ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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305話

 

 

午後3時、三門ケーブルテレビにおいて緊急特別番組「近界(ネイバーフッド)遠征記者会見」が放映された。

通常のボーダー広報番組「こちらボーダー広報室」は毎月第1・3日曜の夜に放映されて、活動の最新情報や隊員募集などの内容を嵐山隊のメンバーが紹介するのだが、ボーダー初の…というよりも人類初の近界(ネイバーフッド)遠征を行うというのだから特番・生放送となるのは当然である。

それだけ多くの人間が興味を持っているのだし、なによりも市民の理解と協力が必要な状況であるのだから、ボーダーはその要望に応える義務があるというものだ。

三門市民の多くは5年前の第一次近界民(ネイバー)侵攻によって親しい者を奪われた。

それが人の命である場合は取り返しがつかないものの、近界民(ネイバー)によってさらわれたというのであればまだ希望はある。

今回のアフトクラトル遠征が成功すれば次は第一次近界民(ネイバー)侵攻でさらわれた400人以上の行方不明者の救出を行うことになるのだから大勢の市民がこの遠征に期待をするのは無理もないことだ。

よって三門市民の大多数がツグミたちのようにテレビのモニターに視線が釘付けになっていることだろう。

 

 

「時間になりましたので記者会見を始めます」

 

司会進行は根付で、カメラは仮設舞台の中央に向けられた。

仮設舞台の上には10人×3段のひな段状に座席が設置されていて、そこにはすでに忍田を含めた30人の遠征参加メンバーが勢揃いしている。

年功序列らしく手前に忍田たち年配が並び、最奥の列の下座側には玉狛第2の4人がひっそりと椅子に腰掛けている。

その仮設舞台の上座に城戸、鬼怒田、林藤たち上層部の席があり、唐沢は舞台袖で様子を見物していた。

 

続いて根付によって参加者全員の紹介が行われた。

名前と年齢、所属などが告げられ、本人は舞台の上で起立して一礼をするのだが、最後の方で修と千佳とヒュースの紹介がされると会場内はざわめき立った。

なにしろ修は前回の記者会見で近界(ネイバーフッド)遠征を公言してしまった張本人で、彼の顔と名を知っている人間は多いのだから当然だ。

そして千佳は参加者唯一の中学生であり、その幼い容姿は近界民(ネイバー)と戦う兵士として似つかわしくないのだから驚くと同時に不安にもなる。

さらにヒュースはカナダ人ということになっているのだから誰もが興味を持つ。

この後、遠征の総指揮と引率責任者として忍田が遠征計画の内容を紹介するのだが、最後に記者たちから参加メンバー個人に対しての質問タイムがあるから、その時に玉狛第2のメンバーに対しての質問は必ずあるはずだ。

そのことは想定内なので根付は質問する記者を選定していて、修たちにも無難な答えを言うように指示してある。

だから大きなトラブルは起きることはないだろうが、ツグミはひと波乱あると睨んでいた。

 

(根付さんのことだからちゃんと()()()をしているはずだけど、これって生中継だから何が起きるかわからない。特に今回はマスコミの数がいつもよりも多いからボーダーに対して好意的でない人もそれだけ多く混じっているということだもの。あの時みたいに人の揚げ足取りをするような輩が現れて会見を台無しにしようとするかもしれないけど、そうなったらどうやって乗り切るか見ものだわ)

 

「あの時」とは新体制のボーダーが始動して間もない頃、当時新入隊員だった嵐山と柿崎が出席した会見のことである。

意地の悪い記者が「次に大規模な近界民(ネイバー)の襲撃があったら、街の人と自分の家族、どっちを守りますか?」と正解のない質問をし、嵐山が「それはもちろん家族です」と答えたことでそれを理由にボーダーを批判しようとしたことがあった。

嵐山の純粋で正直な気持ちが大人たちの悪巧みを跳ね除けたのだが、居合わせたツグミは腹の虫が収まらずに記者を叩きのめしたのだった。

 

(今回の注目はオサムくんがどんな発言をするかだけど、根付さんのシナリオどおりに受け答えをすれば上手くかわせる。でも『自分がそうするべきだと思ってるから』という理由で後先考えずに行動しちゃうのがオサムくんだもの心配だわ。自分の信念を貫く姿勢は評価できるけど、その行為によって自分と周囲の人間、そして世の中にどういう結果をもたらすのかを考えずに動く直情型の性格が災いを招くのよね…)

