ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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386話

 

 

C級隊員の正隊員昇格条件は「訓練生同士の個人(ソロ)ランク戦と合同訓練によって個人(ソロ)ポイントが4000点に達すること」とされている。

しかしツグミからその問題点について指摘されていて、さらに規定(ルール)の変更を提案されていたことで忍田は正隊員から数人を選んで検討委員会を設けて議論した。

そして毎月最終日曜日にC級隊員全員を対象に昇格試験が行われることが正式に発表される。

攻撃手(アタッカー)射手(シューター)銃手(ガンナー)は正隊員との一対一の模擬戦で、その様子を3人の試験官が審査してその勝敗だけでなくその戦闘スタイルやダメージの大小、その他いろいろな点で「正隊員に相応しいか否か」を判定するというものだ。

模擬戦の相手となる正隊員は予め受験者の武器(トリガー)や戦闘レベルを考慮して決めるためB級中位クラスの隊員から選ばれ、試験官はA級やB級上位の鑑識眼のある隊員がなる。

なにしろこれまでの規定(ルール)だとC級同士でのポイントの奪い合いも上位になればなるほど困難になり、中には新入隊員を狙って()()()()とだが確実にポイントを増やしていく者もいるくらいで、実力があってもなかなか正隊員になれないという現実はモチベーションの低下につながる場合もある。

さらに狙撃手(スナイパー)個人(ソロ)ランク戦というものがなくA級からC級すべての隊員の中で合同訓練の結果が3週連続上位15パーセント以内という規定(ルール)になっているのだが、考えてみるとこれは不条理なものである。

他のポジションは正隊員が何人いたとしても条件をクリアすればB級に昇格できるが、狙撃手(スナイパー)は人数制限があるようなものだ。

仮に狙撃手(スナイパー)が200人いたとすれば、正隊員になるためには3週連続で上位30人の中に入らなければならない。

正隊員に欠員でも出ないとなかなか上がることのできない厳しいものになっていて、実戦経験のない訓練生と日々の防衛任務や大規模侵攻・ガロプラの本部基地襲撃などを経験している正隊員を同じ土俵で戦わせること自体に無理があるというもの。

したがって狙撃手(スナイパー)規定(ルール)が大きく変更され、日常の合同訓練で行われている通常狙撃訓練と補足&掩蔽訓練で合格ラインを超える得点をした隊員は()()()B級昇格が認められることにした。

理論上は昇格試験で合格さえすれば普段の訓練での成績が悪くても正隊員になれるということだが、現実には試験の時だけ良い成績を出すなど無理なことだから、日頃から真面目に訓練をしていれば人数制限が取り払われた分だけ楽になるわけだ。

それにこれまでの昇格のための規定(ルール)も廃止していないので、試験を受けずに正隊員になることも可能であるから、以前よりも昇格のチャンスが増えたと考えればいい。

ただしどのポジションであっても受験資格は入隊して半年以内で、それを過ぎてなお昇格できなかったら自動的に除隊となるという厳しい規定(ルール)も設けた。

こうすることで正隊員になる実力を持っている者を掬い上げて正隊員を増やし、逆に正隊員になる資格のない者は半年以内で消え去ってもらうということになる。

これでC級隊員の半数を減らすことができるだろう。

もちろん防衛隊員を諦めてオペレーターや技術者(エンジニア)等に転向するのはOKで、別の形でボーダーに貢献するのであればなんら問題はない。

そしてその昇格試験が9月28日に行われると発表されると、C級隊員たちからは喜ぶ者、困惑する者と様々な反応があった。

 

 

◆◆◆

 

 

9月の昇格試験には攻撃手(アタッカー)67人、射手(シューター)43人、銃手(ガンナー)49人、狙撃手(スナイパー)28人が受験することとなり、全C級隊員の約4割が挑戦することになる。

初回であるから人数が多いのは当然で、また受験資格が入隊から半年以内という規定(ルール)があり、もたもたしていては受験資格を失ってしまうのだから大慌てで昇格試験を受けようというのだろう。

