ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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354話

 

 

修は射手(シューター)の合同訓練で自分が「ぼっち」だということを思い知らされ、自ら進んで本部基地へ赴いて個人(ソロ)ランク戦に挑戦することに決めた。

まもなく夏休みになるということで授業も午前中のみとなり、午後からは丸々訓練に使うことができる。

防衛任務と玉狛支部で夕食の当番がない日であれば午後6時くらいまで本部基地にいても大丈夫で、時間の許す限りランク戦のロビーで過ごすことにしたのだった。

 

さっそく水曜日の放課後に本部基地へと向かい、個人(ソロ)ランク戦の相手をしてくれる隊員を探していた。

しかし誰も修に勝負を挑んでくることはなく、B級ランク戦で2位だった玉狛第2の隊長であることにすら気付いてくれない。

中には米屋や時枝のように声をかけてくれる隊員はいても挨拶を交わしただけで通り過ぎて行ってしまうし、同じB級でランク戦でも戦った小荒井や奥寺たちも個人(ソロ)ランク戦の相手を探しに来たようだが修のことなど眼中にないとばかりに別の人間を見付けてブースの中へと消えてしまった。

それは仕方がないことだ。

ポイントの移動があろうがなかろうが、戦うのであれば自分より強い相手と戦いたいし、自分を磨くためなら最低でも同じレベルでなければ戦っても意味はない。

そうなると修と戦ったところで時間の無駄にしかならず、特にB級ランク戦のRound5からはスパイダーでワイヤー陣を作って遊真に点を取らせるという作戦ばかりで、修本人の射手(シューター)としての戦闘はパッとしないものばかり。

あえて挙げるとすれば最終戦で二宮を騙し討ちにしたくらいで、だからといって模擬戦をするほどの()()()()()…と判断されておしまいなのである。

おまけに自分から積極的に声をかける勇気もなく、ソファに座ったままで2時間3時間と時間だけが過ぎ去っていくだけだった。

 

(これなら玉狛支部の訓練室で宇佐美先輩のやしゃまるシリーズを相手に戦った方がマシだったな…)

 

そういう後ろ向きな考え方がダメなんだと気付いて修は首を横に振った。

 

(そうじゃない! 自分に自信がないからこれまでも他の人と模擬戦をすることもなく、何かといえば烏丸先輩に頼んで本部の人を紹介してもらってばかりいたのがいけないんだ!)

 

合同訓練での体験でこれまでの自分を省みてこのままではいけないと考えたというのに、自分から積極的に動かず待つだけだった修。

やっと自分から知り合いに声をかけようと行動を開始するが、ロビー内をぐるっと見渡してもひとりもいない。

そこにいる隊員の9割以上が白い訓練生用の隊服を着たC級隊員で、残る1割弱の正隊員も個人(ソロ)ランク戦をするために来たのではなく、ただロビーが通り道であったというだけで足を止めることなく素通りしてしまう。

 

 

「修くん、ここで何をしてるの?」

 

修は突然背後から声をかけられた。

慌てて振り向くと、そこには千佳と出穂が並んで立っている。

声の主は千佳であった。

 

「あ…いや、個人(ソロ)ランク戦をしようと思って…。千佳は何でここに? 今日は狙撃手(スナイパー)の合同訓練日じゃなかったよな」

 

「うん。だから出穂ちゃんと自主練をしようということになって、学校が終わってから一緒に来たんだ」

 

「アタシもチカ子みたいにB級になってガンガン戦いたいんだ。実を言うと那須隊からスカウトされてるんで」

 

照れくさそうに笑いながら出穂が言う。

 

「出穂ちゃんはボーダーを辞めた日浦先輩の推薦で那須隊にぜひ来てくれって頼まれているから、一日も早くB級になるためには訓練しかないってすっごく張り切ってるの。だからわたしも一緒に頑張って上を目指そうって」

 

千佳は楽しそうに話すがそれを聞いている修の心の中は複雑だ。

自分よりも後から入隊した千佳の方が本部所属の隊員たちと打ち解けていて、個人(ソロ)ランク戦の相手すら捕まえられない自分が惨めに思えてくる。

 

