ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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332話

 

 

アフトクラトルを発って9日後の夜、遠征部隊本隊は無事にボーダー本部基地に帰還した。

最終寄港地であるメノエイデスを発ってすぐに連絡を入れておいたので、出発した時と同じように上層部のメンバーや遠征参加者の家族といった限られた関係者のみに出迎えられた。

そして2日遅れで後を追っている別動隊の艇からも連絡が入っており、3日後の6月24日の午後に遠征部隊の帰還記者会見を行うことを正式に決定、マスコミには別動隊が到着してから発表することになった。

記者会見までの3日間、本隊メンバーとC級隊員たちには全員本部基地で待機してもらい、その間に健康診断と休息、報告書の作成と提出を行ってもらうことになっている。

もちろん彼らの家族には本部基地で面会をしてもらうという配慮を忘れてはいない。

なにしろ32人のC級隊員たちの家族はこの日が一日も早く来ることを心から願っていて、それが叶ったのだから会いたいに決まっているのだ。

遠征艇からキューブの状態で運び出されたC級隊員たちは本部基地の研究室(ラボ)で元の姿に戻り、全員が精密検査を受けることになった。

アフトクラトルでは大事に扱われてはいたが食料事情が悪かったこともあり、大規模侵攻前に比べて体重が大幅に減ったりビタミン不足によって疲れやすくなっていたり貧血気味であったりと様々な症状が出ている隊員もいたが、特に入院して治療を受けなければならないということがなかったのは幸いであった。

しばらくの間はボーダーの訓練は休み、体調の回復と遅れている学業を優先させることになるだろう。

 

 

遠征部隊本隊が帰還した翌日の夜は関係者を集めてのささやかな祝宴が催された。

本部基地の中庭でのバーベキューパーティーで、任務を完璧な形で成功させた本隊メンバーの祝勝会であり、C級隊員たちにとってはこれまでの苦労をねぎらう慰労会、そして何人かの隊員たちの誕生日を祝うものであった。

1月の大規模侵攻でさらわれたC級隊員32人の内11人がアフトクラトル滞在中に誕生日を迎えていたが祝うどころではなかったし、遠征部隊の中でも影浦、歌川、村上の3人が遠征中に誕生日を迎えていたので、この14人の誕生日をこの場で祝おうということになったのだ。

パーティー自体は非常に和やかで誰もが楽しそうにしており、特にC級隊員たちにとっては久しぶりの肉・肉・肉で、用意した大量の肉はあっという間に若者たちの胃袋に収まっていったのだった。

ただし影浦だけは自分に向けられる()()()()感覚に戸惑っていたようで、目立たないようにと会場の隅っこでひとり静かに肉に食らいついていたのが印象的であった。

 

 

◆◆◆

 

 

そして翌日の夕方、別動隊の遠征艇が三門市に戻って来た。

三門軟石の採掘場跡に停泊し、そこからツグミ、ゼノン、リヌス、テオ、ディルク、そしてヒュースの6人はタキトゥスの(ブラック)トリガーを使ってまずはツグミたちが住んでいる寮へと転送してもらうことにした。

普通に考えれば真っ先に本部基地に出頭して城戸に帰還の報告をすべきことなのだが、ツグミにとっては最も優先すべきは一刻も早くエリン家の家族を再会させることであり、城戸への報告は二の次なのである。

約50日ぶりにエリン家の3人が顔を合わせるのだし、そこにヒュースを加えた4人となれば約半年ぶりとなるわけで、ツグミやゼノンたちにとって赤の他人ではあるが自分のことのように嬉しくて涙が出てしまうほどだった。

 

アフトクラトル遠征に関して近界民(ネイバー)の協力者がいるということはボーダー内の公然の秘密となっており、ツグミたちの住む寮の敷地に(ゲート)が開いたことは本部基地で確認されても誰も驚きはしなかった。

驚きはしないが別動隊が帰還したことを知った者が黙って待っているはずがない。

ツグミが迅に電話をしようとしたタイミングで彼女の携帯電話に着信があった。

発信者は迅である。

 

「ツグミ、おかえり」

 

「ただいま、ジンさん」

 

「こっちに帰って来て真っ先に向かった場所がそこか…?」

 

「当然じゃないですか。久しぶりに家族が再会するんですよ、一分一秒でも早く叶えてあげたいと思うのが普通です」

 

ツグミがそう答えると、電話の向こう側の迅は苦笑する。

 

