ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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30話

 

 

翌日、本部基地において大規模侵攻における論功行賞の表彰式が行われた。

本部基地の講堂に受賞する隊員が集められ、さらに城戸をはじめとした上層部とスポンサーのお偉方、三門市長といった来賓客が列席している。

天羽、太刀川、三輪、ツグミ、遊真が特級戦功。

東、出水、米屋、緑川、迅、小南、風間隊、嵐山隊が一級戦功。

レイジ、京介、当真、奈良坂、古寺、諏訪隊、村上、そしてB級合同の括りで東隊、来馬隊(鈴鳴第一)、荒船隊、柿崎隊、茶野隊が二級戦功を受賞することになっており、彼らが勢揃いしている様子は壮観である。

特に玉狛支部の隊員の割合が高く、いつもしかめっ面の城戸がさらに不機嫌になっているのが遠目にも良くわかる。

一級戦功の修は入院中ということで欠席しているが、たぶんこの場にいたとしたらその雰囲気に飲まれ足が地につかない状態になっただろう。

スポンサーというのも銀行や鉄道会社、総合商社など大企業の会長やCEOなどだから、彼らの席の周辺は独特な空気が漂っている。

あの「神堂グループ」もスポンサーのひとつであるが、グループ代表の神堂令一郎本人はおらず代理人として付き人である女性が出席していた。

そして清涼飲料水製造会社会長の須坂誠吾というのがツグミのファンという人物であり、ツグミと目が合うとニコリと笑って手を振ってきたので、彼女も仕方なく微笑みながら会釈をしておいた。

 

「きりしな先輩、この服は学校の制服に似ているな。アレよりかた苦しくて窮屈だけど」

 

遊真が飾緒をいじりながら隣で座っているツグミに言う。

 

「うん。これはボーダーの礼装で、式典とか畏まった場に出席する時に着用するものなのよ。近界(むこう)ではこういう服ってなかった?」

 

「あったけど、もっと戦闘服に近いカンジだったかな」

 

ボーダーでも軍や警察のような礼装というものがあり、隊服と同じでトリガーを起動することで着用できるようになっている。

滅多に着ないものであり、成長期の少年少女たちが多い組織であるから、あえて実物の衣装は作らないとのことである。

慣れない服装に落ち着かない遊真だが、ツグミは別の理由で落ち着かないでいる。

 

(受賞を辞退すれば城戸派との摩擦が大きくなるって支部長(ボス)から言われたから仕方なく来たけど、このままなし崩しに本部に転属なんてことにはさせないから…)

 

30分ほど前、本部基地に着いた彼女を太刀川が待ち構えており、太刀川本人の口から自隊への加入を打診されていた。

 

(太刀川さんたら嫌々ながらって感じじゃなくて乗り気でいたっけ。でもわたしには秘策があるのよ。今に見てなさい)

 

ツグミの思惑とは関係なく、式典は粛々と進んで行く。

城戸の挨拶が終わると特級戦功から表彰が始まった。

S級の天羽から始まり、A級1位の太刀川、A級7位の三輪、そして次はB級のツグミである。

 

「霧科ツグミ」

 

「はい」

 

司会を務める本部長補佐の沢村に名を呼ばれてツグミは立ち上がり、城戸の前に立った。

すると沢村が彼女の論功行賞に対する根拠を述べ、ツグミは城戸から賞状を受け取る。

その時、彼女は不敵な笑みを浮かべ、それを見た城戸は妙な胸騒ぎを覚えたのだった。

 

 

 

 

すべての表彰が終わると続いて「記念イベント」が催される。

「記念イベント」とは来賓客の前で受賞した隊員たちが模擬戦を行うというもので、受賞した隊員がその賞に見合う実力を有しているのだということを実際に見せるのだ。

本来模擬戦は見世物ではないのだが、ボーダー隊員がどれだけ優秀な存在であるかをアピールして、さらに資金を引き出そうとする外務・営業部長である唐沢克己(からさわかつみ)の()()である。

まずは風間隊と嵐山隊、続いて諏訪隊と来馬隊と東隊のチーム戦が行われ、その後に個人戦が行われる。

1戦目は三輪と迅、2戦目は米屋と緑川、そして最後に太刀川とツグミの戦いが組まれていた。

これらの組み合わせは城戸が決めたものだが、太刀川とツグミの組み合わせは唐沢が推したものである。

出場する隊員たちは前日に話を聞かされているから落ち着いたものである。

中にはツグミや太刀川のようにやる気満々の隊員もいる。

 

 

