ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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394話

 

 

11月9日、11月度の入隊試験が行われた。

アフトクラトルによる大規模侵攻後に入隊希望者が増えたことで、毎月入隊試験と入隊式が行われるようになってしばらく経つが未だに希望者の数は減らない。

特に智史の帰還と近界民(ネイバー)の協力者の存在、ボーダー設立の経緯など新たな事実が公になることで市民がボーダーをより一層身近なものと感じ、応援してくれるようになっている証拠ともいえよう。

平均して毎月受験者は40から50人ほどいて合格者は平均して12-3人となっているのだが、不合格者のほとんどが「トリオン不足」である。

やる気はあってもトリオン能力の低さで落とされてしまうわけで、修のように結果に不満を持って上層部に直談判しようとする受験者は今のところ現れていない。

今回の受験者は麟児を含めて37人。

彼を除く36人はすべて三門市内の中学生と高校生ということで、受験会場である市役所の大会議室で試験の開始を待っている受験者の中では少々目立つ存在になっていた。

麟児の受験は急遽決まったことで受験勉強する時間はなかったが、基礎学力試験は一般常識で中学生でも普通に回答できるものだから彼には不要である。

午前の基礎学力試験と基礎体力試験、午後の面接を経て合格者が決まることになっており、当日中に合否の発表が行われる。

今回の合格者は11人で、もちろん麟児は合格であった。

これで来週の16日に入隊式を待つだけであるが、玉狛支部の訓練場を使ってボーダーの武器(トリガー)に慣れるための訓練を行うことにした。

使うのは拳銃(ハンドガン)で、これはエクトスの諜報員の護身用トリガーとほぼ同じタイプの銃型トリガーであるため使い勝手が良いということから選んだのだった。

そして入隊理由を鑑み、今後は玉狛支部で暮らすことになって麟児の監視と管理は林藤に任されることとなる。

玉狛支部には修が住んでいて千佳も頻繁に通っているので麟児も不安はないだろう。

 

 

入隊式は滞りなく進み、恒例の嵐山隊による入隊指導(オリエンテーション)が終わると新入隊員たちは個人(ソロ)戦に臨む。

麟児は入隊式までの1週間ですでに3500までポイントを上げていた。

木虎が入隊時に3600であったから無難なところだと思われる。

そしてあっという間に4000ポイントを超えたことでB級認定を受けて玉狛支部へと帰って行ったのだった。

これはヒュースのケースとは少々違うが、入隊式当日にB級昇格した2例目となる。

 

 

 

 

入隊式の夜、玉狛支部では麟児の入隊とB級昇格を祝うパーティーが行われていた。

玉狛支部所属のメンバーは全員揃って彼のお祝いをし、その場で玉狛第2の再結成が報告された。

この場に遊真はいないものの、麟児の加入と部隊(チーム)の再結成についてが修の意思だとすれば異論はないはずである。

新たな隊長は麟児が引き受けるのが無難なのだが、近界民(ネイバー)がふたりもいるだけでなく隊長までもが近界民(ネイバー)であるというのは上層部のメンバーが良い顔をしないということで、修が引き続き隊長を務めることになった。

修も岡宮との訓練が功を奏してだいぶ自分に自信が持てるようになってきたから不安はないし、麟児の指導があれば戦闘力以外の能力アップが見込めるだろう。

千佳も麟児がいつもそばにいてくれるのならボーダーで頑張ろうという気にもなり、この分なら両親の説得もできるはずである。

ただし遊真と千佳が個人で遠征に参加することになるだろうから、来期のB級ランク戦に参加するかどうかはまだ決まっていない。

 

 

◆◆◆

 

 

新しい「神」と「王」が誕生してからふた月経ち、アフトクラトル国内の代替え直後の混乱は収まりつつあった。

ハイレインのことを快く思わない四大領主の3人は共闘して彼とベルティストン家を追放しようと企んだこともあったのだが、そもそもその3人の仲が良いものではなく単純に「敵の敵は味方」というレベルであるから足並みが揃わず、おまけにハイレインを追い落とした後の国王に誰がなるかで揉めてしまい、結局のところクーデターは成功どころか決行もされなかったのだ。

