ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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302話

 

 

東は顔を上げて遠征艇の中にいる受験者たちに呼びかけた。

 

「俺たちを残して行け! おまえたちだけでも遠征へ行くんだ!」

 

この言葉は実戦であったなら東たち3人を犠牲にしてでも遠征艇内へ避難できた隊員たちは生きて三門市へ戻れという意味になる。

だからそう言われてもすぐに「はい、わかりました」というわけにはいかない。

しかし迷っていれば全滅も免れないので、直ちに行動しなければならないのだ。

そしてこれは試験であるから試験官たちは東の判断を待ち、さらに残りの受験者たちがどのような行動をするのかを見守っていて攻撃は一時中止していた。

東が「小を切り捨ててでも大を生かす」という判断を下したことで、後は遠征艇内にいる受験者たちがどう動くかを見ようとしているのである。

ツグミはこの様子を見ながら東の決断について考えた。

 

(これは東さんが地上に取り残された側での判断だけど、もし遠征艇の中に自分がいて地上には別の3人が取り残されていたとしたらどうだっただろう…? やっぱり小を切り捨てて大を生かすという判断ができたのかな? それにもし取り残されたのが自分ひとりだったらもっと早い決断をしたかもしれない。こういう判断って難しい。それが正解かどうかってその時すぐにはわからないんだもの。でもだからって怖気づいて何もしなければ最悪の事態に陥るかもしれないんだから何らかの行動はしなければならない。東さんも苦渋の選択をしたんだろうけど、こういう事態のあるってことを想定しての準備ができていたら…)

 

遠征艇のタラップが破壊されて艇の中に入ることができなくなってしまったため3人が取り残されてしまったわけだが、これは()()()()()()()()()()()()の中で想定外のことであった。

このような状況が想定されていたのであれば縄梯子くらい用意してあったはずだ。

まず遠征艇に敵を近付けてしまってはいけないからと城郭都市から6000メートルも離れた場所に艇を停めているのだし、緊急脱出(ベイルアウト)が使えないのも軌道で艇の位置がバレてしまうのを防ぐため。

アフトクラトルのレーダーの索敵範囲が5000メートルということで、艇を停める位置を十分に考慮して安全な場所にしたのだから遠征艇のすぐそばでの戦闘は本来ならありえない。

しかしすべてにおいて想定外のことは起きるものだから、遠征艇が敵の攻撃を受ける可能性を考えてそのための準備は必要だ。

だから艇に残る非戦闘員にも戦闘訓練を行ってきた。

ところが艇の一部もしくは大部分が破損してしまった時のことは想定されておらず、このようにタラップが破壊されてしまって艇の中に退避できなくなってしまうこともあるのに縄梯子すら用意されていなかった。

梯子があればそれを使って上ってくる間、修と千佳がシールドで敵の攻撃から守るということもできたはずなのだ。

 

今回の場合、タラップが使用できなくなるのは()()()()()()想定外のことであったのだが、ツグミにとっては想定外ではなく想定内のこととして考えていた。

アフトクラトルの連中が目の前のボーダー隊員を見逃してくれるはずがなく、艇で逃げようとしているならせめてまだ乗り込んでいない人間の足止めをしようとするものだ。

そのためには物理的に乗り込めないようにするのが手っ取り早く、よってタラップを破壊してしまうことは当然ありうること。

ツグミは()()()()()()()()()()()()使()()()()()()だろうということを想定していて、そこで彼女はあえて自分では手を出さず忍田に反省を促すため彼に旋空弧月を使わせた。

アフトクラトルのトリガー使いが遠征艇の場所を突き止めて襲撃してくる可能性は1%もないかもしれないが、その1%が現実に起きた時のことを考えて準備をしておかなければ取り返しのつかないことにもなりかねない。

そして今がそれで、準備をしていかなかったがために3人の隊員が遠征艇に入ることができずにいた。

 

