ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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295話

 

 

試験が終わったからといってそのまま解散ということにはならない。

勝敗に関わらず模擬戦や訓練の後は反省会を開くことで次の戦いのために役立てることができるのだから。

そしてこの試験も例外ではなく、ツグミの作戦室において関係者全員が集まっての反省会を行うことになった。

とはいえツグミが模擬戦の中で修たちにそれぞれ指摘をしており、それぞれが()()理解して納得していることからさほど長い時間を取ることはなく、第3者として見ていた忍田の感想を聞くことがメインであった。

そしてもっとも重要な千佳の試験結果は当然「不合格」であった。

 

「残念ながら雨取隊員は不合格とする。しかしきみには機関員として遠征艇のトリオンを補給する役目を担ってもらわなければならず、遠征には参加してもらうことになる」

 

安堵する千佳だが、忍田の話は続いた。

 

「ただ防衛隊員としての役目もあったわけだが今回の模擬戦で役に立たないことが判明したため、遠征艇に敵が迫って来た時のことを考えると非常に不安が残る。そこで計画している場所からさらに遠く離れた敵の目に届かない場所に艇を停めなければならず、本隊の隊員たちには大きな負担をかけることになる。緊急脱出(ベイルアウト)ができないのは今までどおりだが、さらに遠くなれば撤退の途中で敵に襲撃される可能性はこれまでの計画よりもはるかに高くなり、本隊メンバーの最終試験の内容も再考し、より厳しいものとしなければならないだろう」

 

すると修、遊真、千佳の表情がこわばった。

 

「厳しいとは具体的にどんなものになるんですか?」

 

修が忍田に訊くと、忍田は当然とばかりに淡々と答える。

 

「これから試験を受けるきみたちに話せるはずがないだろ。最終試験は事前に話したとおりに24日の日曜日に予定どおり行うが、内容は大きく変更せざるをえない。なにしろ想定していたものよりもはるかに厳しい条件で戦うことになりそうなのだから、そこは耐えられるメンバーのみで遠征を行うしかないのだ」

 

「……」

 

遠征選抜試験は全員を合格とした。

希望する全員に機会を与え、特別訓練を行うことで遠征先において戦う技術を身に付けてもらうためである。

しかし参加できる資格があるかどうかは最終試験で確かめ、不適格とされた者は遠征に参加できないという厳しいものになることは事前に知らされていた。

だからどの隊員も試験に合格するために週2回の特別訓練は欠かさずに行ってきたのだ。

もちろん修たちも参加してきたものの、この模擬戦の結果が彼らの実力を示していた。

彼らよりもはるかに上級の隊員たち対象の試験であるから、修()()()では不合格になるのは目に見えている。

そして青ざめた修の心の中を読んだように忍田が彼に言った。

 

「三雲隊長、きみは本隊の試験に参加する資格はあるが、そこで不合格となれば遠征に参加することはできない」

 

「……」

 

「ここまで頑張ってきたきみを不参加にするのは気の毒だ。そこでいくつかの条件をのんでもらうことで参加を認めようかと考えている」

 

「え?」

 

「その条件というのがきみには難しいものになるだろうが、最終試験を受けて合格するよりは楽なはずだ」

 

「その条件というのは何ですか!?」

 

身を乗り出して訊く修の姿を見て、それまでずっと黙っていたツグミが苦笑する。

 

(そりゃそうよね…。通常の方法での遠征参加はほぼ不可能。厳しい条件といってもそれはお釈迦様が下ろした蜘蛛の糸のようなものだものね。ここでしっかりと掴まなければチカちゃんを守るためにって入隊したオサムくんにとって自分の存在意味が失われてしまうんだもの必死にもなるわよ)

 

「三雲隊長、きみには本隊メンバーから外れてもらい、本隊が任務遂行中は遠征艇の防衛任務をしてもらおうかと考えている」

 

「ぼくが遠征艇の?」

 

忍田の意外な言葉に修は目を丸くした。

 

「そうだ。雨取隊員に遠征艇の防衛を任せる計画だったがさっきの試験内容では彼女に任せることはできない。遠征艇はアフトクラトルにおいてこのボーダー本部基地と同じ意味を持つ大切な場所であり、艇を失うことは遠征失敗を意味するものであるからどんなことがあっても守りきらなければならない。できることなら本隊メンバーから何人かを残したいところだが、そんな余裕がないことはきみも承知していると思う。それに遠征艇は敵に発見されないために隠して停めておくわけで、必ずしも敵の攻撃を受けるとは限らないから優秀な本隊メンバーを割くのは惜しいという気持ちもある」