(千佳が人を撃てないという問題を抱えていた時、本部の人たちは積極的に協力をしてくれた。そのおかげでライトニングによる鉛弾(レッドバレット)狙撃という手段を得られたんだった。それと同時期にぼくは自分でも点が取れるようになりたいと考えてはいたもののどうすることもできず、結果的に烏丸先輩に頼ることになり、木虎からスパイダーの使い方を教えてもらうことになった。いつもぼくは自分から行動しようとしても結果を出せず、周囲の厚意によって与えられるばかりだ。おまけにそれがその場しのぎのもので、B級ランク戦では有効だったワイヤー陣も空閑と千佳がいなければ何の意味も持たない。いくらぼくがB級2位の隊長だったといってもランク戦を見ていればぼくが単独では相手を倒すことができないと知っているはずで、そんな相手と戦っても時間の無駄になる。ぼくが逆の立場だったらそう考えるんだから、他の人だって当然ぼくのことを避けるだろう。そして個人(ソロ)ランク戦をしたいと思っても自分から声をかけることをしないのは、相手から断られるとわかっているからだ。知らない人に声をかける勇気もないから声をかけてくれる知り合いを待っている。だからぼくはいつまで経っても友人ができないんだ。積極的に声をかけてみて、断られても諦めないで別の相手を探す。そうすれば必ず相手は見付かるはずだ!)

 

そんなことを考えている修に千佳が声をかけた。

 

「玉狛支部に帰るなら一緒に帰ろう?」

 

「う、うん…そうだな、今日はこれくらいにしておいて帰ろうか」

 

せっかくやる気を出そうとしたのに出鼻をくじかれた状態になってしまった修。

しかし自分の意識を変えたことは非常に重要で、今の気持ちを忘れずにいれば次こそは誰の手も借りずに一歩でも二歩でも前進できるはずなのだ。

 

 

◆◆◆

 

 

そんな修の様子を迅はロビーの隅で見守っていた。

玉狛支部の所属であることは変わりないのだが、弓手町の寮へと引っ越してしまってからはなかなか会う機会がなく、アフトクラトル遠征後の記者会見に一緒に出席して以降は一度も顔を合わせていなかった。

彼はツグミの仕事の手伝いに専念していて、玉狛支部に顔を出すことはあっても修がいない時ばかりですれ違いが多かった。

この日の迅は城戸に呼ばれて本部基地に来ていて、偶然ロビーで修の姿を見付けたのだった。

声をかけようかと考えたのだが、修が合同訓練日でもない日にひとりで個人(ソロ)ランク戦のロビーにいることを()()傾向だと感じて見守るだけにした。

何もしないでぼんやりとしている修と、彼に声をかけた千佳と一緒にロビーを出て行く様子を30分ほど見ていた迅。

 

(やる気は評価するんだけどな…。部隊(チーム)を解散した以上、本部の連中との関わりは今後もっと増えるようになる。上手く溶け込むことができればいいんだが…最近はメガネくんに関わる未来も視えなくなってんだよな。それだけ不確定な要素が多いってことなんだろうけど、ボーダーに引き込んだ以上は最後まで面倒をみてやらなきゃならない。だけどそんなことも言ってられない。まいったなぁ…)

 

修の存在がボーダーに大きく影響を与えるという未来を視たことで、迅はかなり強引な方法を使って「特別待遇」をしてきた。

迅が修をボーダーに入隊させたのは、彼が将来優れた隊員になるというのではなく、彼の周りにボーダーにとってのキーパーソンが集まってくる様子を視たからなのだ。

実際に修がいたからこそ遊真が入隊してアフトクラトルによる大規模侵攻の被害をかなり抑えることができたし、さらにレプリカの情報が得られたことと献身的な行動も被害を食い止めるために貢献した。

また千佳の入隊で新たな遠征艇を建造して30人規模の大遠征を行うことができ、C級隊員の救出作戦の成功は三門市民の信頼を勝ち取ることにもなったのだ。

もっとも修のせいでC級隊員がさらわれることになるという被害は出たが、それは市民にアフトクラトルの手が伸びないようにするためには仕方がない()()()()のようなものである。

 

修を入隊させる ── これはツグミの「殻」を壊すためには必要なことであった。

彼女が隊務規定違反を犯して降格や玉狛支部への転属などが行われた時から彼女自身とボーダーという組織が目に見えぬ形で()()してしまっていた。

城戸と彼女の間に深い溝ができてしまい、以前のようにスムーズなコミュニケーションがとれなくなっていて、相手の考えていることがわからずに不信感を抱くまでになった。

旧ボーダーの城戸・忍田・林藤が3つの派閥に分裂してしまったことは別に問題ではない。

ひとつの組織が完全なひとつの主義を貫くことは不可能であり、仮にできたとしてもむしろそれは危険なことだ。

もし城戸の意思「近界民(ネイバー)は殲滅すべし」がボーダーの統一意思となってしまっていたら、今頃は近界民(ネイバー)を殲滅するために隊員たちに過酷な訓練を強いる軍隊のようになっていたかもしれない。

