忍田の発表の翌週からC級隊員の育成のためのポジション別合同訓練が始まった。
狙撃手は元々A級からC級まで含めた全体での合同訓練であったから変更はほとんどないが、攻撃手、射手・銃手はC級隊員のための合同訓練はあったものの、正隊員と一緒に訓練を受けるという機会はなかったから訓練内容が大きく変更される。
正隊員はC級隊員の指導員となり、同時に自分たちの訓練も兼ねるということにしたのだから、武器を使った本格的な戦闘訓練がメインとなり、それが個人戦であったり臨時に組まれた部隊による対抗戦になったりとバラエティ豊かなものになりそうだ。
まもなく夏休み期間に入るため、学生は期末テストで問題がないと判断されると特別早退扱いで午後からは本部での訓練を受けることができるように融通を利かせてもらうことになっている。
ただし赤点を取った学生は学校側の判断で訓練に参加できるか否か決まるようだ。
いくらボーダーの活動が立派な行為であるといっても太刀川のような「学力に問題を抱えている」隊員が増えてしまっては身も蓋もないということである。
日・木が攻撃手、月・金が射手・銃手、日・金が狙撃手の訓練日で、火曜日は希望者のみ集まってポジションの壁を外した合同訓練を行うという設定となり、それに合わせて防衛任務のローテーションも大きく組み替えられた。
さらにそれぞれのポジションで総責任者がひとりずつ選ばれ、攻撃手は生駒、射手は蔵内、銃手は来馬、狙撃手は荒船と全員がB級隊員である。
この4人はB級であっても将来有望でリーダーとして相応しい人材であるという理由によるものだ。
ただし週2回の訓練についてはB級隊員が毎回リーダーの持ち回りをし、その日の訓練内容を考えたり報告書を書くなどの仕事を分担することになっている。
つまりこのポジション別合同訓練はA級隊員も参加するもののB級隊員主体でC級隊員を育成すると同時にB級隊員の訓練を行うものであり、また今後は遠征を中心とするA級隊員の負担を減らすだけでなく、B級隊員の戦闘力以外の才能を見付けて伸ばすという目的もあった。
通常は部隊単位での活動が多いが、大規模侵攻の時はB級が臨時に合同部隊を組んで東をリーダーとして活躍したことは記憶に新しい。
そういう事態を想定し、リーダーとなれる人間を多く育てたいという上層部の希望も含まれている。
この訓練方法はこれまでのボーダーにはなかった新しい取り組みである。
ボーダーは近界民という侵略者と戦う民間軍事組織で、軍隊ではないがそれに近い存在であることは否定できない。
そして軍隊や自衛隊では新入隊員に対してマニュアルに沿った厳しい訓練を行うことで効率良く一定レベルの隊員へと引き上げる。
しかしボーダーは隊員が自分の意思で入隊したとはいえ半ばボランティア的な面もあるために厳しい訓練を強いることはせず、中学や高校の部活動のような隊員の自主性を重んじていて、積極的に参加する者もいれば何もしないでいて入隊した意味を持たずにいる者もいた。
いや、むしろ部活動の方がマシかもしれない。
良いか悪いかは別として部活動ではハッキリとした上下関係があって先輩が後輩を指導するというシステムができあがっており、年度が変われば後輩だった部員も先輩となって後輩を指導するようになる。
それに入部した以上はレギュラーになりたいわけで、中学・高校それぞれ3年間というタイムリミットがあるから必死になって練習をする。
一方、ボーダーにはタイムリミットはない。
入隊試験に合格さえしてしまえばダラダラと何もせずに無駄な時間を過ごして正隊員になる気がない訓練生でも強制的に辞めさせられることはないので、修のような人間が出てしまうのだ。
その「ゆるい」状態が慢性化していて、才能を開花させた者はあっという間に正隊員になって活躍しているというのに、そうでない者はいつまで経ってもC級のままという二極化が進んでいた。
それはすべて何もしない隊員が悪いというのではなく、彼らを正しく育てるシステムがボーダーになかったせいで、今回の「改革」はそれに大きな風穴を開けることになるだろう。
真面目にコツコツと訓練を続けていてもそれが自分に合っている武器なのか、また正しい訓練方法なのかもわからない。
