ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

397 / 697
378話

智史の退院は予定よりも早い9月6日となった。

栄養失調で衰弱していたが最初の2日間が点滴のみで、3日目からは普通の食事ができるようになったのは若くて体力があったからかもしれない。

そこで三門ケーブルテレビで放映されている「こちらボーダー広報室」の内容を急遽変更して生放送で彼の生還報告を行うことに決まった。

記者会見を行う場合はマスコミを前にして本人に喋らせることになり質問にも答えなければならないのだが、これをテレビ局のスタジオからの放映にすることで本人とボーダー関係者数人とテレビ局のスタッフという必要最小限の人員で済むのでストレスを与えにくいという理由だ。

しかしそれは表向きで、本当はマスコミから都合の悪い質問をされた時に素人の智史が上手く受け答えできないからというものである。

さらに今後本人が日常生活に戻ると周囲の人間から好奇の目で見られるだろうし、しばらくの間はマスコミに追いかけられる可能性があるとして名前は仮名で本人とわからないようにして登場することにもなっている。

なにしろ近界(ネイバーフッド)から5年ぶりに生還した英雄なのだから、ボーダーにとって都合の悪い近界民(ネイバー)の情報を漏らされても困るため、彼にはボーダーの保養所でしばらく生活してもらうことになっている。

彼は17歳で本来なら高校3年になっているはずなのだが中学1年で彼の時間はストップしてしまっているので、その5年分の補完をしなければならない。

そこは彼の家族と相談して普通の17歳の少年として生きていくことができるようにボーダーのサポートを受けることになった。

生活の面倒をボーダーが全部引き受けて普通の生活に戻れるようにするから、家族にはこの件について誰にも言わないでいてくれという密約を結んでいる。

今はたったひとりの奇跡の生還者ということで大騒ぎになるだろうが、いずれ遠征で救出作戦を決行して何人もの市民が帰還するだろうから、その中に混ぜてしまうことで自然に三門市民としての暮らしに馴染むことができるだろうというシナリオである。

希望があれば家族揃って三門市からの転居も手伝う準備があるとも伝えてある。

やはりこれもツグミの提案で、近界民(ネイバー)に協力者がいることを公式発表するための布石として利用しようと考えていて、智史の帰還はちょうど良いタイミングであったのだ。

 

 

◆◆◆

 

 

7日の午後8時、「こちらボーダー広報室」の生放送が始まった。

前もって重要な内容であることを新聞等で告知しており、繁華街の街頭モニターや飲食店で設置しているテレビも可能な限り三門ケーブルテレビにチャンネルを合わせるよう依頼してあるため、三門市民の多くがテレビモニターの前で開始時間を待っていたのだった。

 

 

「みなさん、こんばんは。『こちらボーダー広報室』、本日は内容を変更して生放送でお届けしています」

 

根付の司会で始まった番組だが、彼の表情や急遽内容を変更していることなどから重大な発表があるものだと視聴者の誰もが感じ取っていた。

そして画面は切り替わり、スタジオの中央やや上手側の位置にある長テーブルの席には中央に城戸、その左に忍田、城戸の右にはツグミ、そして迅の4人が並んでいる。

以前にツグミと迅は人類初の近界(ネイバーフッド)往還に成功したという内容の番組で出演しているので、遠征に関する新しい情報に違いないと考える視聴者は多いはずだ。

しかし続いて忍田の左側、つまり下手側にはすりガラスで囲まれたブースがあって、そこには正体不明の人物がふたり座っている。

テレビ局のスタッフと、下手に根付が不安そうな顔でいるだけなのでスタジオ内はしんと静まり返っていた。

 

「ただ今から5年前の6月に発生した第一次近界民(ネイバー)侵攻で行方不明になっていた市民が生還したことを報告いたします」

 

忍田が淡々と言う。

もしこれが記者会見の場であったなら、そこにいたマスコミや見学していた市民たちから驚きの声が上がったことだろう。

いや、モニター越しに彼の言葉を聞いていた視聴者はその場で大きな声を上げたはずだ。

 

「彼は現在17歳、本人の希望で氏名と顔を伏せさせていただきますので、Aくんと呼ばせてもらいます」

 

忍田がそう智史を紹介すると、すりガラスのブースの中の智史が立ち上がって礼をした。

 

