ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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389話

 

 

「三門市民救出計画」はエクトスを目的地と定めた調査隊を派遣することに決定したが、その調査隊に誰を選ぶかが課題となっていた。

まずはゼノン隊の指導を受けているA級隊員の中から3人か4人を選ぶことから始まる。

とはいっても適任者は限られてしまう。

なにしろ現地の繁華街へと赴いて情報収集するのだから、自然と酒場や食堂といったアルコールを提供する店にも行くこととなる。

そういう場所の方が現地の人間も口が軽くなり、酒一杯で簡単に口を割るような人間から情報を引き出すのは簡単だ。

したがって調査隊は成人であることが求められ、ゼノンは指導主任として太刀川、風間、二宮の3人を推薦した。

彼らを選んだ理由はいざという時に単独であっても(ブラック)トリガー使いを倒すことができる戦闘能力を持っていると同時に、太刀川は現地の人間に混じって話を引き出し、二宮はそのそばで冷静に状況判断ができそうだというものである。

風間の場合は見た目が少年であるから、ゼノン隊のテオのように大人では入りにくい場所への潜入も容易だということらしい。

そしてこの3人からは承諾を得て、さらに引率としてゼノンが参加することになる。

できることなら女性であり経験者でもあるツグミにも参加してもらいたかったのだが、キオン・エウクラートン・ボーダーの三国同盟の件で忙しいために参加は見合わせることとなった。

本人は行きたいという意思が強かったのだが、さすがに同時にふたつのことはできないのだから仕方がない。

いずれはゼノン隊のメンバーも帰国してしまうことになるので、今のうちにボーダー内に諜報作戦に適した人材を育成する部門を作らなければならないということもあり、今回はそのための実地研修の面がある。

3人は諜報活動などまったく経験はないが、ゼノンの指示に従ってさえいれば特に危険はないだろうということで城戸も許可を出した。

太刀川隊・風間隊・二宮隊は隊長が長期不在となってしまうが、この3部隊(チーム)なら隊長不在でも統率がとれるということで問題はないだろう。

各方面での調整を行った結果、調査隊の出発は10月31日に決まったのだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

ところがこの調査隊のエクトス派遣が急遽中止となってしま大事件が起きた。

出発予定日のちょうど1週間前の24日の夜、突然警戒区域内に(ゲート)が開き、そこから未確認物体(unknown)が現れたのだ。

当然のことながらいつものようにトリオン兵の出現だろうということで現場に最も近い場所にいた王子隊が向かい、そこで発見したのがトリオン兵ではなく成人の男女ひとりずつと中学生くらいの少女の3人連れであったため、王子は急いで本部に連絡して判断を仰ぐことにした。

なにしろ男性は雨取麟児、女性は鳩原未来、そして少女は春川青葉を名乗ったのだから。

麟児と青葉はともかく、鳩原未来の名は「問題を起こして除隊となった元狙撃手(スナイパー)」として知られていたから、王子隊のメンバーが対処に苦慮するのは当然ですぐに本部の判断を仰ぎ、本部の指示は「危害を加えるようなことがなければそのまま待機。万が一攻撃してくることがあれば適宜応戦。直ちに応援を向かわせる」というものであった。

そして十数分後、忍田とツグミのふたりが駆けつけて王子隊には固く口止めしてから通常任務に戻ってもらう。

ここから先は一般隊員が()()知るべきではないことであり、今後の「市民救出計画」にも大きく影響することになるという理由から極秘で扱うことにしたのだ。

 

 

駆けつけたツグミの顔を見て鳩原が哀しげな笑みを浮かべて言った。

 

「ツグミちゃん、久しぶり。元気そうで良かったわ」

 

彼女の声には申し訳ないという気持ちが込められていて、ツグミは何と返事をして良いのかわからないでいた。

だから去年の4月に会った時よりもはるかにやせ細ってしまった鳩原を無言で抱きしめて背中を摩ってやる。

すると鳩原はツグミの腕の中でポロポロと涙を零しながら言う。

 

