ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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342話

 

 

玉狛第2VS三輪隊による第二試合はいよいよ大詰めを迎えていた。

それぞれの隊長が相手の行動を推測して作戦を立てていて、お互いに相手の行動の裏をかいたり逆に利用されたりと頭脳戦の様相を呈している。

直接戦闘の派手な動きは遊真と奈良坂がビルの屋上で繰り広げただけで、あとはずっと深海を進む潜水艦のように静かに行われていた。

その動きが大きく変わったのはワイヤー陣が完成し、準備完了と言わんばかりに修がバッグワームを解除したタイミングである。

米屋はすでに修の居場所を確定してアンダーパスの出入口付近で様子を観察しており、千佳の居場所をあぶり出すために修が動き出すのをずっと待っていたのだ。

三輪はビルの7階まで一気に下り、3階までの各フロアの駅前広場に面している場所をチェックしていくが、千佳の姿はなかったために収穫なしの状態で米屋と合流する。

 

「奈良坂の予測した場所に雨取の姿はなかった。こうなったら狙撃させるしかないだろうな」

 

三輪が疲れたような口調で言う。

たしかに試合開始からそろそろ1時間になろうとしている。

トリオン体での行動であり、それも戦闘は一切していないのだから疲れるはずはないのだが、逆に何もしない状況が続いていて精神的に疲労していたのだ。

 

「ああ。メガネボーイも準備ができたとばかりにバッグワームを解除したからそろそろいいだろう。ワイヤー陣は出入口からだいたい15メートル奥まで張り巡らされている」

 

「ワイヤーを斬って奥へ入ってしまうと雨取の狙撃が届かなくなる。敵の罠にハマったフリをするのも大変だな。だとすると…」

 

「じゃ、オレが囮になって飛び込むから、秀次は ──」

 

「いや、俺が囮になる。おまえの槍弧月よりも俺の拳銃(ハンドガン)の方がいい。レイガストの(シールド)モードで防御されるとちょっとキツいが、ここで奴を倒そうというのではないし、この方が()()()()()()()()()()()ように見える」

 

「なるほどな。じゃあ、メガネボーイの方は秀次に任せるぜ」

 

「陽介は雨取の狙撃のタイミングを見逃すなよ」

 

「わかっているって」

 

三輪と米屋は役割を確認するとそれぞれ行動を開始した。

 

 

 

 

「三雲、そこにいるんだろ? これみよがしにワイヤー陣を張り巡らせて罠を作ってくれたんだ、俺が飛び込んでやるよ」

 

三輪はそう言うと弧月でワイヤーを斬りながら拳銃(ハンドガン)で修を撃つ。

それと並行して米屋は千佳が狙撃をするタイミングを待つのだが、立ち並ぶ駅前ビルを見渡している彼の視界の中にイーグレットの銃口が入ってきた。

本命と思われていた15階建ての商業ビルの2棟隣りに建つ7階建てのビルの外階段の手すりに銃身を載せてアンダーパスの出入口を狙っているようだ。

 

[秀次、見付けた! おまえの背中をイーグレットが狙っている。狙撃前だがオレは行く。おまえはヘッドショットを喰らわないようにもっと奥へ入っておけ]

 

米屋は三輪にそう伝えるとイーグレットの銃身を目当てに千佳が待機している場所へと全速力で向かって行った。

三輪も無駄に撃たれる理由はなく、次々とワイヤーを斬って奥へと進んでいく。

その間ずっと修はレイガストで三輪の銃弾を防いでいるだけで、攻撃をしてくる様子はなかった。

 

(なぜ通常弾(アステロイド)を使わない? 俺には通用しないと判断してトリオンの無駄遣いをしないということか?)