「そして彼と同じブースに入っている青年がAくんを保護して三門市まで連れて来てくれた近界民(ネイバー)、メノエイデスのウェルスさんです」

 

たぶん智史の生還を告げた時よりも視聴者は驚いたのではないだろうか。

姿こそハッキリとは見えないが、そこには市民にとって初めて目にする人型近界民(ネイバー)がいるのだから。

近界民(ネイバー)は悪である」と考えるのが当然の三門市民にとってこれはショックを受けていることだろう。

「悪」の存在が行方不明だった少年を送り届けてくれたと言うのだから、早くどういう状況だったのか知りたがっているはずである。

 

「ウェルスさんは5年前の6月と今年の1月に三門市を蹂躙した国の近界民(ネイバー)ではありません。彼は我々が本年5月に人類初の近界(ネイバーフッド)往還に成功した際にここにいる霧科隊員と迅隊員のふたりが出会った人型近界民(ネイバー)で、アフトクラトル遠征にも多大な協力をしてくださいました」

 

ブースの中で()()()()()()リヌスが立ち上がって一礼する。

本物のウェルスは2日前に艇の貨物室に大量の「土産」を積み込んでメノエイデスに帰還していて、リヌスが彼の身代わりになって出演することになったのだ。

それにボーダーが…と言うよりもツグミが考えたシナリオに沿って上手く受け答えできるのがリヌスだったわけで、当初の記者会見よりも少しだけ早く人型近界民(ネイバー)の中にボーダーの協力者がいることを発表するために「メノエイデスのウェルス」という実在の人物を利用させてもらった。

リヌス自身は三門市での生活に馴染んでいて顔見知りもいることだから素顔は出せないため、智史と一緒に顔が見えない状態で出演しているのである。

 

「市民のみなさんも早く事情を知りたいと思っていらっしゃるでしょうから、さっそくご説明いたします。なおAくんは昨日退院したばかりで体調がまだ万全ではありませんので、途中で具合が悪くなった時には退出することもありえますのでご了承ください」

 

忍田は智史から聞いた話を元にツグミが書き上げた「いかにも真実っぽい大嘘」を真剣な顔をしながら説明した。

 

「Aくんは第一次近界民(ネイバー)において正体不明の国の捕獲用トリオン兵によって拉致されてしまいました。彼と同様の約100人の市民が1ヶ所に集められ、その場でなんからの根拠によって選別されて30人と70人のグループに分けられました。彼は30人のグループに入り、約80日間にわたって我々ボーダー隊員のようなトリガー使いの訓練を受けさせられ、レプトという国に売られたということです。そのレプトという国は隣国のヒエムスという国と戦争を続けており、彼はその戦争で約3年間兵士として戦わされたのでした。そしてレプトが負け、彼は捕虜としてヒエムスに連行され、そこで肉体労働に従事させられました。1年ほどは我慢したそうですが、彼はヒエムスでの生活に耐えられなくなり逃亡を図りました。そして近界(ネイバーフッド)の国々を旅して交易をしている老商人と出会い、比較的治安が良く玄界(ミデン)に一番近いメノエイデスまで連れて行ってもらうことになり、メノエイデスの交易港で下ろしてもらいました。しかしその先をどうしようか悩んでいるうちに森の中で迷い、うっかり崖下に落ちて大怪我を負ってしまいました。動けずにいて衰弱していたところを運良くウェルスさんに発見されました。このウェルスさんというのがボーダーと縁のある方でしたので、わざわざ三門市まで送り届けてくれたのです」

 

ここまで一気に説明し、智史本人の口から辛い体験を語ってもらうことにした。

当然のことながら声もボイスチェンジャーを使用して個人を特定させないようにしている。

 