今回と次回の2回に限ってだが半年を超えていてもOKとなっているから、今回不合格でも即除隊ではなくまだはチャンスがあるというのが救済措置として盛り込まれている。

昇格試験委員会も慌ただしくなった。

検討委員会メンバーが横滑りして昇格試験委員会となり、メンバーは忍田、ツグミ、東、生駒、那須、諏訪、柿崎の7人で構成されている。

攻撃手(アタッカー)射手(シューター)銃手(ガンナー)は一対一の模擬戦であるから、その対戦相手や試験官を誰に頼むのかなど決めなければならない。

狙撃手(スナイパー)に関してはこれまでの合同訓練とほぼ同じであるから特に問題はなかった。

それも初回であるからまだ手探りの状態であったのだが、ツグミが事前にマニュアルを作成してあったために大きな混乱はなく試験当日を無事に迎えることができたのだった。

 

 

試験の結果は翌日に受験者に通知された。

攻撃手(アタッカー)射手(シューター)銃手(ガンナー)の合格者は68人で合格率は約43パーセント、狙撃手(スナイパー)は9人で約32パーセントという結果になった。

よって一気に77人が正隊員へと昇格し、開発室は正隊員用トリガーの増産を行っていたのだが、ここまでの数になるとは想定外であったようで大急ぎで追加をしたくらいだ。

しかし77人分の訓練生用トリガーに()()ができたわけで、今後の新入隊員の分はしばらく作らないでも良さそうだ。

そして合格者のうち28人がアフトクラトルに連れて行かれたメンバーで、アフトクラトルでの訓練が実戦に近くてハードなものであった()()効果が顕れたにちがいない。

なにしろ約5ヶ月の間、ほぼ毎日8時間以上の訓練を続けていれば上達しない方がおかしいというもの。

しかし彼らはアフトクラトルにいた間は学校へ通っていなかったので、夏休みはその分の補講で忙しかったようだがボーダーと学業のどちらも上手く両立できたようだ。

A級隊員は遠征特別訓練、B級隊員はランク戦と大忙しであったため、正隊員の増加は防衛任務のローテーションを組みやすくしてくれる。

もっともまだ実戦経験のない()正隊員だけでの市内巡回は無理なので、ベテラン部隊(チーム)にひとりかふたりを組み込んで指導をするというパターンを1ヶ月ほど繰り返すことになる。

そのうちに部隊(チーム)で戦うことを覚え、正隊員は()()()()トリオン兵を倒すことで三門市民を守るという役目であることを知る。

対人戦闘訓練ばかりやっているとそこを忘れがちになり、ポジション別合同訓練でもトリオン兵を倒す訓練を取り入れていたくらいだ。

人型を倒す訓練も重要だが、未だに月数回(ゲート)が開いてトリオン兵が現れるという事態が続いているのだから、単身でバムスターくらいは倒せるようにならなければいけない。

そしてその中でメインとサブの8枠の中にどんな武器(トリガー)を加えるのかを試行錯誤するのもこの時期である。

 

 

一方、C級隊員の中でボーダーを去った者が3人いる。

試験に不合格であり、入隊して1年以上経過した隊員であったために忍田から促されてふたりが自ら辞めた。

彼らはかつての修と同じでおざなりに合同訓練に参加していただけなので取り残されてしまっていたのだ。

夏休み期間のポジション別合同訓練には参加していたものの、ただ義務で正当な理由なく欠席すると個人(ソロ)ポイントを没収されるからという理由で出席していたにすぎないからレベルアップもしていなかった。

だから忍田に引導を渡されたのである。

そしてもうひとりはずっと辞めようと考えていたものの辞める理由が見付からず、試験に不合格であったことが自分へのちょうどいい言い訳になったのだった。

毎月10人から20人の新入隊員がいて訓練生は増える一方だが、こうして()()()()()をすることでボーダー隊員として戦える隊員とその力がなくて去っていく者とハッキリ分かれることになる。

三門市の平和のためにとか、仇である近界民(ネイバー)を倒したいとか、自分で行方不明の家族を探すために近界(ネイバーフッド)へ行きたい等々の理由でボーダーに入隊するのはかまわない。

しかし戦って敵を倒す力のない者には多少強引であっても「おまえには戦う資格はない」と宣告しなければ()()()()が増えるだけである。

厳しいことを言うようだが、志は高くともそれに見合うだけの努力をしない者はボーダーに不要で、入隊して半年経っても個人(ソロ)ポイントが4000点に満たず、昇格試験にも合格できないという人間に期待をするほどボーダーに余裕はない。

