ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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374話

 

 

射手(シューター)銃手(ガンナー)のポジション別合同訓練を見学し終えたツグミと忍田はツグミの隊室に戻って検討をすることにした。

忍田から手渡された資料も参考にして、ツグミは自分の抱いた感想を率直に述べる。

 

「この訓練はわたしが提案したことなのでこんなことを言うと自画自賛みたいで嫌なんですけど、想定していた以上に効果があったように感じています。やはりA級からC級までを一緒に訓練させたのは正解だったと思います。この資料によると入隊時に登録した武器(トリガー)から別のものに変更したC級が以前よりも増えているようです。これは正隊員と一緒に訓練していることで自分に合っているのか合っていないのか判断しやすくなったからだと考えられます。例えば射手(シューター)の場合は初めてだと通常弾(アステロイド)を選ぶことが多いですが、それは炸裂弾(メテオラ)変化弾(バイパー)追尾弾(ハウンド)の特性がまだ良くわからないからで、通常弾(アステロイド)が一番扱いやすいからという理由です。でも正隊員の先輩たちが自由自在にトリオンキューブを扱っているのを見て他の武器(トリガー)も試してみたいと思うようになり、武器(トリガー)変更の手続きも簡単になりましたから全部試してみて一番自分に合っているものを見付けられたのでしょう。以前は入隊時の登録の武器(トリガー)をずっと使い続けて、正隊員になって複数持ちができるようになるとそこでやっと別の武器(トリガー)が使えるようになる。だから訓練生でいる間は自分に向いているかどうかわからない武器(トリガー)をずっと使い続けることになるし、そのせいでいつまで経っても正隊員になれないということになってしまう。この合同訓練がきっかけとなり自分の武器(トリガー)の見直しができたことで正隊員になれる可能性が高くなるわけで、C級たちにとっては良い結果となったはずです」

 

「A級B級の正隊員にとってはどう思う?」

 

「彼らは自分の腕を磨くことには熱心で、後輩の面倒をみることはあまりありません。後輩に泣きつかれて渋々指導してやったり、知り合いから紹介されたから指導をするというケースはあります。自分と同格か格上の正隊員同士隊員での模擬戦はするんですけど、訓練生たちとの接点はあまりありませんから基本からやり直すようなことは滅多にないです。でも後輩たちと一緒に戦闘訓練をしていて自分を慕って指導をしてくれと頼まれたら嫌だと言えませんし、なによりもこれまで接点のなかった後輩ではなく、何度も味方や敵になって一緒に戦った()()ですから親身になって指導してやったはず。そうするとベテランの正隊員でも基本からもう一度やり直すことになり、本人にとっても復習的な意味合いを持つものとなります。何年もやっていると自分が訓練生だった時のことを忘れがちで、こうして初心に戻ってみると改めてわかることがあるものです。それはこの資料やさっき見た訓練だけではわかりませんが、少なくともこれまで後輩の指導をしたことのなかった正隊員にとって良い刺激となったはずです」

 

「なるほどな…。それで9月以降の訓練についてはどうしたらいいと思う?」

 

「二学期が始まりますし、B級ランク戦も行われますからB級隊員にとっては非常に多忙になるでしょう。それにA級隊員の一部は遠征のための訓練がメインになりますので、防衛任務のローテーションもB級中心になるのは仕方がありません。そこで合同訓練については回数を減らすこと、またこれまでのような強制をしないルールにすることで続けるしかないですね。学業とB級ランク戦に影響のない日曜日を中心とし、週2回だったものを月2回までに減らすのが限界でしょう」

 

「やはりそうするしかないだろうな。中止にしてしまえばせっかく訓練生が正隊員と戦う機会を得たというのに、これから入隊する新人にはその恩恵が受けられなくなってしまう。月1-2回でも交流する機会を与えることで訓練生のやる気をアップさせる効果があるのは明らかだ。それでC級の正隊員昇格については何かアイデアはあるか?」

 

