ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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333話

 

 

ヒュースは本隊メンバーと合流するために本部基地に残り、あとの7人は弓手町の寮へと帰ることになる。

帰りもゼノンのトリガーを使って一足飛びで、三門市の様子を見物したいと言っていたディルクの願いを叶えるのは少々後回しにし、ツグミはエリン一家の暮らす住まいの準備をすることにした。

住まいといっても寮の1DKの部屋しかない。

市内のホテルという案もあったが、快適性よりも安全性を優先すべきということになり、寮での生活をお願いすることになったのだった。

生まれながらの貴族であるディルクに庶民の暮らしを強いることになるのだが、意外にも本人は6畳と8畳という狭い「領地」を楽しんでいるようだ。

アフトクラトルの屋敷のリビングルームよりも狭い部屋で窮屈だと思うのだが、彼にとってはこれもアフトクラトルと玄界(ミデン)の庶民の暮らしの比較対象になり「非常に興味深い」と言って生まれて初めて見た畳やウォシュレットトイレには年甲斐もなく大はしゃぎをしてしまったほどである。

4階フロアがアフトクラトル、3階が玄界(ミデン)、2階がキオンという3つの国の人間がひとつの建物に同居しているという事実は今でこそ非常に驚くべきことだろうが、ツグミが自分の信念を貫くことができればいずれはごく自然なものになるかもしれない。

そのための道のりが長くて厳しいものになるとしても、彼女が途中で投げ出すことはないだろう。

 

この日は迅とヒュースのふたりが不在であるためディルクの歓迎会は翌日に持ち越された。

もっとも買い物に行ったり準備をする時間もなく、夕食はレクスの希望でデリバリーピザという質素なものとなる。

しかしそれですらアフトクラトルの人間からすればご馳走であり、生まれて初めて食べるピザにディルクは大感激をしていた。

その姿が初めてピザを食べた時のレクスとそっくりで、マーナとツグミは苦笑するばかりだ。

玄界(ミデン)近界(ネイバーフッド)では似たような料理はいくつもある。

野菜や肉などの食材は同じものがあったり別のものに置き換えて調理をしているのでどちらの世界にも存在するのだ。

ただし玄界(ミデン)ではごく普通の庶民でも食べられる料理であっても近界(ネイバーフッド)では限られた人間しか口にできないものも多い。

近界(ネイバーフッド)の国々では貴族や一部の裕福な市民は食事を楽しむ習慣はあるが、庶民は食事を生きていくための栄養補給としての行為でしかないことはいくつかの国を回って知った「現実」である。

ツグミはそういった近界(ネイバーフッド)の実情を自分の目で確かめることでふたつの異なる世界を比較し、自分なりにできることを考え、そのためにすべきことを考えて行動している。

彼女には「自分がやるべきことだと行動する前に自分にその資格()があるかどうかを考える」ことを信条としているからとにかくまず「考える」のだが、考えるにはそのための「材料」が必要で、今はその材料集めに専念することに決めていた。

それも11歳になったばかりの自分が遠征に耐えうるだけの実力を持たずにいたせいで遠征に参加できず、大勢の仲間を失ったことが今でも心に深い傷を残しているせいだ。

いざ自分が行動する時に力がないせいで悔しい思いをしたくないと常に自分を鍛えていて、そのおかげでボーダーの公式な遠征ではない形で近界(ネイバーフッド)を行き来することができるようになった。

それは「(ブラック)トリガーに対抗できる」という遠征に参加する()()()()を満たしているだけでなく、城戸を含めた上層部のメンバーから信頼されているからである。

アフトクラトル遠征において彼女の果たした役割は大きく、今後の遠征でも彼女の力を必要とすることになるのは誰の目にも明らかだ。

 

そうなるとツグミは大きな選択を迫られた。

これまでよりもはるかに忙しくなるであろうボーダー活動と並行して高校で学ぶことは困難である。

通信教育という手段で高校1年を無事に終えたものの、2年になってからはまったく授業を受けていない。

キオンへの旅は4月1日に出発して、帰還が5月11日。

その後はアフトクラトル遠征に向けての準備で5月27日には別動隊として近界(ネイバーフッド)へ発っている。

そして帰還したのが6月23日で、1学期は3ヶ月近く「出席」していないことになるのだ。

そこでツグミは高校を退学するという選択をした。

たくさんのものを抱えているとそこからこぼれ落ちるものがあるのは仕方がないことで、落ちたものを拾おうとすれば別のものが落ちてしまう。

ならば絶対に落としたくないもの()()をしっかりと抱えるしかない。

今の彼女にとって学ぶべきものが文科省の定めた学習指導要領に従ったものではなく、自分自身を高めるために見聞を広めることであると判断した結果である。

いずれ三門市立大学へ進学して東のようにトリオン関連の研究をしようと考えていたがそれは彼女でなくてもできることで、彼女の性格なら自分にしかできないことを優先しようとするのは自然な流れだ。

