ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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29話

 

 

ツグミは玉狛支部に戻るや否や、林藤に呼び出された。

 

「よう、ちゃんと親父さん孝行してきたか?」

 

「はい。朝ごはんを作ってあげるつもりで朝早くに行ったんですけど、真史叔父さんはまだ寝ていて、11時過ぎに自分で起きるまで寝かせておきました。やっぱりとても疲れていたみたいです。おかげで朝ごはんがお昼ごはんになっちゃいましたよ。それにずっと本部で寝泊まりしていたからシャツとか肌着とか靴下とか洗濯物が溜まっていてもう大変。寝ている間に洗濯を済ませてしまいました」

 

「忍田のおふくろさんは家にいねえのか?」

 

「今は蓮乃部の病院に入院中です。年末に腰を痛めてからあまり調子が良くなくて、近界民(ネイバー)の大規模侵攻も予想されていましたから、安全確保のために三門市を離れてもらっていました」

 

「なるほどな」

 

「でも来週には退院できそうです。…ということで家の掃除も全部やって、滋養のある食事をさせて…とわたし自身は身体を休ませる暇なんて全然ありませんでしたよ。むしろ防衛任務に就いている方が楽です」

 

「ハハハ…おまえのことも休ませてやりたいと思ったが逆効果だったか。お疲れさん。…で、本題だが…こないだの大規模侵攻の論功行賞の発表があり、授与式が明日本部で行われることになった」

 

「あれから1週間経ちますものね。それでそれとわたしが何か?」

 

「おまえには特級戦功が与えられるそうだ」

 

「わたしが特級戦功ですか!?」

 

驚くツグミに林藤は当然とばかりの顔で書類を見ながら言う。

 

「ああ。『本部基地屋上からの狙撃にてトリオン兵を多数撃破し、爆撃型大型トリオン兵を2体撃墜。新型を含めた南西部地区のトリオン兵の大多数を排除し敵戦力を大きく削り、C級隊員の救出にも努めた。さらに本部基地前の攻防で人型近界民(ネイバー)((ブラック)トリガー)2体を相手に奮戦し、敵の撤退に大きく貢献した。新型(ラービット)撃破数7』…というのが理由だ」

 

「……」

 

「ちなみに新型(ラービット)撃破数の1位は太刀川の11体で、次がおまえの7体だから誇っていいぞ。そして一番の功績はおまえが倒したトリオン兵の数だ。バムスター、バンダーといった大型だけでなく小型飛行トリオン兵の約3分の1はおまえがひとりで倒している。そのおかげで他の隊員がずいぶんと楽になったのは間違いなく、そこを本部の連中も評価している」

 

「そういうものですか…」

 

ツグミは自分の出した結果が評価されたことについて特にこれといって感慨はなかった。

自分のなすべきことをやっただけであり、結果はそれに伴って後から付いてきたもの。

それを他人が評価しているだけで、本人から見れば「それが何?」程度のものなのだ。

 

「それから…特級戦功で得られるポイント1500点と、撃破したトリオン兵の討伐によるポイントが3735点。合計5235ポイントが加わるわけだが、これでおまえは完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)として復帰することができる」

 

「…!」

 

2年前の処分で10000ポイント引かれたことにより、彼女はポイント不足で完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)を名乗ることができなくなっており、イーグレットのポイントが一番高いためにポジションは狙撃手(スナイパー)ということになっていた。

しかし今回のポイントを加えると弧月、通常弾(アステロイド)、イーグレットの3種がすべて8000ポイントを超えることになるのだ。

 

「これはめでたいことなんだが、ちと面倒なことにもなっている」

 

「どういうことですか?」

 

「今回の戦いで玉狛支部からおまえと遊真が特級、迅と小南と修が一級、レイジと京介が二級…と、宇佐美と雨取以外は全員が何らかの戦功で表彰される。この意味がわかるか?」

 

「…つまり玉狛支部の隊員(わたしたち)が大活躍したことを城戸派のお偉方は快く思わない、と。こっちはただ三門市のために戦っているだけなのに」

 

