩対応ね。ま、さっきのは冗談よ。…で、ゼノン隊長たちのことだけど、彼らのことを信用しているからこそこんな計画を立てたのよ。わたしだって危ない橋を渡る気はないもの。正直言ってあなたよりも彼らの方が信用できるわ」

 

「何だと?」

 

ヒュースは目を吊り上げる。

 

「だって少なくとも彼らはあなたよりも賢い判断をしたから。彼らもあなたもボーダーにとっては敵国の捕虜という立場になる。ボーダーにとって敵対する相手だったから戦って、こちらが勝ったから捕らえたという点では同じでしょ? おまけにどちらも玉狛支部でわたしは『客人』という待遇で接していた。それはあなたにもわかるわよね?」

 

「ああ」

 

「わたしはどちらに対しても公平に扱ったわ。そしてどちらも祖国に対して忠誠を誓うという意味で自分の国のことや近界(ネイバーフッド)のことを一切話してはくれなかった。ここも同じよね。そこで両者に差がついたのは、大切なものを守るために戦うというわたしの信念を理解し、それが自分たちと同じだということに気付くのが早かったという点」

 

「?」

 

「あなたも彼らも祖国に忠誠を誓うと言いながら、その根っこにあるものは自分のそばにいる家族のため。ゼノン隊長は家族はいないけどリヌスさんとテオくんのことを本当の家族のように大切にしていて、テオくんは自分の家族の生活が楽になるだろうからと厳しい任務に就いている。リヌスさんはエウクラートンの人間だからキオンで役立つことで祖国で苦労している同胞の待遇をアップさせようとしている。あなたもアフトクラトルという国ではなくエリンさんという恩義のある家族のために戦っているわけでしょ。その大切なものを守りたいという気持ちを優先させた結果、彼らはボーダーと手を組んだ方が自分にとっても有益だとわかったのよ。あなただってわたしの計画に乗ることでエリンさんの身の安全が確保されるとわかったから協力しているわけでしょ? わたしは彼らのこともあなたのことも友人だと思っているけど、彼らやあなたがわたしを利用しているだけなのかも知れない。それでも今はそれで十分。お互いがwin-winになればいいじゃないの。だから彼らはわたしを利用していても裏切ることはない。だから信じても大丈夫だと判断したわ。あなただってわたしと親しくなりたいってわけじゃないでしょ? それでもこうやってわたしに計画に乗ってくれているのはエリンさんのためで、逆にわたしはそのエリンさんのことなんて何も知らないから彼がどうなってもかまわない。乱暴な言い方だけどそのとおりなの。あなたと手を組んだのはアフトクラトルへ行く隊員たちにとって有利になることだからやっているだけ。あなただってわたしと同じ立場だったら同じことを考えたんじゃないかしら」

 

「……」

 

「ひとまずジンさんの未来視(サイドエフェクト)では成功するという未来はまだ視えていないけど、少なくともわたしが玄界(ミデン)に帰っては来るらしいのよ。だから往路でエリンさんと会談し、復路でもう一度会う時までに気持ちを決めておいてもらうつもり。そしてその時に彼らがボーダーに身を寄せるというのなら、わたしたちは喜んで受け入れるつもり。これは城戸司令たちと話がついているし、万が一彼がわたしたちを裏切ることがあればそれなりの対応も考えているから安心していいわよ」

 

ツグミの瞳には絶対の自信があった。

 

(この世の全ての事象に『絶対』はありえないのだが、こいつが言うとその絶対すらも曲げてしまうのではないかとさえ思えてくるから不思議なものだ)

 

ヒュースはそんなことを考えながら訊いた。

 

「いくら連中のことが信じられると言ってもキオンの元首って奴がバカだったらそこでおしまいだろ?」

 

「まあ、それはそうだけどあらゆることに不測の事態は付きものだし、リスクがあるからって除外してばかりいたら何も残らない。だったら今現在最善と思われることに全力投球をして、その上でダメだったら諦めもつくというもの。もちろん諦めたくないからできることを全部やって準備をしておいて万全の体勢で臨むわよ」

 

ツグミの迷いのない目で見つめられてそう言われるとヒュースは彼女を信じるしかないと思ってしまう。

 

「あなたがエリンさんのことしか考えていなくて、わたしのことなんてどうなってもかまわないと考えているならそれはそれで結構。だけどわたしが失敗するとエリンさんの身も危なくなるわけだから、あなたはここでわたしたちの計画の成功を祈っていてちょうだい。今のあなたにできることはそれだけだから。そしてわたしがエリン家のみなさんを連れて来たら、その時にはあなたにもボーダーのために働いてもらうわよ。いいわね?」

 

「ああ、承知している。それで俺が他にできることはあるのか?」

 

「もちろんあるわよ。わたしと一緒に写真を撮ってもらいたいの」

 

「写真だと?」

 

