ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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267話

 

 

雪原の大国「キオン」

近界(ネイバーフッド)においてアフトクラトルと並ぶ二大軍事国家のひとつで、厳しい気候と地形が侵略しようとする敵を阻んでいる。

レプリカの情報では7年前の時点で6本の(ブラック)トリガーを有しているそうだが、現在は不明。

ゼノンたちも国家の最高機密としてこの情報はツグミに教えられないのだ。

イルガーを使う数少ない国のうちのひとつであり、接近してくる4つの国にも入っていたことから、先の大侵攻では攻めて来る敵国の有力候補として名が挙がっていた。

ハイレインたちが多数の(ゲート)を開いてトリオン兵を投入したものだから、ゼノンたちはそのどさくさに紛れてボーダーに気付かれずに三門市に潜入したのだった。

惑星国家であるため決まった軌道を描いており、約1年の周期で玄界(ミデン)に近付くという。

したがって最接近したのが3ヶ月前だから現在は玄界(ミデン)からだんだん遠ざかっていて、復路は往路よりも時間がかかるのは間違いない。

よっていかに交渉を上手く進めて成功させるかが鍵となる。

1日でも早く帰ることができればそれだけアフトクラトル遠征の準備に役立つのだから。

 

 

「う~、寒い。覚悟はしていたけどやっぱ寒い」

 

防寒具に身を包んだツグミは一面に雪が積もったキオンの大地に第一歩を記した。

彼女は宇宙飛行士が月面への着地をした時のように厳かに足を踏み出したのだが、そのまま雪の中に足がズボッと沈み込んでしまう。

雪の深さは30センチほどで、キオンでは一番雪の多い季節には3メートル以上積もるというのだからこれは非常に少ないといえる。

雪原の大国と呼ばれてはいるが1年中雪が降っているのではなく、1年 ── この国の場合は約400日 ── のうちで約100日は雪のない季節もあるそうだ。

1年の4分の3が雪に覆われているこの国にとってこれからの約100日はかろうじて作物の収穫ができる期間で、日本でいえば長い冬を終えてやっと春になったという喜ばしい季節なのである。

それでも普段雪など滅多に降らない三門市に住んでいるツグミにとっては真冬の感覚で、白い息を吐きながら真っ新な雪の上を走り回っていくつも足跡をつけて喜んでいる。

ゼノンたちキオンの人間にとって雪は生活の上で不自由を強いられる邪魔物でしかないので、ツグミの嬉しそうな表情で雪と戯れる様子に唖然としていた。

 

「ツグミ、雪が珍しいのか?」

 

テオが呆れたような顔で訊く。

 

「ええ、もちろん。三門市じゃ雪なんて滅多に降らないもの。何年かに一度5センチとか積もると大騒ぎするくらいよ。交通はマヒするし、雪に慣れていないから歩いている時に転倒して怪我する人も出るんだから」

 

「へえ~、案外便利に見える玄界(ミデン)の生活にも弱点があるんだな」

 

「それにこんな真っ白でフワフワの雪じゃなくてビチョビチョの水分の多い雪だからこの光景はすごく珍しいのよ」

 

「たしかにきれいな景色だけど何の役にも立たないどころか邪魔なだけなんだぜ」

 

「あら、そうでもないかも知れないわよ。玄界(ミデン)には雪を利用して生活に役立てているシステムもあるんだから。アメリカって国の大学では雪を使った発電を実現させたくらい」

 

「雪で発電だって!?」

 

テオは驚くが、それはツグミが自分をからかって冗談を言ったのだと思った。

 

「そんなバカなことがあるもんか。太陽の光や風で発電するというのはなんとなく原理はわかる。おまえが説明してくれたからな。だけどどうしたらこんな冷たい水の塊で電気が作れるんだ?」

 

「詳しい話は別の機会にしてあげるわ。それに関する資料も持って来ているから。…みんなも準備ができたみたい。すぐに行くんでしょ、総司令部ってトコに?」

 

「ああ。だけど本当にいいのかよ?」

 

「何を今さら。ちゃんと5人で打ち合わせをして納得したシナリオなんだから決行するのみよ。絶対に成功する。テオくんがヘマをやらかさなければね」

 

「オレは大丈夫だよ。ほとんど隊長がやってくれるし、ジンにも悪い未来は視えないってことなんだから」

 

「問題はジンさんがまだ総統閣下という人に会ったことがないってこと。会ったことのない人の未来は視えないから、どんな判断をするのかわからないのよね…」

 

