ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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369話

 

 

午後の会議はツグミの帰還によって急遽議題が変更され、彼女による近界(ネイバーフッド)の現状報告とそれに関わる内容の吟味となった。

予定では午前の会議の続きで「第一次三門市民救出計画」に関するものであったが、ツグミの持ち帰った情報や武器(トリガー)は三門市民救出計画に影響するものであるから先に行うべきだと城戸が判断したのだった。

参加者は城戸、忍田、鬼怒田、根付、唐沢、林藤、沢村、迅という最小限のメンバーである。

ボーダーの人間でツグミが()()()()行っていたことを知っているのも彼らと他には寺島と冬島だけで、近界(ネイバーフッド)の国との外交が議題に上がるのだからこのメンバー以外には知られてはマズイのだ。

 

「みなさま、ただ今戻ってまいりました。まだ詳しい資料はお手元にお届けできませんので口頭でご説明させていただきます。のちほど書面にてご報告いたしますが、ひとまず急いでお話した方が良いと思われるものだけお知らせいたします」

 

そう前置きしてからツグミはキオンにおいてのテスタとの会談内容について説明した。

彼がボーダーとの友好的な外交を望んでいることと、その証としてキオン製の武器(トリガー)を譲り受けたことを話すと鬼怒田が飛びついてきた。

 

「そのキオンの武器(トリガー)とやらの説明をしろ!」

 

新しい武器(トリガー)が手に入ったとなれば技術者(エンジニア)魂が疼くのは当然である。

 

「わかりました。ではこれをご覧ください」

 

ツグミは3つの武器(トリガー)を机の上に並べてひとつひとつ説明をした。

 

「まずはこれです。ボーダーで使用しているスコーピオンと似ている変形可能な(ブレード)トリガーで、戦闘体のどこからでも(ブレード)が出るようになっています。わたしがデモンストレーションしてみましょう。…トリガー、起動(オン)

 

すると見た目はキオンの兵士の標準タイプの軍服に変わる。

そして自分の席から離れて周囲に邪魔なものがない場所まで行くと長さが1メートルくらいのトゲのような(ブレード)を20本ほど全身から出した。

それはまるでハリネズミのようで、()()たちから感心や驚きなどの意味の込められた歓声やため息が漏れた。

 

「特に際立って役に立つというほどではありませんが、これをチップとしてボーダーのトリガーの枠の中に組み込むことで狙撃手(スナイパー)の防御と反撃には使えるのではないかと考えています。(ブレード)の長さは調節できるようで、平均的なトリオンの持ち主なら最大2メートルくらいまで伸ばせるみたいです。特に名称はないらしいのでわたしが勝手に『ハリネズミトリガー』と名付けました。…続いてこの武器(トリガー)ですが、これは特殊工作兵(トラッパー)用となります」

 

直径が20センチくらいの円盤状の物体と、それを操作するための装置で某ゲーム機のコントローラーのように両手で別々に握るようになっているもので構成されている。

 

「これは簡単に言うとこの円盤状の物体を操縦して上空から戦場の様子を撮影・解析して地上にいる兵士に情報を送る装置です。遠征となればオペレーターの支援が必ず受けられるというものではなく、また敵地の情報も少ないですから三門市防衛戦のような()()()()()()()()()()()()はできません。そこで戦場においてひとりの特殊工作兵(トラッパー)がこの武器(トリガー)を操作すれば全隊員に上空から見た景色や敵の配置などの情報をリアルタイムで送信することができます。まあ、偵察トリガーと呼称しましょうか」

 

オペレーターの支援が受けられるのは緊急脱出(ベイルアウト)の可能な範囲の約3000メートル以内であるから、遠征艇をそれ以上離れた場所に停めるとなればどちらも不可能となる。

だからといって近い場所に艇を停めて敵に発見されたらそこで万事休すとなり、アフトクラトル遠征で敵に発見されないように遠くに停めたことはまだ記憶に新しい。

よって遠征先でのオペレーター支援はないものとして計画を立てるのが安全策で、この武器(トリガー)を使えば現場に特殊工作兵(トラッパー)さえいれば支援は可能となる。

 

「さらにこちらのゴーグル型の武器(トリガー)はこうして装着すると…」

 

ツグミはゴーグルを装着して説明を続けた。

 

