ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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344話

 

 

「ぼくたちが遠征部隊に選ばれたら教えてもらえますか? その情報を」

「…選ばれてから言え」

 

二宮は隊室でひとりきりになると、約5ヶ月前の修とのやり取りを思い出していた。

 

(あの時はよもや玉狛第2(奴ら)が遠征に参加できるようになるとは想像もしていなかったがな…。迅や霧科がいろいろ手を回して参加させることに成功したようだが、結局のところ三雲は何の役にも立たず、連れて行った意味を理解できたのかも怪しい。だが約束は約束だ)

 

第二試合が終了して玉狛第2の「不合格」の結果は二宮隊にも知らされていた。

つまりB級残留で、次の遠征に参加する資格を失ったということである。

二宮隊がA級に昇格したことで順位が繰り上がってB級としては1位にはなるが、遠征参加資格は原則としてA級隊員であるから、玉狛第2は次のB級ランク戦で上位2位までに入って、さらにA級昇格試験に合格しなければ参加資格を得ることもできないのだ。

よってしばらくは近界(ネイバーフッド)へ行くことができないのだから鳩原や麟児の情報を教えたところで役には立たないのだが、理由や手段はどうであれ玉狛第2がアフトクラトル遠征に参加したという事実がある以上は情報を教えるという約束を果たさねばならない。

 

 

「三雲です。二宮さん、いらっしゃいますか?」

 

ノックの音に続いてドアの向こう側から聞こえた修の声に二宮は返事をした。

 

「入れ」

 

自動ドアがさっと開き、修と遊真と千佳の3人が中へ入って来た。

そして奥のソファに脚を組んで腰掛けている二宮の前に立つ。

 

「そこに座れ」

 

二宮は自分の前の3人掛けのソファに腰掛けるように促すと、修を中心にして3人で並んで座った。

まるで生徒指導室に呼び出された生徒と教師のようにも見え、もしここに犬飼がいたら部屋の隅でクスクス笑っていたに違いない。

そういった()()が邪魔で二宮は人払いをしたのだと思われる。

 

「話というのは鳩原と雨取の兄が関係している密航事件の情報だ」

 

「…!?」

 

修は驚いた。

この状況で今まで教えてくれなかった情報を提供すると二宮の方から言い出したのだから驚くのも無理はない。

 

「昇格試験では不合格だったようだが、アフト遠征に参加したのだから教えないわけにもいかない。B級のおまえたちに話したところで()()()()役に立たないだろうが、知りたいという欲求だけは満たせるはずだ」

 

そう前置きをしてから二宮は話を始めた。

 

 

「昨年5月1日、鳩原未来と雨取麟児、そして他2名の合計4人が(ゲート)の向こう側へと姿を消した。あれから1年以上経つがこの中で鳩原と雨取麟児は三門市だけでなくこちら側の世界で目撃されていないことから間違いなく近界(ネイバーフッド)へと密航したと断定していいだろう。わかっていることを時系列に沿って話してやる」

 

上着のポケットから手帳を取り出してさっと開いた。

その手帳は黒い革製のものだが、その表紙は使い古されていて傷だらけだ。

常に持ち歩いていているに違いないと修は思った。

 

「事は二宮隊が遠征参加を希望したところから始まる。当時の隊員は犬飼、辻、鳩原、氷見、そして俺の5人で、遠征に参加したいと言い出したのは鳩原だった。それ以外の4人は特に近界(ネイバーフッド)に興味はなかったが、鳩原が妙に熱心に行きたがるものだから全員で相談して参加資格を得るための試験に挑戦することに決めた。その頃の鳩原は人を撃つことができずにいたが、敵の武器(トリガー)をピンポイントで撃ち抜くという超精密狙撃ができたから問題はないと考えていたのだが、霧科は開発室で鉛弾(レッドバレット)を撃つことのできる専用ライトニングを作ってもらおうなどと余計なことをしていた。そんなことをしなければ鳩原が研究室(ラボ)に出入りすることはなく、トリガーを盗んで密航を成功させることはできなかっただろうからな」

 

ツグミが鳩原のために改良型ライトニングを作ろうとしていたことは修たちも知っている。

千佳が同様の問題を抱えていた時、鉛弾(レッドバレット)狙撃のアイデアを教えることはできたのだが、あえて自分自身の力で解決させようとしてツグミは千佳に教えることはなかった。

その結果、千佳は友人の協力を得て鉛弾(レッドバレット)狙撃という()()()()()()()技を覚え、玉狛第2がB級2位の座を掴むために大きな貢献を果たしたのだった。

 

二宮の話は続いた。

 