もちろん本人が勝手に決められることではないので電話で忍田に事情を説明し、ようやく許可を得て退学願を学校に提出したのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

アフトクラトル遠征部隊の帰還記者会見場は三門市立体育館で行われることになった。

なにしろ()()()近界(ネイバーフッド)遠征を成功させた報告会であるから、これまでの事務的な活動報告の記者会見とレベルが違うのだ。

それに30人の本隊メンバーと救出された32人のC級隊員、そして上層部メンバーと別動隊の代表としてツグミが出席するので70人近い人間が「主役」となるわけで、これまでよりもかなり広い場所が必要となる。

さらにマスコミの数も増え、海外メディアからも取材の申し込みがあったことでマスコミ用の席も広げなければならない。

そして最も重要なのは一般市民にも公開するということである。

遠征へ出発する前の記者会見で城戸が市民に対して「みなさんには彼らを温かく見守り、帰って来た時には笑顔で出迎えてもらいたいと思います」と呼びかけた。

そうなるとその市民にも若きヒーローたちの凱旋を見てもらわなければならず、体育館の2階席を市民用に解放することで数百人の観客を収容できるというわけだ。

遠征部隊の帰還する日時は見当が付いていたために前日と当日の2日間を借り切っていて、手の空いている正隊員とC級隊員を動員してパイプ椅子を並べて競技場部分の準備は完璧。

あとは主役たちの登場を待つだけである。

 

 

◆◆◆

 

 

記者会見は午後3時からとなっているがリハーサルを行うために関係者は午前中から体育館でスタンバイしている。

大型バス2台に分乗した隊員たちは昼食を挟んで舞台への入退場や、記者たちからの質問に対する対応などを根付の指導で何度も練習させられ、ツグミだけは別室で彼の作ったシナリオを丸暗記させられていた。

 

(根付さんの書いたシナリオは事実と大幅に違うけど、事実を公表することが市民のためになるとはいえない。それにずっと前から真実を隠していくつもの嘘を重ねてきたんだもの、今になって本当のことを言えば市民の信頼を失うだけ。だったら最後まで上手く嘘をつき続けてそれを真実にしてしまえばいい)

 

根付の書いたシナリオによると「別動隊」は()()の諜報員3人とボーダー隊員ひとり、つまりツグミを含めた4人で構成されている。

交渉によってプロの諜報員を臨時で雇い、ボーダー隊員にはさせられない危険な潜入作戦と内部工作などを任せたという嘘と事実を上手く織り交ぜたものだ。

ツグミの役目は近界(ネイバーフッド)の案内と遠征部隊本隊との連絡役ということになっている。

まさか彼女自身が敵の本拠地に潜入してC級隊員の居場所を探したり城を攻撃したなどとは絶対に言えるはずがない。

そのことが公になればそんな危険な任務を城戸たちが命じたと思われてしまう。

言い出したのは彼女自身だし、城戸たちはできることならそんな真似はさせたくなかったのだから、彼女ではなく雇われたプロの諜報員がやったことにしなければいけないのだ。

当然ゼノンたち3人は記者会見には出席しない。

某国の諜報員と言って素性を誤魔化しているのだから本人が登場してしまったらおかしいし、本人がいなければ記者たちも立ち入った質問ができないというもの。

質問を受けても都合の悪いものはツグミが「わたしは関係していないのでわかりません」と答えるだけで済む。

それに別動隊のメンバーに選ばれた理由は彼女が有人機での近界(ネイバーフッド)往還に成功した時のメンバーのひとりで、近界(ネイバーフッド)の事情を()()()()知っているのでボーダー隊員ではない3人の諜報員の案内役ができるからということにしておけば都合も良い。

 

(この記者会見が終われば三門市民はボーダーを熱狂的に支持するようになるだろう。次は第一次近界民(ネイバー)侵攻で行方不明になった約400人の市民を救出する番。次の遠征がいつになるのかわからないけど、行方不明になった人の家族や友人は一日も早く近界(ネイバーフッド)へ行って探してきてくれと催促するに決まっている。でもまだどこの国による侵攻だったのかわからないし、市民の期待が大きければ大きいほど隊員たちにとってはプレッシャーになるかもしれない。上層部の人たちも苦しいだろうな…)