 

修が防御だけしかしないことに不信感を抱くが、本気で倒そうとしているように思わせて拳銃(ハンドガン)を撃つ三輪の迫力にビビっているとも思える。

 

(ならばここでおしまいにしてやろう。陽介が雨取を見付けた以上は貴様に用はない)

 

三輪が本気で自分を倒そうとしているのだという殺気を感じ、修は後退りした。

これは模擬戦なのだから当然であり、玉狛支部の人間のことを快く思っていない三輪ならますます修を()()()()倒したいと思うのに不思議はない。

修はワイヤー陣が破られる前に逃げようとして背後にシールドを張り、レイガストをスラスターで加速してその勢いで北側の出入口に向かう。

 

「待ちやがれ!」

 

三輪は弧月を振り回しながらワイヤーを斬り続け、すべてのワイヤーを斬ったところでアンダーパスのほぼ中央に着いた。

そのタイミングで修はアンダーパスを抜けて駅北側の広場へと姿を消したのだが、それと入れ替わるようにアンダーパスの出入口にひとりの人物が姿を現した。

それはそこにいるはずのない千佳で、バッグワームを羽織った彼女は手ぶらでいて、まるで行く手を遮るように立っている。

 

「なっ…!?」

 

三輪が驚くのは無理もない。

米屋は駅の南側の広場のビルの外階段でイーグレットの銃口がアンダーパス出入口付近を狙っているのを確認しているのだ。

 

(しまった! これこそが罠だったんだ!)

 

千佳はアンダーパスの内部に響く声で叫んだ。

 

「アイビス、起動!」

 

そしてアイビスを地面に固定すると冷静にその引き金を引く。

 

アンダーパスはトンネルのようなものだから左右に逃げる余裕はなく、背後の南側の出入口から外に出るしか助かる道はない。

イーグレットならともかく千佳のアイビスだからいくら三輪が両防御(フルガード)したところで意味はなく、ここで三輪は為すすべもなく直撃を受けて緊急脱出(ベイルアウト)してしまったのだった。

 

 

このカラクリは実に簡単である。

千佳がイーグレットを起動して本体を適当な場所に固定し、そこにイーグレットがあるように思わせて本人はアンダーパスの北側の出入口に移動していただけなのである。

修からワイヤーを何本か受け取っていて、銃身をアンダーパスの出入口に向けているような形で手すりに頑丈に縛り付けた。

こうしておくことでいかにもそこに千佳がいて狙撃のタイミングを待っているかのように思わせる ── それが修の考えた()()()罠であったのだ。

三輪隊は修を倒すよりも先に千佳の居場所を確定する必要があり、彼女に狙撃させて位置を確認するために三輪は囮となった。

しかし彼女がどこにいるのかわかれば残る米屋がイーグレットの固定されているビルへと向かうのは100%確実である。

わざと銃身が目立つような位置で固定したのも、いかにもそこに千佳がいると勘違いさせるためであり、米屋はそれに見事に騙されたというわけだ。

米屋が千佳の居場所を確定すれば、三輪は修を倒してしまってもかまわない。

千佳の狙撃から逃げるためと修を倒すという一石二鳥を狙って三輪はアンダーパスの奥へ進んで行ったが、これは修の策略によって誘い込まれたのである。

三輪がアンダーパスの中央付近までたどり着いた段階で千佳が登場。

固定してあったイーグレットを破棄してアイビスを起動すると三輪を撃ったのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

これで玉狛第2が人数的には有利になった。

三輪隊は米屋ひとりだけになり、玉狛第2にも光明が差してきたというものだ。

しかし修と千佳の居場所はこれで確定してしまい、米屋の機動力なら追いつかれるのは時間の問題だ。

この場合、修と千佳が別行動をしてリスクを回避するのは当然だが、米屋が千佳を追いかけるのは間違いない。

千佳を見失ってしまったら三輪隊はそこでゲームオーバー確定となるわけで、修を後回しにしてでも千佳を倒さなければならないのだ。

 

 

(ちっ、めんどーくせえ展開になってきたな…)

 

米屋は駅の北側に広がる住宅地へと逃げ込もうとする修と千佳を追う。

「時間無制限」と「最後まで()()()()()()()()()隊員のいる部隊(チーム)を勝ち」という条件であるから、何もせずにいても修、米屋の順でトリオン切れとなって戦線離脱。

千佳が最後まで生き残って玉狛第2の勝ちとなるのは目に見えている。

だからまず千佳を追って倒し、続いて姿をくらました修を探し出して潰さなければならないのだ。

放っておけばトリオン切れとなった修が緊急脱出(ベイルアウト)して最後に米屋が残って三輪隊の勝ちということも可能だが、そんなことになればA級7位としてのプライドはズタズタだ。