「俺は別に霧科を責めるつもりは毛頭ない。悪いのは鳩原の弱い心なんだからな。遠征選抜試験では合格したのだがあいつが人を撃てないことが上層部にバレて、そのせいで参加が取り消しになってしまった。霧科は友人として寄り添っていただけだから何の罪もない。こんな結果になるとはさすがの霧科でも想定外だっただろうな」

 

二宮自身もこの事態を想像することはできなかったのだから、ツグミを責めることなどできるはずがないのだ。

 

「遠征に参加できないとわかった鳩原は意気消沈していたが、そこに雨取麟児が密航計画を持ちかけてきた。奴が主導権を握っていたのはほぼ間違いない。鳩原が雨取麟児のような近界(ネイバーフッド)への興味を抱いている人間を探して同行させるようなことはできないからな。それに雨取麟児なら鳩原を唆してトリガーの横流しをさせることは可能なんだろ、雨取?」

 

二宮は千佳に訊く。

以前に千佳自身が「兄にならそういうことができます」と断言したくらいで、それを再確認したのだ。

 

「はい」

 

千佳は頷いて小さく返事をした。

 

「雨取麟児は他にふたりの人間の存在が確認されているが、個人を特定するまでには至っていない。なにしろ年齢・性別すらわからないのだから特定のしようがないのだ。そして鳩原が奪ったトリガーの数が3つであり、鳩原を含めた4つのトリオン反応があったから4人で密航したと推測しているだけだ。…三雲、おまえにもこの正体不明のふたりの人間に心当たりはないのだろ?」

 

「はい。ぼくは麟児さんから計画のことを聞かされましたが、詳しいことは一切教えてくれませんでした。ただ近界民(ネイバー)に狙われている千佳のことを心配して、ボーダーに頼らず独自に近界民(ネイバー)に対抗する手段を探ろうとして『協力者』と裏で取引したということでした。その協力者が正体不明のふたりの人間のことなのか、それとも他にいるのかはまったくわかりません」

 

「だろうな。おまえに教えたら後々面倒なことになるとわかっていたのだから雨取麟児が話すはずがない」

 

「…ですよね。ぼくなんかに教えても意味はないですし」

 

しょんぼりする修に二宮は慌てて訂正した。

 

「いや、そういう意味ではない。おまえが雨取麟児の計画について詳細を知っていたなら、おまえはボーダーに拘束されて拷問まがいの酷い目に遭ったかもしれない。おまえをこの密航事件の関係者にしたくなくてあえて何も教えなかったということだ」

 

「……」

 

「話を元に戻そう。鳩原が密航計画に加わり、研究室(ラボ)からC級用のトリガーを盗み出したのは4月21日以降で、計画が実行されたのは5月1日。以前に三雲から聞いた話だと4月28日には密航計画はほぼできあがっていたようだな。俺が知っている情報はここまでだが、これらの情報を元に俺と霧科が推測した()()()()()()()()()()()がある。それをおまえたちに話そう」

 

「二宮さんだけでなく霧科先輩も…ですか?」

 

「ああ。あいつはパズルのピースのようなバラバラな情報を組み立てて事実を導き出す才能がある。今から話す内容はあいつがアフト遠征へ行く前に俺に教えてくれたことで、俺はその話を聞いてさらに自分の仮説の信憑性が高まったと考えている」

 

それまでしょんぼりしていた修の目の色が変わった。

これまでずっと知りたがっていた麟児に関わる情報が聞けるのだから当然だ。

千佳もまた身を乗り出して一言一句聞き漏らさないぞという気迫が感じられる。

 

「まあ、気持ちもわかるが落ち着いて聞いてくれ。…霧科はいくつかの疑問点を挙げ、それについてあいつは仮説を立て、俺も独自の仮説を立てていたからそれを総合したものになる。まずこの密航事件の最大の疑問についてだが、奴らは()()()()()近界(ネイバーフッド)へ渡ったかだ。ボーダーが遠征を行う際には()()遠征艇を使う。なぜならそういった乗り物を使わなければ近界(ネイバーフッド)の国々を隔てる宇宙のような空間を移動する手段がないからだ。では鳩原たちはどうやって艇を手に入れたのか? ボーダー以外にこの手の艇を所有している人間がこちら側の世界にいる可能性はほぼゼロと考えられる。そうなるとあいつらが使った艇は誰が提供したのかを考えた結果、雨取麟児の言う『協力者』が近界民(ネイバー)であり、そいつが三門市に来た時に使用した艇、もしくは近界(ネイバーフッド)にいる仲間に連絡をして用意させた艇を使わせたという仮説が導き出せる」

 

