ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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360話

 

 

三門市を発って14日目の朝、ツグミたちはエウクラートンに到着した。

前回の訪問から3ヶ月ほど経っているため、季節も夏から秋へと移り変わっている。

ツグミたちの乗った艇はキオンの国旗を掲揚してニネミアの正門へと近付いて行った。

今回は玄界(ミデン)の使者の公式訪問ということになっているので、ツグミたちは下船せずにそのまま神殿の脇にある国賓用の駐艇場まで行くことができるというわけだ。

そしてツグミたちが艇を降りたところでリベラートの直属の部下である宰相・ミルコが出迎える。

ツグミがリベラートの孫だと知っているものだから、前回の訪問の時よりも丁寧にお辞儀をして挨拶をした。

 

「ようこそいらっしゃいました、ツグミ様。リベラート殿下はあなた様がいらっしゃるのをずっとお待ちしていました。さあ、まいりましょう」

 

 

ミルコは3人を政庁のリベラートの執務室に案内した。

ツグミたちの乗った艇が(ゲート)を開いた時点で訪問者があることはすぐにわかり、ただちに監視用トリオン兵がその正体を調べていた。

前回の訪問の時と同じ艇であるから照合は簡単で、ツグミが艇を降りる前にリベラートには彼女が()()()()()()来てくれたことを知ったのだ。

 

「よく来てくれたね、ツグミ。ずっと待っていたんだよ」

 

そう言ってツグミをハグするリベラート。

リヌスと白峰はこのふたりの関係を何も知らないので驚いて見ている。

ツグミは自分とリベラートとの関係をまだ知られてはならないと、慌てて芝居をした。

リベラートを押し戻して言う。

 

「リベラート殿下、いくら女王陛下のためにお医者様を連れて来たからといってその感激の仕方はオーバーです。まずはこちらのお医者様のご紹介をいたします。こちらは白峰先生、玄界(ミデン)の方ですが近界民(ネイバー)に理解のある優秀なお医者様です」

 

病床に臥す女王のために医師を連れて来たことに喜んだことにして、リベラートが孫に会えた喜びでハグしたことをすり替えてしまった。

いちおう理にかなっているし、リベラートも気付いたようだからツグミの芝居はバレることはなさそうだ。

リベラートと白峰は互いに挨拶し、休む間もなく女王の診察へ向かうことにした。

 

 

 

 

神殿の奥深くに女王の私室があり、(マザー)トリガーの操作をしている時以外はその部屋にいる。

よって神殿から外に出ることはなく、リベラートのような王族と世話をする数人の使用人にしか会うことがないというひっそりとした暮らしをしているそうだ。

だから女王の病について国民には詳しく知らされておらず、国内に混乱が起きていないのはそのためである。

もし女王が重い病にかかっているという話が広まれば国民は不安になり、次の女王が誰になるのかという話に変わるのは明らかだ。

しかし次期女王候補者はおらず、そのことを公表することもできない。

今のエウクラートンは平和で穏やかな国のように見えて、実のところは未来の見えない不安を抱えている国なのである。

そこにツグミが医師を連れてやって来たことはリベラートにとってふたつの希望をを手に入れたと言えよう。

女王の容態が回復する可能性が生まれ、さらにツグミが女王となってくれると言い出せば万事解決だ。

だから思わず彼女に抱きついてしまうくらい嬉しいのである。

 

ベッドで横になっていた女王にリベラートが近付いて行き彼女に声をかけた。

 

「陛下、ツグミが玄界(ミデン)から()()()()()くれましたよ。そして高名なお医者様を連れて来てくれましたから、すぐに診察をしてもらいましょう」

 

女王は身を起こして白峰の診察を受けることになった。

採血や血圧の測定など簡単な診察と問診を行うが、以前にツグミから聞かされていたように様々な症状が出ており、日常の食生活が非常にバランスの悪いもので病名が「鉄欠乏性貧血」であることに疑いようはない。

白峰は女王とリベラートに詳しく説明をし、食生活の改善から始めようということになった。

経口鉄剤のサプリメントだけでなく、海藻が効果あるということで彼女のために近界(ネイバーフッド)では入手が困難な乾燥ワカメや昆布なども持ち込んでいる。

レバ-や赤身の肉類、卵や乳製品などを多く摂るようにして、他にも健康のために適度に太陽光に当たることや軽い運動をすることも勧めた。

この日はひとまずこれで診察はおしまいとする。

こういった治療はすぐに効果が出るものではなく、正しい方法で時間をかけるものなので急いでも意味はないのだ。

 