「でもオレたちにとって都合が悪いことにならないんならひとまずそれでイイじゃん」

 

「まあ、そうね。じゃ、みんなのところに行きましょう」

 

 

艇が停泊しているのは首都・マーグヌスの郊外の森の中である。

ここには軍用の艇のドックがあって、最新鋭の艇がいくつも係留してあるものだから、ゼノン隊の旧式で小さい艇がみすぼらしく見えてしまう。

その小さな艇の下には人が10人くらい乗ることができる橇があって、艇の中から運び出したダンボール箱が積んである。

そしてその橇を引くのはなんとトリオン兵である。

バンダーを体長2メートルくらいに小型化したもので、馬橇ならぬトリオン兵橇となっているのだ。

キオンにも馬や牛はいて農家が畑を耕したり作物を市場へ運ぶ時などに使っているそうだが、軍ではもっぱらトリオン兵を使っていて橇を引かせるだけなく鞍のようなものを着けて騎乗することもあるらしい。

ちなみにこのトリオン兵はエクウスと呼び、通常は卵の状態にして携帯しておくのだということだ。

 

ツグミが雪と戯れ、その様子をテオが呆れて見物をしている間に出発の準備は完了していて、ふたりが橇に乗り込むとすぐに出発した。

森の木々は寒冷地に多い針葉樹林ばかりで、その森を抜けると今度は何もない平原が続いていて、そのずっと先にアフトクラトルで見たベルティストン家の城下町の何倍もの大きさの城郭都市の姿が見える。

 

「あれがキオンの首都・マーグヌスだ」

 

ゼノンが指を指してツグミに教える。

 

「都市というよりも要塞ってカンジですね。さすがは軍事国家キオンの首都。アフトクラトルの首都もこんなカンジなのかしら?」

 

「アフトの首都は城壁なんかで守られてはいない。まるで来るなら来いって言っているように巨大な城がそそり立っている。アレは初めてだと圧倒されるぞ」

 

可笑しいのか、ゼノンは思い出し笑いをしながらツグミにそう言った。

 

「それからマーグヌスの城壁は高さが約10メートルしかないんだが、それは敵の攻撃から街を守るためじゃないんだぞ」

 

「防御のためではない城壁…? それなら何で街の周りを囲っているんですか?」

 

城郭都市とは敵の攻撃を防御するために高い城壁を築くのだが、防御の意味がなければ壁を造る理由などないのだから疑問に思うのは当然だ。

 

「行ってみればわかるさ。それよりも引き返すなら今しかないぞ。まもなく軍総司令部の管轄する領域に達する。中に入ってしまえば ──」

 

「三門市を発った時から覚悟はできています。今さら怖気づいて逃げるなんてありえませんよ」

 

「わかってるさ。ちょっと言ってみただけだ」

 

ゼノンは悪気があって言ったのではない。

彼の隣で緊張しているツグミをリラックスさせたかったのだ。

さすがのツグミもキオンの最高権力者に面会をするのだから平静ではいられない。

彼女は主演女優となるのだから一度舞台に上がってしまったらもう最後まで演じるしかない。

それにツグミだけでなく迅やゼノンたちの未来も彼女の書いたシナリオ・演出・演技にかかっているのだから緊張もするはずだ。

キオンに到着する直前までツグミたちはこれから先どうするかについて長い時間をかけて協議し、彼女が主演となるシナリオを何本か書いていた。

どのシナリオを使うかは相手の反応や機嫌によって決めることになっているが、「第1幕」はすべて共通していて彼女は「ミリアムの(ブラック)トリガーの所有者であり唯一の適合者であるということでゼノン隊に拉致されて連行されて来た」というもの。

ゼノンたちが任務を無事に遂行したとなれば彼らが罰せられることはなく、逆に褒美として一等市民に昇格する資格を得られることになっている。

なにしろ彼らの任務は連行して来るまでで、ツグミを引き渡せばそこで任務完了となるのだから、そのあとツグミが素直に従うかどうかは彼らには無関係となるのだ。

もちろんツグミはこの先の「第2幕」から本領を発揮することになっていて、(ブラック)トリガーを渡すこともキオンのために戦うこともせず、(ブラック)トリガー以上に価値のあるものを提供して相手を抱き込むという内容だ。

そのための物資や情報をかき集めて運んで来たが、それをいかに魅力的なものであるかは彼女のプレゼンテーションの腕次第で、まず相手に興味を持ってもらわなければ先には進めない。

