ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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331話

 

 

ディルクが一時的にだが亡命することを承諾したことで、ツグミたちは予定どおりの行動ができることになった。

別動隊の遠征艇が戻って来るまでに彼が決心できずにいたら本気で()()するつもりでおり、強硬手段に訴えずに済んだので一安心だ。

しかし問題点はある。

領民を大切にしている領主が突然消えてしまえば領民たちは不安に思うのは当然で、特に直前に玄界(ミデン)からさらってきた子供たちが脱走し、さらにベルティストン家の城が半壊させられるという大事件が起きたのだから、それに関係していると想像するのは自然なことだ。

ツグミはボーダーを悪役にしてエリン家の家族が()()()()()誘拐されたことにしようというシナリオを書いていたが、それだといずれ玄界(ミデン)近界(ネイバーフッド)の国々と交流をする時に警戒される可能性が生じるという意見が上がった。

そこでツグミはシナリオの続きを発表する。

 

「ボーダーはアフトクラトルの情報を入手し、遠征を成功させました。情報の入手先はエネドラで、彼はボーダーに交換条件を申し出ました。彼は殺害を命じたハイレインと実行したミラに対して恨みを抱いていて、『ハイレインが一番失いたくない家臣』を誘拐することでハイレインに仕返しをしたいと言います。そこで遠征部隊は別動隊を残してエリン一家と夫人付きの侍女の4人を拉致してアフトクラトルを去ります。玄界(ミデン)でエリン一家とヒュースは再会します。大規模侵攻で死んだと思われていたヒュースですが、実は瀕死の状態の彼をボーダーは極秘に収容していて、適切な治療を行ったことで彼は一命を取り留めていたのです。ヒュースは祖国への忠誠を誓ってアフトクラトルの情報を一切口にしません。そしてボーダーの監視下でしばらく暮らしていましたが、ヒュースが遠征艇を奪取してエリン一家と共に玄界(ミデン)を脱出して無事にアフトクラトルに帰ることができます。その時にはすでに『神選び』は終わっていました。ディルクさんは玄界(ミデン)で学んだ知識や技術を同胞のために役立てることで()()()()()()()()()()()詫びとするのでした…というのはどうでしょう? 場合によっては内容の変更もありですが、エネドラの要求をのむ条件でボーダーはアフトの情報を得たという前提は変わりません」

 

かなり強引な部分もあるが、これならディルクが本人の意思ではなくアフトクラトルを離れることになり、玄界(ミデン)で生きていたヒュースと再会でき、さらに玄界(ミデン)の優れた知識や技術を持ち帰って役立てることができたなら、「神選び」という大事な行事の時に留守をしていたことも問題視されることはないはずだ。

もちろんハイレインたちはこのシナリオが事実ではなく作り物であることに気付かないはずがない。

ディルクの行為を裏切りと称して領民たちに「事実」を公表するかもしれない。

しかし公式にはヒュースは玄界(ミデン)で死んだことになっていて、ディルクとボーダーの接点がないのだからボーダー隊員と内通してC級隊員たちを脱走させる手助けをすることは不可能だ。

したがってハイレインがヒュースは玄界(ミデン)に置き去りにしたこと、つまり嘘をついていたことを認めなければ、ディルクとボーダーの関係を立証できない。

一度嘘をついた人間がそれを否定することを言っても簡単に信じてもらえるものではなく、それも自分たちの敬愛するディルクを悪者扱いするようなことを言えば逆に反感を買うことになる。

だからハイレインも迂闊に「事実」を口にすることはできないはずなのだ。

 

「つまりエネドラが延命処置を受けていて、意趣返しのためにボーダーに情報を流し、その見返りとして今のハイレインに対して最上級の嫌がらせである生贄候補№1の私を玄界(ミデン)へ連れて来ることを要求した。よってボーダーは私と家族を拉致して玄界(ミデン)へ向かった…ということですね?」

 

ディルクがそう言うと、ツグミは微笑んで頷いた。

 

「そうです。実際にヒュースはアフトクラトルの情報を全然教えてくれませんでしたし、エネドラはいろいろ教えてくれました。アフトクラトルの(マザー)トリガーや『神』のことはエネドラが教えてくれたことです。ハイレインはエネドラを邪魔な存在として始末するために玄界(ミデン)への遠征に連れて行ったようです。いっそのことエネドラを生贄にすれば一石二鳥だったと思うんですけど、たぶん()()()()理由があったからでしょうね」

