ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
遊真が
そして同日午後、「三門市民救出計画」の概要と9月から行われるB級ランク戦の新ルールについて忍田から発表があった。
本部基地にいる隊員たちは全員講堂に集められ直接話を聞き、各支部の隊員たちは中継で、そして市内巡回等の任務に就いていた隊員たちは録画されたものを後で視聴するという形となった。
「三門市民救出計画」についてはいろいろな手掛かりを元に調査した結果、第一次
残るふたつの国に関してはA級
ただし一般市民への公表はしばらく先になるので、隊員たちは家族であっても口外しないよう箝口令が敷かれることになる。
B級ランク戦については上位2位までに与えられていたA級への挑戦権がなくなったことに異議が上がる前に上位3位までの
たしかにA級になれるチャンスが失われるのは残念だが、待遇が同じであれば我慢できる範囲のことである。
それに三門市民の救出が進めば状況も変わって、またこれまでのように試験を受けることでA級昇格が叶う日も来るはず。
そしてなによりも優先すべきは一日も早い三門市民全員の救出が完了することだとわかっており、隊員たちはこれが上層部の考えたギリギリの
そもそも前回のB級ランク戦における1位の二宮隊はA級へ昇格し、2位の玉狛第2は
つまりすべての
3位までに入れば試験などなく無条件でA級と同じように報酬が固定給+出来高払いとなるし、
そうとなればA級だとかB級だという肩書きなど些末なことで、名より実を取る方を選ぶのは当然だ。
開幕日の9月3日を今から楽しみにしているのは上位グループのメンバーだけでなく、中位や下位のメンバーも同じである。
前回のB級ランク戦では新規参入で最下位から出発して2位にまでなった玉狛第2の例もあるので、「たとえ修のようにトリオン能力が最底辺であっても戦術とチームメイトが優秀であれば上位グループ入りも夢じゃない」と考えているのだ。
とにかく「三門市民救出計画」の遠征が行われている間の三門市防衛の主戦力となるB級隊員たちの強化については十分とは言えないまでも目処がついたというところで、残るは防衛任務のローテーションやC級隊員の育成についてである。
A級隊員のほとんどが数ヶ月の単位で三門市を留守にするとなれば、残ったA級とB級隊員だけで市内巡回等の防衛任務をやらなければいけない。
さらにアフトクラトル遠征後は以前よりもはるかに入隊希望者が多くなり、入隊試験が毎月1回行われているくらいだ。
おまけに正式入隊前の仮入隊の期間もないから即戦力になるようなC級隊員はまずいないし、彼らを育成するシステムも確立していないので正隊員が防衛任務で忙しくなるとC級隊員たちも師匠となる正隊員を見付けるのにも苦労する。
そこで8月いっぱい、つまり夏休みが終わるまでは8月の入隊日までに入隊したC級隊員たちに対して各ポジションで合同訓練を行うこととした。
通常は
入隊が決まるとまずはポジションと
例えば
正隊員の戦闘スタイルを見てそれぞれの特性を知ったとしても、剣術を学んだことのない人間では刀剣の使い方はまだよくわからないだろう。
そういう状態の新人が同じような新人同士で戦ったとしても意味はないのだから、先輩である正隊員に見てもらって早い時点でその隊員に最も相応しい
そこでポジション別の合同訓練を行い、そこでまずは使用する
さらにこの合同訓練はC級隊員たちにとって自分の師匠を見付ける
修はレイガストを選んだ…いや、選んだというよりもトリオンが少ないだけでなく積極的に戦えるだけの能力がないために防御寄りの
そんなバカバカしいことをなくすためにも本人にとって最適な
もちろんB級昇格条件はこれまでと同じで、
ただしこれは8月末までの暫定的なもので、それ以降は未定である。
B級ランク戦の開始を9月にしたのはこれが理由で、ランク戦が始まるとB級隊員はC級隊員の指導どころではなくなってしまう。
それに9月以降も入隊試験で合格した者が次々と入隊してくるわけで、C級隊員ばかりがどんどん増えてしまうという困った状態になる。
そこで少し厳しい条件を設けた。
一定期間を経て2000ポイント未満であった場合は即除隊とし、
入隊時の1000ポイントを合同訓練や
鬼怒田に言わせれば「C級のトリガーだって作るにはトリオンが必要だ。やる気のない奴や才能のない奴に
そうして夏休みが終わるまでの暫定的措置として、一定の効果があればこのシステムを続け、効果がないか他にもっと良い方法があるならそれを採用すればいいという考えなのであった。
新人隊員の育成 ── これはボーダーの新体制が始まってからずっと抱えていた問題のひとつである。
組織の中で役割分担や指揮系統は明確にされてはいるものの、防衛隊員の育成に関する部署はなかった。
基礎学力と基礎体力の試験及び面接によって合格した者を入隊させるのはいいが、新入隊員はこれまで扱ったことのない
自分の使ってみたい
本部の防衛隊員を統括するのが本部長の忍田であるが、彼に新人の育成にまで責任を持たせることになれば過労死してしまうだろう。
そこでA級B級の正隊員をまとめるのはこれまでどおり忍田の役目とし、C級隊員の訓練について新たに育成部門を設けて責任者を置こうと上層部は動き出していた。
これはツグミが城戸に上申していたボーダー改革案のひとつである。
個の才能を自由に伸ばすために放任主義を貫き、本人の自主性に任せていた現状では修のように入隊したものの何もせずに停滞してしまう者もいるだろうし、積極的に正隊員へアタックして師匠になってもらおうとする新人ばかりではないのはこれまでの結果が証明している。