しかしクーデターを画策していたことはハイレインの耳に届いており、3領主は国家反逆罪でを処分された。

首謀者3人 ── そのうちひとりは前国王 ── は斬首、さらにそれぞれの家の次期当主は人質としてハイレインの監視下に置かれるようになり、これでハイレインとベルティストン家の一強体制が整うこととなった。

奇しくも3領主たちはハイレインのために自らの命を捧げたような形になってしまったのだった。

 

新しい「神」の登場によって国土は復活の兆しを見せていたが、一朝一夕に元の繁栄を取り戻すことはできない。

太陽の復活と土壌の改善で農地だけでなくこれまで荒地となっていた土地にも緑が戻り、国民の心の中にも光が差し込むようになっているものの、十分な食料を得るまでには数ヶ月の時間がかかる。

季節は春の初めであるから、収穫までの約半年はこれまでのように他国から徴収しなければならない。

ところが従属国のいくつかが「神選び」の混乱の中で離反してしまっていた。

ガロプラでの(マザー)トリガー奪還が引き金となり、それぞれの国で住民たちが立ち上がったのだ。

そのせいで食料調達が困難になり、ひとまず食料に余裕のある国から購入するということで一時しのぎをすることにした。

できることなら適当な国に侵攻して制圧することで従属させたいのだが、ボーダーと戦ったことでトリオン兵の大多数を失い、ガロプラに駐留していた配下のトリガー使いは混乱に乗じて亡命してしまったことで手駒の数がだいぶ減ってしまっているためにできずにいる。

まずは次の侵攻を成功させるための準備 ── トリオン兵の増産と窓の影(スピラスキア)泥の王(ボルボロス)、そして蝶の楯(ランビリス)の新たな使い手を見付けることを急ぐことにした。

 

 

そしてボーダー及び玄界(ミデン)に対する今後の対応についてどうするかを悩んでいた。

 

(二度も煮え湯を飲まされたこの屈辱に甘んじているような俺ではない。しかし今はまだ玄界(ミデン)に手を出すべきではないことくらいわかっている。今の戦力では勝ち目は薄く、三度目の敗北の憂き目を見ることになるだろう。とはいえキオンとボーダーが正式に手を結ぼうとしているという話がある。玄界(ミデン)のトリオン技術のレベルではキオンと対等に渡り合うことはできるはずがなく、別の何かがテスタ・スカルキの目に止まったに違いない。…しかしどうやって接点を持ったのだ? 接点があるとすればキオンがミリアムの(ブラック)トリガーを探していて、所持していた玄界(ミデン)の少女から奪えなかったという噂を耳にしているからそれに違いない。だがそうなると()()()に使わなかった理由が見当たらない。ミリアムの(ブラック)トリガーとは追尾能力に優れていて標的(ターゲット)()()倒す…いや死に至らしめるという恐ろしいものだということだ。キオンの諜報員が奪えなかったというならば、その所持していた少女というのも相当な手練であったに違いない。もしかしたら俺とミラを相手に戦った少女ではないだろうか? とにかく玄界(ミデン)には我々の知らない()()があるに違いない。キオンが対等な立場で手を結ぼうとするだけの魅力があるのなら、それこそ我がアフトクラトルが手に入れなければいけないものなのではないのか?)