目に見えるような成長がないために、自分には才能がないのではないかと悩んでしまう。
そう悩むC級隊員がいたとしても相談する相手がいないためにいつの間にかフェードアウトしてしまうというのであれば、新人を育成する能力のないボーダーという組織が悪いに決まっている。
「千里の馬はあれども一人の伯楽は無し」という故事成語がある。
名馬はいつの時代でもいるが、名馬を見付け出してその能力を発揮させる伯楽が常にいるとは限らない。
転じて、世の中にはいつの時代でも有能な人材はいるが、これを登用し十分腕を発揮させる為政者はまれにしかいないという意味である。
これまでのボーダーのシステムでは「名馬」を見付け出すことができずにいたが、すべての訓練生だけでなくB級隊員たちが持っているはずの「隠れた才能」を見付ける機会を増やすことで、これまで埋もれていた人材を発掘できることだろう。
ツグミが城戸にこの新人育成計画の上申書を提出したのも、修が半年間も停滞していたことを彼本人だけの責任ではないことと理解しており、同じ「過ち」を繰り返さないためにできることを考えた末のことであった。
すべての正隊員がすべての訓練生を適切な指導によって取り零しなく育てることができたなら、それは正隊員・訓練生どちらにとっても防衛隊員としてだけでなく人間としても成長が見込めるとツグミは主張していて、彼女は「自分はボーダーと近界民との良好な関係の確立に専念するから、三門市の防衛と隊員たちの育成に関しては隊員たち同士でやってもらいたい」と城戸に伝えていた。
このポジション別合同訓練はその第一歩なのである。
◆◆◆
月曜日の午後、修は射手の合同練習があるということで特別早退をして本部基地へと向かっていた。
市内の中学と高校の期末テストは先週の金曜日までに終わっており、成績に問題のなかった隊員は防衛任務とこの合同訓練がある場合は特別早退が認められている。
修もすべての教科が合格ラインを超えていたので心置きなく合同訓練に参加できるのだ。
そんな修だが、カバンを抱えて本部基地までの道をひとりでトボトボと歩いている。
今年三門市立第一高等学校に入学したボーダー隊員は修以外には男子がふたりと女子がひとりいるのだが、その3人の中に修の「友人」はいない。
いや、彼に友人と呼べる人間は遊真しかいないというのが現実である。
その他の彼の周囲にいる人間は先輩・後輩、仲間というカテゴリーのもので、一緒に遊びに出かけたり悩みごとを相談したりという親しい関係の人間はひとりもいない。
クラスメイトも彼がボーダー隊員であることに敬意を示したり関心を持つものの、それだけの関係であった。
そして遊真が近界へ行ってしまった以上、彼には共に語り合う友人はこちら側の世界にはいないのだ。
修もそのことに気付かなかったわけではないが、このポジション別合同訓練ではそれを思い知らされることになった。
◆
合同訓練は午後2時から6時までの4時間で、途中に30分の休憩が入るという実質3時間30分の長丁場となる。
これまで攻撃手、射手・銃手のC級隊員は対近界民戦闘訓練や地形踏破・隠密行動・探知追求訓練を行ってきたが、これが非常に効率の悪いものであった。
例えば対近界民戦闘訓練でモールモッドを倒すタイムを計るものであった場合、ひとりが挑戦している間は他の隊員は黙って見ているだけで、仮にひとり平均3分かかったとして10人いれば30分、20人で60分。
それだけの訓練時間があっても実際に戦闘をしている時間はたった3分だけなのだ。
もちろん他人の戦闘スタイルを見ることも勉強にはなるが、かつて修が入隊式の時の対近界民戦闘で見せたようなタイムオーバーになる戦いを見せられたところで何の意味もなく、反面教師にすらならない。
その無駄な時間を減らすために個人ではなく部隊で行うことにした…というのは射手責任者の蔵内である。
このやり方が正しいのかどうかはわからないが、とりあえずやってみる価値はあるということで、合同訓練の最初のメニューはランダムに選んだ3人を1部隊としてモールモッド3体と巨大バムスター1体を倒すタイムアタックとなった。
これは射手の訓練であるからもちろん使用できる武器は射手用だけで、それも1種類のみとなっている。