「以前にも言いましたが訓練生同士で戦わせてポイントの奪い合いをしている()()ではあと少しで4000ポイントになるという訓練生だといつまで経っても手が届きません。レベルの高い者同士がお互いに潰し合いをしているようなものですから。ですから正隊員との模擬戦を可能とし、ポイントの移動の有無は別としても一定の戦闘能力を見せることができたのならそれを評価するというのもアリです。または月1回か2回昇格試験を行うという手もあります。例えば訓練生が正隊員を指名して一対一の模擬戦を行い、その勝敗だけでなくその戦闘スタイルやダメージの大小、その他いろいろな点を試験官が審査して合否を決めるというのはどうでしょう? とにかく従来よりも昇格のチャンスを多く与え、それを活かすことのできる訓練生は早めに正隊員にして現場に投入する。逆にチャンスを与えてもダメな訓練生にはさっさと引導を渡すことも重要です。毎月新人が入隊してくるんですから、可能性のない者ややる気のない者はさっさと()()べきです。以前の三雲隊員のように入隊して半年以上も何もせずにグダグダしているようではトリガーの無駄遣いで、入隊さえしてしまえば問題を起こさない限りボーダー隊員でいられるという怠惰なシステムがこのような訓練生を生み出してしまったのです。9月になったら…と言ってももう時間はあまりありませんから早くどのような体制にするのかを決めなければ隊員たちの士気にも影響するでしょう。本部長としてお忙しい立場なのは良く理解しております。ですからわたしにできることは丸投げしてもかまいません。もちろん最終的な判断は本部長に委ね、責任は取ってもらいますけどね」

 

「うむ…」

 

ボーダーの現行システムに対して歯に衣着せぬ物言いができる隊員はツグミくらいなもので、それも旧体制の時代からずっと見てきたからというだけでなく、それが必要なことであると判断をしたなら遠慮せずに城戸や忍田といった上司にでも進言できる勇気があるからだ。

それは非常に頼もしいし、大きな組織になればなるほど必要となる人材である。

旧ボーダー時代からの隊員ならレイジや小南たちもいるが、彼らは戦闘員としては優秀だが()()()()の人間でしかない。

それに近界民(ネイバー)にもいいヤツはいるから仲良くしようという考えの玉狛支部のメンバーだが、単に近界民(ネイバー)を受け入れているだけで積極的に交流しようという行動は見られない。

ヒュースを保護したのも迅の未来視(サイドエフェクト)によっていずれ役に立つことがわかったから()()受け入れただけである。

一方、ツグミがゼノン隊の3人を受け入れたのはお互いに腹を割って話しをすれば妥協点が見付かると考えたからで、最初から彼らを利用しようとして篭絡したのではないのだ。

したがって「近界民(ネイバー)にもいいヤツはいるから仲良くしよう」の精神を体現しているのは今のところツグミだけで、彼女の強い意思を知ったから城戸は彼女にやりたいようにさせているのである。

忍田もツグミのことを娘だと思うと危険なことはさせたくはないのだが、ボーダー本部長としては彼女の意見に耳を傾けてボーダーのためになるのならやらせるという複雑な気持ちでいた。

だから城戸は自分がツグミの直属の上司となることで忍田を介入させずに直接命令できるようにし、彼女の自由意思に任せることにしたのだった。

いずれは戦闘員ではなく運営側の人間に引っ張り込もうと考えていた城戸だが、エウクラートンの女王後継問題の件もあってそれが難しいと思うようになっていたことをツグミ本人は知らない。

そんなツグミの意見は的を射ていて、忍田もそれを参考にするのは至極当然である。

 

「わかった。しかしおまえも ──」

 

「わたしも忙しいのだから無理をするなと言いたいようですけど、わたしは無理なんてしていませんよ。普通の人には大変なことであってもわたしには容易いことで、全然無理なんてしていないんです。毎日10キロのジョギングをしている人間と普段から何も運動をしていない人間がいたとして、前者ならフルマラソンだって不可能ではありませんが、後者であったら絶対に無茶をするなと止めるでしょ? それと同じようなものです。わたしにはいろいろなことを考えることが苦痛ではありませんし、むしろ未来が良いものになるのであれば楽しいとさえ思えます。いくつかの事柄を並行して考えることも難しいとは思いません。だから心配は無用です。それにもし今の心配が父親の娘に対するものだったとしたらそれは迷惑です」

 

「迷惑って…」

 