 

そんなことを考えながら控室で待機していると、そこに来客があった。

 

「霧科先輩、今いいですか?」

 

遠慮がちな修の声にツグミは答えた。

 

「いいわよ。どうぞ」

 

ドアを開けて中へ入ってきたのは修と遊真のふたりだ。

 

「先輩…レプリカのこと、どうもありがとうございました」

 

修が頭を下げる。

 

「レプリカはヒュースが救出してくれたって話を聞いてない?」

 

「いえ、そのことはリヌスさんから聞いています。先輩へのお礼はアフトで馬鹿なことを言ったぼくを諌めてくれたことに対してです。あの時に先輩から言われたことはすごくショックでした。でも冷静になって考えてみるとあの時にぼくがレプリカを助けられるわけがないってわかって…。もし先輩にダメだと言われなかったらぼくはきっと取り返しのつかないことをしていたかもしれないんです。忍田本部長が許してくれるはずがなく、アフトに残るために脱走という隊務規定違反を犯し、仮にレプリカを助けられても三門市に戻る手段もなく途方に暮れてしまったでしょう。空閑と一緒なら帰ることはできても三門市に着いたとたんに拘束され、記憶の封印をされた後に除隊処分。千佳の友人や麟児さんを探しに行く手段を永遠に失うことになっていたと思います。…先輩に言われたようにぼくは自分がそうするべきだと思ってるからという理由()()で行動し、その後の影響について考えたことがありませんでした」

 

修は懺悔をするようにツグミに言う。

 

「先輩から『行動をする前に自分にそれだけの力があるかどうか振り返ってみて、行動の結果がどんな影響を与えるのかを考えてみれば同じ過ちを繰り返すことはなくなる』と言われ、ぼくにはまだまだ『力』がないのだから直接自分で何かをしようというのではなく、他に手段はないのかを考えることにしました。それが誰かを頼ることになったとしても最終的にそれがみんなの納得する結果になるのであればいい。そして力がないくせに全部自分で背負い込んで、おまけに『ぼくはこんなに頑張っているのに何で否定するようなことを言うんだ?』って、先輩に対して反感を抱くなんて無礼極まりないことをしていたことにも気付きました。それについて深くお詫びします」

 

さっきよりも深く頭を下げる修。

そんな彼にツグミは言った。

 

「頭を上げてちょうだい、オサムくん。あなたから見ればわたしは正論を振りかざすロジックハラスメントの加害者だものね。正論が嫌われるのは世の中すべてが正論で片付けられるものじゃないのに、それがまるで聖剣だとばかりに振りかざすから。でも正論を差し出す側に問題がある場合だけでなく、受け取る側に問題がある場合もあるわ。正論に限らず自分とは違う考えを認めず求めるものは共感だけ。異なるものは否定しようという心理が働いて『どうしてぼくのことをわかってもらえないんだ?』ってことになる。あなたがそれに気付いたということは、今後のあなたはもっと肩の力を抜いて心に余裕が持てるようになると思う。そもそもB級ランク戦の時だってあなたは自分で得点しなければいけないと考えて行動開始したけど、周りの先輩たちからは仲間に得点させることの方が大事だと諭されたでしょ? その結果、あなたはスパイダーでワイヤー陣を作ることでユーマくんに有利なエリアを作って得点へと導いた。自分ではできないことも仲間と一緒に得意な分野で相手を補うことが大切だって知ったはずよ」

 

「はい…」

 

「でも結局そこまでだった。B級ランク戦では勝てるとしても実戦で役に立つか立たないかは別モノだから。あなたが()()()()使()()()()()できることには限界がある。やっぱりトリオン能力の低さはボーダーで防衛隊員をやっていく上では致命的な弱点だもの。だけどあなたには考える力があって、それは他の人よりも優れている。だから考えるという得意分野を活かして行動すべきなんだけど、あなたは今まで自分の行動の先にあるものについて考えたことがなかったからダメダメだったわけ。B級ランク戦で勝つための方法は考えていたけど、その先にある遠征で自分に何ができるかを考えていなかったでしょ? 行動をすればそこに結果は生まれる。自分が何のためにボーダー隊員でいるのかをきちんと理解していれば自ずと自分の行動に抑止力が働くようになる。そしてその時の感情に流された後先考えない馬鹿な行為はしなくなるはずよ。…で、お礼と謝罪だけだったらオサムくん本人がひとりで来ればいい。それなのにユーマくんが一緒ってことはレプリカの件で何か話があるってことよね?」

 

「あ、はい…」

 

修が何かを言おうとすると、それを遊真が遮った。

 