 

ツグミがそんなことを考えている間にも会見は進んでいき、忍田が遠征の概要について説明をしていた。

公式には「ボーダー初の遠征であり、手掛かりが非常に少ないながらも絶対に成功させなければならない」ということになっているので、真実と嘘を程よく混ぜたフィクションをさもノンフィクションであるかのように話すのだが、忍田はこういった茶番劇を演じるのは得意ではない。

だからどこかでボロが出るのではないかとツグミはハラハラしながら見ている。

 

(大きな嘘をつくために小さな真実を積み上げるというのがリアリズムの本質だと聞いたことがある。でもボーダーは市民にたくさんの嘘をついていて、真実と言えるようなことはほんの少ししか公開していない。だから嘘が全部バレたらその瞬間に信用をなくして、その存在が危うくなってしまう。なにしろ市民を苦しめた近界民(ネイバー)が人間だと知ったのはつい最近ってことになっているけど、実際には20年も前にこちら側の世界にやって来て近界(ネイバーフッド)の存在を教えたんだし、その近界民(ネイバー)が関わってボーダーが創設された。そのことだってキオンの事件が起きなければ城戸さん、真史叔父さん、林藤さんの3人だけしか知らないことで済まされていた。城戸さんのことだからまだ隠していることはたくさんありそう。ミリアムの(ブラック)トリガーのことなんて真史叔父さんと林藤さんだって知らされていなかったんだし。隠し事をしていたのと嘘をついていたのとは違うけど、場合によってはこれまでの信頼を全部失ってしまうことになるわけで、そうならないためにはそれまでの行いが重要になってくる。城戸さんがミリアムの(ブラック)トリガーのことを隠していたのはそれが最善の道だと考えたからで、あの人が自身の欲や野望のために行動をするような人だったらとっくに見放されていたはず。それはボーダーも同じ。今まで市民に対して真面目に働いてきたから多少のことでは見放されることはないだろうけど、これからボーダーは発信する情報を疑ってかかるようになるのは否めないな)

 

重要な真実を隠しているという点ではツグミも同じことで、別働隊の存在を本隊に知らせていない。

それは「敵を欺くにはまず味方から」という意味合いもあるが、別働隊は本隊の仕事がやりやすくなるための下準備をするだけで表には出て来ない存在であろうという考え方によるものだ。

なにしろ別働隊の存在をボーダーとしては公式に認めてはおらず、別働隊メンバーの働きが論功行賞の対象であってもツグミたちは褒め讃えられることはなく、万が一彼女たちに何か不都合なことが起きた場合でもボーダーがその存在を認めていないのだから手を貸すことはない。

最悪の場合、ボーダー上層部はキオンの人間がボーダーの遠征を利用して諜報活動をしていただけだということで切り捨てるつもりでいる。

しかしこのハイリスク・ノーリターンの役目を城戸はツグミたちに押し付けたのではない。

このことはツグミやゼノン隊の3人は承知しており、むしろ何かあった場合には切り捨ててほしいとツグミの方から言い出したことだった。

それは「小を切り捨てて大を生かす」ものに思われがちだが、彼女の考え方は違う。

人数の大小など関係なく、目的を達成するために必要か否かであり、場合によっては大を切り捨てる覚悟もある。

単に自分たちの失敗は自分たちでケリをつけるというだけのことなのだ。

ハイレインたちと正面から戦って勝つだけの戦力はないのだから、ツグミたちの行動はすべて水面下で行われることになる。

よってその存在が明るみになることはまずありえず、バレてしまったらそれはベテラン諜報員であるゼノンたちの失態であるのだから責任は自分自身で取るしかない。

だからこそ自分たちのリスクを軽減するためにあらゆる手を尽くしてきているのであり、「最悪の事態」になる可能性は限りなく低い。

そうでなければ忍田が「いざという時には別働隊(ツグミ)を切り捨てる」なんてことを認めるはずがないのだ。

 

 

メディア対策室で製作したシナリオは非常に良くできていたので、事情を知っているツグミですらも信じてしまいそうな「嘘」が公共の電波に乗って広まっていった。

もっともこれまでずっとひた隠しにしてきた近界(ネイバーフッド)遠征のことだって修が大規模侵攻後の会見で暴露してしまわなければ市民が知るはずのなかったことであるから、今回のアフトクラトル遠征について真実を隠していることも誰かが暴露しなければバレることはないだろう。

