ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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391話

 

 

午後になり、青葉の両親がボーダー本部基地へとやって来た。

彼女の場合は100パーセント被害者であるから両親との面会に何ら問題はない。

しかし近界民(ネイバー)近界(ネイバーフッド)の情報を民間人である両親に話してしまえば彼らの記憶をも消去しなければならなくなるので、青葉には詳しいことは一切話さないように口止めしておき、両親にもこの件に関しては口外無用であることを条件に面会を許可している。

9歳であった娘が突然行方不明になり、それがまだ近界民(ネイバー)の存在が知られていない時期であったために変質者による誘拐だと思われていたからひどく心を痛めていた春川夫妻は15歳になった娘の姿を見て涙した。

その涙が無事に帰って来てくれたことへの喜びの涙であるのは当然だが、得体の知れない異世界人によって利用されて苦労したことを思うと哀しいやら辛いやらで複雑な気持ちで泣いているに違いない。

感動の親子の対面であるから、ツグミは遠慮して退室すると続いてやって来る鳩原家の家族を出迎えるために玄関へ向かった。

 

 

鳩原夫妻と智史は神妙な面持ちでやって来た。

春川家の状況とは違い鳩原未来は行方不明になっていただけでなく「隊務規定違反で除隊処分」であったから、家族としてはボーダーに対して顔向けができないという様子なのだ。

だから娘に会えるという喜びを隠そうとしている鳩原夫妻に気を遣い、ツグミは部屋へ案内すると中へは入らずにすぐに雨取家の3人を迎えに行った。

 

 

◆◆◆

 

 

雨取夫妻には麟児が近界民(ネイバー)であることを伝えており、それを承知の上で彼らは面会に来ている。

前日に忍田からその事実を知らされた時にはかなりショックを受けていたようだ。

なにしろ行方不明になっていた息子が1年半ぶりに帰って来て喜んだ直後に彼が近界民(ネイバー)だと知らされたら天国から地獄に落とされたようなものなのだから。

もっとも以前に戸籍謄本を取り寄せてもらった際に麟児が実の息子ではないということはわかっていたことだが、やはり自分たちが洗脳されて偽の家族を演じていたとは信じたくはなかったようで、最後まで近界民(ネイバー)ではないと期待をしていたのだろう。

だからこそ本人の口から確認しなければいけないという覚悟が見える。

千佳はすでに心の準備ができていたらしく雨取夫妻のように動揺している様子はない。

ツグミは3人の許可をもらって同席させてもらうことにした。

 

 

「兄さん…」

 

千佳は絞り出すような声で麟児に呼びかけた。

 

「千佳、元気そうだな。父さん、母さん…あ、すみません。…おふたりもお元気そうでなによりです」

 

麟児は雨取夫妻に「父さん、母さん」と呼びかけてから失敗したという顔をする。

自分が近界民(ネイバー)であることはすでに知らされているはずで、赤の他人の自分がそう呼んではいけないのだと咄嗟に思い出したからだ。

雨取夫妻もどう返事をしてよいのかわからないという顔だ。

騙されて赤の他人を我が子として慈しんでいたのだから許しがたいだろうが、少なくとも一緒に家族として暮らした事実もあるからあからさまに罵ることもできない。

麟児が雨取家に潜り込む以前の記憶は彼によって植え付けられた偽物だが、それ以降の記憶はすべて実際にあったことで紛れもない家族の思い出である。

家族揃っての団欒や旅行の思い出まで否定することができるほど冷酷な人間ではないのだから。

 

「麟児、おまえが近界民(ネイバー)だというのは本当なのか?」

 

父親が訊いた。

 

「はい。今まで騙していて申し訳ありません。弁解はしません。すべて俺が悪いんですから」

 

素直に謝罪する麟児。

「違う」と否定してほしかったのか、母親は涙ぐみながら言う。

 

「どうしてあなたが近界民(ネイバー)なの? 私たちの息子じゃないなんて嘘だって言ってちょうだい」

 