自分のやりたいこととその才能が合致していないことは多い。

それを認めたくなくて「自分がやりたいことだから」と自己満足のような動機で続ける者はいて、それが音楽活動やスポーツといった趣味であればかまわないが、ボーダーはそんな趣味のサークルではなく「三門市民の生命と財産を守るために戦う組織」である。

それもボランティア団体ではなく、市民の税金や企業の支援によって成り立っている組織であるから「結果」を出さなければならず、故に戦う力のない者は()()()であって、組織の合理化は避けては通れない道なのだ。

なおこの昇格試験と昇格の規定(ルール)についてはスポンサーたちにも承認されたものだから、ボーダーの正式な規定(ルール)とされて新入隊員の公募をする際には明記されることになる。

 

 

◆◆◆

 

 

10月に入ってB級ランク戦は中盤となり、B級隊員はもちろんのこと観戦するC級隊員たちもエキサイトしていた。

ポジション別合同訓練で親しくなった先輩たちが出場する試合となれば見逃せないと言わんばかりに夢中になって応援したり、次の昇格試験に臨んで合格するために正隊員の技を学ぶのだというC級隊員が大勢いるのだ。

そしてそのC級隊員の中に混じって修の姿もあった。

彼は玉狛第2を解散したために参加はできなくなったが、このランク戦を観戦することが自身の戦力アップに役立つと理解しているから上位と中位グループの試合はできる限り観るようにしていた。

遊真が帰って来るまでに自分にできることをやろうと決心した彼は積極的に本部基地へ赴いて同レベル正隊員と個人(ソロ)ランク戦をしたりC級の後輩の岡宮と一緒に自主練を繰り返していた。

この岡宮と一緒に行うレイガストを中心とした訓練も効果があったようで、その岡宮は9月の試験で合格してB級隊員になった。

これでB級無所属(フリー)同士の仲間となったわけだが、修は相変わらず面倒見の鬼として岡宮のことを気にかけていて、レイガスト以外の武器(トリガー)の相談に乗るなど良き先輩となっている。

 

 

◆◆◆

 

 

「三門市民救出作戦」はA級の隊長を中心として進められていて、事前の情報収集が重要であることはアフトクラトル遠征を経験したものなら十分に承知しているため、ゼノン隊の3人から諜報活動のイロハを学んでいる。

トリオン体で行動すれば安全だがトリオン反応で侵入者とバレてしまうので、現地では生身で行動するかツグミがアフトクラトルで使ったように現地の衣装を真似たバッグワームを常に起動しておくという二択となる。

しかしトリオンに余裕があればいいのだが、いざ戦闘となった時にトリオン切れで戦えなくなるのでは困るため、生身での行動を基本とするしかないだろう。

現地ではトリガー使いとの戦闘だけでなく現地の民間人とのトラブルに巻き込まれることが多い。

情報収集の基本はいろいろな人間の集まる繁華街や市場などで現地の人間に紛れて行動するわけで、ゼノンたちの話だと酒場で酔客に絡まれることなどよくあることらしい。

その時にトリガーを使うことは避けたいから生身での格闘術を覚えてその場をしのぐしかない。

キオンにも柔道や空手のような素手の格闘術があり、ゼノンはその達人であるから希望者に指南している。

希望者に限るのは三輪のような近界民(ネイバー)嫌いに強制するわけにはいかないし、格闘術を覚えたいのならゼノンに教わらなくても町の道場に通えばいい。

さらに暗器を使った護身術、時計を使わずに時間を計る方法等の災害や非常時のライフハック術といった普段の生活でも役立つことも教わっている。

暗器を使った護身術というと現実にはありえないと思うだろうが、突然身に降りかかる危険というものは案外身近にあるもので、そんな時に持っていると便利なものがある。

たとえば「クボタン」という護身用具は一見キーホルダーだが、たくさんの鍵をつけた束状になっている部分で敵に打撃を加えるという使い方をする。

実際にアメリカの一部の警察組織やFBIなどで逮捕術の一環としてクボタンを採用しているそうだ。

また「ミルウォール・ブリック」は新聞紙を何度も何度も折り丸めて押し潰して棍棒状にしたもので、1960年代から70年代のイングランドにおいてサッカー観戦でフーリガンが隠し武器として用いたという。