「ごめんね、ツグミちゃん。あたしのせいであなたや二宮隊のみんなにも迷惑をかけてしまった。本当に申し訳ないと思ってる」

 

「おかえりなさい、鳩原さん。謝らなくていいんですよ。二宮さんはあなたのことを信じてずっと手がかりを探していましたし、犬飼さんや辻さん、氷見さんもあなたの帰りを待っていました」

 

「こんなあたしのことを…? ホントにあたしってダメなやつ。みんなに心配と迷惑をかけちゃったんだものね」

 

「だったらこれからあなたが思う形でその償いをすればいい。でも二宮隊の人たちはそんなことを望んではいないでしょうけど」

 

「うん…」

 

「それに弟さんがひと足先に帰って来ていますよ」

 

「知ってる。だからあたしたちも帰って来たんだもの」

 

「どうやら深い事情があるみたいですね。詳しいことは麟児さんから聞いた方がいいみたい」

 

ツグミは鳩原の身体を解放すると、続いて麟児の前に立って訊いた。

 

「はじめまして。あなたがチカちゃんのお兄さんの雨取麟児さんですね?」

 

「ああ」

 

「あなたにはいろいと訊きたいことがあります。申し訳ないですが、このままボーダー本部まで来ていただきます。明日の朝一で()()()()()()()にはあなたの帰還をお伝えしようと思っていますので、今夜はあなたの近界(ネイバーフッド)でのお話を聞かせていただきます」

 

それは事情聴取が終わらなければ千佳たちには会わせないという意味で、麟児は覚悟を決めているかのように頷いた。

そして最後にツグミは青葉に訊く。

 

「あなたはチカちゃんのお友だちの春川青葉さんですね?」

 

「はい」

 

「よく無事で帰って来てくれました。あなたのご家族にも明日の朝に連絡して来てもらいますので、今夜だけは少しだけ我慢してください」

 

「わかりました」

 

千佳の同級生なので14歳か15歳になるはずなのだが千佳よりも背が低くて細いものだから幼く見えてしまう。

しかしトリガー使いであったのか、眼光が戦士のものであって彼女の醸し出す雰囲気も普通の少女のものではない。

それもすべて近界(ネイバーフッド)での生活が長かったことと過酷なものであったからであろう。

 

忍田の指示で最寄りの本部基地直通通路を使って移動し、居住エリアの一角にある「特別室」へと連れて行く。

ここは牢に入れる必要はないが本部基地内をウロウロされては困る人間に()()してもらうために設置してあり、特別室といっても豪華なインテリアがあるわけではなく、最小限の広さと設備のあるビジネスホテルのシングルルームのような部屋である。

3部屋にひとりずつ入ってもらい、麟児は忍田が、鳩原と青葉はツグミがボディチェックをして問題ないと判断をしてからひとりずつ事情聴取を行うことにした。

 

 

◆◆◆

 

 

年少者である青葉を深夜まで拘束するわけにはいかないということで一番目に行うことにした。

本来なら忍田が尋問すべきであるが、鳩原の密航事件に関することなのでツグミが主導で行い、忍田がそれをそばで見ていることになる。

 

「春川青葉さん、わたしはボーダー隊員の霧科ツグミ。雨取千佳隊員…チカちゃんの先輩になるわ」

 

ツグミが千佳のことを口にすると目を大きく見開いて訊いた。

 

「チカちゃんはボーダー隊員なんですか?」

 

「ええ。彼女はあなたとお兄さんの麟児さんがいなくなったのは自分のせいだと考えていて、ボーダーに入れば近界(ネイバーフッド)へ行って自分の手であなたたちを探すことができると考えたのよ。早く遠征に参加できるようになりたいって努力を重ね、さらわれた市民を救出するための遠征に参加できるだけの実力をつけたわ。もっともふたりが帰って来たのだからこれからも防衛隊員を続けるかどうかはわからないけど」