「詳しいことはお話しできませんが、俺は三門市のことを調べるためにやって来た近界民(ネイバー)です。あなた方を騙して市民の暮らしに紛れ込み、第一次侵攻の被害を拡大させた張本人なんです。そんな哀しい顔をせず、嘘つきの近界民(ネイバー)に対して憎しみや怒りの目を向けてください。そして罵っていくらかでも憂さ晴らししてください」

 

麟児は雨取家での暮らしを偽りのものとわかっていながらも楽しんでいた。

エクトスでは得られなかった家族の愛情に包まれた暖かで穏やかな日常は彼にとってかけがえのないもので、失いたくなかったからこそ第一次近界民(ネイバー)侵攻当日に家族全員で三門市を離れていたくらいだ。

その大切な家族に対しての裏切り行為なのだから万死に値するというもの。

彼は三門市に戻ればどのような扱いを受けるか承知の上で、最後にひと目でも「家族」に会いたくて居残ったのだ。

自分の命が惜しいなら鳩原と青葉を艇から下ろしてすぐに近界(ネイバーフッド)へ逃亡することもできたはずで、それをしなかったのはすべて覚悟の上であったということを意味する。

 

(アフトが玄界(ミデン)へ侵攻したという話を耳にした時、俺は真っ先に千佳のことを心配した。アフトでは『神選び』が迫っていて、千佳ほどのトリオンがあれば間違いなく狙われることはわかっていた。だからもしかしたら千佳がさらわれて生贄にされたかもしれないと思い、なぜそばで守ってやらなかったのだと自分自身を責めた。…しかしツグミから聞いた話だと修がボーダー隊員になり、それを追うようにして千佳もボーダーに入隊したということで、ふたりとも危機に陥ったが修の機転と献身で千佳は無事だった。修は大怪我をしたらしいが、それでも俺との約束を守ってくれたようだ。とにかくふたりとも今は元気でいてくれて本当によかった。これでどんな処分となっても心残りはない。まあ、できることなら千佳たちには近界民(ネイバー)なんかと関わりのない場所で暮らしてもらいたいものだが…)

 

麟児がそんなことを考えながら千佳を見ると、彼女は歯を食いしばり小さな両手をギュッと握って拳を作っている。

 

(ああ…全然変わっていないんだな。そうやっていつも辛いことや哀しいことをひとりで抱えてじっと耐えていた。俺に対して恨み辛みを晴らしたいのに我慢しているんだろう)

 

麟児は千佳がボーダーに入隊してから大きく変わったことをまだ知らない。

だから彼女の様子を見てそう感じたのだが、実際は違っていた。

たしかに千佳は言いたいことがあっても耐えていたのだが、それは相手に拒否されることが怖かった()()彼女であって今はそうではないのだ。

 

「兄さん! あなたが血のつながりのない近界民(ネイバー)でわたしたち家族を騙していたとしても、わたしにとってあなたはわたしの兄さんなんです!」

 

「千佳…!?」

 

麟児は初めて千佳が感情を爆発させて自分の気持ちを訴えたことに驚いた。

 

「ツグミさんからもしかしたら兄さんが近界民(ネイバー)ではないかと聞かされた時、わたしは信じられませんでした。だってわたしには兄さんはわたしが小さい頃からいつもそばにいてくれて守ってくれた記憶があるんですから」

 

「それは俺がおまえに偽の記憶を植え付けたからで、本当にあったことじゃない」

 

「ええ、そうかもしれません。でもツグミさんはこうも言っていました。兄さんが第一次侵攻の国の人間であったならあの時に帰国しているはず。でも帰国せずにずっといてくれたのは兄さんがわたしのことを守ってくれていたんじゃないかって。わたしが近界民(ネイバー)…トリオン兵に狙われているのに無事だったのは兄さんが陰でこっそり守ってくれていたからだって」

 

「……」

 