 

白峰が女王の診察をしている間、ツグミとリヌスはミルコや政庁の職員の手を借りて遠征艇の中から荷物を運び出していた。

女王のための食品や医薬品だけでなく、車椅子や介護用ベッドなど女王に使ってもらうための道具類もある。

前回の訪問の時に付き人の介助がなければ歩くことも難しいと聞いていたものだから、ツグミは周囲の人間の負担を少しでも減らし本人の行動範囲を広げるために自分の小遣いで50000円ほどの車椅子を購入していた。

近界(ネイバーフッド)にはトリオンを使用した武器や兵器など優れたものは多いが、人間の生活水準を向上させるためにその技術が活かされていないのを知った彼女は玄界(ミデン)の一般市民が普通に享受できることを近界民(ネイバー)たちにも広めたいと考えた。

その第一歩が車椅子で、歩くことが困難な人にも太陽の光を浴び、風に吹かれて季節を感じられる健康な人なら普通にできることをさせてあげようというのだ。

これは彼女が近界民(ネイバー)たちの幸せを願ってというのではなく、玄界(ミデン)の文明の高さを実際に経験することで近界民(ネイバー)たちに「玄界(ミデン)とは戦うのではなく友好的な関係を築くことによってその恩恵を手に入れよう」と思わせるためである。

トリオンを必要としない文明が広まればトリオン目当ての戦争は減って玄界(ミデン)の人間をさらうことはなくなるという理論と同じで、ハイレインたちのように大掛かりに襲撃してくることはもちろん、日常のトリオン兵による民間人の拉致もなくなればボーダーは界境防衛機関としての役目を縮小できるだろう。

そして近界(ネイバーフッド)の国々との技術交換の窓口となり、玄界(ミデン)の文明を広める代わりに近界(ネイバーフッド)のトリオンを使った技術を導入するという双方の優れた部分を利用して足りない部分を補うことができるようにしたいと考えている。

そうすればツグミは自分が近界民(ネイバー)と戦う防衛隊員としての役目を終えて、家族や仲間たちと静かに暮らせるようになるという()()()()()()()願いのためにやっているのである。

 

 

艇から荷物を全部運び出したところで女王の診察を終えた白峰とリベラートが政庁へと戻って来た。

リベラートはツグミの顔を見るなり近付いて来て声をかける。

 

「ツグミ、例の話のことだが ──」

 

しかし彼女は女王の容態のことが気になり、リベラートを無視するような形で白峰に訊いた。

 

「女王陛下のご様子はいかがでしたか?」

 

「きみの推測どおり鉄欠乏性貧血だ。しかし素人のきみによく症状がわかったな?」

 

「以前に貧血について調べたことがあり、その時に貧血だとどんな症状が出るかを知り、女王陛下の様子がまさにそのとおりだったものですから。それで持って来た薬や食品で改善できそうなんでしょうか?」

 

「それはまだわからないが、私の指示に従ってくれるなら少なくともこれ以上悪化させることはないだろう」

 

すると安堵した様子でツグミは微笑んだ。

 

「よかったです…。すべての人間の命の重さは同じですけど価値はそれぞれ違いますからね。女王陛下にはその命の価値に応じた義務があり、それを果たしてもらわなければ国民が不幸になってしまいます。この国を支える()としてもう少しだけ役目を果たしてもらいましょう。先生、よろしくお願いします」

 

エウクラートンの王家の血が自分の身体にも流れているということを知ったツグミは同時にその身に「責任」や「義務」が課せられていることも知った。

それは16歳も少女には重すぎるものだが、それから逃げようとするほど無責任ではない。

だから自分にできる範囲でエウクラートンを救おうとしていろいろ考えて行動しているのだが、今すぐにどうこうできるものではないのでまだ女王には頑張ってもらわなければならないのだ。

 

そんな会話をしていると、リベラートがしびれを切らしてツグミの肩に手を置いて言う。

 

「長旅でお疲れのところ悪いが、きみには大事な話がある。私の執務室へ一緒に来てくれ。そこで話そう。お医者様と随行員にはそれぞれ部屋を用意してある。そこで晩餐の時間まで寛いでいてもらおうか」

 