 

「あたしと麟児さんを探すために…」

 

「明日になればチカちゃんに会えるから、その時にいっぱい話をするといいわ。…あ、それからあなたのことはアオバちゃんと呼んでいい? チカちゃんと同級生ってことだからいいかな?」

 

「はい、かまいません」

 

「じゃあ、あなたがトリオン兵に拉致された時のことから話してもらえる? 思い出したくない嫌なことだろうけど、あなたと同じような目に遭った人たちのことを探す参考になるかもしれないから」

 

「はい。…あたしが小学校3年生の時でした。いつものようにチカちゃんと一緒に下校して、チカちゃんを家に送った後にあたしはトリオン兵にさらわれました」

 

青葉は意外と冷静に過去の出来事を話した。

トリオン兵に捕獲された瞬間に気を失い、意識を取り戻した時には知らない場所にいた。

智史の時と違って他に拉致された人には会っていないが、トリガー使いとしての訓練を受ける時に現地の子供たちの通う学校に入学させられ、2年ほど勉強やトリガーの訓練を受けた。

そして彼女はヒエムスに売られ、そこでレプトとの戦争に駆り出された。

まだ11歳であったが優秀なトリガー使いであったことで重宝がられたらしい。

そして彼女もまた自分がエクトスのトリオン兵に拉致されたことは知らず、彼女を探しに来た麟児と鳩原によって助け出された時に初めてエクトスの名を聞いたということであった。

智史と同じように近界(ネイバーフッド)の食料事情には苦労させられたようで、ヒエムスではレプトとの戦いで優勢になると満足な食事をさせてもらったが、劣勢の時には1日1食しかない時もあったそうだ。

近界(ネイバーフッド)の話を聞く度に必ず耳にするのは食料事情の悪さで、十分な食料さえあれば争わずに済む場合も多い。

ひとまず事情聴取はここまでにして、翌朝までゆっくり休んでもらうことになった。

 

 

◆◆◆

 

 

続いて麟児の事情聴取が行われた。

彼に関しては「洗脳」という特殊能力を持つ可能性があることから、念のために彼を部屋にひとりにして別室にいるツグミと忍田が映像を介して行うことにしていた。

なにしろ洗脳かどうかはわからないが彼は人を操ることができるようで、その力なしには雨取家に入り込んで家族の一員として振る舞うことは不可能だ。

そしてその能力が聴覚または視覚に影響を与えるのだとすれば直接の会話は危険であるから別室で機械を通した映像や音声で事情聴取を行うことにしたのだった。

ツグミがセッティングをしている様子を見て麟児は彼女が自分の能力について警戒していることに気が付き、下手に隠し立てすれば自分にとって都合が悪いことになるだろうと感じていた。

 

「雨取麟児さん、わたしはボーダー隊員の霧科ツグミといいます。鳩原未来さんの事件のことを調べていくうちにあなたが近界民(ネイバー)ではないかという疑惑が生じました」

 

ツグミがそう言うと、麟児が彼女を試すかのようなことを訊いた。

 

[俺が近界民(ネイバー)だという証拠は?]

 

「チカちゃんに頼んであなたの住民票と戸籍謄本を取り寄せてもらいましたが、雨取夫妻には麟児という息子はいませんでした」

 

[なるほどな。俺の能力で他人の記憶を操作することはできるが、玄界(ミデン)の組織に忍び込んで記録を改ざんすることまではできない。俺のことを疑ってそこまで調べる奴が現れるとは想定外だったな]

 

「それだけではなく5年前の第一次近界民(ネイバー)侵攻の張本人・エクトスの諜報員だとも推測しています。立場上話せないこともあるでしょうが、できることなら全部正直に話してもらいたいのです。こちらは強引な手段は使いたくはありませんし、なによりも鳩原さんとアオバちゃんを無事に連れ戻ってくれたあなたのことを信じたい。どうかお願いします」

 

[信じるとは?]