麟児は図星を指されて驚いた。

千佳がトリオン兵に狙われていることを知り、彼は学校へ通っているフリをしながら情報収集と同時に千佳の護衛をしていたのだ。

千佳の登下校の際には彼女の後をつけてトリオン兵が出現すると自ら囮となって守った。

青葉がトリオン兵に捕獲されて行方不明になり、それを千佳が自分のせいだと自らを責めた姿を見て麟児はひどく苦しんだ。

なにしろ玄界(ミデン)の人間は近界民(ネイバー)にとって「トリオン供給源」もしくは「トリガー使い候補」でしかなく、心を通わすことによって()()として見ることができなくなってしまう。

それなのに麟児にとって雨取家の家族はかけがえのない大切な「居場所」になっていて、その大切な妹を哀しませた責任が自分にあると思うと胸が痛んだのだ。

近界民(ネイバー)だとか諜報員だとか関係なく、彼もまた自分が安らげる場所を必要としている普通の人間である。

千佳の泣く姿を見て自分が守らなければならないと強く決心し、第一次近界民(ネイバー)侵攻では彼女を守りきることができた。

だが千佳がいつまで経っても心を許せる友人を作ろうとしない原因が青葉の一件ならば、青葉を連れ戻すしかないと考えるのは当然だ。

青葉がエクトスにいるかどうかは別として手がかりは掴めるだろうということで、麟児は帰国を決心した。

ただし手ぶらでは帰ることができないとしてボーダーの正隊員である鳩原を仲間にし、訓練生用トリガーを使ってボーダーを探っていた諜報員ふたりを騙して手土産に帰国したのだった。

鳩原から聞いたボーダーの情報とこの()()()のおかげで麟児は第一次近界民(ネイバー)侵攻の被害者約400人の情報を手に入れられる立場となり、鳩原と共にエクトスを出奔した。

三門市に帰還して青葉と鳩原を無事に家族の元へ返せばそれで自分の役目は終わり、そして罪滅ぼしができたとわかって昨夜はぐっすりと眠れた。

雨取夫妻と千佳との面会に応じたのはこれが今生の別れという意味である。

もっとも元の雨取麟児の生活に戻って玄界(ミデン)の人間として生きることができればベストだとも考えていたが、雨取夫妻の顔を見たとたんに自分の罪の重さが身に染みた。

だからもう自分の人生に未練はないと投げやりになっていたのだが、千佳の言葉で目が覚めたのだった。

 

「兄さんが近界民(ネイバー)なのはショックだし偽の記憶を植え付けられたというのは哀しいけど、一緒に暮らした時間は本物で楽しかった。だからそれをなかったことにはしたくない。ううん、これからもわたしは兄さんが家族でいてくれたら嬉しい」

 

「千佳…」

 

「ボーダーには近界民(ネイバー)が何人かいます。元は敵だった人だって今は仲間となって一緒に戦ってくれているんだから、兄さんだって協力するって言えば罰を受けないで済むと思います」

 

「おまえは俺を許してくれると言うのか?」

 

「許すも許さないもないです。雨取麟児はわたしの兄さんであることと、わたしが兄さんのことが大好きなのは昔も今も変わらないんだから」

 

千佳は端から麟児を許すつもりでいたようだ。

過去は変えることはできないとしても未来はいくらでも自分の意思で変えることができる。

それはツグミが常に言っていることであり、千佳も彼女のおかげで自分が強くなれたことを認識している。

だからこうして麟児に対して自分の気持ちを言葉にできるようになったのだ。

引っ込み思案だった妹が強くたくましくなったものだと麟児は感心してしまうが、同時に彼女を変えた人間関係に慄いた。

 

(あの千佳が…。そもそもボーダーに助けを求めることをあれほど拒んでいたというのに、俺がいない間に何があったというんだ?)