「兄さんが近界民(ネイバー)と知り合いだったと言うんですか!?」

 

自分が近界民(ネイバー)に狙われ続けて怖い思いをしていたというのに、その兄が近界民(ネイバー)と交流があったとなれば裏切られたという気持ちになるのは無理もないし信じたくもない。

 

「落ち着け、雨取。これは仮説だ。そういうことにすると辻褄が合うということで、雨取麟児と近界民(ネイバー)が直接関わっていたという証拠はない」

 

二宮が否定すると千佳は少しだけ落ち着いたようだ。

 

「それに俺は協力者が近界民(ネイバー)であると考えていたが、霧科はそうではない可能性もあると別の仮説を立てていた。三雲は雨取麟児が(ゲート)の発生予測地点(ポイント)に目星をつけていたと言っていた。それは本人か仲間、もしくは『協力者』のいずれかがトリオン兵が(ゲート)の向こう側へ消える瞬間を目撃していたとすると説明ができる。アフトの侵攻の時のように人型が遠征艇に乗ってやって来るのではなく捕獲用トリオン兵をこちら側の世界へ送り込んでくる場合、(ゲート)が開いてトリオン兵が街へ放たれ、トリオン能力者を捕獲すると自動的に(ゲート)が発生する場所に戻ろうとする。そしてトリオン兵が戻って来ると再び(ゲート)が開いて、トリオン兵はその中へ入って行く。たぶん(ゲート)の向こう側の空間に耐えられる構造をしていて、その空間で待っている艇の中に回収しているのではないかと霧科は誰も考えないような仮説を立てたんだ」

 

修たちは二宮の話を聞いても「協力者=近界民(ネイバー)」ではないというツグミの仮説にどう繋がるのかがわからずにいた。

 

「つまりだ、トリオン能力者を(ゲート)の発生予測地点(ポイント)の近くに待機させておけば、トリオン兵はそいつらを()()。そして()()()()()()トリオン兵は(ゲート)の中へと帰って行くだろう。回収する際にトリオン兵ごと卵の状態に戻せば艇の中でも場所を取らずに済み、帰国してからトリオン兵を元に戻し、トリオン兵の腹の中からさらった人間を取り出す。たぶんトリオン兵の腹の中にいる間は仮死状態にされているのではないかというのが霧科の推測だが、この方法を使えば艇を使わずに近界(ネイバーフッド)へ行くことができる。もっとも自分から進んで近界民(ネイバー)の捕虜になるわけだから愚かしいと思うが、その時に武器(トリガー)を持っていれば戦って逃げ出すことができるだろうということで、鳩原に武器(トリガー)を盗ませたとも考えられる。鳩原たちが近界(ネイバーフッド)へ渡った手段はこのふたつが有力…というよりも他には考えにくい。ただし霧科はもうひとつ突拍子もない仮説を立てているが、それについては証拠となる物が一切ないため仮説であっても口外無用となっていて教えるわけにはいかない」

 

二宮はここまで説明したところで喉が渇いたらしく、立ち上がってミニキッチンに置いてあるコーヒーサーバーから自分のカップにコーヒーを注いだ。

 

「おまえたちも飲むか?」

 

「いえ、けっこうです」

 

「そうか」

 

そう言って二宮はコーヒーカップを持って戻って来た。

そしてひと口飲んで口を湿らすと再び話を始める。

 

「鳩原と雨取麟児の接点についてなのだが、調べてみたところ意外なところで繋がった。鳩原には弟がいて、その弟が第一次近界民(ネイバー)侵攻での行方不明者のひとりなんだが、そいつを探すために鳩原は密航なんてバカなことをしたわけだ。三雲は雨取麟児に家庭教師をしてもらっていたそうだが、鳩原の弟も小学生の時に当時高校生だった雨取麟児に勉強を教わっていたことがわかった」

 

「え?」

 

「雨取麟児は過去に学童保育のボランティアで放課後に十数人の小学生に勉強を教えていて、その中に鳩原の弟がいたことを突き止めた。雨取麟児が弟と知り合いなら、鳩原本人とも面識があったのではないかと考えられる。いや、鳩原自身は雨取麟児のことは知らなかったかもしれないが、少なくとも雨取麟児は鳩原のことは知っていたはずだ。ボーダーのサイトを見れば正隊員の名前と顔は知ることができるからな。そこで雨取麟児の()()()()が何なのかはわからないが、近界(ネイバーフッド)で弟を探す協力をしてやるから武器(トリガー)を盗んで来いと言われたら鳩原は従うに決まっている。だからあの馬鹿が主犯ではなく雨取麟児に唆されたという仮説が成り立つわけだ」

 