 

ツグミは以前にミリアムから(マザー)トリガーや(ブラック)トリガー、「神」のことなどを聞いたことがあり、それらの元になった人間のトリオン能力だけでなく人格が大きく影響するということを知っている。

 

(エネドラと直接戦ったことはないけど、真史叔父さんや風間さんから聞いた話だと人格に問題のある人間だったみたいだもの、そんな男が『神』になったらヤバイってハイレインですら考えて候補から外したんじゃないかって思う。あのエネドラッドの横柄な口の利き方やハイレインへの復讐のために祖国の情報を売り渡すくらいだもの、そんな奴を『神』にしたらアフトクラトルという国が破綻してしまいそう。だったら遠征先で始末する(殺す)ってことになるわよね。…それにしてもエネドラにも家族かそれと同様の人間がいたはず。その人たちは奴が死んだってことを聞いてどう思ったんだろ? いくら悪人でも親きょうだいにとってはかけがえのない家族なんだもの、死んだと聞かされたらきっとものすごく哀しんだだろうな…)

 

人としては死んだエネドラだが、トリオン兵・エネドラッドとして自我を保っている。

 

(もし家族と呼べる人がいたなら、エネドラッドになったとしても受け入れてくれるだろうか? …まあ、それについては優先順位が低いから後回しでいいか。とにかくエネドラの存在を利用させてもらおう)

 

リヌスとテオが予定どおりに行動していたらあと数時間でアフトクラトルへと戻って来ることになっている。

 

「間もなく別動隊の艇が例の場所に戻って来ます。一刻も早くこの地を離れたいと思いますので、それぞれが自分のやるべきことをやって支度を終わらせておいてください。ディルクさんの亡命がハイレインにバレたら計画は滅茶苦茶になってしまいますからね」

 

ツグミが三門市への帰還を急ぐ理由はもうひとつあった。

それは遠征部隊本隊が先行して帰還の途にあり、その後を別動隊の艇は約2日遅れで追いかけることになる。

いちおう6月21日に本隊が帰還し、23日に別動隊が帰還することになっている。

よって記者会見は24日の午後に行う予定だ。

今は本隊の帰国日が未定であるからマスコミに記者会見の日時を発表することはしていないが、隊員たちが帰国すれば数日中に行わなければならない。

そこで本隊の遠征艇が帰還して2日間は参加者及びC級隊員たちの健康診断や休息日として本部基地内で待機してもらうことにしている。

もちろん遠征参加者とC級隊員の家族には帰国を知らせて面会できるように融通は図るものの、一般市民にはまだ帰国をしたことすら発表しない。

そして別動隊がヒュースを連れて戻って来たところでメディア対策室の名で遠征部隊とC級隊員が全員無事に帰還したことを発表し、翌日に記者会見を行う…というシナリオができあがっているのだ。

なにしろ記者会見の場にヒュースがいないと「修が公約した62人全員での会見」が行えず、全員が無事な姿を市民に見せなければ遠征が「成功した」と証明はできない。

したがってヒュースを早く三門市に連れて行かなければ遠征成功の記者会見が遅くなってしまうということで、本隊メンバーとC級隊員たちの不自由な時間を長引かせないために少しでも早く帰国したいのである。

 

各人が旅支度をしている間にツグミはエリン家の使用人たちに事情を説明し、ハイレインには「ディルク、マーナ、レクス、そしてその場に一緒にいた侍女の()()()がボーダーを名乗る玄界(ミデン)の人間に誘拐された」と証言をしてほしいと依頼した。

執事のセリウスは初めからディルクの亡命について知らされていたし、ツグミたちの行動も()()()把握していたので快く承知してくれた。

 

 

そして日没から間もない頃、別動隊の遠征艇がアフトクラトルに戻って来た。

本来なら消費したトリオンを補充したいところなのだが一刻も早く出発しなければならないということで、少々無理をすることになるが航行しながらトリオン抽出作業を行うことになる。

前もって遠征艇の停泊場所で待機していたゼノンがエリン家の屋敷の玄関前に(ゲート)を開き、ディルク、ヒュース、そしてツグミの3人はエリン家の使用人たちに見送られてその(ゲート)の中に姿を消した。

 