「わかりました」

 

避けては通れない道であればさっさと済ませてしまおうと、ツグミはリベラートと共に彼に執務室へと向かった。

 

 

◆◆◆

 

 

執務室でリベラートとふたりきりになったツグミは携えていた小型のトランクケースから封書を取り出した。

 

「まずは殿下の親書のお返事を城戸司令から預かってまいりました」

 

そう言って封筒を渡すと、リベラートはすぐに開封して中身を読んだ。

すると初めは難しい顔をしていたというのに途中からニヤニヤして、最後には含み笑いをしながら手紙を封筒に戻す。

事情がわからないツグミにとってはリベラートの反応が気になるが、自分にとって都合の悪い内容ではないと判断して何も言わずにいた。

 

「ツグミ、きみは幼い頃からいろいろ苦労をしてきたようだが、周りの大人たちがここまで立派に育ててくれたのだな」

 

「そのお手紙に何が書かれているのかはわかりませんが、たしかにわたしを育ててくれた実の両親、そして両親の死後は叔父やボーダーの人たちの行動や価値観がわたしの人格に大きな影響を与えているのは事実です。いくら感謝しても足りないくらいで、わたしは()()玄界(ミデン)へ帰って家族に孝行したいと考えています」

 

ツグミが「玄界(ミデン)へ帰って」と言ったものだから、リベラートの顔が険しくなった。

 

「つまりそれはエウクラートンを見捨てるということか?」

 

するとツグミは首を横に振った。

 

「わたしが玄界(ミデン)の家族の元へ帰ることがエウクラートンのことを見捨てるということと同義ではありません。それに条件によってはわたしが次期女王となることも選択肢に入っていますので、この問題は殿下が納得できる形で解決することも可能です」

 

「意味が良くわからないな。きみの家族をエウクラートンへ呼んで一緒に暮らす…という意味でもあるまい」

 

「もちろんです。今からご説明します」

 

そう前置きしてからツグミは自分のシナリオを説明した。

 

「……」

 

彼女の話を聞き終わったリベラートは何とも言えない複雑な表情で黙りこくってしまった。

その内容が途方もないものであったからだ。

しかし無茶だとか話にもならないという内容ではなく、近界民(ネイバー)ではない彼女だからこそ思いついた名案であるともいえる。

ただし場合によっては近界(ネイバーフッド)の歴史が始まって以来ずっと繰り返してきたものを変更することになり、さらにエウクラートン一国だけの問題では済まないことにもなるのだから即答できるものではないのだ。

 

「殿下が了承してくださるのなら一度玄界(ミデン)へ戻って準備をしてからまたエウクラートンにまいります。ですがダメだと言うのであればわたしは()()()()に戻って二度とここには来ることはないでしょう。この国が父の祖国であるといってもわたしには直接関係ありませんし、わたしはボーダー隊員ですからトリオン能力者の奪い合いのための戦争をやめられない近界民(ネイバー)の魔の手から三門市民を守らなければならない使命があるんです。そちらの方がわたしには大事なこと。でもエウクラートンのことを見捨てることができないのでこの妥協案を提示したんです。良くお考え下さい。…このオーラクル家の人間は王族としての義務を果たすために数々の犠牲を払ってきました。殿下がミリアムさんと愛し合っていながらも結婚できず、知らなかったとはいえその息子の養育の義務を放棄し、女王の後継がいないからと孫娘であるわたしに自分自身の人生を捨てろと命じるのはあまりにも理不尽。そうは思いませんか?」

 

ツグミは言いたいことを全部言うとリベラートから視線を窓の外の景色に向けた。

秋らしい青空が広がっていて、時々鳥の声も聞こえる平和な国であるが女王がこのまま健康を取り戻すことができなければこの穏やかな日常は消え去ってしまうだろう。

白峰の治療で一時的に健康を取り戻したとしても52歳の女王は近界(ネイバーフッド)においては高齢で、次期女王がいないとなれば(マザー)トリガーを操作する人間が不在になるということで、国の維持にも影響が出てくる。

問題を先送りしたところで根本的な解決策がない以上はツグミに頼らざるをえなく、彼女の提案は妥当なものだから選択肢の中に入れるしかないのだ。

しかしその場合はエウクラートンという国のあり方を大きく変えるものとなり、それを()()()()()()受け入れられるかどうかにかかっている。

 