「だってボーダー活動の最中はプライベートを持ち込まないという約束だったはずです。わたしだって目の前にいるのが真史叔父さんだと考えるとすごく申し訳ないと思ってしまいます。父親が娘のことを心配するのは当然だというのに、わたしは親孝行よりもボーダー活動を優先して近界(ネイバーフッド)に行ってばかりの放蕩娘です。でもわたしは未来の幸せのために今できることを全力でやっているだけで、今を犠牲にしているとは思っていません。まあ、犠牲にしているとすればそれはあと数年しか残っていない忍田ツグミとしての人生ですね。ボーダーでは霧科姓を名乗っていますし、なによりも父親のそばにいることのできる貴重な時間を自ら捨ててしまっているんですから。…でもわたしは何年経っても忍田真史の娘であり、あなたのことが世界で一番大好きなことは永遠に変わりません。それだけは覚えておいてください」

 

忍田は自分がボーダー本部長と父親というふたつの立場で辛いと感じていたが、ツグミもまたボーダー隊員と娘という立場の狭間で胸を痛めていたのだと知った。

 

(そうだった…。人間は誰でも幸せな未来のために今を生きている。学生だった頃、私は勉強するのが嫌で我慢をしながら通っていた。しかしそれは無駄ではなく、あの時の経験があるからこそ今を生きていられるのだ。過去を思い返すことができるから、やっておいて良かったとか、あの時にやっておくべきだったと判断することができる。しかしツグミは未来を想像して今できることを考えながら行動している。過去の私は自分の未来を想像などできずにいた。だから勉強するのも苦痛で、それが未来への投資になるなんて考えもしなかった。思考の基本が我々と大きく違うから理解し難い部分がある。私にとってボーダーの活動は今現在の近界民(ネイバー)による市民への危害を抑えるものだが、この子は近界民(ネイバー)が悪意を持ってこちら側の世界に来ることがない平和な未来を脳裏に描いていて、そのために行動しているのだ。私もこの子も今を精一杯生きているが私は今を維持するのが限界で、この子のように未来のことまで考えて行動するには至らなかった。迅ではないが未来は無限に存在する。その中から最善の未来を選ぶために今やれることをやり、最も正しいと思われる選択肢を選んでいる。ならば私はその邪魔をしてはならない。父親である部分を多少犠牲にしてもそれが娘の幸せにつながるのであればそれこそが私にとって最善の未来と呼べるものになるのだ。今を大事にし過ぎて未来のことを蔑ろにしていてはいずれ後悔することにもなろう。しかし今を悔いなく生きることができたなら、後になってあの時ああしておけば良かったなど思い返すことはない。やらずに後悔するよりやって後悔する方が良いなんて言う言葉もあるが、結局のところ最初から後悔しないように生きていけばいいことで、この子はそれをやっているだけ。そのためには柔軟な思考力と広い視野は欠かせない。そしてこの子が織羽から受け継いだ思考力を元にし、多くの近界民(ネイバー)と交流することで視野を広くしている。それが自然体のこの子にとって苦痛ではないのは当然か)

 

忍田がそんなことを考えている心の中が読めたのか、ツグミは彼女らしい解説をした。

 

「中島敦の作品に『光と風と夢』というものがあり、その中にわたしの好きな言葉があります。『頭は間違うことがあっても、血は間違わないものであること。仮令(たとえ)一見して間違ったように見えても、結局は、それが真の自己にとって最も忠実且つ賢明なコースをとらせているのであること』『我々の中にある我々の知らないものは、我々以上に賢いのだ』という部分です。理屈で考えたことは間違っている時があっても本能的に感じたことに間違いはないという意味だと思います。それは本能は理性よりも賢く、そして自分を正しく導いてくれるということで、わたしはその本能に従って行動している部分が多いです。ゼノン隊の3人だって()でこの人たちは信頼できると判断したのですし、いくら頭で考えても正しいと思われる答えが出ない場合は自分がやりたいと思うことをやるようにしています。他にも『昔、私は、自分のした事に就いて後悔したことはなかった。しなかった事に就いてのみ、何時も後悔を感じていた』という言葉もあるのですが、後悔なんてものはせずに済ませるのが一番いいに決まっているとわたしは声を大にして言いたい。だからわたしは今考え、行動し、未来にその答えが正しいものだったと言えるように努力しているんです」