忍田の説明によると、アフトクラトルという近界(ネイバーフッド)の国から大量に送り込まれたトリオン兵によって三門市は蹂躙され、ボーダーの防衛隊員だけではなく職員や技術者(エンジニア)が一丸となって対抗した結果、市民には犠牲者が出なかったものの職員6名が殉職し、C級隊員32名がさらわれてしまったということになっている。

この時点ではまだ近界民(ネイバー)が人間であり、街を襲った怪物がトリオン兵という近界民(ネイバー)の造った兵器であることは知らなかったということにしてあるのだ。

第一次近界民(ネイバー)侵攻とアフトクラトルによる大規模侵攻の両方で人型近界民(ネイバー)は確認されているものの、一般市民に目撃者がいなかったことを利用して「つい最近までボーダーでも近界民(ネイバー)が人間であるとは知らなかった」ことで通すことにしたのである。

そしてさらわれたC級隊員を救出することを目的として遠征を行うことに決定し、そのためにはまず無人機によって成功している近界(ネイバーフッド)往還実験をさらに前進させて有人による往還実験を行うこととなり、その結果は先日の記者会見で発表されたように大成功を収めた。

よって隊員を近界(ネイバーフッド)に送り込んでも大丈夫であろうということになり、選ばれた勇気ある30人の防衛隊員や技術者(エンジニア)たちが6月1日に出発することになったという流れである。

アフトクラトルの場所については不明であったが、有人による近界(ネイバーフッド)往還実験の際に近界(ネイバーフッド)の地図を手に入れ、そこから場所を割り出したことになっている。

近界(ネイバーフッド)の地図は以前にレプリカによって提供されたものとキオンで使用されている最新版の地図を総合した詳細なものがすでにあるのだが、そんなものをバムスターやモールモッドのようなトリオン兵が持っているはずがないので最近やっと手に入れることができたという「嘘」をつかねばならないのだ。

他にも辻褄合わせをしなければならないために苦しい嘘で誤魔化さなければならない部分もいくつかあるが、それよりもボーダーに対する期待の方がはるかに大きいので気付かないのか気付いても気付かないフリをしてくれているのかトラブルに発展する気配はなさそうである。

記者たちが異論を唱えなければそのまま視聴者や新聞等の読者が声を上げることもないだろうから、このまま記者会見は滞りなく済むだろう。

 

 

忍田の説明が終わると、続いて遠征参加メンバーへの「なぜ危険な遠征に自ら志願したのか」などのインタビューやどのような訓練を行ってきたのかをまとめたVTRが流れることになっているため、一旦全員が着席して大型モニターへ視線を移した。

インタビューについては東やレイジ、風間や二宮、月見といった隊員・オペレーターを選んで無難な答えをもらっていて、訓練は大型トリオン兵を仮想敵として個人や部隊(チーム)単位で戦っている様子、また対人戦闘を想定しての部隊(チーム)ごとの対戦を行っている映像も流された。

さらに閉鎖環境滞在訓練の様子も公開され、あらゆる状況を想定して訓練を行っているのだということは市民にも理解してもらえることだろう。

もちろんこれで十分とは言えないが、それでも何の手掛かりもない状態でここまでやっているのだということになればボーダーの努力を認めざるをえないのだ。

 

 

VTRが終わると鬼怒田による技術的な面の説明が行われ、最後に記者たちからの質問を受け付けるコーナーとなった。

ここまではシナリオどおりに無事に進んできたのだが、関係者一同が不安で緊張してしまうのはここから先なのである。

記者たちが挙手をして、それを根付が指名するという流れだ。

事前に指名する記者が決まっている出来レースのようなものだが、こういう時には必ずボーダーに対して批判的な記者が立ち上がって答えにくい質問をする。

そういう人間を排除するようなことをすれば逆に反ボーダーの声が上がってしまうので無視もできない。

そして彼らの標的(ターゲット)になるのは玉狛第2のような「遠征に参加する資格は十分にあるのか?」と思わせる隊員たちである。

すでに有名人である修と、小学生にしか見えない遊真と千佳に、()()()のヒュースの4人が同じ隊服を着ている部隊(チーム)となれば誰でも興味を持つ。

根付の()()()の記者たちのうちひとりが修に対して()()()()()()()質問をすることになっていてその記者の質問だけで済まそうというシナリオだが、たぶんそれで収まるはずがない。