 

(そんな恥ずい勝ち方すれば出水と緑川(あいつら)に何言われるかわかんねーもんな)

 

だから米屋はA級の先輩として修たちを徹底的に叩きのめさなければならないのである。

 

 

◆◆◆

 

 

一方、有利なはずの玉狛第2だがこちらも次の一手をどうすべきか迷っていた。

 

(ここでぼくが米屋先輩を引きつけておいて千佳を逃せば勝ち目はある。だけどA級昇格の判断は勝敗だけでなく、他にも審査する点があると言っていた。千佳のトリオン量に頼る逃げ切りでの勝利ではダメは気がする。ここは正面から戦って勝つことを考えなきゃいけないんだ)

 

そんなことを考えながら走っていた修は背後で起きた爆発音を聞いた。

 

(千佳が米屋先輩に見付かって炸裂弾(メテオラ)を使ったな)

 

修が想像したとおりで、米屋に接近された千佳は炸裂弾(メテオラ)で周囲の建物を木っ端微塵にし、その瓦礫と舞い上がった粉塵に紛れてライトニングを起動。

米屋を目視することはできないが当てずっぽうでも数撃てば当たるだろうと乱射する。

脚に当たれば米屋の機動力を削いで逃げ切れるだろうし、利き腕に当たれば槍弧月という唯一の武器が使えなくなるのだから、イチかバチかでやってみる価値はあるのだ。

傍から見れば悪足掻きのようで見苦しくも思えるが、どんなことをしてでも生き残らなければいけないという執念のようにも思える。

そういった点も試験官による審査のポイントとなっていて、玉狛第2・三輪隊の双方にとって「逃げ」で勝っても納得はできないのである。

 

 

「きゃあぁぁぁ!」

 

千佳の悲鳴が上がった。

そしてその直後、緊急脱出(ベイルアウト)の軌跡が宙を飛び、修は彼女が緊急脱出(ベイルアウト)してしまったことを自身の目で確認することとなった。

 

千佳は舞い上がった塵や土埃の中、米屋を狙ってライトニングを撃ったわけではない。

だからダメージを与えることはできなかったのだが、それよりも大きなミスを犯してしまっていた。

千佳のトリオンであってもライトニングの威力なら米屋のシールドでも防ぐことはできる。

そして粉塵で視界が遮られたとしてもライトニングの弾道を見ればどこから発射されたのかは慣れた人間ならそう難しくはなく、米屋はその弾道から千佳の位置を割り出してその懐に飛び込んで槍弧月でトリオン供給機関を貫いたのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

こうして玉狛第2と三輪隊はそれぞれひとりずつを残すのみとなった。

修と米屋であれば誰の目にも米屋有利と映るだろう。

千佳の援護があるならまだしも、修ひとりではレイガストと通常弾(アステロイド)のふたつの武器(トリガー)でランカークラスまであと一歩という槍弧月の使い手を倒す手段はそう簡単に見付からない。

ただしたったひとつだけ修に有利な点は射程であり、米屋の間合いに入らない距離を保てばダメージを受けることはない。

逆に言えば米屋の間合いに入ったとたんに瞬殺されるということで、米屋を容易に近付けさせないようにするにはスパイダーはある程度の効果はあるから、これを上手く使えるかどうかが生死を分けることになるだろう。

 

 

米屋が千佳を相手にしていた間に修は東側のアンダーパスの内部にワイヤーを張りながら北側から南側に抜けようとしていた。

しかし約30メートルの長さがあるアンダーパスの半ばまで来たところで米屋に発見され、米屋はワイヤーを槍弧月で斬りながら修を追いかける。

それは修が知恵を絞って考えた作戦で、出入口のギリギリまでワイヤーを張ると外で待つことにした。

 

(米屋先輩のシールドを破壊するためには通常弾(アステロイド)の射程をギリギリまで詰めてその分を威力に回すしかない。そうなるとアソコしかないか…)

 