鳩原と麟児の接点が鳩原の弟で、弟を探すために遠征に参加したかった鳩原と、千佳を守るために近界民(ネイバー)に対抗する手段を探ろうとして近界(ネイバーフッド)へ行きたかった麟児。

このふたりが協力関係を結ぶことは自然な流れで、近界(ネイバーフッド)へ行くためであれば二宮たちチームメイトを裏切ってでも麟児に協力することが鳩原にとって「正義」なのである。

 

「さらに霧科はこんな面白い仮説も立てていた。トリオン兵の腹の中に入って近界(ネイバーフッド)へ行き捕虜となるのだが、ここで自分がトリガー使いであることをアピールして兵士として働きながら鳩原の弟探しをして、その国にいないとわかったら逃亡して別の国で同じように兵士として働きながら弟を探すということを繰り返すというのだ。このように鳩原は弟を見付けるために旅を続け、雨取麟児は近界(ネイバーフッド)武器(トリガー)を手に入れる。そうして鳩原の弟が見付かった時点で三門市に戻って来るというシナリオもあるのではないか、と。兵士としてその国の軍隊組織の一員になれば堂々と街を散策して弟探しができるし、活躍して信頼度が上がれ得られる情報も多くなるだろうと言うんだから、霧科の想像力は計り知れないな」

 

ツグミの言い分は突拍子もない妄想ではなく、現実味を帯びているので二宮も修たちに教えることにした。

持っている情報を教えるという約束だから、ツグミの立てた仮説であっても全部話そうということなのだ。

 

「鳩原の弟がどの国にさらわれたのかは不明だが、今後のボーダーの遠征目的が第一次近界民(ネイバー)侵攻で行方不明になった市民の救出なのだから、その遠征で弟を救出することができるかもしれない。そうなったら鳩原の愚かな行為が意味のないものになってしまうだろう。いや、鉛弾(レッドバレット)専用ライトニングが完成するのを待つことができたなら密航などせずボーダー隊員を続けていて、次の遠征には間違いなく参加できたはずなのだ。…本当に馬鹿な女だ」

 

二宮は鳩原の密航事件によってB級に降格されたことを恨んで彼女のことをキツく言っているのではない。

憎んでもいないし、本気で馬鹿だとも思ってはいない。

ただ過去に「IF(もしも)」はないが、もし麟児に密航を唆される前に鉛弾(レッドバレット)専用ライトニングが完成していて、それを使えば遠征参加の()()()()()()()()()かもしれないと思うと悔しくてたまらない。

また隊長である自分に何の相談もなかったことが信頼されていなかったのではと思えて悔しいし、部外者の麟児の言葉に唆されて仲間を裏切るようなことをした部下の心の中を察して汲み取ってやることができなかったことで、隊長として無能であるという烙印を押された気持ちになって悔しい。

あの時に何も知らず何もできなかった自分に対しての侮蔑の気持ちが鳩原への悪態となっているのだとツグミに指摘されたことも悔しいと、すべてにおいてこの1年の間ずっと「悔い」がつきまとっていたのだと二宮は悟ったのだった。

だから彼が修たちにすべてを教えたのも約束だったからというだけではなく、「あの時に何も知らなかったせいで何もできなかった」という自分と同じ「悔い」を後輩にさせたくはないからなのだ。

 

「以上が現時点で俺の知っている密航事件に関する情報のすべてだ。情報といってもほとんどが俺と霧科の仮説で事実とは違うものかもしれないが、まったくの妄想というわけではない。迅の未来視(サイドエフェクト)は超感覚と呼ばれる人知を超えた超能力で奴の言っていることに根拠はない。ただ実際に当たるから信用されている。一方、霧科にも()()()()()能力があり、それはあいつ自身の知識と経験と想像力を交えて計算された根拠のあるものだ。だからかなりの確率で実際に起きるわけで、俺にとっては迅の未来視(サイドエフェクト)よりも霧科の能力の方が信頼できる。鳩原たちが艇を使わずにトリオン兵の腹に入って…なんてことを他の人間が言ってもバカバカしいと一蹴するが、霧科の仮説だから俺は信憑性があると考えているんだ」

 

そして最後にひとつ付け加えた。

 