「これには自分の意思…脳波によって標的(ターゲット)との距離が自動的に計測できて表示されるなどの機能があり、先にご説明した偵察トリガーによる情報も表示されるようになっています。また敵の閃光弾の使用等によって突然眩しくなった時などは即座に視覚をシャットアウトして目を守ることもできるようです。もちろん暗視モードもOK。これだと8枠の中に入れない後付け装備ですので、他の武器(トリガー)の枠を圧迫せずに済みます。ただし破壊されたらそれでおしまいですから、消耗品と考えておく必要があります。もちろん使用者は壊さないように注意しないといけませんけどね」

 

ゴーグルを外して換装を解くと、3つの武器(トリガー)を鬼怒田の席まで運ぶ。

 

「どうかこれを役立ててください。それとキオンのスカルキ総統からの伝言です。『玄界(ミデン)技術者(エンジニア)ならこれらを本来の能力以上の武器(トリガー)へと発展させてくれるでしょう。どうか我が国との友好の証をしてお受け取りください』だそうです」

 

すると鬼怒田はツグミを見上げて言った。

 

「ハリネズミトリガーはともかく後のふたつはなかなか役に立ちそうだ。ありがたく受け取ろう。ガロプラの時もそうだが、近界(ネイバーフッド)武器(トリガー)は多彩で面白いものが多い。役立つから量産しているが、これではいくらトリオンがあっても足りんわ。まったく嬉しい悲鳴とはこんなことを言うのだな」

 

やれやれという顔だがすぐにでも解析してみたいというオーラが出ているのがツグミにもわかった。

 

「これで報告は以上ですが、ご質問があればお答えできる範囲でお答えいたします」

 

ツグミがそう言うとさっそく唐沢の手が上がった。

 

「その言い方だと答えられないものもあって、それについては我々にも言えないということかな?」

 

「はい。キオンのテスタ・スカルキ総統と軍最高司令官のサーヴァ・コンプソス氏とは個人的に親しくなりました。ですが彼らのプライベートに関することについてはお教えできませんし、彼らに都合の悪いこともわたしの口からは話せません」

 

「フッ、そういう意味か。じゃ、問題なさそうな質問をしよう。キオンの現状を見てきたきみの意見を聞かせてほしい。あの国にはトリオンに代わるエネルギーの他に何が必要だと思う?」

 

「う~ん…。わたしから見たら足りないものばかりですからね。でもまずは食料です。『衣食足りて礼節を知る』という言葉もあります。着るものや食べるものが十分にあって初めて人は礼儀や節度をわきまえるようになる。生活にゆとりがないと精神にも余裕は生まれない。…いえ、それ以前に日々の食料で苦労している近界(ネイバーフッド)の国は多いです。キオンだって自国での生産だけでは十分でないからとエウクラートンから食料を徴収しているわけで、キオンは食料自給率を上げれば他国への侵略なんてする必要はないんです。雪の多い寒冷地でも育つ品種の麦やジャガイモ等の穀物栽培の導入や、ハウス栽培などで天候に左右されない安定した収穫が最優先で必要といったところでしょうか」

 

「なるほど。しかしキオンの国民は信頼できる相手なのかい?」

 

「彼らが他国への侵攻を行ったのは前総統の時代の食料難に陥った時だけで、『神』も他国の人間をさらって生贄にするのではなく、国民の中から選ぶというくらいです。庶民階級の人たちとも交流しましたが、基本的に彼らは温厚で素朴な人たちですから特に警戒する必要はないと思います。自然環境の厳しい国ですから厳格なルールが必要で、身分制度もその中から生まれたのだと思うと仕方がないとも思えてきます。ルールに従ってさえいれば最低限の生活は保証され、守らなかった者には厳罰が下されます。そして国のために役立てば庶民であっても一等市民、貴族に準ずる生活も夢ではないという『アメとムチ』を上手く使った政策を行っています。だから国民は積極的に国へ奉仕し、忠誠を誓うのです。最下級の三等市民は家族に犯罪者や軍の任務に失敗して損害を与えた兵士がいるなどの理由によって落とされるのですが、その問題を起こした人物が罪を償うだけでなく家族が連帯責任を取るという意味のようで、該当者が死ねば元の二等市民に戻ることができるのだそうです。だからこそ秩序が守られているとも言えますね。このような政策をスカルキ総統は貴族や庶民にかかわらず()()()()()()公平に行うことで、良き国民であれば国が自分たちを大切にしてくれるし、悪しき国民となればそれはその人間がそれだけ罪深いのだから仕方がないと考えるようになり、どの階級の国民も政府を恨むようなことはありません」

 

「そのスカルキ総統とはどんな人物なのかな?」

 