だからキオンに着くまでの数日間、ツグミはゼノンたちを相手に何度も練習をしていた。

時間はたっぷりとあったのだから。

 

「それにしても任務に失敗してからずっと、あなたと一緒にキオンに来ることになるとは想像もしていませんでした」

 

ツグミの後ろに座っているリヌスが声をかけてきた。

 

「わたしも自分がキオンへ行くなんてことは考えていませんでした。でもみなさんにお土産だけ持たせてそれでおしまいにするのでは、ここでキオンとの関係が悪くなったままで終わってしまいそうで、せっかく縁ができたのですからこれを利用できないかと考えたら…」

 

「それで自分が行ってしまえ、ということになったわけですね?」

 

「はい。他にもやっておきたいことがありましたから」

 

ツグミは当然だといった顔で答える。

しかし次元を越え、さらに天文学的な距離を旅して未知の、それも敵となりうる国へと赴くなど正気の沙汰ではない。

おまけに彼女はミリアムの(ブラック)トリガーを持っているだけでなくその適合者でもある上に、そのことを途中で立ち寄った国々で喧伝してきた。

当初はゼノンたちに帰国の途上でお願いする予定でいたことだ。

「キオンの人間が20年以上も探していたミリアムの(ブラック)トリガーを玄界(ミデン)のキリシナ・ツグミという少女が持っている」と自らが玄界(ミデン)で見聞きしてきたかのように話し、その少女はキオンがその奪取に失敗したくらいの手練であるということも広めている。

さらに玄界(ミデン)にはボーダーという組織があり、敵対する近界民(ネイバー)と戦っていて「()()アフトクラトルの軍が国宝の(ブラック)トリガーを含めて複数の(ブラック)トリガーを投入して侵攻をしたが手酷い目に遭ってたった半日で追い返された」という点には特に力を入れておいたのだった。

こうした話をしたのはそれぞれの国の街の居酒屋やレストランといった場所で、噂話的なものは酒の入った状態で聞いたり話したりすると尾ヒレが付いて実際のものよりもはるかに大袈裟なものになる。

ツグミたちはまだ知らないが、彼女たちが触れ回った国の庶民の間ではこんな噂が流れていた。

玄界(ミデン)のキリシナ・ツグミという少女はたったひとりで数千数万の敵を殲滅できる(ブラック)トリガーを持っていて、キオンの一個小隊をあっという間に一掃した」

玄界(ミデン)にはボーダーという侵攻してくる国に対しては容赦なく討ち滅ぼす軍事組織があるが、自ら近界(ネイバーフッド)へ進出する気はないから敵とならない限りは心配いらない」

玄界(ミデン)を敵に回すならアフトクラトル以上の軍事レベルを持たなければ返り討ちにされるだけだ。死にたくなければ玄界(ミデン)には迂闊に手を出すべきではない」

などのもので、のちに復路で立ち寄った国でそんな噂話が広まっているのを知ってツグミたちは苦笑することになる。

 

 

ツグミたちの乗った橇がマーグヌスに近付いて行くにつれてその異様さがはっきりとしてきた。

地上にあるモン・サン=ミシェルと表現するのがピッタリの光景で、その規模を数倍にして周囲を城壁で取り囲んでいるというもの。

中央にある尖塔を持つ建物が神殿で、そのすぐ下にはキオンの政治を司る総統府の建物があるのだそうだ。

しかし総統府とは反対側の「北門」へと向かっているので総統府の建物はまだ見ることはできない。

 

「マーグヌスの通用門は4つある。街の北エリアに総司令部があるものだから、北門はその敷地に直接繋がっていて軍関係の人間の出入りや物資の搬入などは全部北門を使用することになっているんだ」

 

リヌスの横に座っているテオが説明をしてくれた。

 

「四方にある門はそれぞれ使う人間が決まっていて、北門は軍関係者だけ。南門は貴族や一等市民、他国からの賓客といった身分のある人間しか使えない。東門は二等市民以下の人間が使う。オレたちは軍人だけど任務外では東門を使うんだ」

 

「じゃあ西門は?」

 

「西門というのは普通の人間は使わない。マーグヌスの西には()()()ものしかないから」

 

テオが声を低くして言う。

 

「穢れたものって?」

 

「墓地とか強制収容所とか。だからマーグヌスで死んだ人を運び出したり、罪人を収容所へ送り出す時だけ西門は開くことになってるんだ。つまり西門が開くのは街から出て行く時だけで、街の中へ入るってことはありえない。オレは詳しいことを知らないけど()()キオンになってからずっとそういう決まりになってるんだってさ」

