ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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261話

 

 

近界(ネイバーフッド)の国々に入国するにはふたつの道がある。

ひとつはその国が管理している国際港のような場所に入港するもので、国交がある国同士であれば入国は簡単である。

公認されている貿易商の艇や同盟国や友好国の国民同士が相手国を訪問する際に利用される。

もうひとつは勝手に(ゲート)を開いて適当な場所から入るいわゆる「密入国」だ。

訳あって堂々と入国できない場合は政府や軍が管理していない場所を選び、密かに(ゲート)を開いてそこから入国するわけで、ツグミたちがキオンの艇でメノエイデスに入国したのは密入国となる。

メノエイデスの場合、キオン及びボーダーとは正式な国交がないのだから仕方がなかったのだ。

 

そして三門市を発って約90時間後、アフトクラトルに()()()したツグミたちの前に広がる光景は真の暗闇であった。

現地の時間で夜であったわけだが、月や星の光さえまったく見えない。

近界(ネイバーフッド)の国々でも玄界(ミデン)のように天体と呼ばれる存在はあるらしいのだが、それすらも(マザー)トリガーでできているということだから、それらが見えないということはこの国の(マザー)トリガーの寿命が近付いて来ていることの影響なのかも知れない。

さらにこの場所はゼノンたちが何度か利用した安全な場所で、付近に人家がない森の中なので人工的な明かりも見えないのだ。

とりあえず行動開始は明るくなってからということで、朝まで仮眠をとることにした。

 

 

◆◆◆

 

 

食事を済ませたツグミたちはベルティストン家の城下町への潜入作戦を決行した。

あらかじめ綿密に計画を立てており、迅の「ツグミは無事に帰還できる」という未来は信頼に足りうるものだからさほど不安はない。

しかしどんな場合でも「想定外」というものはあり、万が一彼女たちの存在がハイレインにバレたら非常に分の悪い戦いを強いられることになるだろう。

そうならないためにできる限りの対策をしてきたのだが、100%成功の保証がない以上は気を引き締めていかねばならない。

潜入メンバーはツグミ、迅、ゼノンの3人である。

当然のことながらツグミは()()であるから不可欠な存在で、迅はアフトクラトル遠征の参加者として事前に下調べをしておくため。

そしてゼノンは街の様子を詳しく知っているだけでなく、最悪の事態となった場合の切り札であるからだ。

いざとなれば彼の(ブラック)トリガーで艇まであっという間に引き返せるし、場合によっては強引にエリン家の人間を拉致することもできる。

また一度座標を覚えてしまえば2度目は簡単に(ゲート)を繋ぐことができるので、エリン家の座標を知るためにもゼノンは同行してもらいたいのだ。

そうなると艇の留守番はリヌスとテオのふたりだけとなるが、敵のノーマルトリガーを無効化するリヌスのトリガーがあって、軽量型攻撃手(アタッカー)のテオがいれば心配はいらないだろう。

 

ツグミたちは艇から出る際に現地の人間に似せたトリオン体になり、さらにバッグワームを起動して庶民の服装になる。

これならレーダーでも肉眼でも「アフトクラトルのごく普通の庶民」として認識され、よほどのことがない限り怪しまれることはないだろう。

3人一緒だと不自然なグループなので、まずツグミと迅が城郭都市の郊外にある農家の若夫婦として南門 ── ベルティストン家の城郭都市の4つある門のうちエリン家が管理している ── の門番に中へ入れてもらい、その時に後から商人に扮したゼノンが来ることを伝えて別々にエリン家に案内してもらう予定である。

ヒュースの話によれば彼の手紙を門番に渡せばディルクに会えるよう手配してくれることになっている。

その手紙に何と書かれているのかツグミは知らないが、彼に悪意があればツグミたちをハイレインたちに()()ことにもなりかねない。

しかしそんなことをしてもディルクの身の安全が保証されるわけではなく、ツグミに協力した方がヒュースにとっても利益となるのだから彼が()()()ことをするはずがないのだ。

 