その直後にセリウスはツグミの指示どおりにベルティストン家の居城に赴き、エリン一家と侍女のイデアが玄界(ミデン)の人間に誘拐されたと報告をした。

当然のことながらハイレインがツグミの考えた茶番を信じるはずがなく、怒りに任せてセリウスを捕らえて罰しようとしたが、そこに偶然居合わせたヴィザによって制止させられた。

ここでセリウスを罰するためには相当な理由が必要だが、彼の主であるディルクはボーダー隊員によって誘拐された被害者であり、そのディルクがボーダーと内通していた証拠はない。

もしセリウスを罰することにしてもディルクが戻って来るわけでもなく、親エリン家の領民たちから恨まれるだけであるからここはぐっと堪えるしかないのだ。

そしてエリン一家の誘拐事件にイデアが巻き込まれたと聞いたランバネインは残念がったが、結局のところ最後まで彼女がツグミであることを知ることはなかったのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

その頃、遠征部隊本隊の遠征艇は順調に航行していた。

艇の中は往路に比べて非常にリラックスした雰囲気で、どこかのんびりとした空気に包まれている。

アフトクラトルでの滞在が50時間弱で済み、ひとりの負傷者も出さずに敵本拠地において完全試合を成し遂げたのだから、初めての敵地での戦闘を含めた遠征としては大成功であったわけだ。

もっとも物足りないという気分の隊員もいるが、ならば他にハイレインたちと戦って勝つ作戦があったかと問われたら答えに窮する。

よって納得はできずともこの結果を受け入れるしかない。

それに忍田に言わせればこれは第一次近界民(ネイバー)侵攻で行方不明になっている400人以上の市民の救出作戦の第一歩であり、今後行われる遠征のマニュアル作りにおおいに役立つということ。

その功績も含めて帰還すれば相応の報奨金と特別休暇が待っているとなれば機嫌を直して一日も早く帰ろうという気にもなるというものだ。

当面の目標は三門市に帰還するだけなので、艇の運航に関わる機関員以外のメンバーは暇を持て余していた。

そんなことで三門市に着くまでキューブになって寝ていようという者も現れ、何人かの隊員はキューブ化を希望してC級隊員たちと同じ箱に入って数日間を過ごすことになった。

 

そしてヒュースが抜け、影浦が自らキューブとなり、村上がプレイルームに行っているために、居室では修と遊真のふたりが向かい合ってテーブルの上に置いたレプリカの半身を見つめながらいろいろと考えていた。

修がこの遠征に参加したのは「遊真とレプリカを再会させる」という目的のためで、それは意外な形で叶えられたことになるのだが、レプリカを修理できるのはトロポイの技術者(エンジニア)だけらしいと聞いて愕然としてしまった。

寺島にもボーダーの技術では不可能だと言われ、本当の意味でレプリカと遊真が再会するためにはトロポイへ行って修理をしてもらうしかない。

 

修はレプリカの半身を取り戻すことはできたものの、それは自分の力ではなく()()誰かに情けをかけてもらった結果である。

そもそも彼がボーダーに入隊()()()経緯だけでなく、今の彼があるのはほとんどが先輩たちによる()()()によってで自身の実力とは言い難い。

入隊試験に落ちた修は迅によって特別扱いをされて入隊を許されたのだし、B級昇格も自力でポイントを稼いだのではなくイレギュラー(ゲート)事件での遊真の功績で()()()()()()()()()()()だけだ。

B級ランク戦ではチームメイトの遊真と千佳のサポートに徹するだけで得点することもままならない。

それでもB級ランク戦ではヒュースの加入もあって上位グループとの厳しい戦いを勝ち抜いて2位になることはできた。

しかしそれはB級ランク戦というルールのあるチーム戦においての結果であり、B級2位の結果が彼のボーダー防衛隊員としての実力であるとは言えない。

さらにこのアフトクラトル遠征でも「どうしても遠征に参加したい」という彼の気持ちを汲み取ってもらい、本隊ではなく遠征艇での居残り組という形で叶えられたが結局何の役にも立たなかった。

それが現在の修の限界だからだ。

 

修はアフトクラトルでツグミに言われた言葉を思い出していた。

 