「若くして国のトップに上り詰めたのですからタダ者ではないですね。何回か会食したり私邸に招待されたことがあります。わたしはああいう人物のことが嫌いではありません。彼は見た目こそ好青年ですが、中身は老獪で油断のならない人物だということを前提として付き合う必要はありますけど」

 

「そう言うきみも油断のならない人間だとおれは思うけどな。いや、別にきみのことを警戒しているのではなく、胸の奥まで見透かされそうでちょっと怖いというだけだよ」

 

「唐沢部長にそう言われるのですから、それは褒め言葉だと受け取っておきます。…これで質問のお答えになっていますか?」

 

「ああ、良くわかったよ。ひとまずおれの質問はこれくらいにしておこうか。ありがとう、ツグミくん」

 

「どういたしまして」

 

続いて忍田が手を挙げた。

 

「アフト遠征でも協力してくれたキオンの諜報員のことだが、彼らは今後もボーダーの協力者として滞在してくれるのか?」

 

「スカルキ総統はゼノン隊に引き続きボーダーに協力するよう命じましたが、本国に家族のいるテオ隊員には本人の希望で現在の任務から首都詰めの任務に変更してもいいと考えています。そこでテオ隊員が本国に帰還するのであればゼノン隊長とリヌス隊員のふたりだけになりますが、わたしはこのまま3人で滞在してくれると確信しています。なにしろ総統から直々に命じられた任務ですから、ここで功績を残せば家族で一等市民になれる可能性が残っています。テオ隊員はせっかくのチャンスを逃すような人物ではありませんから」

 

「つまりこのまま情報提供など協力を続けてくれるということだな?」

 

「はい、そうです。この武器(トリガー)の提供や有能な諜報員の派遣などスカルキ総統はボーダーを全面支援する意思があるということで、それだけ彼はボーダーとの良好な関係を重要視しているということです。あと20日足らずでアフトでは『神選び』が行われます。誰が『神』になるかはわたしたちにとって無関係ではなく、『神』というよりもその人物を探し出した者が次期国王となるのですから注視していなければなりません。場合によってはもう一度大規模な防衛戦を行うような可能性もあるわけですから。そうなると遠征計画にも少なからず影響が出てくるのは必至。奴らに邪魔はさせないためにも味方となってくれる近界民(ネイバー)はひとりでも多い方がいいということで、ゼノン隊の3人にはこれまで同様に()()として付き合っていきたいと思っています」

 

「彼らは貴重な人材だ。現状では近界(ネイバーフッド)の情報はすべて彼らに頼っている。彼らのような諜報部隊をボーダーにも必要だと考えてはいるが、ゼノン隊長の話では職業軍人ではない隊員たちに過酷な訓練を強いるのはまず無理だということだった」

 

「でしょうね。危険な役目ですし、並のトリガー使いでは敵地への潜入など無謀でしかありません」

 

「そんな危険な役目をおまえは志願した。まったく無茶をするものだ」

 

「いえ、3人のプロの指導があり、現地では彼らのフォローがありました。それにわたしは並のトリガー使いではありませんからね。それに勝算がなければ無茶と言えますけど、要は度胸と演技力と万が一の時に対応できる能力です。わたしの場合はゼノン隊長が大丈夫だと太鼓判を押してくれましたから不安などありませんでした。あなたの愛弟子なんですからもっと信用してください」

 

忍田の態度がボーダー隊員の霧科ツグミにではなく娘の忍田ツグミに対するものだと感じたものだから、ツグミはあえて「愛弟子」という言い方をした。

それが彼女の嫌味であることは忍田にもわかったらしく、ムッとした顔でそっぽを向いてしまったのだった。

 

(後で()()()()()()には娘としてサービスしておかなきゃ。このままじゃ例の件のことでもおとなしく話を聞いてくれないかもしれないから。夕食は寮に来て食べてもらおうかな?)