修は顔を上げて上を見た。

そこには鉄道の高架があり、そこからアンダーパスの出入口までの距離は約10メートル。

米屋がアンダーパスから出て来たところを上空から通常弾(アステロイド)で攻撃をするというのである。

バッグワームを使用しているから高架に修がいることは米屋に悟られず、奇襲によってある程度のダメージを与えようという作戦で、緊急脱出(ベイルアウト)させることができなくても一矢報いることになり、四肢のどれか1本でもダメージを与えることになればこの逆境を跳ね返すこともできるだろう。

しかし失敗すれば修はもう逃げる余地はなく、米屋の槍弧月の餌食となるのは確実だ。

 

(アンダーパスを出た瞬間は暗い場所から出てすぐだから眩しくて、立ち止まって目を瞑ってしまうに違いない。そのちょっとした隙を狙えば効果的だ。前からの攻撃には慎重になってシールドを張っているかもしれないけど、背後の上空からなら無警戒でいる可能性は高い。失敗すればそこでおしまいだけど、これはいくつも考えた中で一番成功率が高い作戦だ。きっと大丈夫!)

 

修は米屋に背を向けると逃げ出す素振りを見せて、米屋の死角からアンダーパス直上の高架に飛び移った。

そこは高さが約130センチの金網の柵が続いていて、上半身を乗り出せば十分に下の道が見えるようになっている。

 

(ここなら米屋先輩からぼくの姿は見えないけど、ぼくからは先輩が良く見える。これならいけるぞ!)

 

 

そして決着の時は来た。

米屋はすべてのワイヤーを斬り、アンダーパスの出入口まで来ると修が推測したように暗い場所から急に明るい場所へ出たために一瞬だが目を瞑ってしまった。

そこでほんのわずかだが隙ができ、さらに背後の上空に修がいることを知らないものだから、米屋は無防備な状態で攻撃を受けてしまう。

 

通常弾(アステロイド)!」

 

修の手からは8分割された(トリオンキューブ)が放たれ、それは真っ直ぐに米屋を背後から強襲した。

 

「ぐはっ!」

 

防御のまったくない背後への攻撃であるから、米屋の戦闘体には穴が開いてしまう。

しかし即死にはならず、180度方向変換をした米屋は右手にしっかりと握っていた槍弧月を修に向けた。

 

「旋空弧月!」

 

槍の部分が一瞬にして10メートル以上伸び、修の首を斬り裂いてトリオン供給機関を一撃で破壊する。

そして修の戦闘体にヒビが入り、「戦闘体活動限界」というアナウンスと共に緊急脱出(ベイルアウト)してしまったのだった。

 

「やるじゃねーか、メガネボーイ。幻踊はしょっちゅう使うが、旋空を使ったのは久しぶりだぜ。…っと、オレもここまでみたいだな」

 

穴だらけになりながらも辛うじてトリオン伝達脳とトリオン供給機関にはダメージを受けてはいなかった米屋。

修のトリオン量では相手の戦闘体に致命傷を与えることはできないようで、米屋は残った力とトリオンを全部注いで旋空を使った。

そのせいでトリオンの漏出が著しく、修の緊急脱出(ベイルアウト)を見送った直後に米屋自身もトリオン漏出過多によって活動限界を迎えて緊急脱出(ベイルアウト)してしまうのだった。

 

 

こうして第二試合は三輪隊の辛勝ということで決着が付いた。

第一試合の3倍近くの時間がかかったものの、見応えのある面白い試合になったことは確かであった。

 

 

◆◆◆

 

 

「まあ、何と言うか…想定外のことが起きたが、想定の範囲内の結果となったわけだ」

 

第二試合の結果は三輪隊の勝利で想定されていたことだったが、そこに至るまでの経緯はベテランのA級隊員にも想像できなかったことが続いたのだから、太刀川がそう言うのも無理はない。

彼だけでなく他の試験官たちも同じ感想を抱いていて、試験官として公平な立場でいなければならないというのに玉狛第2に対して心の中で応援してしまっていて、修が最後の最後まで諦めずに奮闘したことを高く評価している。

しかしこれはA級への昇格試験であり、試合には負けてしまったのが現実である。

 