「俺や忍田さん、城戸さんはおまえにとって何なんだ? 早くこっちへ来い。おまえの家族は揃っておまえの無事な顔を見られるのを今か今かと待っているんだぞ」

 

「あ…。じゃあ、来賓用の玄関前に(ゲート)を開き、全員で向かいます。城戸司令に許可をもらってください。そこにいるんでしょ?」

 

「まあな。ちょっと待ってろ。…………………ツグミ、OKだってさ。その代わり5分以内に来いって」

 

「わかりました。お忙しい城戸司令をお待たせするわけにはいきませんからね。了解、直ちに本部へ出頭いたします」

 

そう言って電話を切るツグミの顔には迅や忍田たち「家族」の顔が浮かんでいて、改めて自分が何のために戦っているのかを思い出したようであった。

そして家族の次に大切な友人たちに声をかけた。

 

「みなさん、ボーダー本部基地で城戸司令たちがお待ちのようです。…ゼノン隊長、お手数ですが来賓客用玄関前に(ゲート)を開いてください」

 

「わかった」

 

ゼノンが(ゲート)を開くと、彼を先頭にして8人がぞろぞろと(ゲート)の中へと入って行ったのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

来賓客用玄関のロックをツグミのトリガーで解除し、総司令執務室へ向かう廊下を歩いているとエレベーターホールで迅と忍田のふたりがツグミたちを出迎えてくれた。

玄関まで来たかったようだが間に合わなかったというのが真相らしく、少々バツが悪いという顔のふたりにツグミは真顔で言う。

 

「忍田本部長、アフトクラトル遠征部隊別動隊4名、ただいま帰還いたしました。なおアフトクラトルのエリン家のご家族()()をお連れいたしましたので、城戸司令への面会のお取次をお願いします」

 

忍田に向かってビジネスライクな態度のツグミ。

しかし彼女が「ボーダーでは上司と部下の関係に徹する」ことを信条としていることを知っているので忍田は苦笑するだけだ。

 

「長旅ご苦労だった。疲れているところをすまないが、城戸司令の執務室まで来てもらおう」

 

続いて忍田はディルクに向かって言う。

 

「アフトクラトルのお客人、三門市へようこそ。私はボーダー本部長の忍田真史と申します。…さあ、まいりましょう」

 

ツグミたちは人通りのまったくない廊下を歩いて行く。

 

(5分以内にと言ったのはその間玄関から城戸司令の執務室までの途中で誰にも会わないようにと()()()するためね、きっと。ゼノン隊長たちのことは知られているとしても、ディルクさんたちのことまでは知らせていないはず。キオンはボーダーの敵じゃないけど、ディルクさんは敵であるアフトクラトルの人間で、ハイレインの部下という立場だもの)

 

ツグミが想像しているようにゼノン隊の3人は遠征における協力者として遠征に参加したメンバーと救出されたC級隊員たちにはその存在が知られている。

他にもオペレーターや技術者(エンジニア)の一部も知っているが、遠征に関わっていない人間はまだ知らずにいた。

いくら敵ではないといってもゼノン隊の3人は近界民(ネイバー)であり、ヒュースを含めエリン一家はアフトクラトルの人間であるから、その立場は微妙なものだ。

よって事情を知らない隊員や職員と顔を合わせて無用なトラブルを防ぐために来賓客用玄関から総司令執務室までの間の人払いをしたのである。

隊員や職員の口からボーダーと近界民(ネイバー)の関わりについて漏れたら市民の信頼にも大きく影響するものであるから厳しい箝口令を敷いているが、念には念を入れてということなのだろう。

 

 

◆◆◆

 

 

総司令執務室には城戸の他に根付、鬼怒田、唐沢、林藤といった上層部のメンバーが勢揃いしていた。

彼らはボーダーという組織の主要メンバーであるというだけでなく、各人がそれぞれの立場でディルクやエリン家に対して個人的に興味を持っているためにこの日をずっと待っていたのである。

 

「私が界境防衛機関ボーダー総司令官の城戸正宗です。このたびは我がボーダー隊員の救出作戦にご尽力いただき誠にありがとうございました。我々はエリン家の皆様を心より歓迎いたします」

 

城戸が礼儀正しく挨拶をする。

近界民(ネイバー)に対して友好的な人間ではないが、遠征の成功に貢献してくれた相手には敬意と感謝の気持ちを示すのは組織のリーダーとして当然の態度である。

しかしそうはいっても大規模侵攻の前の彼と今の彼では様子がだいぶ違うようにツグミには感じられた。

 