ベルティストン家の城下町までは艇を留めた場所から8キロほど歩かねばならない。

もっと近くに留められる場所はあるものの、念のために離れた場所にしたのだ。

トリオン体だから生身の身体の時よりも疲れることはないし、郊外に広がる農地や草原・荒地の様子を知るにもちょうど良い。

ただし地元民と出会った時には気を付けなければならないことがある。

なにしろツグミと迅は玄界(ミデン)の人間であり、勘の良い人間ならほんの僅かな違和感にも気付いてしまってトラブルにもなりかねない。

よってできるだけ地元民には会わないようにし、会っても挨拶 ── 右手を自分の胸に当てて軽く会釈する慣習 ── をするだけにしておこうということになった。

こうした現地の習慣などもゼノンたちの情報のおかげで、ツグミが当初から彼らに友好的な接し方をしていたからこそ友人として彼らも協力をしてくれているといえよう。

 

 

 

 

ツグミと迅がベルティストン家の居城のある城郭都市に到着したのは昼をだいぶ過ぎていた。

それは食事の邪魔をされて喜ぶ人間はいないのだから、昼食を終えて夕食の時間になるまでに話を済ませようというツグミの計画によるものだ。

 

「ジンさん、ようやく着きましたよ。初めて見ますけど、初めてというカンジじゃないですね」

 

ゼノンたちの情報でベルティストン家の城郭都市を再現した仮想空間を選抜試験や訓練に採用したのはツグミである。

見覚えがあって当然だ。

もっとも再現したといっても大雑把なものであるから、城郭内を実際に見てそれを遠征のために生かさなければならず、よって迅はそのためにいると言っても過言ではない。

 

「ああ。まだだいぶ距離があるというのにものすごい威圧感がある。もしこれを初見で攻略しろと言われたら、この壁を見ただけでプレッシャーを感じて実力を出すのは難しいだろうな。ボーダーの本部基地に比べたら低いが都市の規模が圧倒的に大きいし、壁の高さは15メートルってことだったけど、どうやらゼノンたちが調べた後に何かあったらしい。壁の高さが20メートル、いや25メートルは優に超えている。足場になるようなものは周囲にないから壁を乗り越えるのはさらに難しくなったぞ」

 

「そうですね。でも堂々と正面から突入しないで済む方法があれば問題ありません。それに遠征部隊の目的はC級隊員の救出で、ハイレインたちと戦って勝つことじゃありません。頭を使ってできるだけ戦闘を避ける道を模索し、どうしても戦わなければならないという時に困らないように戦闘訓練を続けているんです。わたしは遠征に参加できませんからこうして陰ながら援護しようとしているんですけど、城戸司令が参加しろと命令をしてくれたらわたしだって全力で戦いますよ」

 

周囲が何もない更地の状態だから城郭都市がその存在感を何割増にもしていて、見る者を圧倒している。

城壁の高さが増しているのは敵国との戦いというよりも国内での紛争 ── 四大領主同士の戦闘でもあったのではないかとツグミは考えていた。

軍事大国のアフトクラトルに攻め入るようなバカな国は少ないだろうし、おまけに首都ではなく四大領主が治めるとはいえ一地方都市を攻撃するとは思えないからだ。

四大領主同士で権力争いをしていて、次期の「神」候補探しに躍起になっているくらいだから、直接戦闘がなくても備えのために城壁を高くしたとも考えられる。

まあ、どちらにせよ要塞として強固なものになったわけで、権力を握りたい男の野望が形になっていると思うとツグミは胸糞悪くなった。

 

「ハイレインや他の貴族共が戦うのは勝手だけど、そのために無関係な人間が巻き込まれて迷惑をするんだからたまったもんじゃないわ。貴族同士の争いを止める気はないけど、あの男にはひと泡吹かせてやらないと気が済まない。直接対決はゴメンですけどね」

 

やれやれといった顔でツグミは言うと、今度は気合を入れて表情を引き締める。

 

「さあ、行きましょう。ヒュースの話によれば門番に彼の手紙を渡せばエリン家の屋敷に案内してくれるみたいですから」

 

 

 

 

南門ではふたりの兵士が暇そうな顔で立哨していた。

ヒュースから聞いた話だと南門を使って出入りするのはエリン家の所有する農園の小作人くらいなものだから、見張りをしていても顔見知りの人間しか通らないとのこと。

だからここを通過するには顔パスで済むのでこれといってやることなどないのだ。

しかし逆に言えばツグミと迅という他所者がやって来ることは非常に珍しいということになり警戒されるのは明らかだ。

そのためにツグミはヒュースに手紙を書いてもらい、不審者ではないことを証明してもらうことにしていた。

 