(東さんが苦渋の選択をしなければならなかったのは受験者全員が戦闘体を失ってしまったから。チカちゃんがアイビスを撃つ段階で戦闘体を維持していたのは5人いて、彼らが『生身であっても遠征艇までたどり着けばOK』だと考えていたから平気でアイビスの直撃を受けてしまった。120秒後に試験官は復帰するけど、それまでに着く自信があったんでしょうね。でも生身になった受験者のふたりがバムスターに食われそうになってその時に足を痛めてしまった。それも想定されることで、生身の人間が同じ生身の人間を支えながら移動するのは大変。だから艇に到着したのが時間ギリギリで、タラップを破壊されたことで3人が取り残されることになってしまった。もし戦闘体を維持した受験者がひとりかふたりいたら結果は大きく違っていた。わたしが東さんの立場だったならグラスホッパー持ちの太刀川さんとユーマくんにグラスホッパーを使って()()()()()()。できることなら戦闘要員として使える影さんか鋼さんにも生き残ってもらうように指示したわね。アイビスの砲撃はカウントダウンがあったんだもの、発射の合図に合わせて射線から逃れるように大きくジャンプすれば砲撃に巻き込まれず、背後にいる試験官だけを緊急脱出(ベイルアウト)させることができたはず。さらに生身の仲間を支えて逃げるにしてもトリオン体なら人間ひとりを抱えたりおんぶして走るくらい平気な筋力があるんだし。戦闘体で戦うから死にはしないし怪我もしない。そんな戦い方が当たり前になっているから平気で無茶な戦い方をする。それはそれでいいんだけど、生身になった時のことを想定して戦うことをしていないからこうなるのよ)

 

ツグミは東の判断を批判するが、事実グラスホッパー持ちがひとりでもいたらタラップを落とされてもグラスホッパーを踏ませて遠征艇の出入り口までジャンプさせることもできただろうし、戦闘が可能な人間がひとりでもいればそれだけで心強いというものだ。

戦闘体を使って戦っていると上げ底されている能力がさも自分の能力のように思えてしまい、現実の生身の自分が民間人と変わらない無力な存在だということを忘れてしまう。

ツグミは選抜試験で「敵地では緊急脱出(ベイルアウト)が使えないことを原則として戦う」ことを強く教えた。

緊急脱出(ベイルアウト)先が遠征艇である以上はその場所を知られることで遠征部隊の全滅の可能性を高めるからだ。

参加するメンバーもそれについては理解していたようで、訓練では緊急脱出(ベイルアウト)を使えない設定で行っていた。

だから戦闘訓練中に戦闘体が破壊されたら戦闘に巻き込まれないように退避して見物をしていたが、全員が生身になってしまってそこを敵に攻撃されるというシチュエーションでの訓練はなかった。

()()()()()()()()()()()()()()になってトリガー使いからの攻撃を受けるということは彼らにとってありえないと考えているからそうなった場合に何の対応もできないのだ。

今、この瞬間の東たちは自分の無力さを痛いほど噛み締めていることだろう。

 

東が「俺たちを残して行け! おまえたちだけでも遠征へ行くんだ!」という指示をしてから30秒、1分と経ってもまだ誰も次の行動はしていなかった。

もちろん試験官も攻撃を停止していて、修と千佳も手を止めて誰かが「艇を発進させよう」と言い出すのを受験者と一緒に待っていた。

しかしそこに言い出すことのできる人間はいない。

いくら東の指示であるといっても地上に残された東、レイジ、奈良坂の3人に「不合格」を宣告するようなもので誰だって嫌な役目はしたくないのだから。

ただしいつまでも試験官たちが待ってくれるとは限らない。

こうして迷っている時間を与えられているのも試験官たちが攻撃をしないからであって、これが実戦であればハイレインたちは容赦なく攻撃を続けることだろう。

開け放たれている遠征艇のドアに通常弾(アステロイド)のような弾丸を撃ち込むことだってできるし、地上にいる東たちをバムスターに襲わせることだってできるのだ。

 

 

ツグミはヒュースだけに内部通信を送った。

 

[ヒュース、例のアレをやるチャンスだけどどうする? あなたの判断で結果が大きく変わるわよ]

 

[俺は別に奴らが遠征に参加するかどうかなんて関係ない。俺自身がアフトクラトルへ帰ることができればそれで十分で、俺は参加が決定しているんだからな。だがディルク様を狙っているベルティストン家の奴らを徹底的に叩きのめすためにはひとつでも多くの駒があった方がいい]

 

[じゃあ、やるのね?]