(なんか吹っ切れたというか…気持ちの整理ができて胸のつかえみたいなものが取れたのかもしれない。ボーダー創設時のメンバーの生き残りで、いろいろ自分の胸にだけ収めていたものがあったからずっと苦しかったと思う。その心に秘めた苦しみとボーダーのリーダーというふたつの重圧に耐えてきた証拠ともいうべき眉間のシワも心なしか浅くなったようにも見えるし。このまま昔の城戸さんに戻ってくれたらな…)

 

ツグミはそう願うが、それが簡単なことではないことも良く理解している。

 

(ボーダーは近界民(ネイバー)と戦う組織なんだから、城戸司令としては近界民(ネイバー)はあくまでも敵として扱わなければならない。ボーダーの中にも近界民(ネイバー)を家族や友人の仇だと憎んでいる人は多い。城戸司令が近界民(ネイバー)擁護の立場に回ったら組織が混乱するだろうから、今のスタンスを変えるわけにはいかないものね)

 

ツグミがそんなことを考えている間にディルクは自己紹介をし、城戸、忍田のふたりがディルク、マーナ、レクスの3人と向かい合って来客用のソファに腰掛けた。

それをツグミたちが少し離れた場所で見守るという形となる。

 

「長旅でお疲れのところ申し訳ないが、あなた方の受け入れについてお話をしましょう」

 

話し合うと言ってもツグミを介してボーダーとディルク双方の合意はできている。

そもそも彼女がどちらにとっても上手くいく「Win-Win」の道を提示していて、お互いに納得がいったから彼女の指示に従ったのであり、これは単なる確認作業のようなものだ。

アフトクラトルで行われる「神選び」によって命の危険に晒されているディルクが一時的に玄界(ミデン)へ亡命を希望し、ボーダーが彼とその家族を受け入れて彼らの安全の確保をするという条件で、ディルクとヒュースはボーダーのアフトクラトル遠征の成功のために協力をするということになっていた。

そして遠征が成功したのだから、ボーダーはエリン一家のために可能な限りの便宜を図ることになる。

その便宜の内容についてディルクが城戸に話し、関係者のいる中で承諾を得ようという流れだ。

 

「ではこちらの希望についてお話します。…私たち家族4人は玄界(ミデン)という平和な国で命の危険を感じることなく生活できるだけで十分です。衣食住のすべてをそちらにお任せするのですから贅沢は言いません。ただ…せっかく玄界(ミデン)で暮らす機会を得たのですから見聞を深めたいと考えております。もちろん自由に行動できる立場ではないと承知しております。ですのでそちらの負担にならない程度で私に学ぶ機会を与えてはいただけないでしょうか?」

 

「それはかまいません。お互いに技術や知識を交換し合うのは良いことです。それで具体的にはどのような分野に興味がおありで?」

 

「まず農業分野です。ツグミの話ですと玄界(ミデン)ではごく普通の農家でも作業を機械化しているということですし、効率の良い作業と生産量のアップは領民たちの生活レベルの向上につながります。続いて食料の長期保存に関しての技術です。玄界(ミデン)の保存食を食べましたが、その質の良さと保存できる期間の長さに感動さえしてしまいました。そして一番知りたいことは自然由来のエネルギーによる発電とそれを使用した様々な機械についてです。近界(ネイバーフッド)ではほとんどがトリオンに頼っているものですから、トリオンを生み出す人間は非常に貴重です。それなのにその人的財産を奪い合う戦争を行って、それで人を死なせてしまうという愚かなことを繰り返しています。ですから玄界(ミデン)の人間由来ではないエネルギーを導入した新しい文明を広めることができれば戦争で命を失う人間の数が減ると考えます。まあ、これは私がツグミの話してくれた理想の世界に感化されたものですけど。とにかく私はアフトクラトルで弱小ながら貴族と呼ばれる立場の人間で、領民たちが平和で豊かな暮らしができるよう務めるのが私の義務だと信じています。そのために必要なのが『神』となることではなく、生きて領民たちのために働くことが重要だとツグミに教えられました。私は玄界(ミデン)に滞在する間はこの国に留学したものと考え、やれることは何でもやりたいと思っています」

 

城戸はディルクの話を聞いていて、その話の内容や相手への訴え方がツグミに似ていると感じていた。

 