ツグミと迅は門番のそばに歩いて行くと、右手を胸に当てて会釈をした。

すると門番のふたり ── 向かって右側は20代半ばの恰幅の良い男性、左側はツグミと同い年くらいの細身の少年である ── も同様に挨拶をする。

 

「見かけない顔だが、おまえたちは何者だ? 何をしに来た?」

 

恰幅の良い男性兵士が迅に訊く。

そこでツグミは持っていたカバンの中から封筒を取り出して兵士に手渡した。

 

「エリン家の御当主様にお目にかかりたいのですが、お取次をお願いします。ヒュースからこれを預かってきました。まずはこれをお読みください」

 

「ヒュースだって?」

 

玄界(ミデン)への遠征で殉職したと聞かされていたようで、怪訝そうな顔をしながらも封筒を開いて手紙を読むと兵士の顔色が変わった。

そして興奮気味で少年兵に言う。

 

「おい、ヒュースは生きていたぞ!」

 

「ホントですか!?」

 

「ああ、手紙には玄界(ミデン)のボーダーという組織で保護されていて、近いうちに帰還できるだろうと書かれている」

 

「そうですよね、ヒュースがそう簡単に死ぬはずがないですもんね」

 

兵士たちの会話を聞いていればヒュースが生存していたことを喜んでいることがわかる。

エリン家に仕える兵士たちは誰もがエリン家の家族を慕っており、エリン家の家族同様に扱われているヒュースも兵士たちのリーダー的な役割を果たしていたものだから彼が死んだと聞かされて悲嘆していたはずだ。

そこに生存の報がもたらされたのだから嬉しくないはずがない。

そしてその吉報を持って来たツグミと迅のふたりを歓迎するのは当然である。

 

「ヒュースの手紙を読んでいただいたのですからわたしたちの正体はおわかりだと思いますが、改めて自己紹介いたします。わたしは霧科ツグミ、こちらは迅悠一と申します。玄界(ミデン)からまいりました」

 

ツグミがそう言うと、兵士たちも自己紹介をした。

 

「オレはタルサ、こっちはカトゥスだ。…カトゥス、この手紙を持ってお屋敷まで行き、セリウスさんに事情を説明して来い」

 

「了解!」

 

カトゥスは城内に向かって駆け出した。

するとタルサは申し訳なさそうにツグミたちに言う。

 

「少しだけ待ってほしい。手紙は本物だとわかっているが、下っ端のオレたちだけで判断できるものじゃないからな」

 

「ええ、承知しています。セリウスさんというのは執事の方ですよね? ヒュースから話を聞いています。玄界(ミデン)の人間が突然やって来て御当主様に会わせろと言ってもすんなりと事が進むとは思っていません。いくらでも待ちますよ」

 

カトゥスが戻って来るまでの約20分、ツグミはタルサからヒュースのことについていろいろと訊かれた。

別に隠すこともないことなので、玉狛支部での日常について捕虜ではなく客人扱いされていると話し、自分が作ったポトフを美味しそうに食べてくれたことなども教えると彼は目を細めて喜んでいた

どうやらタルサとヒュースは個人的に親しい間柄のようで、ツグミが訊くとヒュースがエリン家に引き取られるまで下町で兄弟のように育ったのだと満面の笑顔で答えたのだった。

 

 

 

 

カトゥスの案内でエリン家の屋敷に着いたツグミと迅はエリン家の執事・セリウスに出迎えられた。

年齢は60代半ばくらいで、執事というよりも「じいや」さんと言った方が似合う温厚な雰囲気の男性である。

 

「ようこそいらっしゃいました、玄界(ミデン)のお客人。私は当エリン家の執事のセリウスと申します。旦那様は所用で出かけておりますがまもなく帰ってまいります。さっそく客間にご案内を…と言いたいところではございますが、トリオン体への換装を解いてトリガーをお預け下さるようお願い申し上げます」

 

セリウスの言い分はもっともである。

 

「これは大変失礼いたしました。ここまで来るのに身の安全のためにトリオン体でまいりましたが、このお屋敷の中でしたら安全ですものね。…トリガー、解除(オフ)