「そう。わたしとあなたが知り合いだってわかればエリンさんもわたしのことを門前払いしなくなるだろうし、何よりもあなたが玄界(ミデン)で元気に暮らしていると知れば喜ぶに違いないもの。もう一度あなたと一緒に穏やかな日常を送りたいと思うなら、アフトクラトルを一時的にでも離れて安心して暮らせるようになったら戻るという気持ちになるはず。そのためにあなたのことを思い出してもらう意味で写真を使わせてもらうというわけ。ダメとかイヤとか言わせないわよ」

 

そう言ってツグミはタブレット端末で自分とヒュースが並んでいる姿を自撮りする。

 

「う~ん…あなたの顔が固くて失敗。もっと笑顔で、エリンさんに自分は心配いりませんよって顔をしなきゃダメじゃないの。もう一度撮るわよ」

 

2枚目もヒュースは満面の笑み…というわけにはいかなかったが、それでも自分が元気でいることを主に教えたいという気持ちはあるらしくぎこちなくではあるが微笑んでいた。

 

「これならいいかな。この写真を南門の門番に見せれば取次をしてもらいやすくなるはずよね」

 

「いや、その心配は不要だ。門番用にも手紙を書いておいた。これを門番に見せれば間違いなく主の元へ案内してくれるはずだ」

 

ヒュースはそう言ってディルク宛の封筒の他にもうひとつの封筒を指差して言った。

 

「俺のことは門番であれば誰でも知っている。俺の名前を言ってこの封筒を渡せば問題はない」

 

「ありがとう。ここまでしてもらったんだから、絶対に成功させるわよ。…そして早くあなたも家族に会えるといいわね」

 

「ああ」

 

ヒュースはそう言うと、遠慮がちに頼みごとをした。

 

「それからこんなことを頼むのは変かも知れないが、おまえが無事に帰って来ないとヨータローが悲しむ。だから必ず帰って来い」

 

「うん、約束する。絶対に帰って来る。一日も早く帰れるように、そしてあなたの本物の笑顔が見られるように、ってね」

 

ツグミがそう言うとヒュースは真っ赤な顔をして反論した。

 

「俺の笑顔なんて見たって仕方がないだろ! 俺の用事というのはこれだけだ。用が済んだのだからさっさと帰れ」

 

「あらあら急にご機嫌斜めになっちゃって。言われるまでもなく帰るわよ。わたしも近界(ネイバーフッド)へ行くまでにやってしまわなければならないことがたくさんあるんだから。あなたよりも暇人じゃなのよ、わたしは。じゃあ、また何かあったら林藤支部長を通じて連絡をちょうだい。できる限り早めに来るから」

 

そう言ってツグミはヒュースに手を振りながら屋上を後にした。

 

 

 

 

ツグミは2通の封書を預かると、支部長室の林藤を訪ねた。

 

「林藤支部長、わたしに用事って何ですか?」

 

すると林藤は否定した。

 

「いいや、俺じゃねぇよ。用のある奴はもうすぐ来る」

 

「?」

 

ツグミは首を傾げていると、背後でドアが開く音がした。

 

「実力派エリート・迅悠一、ただ今参りました!」

 

「え?」

 

ツグミが振り返ると、そこには迅が立っていた。

 

「用があるというのはジンさんなんですか?」

 

「まあな。おまえが昨日の夜に支部長(ボス)と電話をした時に変なことを言うものだから、ちょっと気になったんだ。あん時ちょうど一緒にいたもんだから、おまえと支部長(ボス)の会話は全部聞いてたんだよ」

 

「そういうことですか…」

 

「で、おまえがどう考えようとも俺はおまえと一緒に行く。たしかに来月俺は二十歳になるが、その時に一緒にいたいのは誰でもない。おまえだ」

 

「……」

 

それはツグミにとってプロポーズにも似た言葉だった。

急に身体中の熱が顔に集まって、顔から火が出そうなほど熱くなってしまう。

 

「そんなこと…人前で言わないでください」

 

恥ずかしげに言うツグミ。

そして続けた。

 

「ジンさんの覚悟がそれだけ強いものならわたしが何を言っても気持ちは変わらないですよね。一緒に行きましょう。わたしもジンさんが一緒ならとても心強いです」

 

「そうだろ? なんたって俺は ──」

 

「実力派エリートですものね」

 

「ハハハ…。それで支部長(ボス)、俺を呼んだのはなぜですか?」

 

迅も林藤に呼び出されようだが理由は知らないらしい。

すると林藤が答える。

 

「今日は一日おまえに休暇をやる。だからツグミと一緒に近界(ネイバーフッド)へ行く準備をしろ。長旅になるんだから必要なものもたくさんあるだろ? ツグミも昨日の電話でいくつかの雑用を片付けてしまうって言ってたからな、車があった方が便利だろうと思ってな」

 

「ありがとうございます、林藤支部長。では遠慮なくジンさんと車をお借りします」

 

ツグミは一礼してから迅と共に支部長室を出た。

 

「ジンさんは何か買い物の予定はありますか? 実は行きたい場所があるんですけど、付き合ってください」

 

「かまわないけど、行きたい場所ってどこ?」

 

「すぐにわかります」

 

そう言ってツグミは悪戯っぽく微笑んだ。

 

 

 

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