(とうとうキオンだけでなくアフトにまで親派を広げたようだな…。本人は無意識なのだろうが、この子の言葉には聞いた者の心を揺さぶる何かがある。私自身がこの子の言葉に影響されて近界民(ネイバー)を受け入れることに抵抗がなくなってきた。この子が言うようにボーダー自体が近界民(ネイバー)の技術なしに成り立たない存在で、近界民(ネイバー)を否定することはこの組織の存在を否定することと同じ。そして織羽がいたからこそ今の私がある。半年前の私ではこんなことすら考えることもなかっただろう)

 

大規模侵攻後にツグミと城戸の交流が増え、お互いが相手を傷付けないようにと遠慮し合っていたことで停滞していた関係を一気に改善した。

今ではこうして近界(ネイバーフッド)の国々との外交面において総司令としての権限の一部を彼女に与えているくらいだ。

城戸もまた織羽の遺志を継ぐ彼女の目指すものを見てみたいと思うようになっていたのだった。

 

「あなたの希望は良くわかりました。こちらでも可能な限りご希望に添えるよう努力いたします。詳しいことについてはツグミと外務・営業部長の唐沢と相談して決めてください」

 

「わかりました。キド司令、そしてボーダーのみなさんのご厚意に心から感謝いたします」

 

ディルクはそう言って城戸に頭を下げた。

 

「生活する上で何か困ったことや必要なことがあればツグミに言ってもらえばすぐに対処します。原則として我々ボーダーの人間が直接関わることはなく、連絡等は彼女を通じて行います。…ここまでで何かご質問は?」

 

「いえ、今のところは特にありません。私たち家族はボーダーのみなさんにお世話になる身です。どうぞよろしくお願いいたします」

 

貴族という身分の人間が深々と頭を下げる姿に城戸たちはディルクが保身のために逃げてきたのではなく、自分の家族と領民のために生きることを決心した()()()()()()()()()であることをひしひしと感じていた。

さらにその謙虚な姿勢が芝居ではなく本心からのものだとわかればできる限りの支援をしたやりたくなるものだ。

ディルクとボーダー上層部メンバーの相手に対する印象は良好なもので、ディルクを強引に連れて来たツグミにとってはひと安心である。

そんな彼女に城戸が視線を向けて言った。

 

「ツグミ、おまえにはエリン家のみなさんの安全と快適な生活を保証するという義務がある。彼らがアフトクラトルへ帰国するまで専属で身の回りのお世話をするよう命じる。よってボーダーの通常の活動から離れ、彼らと行動を共にすること。これは総司令としての命令だ。いいな?」

 

「はい…承知いたしました」

 

エリン家の亡命に関してはすべてがツグミの計画によるものなので彼女が全責任を取るのは当然のことだ。

しかし城戸には別の目論見があった。

彼女に任務を与えておくことでエウクラートンの女王継承問題から遠ざけておこうというのだ。

これは迅と忍田も知らないことで、ツグミの判断によっては彼女だけでなく大勢の人間の未来に影響するデリケートなもの。

少しでも先送りしたいと思うのは城戸がボーダーの最高司令官であると同時に彼女を娘として慈しんでいるからである。

もちろんツグミも自分だけの問題ではないことは百も承知だ。

こうして()()()()()()()()城戸から「枷」をつけられることで、彼女は強制的に()()()()()()()()()()()()()()()

そんな城戸の気持ちがわかるようになったツグミだから、彼の愛情と心遣いには感謝していた。

 

「城戸司令のご期待とお気持ちに添えるよう、誠心誠意努めさせていただきます」

 

芝居じみた大げさな言い回しだが、この言葉に嘘偽りはなく本心からのものであるからその場にいた者は誰もが彼女のことを信用するのである。

 

「ではエリン家のみなさんのことはツグミに任せ、続いてキオンのお三方とお話ししましょう」

 

城戸は立ち上がるとゼノン、リヌス、テオの3人が並んでいる場所まで歩いて行く。

そして深々と頭を下げた。

 

「このたびは多大なご協力をいただき、誠にありがとうございました」

 

半年前の彼のことを良く知っている人物なら、今の近界民(ネイバー)に対して心からの感謝の言葉を述べている彼が同一人物だとは想像もできないはずだ。

しかしゼノン隊の協力なしにはアフトクラトル遠征が成功することはなかっただろうし、今後の遠征に関しても技術的な面や様々なことで協力を依頼することになるのだからボーダーの最高司令官として頭を下げるのは当然だと城戸は考えているのだろう。

 