 

ツグミが換装を解くと、迅も同じように換装を解いて生身の状態に戻る。

そしてトリガーをセリウスに預けた。

 

「たしかにお預かり致しました、キリシナ様、ジン様。お帰りの際にお返し致します。…では、こちらへどうぞ」

 

ツグミと迅はセリウスに案内されて客間に通される。

そこは貴族といっても先代当主が戦場で功績を残したことで与えられた名ばかりのもの。

豊かな生活をしている庶民と同じくらいの生活レベルだから部屋の調度は質素なもので、ドラマなどで見た西洋の貴族の館を想像していたツグミはほんの少しだけがっかりしてしまった。

 

(でも逆になんとなく落ち着くかな…。エリンさんがどうこうというよりも周りをきらびやかな調度品で囲まれた豪華な部屋だったらそれに圧倒されてしまいそうだもの)

 

ツグミはそんなことを考えながらセリウスに促されて椅子に腰掛けた。

 

「旦那様はまもなくお越しになりますので少々お待ちくださいませ」

 

セリウスはそう言って客間を出て行った。

 

 

残されたツグミと迅は部屋の中を見渡しながらそれぞれ感想を言う。

 

「貴族っていうからもっとでかい屋敷に住んでるかと思ったが、案外普通だな」

 

迅も自分の描いていた貴族のイメージと違っていたことに驚いているようだ。

 

「でもわたしはこういう佇まいは好きですよ。わたしが抱いていた貴族ってもっとこう絢爛豪華な調度品を見せびらかすように並べてある客間に客を招いて自慢するイメージですから。インテリアは質素ですけど品が良い。ヒュースからこの屋敷の主人について優秀なトリガー使いではあるが戦士として戦うことよりも趣味の読書や家族との時間を大切にする温厚な人物だと聞いています。それは祖国のためなら戦うことを厭わないがそれは家族と一緒に過ごす大切な時間を守るためというもので、話し合いに応じてくれさえすればわたしたちだけでなくヒュースにとっても良い結果となるはずです」

 

「いいな、おまえのそのポジティブな考え方」

 

「世の中が悪いものや悲惨な事柄で満ちているんですから、楽天主義者(オプティミスト)としての考え方で生きないと辛くなるばかりです。わたしの考え方はむしろ悲観主義者(ペシミスト)に近いと自分では思っていて、だからこそあえて意識してオプティミズムな行動をすることにしているんです」

 

楽天主義者(オプティミスト)とか悲観主義者(ペシミスト)といった言葉の意味が良くわからないという顔の迅にツグミは説明する。

 

「一般にグラスに半分残った水を見て『まだ半分もある』と言うのは楽天主義者(オプティミスト)で、『もう半分しかない』とネガティブな捉え方をするのが悲観主義者(ペシミスト)とされています。わたしの場合は夏休みの宿題で『もう半分も終わった』ではなく『まだ半分も残っている』と考えてしまうものですから、半分終わったことを意識する暇を与えずに最後まで全部一気にやってしまうんです」

 

「ああ、だから毎年7月中に全部宿題を終わらせていたのか」

 

「そのとおりです。…三門市で暮らしていくということは日常生活の中に常に戦いがあって、その戦いに負けたらすべてを失うということ。どうせ近界民(ネイバー)との戦争はなくならないのだからといって逃げてしまうのは簡単です。でも逃げようとすれば大切な家族や仲間を捨てなければならない。それだけは嫌だからせめて()()()()()()()()()だけは守ろうとボーダー隊員を続けているんです。わたしが好き好んでボーダー隊員をやっていると思いますか? 戦って勝たなければ生きていけないから戦うのであり、強くなるために訓練を欠かすことはできず、やりたいことがあってもボーダー活動を優先させなければならない。もしわたしに守るべき家族や仲間なんていなければ三門市をとっくに出て行って別の街で暮らしていたでしょうし、三門市が近界民(ネイバー)と無関係は平和な街だったらわたしは今頃普通の高校生活を楽しんでいたはずです」

 

「……」

 