よって訓練生はまず自分の判断でポジションを決め、続いてポジション別の合同練習において正隊員たちからアドバイスを受け、場合によってはポジションの変更も含めて
そしてこれまで行ってきた対
元々戦闘センスのある木虎や緑川、黒江たちは自分自身の力だけで成長していったようだがそれは特別な例であり、訓練生の多くは中途半端な状態で
あともう少しで4000ポイントになるという訓練生では1000から3000ポイントの低レベルの相手をしたところでポイント移動はほとんどないために点は増えず、同レベルの相手と戦えばお互いポイントを取ったり取られたりを繰り返しているだけでいつまで経っても正隊員になれずにいる。
もし正隊員との
もちろんA級やB級の上位グループにいる隊員とのガチ対決では勝てるはずもないが、下位や中位グループのB級隊員なら勝てる可能性はある。
誰もが修や千佳のように周囲の厚意や大人の都合によって正隊員になれるような「人脈」は持っておらず、仮に修と千佳がなぜ正隊員になれたのかという裏事情を知ったら訓練生たちによる反乱が起きてもおかしくない。
最終的には城戸が認めたのだから仕方がないのだが、偵察用ラッド事件では遊真とレプリカの功績を公にできないからと
それが将来的にボーダーのためになることだとして目を瞑るとしても、チャンスを掴めずにいて不遇な目に遭っている訓練生への救済は必要だ。
だから彼らが正隊員から適切な指導を受け、
努力が必ずしも良い結果に繋がるとは言えないが、少なくとも努力したものが「ポイント」という数値のみで判断される現行のシステムに疑問を抱いていたツグミはその点についても指摘していた。
「
それは影浦の例を挙げればすぐに理解してもらえるだろう。
しかしボーダーのシステムが「
それは過去に自分がポイントを剥奪されて、それを恨んでいたからではない。
逆にそこまで手厚くしても「やる気のない」「
入隊動機は納得できるものであろうとも、入隊試験の成績がどれほど良かったとしても、正隊員になるための努力を怠り、防衛隊員になるための最低条件として
すべての訓練生を修や千佳のような特別扱いをすることはできないのだから。
また戦闘には向いていなくても指揮能力が高いとか、戦術面で様々なアイデアを生み出すことのできる頭の柔らかい人間はいる。
そういった訓練生やオペレーター志望者を集めてかつての「東塾」のようなものを開設しても良いのではないかともツグミは提案していた。
仮に戦闘訓練で十分な成績が出せなくても情報分析や並列思考などで才能を発揮することができれば
それに実際に
新入隊員には様々な可能性が秘められていて、それを発掘して磨いてやることができるか、誰も気付かずに埋もれさせてしまうかは正隊員たちの腕次第だ。
忍田がひと通り説明を終えると聞いていた隊員たちはそれぞれ思うところがあるようで、ひとりで何かを考えながら、また別の隊員は仲間同士で次のB級ランク戦の相談を、C級隊員はこれが自分にとってチャンスとなることを察したのか意気揚々と講堂を出て行った。
それは当然である。
そもそも上昇志向のある者にとってこれはチャンスなのだ。
C級隊員にとって合同練習は正隊員に自分の努力や活躍を見てもらう機会が増え、先輩たちの戦い方を学ぶには絶好の場であるからだ。
上手く立ち振る舞えば正隊員になったら自分の
B級隊員にとっても現在
そうなるとB級も現在の19
ただしこのC級隊員育成についても良いことばかりとは言えない。
教官役の正隊員の負担は増えるのだし、合同訓練も週2回が限界であるから、短期で実戦に通用する隊員に仕上げるのは不可能だ。
この案もこれまでのやり方よりはマシというレベルで、できることならその場しのぎではないシステムを確立すべきなのだが、さすがに時間も人も足りない。
ずっと後回しにしてきた
◆◆◆
忍田の発表を修と千佳は玉狛支部のミーティングルームで聞いていた。
その場には林藤と小南もいて一緒に中継をモニターで見ていたのだが、終わると同時に小南が修に訊いた。
「あんたたち、これからどうすんのよ?」
「これからどうするって…。さっきの忍田本部長の話だと正隊員がC級たちの指導をするってことなので、ぼくもそれに参加しなきゃいけないのかな、と考えていますけど、ぼくが後輩に指導なんておこがましいですよね、ハハハ…」
修は苦笑いをしながら答えるが、その態度が小南の勘に障ったらしい。
「それもそうだけど、他に重要なことがあるでしょ!? あんたたちはあたしに相談もなく勝手に
「はあ…」
「『はあ』じゃないわよ! …まあ、いいわ。どうせすぐにわかることだし。
そう言い残すと小南は立ち上がってミーティングルームを出て行ってしまった。
修たちが自分に相談もなく
別に怒っているわけではないが、呆れているという感はある。
それと「弱い奴は嫌い」という彼女にとって遊真は対等に戦える相手で認めることができたものの、彼女は修という人間を一緒に戦う戦友ではなくタダの後輩というレベルでしか見ることができないのだ。
いくら修にやる気があってベテラン隊員たちに混じって戦おうとしても足手まといになるだけで、個人の能力をもっと引き上げないと全体の戦力を低下させるだけの存在に成り果ててしまう。
修のスパイダーを使ったワイヤー陣は玉狛第2という
しかし当の修は深く考えてはいない。
これまでの人脈を使って自分を鍛えようというのだろうが、それは彼自身の都合であり、指導をしてくれる人間の都合は無関係なのである。
小南と修のやり取りを見ていた林藤は基本的に放任主義で必要最低限のアドバイスしかしないから
(桐絵の気持ちはわかる。修の奴はこれまで親切な周囲の人間によって
玉狛支部のメンバーの父親代わりのつもりでいる林藤。
ひとまず今回も何もせずにしばらく見守ることに決めたのだった。