ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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39話

 

 

夕食を済ませたツグミは修と一緒に観覧室へと向かっていた。

修は怪我のためにランク戦は不参加になったので、桜子から解説を依頼されていたのだ。

通常、解説はA級もしくは元A級隊員によるものだから、B級になったばかりの彼が解説を任されるのは異例中の異例である。

 

「ぼくに解説なんて務まるでしょうか…?」

 

不安そうな修にツグミが言う。

 

「大丈夫よ。ユーマくんとチカちゃんなら解説をしている暇もなくすぐに終わっちゃうから。オサムくんの出番なんてほとんどないかもよ」

 

「そう…ですね」

 

なんとも複雑な気分の修だが、少しだけ緊張がほぐれたことで笑顔を取り戻せたようだ。

そんな会話をしながら廊下を歩いていると、ツグミの携帯電話に着信があった。

 

「ん?…あ、オサムくん、ちょっと電話が入ったから待ってて」

 

「はい、わかりました」

 

修から少し離れた場所でツグミは電話に出る。

 

「何かご用でしょうか、忍田本部長?」

 

「ああ。…玉狛第2の試合は見るのだろ?」

 

「はい。これから観覧室へ行こうかと思っていたところですけど」

 

「それなら私と一緒に見ないか? 観覧室の上にある談話室で待っている」

 

「わかりました」

 

電話を切ったツグミが修に言う。

 

「オサムくん、ごめん。わたし、忍田本部長と見物することになったから、ここから別行動。解説、頑張ってねー」

 

ツグミは忍田が玉狛第2に期待をしているのだと思うと自分のことのように嬉しくて、談話室へ向かう足取りが軽くなった。

 

 

 

 

「ツグミ、ここだ」

 

談話室の中で彼女を待っていた忍田が手招きする。

ここは混雑した観覧室を嫌う一部のA級隊員や上層部の人間がお忍び的な感じでランク戦を観戦する場所である。

余談ではあるが、多くの隊員が未成年者であるために本部基地内では喫煙できる場所が限られていて、ここはパブリックスペースで唯一喫煙できる場所となっている。

 

「お待たせしました。…観客席はほぼ満席で混雑しているというのに、ここは静かですね」

 

「ああ。ここなら三雲くんたちの試合をゆっくり見られる」

 

「あら、オサムくんは今日お休みですよ。まだ大規模侵攻の時の怪我が完治していないので」

 

「そうだったのか…。それで彼の具合は?」

 

「Round2からは出られるそうです。記者会見の時に少し頑張ってしまったので、仕方がないと思います」

 

ツグミの言葉に申し訳なさそうな顔をする忍田。

 

「すまない。しかしあの時私は ──」

 

「知っています。忍田本部長と林藤支部長はあの茶番劇に一切関与していないと唐沢部長に教えてもらいました」

 

「…ああ」

 

「玉狛支部で記者会見の様子を見ていたコナミ先輩やヨータローは怒り狂っていたそうですけど、本人はそれほど気にしていないようです。城戸司令のやり方を『こういう戦いがあるのは知っている。だから仕方がないことだ』って言っていました。ただしユーマくんやチカちゃんに同じことをしたら許さないとも。まだ中学生なのに考え方が大人ですよね…。だから本部長も気にしないでください」

 

「わかった。…話は変わるが、おまえの試合を見せてもらった。見事な旋空弧月だったな」

 

「ええ。なにしろわたしの師匠は最高の弧月使いですもの。稽古は毎日欠かさず、師匠の教えを忠実に守っているんですから、あの程度はできて当たり前です」

 

「ハハハ…そうか。だが次はこう簡単にはいかないぞ」

 

「承知しています。次も本部長にお気に召していただけるよう、()()()()本気出して戦いますから」

 

「ボチボチの次はまあまあ、か…。好きなようにすればいい」

 

「はい」

 

そんな会話をしていると、談話室に唐沢がやって来た。

 

「唐沢部長、こんばんは」

 

ツグミは唐沢に挨拶する。

 

「やあ、隣、空いてるかい?」

 

唐沢はツグミのそばに来て訊く。

 

「はい」

 

「じゃあ、お邪魔させてもらうよ」

 

唐沢はツグミの隣の椅子に腰掛けると、忍田に話しかける。

 

「忍田さん、せっかくの父娘水入らずの時間を邪魔してすみませんね」

 

「いや、お気遣いなく。今は本部長と一防衛隊員ですから」

 

忍田はそう言うが、ツグミとふたりきりで観戦したかったので少々不愉快であった。

 

 

◆◆◆

 

 

「ボーダーのみなさん、こんばんは! 海老名隊オペレーター武富桜子です! B級ランク戦新シーズン開幕! 初日・夜の部を実況していきます!」

 

昼の部同様にハイテンションの桜子がRound1・夜の部の開始を告げる。

 

「今シーズンはB級部隊(チーム)が22部隊(チーム)となり、上位7・中位7・下位8という分け方となりました。そこで下位グループ8部隊(チーム)の第1戦目は特別に3-2-3と分け、3試合行われます。これから行われるのは暫定16位吉里隊と17位間宮隊そして新設部隊(チーム)玉狛第2の非常に注目される試合! 午後の部同様に観客席のいたるところにA級隊員の姿も見受けられます」

 

午後の部の時とは多少顔ぶれは変わったが、それでも非番の隊員はできるだけ見物しようと集まっている。

 

「本日の解説者は…『俺のツイン狙撃(スナイプ)見た?』でおなじみ! 嵐山隊の佐鳥先輩!」

 

「どーも、どーも」

 