「私だけでは判断できるものではない」

 

「当然でしょう。もちろん女王陛下を含めて審議しなければならないお話でしょうからしばらくお待ちします。ですが時間は無限にあるものではありません。それにわたしにはエウクラートンだけに関わっていられる暇人ではありませんから、そのことはご承知くださいませ。なにしろわたしはこの国の女王になりたいのではありませんから、頭を下げるのは殿下の方なのだとおわかりのはずです。わたしの話はここまでです。()()()会談はここまでにしておきませんか? わたしも長旅で疲れているのです。少し休ませてください」

 

「…わかった」

 

リベラートはそう言ってからゆっくりと腰を上げた。

そしてツグミを伴って執務室を出る。

 

「私は自分に都合の良い答えを期待していた。きみにはこれまできみが歩んできた16年の人生があり、残りの人生も自分のために使うのが当然だ。それなのに私はエウクラートンという国と大勢の国民のためになら個人の犠牲など大したことではないと考えていて、それをきみにも強いる気でいたよ」

 

廊下を歩きながらリベラートは申し訳なさそうな顔をして話す。

 

「私もそうだが誰も好き好んで王家に生まれたわけではない。しかし生まれてしまったからにはその責任を果たさなければならないと考え、その義務を果たしてきた。まさかオリバの娘がいてこの国にやって来るとは想像もしておらず、このきみという唯一無二の存在を女王の座に据えれば私は自分の役目を終えたとしてようやく王家の人間としてでなくリベラートというひとりの人間に戻って自由に生きられると思ったのだ」

 

「そのお気持ちは理解できます。だけど殿下は義務や責任を果たさなければならないという理由のみで行動していて、現在の()()()が道理にかなっていないことから目を背けているように思えます。(マザー)トリガーを操作できる王家の女性を女王として国の命運をすべて背負わせてしまうことが正しいことだとは考えていないのに、それしか道はないから仕方がないと無理やり決めつけて従っている。でもそのルールを変える勇気と行動力があれば未来は変わるんです。近界(ネイバーフッド)の国々は(マザー)トリガーがなければ国土を維持することすらできないという『(ことわり)』があって、それは不変の法則であることを否定はしません。ですが(マザー)トリガーの運用についてなどのエウクラートンの王家に関わるルールは変えることができるものです。女王になったら神官となるから人間の男性とは結婚できなくなるので即位の前に結婚しておかなければならず、次の女王候補のために女児を産んでおくことが望ましいなんて玄界(ミデン)育ちのわたしから見ればバカバカしい話です。おまけに離婚できないとか死別でなければ再婚できない、側室を持つことができないなんて面倒な決まりがあるから後継者となる人間が生まれないんですよ。なんでこれまでの王家の人たちはこんな合理的ではないルールを変えようと考えなかったんでしょうか? たぶんおかしいと思いながらも緊急な問題を抱えることがなかったから先送りにしてきたんではないかとわたしは考えます。王家の血筋の人間で女性でなければ(マザー)トリガーを操作できないなんて()()があるからこんな重大な問題が生じるわけで、そうなる前にルールを変えて王家に女児が生まれやすくなる条件を整えておくべきでした。側室はともかく離婚と再婚ができるのであれば殿下は別の女性と再婚して子供を作ることもできたでしょう。なにしろ女性の側に問題があったということは証明されているのですから」

 

リベラートには息子(オリバ)がいたのだから、この夫婦に子供がいないのは女性の身体に何らかの問題があったということになる。

もし離婚ができたならリベラートは別の女性と再婚し、その女性との間に子供ができた可能性は非常に高い。

若い頃に離婚と再婚をしていたら女王の後継者となる女児が生まれたであろうから、今頃は女王が病に苦しみながら(マザー)トリガーの操作をせずに済んでいたことだろう。

わざわざ玄界(ミデン)で生まれ育ったツグミを女王にしようなどと考えることもなかったはずだ。

何十年何百年の続いてきた伝統や慣習を変えることは容易ではないが、変えることができないということはない。

ルールを変えるというハードルを越えようとする勇気がなかっただけなのだ。

人間とは元来変化を恐れる生き物である。

現状を変えようとするとそこには失敗のリスクが伴い、状況が現状より悪くなる可能性も秘めている。

また変えようとした者は批判に身を晒すことになるかもしれず、後悔することになるかもしれない。

しかし現状維持を選択すればそういったリスクを負うことはなく、無駄な労力も払わなくて済むというもの。

だから変化を起こすより無難にしている方が安全だと考えてしまう。

この心理を「現状維持バイアス」とよび、リベラートたちは「今までずっとこのルールでいたのだから、これからも同じでいた方が楽だ」と考えて変化を望まずにいたが、ここに部外者のツグミが自分にとって納得できない状況に一石を投じることになったわけだ。