「5年前、僕は友人の家で遊ぶ約束をしていました。家を出てすぐに突然怪物に襲われて意識を失い、気が付いた時には近界(ネイバーフッド)のどこかにいたんです。同じ境遇の人が100人ほどいましたので不安ではありましたが、それほど怖いとは思いませんでした。しかし30人のグループに入れられた時、なんとも言えない嫌な予感がしました。その予感は当たりました。それから学生寮のような場所に住まわされて武器(トリガー)を使う訓練をさせられたんです。その訓練自体は辛いものではありませんでしたが、食事は朝と夜の2回だけで、不味いだけでなく量が少なかったので僕だけでなく一緒に訓練を受けていた仲間たちの間でも不満が高まっていました。そのうちに訓練で優秀な成績だった人からひとりふたりといなくなり、自分の番が回ってきた時に初めて他の人たちもどこかの国に売られたのだと知りました。ここまでの間ずっと僕たちをさらった国の名称は出てきませんでした。それはこの国が人身売買を行っている国であり、正体がバレないようにあえて誰も口にしなかったから知る方法がなかったんです。…そしてレプトという国で約3年間兵士として戦うことになりました。その3年間ですが最初の1年間は孤独に耐えて近界(ネイバーフッド)の生活に慣れるのが精一杯で、2年目はレプト側に有利な戦況だったので意外に楽しい…ではなくやり甲斐のある日々を過ごしました。ですが3年目の後半は敵のヒエムスに押されっぱなしで、最後にはレプトが負けてヒエムスに降伏し、僕やレプトのトリガー使いの多くはヒエムスに捕虜として連行されたんです。そこで僕は近界(ネイバーフッド)ではなぜ戦争が絶えないのかを知りました」

 

ここから先はボーダーがまだ公開していない重要な秘密の「告白」となる。

 

近界(ネイバーフッド)ではトリオンという人間由来のエネルギーを使用した文明が発達していて、戦争をするのはそのトリオンを生み出す人間を奪い合うためです。戦争をして勝つためにには大勢の兵士が必要であり、トリオンもそれだけ必要になります。だからこちら側の世界…連中は玄界(ミデン)と呼んでいますが、玄界(ミデン)にやって来て僕たちのような若者を拉致して兵士に育てるんです。僕たちをさらった国は自国の戦争のためではなく人身売買をするために拉致し、トリガー使いとして即戦力になるとどこかの国に売り払う。その方が価値が上がって高く売れるからです。たぶんさらわれた市民の多くが僕と同じようにトリガー使いとしてどこかの国で戦わされているに違いありません。戦争に投入されるのですから過酷な毎日を強いられていることになりますが、兵士として戦える限りは大事に扱われます。近界民(ネイバー)の戦争はトリオン体という戦闘専用の身体で戦いますので死ぬことは滅多にありません。ですからまだ生きている可能性は高いと僕は確信しています。ウェルスさんがボーダーの人と知り合いだったのは僕にとってラッキーでした。もしボーダーがもっと多くの国と友好的な関係を持つことができればそれだけさらわれた市民が無事に帰って来る可能性が高くなると個人的には考えています。僕以外のさらわれた市民がどこにいるのかはまだわかりませんから時間はかかると思いますが、ボーダーには一日でも早く市民の救出をしてもらって僕のようにまた三門市での生活ができるようにしてもらいたいと心から願っています」

 

智史の発言はここでおしまいである。

ここまでは彼自身が経験し、現地で知った情報を本人の口から喋らせただけなのだが、近界(ネイバーフッド)から侵略者がやって来るのは戦争に使う兵士を拉致するためという「真実」をボーダーではなく経験者自らが語るという方法で伝えた。

ボーダーはとっくの昔に知っていて隠していたことだがそれを()()()()()()ことにして、なお彼がその重大な情報をボーダーにもたらしたのだということに偽装できるのだ。

もちろんこれだけではこれまでのボーダー活動で不明な部分を全部説明できるはずがないので、いずれ城戸が正式に記者会見を行うことなる。

しかしこの放送を先に見ている市民は城戸の事実と嘘を上手く織り交ぜた言葉を「真実」だと信じ込むようになるわけだ。

「今にして思えばあの時の()()はこういう意味だったのか」ということにして誤魔化すことにすれば、保護した記憶喪失の青年・オリバがこちら側の世界の人間ではなく近界民(ネイバー)だったのかもしれない、また彼の持っていたものが近界民(ネイバー)の使う武器(トリガー)であったという「今となっては確認できない事実」として発表することもできる。

そして記者会見のシナリオも完成しているので、あとは城戸がどれだけ見事な()()を見せてくれるかで成功かどうかが決まるというもの。

よって今日の主役は智史とウェルスを演じているリヌスで、忍田がこのふたりを上手く導いてくれたなら記者会見自体の半分が成功したようなものとなるだろう。

 