C級隊員の武器がひとつだけでシールドも使えないのだから当然の措置である。
そしてひとりでも戦闘体を破壊されたらそこでゲームオーバーとなり、他のふたりがノーダメージであっても失格となる。
部隊は参加者全員を対象にくじ引きで決め、修の臨時チームメイトは間宮隊の隊長の間宮とC級の中学生の女子となった。
間宮隊は玉狛第2がB級ランク戦の初戦で戦った相手だが、修は試合には出ておらず解説席で見ていただけなので間宮との接点はこれまで一度もなかった。
さらにC級女子は5月に入隊したばかりの個人ポイントが2000弱の訓練生で、3人ともお互いに初対面というなんとも不安な部隊である。
訓練生だけ3人の部隊もあるのだから、正隊員ふたりに訓練生ひとりという組み合わせはけっして悪くない。
しかし訓練生だけ3人の部隊であっても全員が顔馴染みで普段から仲間の戦闘スタイルを知っていると連携がしやすいのだが、修たちの場合はそうもいかない。
間宮は間宮隊の3人による連携「追尾弾嵐」でならその力を発揮できるが、即席部隊では不可能だ。
よって彼は通常弾を使用することに決めた。
修も訓練を重ねてようやく通常弾でモールモッドを倒せるようになったものの、ここしばらくはB級ランク戦での部隊による対人戦闘にばかり目を向けていたからトリオン兵相手の戦闘は久しぶりとなる。
おまけにC級女子はほとんど戦力にならないだけでなく、彼女が脱落しないように守りながら戦わなければならない。
誰かひとりでも飛び抜けて強いならあとのふたりは逃げ回っていればいいし、3人が平均して全員が普通に戦えるなら初めてでもそこそこ連携はできるだろう。
そのどちらでもない修たちの部隊が苦労するのは目に見えている。
そもそも射手は二宮のような特殊な例を除けば単独で敵を討つのではなく、離れた場所から攻撃手の援護をすることで仲間に敵を討たせる役目が多い。
そもそもチームプレイでこそ活きてくるのが射手であるから、連携の取れない部隊ではあまり意味はないのだ。
それではなぜあえて即席の部隊での戦闘訓練を行うのか?
蔵内が意味のないことをするはずもなく、個人戦よりも戦闘回数を減らすことができるからという単純な理由ではない。
それはこの即席部隊の対近界民戦闘訓練がひと通り終わった後に判明する。
◆
予想どおりに修たちの部隊はたかがトリオン兵4体を倒すどころかわずか1分でゲームオーバーとなってしまった。
先にモールモッドが3体同時に出現し、それを全部倒してから巨大バムスターが1体現れるという順番で、本来なら3人で1体ずつ確実に倒していくべきなのに3人ともモールモッドによって訓練室の隅にバラバラに追い込まれてしまい、連携ができない状態になってしまったのだった。
そこでC級女子がなすすべもなく戦闘体が破壊されてしまってそこでゲームオーバーとなり、正隊員がふたりもいて1体も倒せないという無様な結果となった。
しかし4体全部倒せた部隊は全体の半分ほどで、それも5分以内でできた部隊はひとつもなかったのだからこれは難易度の高い「ゲーム」であったわけだ。
ここで訓練の前半部分が終わって休憩タイムとなるのだが、その前に蔵内の講評が行われた、
「正隊員は当然理解していると思うが、射手は自身のトリオンを弾丸として撃ち出すポジションで、トリオン消費量の割に攻撃力は攻撃手に劣る。ではなぜそんな効率の悪い武器を使うのか? それは部隊で戦う際にチームメイトの攻撃に対して火力を集中させることができるというメリットがあるからだ。ならば同じ中距離攻撃を担う銃手でもかまわないはず。特に銃手のように銃型トリガーを使えば弾丸の射程を約20%伸ばすことができるが、射手にはそれができない分射程の面では不利になる。弾丸のコントロールも銃手の方が簡単だ。こうなると射手というポジションは何のために存在するのだろうかと疑問を持ちたくなってくるだろう」
蔵内の話を聞いていたC級隊員たちは無意識に頷いていた。
彼らはポジション選択で攻撃手のように「ガンガン斬り合いたい」とか狙撃手のように「テレビドラマや映画で見た狙撃手がカッコイイから自分もやってみたい」、銃手は「銃を撃ってみたいから」などという内容はともかく積極的な理由があった。