「あちらさんには面子とかプライドとかいろいろあんだよ」

 

「はあ…だったら論功行賞なんて出さなきゃいいんです。わたしはひと言も『欲しい』なんて言ったことありませんよ」

 

「それはそうなんだが、そうも言ってられないんだよ。おまえに褒賞を与えないと、他の連中に与えられなくなる。おまけにスポンサーの中におまえの活躍を見てファンになったヤツがいるらしくてな、そいつが口を挟んできた」

 

「はあ!? なんですかそれ!?」

 

「例の爆撃型を撃ち落とした様子を偶然見ていて、あれだけの実力を持つおまえが固定給のないB級だと知り『優秀な隊員へは正当な報酬を与えるべきだ。論功行賞だけでなくA級に昇格させろ』と言ってきたらしい」

 

「また余計なことを…。まあたしかに事情を知らない人間なら言いそうなことです。そうなると大事なスポンサー様のご意見を無碍にはできないってことで、城戸司令も困ったでしょうね」

 

「ああ。おまけにおまえの防衛隊員としての優秀さは城戸さんも良くわかっている。だからこそ玉狛支部(ウチ)に戦力が集中するのを防ぎたい。そこで城戸さんはその両方を一気に解決する名案を見つけた」

 

「名案?」

 

「おまえ、太刀川隊に入れ」

 

「太刀川隊? …ああ、なるほど。要注意人物のわたしを玉狛支部から切り離し、さらに自分の目の届く場所で飼い殺しにする、といったとこでしょうか」

 

「飼い殺しってことはねえだろうが、まあ玉狛の戦力を減らして都合良く利用しようって腹だな」

 

「特級戦功というご褒美を与えておけば簡単には逆らえなくなるだろうし、完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)という肩書きを持つ隊員なら、A級1位部隊(チーム)にスカウトされてもおかしくない。太刀川隊にはまったく使えないヤツがひとりいるから実質は戦闘員2名ですし、狙撃手(スナイパー)が欲しいとも言っていましたからね。それに万が一わたしが何か問題を起こしそうになれば、太刀川さんが()()()に抑えることもできる。上手いこと考えましたね」

 

「それはそうだが、太刀川は三輪のようなガチの城戸派じゃねえし、忍田の弟子だ。おまえにとってそれほど居心地が悪い場所とは思えんがな。それに出水とも仲良いだろ?」

 

「それはそうですけど…。それで支部長(ボス)は城戸司令のお考えに賛成なんですか?」

 

「いや、賛成というわけじゃねえが、俺はおまえがB級のままで埋もれてしまうのを惜しいとは思っている。もちろん玉狛にいてほしいとは思うが、それではおまえの可能性を潰してしまうことにもなりかねない。太刀川隊が嫌なら自分の部隊(チーム)を組んでランク戦に参加してもいい。例のことがあって部隊(チーム)を組めないとおまえは思い込んでるが、案外そんなこと気にしない連中もいるんだぞ。全部の部隊(チーム)が遠征選抜を目指してるってわけでもねえんだからな」

 

「…支部長(ボス)の言いたいことわかります」

 

「城戸さんだっておまえのことを憎んでいるわけじゃない。もちろん嫌ってもいない。あの時だって ──」

 

「はい、わかっています。あれはわたしがボーダーの規定(ルール)を守らなかったせいですから。だからわたしは城戸司令の処分に一切異論を唱えませんでした。ただお互いに相容れない部分があるのも事実。わたしは近界民(ネイバー)が襲ってきたなら戦いますけど、友好関係が築けるならその方がいいと思っています。…では、これで失礼します」

 

ツグミはそう答えると、乱暴にドアを開けて支部長室を出た。

 

 

 

 

ツグミは論功行賞を辞退しようと考えていた。

 

(玉狛に実力のある隊員が集まっていることが気に入らないという人間がくれるケチな褒賞などこちらから願い下げだわ!)