戦闘体に換装したツグミと太刀川が仮想戦闘フィールドに転送された。

ステージは『港湾エリア』で、天気は『晴れ』。

いくつもの巨大な倉庫や船舶からの荷下ろし作業をする大型機械などがある特殊な地形で、これはツグミにステージの選択権があったために彼女が選んだものである。

 

「おまえと戦うのは久しぶりだな」

 

「ええ、2年と4ヶ月ぶりです。あの時は見事に負けましたけど」

 

「もうそんなになるのか…。しかしこれからは毎日でも個人ランク戦(ソロ)ができるようになるな」

 

太刀川はツグミが自隊に加入するものとして話をしているが、ツグミはあえてそれを肯定も否定もしない。

ゴキゲンな太刀川にツグミは言う。

 

「そう簡単に事が運ぶでしょうかね…。さあ、無駄話はおしまいにしてさっさと戦いましょ。わたしは早く終わらせてオサムくんのお見舞いに行きたいんですから」

 

「ああ、始めようか…。だがそう簡単には終わらせねえぞ。俺を楽しませろよ、ツグミ」

 

 

[太刀川対霧科、模擬戦、開始]

 

開始の合図と共に太刀川は右手を弧月の柄にかけた。

ツグミはというとカメレオンで姿を消す。

普段の彼女なら使わないトリガーだ。

個人(ソロ)ランク戦や模擬戦ではオペレーターの支援なしで戦わなければならないので、姿が見えなくなれば攻撃のしようがない。

もちろんこのままではツグミ自身も攻撃はできないのだが、攻撃の第一歩は「相手の意表を突く」であるからこれはこれでいいのである。

 

「お、カメレオンか。おまえらしくないな。だが…」

 

太刀川はレーダーを起動する。

しかしツグミの姿はどこにもない。

 

「あれ? おかしいな…? 壊れたか?」

 

レーダーに映らないのは当然である。

ツグミは太刀川がレーダーを起動するまでのほんのわずかな時間で彼の死角に移動し、そこでバッグワームを起動したのだ。

こうなると完全にツグミの姿を見失ったことになり、これで彼女が狙撃手(スナイパー)用トリガーを使用した場合、太刀川は圧倒的に不利となる。

太刀川も彼女の狙撃を警戒し、射線の通る開けた場所を避けるために移動を始めた。

その頃、ツグミはマップを確認して自分に有利な場所を探していた。

 

(ちょうどいい場所みーつけた)

 

岸壁のすぐ脇にある大きい冷凍倉庫を発見したツグミ。

扉を開けて中へ入ると、外光が一切入らない暗闇が広がっている。

 

(扉は…一度開けると自動的に閉まるみたい。それと…この倉庫は冷凍マグロの箱が壁際に高さ3メートルくらいまで積んであるのね。広さは問題なし、と。あとは…これこれ、火災報知機! このボタンを強く押すと天井のスプリンクラーから水が吹き出して消火するタイプか。うん、これは使える! じゃあ、室内灯のスイッチは壊して…っと)

 

ツグミは必要なものがあることと場所を確認してから外へ出た。

そしてレーダーで太刀川のいる場所を確認すると、そこから100メートルほど離れた場所でバッグワームを解除する。

するとすぐに太刀川はツグミを追ってやって来た。

太刀川もツグミの行動には理由があり、罠を仕掛けてあると承知している。

しかし罠があるとわかっていても、ここでツグミを見失えば勝ち目はなくなる。

それに彼は自分の攻撃手(アタッカー)としての実力がツグミより優っているという自負があるから罠くらいでは怖気付くことはない。

そもそも時間切れの引き分けなどという無様な結果を出すわけにはいかないのだ。

 

「見つけたぞ、ツグミ! かくれんぼはこれで終いだ!」

 

太刀川はツグミを見つけると全力で追ってくる。

ツグミは例の倉庫まで走って行くと、わざと太刀川に見えるようにして中へ入った。

もちろん太刀川も中へ入るが、警戒して奥へは入ってこない。

5メートルほど中へ入ったところで出入り口を背にして立ち、ツグミに呼びかけた。

 

「こんな場所に逃げ込んでも無駄だぞ。それとも俺をここに閉じ込めるつもりか? しかし俺がここにいる限りおまえもここから出られない。もう逃げ場はねえぞ!」

 

太刀川は弧月を握り締め、いつでも攻撃できるよう構えた。

その間に扉はゆっくりと閉まっていく。

そしてツグミがタイミングを見計らって通常弾(アステロイド)で火災報知機のボタンを正確に撃ち抜くと、スプリンクラーが作動して大量の水が太刀川の上に降り注いだ。

 

