ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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4話

 

 

翌日、早朝からの防衛任務を終えたツグミが玉狛支部に戻って来ると、ミーティングルームが妙に騒がしい。

何事かと思って顔を出すと、そこには修と遊真と千佳、そして栞と迅がいる。

さらに玉狛第1の木崎レイジ(きざきれいじ)、小南桐絵(こなみきりえ)、烏丸京介(からすまきょうすけ)の3人がおり、それぞれが勝手に自分の意見を言っているという感じである。

 

「何かあったんですか?」

 

ツグミが声をかけると、小南が立ち上がってつかつかとツグミに近寄って行った。

 

「ちょうどいいところに帰って来たわね、ツグミ。あんたも加わりなさい」

 

不機嫌そうな小南がツグミの腕を引っ張って自分の隣に座らせる。

 

「えーっと、コナミ先輩、どういう状況なのか説明してもらえますか?」

 

現在の状況はこうだった。

修たちは栞からボーダーに関する基本的な説明 ── 組織についてやトリガーの種類など ── を受け、その上でポジションをどうするかで話し合いをしていた。

そして遊真は攻撃手(アタッカー)、千佳は狙撃手(スナイパー)と決まったのだが、遊真と千佳がB級にならなければ話にならないので、来年1月8日の入隊日までに修を含めた3人を玉狛第1の先輩たちがマンツーマンで鍛えようということとなった。

問題は誰が誰の師匠になるかということなのだが、それ以前に小南は修たちが玉狛支部所属になること自体に不満があり、ツグミを自分の味方に引き入れようとしていた…ということなのだ。

 

「コナミ先輩には申し訳ないですけど、わたしはオサムくんたちが玉狛支部(ウチ)に来ることに大賛成なんです」

 

ツグミが当然とばかりに言うと、小南はますます不機嫌になった。

 

「この裏切り者ぉ!」

 

小南は背後からツグミの首を左腕で締め上げ、右手の拳で頭をボコボコ殴る。

といっても悪ふざけのレベルであり、少女ふたりがじゃれ合っているようにしか見えないのだが。

 

「イタタタ…待ってくださいよ! これは支部長(ボス)が決めたことだし、彼らが加わった方が玉狛支部(ここ)も賑やかになって楽しくなりそうじゃないですかー」

 

そう言うと、小南は急におとなしくなった。

幼い頃から林藤を慕っている小南にとって林藤の命令は絶対である。

 

支部長(ボス)の命令じゃ仕方ないわね…。わかったわ。やればいいんでしょ。でもそのかわり、こいつはあたしがもらうから」

 

小南はそう言うやいなや遊真をがしっと引き寄せた。

 

「見た感じ、あんたが一番強いんでしょ? あたし、弱いやつはキライなの」

 

「ほほう、お目が高い」

 

遊真は小南が師匠となることに不満はないようだ。

 

「じゃあ、千佳ちゃんはレイジさんだね。狙撃手(スナイパー)の経験があるのはレイジさんだけだから」

 

栞がそう言うと、レイジが待ったをかけた。

 

狙撃手(スナイパー)なら俺よりもツグミの方がいいんじゃないか?」

 

レイジは完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)といってもメインは攻撃手(アタッカー)銃手(ガンナー)である。

さらにツグミの()()()肩書きは狙撃手(スナイパー)で、狙撃用トリガー3種共に彼女の方がポイントは高いので、彼女を推すのは当然といえる。

 

「それもそうね。じゃ、ツグミちゃんにお願いしてもいい?」

 

栞がツグミに訊くが、ツグミは申し訳なさそうな顔で首を横に振った。

 

「ごめんなさい。わたしはレイジさんがチカちゃんの師匠になった方がいいと思います。なにしろわたしは城戸司令から睨まれていますから、わたしの弟子だということになれば不都合が生じてくるかもしれません。単にランク戦で勝ちたいとかA級になりたいというだけなら協力しますけど、遠征部隊を目指すならその障害となるものはできる限り避けるべきです」

 

そう答えると、事情を知っている面子は黙り込んだ。

逆に何も知らない修たちはツグミの顔を見る。

 