 

「……」

 

「ジンさんが確定した未来しか視えなくなったといってもそれは一時的なものかもしれませんし、未来視(サイドエフェクト)でわたしが近界(ネイバーフッド)で死ぬなんて未来が視えたら絶対に止めてくれるでしょう。近界(ネイバーフッド)で危険な目に遭うようなことがあればリヌスさんが必ず守ってくれます。エウクラートンの女王後継問題だってわたしが女王になってもそれは一時的なものとして済ませることはできます。だってあの国では最終決定権が女王にあるんですから女王がNOと言えばNOとなり、わたしが神官としての役目を終わらせてしまえば女王なんてものは不要になります。どんなに遠回りしても必ずわたしは家族のいる『(ここ)』に戻って来ますから心配しなくても大丈夫ですよ。そしてそれまで疎かにしていた分も親孝行しますから楽しみにしていてください」

 

「ああ、そうしよう」

 

忍田の安らかな表情に安心したツグミ。

 

「じゃあ、いつになるかわからない親孝行の利息分を払いたいと思います。明日はお弁当を作って持って来ますので、ここで一緒にお昼ご飯を食べる…というのはどうでしょう? もちろんダシ巻き玉子も入れますよ」

 

ツグミが気を遣ってくれていることは十分承知していて、忍田は嬉しそうに微笑みながら言った。

 

「それは楽しみだ。明日は珍しく会議も面会の予定もない。昼食もここ最近はずっと仕出し弁当や食堂で簡単に済ませてばかりだったから嬉しいよ」

 

「では明日の一二〇〇時から一三〇〇時までの1時間、忍田本部長のお時間をいただきます」

 

「この弁当へ父親への差し入れじゃないのか?」

 

「いいえ。部下から上司への陣中見舞いです。もし娘からの差し入れを期待しているのなら丸一日休暇を取ってからにしてください。その時にもお弁当を作りますから、一緒にどこかへ遊びに行きましょう」

 

ここでも公私をハッキリさせようというツグミの一貫とした態度に苦笑する忍田だが、それでも満足で十分嬉しかった。

 

「ところで昨日から気になっていたんだが、おまえの着けているチョーカーの石がサファイアのように見える。そんな大きな石のアクセサリーなんて誰から貰ったんだ?」

 

白地の布に金色の糸で刺繍したリボンに紺色の石が付いたチョーカー。

このことはまだ忍田には話していなかった。

 

「これはエウクラートンの王家の人間が身に着ける『トリガー』です」

 

「トリガーだって?」

 

「はい。エウクラートンの王家の人間は(マザー)トリガーを管理するという重要な役割を担う一族ですから、不慮の事故などで死亡してしまうと取り返しのつかないことになってしまいます。そこでこのような石を常に身に着けておくんです。女性ならティアラやネックレス、チョーカーなど大きめの石でも問題のないアクセサリー、男性はブローチや腕輪にすることが多いですね。そしてこの石は天然石ではなくトリオンでできていて、持ち主の生命に危険が及ぶと自動的に起動してトリオン体に換装することで身を守るんです。わたしがエウクラートンの議会に出席してそれがお披露目になったわけですが、その時には正装をしてティアラにこれと同じ石が付いたものを着用しました。そうだ、その時の写真がありますけど見ます?」

 

ツグミはそう言ってノートPCの画像フォルダ「エウクラートン」に入っている正装した姿でリベラートとふたりで並んで撮影した写真を見せた。

そこに写っている彼女の姿は神々しく、白を基調としたドレスを着ているものだから忍田はそれが花嫁衣裳に見えてしまった。

 

「この衣裳は女王陛下の若い頃のものなんですけど、このティアラにこれと同じ石が付いているのがわかりますか? このチョーカーはリベラート殿下がわたしの身を案じて急いで作らせたものなんだそうです。これさえあれば交通事故のような不慮の事故や災害で死ぬようなことはありませんから安心してください。…もし近界(ネイバーフッド)との交流が民間人にも認められるようになればこうしたトリオン体に換装するだけのトリガーを作って子供たちに持たせれば交通事故で死ぬこともなくなりますし、消防や自衛隊の隊員が持てば被災地での救助や支援活動にも便利だと思いませんか? もっともこういったものがあると悪用する人間が現れるのは想像できるんですよね。悪用されない手段も考えなければならないという面倒なことをしなくてもいい優しい世界になってくれたらいいのにって思っています」