 

ツグミがそんなことを考えていると、林藤の手が挙がった。

 

「ツグミ、キオン以外の国の状況で何か面白いことはなかったか?」

 

「そうですね…。やはりアフトの『神選び』のことはどこの国へ行っても噂されていました。軍事大国・アフトクラトルの国王がこれで決まるわけですから、それってアメリカ合衆国の大統領が誰になるかが気になる日本国民のようなものです。直接関係はなくても何らかの影響は出てくるでしょうし、場合によっては悪い状況になるかもしれませんから注目するのは当然です。それがアフトの従属国であればなおさらで、どうやらガロプラは自国の(マザー)トリガーの奪還に成功したみたいです。そうなると他の従属国も次の『神』と国王が誰になるかによって何らかの行動を起こすかもしれませんね。ボーダーとしてはアフト国内が今まで以上に混乱してくれたらありがたいのですが、そこまで望むのは贅沢というもの。ディルクさんの話ですとベルティストン家以外の3領主はハイレインの失態を彼に非があるのではなくボーダーが想定外の戦力を持っていたからだと考えているとのことで、その3領主の誰かが国王になれば玄界(ミデン)へは無闇に手を出さないだろうと推測されます。なにしろベルティストン側は(ブラック)トリガーが3人もいたというのに、アウェイで戦う30人弱の玄界(ミデン)の遠征部隊に完敗でしたからね、ヴィザの星の杖(オルガノン)があってなお負けとなればボーダー側がそれだけ強かったのだと考えるのは無理もありません。強い…と言うよりも頭が良いと言った方が正しいですね。ボーダーは戦って勝ったのではなく、負けないで目的を果たしたのですから。それに玄界(ミデン)とキオンが手を結んだという噂も広まっていますから、よほどの馬鹿か強い恨みを持つ人間でなければ襲っては来ないでしょう」

 

「だからハイレインが王にならない限りは安泰、ってか?」

 

「そうとは言い切れません。それにハイレインという男は自分が国王になるためには優秀な配下であっても生贄にしようとする冷徹な男ですし、なによりもプライドが高いですから二度の敗北に甘んじているとは思えません。ディルクさんをこちらで保護しているんですから他にトリオン能力の高い人間を探しているでしょうがそう簡単に見付かるとは考えられず、他の3領主の誰かが国王になる可能性は非常に高いと推測するわけです。しかしだからこそあの男のことですからわたしたちの想像の斜め上を行く手段を講じて国王になるのではないかとわたしは考えます。そうなった時のことを考えておく必要は十分あり、ハード・ソフト両面において強化しておかなければなりません。そちらの方はみなさまにお任せいたします」

 

ツグミはハイレインと戦ったこともあるし、アフトクラトルの市場でその普段の姿も見ている。

それとディルクとヒュースから聞いた話を総合すると権力を握って全世界を支配したいというような単純な悪ではなく、彼なりの信念があって国を栄えさせたいという願いを叶えるための手段として王になりたいと考えているらしい。

だから優秀なトリガー使いやトリオン能力者を集めるために非道な行いも平気でできるわけなのだが、彼の()()の犠牲になる者からすれば彼は「悪」でしかない。

しかし領民からは強くて頼もしい領主であるから慕うことになり、彼らにとってハイレインは「善」となる。

もしアフトクラトルの国王となったら今まで以上に他国を侵略して従属国を増やしていくことだろう。

そのうち近界(ネイバーフッド)の国々はアフトクラトルに付き従う、もしくは支配される国と、キオンを中心とした反アフトクラトル勢力の国に二分されることになり、激しい戦争が繰り広げられるという最悪のシナリオも考えられるのだ。

ツグミにとっては三門市の平和が第一であることに変わりはないのだが、ハイレインが三門市に攻めて来なければそれで良いというわけにはいかない。

今の彼女にとっては近界(ネイバーフッド)の秩序の維持も重要で、ボーダー活動だけに関わってはいられないのである。

 

林藤の質問の後には誰も手を挙げず、そこでツグミの役目は終わった。

この後は本来の遠征計画の会議に戻るのだから彼女はもう帰ってもいいはずなのだが、城戸によって引き止められてしまった。

 

「ツグミ、このまま会議に参加しなさい。既成観念にとらわれない考え方を持つおまえは我々のような常識に凝り固まった人間にはできない妙案を思いつく。ガロプラの件もおまえだからこそ思いついた策であり、おかげであの国とはもう二度と敵同士にはならずに済みそうだ。我々はこれまで近界民(ネイバー)と戦うことだけを考えてきたものだから、おまえのように戦わずに済む方法を考えることができない。隊員たちには各自戦闘力を高める訓練を行ってもらっているがリスクはできるだけ避けたい。彼らの親御さんからお預かりしている大事な若者たちだ、あの時のような悲劇は絶対に繰り返してはいけない。そのためにもおまえには協力してもらいたいのだ。長旅で疲れているだろうがもう少しだけ付き合ってくれ」

 

「はい、わかりました」

 