 

「あなたが祖国に忠誠を誓う優秀な諜報員でありながらも、一時的とはいえ家族となった雨取家の人たちのことを大切に思っているひとりの人間であるとわたしは考えています。あなたがチカちゃんやオサムくんに話したことがどこまで本当なのか嘘なのかまではわかりませんが、第一次侵攻当日には家族全員で三門市を離れていたことで被害がなく済みました。それはチカちゃんたちと一緒に暮らしているうちに情が移ってしまったのではないのですか? あなたが任務に忠実な冷酷な人間であればトリオン能力に恵まれているチカちゃんは祖国への手土産として最適であったと思います。そんな彼女を祖国に引き渡さなかった理由が他に考えられません」

 

ツグミが自信あり気な態度で言うものだから、麟児は「こいつにならわかってもらえるだろう」と覚悟を決めて正直に話すことに決めた。

 

[きみとは今日が初対面だというのに俺の正体を玄界(ミデン)の誰よりも理解しているようだ。三門市へ戻って来ると決めた時…いや、三門市を発ったあの日からこうなることを覚悟して行動していたのだから、今さら保身のために嘘をつく必要もない。すべて話そう。それが罪の償いとしてどれだけ役に立つのかはわからないが]

 

麟児はそう前置きをしてから話しを始めた。

 

[まず先に言っておく。俺の能力は他人の記憶を都合の良いように改ざんしてその人物を操るというものだが、これは誰にでも通用するというものではない。俺が操ることができるのは心の弱った不幸な人間だけだ]

 

「心の弱った不幸な人間?」

 

[ああ。心の弱った人間には隙がたくさんあって、そこに上手く入り込むことで俺が植え付けた偽の()()()記憶が真実だと思えてくる。雨取家の場合は千佳が近界民(ネイバー)に狙われていると訴えても誰も信用してくれないことで本人は心を閉ざしてしまっていたし、友だちが拉致されたばかりだったから優しい兄のフリをするのは簡単だった。両親は千佳が訳のわからないことを言うものだから不安になるし、3人の心はバラバラになっていた。当時あの一家は不幸な人間の集まりで、家族とはいえない存在だった。そこに俺は麟児という雨取家の長男として入り込んだ。俺の本名がリンジだからだ]

 

「雨取家が潜り込みやすい一家であったことはわかりましたが、やっぱりチカちゃんのトリオン能力が決め手だったのではありませんか?」

 

[そうだ。(マザー)トリガーと融合して神になれるほどのトリオンを持っている人間は少ない。高く売れる貴重な()()として千佳に近付いた。いずれ決行される侵攻の際に傷ひとつない状態で本国に引き渡すために、また他所の国のトリオン兵に奪われないように護衛するためにも兄のフリをして常にそばにいることにしたんだ]

 

「現にアフトクラトルに攻め込まれた時には彼女がさらわれそうになって大変でしたよ。オサムくんが体を張って守ってくれたので無事でしたけど」

 

[修か…。あいつなら自分の命を捨ててでも守ろうとするって確信があったからな]

 

「あなたが彼にチカちゃんのことを頼むって頼んでいったから瀕死の重傷を負うことになったんですけどね」

 

[それはすまないことをしたな…]

 

「いずれオサムくんとも再会することになりますから、その時にあなたが直接彼にお詫びとお礼を言ってあげてください」

 