 

玄界(ミデン)には『茹でガエル現象』という言葉があります。カエルをいきなり熱湯に入れると慌てて飛び出して逃げるが、水から入れてじわじわと温度を上げていくとカエルは温度変化に気付かず、生命の危機を感じないまま茹で上がって死んでしまうという作り話が由来です。つまり人間は環境適応能力を持つがゆえに漸次的な変化は万一それが致命的なものであっても受け入れてしまう傾向があり、気付いた時にはもう遅いということ。王家の人間がこのカエルのように茹で上がってしまうのは自業自得だとしても、エウクラートンの国民を巻き添えにすることはできませんよね?」

 

「ああ、わかっている。今となっては手遅れなものの多いが、きみの提案ならまだ間に合う部分もある。…しかしだからといってすぐに承諾することもできない」

 

「それは理解しています。大人になると立場とか肩書きとかで自由に動けなくなるもので、すごく不便だってことはよくわかります。ボーダーの上層部のメンバーはまさにそれで、若い頃のように自由に意見を言い合ったり、場合によっては殴り合いでもして解決策を見付けることができたらもっと楽になれると思うんですけどね」

 

「子供のくせに…と言うと問題はあるが、まるで大人のことがわかっているような口ぶりだな。たしかに事実ではあるが、若いきみに言われると面目ない気がするよ」

 

「今の玄界(ミデン)…わたしたちの住んでいる三門市では子供が子供でいられる時間は短いんです。トリオン器官の成長は年齢が若いうちだけですから。もっともそれは近界(ネイバーフッド)でも同じこと。子供が子供らしく生きるためには大人が戦争なんてやっていてはいけないんですよ」

 

「…そのとおりだな」

 

「わたしが子供らしくない考えを持って行動しているのは今の大人が不甲斐ないからで、その不甲斐ない大人に代わってわたしが自分でやれることを考えてやっているとこんな可愛げのない娘になってしまうというわけです。玄界(ミデン)からお医者様を連れて来て、さらに一国の皇太子に向かって説教を垂れるなんてわたしにしかできないことですからね」

 

ツグミの言い方に対してリベラートは彼女に若い頃のミリアムの姿を重ねてつい笑ってしまった。

 

「プッ…くっ…ハハハ…。血は争えないな。ミリアムは私が皇太子だと知ってなお態度を変えることはなく、私にズケズケと物申したことを思い出したよ」

 

「それはミリアムさんが殿下のことを皇太子としてではなくひとりの人間として接したからでしょう。わたしだって恋人がどこかの国の皇族とか王族の一員であったとわかっても、これまでと変わらずに愛し合うと思います。そしてふたりの間を引き裂こうとするものがあれば全力で戦います。それが血のつながった祖父であろうとも邪魔者は徹底的に叩き潰すつもりですのでお忘れなく」

 

そんな会話をしているうちにツグミは目的地に到着した。

前回の訪問の際に使用した客間で、第一級の賓客用の部屋である。

 

「ここでゆっくりと過ごすといい。…と言ってもきみはおとなしく寛いでいるようなことはしないだろう。自由に行動してかまわないが、外出する時には必ず私に知らせ、従者を連れて行くこと。これだけは守ってくれ」

 

「はい。ところで女王陛下にはいつご挨拶させていただけるのでしょうか?」

 

「明日の朝、お医者様の診察の時に一緒に行こう。その時に例の話をして、彼女の女王としての意見を聞かせてもらうつもりでいる」

 

白峰による診察は済んでいるが、その時の様子で面会は翌日にした方が良いと判断したのだろうとツグミは推測した。

 

(わたしが顔を出せば次期女王の話をせざるをえない。体調の芳しくない時には国の存亡のかかっている重大事の話なんてさせられないわよね)

 

「わかりました。女王陛下の容態が一番大事ですものね。ではこれで失礼いたします」

 

ツグミはそう言って部屋の中へ入って行った。

 

 

 

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