 

いくら考えたところでわかるはずもなく、麟児は静かに答えた。

 

「ありがとう、千佳。そう言ってくれるだけで十分嬉しい。俺が今後どうなるかはボーダーの判断だから、俺はおまえが言うように協力することにするよ」

 

そう言うと千佳の顔に笑顔が戻った。

しかし雨取夫妻の表情は微妙だ。

 

「麟児、私や母さんはまだ頭が混乱していて、今後おまえとどう向き合っていいのかわからずにいる。少なくともおまえが敵国の近界民(ネイバー)で第一次侵攻に深く関わっているのだから三門市民からすればおまえが悪者であることは事実。しかしおまえが私たち家族のことを大切に思って被害を受けずに済むように配慮してくれたことも紛れもない事実だ。だからおまえのことを悪く思いたくはない。それだけはわかってほしい」

 

父親がそう言うと麟児は深く頷いて礼を言った。

 

「その言葉だけで十分です。ありがとうございました」

 

千佳はまったく問題ないようだが、雨取夫妻とはもう少し時間をかけて和解する必要がありそうだ。

 

 

◆◆◆

 

 

春川夫妻と鳩原家の3人、そして雨取夫妻が帰宅してしまうと、今度は千佳が青葉と面会した。

お互いに顔を見ただけで泣き出してしまい、人目がないものだから抱き合って大声で涙が枯れるほど泣いた。

そして気持ちが落ち着くとお互いに離れ離れでいた間の出来事 ── もちろんお互いに口外してはいけないことは言わない ── を話して空白の時間を埋めたのだった。

 

 

 

同じ頃、修と遊真が麟児と面会をしていた。

遊真と麟児に面識はないものの、ふたりは近界民(ネイバー)であるという立場が同じであり、近界民(ネイバー)でもボーダーの協力者になれるという前例として会わせたいというツグミの提案である。

もちろん麟児の嘘を見抜くことができるという点も大きいが、遊真と修の信頼関係を知ればボーダーに積極的に協力してくれるのではないかと彼女は考えているのだ。

 

「麟児さん、お帰りなさい」

 

修が涙ぐみながら言う。

 

「ただいま、修。千佳のことをよく守ってくれたな」

 

「ぼくだけの力じゃありません。ボーダーのみんなが協力してくれたおかげです」

 

修は千佳と違ってツグミから麟児が近界民(ネイバー)ではないかという仮説を聞かされていなかったから、昨夜の帰還の報と同時に彼が近界民(ネイバー)であることを知らされて息が止まるほど驚いてしまった。

しかし落ち着いて考えてみるとありえない事実ではない。

そしてひと晩経つと麟児が近界民(ネイバー)あったところで今までの関係は変わらないのだと気が付き、彼の正体を知った直後は会うことが怖かったが玉狛支部を出る時には会える喜びで胸がいっぱいであった。

だから麟児の部屋のドアを開けた時には笑顔だったのだが、彼の顔を見た瞬間に嬉しくて涙が出てしまったのだった。

 

修は遊真を麟児に紹介した。

 

「彼は空閑遊真。ぼくと千佳とのチームメイトで、彼も近界民(ネイバー)です」

 

遊真のことを近界民(ネイバー)だと言った瞬間、麟児の細い切れ長の目がさらに細くなった。

 

「はじめまして。おれは空閑遊真。オサムが言ったように近界民(ネイバー)です。どうぞよろしく」

 

「俺はエクトスのリンジ。玄界(ミデン)では雨取麟児を名乗っている」

 

お互いに自己紹介をすると、麟児が遊真に言う。

 

「千佳と修のことを助けてくれてありがとう。ツグミから少しだけだが話を聞いている。アフトの侵攻の時にはふたりを守ってくれたらしいな」

 

「おれは大したことはしていない。おれの相棒が命懸けでがんばってくれたんだ」

 

そう言って指輪からレプリカを登場させた。

 

〔はじめまして。私の名はレプリカ。ユーマのお目付け役だ。以後よろしく〕

 

レプリカの登場に麟児は特に驚きはせず、珍しいものを見る目で見つめた。

 