[ああ、わかった。…さて、順序立てて話そうか。きみが推測しているように俺はエクトスの諜報員で、第一次侵攻はエクトスの仕業だ。当時、玄界(ミデン)にはトリオンの概念がなく、武器(トリガー)を使える者がいないというのが通説であったから、近界(ネイバーフッド)の国々の一部は直接こちら側の世界へやって来てバレない程度にトリオン能力者をさらっていた。しかし多くの国は自分で()()に行くことができないものだから、隊商国家と呼ばれるエクトスが玄界(ミデン)の人間を商品とすることに決めたのは自然な流れだ。そして大規模な侵攻を行うために俺が派遣された。俺はまだ少年だったが特別な力を持っていたし、長期にわたって玄界(ミデン)に滞在しても心配する家族や友人はいなかったからちょうど良かったんだ]

 

麟児の告白の内容はツグミが推理したものとほぼ同じであった。

子供がひとりで暮らしていると都合が悪いことを知った彼は雨取家の一員となることで周囲から不審がられることなく自由に街の中を歩き回って情報を仕入れることができた。

しかし戸籍がないと学校へ行くことができないことを知ると、制服や教科書などの小道具だけ用意して家族には通学しているように思わせていた。

そして雨取麟児という玄界(ミデン)の人間として普通の暮らしをしているうちにエクトスのリンジでは得られない充足感を覚えるようになり、今まで知らなかった家族の温かさを失いたくないと思うようになっていた。

第一次近界民(ネイバー)侵攻時、当初の予定では千佳を連れて本国へ帰還することになっていたのだが、ふたつの想定外の事情によって予定外の行動をすることになった。

ひとつ目は千佳()を守りたいという()()()()()気持ちが生まれたことで、ふたつ目はボーダーというトリガー使いの組織の存在が明らかになったことだ。

ここで麟児は祖国に「玄界(ミデン)にもトリガー使いがいて、それも組織として存在する」と報告した。

その結果、本国からは今後も三門市を「狩場」とするためにボーダーを調査するよう指示されたのだった。

この命令によって麟児は次の侵攻までの間にボーダーのことを調査するという理由で滞在を延長することができ、千佳の兄であり続けることができるようになった。

第一次侵攻から半年後、ボーダーは現在の本部基地を完成させてその活動を公にしたのだが、その内情を知ることは一般人では不可能であった。

隊員を募集していても彼には受験することはできず、防衛隊員と接触して情報を集めようとするのだが、彼が接触した隊員の中には彼の能力で操ることのできる人間はいなかったために、マスコミから発信される情報以上のことを知ることはできずにいたのだった。

千佳は相変わらずしばしば現れるトリオン兵に狙われていたのだが、彼女が無事であったのは彼女のサイドエフェクトの力もあったが、麟児が自ら囮となって引き付けて、その後はボーダーに任せるというパターンを繰り返していたからだ。

もちろん麟児自身がトリガー使いであるから戦うことはできたのだが、自分の存在をボーダーに知られてはならないということで戦うことはせずに逃げるだけであった。

千佳が他人に心を開かず友人ができないのは過去に青葉がトリオン兵に拉致されたことが原因であり、自分を含めた近界民(ネイバー)の身勝手が幼い少女の心を傷付けてしまっていることを知り、自分の任務について悩み始めたのが去年の2月頃で、せめて青葉を連れ戻して千佳と再会させようと決めた。

しかし帰国するにしても何らかの「収穫」がないと()()()()()()が上手く進まないため、トリガー使いを数人連れ帰ることにして接近したのが鳩原未来であった。

弟の智史とは過去に勉強を教えていたという関係があったためその姉に近付くのは簡単で、彼女を唆してボーダーのトリガーを手に入れようとしたのだが、智史がエクトスによる侵攻の被害者であったことを知り、洗脳するのではなく彼女に智史を探す約束をして彼女の意思で仲間にした。

協力者というふたりの男はボーダーの秘密を探っていた某国の諜報員で、近界(ネイバーフッド)へ連れて行くと言ったら簡単に()()()のだそうだ。

こうして正隊員のトリガーひとつと訓練生用トリガー3つ、そして一定のレベルで教育を受けた諜報員でありトリガー使いとして役に立ちそうな()()2名という「手土産」を持って帰国したのだった。