 

「……」

 

「よってきみには遠征艇に残り、いざという時には全力で戦ってもらおうと思う。理由はふたつ。ひとつ目はきみの最大の弱点はトリオンの少なさだ。敵と戦っていて最も恐れることは戦闘体を失うこと。激しい戦いになると思われる本隊に加わっていて、その少ないトリオンを攻撃と防御の両方に割り振って戦わねばならないのだが、きみには長時間の戦闘は不可能。そこできみには艇内にいる雨取隊員の膨大なトリオンを使って戦ってもらいたい」

 

「千佳のトリオンを使って戦う…ですか?」

 

「ああ。遠征艇に残る非戦闘員には生身のままで使える簡易トリオン銃・ターミガンの訓練を受けてもらった。彼女たちも防衛隊員ほどではないがそれなりに武器を扱えるようにはなっている。そのターミガンは新システムによってトリオン切れになると使えないという欠点を克服した。それは雨取隊員から7メートル以内にいれば自動的に彼女からトリオンを補充するようになっているので、彼女から離れない限りトリオン切れで戦闘不能になることはまずないだろう。それと同じシステムを採用し、きみが艇を守るために戦って失ったトリオンを雨取隊員から補充することで彼女本人のトリオンが切れるまで戦うことができるというわけだ。それに戦闘体を破壊されてもトリオンが溜まれば戦闘体を再構築してすぐに戦闘に復帰できる。きみは元々数時間程度で新しい戦闘体を構築できるのだから、逆にそのトリオン量の少なさは都合が良いというものだ」

 

「はあ…」

 

「理由のふたつ目は()()きみは雨取隊員を守ることにあらん限りの力を振り絞っていることだ。それは大規模侵攻の時のきみの行動を見れば良くわかる。しかしそれは良いこととは限らず、判断を鈍らせることにもなっている。B級ランク戦において彼女の身の安全にばかり夢中になり、本来なら点を取れるような状況であっても彼女のことを優先した采配を行ったことがあっただろ? きみの頭の中には彼女を守ることが最優先であると刷り込まれてしまっているようだ。ならば遠征艇に残って彼女のすぐそばで彼女を守ってやればいい。そうすればきみも本隊と行動を共にするよりも気が楽になるんじゃないかな?」

 

「はい、たしかにそのとおりです。ぼくとしては非常に都合が良い話ですが、本部長は難しい条件があるようなことを言っていました。それを聞かないと手放しで承諾できません」

 

「当然だな。その厳しい条件というのはきみと雨取隊員のふたりはアフトクラトルではもちろんのこと、経由する途中の国でも艇の外に出ることを禁止とする」

 

「外に出ることを禁止…」

 

「もちろん文字どおり外に出てはいけないというのではなく、他の隊員たちが情報収集や物資の調達のために現地の町へ赴くことになってもきみたちはダメだということだ。雨取隊員が入隊した動機は近界(ネイバーフッド)にいるはずの家族や友人を自分の手で探すというものだと聞いている。ならば町へ行って現地の人間の話を聞きたいと思うだろう。それを禁じるということだ。なにしろ雨取隊員のトリオン能力は近界(ネイバーフッド)でも稀有な存在だ。うっかりさらわれでもしたらこの遠征は確実に失敗となる。きみのレベルならさらわれる心配はないだろうが、きみの『自分がそうするべきだと思ってるから』という自分本位の行動が遠征部隊全員を危険に晒すことにもなりかねない。それを考慮してきみたちふたりには遠征艇を離れないでもらうことになる。そのためにきみたちのトリガーは居残り組のリーダーの冬島隊長に預かってもらい、緊急時以外の使用を禁止にしようと考えている。これが条件だ」

 

「……」

 