「さあ、玉狛第2の評価を行うぞ。第一試合の時と同じく、各自さっき渡したチェック表に私情を挟まずに冷静な目で見た彼らの行動について点を付けてくれ」

 

忍田はそう言ってから自分も玉狛第2の試合内容について丁寧に審査をしていく。

試合の結果と試合内容の審査の合計得点で基準を超えたら合格で満たなければ不合格となるものだが、玉狛第2は負けたことで合格は非常に難しいことになる。

試験官によって「部隊(チーム)の連携ができているか」「敵の動きを読んで適した行動ができたか」「個人の戦闘能力がA級の基準を満たしているか」などのポイントを採点していくのだが、そちらもなかなか厳しい。

審査基準は「A級隊員として相応しい働きができるかどうか」で、たとえこの試合に勝ったとしてもそれが相手部隊(チーム)の失策が原因であったり運が大きく関わっているものであれば勝利としての勝ちは低い。

逆に負けたとしても単純に熟練度の低さであったなら、今度の活躍に期待できるとしてある程度の評価はできるというもの。

今回の玉狛第2がどのように採点されるのかはまだわからないが、こうしたA級部隊(チーム)の隊長たちが「自分たちと同等のレベルの任務で同等の結果を出せるか」で判断をすることになる。

だから個としての能力が高い隊員がいても部隊(チーム)全体を平均すると並のレベルになってしまうとか、逆に個の能力が高い隊員ばかりでも部隊(チーム)になるとその実力を発揮できなくなるという場合の評価は低い。

その点で二宮隊は個のレベルが全員高く、さらに連携が上手く個の能力を数倍に引き上げることができる部隊(チーム)だと認められたからA級昇格が叶ったのだ。

 

 

◆◆◆

 

 

試合に負けて隊室で結果を待つ玉狛第2のメンバーの表情は曇っている。

室内の空気も重苦しく、覚悟はしているといってもわずかに合格の可能性があると思うと神に祈らずにはいられない。

そして二宮隊の時の倍以上の時間をかけて採点された玉狛第2の試験の結果が出たとの連絡が来て、彼らは試験官が待機している会議室へと向かった。

 

 

会議室にはA級部隊(チーム)の隊長たち7人と忍田が勢揃いしていて、まるで裁判に出席する被告人のような気分だと修は思いながら「判決」を待つ。

 

「まずは試合の内容についての講評から行う」

 

忍田はそう言ってから試験官たちの評価をまとめた資料を見ながら説明を始めた。

その流れを見ていた風間はふと思った。

 

(まるで重大事件での裁判で判決を言い渡す際の『主文後回し』に似ているな)

 

刑事裁判で死刑の判決が下される場合に「主文後回し」がとられることが多い。

これは死刑を宣告された被告人は動揺してしまい、引き続いて朗読される「理由」など落ち着いて聞いていられなくなるからだとされている。

裁判での判決の言渡しの目的は被告人にその内容を理解させることにあり、検察官の起訴に対して裁判所がどのような判断を下したのを被告人に充分に理解させることができて初めて判決に服するか否か、その判決に対する態度を決めることができるからということである。

 

(ここで玉狛の連中に結果を先に教えてしまうのは得策ではない。彼らは今後の自分たちに何が必要なのかを理解してもらい、()への糧にしてもらわなければ意味がないからな)

 

しかし修もこの「主文後回し」の意味を知っているようで、真っ青な顔で俯いている。

A級昇格が今の自分たちには無理だと頭では理解していても気持ちが付いていくことができないのだろう。

だから忍田の説明も耳に入らず、「不合格」と宣言される瞬間を怯えながら待っていた。

 

「…と以上のとおりである。したがって今回の試験の結果は不合格とする」

 

忍田の言葉を聞き、遊真と千佳も現実を突き付けられて俯いてしまった。

 

「残念だったがまだ諦めることはない。きみたちは発展途上であり、今後の訓練次第でA級昇格も不可能ではないのだ。次のB級ランク戦では上位をキープし、A級昇格のチャンスを掴んでくれたまえ」

 

「…はい」

 

修は小さく返事をすると唇を噛んだ。

 

 

 

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