 

 

 

ここで番組は一旦CMとなり、1分後のBパートでは「メノエイデスのウェルス」が智史を保護した時のことだけでなくツグミたちと出会った時のことを話すことになる。

 

「ここからは我々ボーダーが初めて遭遇した近界民(ネイバー)であるウェルスさんからお話をうかがいたいと思います」

 

忍田の合図でリヌスが話を始める。

もちろん彼の声もボイスチェンジャーで変えてあるから彼のことを知っている人間でも気が付くことはないだろう。

ブースの中でリヌスはマイクを握ると挨拶をした。

 

「この番組を見ている三門市民のみなさん、初めまして。私は近界(ネイバーフッド)にあるメノエイデスという国のウェルスといいます。つまりみなさんから見れば異世界から来た近界民(ネイバー)と呼ばれる人間のひとりです。でも心配しないでください。私の国は他国と戦争をしてはいませんから、みなさんの同胞をさらうようなこともしていません。それだけは信じて私の話を聞いてください」

 

そう前置きをしてから、捏造したツグミたちとの出会いについて話を始めた。

 

「メノエイデスは近界(ネイバーフッド)の中でこの国から最も近い場所にある人口が80万人ほどの小国です。豊かでもなく貧しくもない国で、私は13歳で軍人になり10年経ちますが戦争で戦ったことはありません。それは他の戦争ばかりしている国から見れば価値のない国だからでしょう。ですからこちらから戦いを仕掛けなければ戦争にはならないのです。それでも万が一の時を考えて軍が存在し、私は首都郊外の村に住んでいて定期的に警らをしています。ボーダーのキリシナ・ツグミさんとジン・ユウイチさんに出会ったのは偶然のことでした」

 

ここでリヌスは小休止してから話を続けた。

 

「私には15歳の妹がいます。彼女が森の中でキノコ採集をしている時に熊に襲われ、そこに居合わせたふたりが熊を倒して妹を助けてくれたのです。ふたりは妹の命の恩人で、そのお礼に私は家に招きました。そこでふたりが玄界(ミデン)の人間であることや、アフトクラトルの侵攻でさらわれた仲間を救出する作戦のために勇気ある行動をしていたことを知りました。妹の恩人だからというだけでなく、私はアフトクラトルの暴虐の限りを尽くすやり方が許せずにいましたからボーダーに協力することにしたのです。私は軍の規則に反しない範囲で近界(ネイバーフッド)の情報を教えました。その後、アフトクラトルと戦って仲間を救出することに成功したという報告とお礼をいただきました」

 

リヌスが話を終えると、ツグミが忍田からマイクを受け取ってその続きを話した。

 

「わたしたちが初めて出会った近界民(ネイバー)がウェルスさんであったことは非常に幸運でした。もし好戦的な人間であったなら、その時にわたしと迅隊員は捕われていたかもしれないからです。しかし会話という手段でお互いの立場や考え方を伝えることができる人間でしたから、わたしたちは貴重な近界(ネイバーフッド)の情報を入手し、アフトクラトルまでの航路も予定よりも早く確定できたので遠征部隊の本隊を送り込むことができたのです。わたしたちにとって一部の近界民(ネイバー)は侵略者で、ボーダーはそんな奴らから三門市民を守るために存在していますが、多くの近界民(ネイバー)はわたしたちと同じように家族や親しい友人たちと一緒に穏やかな日々を過ごすことを願って生きている優しい人たちなのだとわたしは信じています。もしアフトクラトルが再び三門市に災いをもたらそうとしても、こうして力を貸してくれる近界民(ネイバー)がいると思うととても力強いですし、遠征艇で約3日の距離にあるお隣さんですから、()()()()()これからも仲良くしていきたいと思っています」

 

続いて迅が話す。

 