修は黙り込んでしまった。

現状の修では本隊メンバーの試験を受けて合格できる可能性はゼロに近く、アフトクラトルへ行くためには忍田の提案を受け入れるしかない。

この提案は修にとって断るような内容ではなく、むしろ彼のために最大限の譲歩をしたというものだ。

もちろんこれはツグミが考えたもので、修と千佳を生還させるために可能な限りリスクを減らすことを考えた結果が「修も遠征艇に残す」であった。

しかし修がアフトクラトル遠征に参加したい理由のひとつに「()()()()()遊真とレプリカを再会させる」というものがあり、遠征艇に残るということになればそれは叶わなくなる。

それを考えると即答できないのも無理はないが、遠征に参加するためには他に手段はない。

 

「ぼくは本隊メンバーから外れ、遠征艇に残って死ぬ気で艇を守ります」

 

その言葉を聞いた忍田は大きく頷いた。

 

「わかった。その判断を遠征の引率責任者である私は歓迎する。雨取隊員も三雲隊長がこういうことになったのだからきみにもこの条件に従ってもらうことになる。いいな?」

 

千佳も自分や修が遠征に参加できるだけの力がないことは思い知らされたわけで、他に選択肢がないことは承知している。

 

「はい、わかりました」

 

「よし、ではこれで雨取隊員の最終試験の終了とする。みんな、ご苦労だった。…ああ、迅は私と一緒に来てくれ。城戸さんに模擬戦が終わったらおまえを連れてくるように言われていたんだ」

 

「城戸さんが? …まあ、行ってみればわかるか。行きましょう、忍田さん」

 

忍田は迅を伴って作戦室を出て行った。

 

 

◆◆◆

 

 

作戦室にはツグミと修、遊真、千佳が残った。

用事が済んだのならさっさと出て行くはずだから、修が動かないのは理由があるわけで、その理由とはツグミに起因しているのはまず間違いない。

 

「オサムくん、何か訊きたいことがあるんでしょ? 何でも…っていうわけにはいかないけど、答えられるものなら答えてあげるわよ」

 

ツグミに促されたことで修も訊く勇気が出たようだ。

 

「この試験は霧科先輩が全部計画したことで、結果も先輩の思いどおりになったんですよね?」

 

「ええ。これがわたしの思いつく最善の答えだから。オサムくんとチカちゃんが遠征に参加するだけでなく生還できるようにするには遠征艇にいて艇を守ることに専念してもらうしかないってことになったのよ。キツイことを言うけど、オサムくんが本隊に加わったとしても役に立たないどころか他の隊員の足でまといになる可能性が高い。チカちゃんだけに艇の防衛を任せるよりもオサムくんが一緒に戦ってくれたら艇の防衛力が上がる。この2点においてオサムくんを遠征艇の居残り組に入れた方がいいって判断をした。わたしは香澄さんやチカちゃんのご両親にあなたちが生還できるようにするって約束したから、その約束を守るためにいろいろと考えた結果がこれってわけ。今のところジンさんの未来視(サイドエフェクト)でふたりが危険な目に遭うという未来は視えないようだけど、それが無事に帰還できるという保証でもない。残された時間は少ないのよ、やることは山ほどあるんだから覚悟しておきなさい。わたしが企んだことであってもあなたは自分の意思でこの道を選んだんだから」

 

「わかっています」

 

「じゃ、他に何か言いたいことはある? 苦情、不満、恨み言、いい機会だから何でも言っていいわよ」

 

「いえ、そんなものはありません。先輩の行動にはよくわからないことが多いですけど、その理由を知れば納得できるものばかりですから。それに承諾書の件ではぼくや千佳のために先輩が働きかけてくれて、おまけに千佳のためには土下座までしたそうじゃないですか。そこまでしてくれる先輩に恨み言なんてありません」

 

「そう? ないってことなら、もうわたしは玉狛第2という部隊(チーム)と深く関わるのはこれっきりにしておくわね」

 

「え?」

 

「わたしはもう玉狛支部の人間じゃないんだし、3人の師匠でもない。本部や他の支部所属の隊員と同じように接するべきだもの。この模擬戦でオサムくんは遠征艇とチカちゃんを守るために戦うという道を示されたのだから、そのための訓練をすればいい。チカちゃんは模擬人型近界民(ネイバー)ばかりではなく本物の人間を撃てるようにする。これで当面の目標ができたんだから、そのために全力を尽くすだけよ。だからもうわたしはふたりのことを心配していろいろ考える必要はなくなったわけで、他にたくさんあるわたしにとっての『自分がそうするべきだと思ってるから』という案件をひとつひとつ片付けていかなきゃならないってこと。これでもわたしでなければできないことがいくつもあるからね。このあとも寝るまで予定が詰まってるのよ」