 

[ああ。邪魔はせずにそこでおとなしく見ていろ]

 

[邪魔なんてするつもりはないわよ。忍田本部長たちにはわたしが一斉通信で連絡する。あなたはあなたのやりたいようにやってちょうだい]

 

[わかった]

 

ツグミはヒュースとの会話を終えると試験官全員に一斉通信をした。

 

[ツグミです。これからヒュースが動きます。みなさんは手出しをせずにその場で待機していてください]

 

ヒュースがチラリとツグミを見ると、ツグミは小さく頷く。

そんな彼女に対してヒュースはニッと笑うと蝶の楯(ランビリス)を起動して遠征艇へ向かって走り出した。

 

「オサム、チカ、俺を信用しろ!」

 

そう叫びながらヒュースは三角形の結晶体群を紐状にして東たちに伸ばした。

それはアフトクラトルのトリガー使いが生身になってしまったボーダー隊員を捕獲しようとしている光景のように見え、当の東たちはもちろん遠征艇の中にいる受験者をも驚愕させた。

しかし生身の受験者たちには蝶の楯(ランビリス)に対抗する手段はなく、東たち3人は立ち尽くすのみである。

ただ修と千佳のふたりは事情はまったくわからないもののヒュースに何か策があるのだと察し、言葉どおりに「信用する」ことにして攻撃はせずに見守ることにした。

ヒュースは東たち3人を結晶体群でぐるぐる巻きにしたような状態で持ち上げると、彼らを遠征艇の出入り口から中へと放り込む。

さらにヒュース自身もそのまま遠征艇へと向かい、大きくジャンプして艇に乗り込んでしまった。

 

「アズマ、早くドアを閉めて発進させるんだ!」

 

「わ、わかった!」

 

東は急いでドアを閉めようと作動スイッチを探す。

すると外からツグミが大きな声で叫んだ。

 

「ヒュース、この場に及んで寝返ろうっていうの!?」

 

「今の俺はボーダー隊員だ! これは寝返りではなく、表返っただけだ!」

 

「味方を騙していたの!?」

 

「敵を騙すにはまず味方からと言うだろ? …じゃあな」

 

ヒュースがそう言ったタイミングで遠征艇のドアは閉まり、受験者全員が遠征艇へ無事に帰着したという結果になったのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

遠征部隊本隊最終試験は全員が合格条件をクリアできたという喜ばしい結果で終了した。

とはいえ受験者全員が戦闘体を失ってしまい、辛うじて遠征艇に帰還しただけであるから手放しで喜べるものではないのだが、それでも誰ひとりとして欠けることなく希望者全員が遠征に参加できるのだから()()それで十分だ。

ただし最後の最後で試験官つまり敵側にいたヒュースの裏切り行為があって、その結果の全員合格であるから一部の受験者にとってはモヤモヤするものになってしまった。

これまでヒュースはアフトクラトルに着くまでは案内人として遠征部隊に参加し、到着したらすぐに離脱してエリン家に戻るということになっていた。

だから彼が試験官側にいて敵としてはだかることは意外なことではなくむしろそうなるものと誰もが考えていたのだが、最後に彼が東たちを救出して自分も寝返って遠征部隊に戻った方が想定外のことで驚くしかなかった。

このヒュースの寝返りについては修たち玉狛第2のチームメイトも知らされていなかったから、彼の行動には修と千佳も目を疑ってしまう。

しかしヒュースの「オサム、チカ、俺を信用しろ!」という言葉を信用して攻撃をしなかったから、彼の作戦は成功したのだ。

これまでの彼らの信頼関係がなければ修と千佳はヒュースを信用せずに攻撃をしていただろう。

試験開始時の時のようにふたつの作戦室へ転送された受験者たちは早く事情を知りたいということで会議室へと急いで集合した。

 

 

 

 

受験者たちから少し遅れて忍田ひとりだけが会議室へと入って来た。

ここでいつもならツグミが一緒にいて内容の解説をするはずなのだが、その彼女がいないのだから受験者たちはざわめき始める。

 

「みんな、静かにしろ。これから遠征部隊本隊最終試験の結果を発表する。…先ほどの試験の結果、全員…合格だ!」

 