 

テオの言う「今の」という部分が気になったが、ツグミは訊かずにいることにした。

 

 

◆◆◆

 

 

北門に到着するとゼノンが門番の兵士に身分証のようなものを見せて橇ごと中へ入れてもらった。

そこでまずツグミは驚いた。

 

「雪が全然積もってない…」

 

外はまだ30センチくらい雪が積もっているのだが、街の中へ入ったとたんに雪がまったくなくなったのだ。

さらにそれだけではなく道が石で舗装されているのだが、道が乾燥していて雪が溶けたという形跡すらない。

その舗装された道も非常に整備されているので、橇の状態であってもガタガタと揺れることはなく、まるで氷の上を走るように進んで行った。

 

「城壁の内側はトリオンを使って地面を熱していて、雪が降っても積もらないようになっている。だからどんな時でも街の中には雪はなく、こうして道も歩きやすい」

 

ゼノンが説明する。

 

「へえ…ロードヒーティング完備ってことなんですね。玄界(ミデン)にも似たようなシステムはありますけど、トリオンを使うところが近界(ネイバーフッド)らしいです」

 

玄界(ミデン)ではどうやって雪を溶かすんだ?」

 

「地面に電熱線や温水の流れるパイプを通しているんです。…ところで総司令部まであとどれくらいなんですか?」

 

「もうここは軍の敷地だ。この中央通りの両側にあるのは軍人のための商店や飲食店で、この先に寮や訓練場があって、一番奥に総司令のいる本庁舎やいろいろな建物がある。軍の施設といってもここだけでひとつの街みたいなもので、ここで暮らしていると一般市民との接触はほとんどない。ただし一等市民になれば家族と一緒に暮らせるようになるから、ここにいるのは二等市民ばかりで、あとは寮の下働きをする三等市民が少しいるだけだ」

 

ゼノンの説明にリヌスが補足した。

 

「三等市民であってもここで働くことができるだけ恵まれています。軍の施設で働く以上は健康でなければいけませんから兵士と同じように定期的に健康診断を受けられ、病気になれば治療も受けられるのですから。それに若い女性ならここの兵士に見初められると結婚して二等市民になれることも多いです。だからここの寮の賄い婦や掃除婦は非常に人気のある職業なんですよ」

 

女性の数が少ないキオンであるから、結婚適齢期の男性は有り余っている状態だ。

だから女性に対して非常に紳士的な男性が多く、ゼノンたちがツグミに対しても同様に接したからこそ、ツグミも彼らのことを信用して友人と認めたのである。

ただ、逆にキオンの女性は男性からチヤホヤされるのに慣れてしまっているので、中には結婚する時にたくさんの条件を並べ立てて実家の援助をさせたり、結婚したとたんに態度が横柄になったりと男性は結婚するのにも苦労し、結婚してからも苦労するらしい。

そういうことで結婚を諦める男性も大勢いるものだから、繁華街にはそういう人たちのための施設もある。

大通りから一歩裏道に入ったところには娼館もあって、そこでは三等市民の女性が働いているのだが、女性だけでは足りないのでその倍以上もの数の男娼もいるそうだ。

 

北門を入ってしばらく真っ直ぐに南に向かい、「総司令部本庁舎」という建物の右側を迂回すると裏側に橇を停める駐車場のようなものがあって、ツグミたちはそこで橇を降りた。

 

「今から俺はツグミとジンを連れて総司令に面会をする。リヌスとテオは橇と荷物をいつもの場所に運んでおいてくれ」

 

「「了解」」

 

ゼノンはリヌスとテオに指示を出すと、ツグミと迅を連れて総司令部本庁舎の裏口から中へ入って行く。

ミリアムの(ブラック)トリガーの捜索に長い時間をかけてしまったものだから、ゼノン隊は同僚たちからそんざいな扱いを受けていて、正面から堂々と入るのには気が引けるという理由だ。

 

「でも任務に成功したのだから堂々と正面から入ればいいんじゃないですか?」

 

ツグミがそう訊くと、ゼノンは苦笑して答えた。

 

「いや、それだけじゃないんだ。これまで何度も悪い報告ばかりしていて裏口から入るのに慣れてしまったもんでな、正面玄関の場所を忘れてしまったんだよ」

 

そんな冗談を言っているうちに総司令執務室の部屋の前に到着した。

総司令というのだからボーダーであれば城戸のポジションであり、ツグミは城戸のようなしかめっ面の恐い顔の中年男性をイメージする。

しかしそのイメージはすぐに瓦解した。

 