「な、なんだこれは!?」

 

突然大量の水が降ってきたのだから、太刀川は大慌て。

その隙にツグミはバッグワームを使ってレーダーから姿を消してしまう。

そして太刀川が慌てている間に出入り口の扉が完全に閉まって辺りは真っ暗になった。

暗闇で視力が奪われ、さらにレーダーでもツグミの姿を見失ってしまった太刀川。

しかしツグミが倉庫の中にいるのは間違いなく、太刀川はさっきの通常弾(アステロイド)の射撃で彼女の居場所のおおよその見当を付けて弧月を振った。

 

「旋空弧月!」

 

ツグミは太刀川の行動をすべて読んでいた。

旋空を使った場合、間合いは15メートルほど伸びる。

それを承知の彼女は旋空弧月では壁が破壊できない広さの倉庫を探し、さらに(ブレード)が届かない位置で身を潜めていたのだ。

 

空振りした太刀川はツグミの攻撃を警戒し、姿勢を低くした。

目が見えない状態で無闇に動くのは危険だと判断したためである。

倉庫の扉の位置は自分の後方約5メートルだが、移動中に攻撃される可能性があり、旋空弧月では一撃で破壊できない強度であることもわかっている。

そこで両手でシールドを張り、しゃがんで両防御(フルガード)の態勢をとった。

地面に固定した両防御(フルガード)ならツグミの弧月や通常弾(アステロイド)を防ぐ自信があるのだ。

伝達脳と供給機関さえ守ることができれば逆転のチャンスもある。

さらにツグミの攻撃を受けることで居場所を確定し、再び旋空弧月を放てばいい。

 

(よし、今がチャンス!)

 

ツグミはこっそりと太刀川の左側に回り、バッグワームの解除と同時に拳銃(ハンドガン)型トリガーを抜くと太刀川に向かって8発撃った。

それは鉛弾(レッドバレット)での射撃であったためにシールドに干渉せず太刀川の腕や脚に命中する。

 

「ちっ、鉛弾(レッドバレット)かよ!?」

 

自分の身体に撃ち込まれた重石によって、それが鉛弾(レッドバレット)での攻撃だと初めて気付いた太刀川。

8発全部命中したので、太刀川は身動きできない。

いくら攻撃手(アタッカー)ランク1位であっても両腕が動かなければ文字通り手も足も出ない。

太刀川が自分の負けを悟ったところで、ツグミがゆっくりと歩いてきて彼の前に立った。

暗闇にいくらか目が慣れてきたとはいえ太刀川の視力は全回復しておらず、おぼろげに弧月を握る彼女の姿が見えるだけ。

いや、姿は見えずとも彼女の全身から漂う殺気は十分に感じていた。

 

「太刀川さん、こうなったら負けを認めるしかない状況だってわかりますよね?」

 

「…ああ」

 

「じゃあ、聞いてください。上層部(おとなたち)の間で本人の意思を無視した企みが進んでいたみたいですけど、わたしはお断りです」

 

「俺の部隊(チーム)で戦うのがイヤなのか?」

 

「イヤってわけじゃありません。むしろ太刀川さんや出水さんと一緒に戦うのは楽しそうです。それに林藤支部長がわたしをB級のままにしておくのがもったいないから本部のA級部隊(チーム)に入れって言う気持もはわかります。だけどわたしは玉狛支部にいたいんです」

 

「……」

 

「城戸司令はボーダー内のパワーバランスを気にしているようですけど、だったら玉狛支部の戦力を削るんじゃなくて本部の隊員がもっと力をつけて強くなればいいだけじゃないですか。だからわたしは玉狛に残り、今以上に玉狛の戦力をアップさせます。そうすれば城戸司令も玉狛を潰すことができなくて、『城戸派』の勢力を維持するためには本部の隊員を強化するしかありません。そうなると隊員全体の底上げをするような形になってボーダーという組織にとってとても良いことだと思うんです。あなたもそうは思いませんか? 強い人間と戦う楽しみはあなた自身が一番良くわかっていることですもの」

 

「……」

 

「ところで、太刀川さん、この戦いを楽しんでもらえましたか?」

 

ただならぬ気配を感じて顔を上げる太刀川。

太刀川には見えないが、ツグミは妖しい笑みを浮かべて彼を見下ろしていた。

 

「…あ、ああ」

 

「じゃ、これでおしまいにしましょう」

 

次の瞬間、ツグミは微笑みながら横一文字斬りで太刀川の首をはねたのだった。

 

 

 

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