ツグミは迅の隣の椅子に腰掛けた。

鬼怒田が責任者の技術者(エンジニア)チームの仕事の進捗状況について、根付からは次回9月7日に放映される「こちらボーダー広報室」の収録が今週末に行われることなどの報告が行われ、最後に唐沢から外務・営業、つまり関連団体とのすり合わせや()()()の状況についての説明があった。

各部署での現在の状況を全員で共有するための情報交換会のようなもので、ツグミが参加するようなものではなかったのだが、本題はその後に待っていた。

 

「では本日の会議の本題に入ろう」

 

城戸はそう言って厳しい顔で続けた。

 

「『三門市民救出計画』を進める上でどうしても避けられない問題がある。ボーダーに近界民(ネイバー)の協力者がいて、情報面・技術面で彼らを欠くことができないということをいずれ市民に知らせねばならないのだが、それをどのタイミングでどのように報告するかだ。隊員や技術者(エンジニア)の中に近界民(ネイバー)がいることは一部の隊員たちに知られているが、ボーダー関係者でも知らない人間の方が多い。しかしいつまでも隠し通せるものではなく、市民にも歪んだ形で広まってしまっては収拾がつかなくなるだろう。その前に我々にとって都合の良い形で周知させたいと思う。そこで媒体としてはメディア対策室主導による記者会見と広報番組になるのは決定だが、そのシナリオを考えなければならない。まずはその前にボーダーの歴史や活動の『正史』を作り上げ、それを元にして記者会見を行う予定でいる」

 

ここまでの話で城戸がツグミを参加させた理由が誰にも理解できたようで、彼女本人も納得したという顔でいた。

 

「当然のことながら現在市民に公開している情報は変更できない。その上でいかに違和感なくそれが真実であるかのように思わせなければならないし、少しでも疑いの目を向けられた時にはその火の元を消す手段も考えておかなければならない。それで各自 ──」

 

「待ってください、城戸司令」

 

城戸を制止したのは唐沢だ。

 

「こういうことを考えるのが得意な人材がここにいるわけですから、()()に一任したらどうですか?」

 

唐沢が「彼女」と言った瞬間に全員の視線がツグミに向けられた。

 

「我々には市民を欺ける()を考えるのは難しい。ですが彼女の作ったシナリオに対してそれぞれの分野でプロの我々が全面協力すれば完璧な『事実』が捏造できるはずです。ツグミくん、きみもそう思うだろ?」

 

そう言われたら断るわけにはいかない。

それに唐沢たちが協力してくれるのなら多少の無茶なことであっても平気でできるというもの。

ここで引き受けておけば今後の行動もやりやすくなるという打算的な考えもあって、ツグミは()()引き受けることにした。

 

「はい。これまで大勢の市民を欺いてきたわけですから、その()()()として大きな嘘をついてそれを事実にしてしまうくらい造作もないこと。お引き受けいたします。その代わりに個人的には納得できないことであっても目を瞑ってください」

 

城戸はこうなることを承知していたようで、ツグミにすべてを任せることにした。

 

「よかろう。好きにやりなさい。しかしこれはできるだけ早い方がいい。おまえもいろいろ忙しいだろうがこの件を優先的にやってもらいたい」

 

「了解しました」

 

「では、おまえと迅はここまででいい。お疲れさんだった」

 

ここから先は幹部のみの会議で、迅やツグミですら足を踏み入れてはいけない()()の話し合いとなるようだ。

別に秘密会議の内容を知りたいとは思わないし、さっさと帰りたいのだから異論はない。

 

「わかりました。わたしはこれで失礼させていただきます」

 

ツグミは笑顔でそう言うとさっと席を立つ。

 

「じゃ、俺も」

 

迅もそう言ってから立ち上がり、ツグミと一緒に会議室を出て行った。

そして廊下に出て背後でドアが閉まると言う。

 

「ツグミ、これからちょっとデートをしよう」

 

「ええっ!? 今からですか?」

 

「そう。夕飯までには寮に戻るから2-3時間だけだが、行きたいところがあるんだ」

 

「ジンさんのお誘いなら断る理由なんてありませんし、むしろふたりだけになれるのなら大歓迎ですよ。でも合同訓練に参加する予定ではなかったんですか?」

 

「ああ、アレはサボる。それよりも重要なことだからこっちが優先だ」

 

「それならいいです」

 

「じゃ、行くか」

 

「はい!」

 

ふたりは地下駐車場まで直結の幹部・来賓客専用エレベーターに乗り、迅の運転する車で本部基地を出た。

 

 

 

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