「……」

 

全員合格だと言われても喜びも感慨もないような無反応の受験者たち。

これが実力で全員無事に遠征艇に帰還できたというのであれば両手を挙げて喜ぶのだろうが、最後の最後に手心を加えられたかのような形で合格になった者もいるから素直に喜べないのだ。

本来なら地上に残された東、レイジ、奈良坂の3人は不合格になるはずであった。

しかしその3人を合格にしたのがヒュースだから、三輪は特に複雑な心境でいて胸がムカムカしている。

 

(奈良坂は近界民(ネイバー)の情けで合格させてもらったようなものだ。くそっ、玉狛の奴ら…どこまで図に乗るつもりだ!?)

 

三輪の近界民(ネイバー)を憎む気持ちはわからなくもないが、人を憎む気持ちが自身の心をすり減らしていることに彼は気付いていない。

近界民(ネイバー)に親しい人を殺されて恨みを持つ人間は大勢いるが、その多くは心に折り合いをつけて今を生きている。

時が悲しみや苦しみを忘れさせてくれるというがそれは違う。

いつまでも仇を憎んでいると自分の心が荒んでしまうことに気付き、それではいけないと考えて気持ちの整理をする時が来るだけだ。

人は親しい者が死ぬと葬式をするが、それは死者のためではなく生き残っている者たちによる自分自身の気持ちの整理の儀式である。

そして四十九日とか一周忌などの節目を区切りとして故人との思い出を心の奥の方へ片付けていく。

忘れてしまうのではなく思い出したい時には思い出せるようにするのが心の整理というもの。

それには個人差があって何年経てば気持ちの整理ができるというものではないが、三輪は第一次近界民(ネイバー)侵攻で姉を亡くしてから時が止まっているのではないかとすら思えるほど心の傷が癒えていない。

本人が傷をそのままにしているのだから他人がどうこうできるものではないが、周囲の仲間たちはその傷にできるだけ触れないように配慮しながら彼が以前の笑顔を取り戻せるよう見守っている。

しかし遊真やヒュースといった近界民(ネイバー)が我が物顔といった感じでボーダーにいるように見えるものだから、三輪の傷は癒えるどころではないのだ。

だからあえて結果を告げる忍田以外の試験官は会議室に行かずに解散となっていたのだった。

 

忍田は受験者たちを見回して言う。

 

「試験の内容や判定について疑問や意見があるのなら今のうちに申し出てくれ。後になっていろいろ言われても面倒だし、何より私はこれから明日の記者会見の準備をしなければならないからな」

 

すると太刀川が手を挙げて言った。

 

「忍田さん、7人の試験官のうち4人があんたと迅とツグミとヒュースだってのはわかる。残りの3人が誰なのかは教えてくれないのか?」

 

「試験官が誰であるかをきみたちに説明する義務はない。…しかしきみたちの中には薄々勘付いている者もいることだろうから隠そうとしたところで隠し通せるものではないこともわかっている。よってここだけの話、他言無用という条件で支障のないことだけ話をしておこう。残りの3人は近界民(ネイバー)のトリガー使いだ」

 

近界民(ネイバー)のトリガー使い」という衝撃的な言葉にその場にいた全員が反応した。

それは「やっぱりそうだったのか」というものや「そんなのアリか?」といったものまで人それぞれだが、共通しているのは自分たちの知らないところでボーダーという組織が近界民(ネイバー)と深く関わっているということに驚いた点だ。

レイジたち玉狛支部の人間はゼノンたちの存在を知っていてツグミたちの近界(ネイバーフッド)派遣もキオン絡みのことだということも知っていたが、まさか遠征の試験にまで関わってくるとは試験が始まるまで気付かなかった。

本部所属の隊員たちでゼノンたちのことを知っているのは上層部と技術者(エンジニア)の一部だけで、ツグミたちの近界(ネイバーフッド)派遣についても事情はまったく知らなかったくらいだから、試験官の半数以上が近界民(ネイバー)であったなどど想像できるはずもないのだ。

 