 

ハイレインにとってボーダーは憎い相手ではあるが、キオンに有利な状況を作ってしまえば相対的にアフトクラトルは不利になる。

近界(ネイバーフッド)統一の障害となるキオンの存在がますます大きくなるようでは都合が悪いどころではない。

 

(ボーダーと和解するのは俺の矜持が許さないが、アフトクラトルと近界(ネイバーフッド)の未来のことを考えればやむをえないことだ。ボーダーによってディルク・エリンとその家族が誘拐されたという事実がある以上はそれを利用しない手はない。話によるとエネドラが俺への意趣返しにボーダーと取引したということになっているようだが、アフトクラトルの国民を拉致したという行為は事実であり、俺が王として引渡しを要求するのは当然だ。もっとも俺が言える立場ではないがな。今のところキオンとは正式な国交を結んではいないようだ。ならばこちらがもっと良い条件を提示すれば…いや、そう簡単にはいかぬだろう。なにしろエネドラが玄界(ミデン)の人間を殺しているからな。その償いをしないうちに話し合いの場に引っ張り出すこともできぬ。その償いに見合うものを差し出せばあるいは…)

 

一方的に侵攻して三門市に大被害を与え、ボーダーの人間を6人殺害し、C級隊員32人を拉致したハイレイン隊。

それに対して仲間を取り戻すために遠征を行ってハイレイン隊と戦ったが、アフトクラトルの街や住民にはまったく被害を与えなかったボーダー。

仮に第三者が公平な目で見て判断するとなればハイレイン隊が一方的な加害者でボーダーは被害者ということになり、相当な補償をしなければボーダーが対等な話し合いに応じるはずがないと言うだろう。

しかしアフトクラトル側で提供できるのはトリガー技術くらいしかなく、それはキオンも同じ条件であるのだが双方の大きな違いは「キオンは玄界(ミデン)に被害を与えていない」という点である。

簡単に言えばアフトクラトル側はマイナスをゼロに戻すだけにしかならず、キオンはゼロからプラスにするのだから圧倒的に有利なのだ。

ハイレインがボーダーと手を結ぶにはキオンの提示する条件よりもはるかに上回るものを出さなければ勝負にならないということ。

ボーダーに対してはキオンがバックにいる限り絶対的な武力によって制圧するという手段が使えない。

キオンを排してボーダーと手を組むには条件が悪すぎる。

すべてはハイレインが蒔いた種であり、彼自身が刈り取らなければならない結果なのだが、相談できる人材がいないのが彼らしい。

自分の野望ために大切な部下4人 ── エネドラ、ヒュース、ミラ、ディルク ── を()()()()()彼らしい無様な姿だ。

ランバネインはこういった交渉など頭を使うことは得意ではないし、かろうじてヴィザが年の功でいろいろなことを知っているからハイレイン隊の相談役ではあった。

しかし外交となるとヴィザも専門外であるからそうもいかない。

いくらひとりで考えても名案は浮かばず、ひとまず使者を送ってボーダーの反応を確かめることに決めた。

 

そして選ばれた使者はエリン家の執事・セリウス。

主人(ディルク)に会いたい一心の彼が玄界(ミデン)行きを断るはずはなく、ハイレインに娘を人質に取られてしまったものだから任務を無事に遂行して帰還するしかないのだ。

チャンスさえあればエリン家の家族を連れて帰るようハイレインは命じているが、トリガー使いでもない彼にそこまで期待するのは無茶だということも理解している。

ハイレインはアフトクラトル国王としての親書をセリウスに託し、玄界(ミデン)へと向けて送り出した。

 

 

◆◆◆

 

 

アフトクラトルの新国王の親書を携えて正式な使者としてセリウスが三門市へとやって来たのは晩秋の早朝のことであった。

国旗を掲揚した艇が(ゲート)を開いたのは立入禁止区域内で、偶然にも付近を巡回していた迅が現場に駆け付けた。

そこで現れたのが顔なじみのセリウスとわかり、すぐに忍田に連絡をして本部基地へと連行することに決まる。

それと同時にツグミにも知らされ、朝の稽古の途中で呼び出されたものだから朝食の準備もせずに本部基地へと急行した。

セリウスはアフトクラトル政府の正式な使者であるからボーダー側も扱いが難しい。

ハイレインが三門市に多大な被害を与えた張本人とはいえ、先の大侵攻はアフトクラトル政府とは関係ない蛮行である。

しかしそのハイレインが王となりアフトクラトルの代表となった今、彼が謝罪と和解の意思を示したのだからそれを無碍にはできないのだ。

そこで一般隊員や職員には秘密にして上層部メンバーだけでどう対応するか判断するのだが、近界民(ネイバー)とのコミュニケーションに関してはボーダー内でツグミの右に出る者はおらず、その上セリウスとは顔見知りであり信頼されている彼女を頼ることにした。