 

しかし論功行賞を辞退するとしても、別の問題がある。

林藤の言うように実力者の彼女がB級止まりであるのを惜しいと思う人間は多い。

2年前の隊務規定違反のことがあっても、彼女がボーダーにとって必要不可欠な存在であることを一番わかっているのが城戸自身である。

これまでも扱いにくいと考えていたのだが、今回の大規模侵攻で活躍したことで彼女の存在を無視することもできないない。

おまけにスポンサーから彼女を正当に扱えという意見が上がったというのだから余計にややこしくなった。

 

(本人がA級になりたいって言ったわけじゃないのに、他人が口出しするなんておかしいわよ。そりゃスポンサーがいなければボーダーの活動はできなくなるから仕方がないんだろうけど。…そもそも太刀川さんはこの件に関して納得してるのかしら? 城戸司令から問題児を押し付けられて迷惑しているというのならいいんだけど…それはないか)

 

太刀川隊は太刀川が攻撃手(アタッカー)、出水が射手(シューター)、唯我尊(ゆいがたける)が銃手(ガンナー)という3人の近・中距離型の部隊(チーム)である。

唯我はボーダーのスポンサーの息子で、太刀川隊に入れたのもコネのお陰だと囁かれている。

彼の実力がA級1位に見合うものであれば問題はないのだが、太刀川と出水からは「うちのお荷物くん」「半人前だからデカい顔しちゃダメ」「A級最弱」「B級と比べてもけっこう見劣りするレベル」と散々な評価をされているほど。

ならばツグミのようにすべてのポジションをハイレベルでやってのける人材が欲しいのはごく自然なことだ。

特に狙撃手(スナイパー)が加われば戦術・戦略の幅が広がるというものである。

 

支部長(ボス)があんな話をするってことは、城戸司令と太刀川さんとの間で話がついているってことなんだろうな…。A級部隊(チーム)にB級隊員を編入させた場合、1シーズンの内ひとりまでならA級のままで順位にも変動はないし)

 

普通なら途中で隊員が入ると連携がままならずに防衛任務やランク戦で不利になるのだが、優秀な隊員が加わるのだから問題は起きそうにないのだ。

 

(こういう時に限ってジンさんはいないのよね…。ジンさんなら的確なアドバイスをしてくれるのに。…そういえば大規模侵攻の後、ジンさんに会ったのって1回だけ。ジンさんがオサムくんのお見舞いに行って、帰って来たらなぜかわたしにすまないって謝っていたっけ。あれってどういう意味だったんだろ…?)

 

迅が玉狛支部に帰ってこないでしばらく留守にすることは度々あることだ。

だから林藤やレイジたちは特に気にしていない。

しかしツグミは詫びの言葉を告げて以来姿を見せないことに不安を覚えていた。

そして大事なことを相談したくてもできずにいる。

 

(ジンさんはユーマくんと玉狛支部のために風刃を本部に渡した。風刃は師匠の最上さんの形見。ジンさんがどれだけ風刃に執着していたのかはわたしが一番良く知っている。それほど大切なものを手放してでも玉狛支部を守ろうとしたのよ。だったらわたしも大切なものを失ってでも玉狛支部(ここ)を守らなきゃいけないわ)

 

ツグミはそこで気が付いた。

 

(でも…大切なものを守るために入ったボーダーなのに、大切なものを失わないと守り切ることができないというの? それって絶対におかしい)

 

自分と自分の周りの人間の命、平穏な日常がなによりも大切だと言うツグミ。

玉狛支部での暮らしもその一部である。

故に玉狛支部を離れて本部へ転属することは、彼女にとって矛盾した行為となるのだ。

 

(ううん、わたしはわたしのやり方で玉狛を守る。ジンさんにできないことでも、わたしにはできることだってある。全力で足掻いてみよう。上層部(おとなたち)にわたしの未来を決められてたまるもんですか!)

 

ツグミは立ち向かう敵が強ければ強いほど奮起する性格である。

彼女は何かを思いついたようで、書庫へ行くと調べものを始めた。

 

 

 

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