「キド司令、頭をお上げください。我々は本国の命令でボーダーに協力をしているのです。個人的にもツグミには言葉には尽くせないほど感謝しており、ささやかでもその恩返しができればと行動したまでです。それに我々はまだ解任されていませんからボーダーの臨時隊員です。上官からそこまで感謝されますと面映いです。これまで本国での任務でここまでされたことはありませんから、ハハハ…」

 

ゼノンは照れくさいといった感じで苦笑いをしながら続けた。

 

「我々はキオンの総統閣下から()()()()()()()()()近界(ネイバーフッド)及びトリガーの情報をボーダーに提供することを許可されています。本国については口外できることはありませんが、他の国々のことやトリガーの情報ならばお教えできます。まだしばらく玄界(ミデン)に滞在しますので、お互いにとって良い結果を出せるようにしたいものです」

 

キオンの情報は得られなくてもゼノン隊の持つ他国の情報はボーダーにとって喉から手が出るほど欲しいものである。

十数年にわたってボーダー独自で集めたものの何十倍もの情報が手に入るとなれば今後の遠征でおおいに役立つし、敵になりそうな国があれば前もって対処もできるだろうから隊員たちの安全も確保しやすくなる。

一方、ゼノンたちが欲しいものは玄界(ミデン)の「トリオンを使わない技術」で、ボーダー側でやることといえばその道のプロに教授してもらうことができるよう手配をするだけでいい。

これも唐沢のコネクションを利用すれば難しいことではなく、裏の世界にも通じている彼ならどんなことであっても対応は万全である。

つまりどちらにとってもローリスク・ハイリターンで、ツグミが築いた信頼関係を壊さない限りお互いに利益をもたらすはずだ。

ただしゼノン隊の3人が無条件にボーダーを信じているわけではなく、ボーダー上層部のメンバーもゼノンたちに対して疑念を抱いている部分がある。

 

(この両者を繋いでいるのがツグミで、こいつの行動次第でキオンはボーダーにとって()()()()()()()()だった…)

 

城戸とゼノンの様子をそばで見ている迅はツグミがゼノン隊によって拉致された時のことを思い出していた。

 

(もしツグミが自力で解決することを諦めていたら別の結果が待っていた。ゼノン隊はこいつの命と引き換えにミリアムの(ブラック)トリガーを要求し、城戸さんは()()()()()()問題を解決しようとして取引に応じるが失敗。(ブラック)トリガーは持ち去られ、ツグミはキオンへと連れて行かれてしまった。それが俺の視た()()()未来で、ツグミが俺たちの前から消えてしまうというだけでなく、今後の遠征でキオンは敵として立ち塞がる存在になっていただろう。こいつが強い人間になったのは()()遠征に参加できなかったことがきっかけであることは間違いない。大きな犠牲があったものの無駄にはならなかったということだ。あの時の最上さんは自分の死を覚悟し、残る者に希望を託していた。『俺たちが道を作る。ツグミはその道を歩いて俺たちの()()を継いでくれ』と笑顔で頭を撫でながら言っていたが、こいつはちゃんとあの人の遺志を継いでいる。…いや、あの人の残した道の先の荒野を切り開いて先頭を切って歩いていると言った方がいいか。あれから5年半…あの頃の面影がほとんどないほど逞しくなったよな…)

 

自分の隣でニコニコしているツグミをチラ見してつい微笑んでしまう迅。

それに気付いたツグミが小声で言う。

 

「ジンさん、何かヘンなこと考えてませんか?」

 

「ば~か。ヘンなことなんて考えてないさ。俺は久しぶりに会った恋人を抱きしめたいって思ってるだけだよ」

 

「はいはい、わかりました。それは時間のある時に、ね」

 

半ば呆れて言うツグミに迅は苦笑いをした。

 

 

 

 

城戸とゼノンの話が終わると一旦解散となった。

この後、遠征部隊が無事に帰還したことと6月24日の午後3時から遠征部隊の帰還記者会見を行うことを公式発表した。

この会見はこれまでのようにテレビで放映されるが今回は初めて生中継されることとなり、根付とメディア対策室はいつも以上に緊張している。

そしてその記者会見にはツグミも別動隊の人間として出席を求められた。

今回の遠征を最善の形で完遂したことをアピールするためには別動隊の存在をなかったことにはできず、むしろC級隊員と本隊メンバーが全員無傷で帰還できたのは別動隊の働きが大きい。

よっていくら()のシナリオをでっち上げようとも無理が出てしまうため、別動隊のことを隠すよりは公にしてしまおうというのである。

もちろんゼノン隊のことは絶対に秘密で、ツグミだけが出席することになった。

 

 

 

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