 

 

総司令執務室に集まったのは城戸、忍田、唐沢、迅、そしてツグミの5人。

幹部であっても鬼怒田や根付たちにはまだ知らされていない。

それは彼らが不要だとか信用できないというのではなく、まずは最小限のメンバーだけで話を進めようということだ。

セリウスの発見が迅であったことも好都合だった。

彼の存在を知る者はオペレーター数人だけであり、彼女たちもいつものトリオン兵の出現だと思い込んでいる。

そして迅がトリオン兵を停止させたことになっており、アフトクラトルから来た人型近界民(ネイバー)だとは誰も想像もしていない。

いずれは城戸が公式に発表することになるが、ある程度の目処が付くまでは秘密にしておきたいということなのである。

 

ハイレインの親書を読んだ城戸は難しい顔をしてその内容を皆に話す。

 

「アフトの新王となったハイレインが1月の大侵攻における自らの行為について公式に謝罪をし、和解の後に対等な関係において友好国としての盟約を結びたいという内容だ。一方的に攻めて来て、一方的に和解したいという勝手なものだが、近界(ネイバーフッド)の軍事大国の国王の申し出を無視するのは得策ではない。ボーダーと三門市への謝罪に関しては国王の代理としてベルティストン家の当主代行となった弟のランバネインが三門市を訪問して公の場で頭を下げるそうだ。そして和解の条件はディルク・エリンの解放。エリン家の人間をアフトに返せということだ。ハイレインはツグミの書いたシナリオを信じ、ボーダーが家族ごと拉致したと信じているようだな」

 

するとセリウスが補足する。

 

「すべてはエネドラの復讐で、ハイレインとベルティストン家への嫌がらせのためにディルク様たちを拉致したと申し上げましたが、どこまで信じているか確証はありません。あの時のハイレインはディルク様とヒュースの手引きでボーダーが都市内の情報を得たと思い込んでいて激昂していましたから。ですがヒュースの日頃の態度と性格を良く知っており、さらにエネドラの乱行のことも承知していましたから、どちらが情報を流したのか冷静になれば後者だと判断するわけです。ですから地下道の存在や玄界(ミデン)の子供たちの居場所を知ることができたのはすべてエネドラのせいだと考えていることでしょう。そうでなければボーダーに対して手を結ぼうなどと考えるはずがありません。そして『神選び』が終わりましたから、ディルク様が帰還した暁にはこれまで同様に厚遇すると言っておりました」

 

つまりハイレインは国王代理としてランバネインを三門市へ派遣して頭を下げさせるから大規模侵攻のことは手打ちにしてくれと言っているのだ。

おまけにディルクを返してくれるなら和解をして、対等な立場で友好関係を結ぼうという「かなり自分勝手な言い分」の内容の手紙を送り付けてきたというもの。

どう考えてもボーダー側に得になるようなものではなく、キオンとアフトクラトルを天秤にかけても明らかにアフトクラトルと手を結んでも意味はない。

しかしこの親書には書かれていないものの、無視すればアフトクラトルの王として全力で叩きのめしてやるという意思がうかがえる。

ひとまず話し合いの場にボーダーを引っ張り出そうというもので、ボーダーが応じなければ再侵攻もありうるという脅しなのだ。

ツグミの感想は「ハイレインは有能な補佐官がいない可哀想な人」であった。

 