 

ツグミはすべて「自分のためにやっていること」と言って利己主義者を装っているが、誰かが自分の利益を得るために他人に犠牲を強いるのであればそれを許すことはできないという正義感も持っていて、自分もその例外ではないから自分が幸せを得るために誰かを犠牲にはできないと考える。

誰もが自分と同じように幸せになれる世界を望んでいるから結果的に大勢の人間のために働いているように見えるのだ。

その「誰も」が近界民(ネイバー)を含むもので、過去に織羽が目指した「夢」を娘であるツグミが実現させようとしている。

城戸や忍田たちが諦めてしまった道をひとりで歩き始めた彼女だったが今では多くの仲間が共に歩いてくれていて、それが彼女の「成長」だと思うと忍田は嬉しいと同時に自分たちの無力さに幻滅してしまう。

 

(これまでボーダー(私たち)近界民(ネイバー)から市民を守ることで精一杯になり、襲撃してくる近界民(ネイバー)を敵とみなして戦うことしかできなかった。林藤は()()()()()近界民(ネイバー)とは手を組んでいるがそれも受動的であって、ツグミのように積極的に動いて()()にすることまではしない。結局近界民(ネイバー)に心を許すまでには至っていないのだ。そのことを私がとやかく言う資格はない。ならばせめてこの子の夢を応援してやることで織羽の遺志を引き継ごうじゃないか)

 

忍田も全世界の人間の幸せなど望んではいない。

ただ愛娘の夢を叶えてやりたいだけなのだが、それが結果的に三門市民だけでなく近界民(ネイバー)すら平和な世界へ導こうとする一助となるのだ。

 

「ツグミ、私はおまえの気持ちを理解したつもりでいた。しかしボーダー本部長の私とおまえの父親としての私で温度差があり、父親としての私が私情を挟むことでおまえに対して無用なストレスを与えてしまっていたようだ。父親なのだから心配するのは当然だ、口うるさく言うのも無理からぬことだと自分を正当化していたが、おまえを信頼してすべてを任せることにした城戸さんの方がずっと父親らしいと感じた。あの人はボーダーの総司令官の立場でボーダーの利益を考えて行動しているようにしか見えないが、心の底ではすべての隊員たちのことを常に気に留めていて彼らの安全を第一に考えている。あの遠征の際に自分の不甲斐なさに深く傷つき、二度と同じ過ちは繰り返さないと決心した姿はおまえのそれと同じだ。すべての隊員の上司であり、同時に父親として毅然と立ち向かうあの人を私は見習うべきだとわかった」

 

「……」

 

「おまえがどこで何をしていても私がおまえの父親である事実は変わらない。おまえが私のことを唯一絶対の存在だと考えて愛してくれているのだから、私はおまえを信じて好きにさせてやることでその気持ちに報いるべきだ。今おまえが近界(ネイバーフッド)へ度々赴いてキオンやエウクラートンとの良好な関係を結ぼうとしているのだからそれを全力で応援しよう。それでも父親として心配する気持ちをゼロにすることはできないが、それの何倍もの期待を抱いているのは事実。ならば少しだけ我慢をしておまえの夢を叶えることを優先しなければいけない。おまえはやりたいことを遠慮なくやれ。私はボーダーの本部長として自分に与えられた役目を果たす。別々のことをやっているようだが、ふたりとも同じ未来を目指して別の道を歩いているだけで必ず同じ場所に着くのだからな」

 

そして最後に忍田は言った。

 

「私はおまえが私の娘となってくれたことを心から感謝している。ありがとう」

 

その言葉にツグミは目頭が熱くなり、その両目から涙が溢れてきた。

 

「わたしも忍田真史の娘になれて幸せです」

 

ツグミと同じく涙ぐむ忍田。

いつか自分の手を離れて迅と手をつないで長い人生と共に歩いて行くことになるだろうが、父と娘であることは永遠に変わらないのだという自信が持てた瞬間だった。

 

 

 

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