(『やりたいと思うことがあるなら力を手に入れなさい』か…。霧科先輩の言葉が耳に痛いのはそれが真実だからだ。ぼくにはまだボーダーでの実績がほとんどない。逆に上層部から睨まれるようなことはしていて、城戸司令たちから信頼されていないのは事実。なんとか遠征に参加したけど、やっぱり何もできずにただアフトクラトルと三門市を往復しただけになってしまった。やったことといえばみんなの食事の賄いを手伝ったくらいで、遠征艇のエネルギーになるトリオン抽出作業だってトリオンが少ないからってぼくは免除だった。本当ならぼくなんて連れて行く価値などなかったのに行きたいというぼくの意思を尊重して参加させてくれたし、ぼくにしかできないことをやれって背中を押してくれたのが霧科先輩だった。先輩が近界民(ネイバー)と一緒にキオンへ行ったり、別動隊として行動できるのは長い時間をかけて上層部に信頼されるようになったからだ。先輩だって初めから何でもできたわけじゃないし、努力の積み重ねが結果を生み、それを上層部が認めて一般の隊員とは違う特殊な任務も任されるようになった。そして別動隊の活躍があってこそC級隊員の救出作戦は成功した。本隊メンバーだけでは不可能だったと思う。あの東さんですら霧科先輩の考えた作戦には驚いていたくらいだから)

 

修は自分に対して厳しすぎるツグミのことが嫌いではない。

他の人間が気付かない、気付いても言ってくれないような苦言を正面からぶつけ、「無力」である自分を諌めてくれる人間は彼女と木虎くらいしかいないからだ。

苦言とは言われる人間からしたら嫌なことだが、言わなければならない人間にとっても言いたくはないこと。

場合によっては人間関係が壊れてしまうこともあり、気まずい思いをするくらいならと放っておくことが多いが、ツグミは言うベきことであると判断したらハッキリと言う。

 

(それが霧科先輩にとって『自分がそうするべきと思ったこと』で、ぼくと行動原理は同じもの。でも絶対的に違う点があって、ぼくの場合は自分のやろうとしていることが正しいのだから多少の規則(ルール)違反は仕方がないと考えてしまうけど、先輩は規則(ルール)を遵守しながら正しい手順でやろうとする。そこが大きな違いで、だから上層部や周りの人たちは先輩のやることを認めて期待もする。でももし同じことをぼくがやろうとしても誰も認めてはくれないだろう。だってこれまでのぼくはみんなが信頼してくれるような実績がないから)

 

今回のアフトクラトル遠征は実績を残すチャンスであったというのに、何ひとつできずに終わろうとしている。

それは修に「力」がなかったという証拠で、改めて自分の目的 ── 遊真と千佳と3人で千佳の兄と友人を探しに行く ── を達成するために何が必要なのかを考え直すきっかけとなった。

修はA級隊員にならなければ遠征に参加できないということで、そのためにB級ランク戦で上位2位に入るため()()の努力はした。

そのおかげで2位にはなれたが、それはただ単に他のB級部隊(チーム)よりも優れた作戦を考えてチームメイトの戦力を上手く利用できただけである。

ワイヤー陣を張って遊真たちに得点しやすい環境を作るという()()()()()()()()()()()()()技術は上達しただろうが、修個人が遠征に耐えうる実力を身に付けたのではない。

そのことは最終試験でツグミと迅の即席部隊(チーム)と戦って理解できたはずである。

しかし理解はできても何をすべきなのかわからず、必要な努力を怠ったせいで遠征の中で彼は何の役にも立てなかったのだった。

このC級隊員を救出するという遠征の一連の流れの中で、修が得たものは「自分の無力さを思い知らされた」という一点のみであった。

 

(空閑はレプリカの修理のためにトロポイへ行きたいに決まっている。ぼくもできることなら一緒に行きたいけど、そうなったらボーダーを辞めなければならないだろう。レプリカを修理することはボーダーのために役立つことで、空閑はともかく上層部がぼくをトロポイへ行かせてくれるはずがないから。そしてぼくがボーダーを辞めたら千佳との約束を守れなくなる。千佳はもうぼくが守ってやらなくても大丈夫かもしれないけど、3人で近界(ネイバーフッド)へ行って麟児さんたちを探すという約束を反故にはできない)

 

修はこの時ほど自分の無力さを悔いたことはないだろう。

その無力が自分の怠慢によるものであり、今さら後悔したところで何の意味もないとわかっていても自分を責めずにいられない。

 