(この内容じゃ相手が話し合いに応じようという気にはなれないわよ。自分たちにとって()()都合の良い条件を出しただけじゃダメ。ボーダー側にも旨みのある話でなきゃ乗ってくるはずがないじゃないの。ハイレインって男は頭は良いのかもしれないけど自分が一番偉いって考えていて、自分に従わない者に対して力で押さえ付けて従わせようとするタイプなんだろうな。それだから心を許せる仲間がいないのよ。ディルクさんの話だとヴィザは先代の当主、つまりハイレインの父親の時代からの部下で、ハイレイン本人ではなくベルティストン家当主に仕えているだけらしいし、ランバネインは唯一の肉親だけど彼がハイレインを兄と慕おうとしてもハイレイン自身が自分のことを主君として接するように命じている。周囲の人間を自分の部下としてしか見ていないから誰も親身になってくれるはずがない。おまけにエネドラ、ヒュース、ミラといった側近を切り捨て、ディルクさんを生贄にしようとした。仮にそれがどうしても必要なことだったとしたって他に手立てを考えるべきだったわ。そもそも近界(ネイバーフッド)…自分の国の問題に玄界(ミデン)の人間を巻き込む時点でアウト。欲しいものは他人から奪い、他人の犠牲の上にしか自分の幸福や栄達を得られないなんてダサい、ダサすぎる。そんな男が国王だなんて笑わせるわよ)

 

そしてこうも考えていた。

 

(たぶんハイレインはボーダーとキオンが正式に同盟を結んでキオンが玄界(ミデン)の技術や文明を取り入れることで近界(ネイバーフッド)の覇権を握る前に邪魔をしたいんだろうな。そうしないと武力で制圧して従わせるアフトのやり方に反抗してキオンの勢力下に入る国が出てくるに決まっているもの。キオンは強大な武力をちらつかせながらも穏便に事を運び、そのための手段に玄界(ミデン)の文明を使おうとしている。それは悪くないとわたしは思う。どんな形であれ近界(ネイバーフッド)の国々が平和になり、三門市民に危害を加えないようになればそれで十分。近界(ネイバーフッド)で戦争がなくなれば無駄にトリオンを消費することはなくなるしトリガー使いだって必要なくなる。わざわざ(ゲート)を開いて三門市民をさらう必要がなくなるんだから。でもハイレインのやり方じゃいつまで経っても埓が明かない。いっそ会見に応じてボーダーがアフトと同盟を結ぶことは絶対にありえないって引導を渡してやるのも手かも? でも奴の思いどおりに話し合いの席に着くのは胸くそ悪い。…ただここでボーダーがこの親書を無視したなら人質になっているセリウスさんの娘さんが無事じゃ済まないに決まってる。ああ、何かいいアイデアはないかな…)

 

ツグミと同じように忍田や唐沢たちも考えていた。

 

「これは我々を話し合いの場に引きずり出すためだけのもので、応じなければ再侵攻の可能性もありうると暗に匂わせている。これでは話になりませんね」

 

唐沢が呆れたような顔で言う。

それに同意という意味で忍田が頷いた。

 

「ああ。この親書だけではまだわからないが、アフト側が単に頭を下げただけで済む問題ではない。あれだけのことをしておいてゴメンのひと言で片付けようなどとは、我々も舐められたものだ」

 

城戸も同じ気持ちらしく険しい顔で黙っている。

そんな3人の様子を見ていてツグミは考え方を変えてみた。

 

(みんな同じ考えよね…。でもいっそのことランバネインを招き寄せてこっちの味方にしてしまうっていうのはどうだろ? 今のハイレインは王となったことでアフトの城から離れることはできない。おまけに信頼できる部下も多くを自分で切り捨ててしまったから、使える駒はランバネインとヴィザくらいしかいないらしい。そうなるとランバネインを切り離してしまえば脅威となるのはヴィザと星の杖(オルガノン)だけになる。難しいけど不可能ではない)

 

するとツグミの表情の変化に気付いた迅が城戸に声をかけた。

 

「城戸さん、ツグミが何か妙なことを考えているみたいですよ。話を聞いてみたらどうです?」

 