「俺も近界民(ネイバー)って言えばあの怪物みたいなトリオン兵だとばかり考えていたから、ウェルスさんみたいな人間がいたんだと知って驚きました。でも考えてみたらそれって当たり前のことなんじゃないかって。だって俺たちが使っている武器(トリガー)、アレの元になったものはかなり昔に城戸司令たちが偶然に手に入れたものだそうで、近界(ネイバーフッド)なんて言う異世界の存在なんて知りませんでしたから、その当時はこちら側の世界のどこかの国の軍事兵器を開発している秘密組織から流出したものじゃないかって考えていたそうなんです。でもそれが近界(ネイバーフッド)の技術だと考えれば腑に落ちるんですよ。近界民(ネイバー)が人間だから、俺たちのような人間が使えるタイプの武器であったと。俺たちは昔のことを知りませんから、特に何の疑問も持たずに与えられた武器(トリガー)を使って近界民(ネイバー)と戦ってきました。…でもそれだって三門市に攻め込んで来た連中を追い払ったり倒したりするばかりで、アフトクラトル遠征のように敵地に乗り込んで戦うことはありませんでした。現在進行中の『三門市民救出計画』では敵地へ乗り込んで市民を救出するという前回のアフトクラトル遠征と同じような厳しい戦いを強いられます。したがってこれまで以上に味方となる近界民(ネイバー)を増やしていかなければならないでしょう。俺はこれからも積極的に近界(ネイバーフッド)へ行って、ウェルスさんのような協力者を集めるつもりでいます」

 

迅も「俺たちは上官から渡された武器(トリガー)を使って戦っていて、それ以上のことは何も知らされていなかった」ということにし、責任を城戸たちに押し付ける発言をした。

これで事情を何も知らない民間人はもちろんのこと、ボーダー隊員の中でも第一次近界民(ネイバー)侵攻後の新体制になってから入隊した隊員たちも「旧ボーダーメンバーでも城戸や忍田たち上層部メンバー以外の隊員たちは詳しいことを知らずに戦っていた」と思うようになるだろう。

そして「近界民(ネイバー)にもいい奴がいるから仲良くしよう」という玉狛支部の理念を本部所属の隊員や市民の意識にも刻んでいくことで「近界民(ネイバー)と仲良くするかはともかく協力してくれるのなら手を結ぼう」という気運を高めていこうというのである。

こうして「近界民(ネイバー)は悪である」というイメージを払拭し、一日も早い市民の救出作戦を行おうとしているボーダーが近界民(ネイバー)の手を借りてでも全力で成功させようとしている姿を見せておくことで、城戸の記者会見での発言に真実味が増し、近界民(ネイバー)を協力者として迎え入れる意思があるのだと思わせることができるのだ。

 

 

ここで時間切れとなり、番組はおしまいとなった。

これですべてが明らかになったわけではなく、まだ謎の多いボーダーという組織であるから、市民からもっと詳しい話が聞きたいという声が上がるのは間違いない。

その声が高まったところで満を持して城戸自らが記者会見を行ってボーダー創設からの話をするという流れになるのだ。

まさか生還した少年を含めて関係者が全員で茶番を演じているなどと考える者はほとんどおらず、いたとしてもそれが嘘であることを証明することができない。

そしてボーダーに疑いの目を向ける者が現れたとしたら、その時はまた別のシナリオができていてその人物を()()()()段取りはできている。

 

 

◆◆◆

 

 

番組放映終了直後からメディア対策室の「ご意見箱」には多くのメールが届いた。

この「ご意見箱」とは市民からの情報提供や意見・苦情等を受け付けるものだが、アフトクラトル遠征に出発するという記者会見後からは応援・激励のメッセージが寄せられるようになっていて、この放送を見てからは「一日も早い市民の救出を頼む」とか「協力してくれる近界民(ネイバー)なら仲良くしよう」などの声が目立つ。

当然のことながら「近界民(ネイバー)はすべて敵なのだから、敵の手を借りずにボーダーだけの力で市民を救出しろ」といった批判的なものも少なからずあるが、そういった意見を持つ者は第一次近界民(ネイバー)侵攻で家族を殺された遺族で、怒りの矛先を向ける相手が近界民(ネイバー)しかいないための八つ当たり的なものでしかないとわかっている。

死んでしまった人は戻らないが行方不明者として扱われている人はまだ戻って来る希望があって、だからこそ行方不明の約400人の市民の家族や友人たちは近界民(ネイバー)がどんな人間であっても救出作戦に協力してくれるのならかまわないということなのだ。

 

 

そしてアフトクラトルでは「神選び」が目前に迫っていた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。