「自律型トリオン兵か…。トロポイという国で自律型トリオン兵を造っていると聞いたことがあるが、きみはトロポイの人間なのか?」

 

「いいや、違う。くわしいことは言えないけど、レプリカは親父が造ったものなんだ。その親父は玄界(ミデン)の人間だけど」

 

「ふ~ん…いろいろ事情がありそうだな。俺も人のことは言えないが」

 

近界(ネイバーフッド)でいろんな国を回ってきたなら誰だってそんなもんさ」

 

「フッ…」

 

お互いに数々の戦場を渡り歩いてきた歴戦の兵として通じるところがあるのだろう。

初対面ではあるがいい雰囲気になっている。

その様子を見ていた修はひと安心だ。

 

「麟児さん、ぼくはまだあなたが近界民(ネイバー)だって信じられないんですけど、どうして近界民(ネイバー)のあなたが千佳の兄だと偽って三門市で暮らしていたのか教えてもらえますか? それとどうして突然姿を消してしまったのかも」

 

修の疑問は誰でも抱く当然のもので、まだツグミから詳しい話を聞かされていなかったものだから本人から直接聞こうというのだ。

 

「いいけど全部は話せない。ボーダーから許されている範囲内のことなら話してやろう」

 

麟児は自分がエクトスの諜報員であり、三門市にやって来た時から第一次近界民(ネイバー)侵攻に至るまでの話を一気にした。

その間、遊真は特に反応せずにいたため、修もここまでの話が嘘ではないことを確信する。

続いて第一次近界民(ネイバー)侵攻後に帰国せずに三門市に残った理由や、なぜ1年半前のあのタイミングで帰国することにしたのかにも言及した。

 

「じゃあ、ぼくに密航計画を話したんですか? ぼくを連れて行く気なんてなかったのに、どうしてぼくを誘うようなことを言ったんですか?」

 

「それはおまえが賢い人間で、俺はひとりでも多くの協力者が欲しかったからだ。だけどおまえのトリオン能力で近界(ネイバーフッド)へ行くのは自殺行為。最低でも武器(トリガー)が使えるだけのトリオン能力者でなければ死ぬだけだ。だから俺は計画を打ち明けた後でひどく後悔したよ。おまえに説明することもできたが、おまえは絶対に諦めようとはしないだろうから黙って置いていった。そのことについてはいくら謝罪しても許されることではないと思っているが、やはり謝らせてくれ。すまなかった、修」

 

麟児は修に頭を下げた。

 

「ぼくはあなたに謝ってもらうだけの価値はありません。たしかにぼくのトリオン能力では近界(ネイバーフッド)へ行っても何の役にも立たないだけでなく足を引っ張るだけだと理解しています。もしあの時にトリオンが少ないからダメだと言われても納得できなかったでしょうが、今なら良くわかります。…ただ密航なんて重大なことをぼくに打ち明けてくれたことがすごく嬉しかった分、置いていかれたことが悲しかった。理由がわからないから余計に辛かったんです」

 

「……」

 

「でももういいんです。あなたが無事に帰って来てくれたんですから。それでこれからどうなるんですか?」

 

不安そうな顔の修に麟児はきっぱりと言った。

 

「まだわからない。俺は第一次侵攻の加害国であるエクトスの人間であり、直接あの大侵攻に関わった諜報員なのだからそれなりのペナルティがあって然るべきだ。俺は三門市へ戻るとなればそれ相応の罰が下されることを承知でいたから覚悟はできている。まあ、帰る国もないのだから、できるかぎりボーダーに協力して減刑を求めるさ」

 

「そうですか…。でも霧科先輩が関わっているのなら安心です。あの人なら絶対に悪いようにはしないはずですから」

 

修の口からもツグミを信頼しているような発言が出たものだから、麟児は彼女に対してさらなる興味を抱いた。

 

「修、その霧科ツグミという少女について詳しく聞きたい。千佳も絶対的な信頼を抱いていたような態度だったが、彼女はどういう人物なんだ?」

 