「ゼノンです」

 

ドアをノックして名乗ると、中から落ち着いた老人の声がした。

 

「おう、やっと来たか。中へ入れ」

 

「失礼します」

 

ツグミはゼノンの後からついて中に入ると、正面の大きな机の向こう側にいたのは穏やかな笑みを浮かべた温厚そうな長身の老人であった。

彼女は資料映像で見たアフトクラトルのヴィザをすぐに思い浮かべ、無意識に警戒してしまったくらいだ。

 

「ハハハ、そんなに神経を尖らす必要はない。別に取って食おうというのではないのだからな。それに大事な(ブラック)トリガーの所有者で適合者だ、ぞんざいな扱いはせんよ。…ところでその青年は?」

 

総司令は迅をチラリと見てゼノンに訊いた。

 

「彼はユーイチ・ジン、ツグミ・キリシナの護衛です」

 

「ほう…護衛の兵がいるということは、この子はそれなりの要人ということなのかな?」

 

「はい。玄界(ミデン)において対近界民(ネイバー)及び近界(ネイバーフッド)との交流の窓口となるボーダーという組織の最高司令官が実の娘同様に可愛がっている少女ですから」

 

「そうなるとこちらも失礼のないようにしないけないな」

 

そう言って総司令はツグミに向かって挨拶をした。

 

「はじめまして。そしてようこそ、キオンへ。儂はキオン軍総司令のサーヴァ・コンプソス。そこにいるゼノンの伯父だ」

 

ツグミは「え?」という顔でゼノンを見ると、ゼノンは無言で頷いた。

その様子を見ていたサーヴァが可笑しそうに笑いながらいう。

 

「そうか、ゼノンは何も話していなかったようだな。こいつは儂の一番下の妹の息子で、軍人になった息子や甥っ子の中で一番優秀な奴だぞ」

 

ゼノンは自分には家族はいないと言っていたが、親戚と呼べる人間はいたのだった。

しかしそのことを話さなかったのはこの伯父のことを少々苦手としているからなのではないかとツグミは察した。

おまけに軍の最高司令官が身内であるとなれば周りの目も厳しくなるし、おまけにずっと成果を出せずにいた部隊の隊長であるから風当たりも強い。

たぶん同僚にも内緒にしているのかも知れない。

 

「ええ、優秀な軍人であることは承知しております。同時に祖国と仲間をとても大事にしていることも」

 

ツグミがそう言うと、サーヴァはにやりと笑った。

 

「なるほど、ゼノンが儂に会わせたかったわけだ。ただの虜囚なら報告だけで済ませたはずだからな。何かあるんだろ?」

 

「もちろんです。詳しいことは報告書を提出しますが、今晩時間があれば一緒に食事でもしながらお話したいと思うんですが、いかがでしょうか?」

 

ゼノンがサーヴァに訊くが良い答えは得られなかった。

 

「すまん。今夜は先約がある。総統閣下との面会は明後日まで無理だから、明日の昼か夜のどちらかでどうだ?」

 

「わかりました。明日の昼にでもお願いします。自分の他に部下がふたりいますから、合計5人になりますがどうでしょう?」

 

「よかろう。明日の昼、場所はいつもの店を貸し切っておく」

 

「よろしくお願いします」

 

ゼノンはそう言って頭を下げた。

伯父であっても総司令という上司でもあるのだから、こうした態度は当然である。

 

「では、そのお嬢さんと護衛の方には申し訳ないがいちおう虜囚ということなので、例の部屋を使ってもらおう。ゼノン、手配を頼む」

 

「了解しました」

 

「では下がってよろしい」

 

ツグミはゼノンとサーヴァの会話を聞いていて気付いたことがあった。

 

(このふたりの関係はわたしと真史叔父さんや城戸さんと似ている。部下と上司の関係だけどそれだけではなくて、表向きのものだけでなく()の任務も請け負っていて、公にできないようなことを総司令直下の部隊としてやっているんじゃないかしら? 何年もミリアムの(ブラック)トリガーの捜索をしていたのもその関係でしょうね。そしてわざわざわたしたちを総司令に引き合わせたのも、もしかしたら味方になってくれるかも知れないという希望があるってことなのかも)

 

そう思ったものだから、ツグミは迅の顔をチラリと見た。

すると黙ってニッと笑う。

それがツグミには「大丈夫。悪い未来は視えない」と言っているように思えて微笑み返したのだった。

 

 

 

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