その言葉をきっかけにその場にいた全員がツグミに注目した。

その反応に苦笑するツグミだが、言うだけ言ってみようということで口を開いた。

 

「そんなに期待するような目で見ないでください。わたしだってハイレインの申し出は自分勝手で取り上げるようなものではないと思います。でもここで無視しても得はなく、それにボーダーが()()()()()()()()()()返事をしないとヤバいということ。もし無視なんかしたらセリウスさんと娘さんがどんな扱いを受けるかわかりません。セリウスさんは板挟みになって辛い立場でしょうから、ここは謝罪をするというハイレインの意思を信じることにしてランバネインを迎えましょう」

 

「もしや拘束して人質にするのか?」

 

「違いますよ、城戸司令。本人の意思でボーダーの味方になろうと思わせるように誘導するんです。ディルクさんとセリウスさんから聞いた話と大規模侵攻で直接戦った東隊長たちの話、そしてわたしが実際に本人と会って感じたランバネインの印象は決して悪いものではありません。彼は戦闘狂のように思えますが強い相手と戦いたいという太刀川隊長のような単純な人間で、卑怯なマネを嫌う竹を割ったような性格の武人のように思えます。ベルティストン家の当主であるハイレインを兄と慕っているようですが当主であるという点も弁えており、含むところがあっても当主に従う家臣としての立場を崩しません」

 

「ならば味方にするのは難しいんじゃないのか?」

 

「たしかにそのとおりです。でもこれまでの行為…エネドラとヒュースを騙して()()したり、ミラを生贄にするなど側近に対しての非道な仕打ちには辟易しているはず。もし彼が『神』となる資質を満たしていて他に候補がいなかったらハイレインは実弟であっても自分の野望の犠牲にしていた可能性があります。そうなるとランバネインだっていつまでもおとなしく従っているとは思えません。もちろん国王となった兄を裏切って祖国に刃を向けるなんてことはありえませんが、こちら側からアフトのために役立つことを提案すれば聞く耳は持つことでしょう」

 

「ふむ…」

 

「ランバネインという男はハイレインよりもはるかに人間の心を持っていて()()()タイプです。ハイレインは冷静で冷酷、目的を達するためなら人の心の温かい部分を自ら切り捨てて淡々と行動できる。でもランバネインは情というものを捨て切れない。唯一の肉親であり当主、そして国王となったハイレインの命令に従いながらも自分の心に嘘をついていて、その矛盾で苦しんでいるんじゃないかとわたしは考えています。ハイレインが国王になったことでランバネインがベルティストン家当主代行をしているそうですが、本来ハイレイン本人が頭を下げるべきところを弟にさせるのはどうかと思いますから、ランバネイン本人が一番モヤモヤしているんじゃないかと。もしそんな彼を理解できる人間がいて『友人』になってくれるとしたらどうでしょう?」

 

「それはランバネインという男の情に訴えるということか?」

 

「そのとおりです。具体的な案はまだですけど、方針としてはこんな感じですね。もしお任せいただけるならこのあとセリウスさんを寮へお連れしてエリン家のみなさんに会ってもらい、ディルクさんとヒュースの意見を聞きながら具体案を詰めたいのですけど…いかがでしょうか?」

 

ツグミが遠慮がちに言うものだから城戸も反対する理由がないとして許可することにした。

 

「よかろう。…それと唐沢くん、きみにも同席してもらいたいがどうだろう?」

 

唐沢は想定外のことに少し戸惑うが、すぐに快い返事をした。

 

「わかりました。夜には人と会う約束がありますけど、それまでなら問題ありません」

 

城戸が唐沢を指名したのは迅と忍田ではツグミ可愛さで公平な判断ができず、唐沢のようにビジネスライクに物事を見て判断できる人間の同席が良いと考えたからだ。

それになによりも交渉のプロにいてもらった方が話も順調に進むし、ツグミも唐沢のことを頼りにしているからこれがベストな人選なのである。

 

 

 

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