「城戸司令に睨まれているって…どういうことですか?」

 

修の疑問にツグミは答えることにした。

 

玉狛支部(ここ)のメンバーは全員知っていることだから、あなたたちにも知る権利はあるものね」

 

ツグミは2年前にあったことを話した。

当時、彼女は本部所属のA級隊員で、レイジと並ぶ完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)として活躍していた。

東春秋(あずまはるあき)を隊長とするA級1位東隊を「卒業」した彼女は自分が隊長となって部隊(チーム)を作るなんてことはまったく考えておらず、他の隊長からの勧誘も断り続け、無所属(フリー)のA級という立場でいた。

ひとりで小隊レベルの戦力があり、通常の防衛任務では何の支障もなかったからだ。

そんな中で遠征部隊が選出され、A級上位3部隊の他、無所属(フリー)のツグミも遠征部隊に参加することに決まった。

理由は簡単である。

彼女は戦闘員として十分に資格を有していたし、なによりも彼女の持つ豊富なトリオンは遠征艇のエネルギーとして役に立つからだ。

そして遠征に関しては大成功といえた。

近界(ネイバーフッド)のトリガーをいくつか鹵獲し、隊員も全員無事に帰還できたのだから。

しかし遠征中にツグミは隊務規定違反をした。

捕虜となった近界民(ネイバー)を連れて帰れという城戸の命令があったものの、こちら側に連れて来ればその近界民(ネイバー)は二度と母国に帰ることはできない。

捕虜の近界民(ネイバー)を哀れんだ彼女は、彼を逃がすという命令違反をしたのだった。

そしてツグミへ与えられた罰は謹慎1ヶ月とB級降格とポイント剥奪であった。

 

「本来ならクビになるはずだったんだけど、彼女を辞めさせないようにという嘆願書と隊員約3分の1の数の署名が提出されたものだから、城戸さんもそれを無碍にはできなかったんだよね。俺も彼女がボーダー辞めるの反対だったし」

 

迅が言う。

 

「ま、優秀な隊員を失うのが惜しかったから、城戸さんもクビ撤回を承知したんだと思うけど。で、城戸派の多い本部よりも玉狛支部(ここ)の方が居心地がよかろうと、林藤支部長(ボス)が彼女を呼んだってわけ」

 

「……」

 

ツグミが隊務規定違反で降格したということよりも、14歳で小隊レベルの戦力を持つ完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)であったという事実に修たちは驚いていた。

 

「そういうことだから、わたしは誰の師匠にもなれません。それに無名のわたしよりも、()()玉狛第1のメンバーが師匠となったと聞けば誰でも一目置くようになり、それが役に立つ時が必ず来るはずです。だからチカちゃんの師匠はレイジさんにお願いしたいです」

 

その意見には皆が納得していた。

 

「わかった。雨取のことは俺に任せろ」

 

「よろしくお願いします、木崎さん」

 

千佳がぺこりとお辞儀をする。

レイジと千佳の師弟コンビも良好な関係が結べそうだ。

 

「…となると、俺は必然的に…」

 

京介が修を見る。

 

「…よろしくお願いします」

 

修が申し訳なさそうな顔でぺこりと頭を下げた。

 

「俺はバイトが忙しいからあまり時間をとってやれそうにないが、それでも構わないか?」

 

実家が貧乏で弟妹が4人もいる京介はボーダーの仕事以外にも複数のアルバイトを掛け持ちしている。

高校に通いながらこれだけのことをするのだから、修の師匠まで務めるとなると1日が30時間あっても全然足りない。

するとツグミが申し出た。

 

「キョウスケが師匠を引き受けるなら、わたしがあなたのフォローをするわ。あなたの玉狛支部(ここ)での仕事の分担はわたしが引き受ける。賄いとか掃除とか買い物とか。あと希望があればオサムくんの模擬戦の相手をする。それくらいならわたしにもできるし、対外的にも問題ないはずだから」

 

もちろんこの条件に京介に異論はない。

 

「ああ、じゃあ頼む」

 

こうして玉狛第2は始動した。

 

 

 

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