(もし空閑がこちら側の世界へ来ていなかったらどうなっただろう? 空閑のいない状態でもイレギュラー(ゲート)事件は間違いなく起きていて、学校に現れたモールモッドを倒そうとしてぼくは死んでいただろうな。いや、そこで死なずにいたとしてもぼくはC級のままで、千佳はボーダーに入隊することもなく、去年の5月に入隊してからずっと停滞したままのぼくがまだ続いていたに違いない。大規模侵攻も起きていただろうけど、どんな結果になったのかは想像もできない。ぼくがモールモッドに殺されても殺されなくてもC級隊員は緊急脱出(ベイルアウト)できないことが知られてしまったはずだから、大規模侵攻で何人ものC級隊員がさらわれただろう。それに空閑がいない状態であればもっと被害は大きくなっていて、民間人にも被害が及んでいたはずで、その中に千佳がいたかもしれない。そう考えてみれば空閑のおかげでぼくは生きていられるとも言えるんだ。ぼくはいつも空閑に助けられていた。助けられてばかりで、ぼくは空閑のために何もできない。それは全部ぼくの無力のせいだ)

 

しかし無力ではあっても修は無能ではない。

知恵を絞っていろいろな障害を乗り越えてきたのは事実で、今回のレプリカの問題もベストではなくてもベターな解決策はきっとあるはずだ。

 

(空閑は一日でも早くレプリカを元に戻してやりたいと考えているはずだ。だけどそれは難しい。ボーダー隊員である以上は上層部の考えに沿った行動をしなければならず、空閑がレプリカの修理のためにトロポイへ行きたいと言っても簡単に許可は下りないと思う。だとすれば空閑はボーダーを辞めて一個人として行動しようと考えるだろうが、たぶんその時にはぼくと千佳が足枷になる。ヒュースがいなくなって、さらに空閑までいなくなれば玉狛第2はぼくと千佳と宇佐美先輩の3人だけの部隊(チーム)になってしまう。それではA級昇格どころかB級上位にいることも難しい。いや、遠征の件だけなら千佳は今回のように機関員という立場で参加できるだろうが、今度こそぼくは遠征に参加できないだろう。だって今回の遠征でぼくは何の役にも立っていないんだから。そんなぼくたちを放り出してまでトロポイへ行くと空閑が言うはずがない。せめてぼくが東さんや村上先輩たちのようにB級でも個人で参加できるだけの力があれば…って、またぼくは情けないことを言っているな。C級の時に適切な訓練を受けて正隊員になるという『ボーダーの防衛隊員としてやるべきこと』を怠ったためにこのザマだ。努力して正隊員になれなかったのではなく、努力もせずにいたから後悔することになる。…ああ、霧科先輩はいつも言っていたっけ。後悔をしないためには今の自分がやるべきことを全力ですることが重要だって。やるべきことを全部やっての結果であれば諦めもつく。ぼくが後悔しているのはやるべきことをやらなかったからだ)

 

修は以前に遊真に「自分が『そうするべき』と思ったことから一度でも逃げてしまえば、本当に戦わなければいけない時にも逃げるようになる」と自分の行動原理を説明していたが、彼の考える「するべきこと」と本当に「するべきこと」が異なっていたためにこのような結果になったのである。

入隊してから遊真と出会うまでの半年間、修にとってするべきことの中に「正隊員になる」という選択肢はなかったようで、見方を変えれば「正隊員になる」という()()から逃げていたとも言える。

同期で入隊した隊員の中に友人らしき人物が見当たらないのも、たぶんそれは周囲の人間が弱い修を相手にしても自分の成長に役に立たないと考えて、彼のことは誰も相手にしてくれなかったからだ。

そうなると模擬戦をしたくても相手がおらず、自分から積極的に声をかけることもせず、結局訓練ができないからいつまで経っても訓練生のまま。

さらに訓練をしないどころかB級ランク戦の観戦もしていなかったようで、これでは自力で正隊員になることは不可能だ。

逃げてはいけないと言っていながら「ボーダー隊員としてするべきこと」から逃げていた結果がこれであるから自業自得というものである。

もし修が木虎のように血の滲むような努力を重ね、トリオン能力の低さをカバーできる戦い方をマスターしていたらA級は無理でもB級にはなっていたはずである。

ずっと何もしないでいたから、何かをしなければならない時に何もできずにいる。

それが何かをしなければならない時になってやっとわかったというお粗末な結果となり、()()()()()ことで頭を悩ませるのだ。

 

 

 

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