 

「じゃあ、引き止めてはいけないですね」

 

「ううん、こうなることは想定内のことだからあと10分くらいなら大丈夫。…あ、そうだ。オサムくんに最後にひとつ言っておきたいがあるんだけどいいかな?」

 

ツグミは何かを思い出したようで、修に言う。

 

「はい。何でしょうか?」

 

「オサムくんは本隊メンバーと離れて遠征艇で艇とチカちゃんを守ることになる。アフトの連中に艇の場所が知られなければ危険はないんだけど、襲撃があるということは最悪の事態だってこと。それはわかるわね?」

 

「はい、もちろんです」

 

「そこでオサムくんはどんな覚悟で戦うつもりでいるか教えてもらいたいのよ」

 

すると修は当然といった顔で答えた。

 

「もちろん命を懸けて戦う覚悟でいます。さっき忍田本部長が言っていましたけど、遠征艇はアフトクラトルでボーダー本部基地と同じ意味を持つ大切な場所であり、艇を失うことは遠征失敗を意味すると理解しています。だからぼくは何が何でも艇と千佳を守ります」

 

「そう…あなたならそう言うと思った。でも覚えておいてほしいことがあるわ。命を懸けてという言葉は命を捨ててもかまわないって意味じゃないのよ。縁起の悪いことを言うけど仮にオサムくんが戦闘で死んでしまったと仮定した話をしましょう。遠征艇や千佳ちゃんを守ることができたとしても、そしてC級隊員を全員救出できたとしても犠牲者をひとりでも出してしまったことでこの遠征は失敗となるわ。特にあなたは大規模侵攻後の記者会見で有名人になってしまったでしょ? だから遠征部隊の帰還後の記者会見であなたを死なせてしまったことで城戸司令たちは散々責められることになる。責任を取って上層部のメンバーが辞任を含めた処分を受けるでしょうね」

 

「……」

 

「ボーダーという組織の存続にも大きな影響を与えることにもなりかねない重大事なのよ。それにチカちゃんの目の前であなたが死んだとなれば、その後の彼女の人生はどうなるかしら? 自分のせいであなたが死んだのだと自分を責めて、それで周囲の人間が慰めたところで何の意味もないという状態になるわね、きっと。懺悔をしようとしても許しを与えてくれる人はもうこの世にはいないんだから。オサムくんが死んでしまうということは残された人間にとってそれだけ大きな()となるのよ。自分が死んでもみんなが助かればいいなんて考え方は大きな間違い」

 

「……」

 

「命を懸けてという言い方はものすごい覚悟があるように聞こえるけど、最悪の場合は死んでもかまわないという気持ちが心の中にあるから言ってしまうもの。さっき忍田本部長に『遠征艇に残って死ぬ気で艇を守ります』って言っていたけど、本気で命を懸ける覚悟があるのなら死ぬ気ではなく絶対に死なないという気迫で戦わなきゃダメ。もちろん敵が強すぎて力が及ばないということはざらにある。でもその時に後悔してしまうようなことにならないために厳しい訓練を重ねて準備万端の状態で遠征に参加してもらいたいの。そしてこれはオサムくんだけでなくチカちゃんにも言えること。あなたが死ぬということは、あなたが考えているよりもずっと周囲の人間に迷惑をかけることになるのよ。もしあなたが死んでしまったらあなたを守りきれなかったオサムくんが責められるし、彼は自分を責める。あなたのことだから自分が責められることよりも自分が原因でオサムくんが責められることの方がずっと辛いでしょ?」

 

千佳は黙って頷いた。

 

「それに遠征艇には非戦闘員のオペレーターや技術者(エンジニア)医師(ドクター)もいて、その人たちのことも守らなければならない。いざという時には冬島さんの(トラップ)を起動したり寺島さんが戦闘員として加わってくれるでしょうけど、それはあくまでオサムくんとチカちゃんの援護でしかないわ。主戦力はあなたたちで、ふたりの戦力を考慮しての防衛計画を立てているんだから、()()()に慌てたり後悔しないようにね」