しかし射手はそうでもない。
「接近戦は無理だし怖い」「特別な才能がないからなんとなく」などの後ろ向きな理由が多く、現実を知らないままに射手を選んでしまった新人がいることは確かであった。
だから蔵内の話を聞いていて自分の選択が間違っていたのではないかという不安を抱いてしまっていた。
「しかしきみたちは射手というポジションを意味のないものだと考えるだろうか? 意味のないものであれば存在はしないし、不要であれば淘汰される。攻撃手、銃手、狙撃手は実在する武器を模したトリガーを使用して戦うポジションであるからイメージがしやすい。剣道をやっていた人は弧月とか、シューティングゲームが得意だという人は拳銃型トリガーを選ぶケースが多いのはそのためだろう。一方、射手は自分のトリオンをキューブ状にしてそれを弾丸とするポジションで、実生活の中で経験をしたことのある人間はひとりもいないはずだ。だから誰もが生まれて初めて手にする武器であり、ゼロから始めることになるので不安がつきまとう」
「……」
C級隊員たちは蔵内の顔をじっと見ながら黙って頷いた。
「今きみたちの心の中には『何をどうすれば良かったのかすらわからなかった』とか『たかだかトリオン兵ごときに3人もいて手も足も出なかったのだから自分には才能がない』といった不安がある思う。しかしそれは無用なことだ。なぜならさっきの訓練は射手の役割を意識させるためのものであり、結果を評価するものではないのだから」
C級隊員たちは意味がわからずに隣の友人や仲間たちと顔を見合わせてしまうが、蔵内は自信満々の堂々とした表情で言い放った。
「休憩後の後半は同じ内容の訓練を行う。ただし部隊分けはくじ引きではなく、自分が一緒に戦いたいと思う相手と組んでかまわない。休憩時間に3人1組の部隊を作っておいてくれ。以上だ」
蔵内がそう言って下がると、話を聞いていた隊員たちは腰を上げてチームメイト探しを始めた。
◆◆◆
30分の休憩タイムの後、後半も即席部隊の対近界民戦闘訓練が行われた。
3人の部隊は変わらないのだが、今度はくじ引きではなく自分たちで一緒に戦いたい相手を探して部隊を組んでも良いというものであるから、自然にB級はB級同士、C級はC級同士という馴染みのあるメンバーと部隊を作ろうとして動き出した。
間宮は当然のように本来のチームメイトと組み、他のB級隊員たちも部隊を組みたいと思う相手を探す。
修もまた同様にB級の誰かと…と考えたのだが、それは甘かった。
彼が声をかける前に水上と蔵内と那須が3人で部隊を組んでしまっていたのだ。
残るはB級の無所属かC級だけで、その中で修の知人はひとりもいなかった。
そこで彼はやっと自分がボーダーで何もしてこなかったことに気が付いた。
(ぼくは空閑と出会うまで何もしてこなかった…。それは正隊員になるための努力だけでなく、仲間を作るという大事なことからも目を背けてきた。だからC級だった時に競い合った仲間はいないし、玉狛支部に異動になってからはB級ランク戦の時くらいしか本部には来なくなった。いや、本部所属の隊員の中でも知り合いはいる。B級ランク戦で戦ったライバル部隊の人だってそうだ。だけどそれだけの存在。ぼくは一緒に戦いたいと思っても、向こうはそうじゃない。ぼくは一緒に戦う仲間としての価値がないとして声さえかけてもらえなかったんだ…)
玉狛支部に所属していることによって本部所属の隊員たちと関わりを持つ機会は自然と少なくなる。
しかし遊真は自らすすんで村上や影浦といった攻撃手仲間と個人戦を行っていたし、千佳は狙撃手の合同訓練が必須なので週2回は本部基地で仲間たちと切磋琢磨してきた。
ところが修はそういったことはせず、京介の口利きで太刀川隊や嵐山隊のメンバーから指導を受け、中途半端な射手の技術を覚えたきりである。
だから友人という対等な関係を持つ人間を得られず、こういう時に「ぼっち」であることを思い知らされることになったのだ。
(空閑や千佳が今のぼくと同じ立場だったら、きっとふたりはこんなことにはならなかっただろう。空閑ならライバルといえる優秀な攻撃手から引く手数多だろうし、千佳も真面目だし頑張り屋だから仲良くなった仲間だけでなく先輩たちからも声をかけられたはずだ。それだけあのふたりはボーダーに溶け込んでいるということで、それに比べてぼくは…)