「そしてもうひと方…本日がB級デビュー戦! 玉狛第2の三雲隊長です!」

 

「ど、どうも…」

 

「三雲隊長はおケガで今日はお休みとのことなので、解説席にお越しいただきました!」

 

修は風間との模擬戦で引き分けたことや、大規模侵攻後の記者会見の様子がテレビで放映されたこともあり、かなりの数の隊員に名前や顔が知られている。

そのせいで修が紹介されると観客席はどよめきたった。

 

「…おっと、そうこうしているうちに隊員の転送がスタート! せっかくですので今回は玉狛第2の試合に集中してお届けしたいと思います!」

 

メインモニターには転送された各隊員の様子が映し出された。

 

「さあ、吉里隊、間宮隊、玉狛第2、転送完了! すでに戦いは始まっている! 3人部隊(チーム)の吉里・間宮隊に対して玉狛第2は数の上で不利ですが、三雲隊長はどう思われますか?」

 

「あ…大丈夫だと思います」

 

修がそう答えている間に、吉里隊と間宮隊はそれぞれ3人が合流し終わっていた。

そして遊真は吉里隊のいる位置へと向かい、1対3の状況となった。

銃手(ガンナー)万能手(オールラウンダー )攻撃手(アタッカー)という近・中距離戦を得意とする部隊(チーム)である吉里隊。

遊真の方から近付いて来てくれたのだからラッキーなはずなのだが、スコーピオンを携えた遊真は目にも止まらぬ俊足で3人を一気に倒してしまった。

 

「!? は!? 早い!! 吉里隊があっという間に全滅!? 玉狛第2の空閑隊員! B級下位の動きじゃないぞ!?」

 

桜子が信じられないといった顔で叫ぶ。

 

「さあ、吉里隊の緊急脱出(ベイルアウト)が見えた! 間宮隊はどう動くか!?」

 

間宮隊の3人は民家を背にして隠れたままでいる。

遊真が緑川との模擬戦で圧勝したことを思い出し、まともに当たるのを危険だと判断したのだ。

 

「…っと動かない! 間宮隊、建物に身を隠して動かない!」

 

「これは『待ち』っすね。寄ってきたところを全員の弾で削り倒す感じじゃないすか?」

 

佐鳥が解説する。

 

「なるほど! 間宮隊は全員が射手(シューター)! 3人同時両攻撃(フルアタック)の『追尾弾嵐(ハウンドストーム)』は決まれば超強力です! これは迂闊に手は出せないか…!?」

 

フィールド内の千佳に栞からの指示が入る。

 

[千佳ちゃん、あの建物撃ってくれる?]

 

[…はい!]

 

バッグワームで姿を隠し、狙撃地点で待ち構えていた千佳はアイビスで間宮隊の隠れていた民家を隊員ごと吹き飛ばした。

そこを遊真が風のように駆け抜けながら、3人を次々に斬り裂いていく。

 

[戦闘体、活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

「しょ…衝撃の決着!! 狙撃手(スナイパー)雨取隊員がアイビスで障害物を粉砕!! というか威力がおかしいぞ!? 生存点の2点を含めて一挙8得点? 強い! 強いぞ、このチーム!! この一戦で暫定順位は12位まで急上昇! 早くも中位グループに食い込んだ! この勢いでどこまで行けるか玉狛第2・三雲隊! 水曜日に当たる第2戦の相手は暫定10位荒船隊! そして同じく8位の諏訪隊! B級に現れた新星の戦い。次回も大注目です!」

 

桜子が興奮しながら玉狛第2の勝利を告げ、そして夜の部は終了した。

 

 

 

 

談話室でこの試合を見ていたツグミと忍田はあまりにも早く終わってしまったことにあっけにとられていた。

特に忍田はゆっくり観戦しようと思っていたから、残念としか言いようがない。

唐沢も予想外の展開に呆気にとられてしまっている。

 

「時間はかからない思っていましたけど、10分もかからずに決するなんて想像もしていませんでした。ユーマくんとチカちゃん、初戦とは思えない堂々とした試合でしたね」

 

「ああ。強いな、遊真くんは。さすがは有吾さんの息子だ。B級下位では彼に敵うはずがない。雨取くんのアイビスも凄まじい威力だな…」

 

「はい。玉狛第1の隊員がマンツーマンで指導しているのですから、もっと成長しますよ。期待していてください」

 

ツグミは自分のことのように自慢する。

 

「そしてB級下位Round2は暫定15位の玉狛第3、17位海老名隊、18位早川隊、19位常盤隊。今度は四つ巴戦ですから、上手く立ち回れば12ポイントも得られます。まあ、それはさすがに無理でしょうが、せめて中位の真ん中くらいに上がれるよう頑張りますので、応援お願いしますね」

 

「ああ、楽しみにしている。…では、私たちは先に失礼しますよ、唐沢さん」

 

「唐沢部長、お先に失礼します。そしてありがとうございました」

 

ツグミは自分のためにタバコを我慢してくれた唐沢に礼を言ってから忍田と一緒に談話室を出た。

ふたりの姿を見送ると、唐沢はタバコを取り出して火を点ける。

 

「ふう…」

 

紫煙をくゆらせながら、唐沢は考えた。

 

(ツグミくんが投げた小石がどんな波紋を起こすのか…。今期のランク戦は想像以上に面白いものになりそうだな)

 

そして誰もいないのを良いことにニヤリと笑った。

 

「さて、おれもおれの戦いをするとしようか」

 

唐沢はタバコの吸殻を灰皿に捨てると談話室を後にしたのだった。

 

 

 

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