千佳への質問ならまだいいが、ヒュースへの質問で彼の受け答えで正体がバレてしまうのが一番恐ろしい。

ならば問題のない隊員だけを出席させれば良いだろうということになるのだが、ヒュースは修のように後先考えずに発言をすればそれがトラブルの原因となるくらいのことはわかっている。

それにここで下手なことをすればアフトクラトルに行けなくなるときつく言い含められていた。

ヒュースの遠征参加はアフトクラトルまでの道案内に役立つということになっているが、ツグミと迅がアフトクラトルまでの道は切り開いてあるのだからヒュースがいなくても困らない。

だから彼が外される可能性もあるわけで、そうなればバカなマネせずおとなしくしているはずだ。

根付の書いたシナリオのとおりに上手く答えてくれさえすればまったくもって問題はない。

 

 

「最後にみなさんから参加メンバーに対しての質問をお受けします。質問のある方は挙手をお願いします」

 

根付がそう言うと、ひとりふたりと手を挙げる記者が出た。

 

「では、そちらの方。あまり時間がありませんので、参加者ひとりにつきひとつの質問でお願いします」

 

根付は順番に記者を指名していき、記者たちは「人間と戦うことに恐怖や抵抗感はないのか?」、「どうやって保護者を説得したのか?」といった質問をし、出水と村上がそれぞれの質問に無難な答えをした。

続いて根付が指名したのは大規模侵攻後の記者会見で修のことを非難した記者で、根付がたびたび協力をしてもらっている男性である。

 

「三雲くんに質問します。きみは以前に大規模侵攻の時にさらわれたC級隊員を取り返しに行くと大言壮語を吐いた。あれから4ヶ月、きみがこの場にいるということは城戸司令のおっしゃっていた遠征に参加できる条件を満たしたからだということはわかる。B級隊員のきみがA級隊員と一緒に遠征に参加するようなことになるとは正直言って驚いたよ」

 

「……」

 

「しかしそれだけの実力がありながら5ヶ月前には訓練以外でトリガーを使用してはいけないC級隊員であったということが腑に落ちない。もらった資料によるときみは去年の5月に入隊したことになっている。半年以上訓練生だったきみがどうしてこんな短期間で遠征に参加できるまでのレベルに達したのか聞かせてもらいたい」

 

この質問は誰もが疑問に思っていることで、この記者の質問に修が解答をすれば「参加者ひとりにつきひとつの質問」というルールなので、他の悪意ある記者が修を標的(ターゲット)にすることができなくなる。

だからこの質問は根付が質問と解答をそれぞれ作ってあり、それを記者と修がそれぞれシナリオどおりに言うだけなのだ。

修は深呼吸をしてから口を開いた。

 

「ぼくは遠征に参加するといってもA級隊員と肩を並べて戦えるほどの力はありません。非戦闘員のみなさんと一緒に遠征艇に残って実動部隊のメンバーが帰る場所を守ることくらいしかできないんです。ぼくには誰よりもC級隊員を助けたいという気持ちと絶対にやり遂げなければならない義務があります。だからぼくは今の自分にできることを精一杯やって、遠征艇を守る役目を果たすことが自分のやるべきことだとわかりました。訓練生であった時に比べれば間違いなくぼくは強くなっています。それは大勢の先輩方が指導をしてくださったおかげで、ぼくはその恩返しをする気持ちも含めてどんなことをしてでも遠征艇を守る覚悟です」

 

ここまでが根付の書いたシナリオである。

あまり難しいことや正論的なことを言うと修の言葉として不自然であるということで、普通の高校生でも言いそうな言葉を選んだのだった。

しかしここで終わらず、修は自分の言葉を加えた。

 

「今の自分の気持ちを表す言葉としてピッタリなのは『命を懸けて』ですが、以前にひとりの先輩から言われたことがあります。命を懸けてという言葉は命を捨ててもかまわないという意味ではないと言うのです。命を懸けてという言い方はものすごい覚悟があるように聞こえますが、最悪の場合は死んでもかまわないという気持ちが心の中にあるから言ってしまうものなのだそうです。ぼくもそう言われて気付きました。『遠征艇に残って死ぬ気で艇を守ります』とその人に言うと『本気で命を懸ける覚悟があるのなら死ぬ気ではなく絶対に死なないという気迫で戦わなきゃダメだ』と諭されました。だから遠征に参加する30人の仲間たちがぼくと同じ気持ちでいてくれたなら、全員で絶対に生きて帰って来ることができると考えます。もちろんC級隊員を救出する任務を無事に遂行して、62人でぼくたちは三門市に生還してみせます!」