結局、修は顔も知らない無所属のB級ふたりと組むことになり、1回目と同じモールモッドが3体と巨大バムスター1体を倒すタイムトライアルに挑戦した。
今度は4体全部倒せた部隊は全体の3分の2で、それも5分以内でできた部隊はその半分。
修たちの部隊はクリアまで6分もかかったが1回目の時のような無様な結果にはならなかった。
そして蔵内は全員を集めてお互いに自分の部隊以外の戦闘の講評をさせ、ここで何人かの正隊員には蔵内がなぜこのような訓練を行ったのかという彼の「真意」がわかったのだった。
もちろん全員が理解してこそ意味のあるものだから、わからない隊員に対して蔵内が説明をした
「1回目と2回目ではトリオン兵の数や出現のタイミングは同じ条件で、違っていたのはチームメイトだけ。それなのに結果がここまで大きく違ったのはなぜかわかるだろうか?」
蔵内の質問にC級隊員の数人が手を挙げ、「同期でいつも一緒にいる気心の知れた仲間と部隊を組んだので役割分担と連携ができたから」「休憩時間にチームメイトと作戦を考えることができたので心にゆとりがあった」といった感想を述べた。
そして間宮は「本来はこの3人で部隊を組んでいて、この3人だからこその連携プレイができる」と答えた。
「これでわかったように射手は常に考えながら戦うポジションであり、技術はもちろん重要だが自分ひとりで戦うのではなく仲間との連携こそが本来の力を2倍3倍にする。もっともA級には単独でガンガン撃ちまくってひとりで強敵を倒してしまう猛者もいる。それを否定はしないができる人間は限られてくるので、個人の点取り屋になろうというのならまずは基本を学んで正隊員になってからだ。そのあとにどんな射手になりたいかを考えてからでも遅くはないと思う」
蔵内は続ける。
「連携を重視するだけなら銃手でもいいはずだが、あえて射手というポジションがあるのは射手の撃ち出す弾には無限の可能性があるからだ」
「無限の可能性…!?」
C級隊員の中から声が上がった。
「そうだ。射手にできて銃手にできないこと。それは弾速・射程・威力・弾数といった各種性能を攻撃の度に自由に調整することができるという点だ。その分攻撃に手間がかかるのと命中精度がやや荒いのが欠点であり、使いこなすにはセンスが必要となるから誰もがすぐに目に見えるような結果は出せないだろう。そこで銃手が生まれた。センスが必要とされ人によって能力に差が出る射手を誰でも扱いやすい銃型トリガーによって能力の均一化を図ったのだ。銃手は予め設定した2種類の弾しか使えず、合成弾を設定する場合は合成弾しか撃てなくなるという制限はあるものの取り扱いがシンプルで、訓練するほど命中精度は上がる。射手と銃手…どちらにも一長一短はあるが、使いこなせるようになりさえすれば射手の方が面白いポジションだと思う。そしてここには良い見本がいる。その圧倒的なトリオン量を活かして単独で点の取れる人間もいれば、点を取る力があってもあえてチームメイトの援護に徹している人間もいる。一方では本来トリオン能力の低さは弱点になるというのにチームメイトのエースに点を取らせるために射手の技術を覚えたという元攻撃手もいるというくらい射手には多くの可能性が秘められているんだ。まずは自分が射手を続けるかどうか考え、その次にはどんなタイプの射手になりたいのかを考えよう。そして先輩の正隊員に相談すればきっと適切なアドバイスがもらえるはずだ。自分ひとりで考え込まずに誰かに相談することは悪いことじゃない。最悪なのはひとりだけで悩みすべてを抱え込んでしまうこと。早いうちに正しい道を見付けることができればそれだけ早く一人前になれる。だから遠慮なく声をかけてほしい。今日はこれくらいにしておこう。これまでの説明で質問のある人は手を挙げてくれ。…ないようだな。では余った時間は自由に過ごしてくれ。仲間同士での反省会でもいいし、気になる正隊員への質問タイムでもいい。以上だ」
射手の合同訓練は初回から良い滑り出しとなったのは蔵内だけでなく他の正隊員たちにも感じられたはずで、次回の訓練は水上が中心となって行うことを確認してから解散となったのだった。