「これはまだ調査途中で結果は出ていないことだが、霧科はメノエイデスにいる近界民(ネイバー)に働きかけて近界(ネイバーフッド)にいる玄界(ミデン)の人間の情報を集めているそうだ。メノエイデスはこちら側の世界を中心として軌道を描いている国のひとつで、近界(ネイバーフッド)でもっとも近い国だからボーダーでも遠征を行う場合に必ずメノエイデスに立ち寄る。それは彼の国が我々ボーダーに対して比較的友好的な国であり、利害関係がなかったからボーダーの遠征艇が立ち寄っても見て見ぬふりをしてくれていた。しかし最近になって霧科と個人的に親しい近界民(ネイバー)の兵士が窓口になり、メノエイデス政府とボーダーの間には何らかの密約ができていて、ボーダーの遠征の際には積極的に協力をしてくれるということになっているらしい。これはボーダー内でも限られた人間しか知らない機密で、いずれは公表されることになるだろうが今は絶対に口外するなよ。うっかり市民の耳にでも入ればボーダーは以前から近界民(ネイバー)と交流があったという事実を隠していたことがバレてしまうからな」

 

「はい、わかりました」

 

修がそう答えると、遊真と千佳は黙って頷いた。

 

「それと鳩原の密航事件はボーダーの公式記録ではなかったことにされている。調査も打ち切るよう命じられているのだから、俺や霧科のやっていることが城戸司令たちに知られると非常に都合が悪い。おまえたちも共犯者だ。ボーダーをクビになりたくなかったら余計なことはせずに時が来るのを待っていろ。おまえたちのような素人が動き回れば上層部にすぐ悟られるからな」

 

「はい。これだけの情報を教えてもらっただけでも感謝していますから、二宮さんや霧科先輩の迷惑にはならないようにします」

 

二宮は修に約束をさせると話を終えた。

礼を言って隊室を出て行く修たちを目で見送った二宮は少し冷めたコーヒーを飲み干してからソファに深く腰掛けて目を瞑る。

 

二宮が最後に言った「俺や霧科のやっていることが城戸司令たちに知られると非常に都合が悪い」というのは嘘である。

ツグミ自身が城戸に密航事件について調べていることを教えているし、城戸も彼女や二宮がコソコソと調べていることは承知していた。

絶対にダメだと強く言えば逆に調べたくなるのが人情というものであり、友人や元部下のことだから心情的に()()()()()()にできるはずがないのだ。

城戸もツグミと二宮ならバカなことはしないだろうと考え、ふたりの行動について黙認しているのである。

修たちも二宮から情報を与えられ、口止めされているのだから無茶なことはしないだろう。

 

(下手に隠しだてせずに知っていることをすべて話してしまえばそれで納得してそれ以上足を踏み入れることはない。余計なことをすればボーダーをクビになると脅しておけばおとなしく待っているはずだ…か。まあ、たしかにあの様子なら独自で調査をすることもないだろうし、そもそもそんな暇もない。遠征に参加もできないのだから三雲が鳩原のように暴走することはないな)

 

目を瞑ったままで二宮はニヤリとした。

 

(それにしても霧科は奴らの思考パターンを読んで行動し、自分のシナリオに合うように誘導しているというのだから驚くしかない。初めて出会った時の俺に対する高飛車な態度にはムカついたが、その年齢にそぐわない知恵や戦闘能力を見せ付けられて俺はあいつに屈し…いや、敬服して互いを認め合うようになったのだったな)

 

初の個人(ソロ)戦でツグミの罠にハマって惨敗したことは二宮にとって今でも苦い思い出ではある。

しかし人間というものは成功経験よりも失敗経験の方がより成長させるもので、二宮はこの()()以降は他人を見た目で判断することはなくなった。

だからこそ彼が№1射手(シューター)でツグミよりも格上のトリガー使いになった今でも、彼はツグミに対して一定の敬意を持って接しているのだ。

 

(霧科は俺たちには想像もできない未来を視ているのだろうな。B級ランク戦での途中退場、使う気のない(ブラック)トリガーの所有、アフト遠征では表舞台には立たず迅のように陰で行動する…。絶対に何か企んでいるぞ。それがボーダーのためになることだとはわかっているが、その概要さえ掴めないのは少し腹立たしい)

 

ツグミが近界民(ネイバー)とのハーフであり、その真実を知ったことをきっかけにしていくつもの近界(ネイバーフッド)の国へと渡航し、そこで彼女がエウクラートンという国の王家の血筋であったことなど知る由もないのだから彼女の行動を理解するのは二宮でなくても不可能である。

ただ…ツグミの正体を知ったところで二宮の彼女を見る目は変わらないだろう。

 

 

◆◆◆

 

 

修と遊真と千佳、そして栞の4人は相談をして玉狛第2の解散を決めた。

それは4人の総意であり、この決定は当事者以外の誰にも止める資格はない。

その日のうちに修は林藤に部隊解散届を提出し、B級()()となった玉狛第2はその翌日に姿を消すことになり、さらにB級は順位の繰り上げが行われたのだった。

 

 

 

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