 

修の真っ直ぐで表裏のない性格は周囲の人間を自然と惹き寄せることになる。

遊真との邂逅がなければ未だに()()()であったはずの彼だが、今はボーダーの中心人物とまでは言えないが大勢の人間に影響を与えていた。

それが市民にも伝染しつつあり、この会見を見守っていた記者や招待された参加メンバーの保護者も「ボーダー(彼ら)ならやってくれる」と期待をするようになっていく。

遠征は単に戦闘力が高ければ良いというものではなく、任務を遂行する力だけでなく生き残る力がなければ意味を成さない。

それを悟った彼の言葉には説得力があり、ボーダーに対する記者たちの期待と信頼が高まっていく気配をツグミはテレビの画面から感じていた。

ならばこの会見を視聴している市民たちも修の姿を見て同様に期待と信頼を高めていることだろう。

修は「使い方さえ間違わなければ非常に役に立つ駒」であり、ツグミはそんな彼を「最も効果を期待できる場で使える」ように()()()()のだった。

 

パチパチパチ…

 

修の発言を聞いた記者たちから拍手の渦が湧き上がった。

まるで素晴らしい演劇のフィナーレのようで、主役の修は戸惑いながらもお辞儀をしてから椅子に腰掛けるが、それからしばらく拍手は鳴り止まず、これで記者会見は大成功…という流れで終わろうとしていたのだった。

しかし根付が質問コーナーの終わりを宣言する前にひとりの白髪まじりの中年男性が手を挙げた。

そうなると根付は彼を無視することもできず、その男性を指名する。

 

「玉狛第2の三雲隊長以外の3人に質問をします。きみたちのリーダーはこの遠征に『命を懸けて』臨んでいるようですが、きみたち個人の気持ちが知りたい。入隊して半年も経たないきみたちが遠征参加メンバーに選ばれたことに大人たちの何らかの思惑が絡んでいそうですが、そこは深く追及しません。だからきみたちの今の正直な気持ちを聞かせてください」

 

この記者はボーダーに対して敵意があるのではなく、単に三雲修という若すぎるリーダーを支える同じく若い隊員たちが何を考えて危険な遠征に参加をするのかが知りたいという自身の好奇心と、同様に感じている多くの市民のために手を挙げただけのようだ。

根付は()()()()()と判断し、遊真、千佳、ヒュースの順で答えさせた。

 

「おれは転入してきた時にオサムに世話になった。オサムのことはここにいる誰よりも信頼しているから、おれにできることを全力でやろうと思っている。おれの全力なんて他のメンバーと比べたら大したことじゃないかもしれないけど、オサムがおれを必要としてくれていておれもオサムを必要としているんだから遠征にも一緒に行くのは当然だろ」

 

「わたしは修くんがいてくれたからボーダーに入隊したし、こうして遠征に参加できることにもなれたんです。わたしも戦力としては十分とは言えませんけど、わたしにできることがあってそれをみんなが必要としてくれているから遠征に行くことに決めました。みんながそれぞれ自分のできることを精一杯やればきっとこの遠征は成功して、C級の人たちと笑顔で帰って来ることができると信じています」

 

「俺はとある人物と約束をしていて、そのためにはオサムたちと一緒に遠征に行くことが最善で最短の道だと考えている。俺が入隊したのは大規模侵攻の後でさらわれたC級の連中と俺は面識がないが、そいつらとその家族の気持ちは誰よりも良くわかる。だから俺は32人全員を連れ戻し、俺自身も約束を果たしたいと思っている。それが俺の遠征に行く理由と覚悟だ」

 

3人の答えは彼らの抱えている事情を知っている者と知らない者では受け取り方が異なるが、仲間同士の強い絆をアピールするものとなっているので及第点と言っていいだろう。

そばで聞いていた根付も安堵した表情でいて、この良い雰囲気のままでおしまいにしようとした。

 

「時間も迫ってきておりますので以上で記者会見を終わらせていただきますが、最後に城戸司令から市民のみなさんに向けてひと言お願いしたいと思います」

 

根付に促され、城戸は自分の席で立ち上がった。

そして会場内をゆっくりとひと通り見回してから口を開いた。

 

 

 

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