 

この先の麟児の告白についてはツグミですら想像していないものであった。

 

[俺がボーダーの実情を調べることはできなかったが、鳩原が自分の知る限りの情報を教えてくれた。トリガーの横流しと情報漏洩だから罪は重いだろうが、そのおかげで第一次侵攻での被害者のことについていろいろ知ることができたのだから、その点を考慮に入れて彼女の処分は軽いものにしてもらいたい]

 

鳩原を巻き込んでしまったことを申し訳なく感じているらしく、麟児は予め鳩原が悪いのではないと弁解をしてから説明を始めた。

 

[俺がエクトスへ帰ることに決めたのは千佳のために何かをしてやりたいと思ったからだ。彼女は俺のことを本当の兄のように慕ってくれて、家族というものに縁のなかった俺にもひと時の安らぎを与えてくれた。しかし青葉の件、あれがエクトスの犯行であることは間違いない。そうなると俺が帰国して本部の記録を調べれば青葉がどの国に売られたのかわかり、助け出すこともできるかもしれないと考えたからで、そのためには少々の犠牲は仕方がないと彼女には酷いことをしてしまった]

 

彼の言う「少々の犠牲」が鳩原を巻き込むことであった。

計画では正隊員である彼女と彼女の持つトリガーを手に入れ、さらに訓練生用のトリガーを3本持ち出しさせることで麟児は玄界(ミデン)とボーダーの情報と共に軍上層部に提出して昇格する。

そうすれば今まで閲覧できなかった資料を見ることのできる立場になり、三門市から消えた約400人の市民の行方もわかるはずであったからだ。

実際に帰国した麟児は現場の一諜報員から昇格し、次の任務までしばらくの間は自由行動ができる立場になった。

そこで鳩原を直属の部下とすることで行動を共にし、彼女の身の安全を確保する。

そして第一次近界民(ネイバー)侵攻で拉致した分だけでなく、青葉のように密かにさらわれた被害者についても可能な限り調べ上げ、その情報を持って鳩原と共に祖国を出奔したということだった。

もちろん帰国すれば死罪となる重罪人だから玄界(ミデン)へ亡命することを考慮に入れている。

どうせエクトスに身寄りがいないのだからということで、祖国への未練はないようだ。

そして青葉が売られたのがヒエムス、智史がレプトであったことから、その2ヶ国へ行くことにしたのだが、()()()の某国の諜報員ふたりはもう必要ないだけでなく玄界(ミデン)に帰還すればボーダーの敵になると判断してエクトスに残していく。

彼らの願いは近界(ネイバーフッド)へ行ってトリオンとトリガーの秘密を知りたいというものであったからその願いは叶えられるだろう。

しかし麟児が出奔したことを知れば軍もこのふたりの監視を強化し、彼らが玄界(ミデン)に戻って来ることはまず不可能だと麟児は断言している。

 

それから麟児と鳩原はヒエムスで青葉を発見し、軍の人間と()()()()()をして彼女を救出した。

続いてレプトへ行って智史を探そうとするも見付からない。

それは当然で、彼は捕虜としてヒエムスに連行されていたからだ。

そこで麟児たちはもう一度ヒエムスへ行って智史を探し、彼が逃げ出したことを知る。

そうなるとここで智史の手がかりはぷっつりと切れてしまって鳩原は落胆するが青葉を家族に返すために一度三門市へ行こうということになり、メノエイデスでウェルスに会ったことで智史がひと足先に帰還したことを知ったのだった。

 

[これが俺の告白だ。何か訊きたいことがあればできる範囲で答える]

 

麟児は最低限のことしか話していないから、ツグミには知りたいことがまだたくさんある。

しかし彼女の質問は明日ということにし、最も重要な第一次近界民(ネイバー)侵攻で行方不明になった市民の「売却先リスト」を受け取ってこの日の事情聴取はおしまいとなった。

 

 

 

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