日常的に刃物や銃を持つことが禁止されている社会ではこういったものを使って身を守ることも必要だ。

もっとも「クボタン」と「ミルウォール・ブリック」は玄界(ミデン)オリジナルの暗器で、ツグミがゼノンたちに教えたものなのだが。

そういった武器(トリガー)を使わない戦闘技術だけでなく、敵を欺くための話術や敵を良く知るための観察眼を養う座学も行われている。

さらにゼノンたちがこれまでの経験から得た近界(ネイバーフッド)の情報も教えた。

本来なら部外者に教えてはいけない内容だが、テスタから「ボーダーのためであればキオン本国の情報以外なら教えてもOK」と許可を貰っているために問題はない。

ボーダー隊員たちは戦闘技術や近界民(ネイバー)と戦うための知識など()()()自力で覚えたものばかりだ。

指導する専門家(プロ)はおらず、初期メンバーが自力で得たものを後輩たちに伝授するというシステムだからそれ以上のものは得られない。

だからこうして外部の専門家(プロ)から様々なことを教わることは今までになく、その点もボーダーの隊員育成システムの欠点であった。

この機会にA級隊員が多くの知識と技術を覚えることができれば、いずれそれはB級隊員にも継承されるはずだ。

 

 

◆◆◆

 

 

ついこの間まで半袖のシャツを着ていたというのに、10月に入ってからは急に朝晩の冷え込みが身に染みるようになり、街中をジャケットや薄手のコートを着て歩く人々の姿が日増しに増えていく中、エクトスへの調査へ行っていた遊真が帰還した。

例のごとく採石場跡に艇を停め、ゼノンが(ブラック)トリガーで(ゲート)を玉狛支部に開く。

遊真の「家」は玉狛支部で、迎える「家族」もそこにいるのだから当然だ。

しかし到着したのが午後だったので、迎えに出たのはゆりと陽太郎と雷神丸だけだったのが少し寂しいものだった。

15日の水曜日であったため、修と千佳は本部基地でのB級ランク戦・昼の部の観戦、レイジは防衛任務、栞と小南と京介は学校、クローニンは本部の技術者(エンジニア)との共同作業、林藤は本部での会議とそれぞれが自分の役目を果たすために忙しいのだ。

遊真はゆりの作った賄いのチャーハンを食べると身体を休めるために自室で3時間ほど仮眠をして長旅の疲れを癒すことにした。

仮眠といっても眠るのではなく身体を横たわらせてトリオンの回復をするだけである。

急いで帰るために自身のトリオンをギリギリまで使い果たしてしまったのだ。

ツグミは遊真の帰還の報告を意図的に遅らせて、城戸がその事実を知ったのは夕方になってからであったため、遊真の本部召喚は翌日に持ち越された。

そのおかげで当日の夜は玉狛支部のメンバーだけでささやかな帰還祝賀パーティーが開かれたのだが「レプリカの生還のお祝い」も含まれていた。

そう、レプリカはトロポイの技術者(エンジニア)によって修理されて元の姿に戻っていたのだ。

誰もがレプリカの復活を大喜びしたが、とりわけ修の喜びような半端ではなかった。

自分のせいでレプリカと遊真に辛い思いをさせたのだと自責の念に苛まれていた彼もこれでやっと肩の荷が下ろせたというもの。

だが喜んでばかりもいられなかった。

窓の影(スピラスキア)によってふたつに切り裂かれてしまった本体はかろうじて内部の機器類は最小限の破壊で済んでいたのでデータの大部分は無事だったのだが、修理までの時間がかかりすぎて一部は復活できずに完全に失われてしまっていたのだった。

幸いにも有吾や遊真と一緒に旅をした時期の記憶は無事であったが、遊真と三門市に来てからの部分が欠落していて、修や千佳のことすらデータには残っていなかった。

それは玉狛支部のメンバーにとってはとてもショックなことであるが、遊真がボーダー隊員であり続ける限りは新しい記憶が増えていくのだからという迅の言葉で救われたようであった。

 

 

 

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