しかし忍田のように三門市民の安全を優先して必要以上に近界民(ネイバー)を憎むことがない派閥や、林藤のように近界民(ネイバー)に対して積極的に交流しようという派閥があるからこそバランスの良い組織を維持できているのである。

大きな組織になればそれを構成する人間は多くなり考え方も多様化するもので、三門市民の命と財産を守るという目的はひとつであっても、考え方や一度手段をひとつに強制することが正しいとは言えない。

異なる考えを持つ人間がいるからこそ組織の自浄能力が作用するというもので、3つの派閥の考え方を理解してそれぞれの良さをまとめ上げる存在が必要であった。

それができるのはツグミだけなのである。

 

生来面倒見の良いツグミは本部所属であったなら完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)としての技術を見込まれて後輩たちが集まって来たことだろう。

そしてすべてのポジションにおいて彼女の弟子が何人もいたはずなのだが、玉狛支部に転属となったことで本部所属の人間とは疎遠になっていた。

それが2年近く続いたことで「変革」はその分遅れてしまう。

いうなれば彼女が約2年間「殻に閉じこもって」いて、停滞していたボーダーという組織に修が入隊を希望したことが()()()()きっかけとなる。

迅には修が()()()()()()()()()()ことによってツグミが現状を打破してボーダーが変わる未来が視えたのだ。

だから迅は修を強引な手段で入隊させた後に玉狛支部に引き込むタイミングを見計らっていて、遊真が三門市へやって来たことで時期が到来したと、迅は本格的に動き出した。

修が遊真と千佳の3人で部隊(チーム)を組むことは()()()()未来で、玉狛支部に後輩たちがいるとなればツグミが放っておくはずがない。

遠征を希望している修たちに自分が直接指導することはできないと陰ながら応援するという形にはなったが、彼女の影響を大きく受けるようになる。

彼女自身も一度でも家族や仲間として受け入れた人間を蔑ろにすることができずに徹底的に面倒をみることになるから自然と慕われるようになっていくわけで、同時に信頼を得ていった。

そして大規模侵攻を経てずっと無所属(フリー)のB級でいた彼女がB級ランク戦に参戦することになり、本部所属の隊員たちとの関わりは復活した。

最下位から始まってRound4終了時に暫定1位まで駆け上った彼女は注目の的となり、彼女の完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)としての戦闘スタイルは師匠の東にも影響を与えている。

敵に接近されたらおしまいだという狙撃手(スナイパー)の最大の弱点を射手(シューター)用トリガーを使用して防御ではなく攻撃によって反撃のチャンスに変えるというもの。

東が率先して射手(シューター)用トリガーを使うようになったことで、通常弾(アステロイド)追尾弾(ハウンド)狙撃手(スナイパー)たちの「第二の刃」として流行し出している。

 

また彼女は公にならない部分で活躍しており、キオンという近界(ネイバーフッド)で影響力のある国の人間を味方にしたり、敵として現れたガトリンたちとは交渉によって穏便に済ますことができた。

これだけのことができる人材を城戸が放っておくはずがなく、とうとうボーダーの代表である自分の代理として権限の一部を彼女に与え、キオン本国まで行って元首との会談を成功させている。

 

さらにどうしても遠征部隊に参加したいという玉狛第2の()()()()()を鍛えるために修と千佳に対しては厳しく接した。

玉狛第1のメンバーは技術的な面でサポートするものの、千佳や修の心の問題については踏み込んで解決しようとさえしなかったものだから、あえてツグミは悪役となりふたりの認識を変えることで一応解決したことになっている。

特に修が「自分がそうするべき」だと考えて後先考えずに行動してしまう()()は本人だけでなくボーダーの存在そのものに悪影響を与えることになりかねないもので、ツグミの()()()()()はどうしても必要なことであった。

本来なら親代わりの林藤や師匠の京介や玉狛支部のリーダー的存在のレイジらがやるべきことであったのだが彼らは何もせずに傍観しているだけで、誰も()()()を引き受けてはくれなかったのだった。