「これからわたしはボーダーだけでなくエリン家の家族や家臣の人たちにとっても人生の中で重要な分岐点となる会談を行うことになるわけですが、ここで会談が成功しても近界(ネイバーフッド)での戦争がなくなるわけではありません。(マザー)トリガーの件だってディルクさんが生贄にならずに済んだところで他の誰かが犠牲になる。根本的な解決に至るとこにはならずとも()()()()()()()()()の幸福を手に入れたいと考えて行動しているんです。もしわたしが根っからの楽天主義者(オプティミスト)だったらこんなことはしません。悲観主義者(ペシミスト)だからこそオプティミズムな考え方も取り入れて行動するんですよ」

 

ツグミはにこやかに持論を述べた。

当然ながら楽天主義者(オプティミスト)にしても悲観主義者(ペシミスト)にしても長所と短所がある。

楽天主義者(オプティミスト)は明るく、ポジティブ・シンキングであり、最後には何とかなると考える。

しかしそのデメリットとしては危機感や切実感がなく、短期的な発想にならざるをえない。

さらに最後には何とかなると考えているので対策はなく、同じ失敗を繰り返してしまうことが多い。

くよくよしないことは他人を元気付けるがメリットにもデメリットにも繋がるというもの。

反対に悲観主義者(ペシミスト)は努力しても無駄だとすぐにあきらめるところはデメリットであるが、最悪の結果を想定して物事を考え、対処することで切実感を持ち、中長期的に物事を考えて努力するような点はメリットとなる。

ツグミの姿が周囲の目には楽天主義者(オプティミスト)に見えるのは彼女が自分の悲観主義者(ペシミスト)という本性を良く知っていて双方の長所・短所を理解した上で行動しているからなのだ。

 

「なんだか難しいことを言ってるが、俺が『おまえは能天気だな』という考えは間違っているということだよな? 何でも上手くいくと暢気にかまえているのではなく、最悪の状況を想定していて対処方法まで考えているから良い結果を導き出せる、と」

 

「そのとおりです。…ってあまりおしゃべりしていてはマズイですね。ディルクさんが来た時に行儀が悪いと思われてしまうと()()()話し合いができなくなってしまうかも知れませんから」

 

ツグミはそう言って姿勢を正して静かに待つことにした。

しかしふたりの会話はすべて隣の部屋にいたディルクとセリウスに聞かれていたのだ。

 

「面白い人間がやって来ましたね、旦那様」

 

「ああ。()()ヒュースが私たち家族のことを話すくらいだ、よほど彼女のことを信頼しているのだろう。ヒュースの手紙によると彼女の言動は自分の大切な家族や仲間を守ることを第一主義とし、そのためなら近界民(ネイバー)であっても手を組む。取引をする場合、自分の利益を優先するが相手に損害を与えることを良しとせず、双方にとって利益となる道を模索するのが彼女の()()だそうだ」

 

「なるほど…」

 

「つまりお互いに利益になるとわかれば全力で行動するということで、途中で裏切ることはないだろう。逆にこちらが裏切るようなことをすれば死に物狂いで反撃に出る可能性がある。ヒュースは彼女を『敵に回したくない人物』と称している。なぜヒュースが彼女をそのように評価するのか少しわかった気がする。少なくとも彼女は年齢に見合わず賢い娘で、利用できれば大きな収穫を得られるだろう。さて、行こうか」

 

「では奥様とレクス様にはどのようにお伝え致しましょうか?」

 

「ヒュースの友人が玄界(ミデン)からやって来たとだけ言っておいてくれ。詳しいことは会談が終わった後に私の口から説明する。ああ、ヒュースが生きていたことは伝えてくれ。きっと喜ぶだろうからな」

 

「承知致しました」

 

ディルクとセリウスはツグミたちの様子をこっそり覗って人となりを確認しようとしていたのだ。

部屋に通されて主人が来るまでの待っている間に何をするか、どんな会話をするのかを知れば初対面の人間に対しての接し方が決まるというもの。

そして対等に話ができるか判断し、ツグミはディルクから「対等に話ができる相手」として認められたわけである。

しかしツグミはディルクが自分たちを見定めるために何らかの手段 ── 隠しカメラや盗聴器 ── を使うだろうと想定はしていた。

よって聞かれていることを承知で自分がどのような考えを持って行動しているのかを()()()()()ディルクにアピールしたのだった。

もちろんディルクは彼女がそこまで考えて行動しているなどとは露ほども思ってはいない。

 

 

 

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