「霧科先輩のことですか? ぼくの口からは言えないこともありますが、教えてもかまわない範囲でなら話します」

 

そう言って修は自分が知る、そして感じたことを正直に話した。

自分が玉狛支部に異動になり、遊真と千佳で部隊(チーム)を組んだ時からずっと陰から支えてくれたことや、自分や千佳の心の問題についても親身になって解決へ導いてくれたこと、そしてアフトクラトル遠征へ参加しても無事に帰還できたのはツグミのおかげであると説明したのだった。

そして現在はキオンやアフトクラトルなどの国の近界民(ネイバー)と積極的に交流し、市民救出計画の中心人物であることも話した。

 

「ふむ…キオンにアフトクラトルか…。またとんでもない国の人間とつながりがあるんだな。…そういえば玄界(ミデン)の少女がミリアムの(ブラック)トリガーを所持しているとか、キオンのスカルキ総統と懇意にしているという話を耳にしたが、それが彼女だったのか」

 

「はい、そうです。ボーダーでもキオンの諜報員の協力を得てアフト遠征を成功させていますから、麟児さんもボーダーに協力すればきっと許してもらえますよ」

 

「ああ」

 

麟児はツグミを味方にすれば自分にとって利益があると判断したが、同時に自分の()()では操ることができない人物であることも理解している。

彼が操ることができるのは心に隙間のある寂しい人間であり、雨取家に潜入できたのは千佳の問題があったからだ。

しかしツグミにはそういう心の隙間がなく、確固たる自分の信念を持ち、目的のためにはよそ見をせず邁進するタイプであるから心に入り込むことは不可能。

 

(つまり俺の態度次第ということだな。雨取家に戻ることは無理でも三門市(この街)で暮らしていくことは不可能ではなさそうだ)

 

玄界(ミデン)を追放されたとしても近界(ネイバーフッド)で生きていくことはできるだろうが、人として満たされた気持ちを味わうことはできないだろう。

祖国を裏切った彼にとって近界(ネイバーフッド)に安住の地はない。

特に元諜報員となればいろいろな国で利用できるとして仲間に引き入れようとするだろうが、一度裏切った人間が二度裏切らないという保証はないので仲間であっても彼を警戒するから、心を許せる相手などできるはずがないのだ。

そして組織内で何かトラブルがあれば容疑者として真っ先に疑われるであろうから、普段から身の潔白を証明できるように心がけなければならない。

まあ、エウクラートンのような農業国で小作人のようなことをしてひっそり暮らしていくのなら特段危険はないだろうが、仮にエクトスの同業者に発見されたら裏切り者の彼の人生はそこで終わることになる。

雨取家の家族が恋しくて帰国した気持ちがあるのだから最善策はボーダーに積極的に協力して再び三門市民として生きていくことで、雨取家で一緒に暮らすことはできずとも同じ街に住んでいれば千佳のことを遠くから見守ることもできるというものだ。

 

ピピピピ…

 

面会時間終了の合図のアラームが鳴った。

残念そうな顔になる修に麟児が言う。

 

「今日はこれでおしまいだが、必ずまた会える。その時にはゆっくりと話をしよう」

 

「はい」

 

そうして修と遊真は麟児の部屋を出て行った。

すると遊真が言う。

 

「リンジさんの言っていることに嘘はなかったよ。隠していることはたくさんありそうだけど、ま、それは当然だね」

 

「そうか…。付き合ってくれてありがとう、空閑」

 

「何を言ってんだ。おれもチカの兄さんには会ってみたかったからいいんだよ。それでこれからどうするんだ?」

 

「今、千佳は友だちの青葉って子に会っているはず。それが終わったら一緒に玉狛へ帰ろう。麟児さんに再会して嬉しいことやショックだったことがあるだろうから、そばにいてやりたいんだ」

 

「やっぱオサムは面倒見の鬼だな」

 

 

修と遊真が麟児と面会している頃、二宮が鳩原の部屋を訪問していた。

 

 

 

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