「どのような経緯で彼らと関わるようになったのかについては試験の内容や結果に関係のないことであるから話すことはしない。ただ、彼らの持つトリガー技術は近界(ネイバーフッド)の中でも有数のもので、様々な事情によって技術協力を得てボーダーのトリガーの改造等も行われている。遠征で使用されるバッグワームも彼らの国の技術を導入した改良型となるが、これも鬼怒田さんたちと相談して必要だという判断で行われた。ボーダーが近界民(ネイバー)と深く関わることを快く思わない者もいるだろうが、これは遠征計画を万全な形で進め、成功させるためには必要不可欠なことであると認識してもらいたい。なお、彼らは第一次近界民(ネイバー)侵攻とは一切関係ない国の人間だ」

 

忍田の言い方はボーダーという組織自体が近界民(ネイバー)の技術によって成り立っていて、彼らを否定・拒絶していても未来はないのだから文句を言うなと言っているように聞こえた。

それは誰もが理解していることで特に気にすることもない。

ただ試験で使用されたものがボーダーのものではない武器(トリガー)であり、そのことが気になっていたのだが、未知の近界民(ネイバー)による未知の武器(トリガー)であったと知れば腑に落ちるというくらいだ。

しかし敵である近界民(ネイバー)に頼らなければならないという事実を突きつけられて納得できないと思う者もいる。

三輪の目にはそういった矛盾を受け入れられないという気持ちが浮かんでいた。

だが今ここで意見をしたところで意味はなく、下手に反抗すれば試験の合格を取り消しにされてしまう恐れがあるものだから悔しげに唇を噛みしめるしかなかったのだった。

 

「他に質問がないようならこれで遠征部隊本隊最終試験を終了とするが ──」

 

「待ってください!」

 

手を挙げたのは東だった。

 

「今回の試験についての講評はやらないんですか?」

 

模擬戦でも試験でも終了後に内容について講評を行うことで意味のあるものにするということを続けてきた彼らにとって総仕上げの試験での講評を行わないことを疑問に感じたのだ。

 

「講評か…。必要というのならきみを中心として行えばいい。今回の試験で何か問題点があるというのなら、それはきみたちが一番良くわかっているはずだ。きみたちは試験に合格した。それは我々試験官の課した課題をクリアしたからで、遠征に参加するに相応しい資質を持っているという意味だ。そんなきみたちに今さら私が何を語る必要がある?」

 

「……」

 

「試験の結果に納得がいかないのであれば自分自身で納得できるようにすればいい。出発まで時間は残り少ないが、問題点がわかっているのであれば改善の余地はある。なにしろ初見の武器(トリガー)に対してあれだけ奮戦することができたのだ、戦闘力に問題があるのではないことは確かだからな」

 

「……」

 

「もちろん遠征に参加するに相応しくないと自分自身で判断して辞退するならそれも良し。その場合は早く申し出てもらいたい。明日の午後には市民向けの記者会見を予定しており、参加者全員に出席してもらうことになっている。参加もしくは辞退の意思は本日一四〇〇時までに私に申し出てくれ」

 

遠征に参加したいと自らの意思で申し出て2ヶ月近く特別訓練を行ってきた隊員たちなのだから、試験に合格したのに辞退するとは考えられない。

そこでもう一度自分が任務を遂行して無事に帰還できるだけの資質があるのか振り返ってみて「最終的には自分で判断しろ」と忍田は言っているのである。

試験官が参加の許可を与えたものをそのまま受け入れるのではなく、自分で考えて自分で自分に許可を与えろという意味だ。

つまりこの最終試験の結果は自分自身で判断を下すための「根拠」となるもので、遠征艇に帰還すればクリアという条件はあったものの、実はクリアできてもできなくても関係なかった。

本人が参加する資格があると考えるなら遠征に参加すればいいし、相応しくないと思うのなら参加辞退をすればいい。

今の自分の姿を鏡に映して冷静に合否の判断をすることこそがこの試験の中で最も難しい課題であると東たちは悟ったのだった。

 

「…わかりました。この最終試験、自分たちで納得いくものにします」

 

「よし。では、解散」

 

そう言って会議室を出た忍田の後ろ姿を見送り、受験者がそれぞれ自分への合否を決めるために黙ったまま自らに問いかけた。

 

 

 

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