しかしツグミの働きの甲斐あってアフトクラトル遠征は大成功を収め、無事にC級隊員全員を救出したことは三門市民だけでなく他の人間に対してのアピールとなり、現在のボーダーは新体制となってから最も順調に事が進んでいると言えよう。

 

ボーダーという組織は人間が近界(ネイバーフッド)へ行ったのは2ヶ月前のことで、近界民(ネイバー)が人間であることを知ったのはその時だということになっている。

そして近界民(ネイバー)は敵というスタンスであるから表向きには近界民(ネイバー)と交流をしているということを民間人に知られてはならない。

といっても近界民(ネイバー)との友好的な関係は今や不可欠なものとなっているため水面下で行動しなければならず、その点でツグミは最も理想的な隊員なのである。

彼女の生い立ちもそうだが、なによりも近界民(ネイバー)の全てが「悪」であり「敵」であるとは考えていないからで、ゼノン隊にさらわれた時にも冷静に対応して彼らを上手く取り込むことに成功したことがターニングポイントとなった。

結果を出しているから城戸も彼女の意見に耳を傾け、近界民(ネイバー)との外交交渉に関しては大きな権限を与え、彼女が頻繁に近界(ネイバーフッド)へ行くことも公にはしないが許可をしている。

キオンがボーダーに対して積極的に協力するのは玄界(ミデン)の技術導入に乗り気であるからで、トリオン以外のエネルギーと食料の増産が叶えられるのなら全面的に支援をしたいと申し出ているほどだから、彼女が上手く立ち回ればいずれ「近界民(ネイバー)による玄界(ミデン)の人間をの拉致」はなくなるだろう。

そうなればボーダーの「自衛」という役割も大きく変わることになり、「近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)の友好の架け橋になる組織を作りたい」という設立理念が叶う日もそう遠い未来ではないはずだ。

 

(すべては順調に進んでいる。城戸さんの()()が叶う日もそう遠くないだろう)

 

城戸の願いというものが何なのかを知るのは迅だけだが、ツグミは無意識にそれを実現させようとしている。

ツグミという「世界を変革するための引き金(ワールドトリガー)」を育てるためには修という「きっかけ」が必要であっただけであるから、もう彼の役目は終わったも同然でこれ以上迅が彼に肩入れする必要はない。

これまでずっと特別扱いをしていたのには理由があり、その理由がなくなったのだから他の隊員と同様に扱うべきである。

しかし放っておくと無茶をしていつ死んでもおかしくはない行動をしていたものだから不安が消えない。

だから今回も声をかけずにただ見守るだけにしたのだった。

 

(ま、今のメガネくんに必要なのは指導してくれる先輩ではなく一緒に切磋琢磨して成長できる友人だ。これまでは遊真がいたからぼっちだということを感じなかったのだろうが、これで自分が何をすべきかがわかっただろう。これまでと違ってみんなが優しくしてくれるとはかぎらないから苦労するかもしれないけど、得られるものは大きいはずだ)

 

修が頼れるA級隊員たちは三門市民救出計画で忙しくなるから彼のことなどに時間を割くことはもうできないだろう。

ならば自分自身が行動して遠征部隊に参加できる力を身に付けなければならない。

それに気付いて行動を始めたことは評価できるが、自分から声をかけるという一歩が踏み出せなければスタート地点で立ち止まっているだけで意味はないのだ。

初日はそれに失敗したが、彼には時間がたっぷりとある。

本人が逃げ出さなければ必ず何らかの効果は表れるはずで、それが良い結果となるようにツグミや迅の手によってレールは敷かれているのだ。

 

 

◆◆◆

 

 

修は翌日の木曜日も放課後に本部基地へと向かった。

今日こそは自分から声をかけて個人(ソロ)ランク戦をしようと意気込んでいたものの、この日は攻撃手(アタッカー)の合同訓練日で、攻撃手(アタッカー)はほぼ全員が訓練中となるため、市内巡回任務は残ったポジションのメンバーでの臨時部隊で行われる。

すなわち暇な正隊員はほとんどいないということで、ロビーにいるのは白い隊服の訓練生ばかりだ。

 

(うっかりしていたな…。考えてみればぼくも夜間の任務のローテーションに組み込まれていたっけ)

 

ここにいても時間の無駄だと判断し、修は玉狛支部へと帰ることに決めた。

そして廊下を歩いていた時に背後から名を呼ばれて振り返る。

 

「三雲先輩、ちょっと待ってください!」

 