「それはおれが説明するよ。おれさ、レプリカの修理をするためにトロポイへと行こうと思ってるんだ。それでリンドウ支部長に相談したら今はちょっと無理だって言われた。レプリカが元通りになればボーダーにとって役立つから修理をすること自体は問題ないんだけど、もう少し先にしろってさ」

 

「どうして?」

 

「アフトの連中が報復しに来るかもしれないから、戦力としてのおれが必要なんだって。それにレプリカのデータの中にあった近界(ネイバーフッド)の軌道図にはトロポイのことが載っていなかった。オヤジはトロポイでレプリカを作ってもらったんだろうから軌道図に載っていないのはおかしいんだけど、ないからどこにあるのかわからないんだ。手がかりがない状態だからいろんな国を渡りながら情報を集めてトロポイまで行かなきゃならない。そうなるとどれくらい時間がかかるかもわからないから、ボーダーとは無関係なタダの近界民(ネイバー)に戻るしかないかな、って」

 

「なるほど…ヒュースもボーダーを辞める気でいるからね。そうなると玉狛第2の存続が難しくなり、残していくオサムくんとチカちゃんのことが心配ってことか…。ヒュースのことならもうしばらくボーダーに引き止める方法はあるけど、根本的な解決にはならない。むしろユーマくんがボーダーを辞めずにトロポイへ行くことのできる手段を考えるべきじゃないかしら? ヒュースを入隊させるっていうほとんど無理ゲーな状態でもオサムくんは城戸司令相手に一歩も退かずに成し遂げたという『結果』は出している。オサムくんはこういうプレゼンは得意分野だもの、やってみる価値はあるんじゃないかな」

 

すると修が言う。

 

「林藤支部長には無理だって言われたし、それに…」

 

「アフトの連中の報復があるかもしれないから戦力を減らせない? たしかにユーマくんの戦力はA級上位レベルで頼りになるけど、彼ひとり抜けたからといってボーダーが奴らにボコボコにされるって思っているの? それに相談したのは林藤支部長だけでしょ。他の人には話をしていないんじゃない?」

 

「だってそれは…」

 

「直属の上司が林藤支部長だから? わたしが言いたいのはそういうことじゃなく、事情を知っているレイジさんたち先輩に知恵を求めたのかってこと。いつものあなたならすぐに誰かに相談するのに、今回はしなかったみたいね」

 

「ぼくはいつもみんなに頼ってばかりで、それでその場しのぎの解決方法しか見付けられなくて、そんな自分が嫌だから今度こそは自分だけの力で解決しなきゃいけないと思って」

 

するとツグミは困ったような顔になって言う。

 

「自力で解決しようとする努力は認めるけど、ポイントがちょっとずれているわね」

 

「どういうことですか?」

 

「これまでの件と今回のレプリカの件は状況が違うって全然わかってない。これまではオサムくんがB級ランク戦で勝つ方法を教えてほしいっていう『依頼(お願い)』ばかりだったけど、今度は自分がこうしたいから協力をしてくれっていう『要請(お願い)』。レプリカの修理のためにユーマくんをトロポイへ行かせたいから協力してくれってお願いするのよ。アフトの報復が怖いっていうのなら残ったメンバーで守るから大丈夫だとレイジさんに言ってもらえばいい。もちろん彼にそう言わせるだけのことをあなたがしなければいけないけどね。そして林藤支部長を動かせば、次は本部の上層部の番。こっちはなかなかの曲者揃いで苦戦するだろうけどちゃんとした策があれば無謀な戦いじゃないわ。あなたには半年間で築いた人脈がある。それを利用して味方を増やし、数の力をも自分の『力』にするのよ」

 

「数の力をも自分の力にする…ですか?」

 

「そうよ。あなたはいろいろな点で周囲の人間から注目されていて、それも好意的な意味であなたを見ているから何か相談事があると面倒であっても協力してくれたでしょ? それはあなたの人柄を評価しているってことで、それこそがあなたの持つ『力』のひとつなのよ。戦闘員としてのあなたには足りないものばかりで本来なら誰もあなたに期待はしないけど、風間さんや嵐山さんといったA級の隊長たちは戦力としては期待していなくてもあなたの持つ()()に惹かれていて、その()()が人の心を動かす力となる。前にわたしはあなたに無力だと言ったけど、単に何かをするために必要な力を持っていないというだけでなく、潜在的に持っている力を上手く使えないという点で無力だという意味もあるのよ。レイガストや通常弾(アステロイド)だって装備しているだけじゃダメで、それを上手く使えるようになって初めて意味を持つでしょ? それと同じであなたの持つ『力』を使って不可能だと思うことでも可能にしてみなさいよ。まあ、ユーマくんがボーダーを辞めずにトロポイへ行くことは不可能ではないことだから、そう難しいことじゃないわね」