 

「「はい、わかりました」」

 

修と千佳は声を揃えて返事をした。

 

「うん、いい返事ね。…じゃあ、そろそろわたしは帰らなきゃ。夕食の仕込みは午前中に終わってるんだけど、仕上げはこれからしなきゃならないのよ」

 

「ぼくたちも玉狛支部に帰ってレイジさんの手伝いをすることになっていますので、これで失礼します」

 

修はそう言ってから千佳と遊真の間に並んで立つと、ツグミに礼を言って頭を深々と下げた。

 

「霧科先輩、これからは自分たちで鍛えて一人前のボーダー隊員として戦うつもりです。もう先輩に心配をかけずに済むよう努力します。これまでどうもありがとうございました」

 

修を見習って千佳と遊真も同じように頭を下げた。

 

「ツグミさん、いろいろとご迷惑をおかけしてしみませんでした。これからは修くんと遊真くんと一緒にちゃんと戦えるようになります」

 

「オサムとチカのことは心配するな。おれがこのふたりを遠征にも耐えられるトリガー使いに鍛えてやるよ。ありがとう、先輩」

 

修は模擬戦で自分の弱さと、その弱さが自分だけでなく仲間をも巻き込んでしまうことを知った。

これまでも自分が弱いということは認識していたものの、周囲の人間が彼の努力を認めて仲間に迎え入れていたから「自分はみんなと一緒に戦える」と考えていたのだ。

しかしいくら努力して仲間から認められたとしても、それはアフトクラトルの連中には関係のないことで、奴らは遠征部隊の最も弱い鎖の輪(ウィーケスト・リンク)である修を狙ってくる。

ならば本隊ではなく遠征艇で艇と千佳を守る役目をする方がいい。

少ないトリオンの問題は千佳からトリオンを供給してもらうことで解決するし、何よりも自分の手で守ることができるという()()()も得られる。

本隊の試験での合格が難しい修にとってこれが最善の答えであることは確かだ。

 

千佳もまた自分の弱さと、その弱さが自分だけでなく仲間をも巻き込んでしまうことを改めて目の前に突き出されてしまった。

人を撃てないことを鉛弾(レッドバレット)狙撃によって解決したがそれは自分の努力ではなく仲間たちの厚意であったし、ノーマルな弾を人間に対して撃てなくてもかまわないと仲間たちが認めてくれたことで安堵しきっていた。

つまり仲間の協力や許しがあってやっと彼女はボーダー隊員でいても良いと認めてもらっていたことになる。

しかし最終試験での結果は散々なものであった。

もし今のままでアフトクラトル遠征に参加したならば、遠征艇を守りきることはまず不可能だろう。

それは自分が死ぬかもしれないということと同義だが、今さら怖気づいて行きたくないとも言えない立場だ。

そのことを出発前に思い知らされたことで出発までに自分のやるべきことが見えてきたはずである。

自分の弱さを認めることは難しいというが、それよりもその弱い自分を叩き直して強くなろうとする努力の方がはるかに難しいというもの。

その難しい「壁」を乗り越えなければ仲間を死なせ、自分も死ぬことになりかねない。

残り時間は短いが本人のやる気でなんとでもなる問題なのだから、人を撃つことに対しての「他人からの目」を気にしなくても済むようになったのであれば後は技術的な問題だけで、訓練では模擬人型近界民(ネイバー)ではなく()()の隊員に協力してもらって腕を磨くだけだ。

そして自分が死ぬということは自分の生命が断たれるというだけでなく、残された周囲の人間に様々な影響を与えることになると教えられたことで、絶対に死んではならないのだと自らに言い聞かせ、自分の命を守ることを意識すれば結果的に遠征艇に残る非戦闘員をも守ることになるとわかるようになるだろう。

それに修がそばにいてくれるというだけで精神的にも安定するだろうし、玉狛第2が部隊(チーム)として遠征に参加するという目的も果たせるというものだ。

 

これがツグミの考えた最適解で、ようやくここまでのお膳立てをすることができた。

しかしツグミがこれ以上何かをすることは逆に彼らにとって益はなく、遠征に参加することが確定した防衛隊員に対して過保護にするのは失礼というものだ。

修たちはもう自分が何をすべきかをちゃんと理解しているのだから。

 

 

 

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