声の主は見知らぬ訓練生だ。

 

「きみは?」

 

「失礼しました。ボクは岡宮晋助(おかみやしんすけ)、15歳。第三中学の3年で、三雲先輩の後輩です」

 

「…それでぼくに何か用?」

 

「はい、実は先輩にレイガストの使い方の指導をお願いしたいと思ったんです」

 

「きみってレイガストを使う攻撃手(アタッカー)なんだ」

 

「そうです。今日の訓練では弧月を使う隊員とスコーピオンを使う隊員に分かれて紅白戦をして、それぞれの武器(トリガー)の利点や欠点、どのように使えば効果的かなどを模擬戦で経験するという趣旨だったんです。でもレイガストを使う隊員は少なくて、訓練生ではボクだけなんですよ」

 

「レイガストならA級にふたりとB級にひとりいるはず。その人たちに指導してもらえばいい」

 

「でも木崎さんと一条先輩の使い方は特殊すぎてボクには無理ですし、鋼さんは弧月メインでレイガストは盾として使っていますからこれもボクには合いません。そこで木崎さんから三雲先輩のことを紹介されたんです」

 

「レイジさんが?」

 

「はい。それにB級ランク戦を見ていて先輩のレイガストの使い方が一番ボクのイメージに近いと感じたんです。…ボクはトリオン量が平均よりも少なくて、弾丸トリガーを使うポジションは向いていないと攻撃手(アタッカー)を選びました。それで攻撃も防御もできるレイガストなら都合が良いと考えたんですが、仲間の攻撃手(アタッカー)は防御するくらいならガンガン攻撃して敵を倒せばいいと言うんです。それも一理あるんですが、トリオンが少なくて訓練生の時にすでにモールモッドを2匹倒せるくらいの実力がある三雲先輩に指導してもらえたらレイガストでも十分戦えると考えています。なにしろ三雲先輩はB級ランク戦で2位になった玉狛第2の隊長なんですから、先輩からは学べることはいっぱいあると思うんです」

 

「……」

 

12月のモールモッド事件は修ではなく彼のトリガーを使った遊真が倒したということは公になっていない。

だから岡宮も修が倒したのだと信じて疑わず、事件当日に学校にいてモールモッドの襲撃を目の当たりにした彼は修をヒーローだと信じているのだ。

まさかここで真実を告げるわけにはいかず、修は黙り込んでしまうしかなかった。

 

「6時に合同訓練が終わります。その後に模擬戦に付き合ってもらえないでしょうか?」

 

岡宮はやる気満々で、修はその勢いにのまれそうになるがハッキリと断った。

 

「悪いけどぼくはこのあと市内巡回任務があるから」

 

「じゃあ、別の日でもかまいません。ボクは放課後に毎日ここで訓練をしていますから、三雲先輩の都合が良ければぜひ指導をお願いします」

 

「でもぼくなんかじゃ師匠として不十分だと思うけどな」

 

「三雲先輩はボクたち第三中学の後輩たちにとって命の恩人でヒーローなんです! 『ぼくなんか』って自分を卑下するようなことは言わないでください」

 

「……」

 

真実を告げることができずにいるから嘘をついている気持ちになり良心の呵責があるが、だからといって本当のことを言うわけにもいかない。

岡宮は修が正規のルートで正隊員に昇格したと思い込んでいるが実際には迅と上層部の「裏取引」によるものだし、B級ランク戦での結果の大部分は遊真の功績である。

それにA級の先輩たちにマンツーマンの指導を受けて新技を覚えなければB級ランク戦では2位どころか中位グループ止まりだっただろう。

 

(ぼくが後輩に指導する資格なんてない。それにぼくは彼が考えているような人間じゃないし、ましてヒーローだなんて言われたら彼を騙しているようでいたたまれないよ)

 

「ぼくは後輩に指導できるほど立派な人間じゃない。だから断る」

 

「三雲先輩にとってボクは初対面で礼儀知らずのタダのC級隊員でしかないのでしょうが、ボクにとってこれは二度とないチャンスなんです。諦めたくはないですけど、先輩がどうしてもダメだと言うのなら仕方がありません。でももし気が変わったらボクの師匠になってください。じゃ、休憩時間がそろそろ終わるのでこれで失礼します」

 

そう言って岡宮は訓練室へと戻って行ってしまった。

 

修は自分が悪いことをしたわけではないのに言い知れぬ罪悪感で胸がいっぱいになっていた。

 

 

 

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