 

「え?」

 

修が目を丸くしてツグミを見た。

彼らが一所懸命考えた末に出した結果が一蹴されたら驚くのも無理はない。

 

「だってボーダーの正式な任務ということになれば問題ないでしょ?」

 

「それはそうなんですけど…」

 

「それが難しい」のだと言いたげな顔をする修。

 

「そういえばオサムくんはユーマくんと一緒にトロポイへと行きたいって言わないのね?」

 

「もちろん行きたいですけど、ぼくには無理だってわかっているから。もし敵の攻撃を受けたとして空閑ひとりなら対応できたとしても、ぼくにはノーマルトリガー使い相手でも苦戦するかもしれない。そう思うとぼくは何の役にも立たず、空閑の足手まといになるだけです。それにここでボーダーを辞めてしまったら千佳の友人と麟児さんを探しに行くことはできなくなる。ぼくがボーダー隊員でいる理由はこのふたりを探して連れ戻すことで、その目的のためにこれまでの努力…他人から見たら努力とは言えないものであってもやってきたことが全部無駄になってしまうようなことはできないんです」

 

「だから我慢する、のね。それは正しいと思う。あなたが自分がそうするべきだと思ってることと、本当にやるべきことは違うってことに気が付いたのは大きな進歩、成長といえるわ。…ところでアフトの報復があるかもという話だけど、それって誰から聞いたの?」

 

「もちろん林藤支部長です」

 

ツグミはふと違和感を覚えた。

 

(わたしの提出した報告書には今のアフトは『神選び』でゴタゴタしていて、ベルティストン家とボーダーの間のトラブルに関して他の貴族連中が仲間の仕返しに乗り出してくることなんてないだろうって書いておいた。ベルティストン家にはもう遠征を行うだけの戦力はなくて、今は神候補を探すので手一杯。もしハイレインが王になったなら国レベルでの大部隊を送り込んで来るかもしれないけど、それだって『神選び』が終わってからのこと。林藤支部長だって報告書を読んでいるはずなのに、何で報復があるなんてこと考えているんだろ…?)

 

考えるにもデータの足りない状態では見当違いな答を出してしまう恐れがある。

手っ取り早いのは本人に訊くことで、それは記者会見が終わってからのことだ。

 

「記者会見が終わったらわたしも林藤支部長に話をしてみるわ。だからこの件は一時保留。今のわたしたちがやるべきことは記者会見を成功させること。その結果によってこれからの遠征計画が大きく変わるはずだから」

 

「わかりました」

 

そう答えた修は続ける。

 

「なんだか先輩に相談するようなことになっちゃいましたね。そんな気はなかったんですけど、先輩と話をしているとつい全部喋ってしまって…」

 

「わたしも同じよ。もう玉狛第2の面倒事からは卒業してもいいだろうと思っていたけど、トラブルがあるとつい解決()()()()()っていろいろ考えちゃうんだもの」

 

「ぼくが言うのもなんですけど、先輩って面倒見がいいんですよね。それも突き放したような厳しい言い方をしますけど、結果的にそれがぼくたちのためになっていて、迷路で迷っているぼくたちにヒントを与えて出口まで導いてくれている。直接的な答を教えてくれるんじゃなくて、自分で考えさせて正解を導き出すように仕向ける。それって正解を教えるよりも面倒なことだし難しいと思うんです。レイジさんたち玉狛第1の先輩たちはボーダー隊員としての技術を教えてくれましたが、霧科先輩はボーダー隊員としての心構えというか…精神面での成長を促してくれる。迅さんと同じように少し距離を置いた場所にいて、それでいていつも見守ってくれているってってカンジがします」

 

「オサムくんに面倒見がいいって言われるとはね…。まあ、あなたたちの精神面での成長の役に立っているというのならそれでわたしの苦言も意味があったということになるのね。ただこれからは忙しくなるからもうあなたたちのことを見守ることはできなくなりそう。レプリカの修理の件に関しては林藤支部長に話を聞くことまではするけど、後は全部自分たちでやってもらうことになるわよ。…じゃあ、そろそろ集合時間だから舞台袖に行かなきゃ。あなたたちも一緒に行く?」

 

「はい、行きます」

 

ツグミ、修、遊真の3人は揃って控室を出て、仲間たちの待つ「舞台」へと向かった。

 

 

 

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