ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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405話

 

 

あっという間に1週間が経った。

ランバネインの来訪はボーダーの人間だけにしか知らされておらず、スポンサーや行政関係者であっても民間人には一切知らされてはいない。

なにしろ1月の大侵攻の加害近界民(ネイバー)が三門市に再びやって来るとなれば大騒ぎになるだろうし、なによりもマスコミが黙ってはいないはずだ。

謝罪を目的としているといってもボーダー隊員ですらにわかに信じられず、殉職した6人の職員たちと親しかった者たちは複雑な気持ちでいる。

仲間や友人の復讐をしてやりたいと思う気持ちを抑え、事の成り行きを見守ることにしたのは、個人的な感情よりも優先すべきことがあるからだ。

したがってランバネインの来訪についてはボーダー内で大きな混乱を生まずに本番当日の朝を迎えたのだった。

 

 

アフトクラトルを発った遠征艇はランバネインひとりを乗せ、三門市上空に開いた(ゲート)から現れた。

ボーダー本部基地では(ゲート)誘導装置を作動して採石場跡地に設定しておいたので、自動的に艇は採石場の広場の上空に出現し、そのまま着陸する。

その広場にもタキトゥスの(ブラック)トリガーによってが(ゲート)が開かれ、そこから城戸、忍田、林藤、唐沢、迅、ゼノン、そしてツグミが姿を現した。

ゼノンの(ブラック)トリガーは窓の影(スピラスキア)のように戦闘能力はないが、こういう時には非常に便利なトリガーだ。

艇を転送させるくらいの大きな(ゲート)を開くのも可能で、同時に十数人の人間も転送できる。

これを使えば三門市内の移動は簡単で、民間人に悟られずにランバネインを本部基地へと迎え入れることが可能となった。

 

艇から降りて来たランバネインはトリオン体ではなく生身の身体にアフトクラトルの貴族男性の正装を着ている。

それは「アビ・ア・ラ・フランセーズ」という中世貴族男性の衣装に良く似ていて、アビ(フランス型の上着)、ジレ(ヴェストまたはウエストコート)、キュロット(膝までの半ズボン)で構成されている。

フランス革命を描いた某女性向け漫画の登場人物の貴族たちが着ていた衣装をイメージすればわかりやすいだろう。

ただし身長が190センチを超えるガチムチなランバネインにはあまり似合ってはおらず、襞の付いたヒラヒラの胸の飾り「ジャボ」が鬱陶しいらしくネクタイを緩めるように指を入れている様子は着慣れない服に困惑している雰囲気がある。

これも本人の意思ではなくハイレインに指示されたことなのだろう。

城戸はそんなランバネインにゆっくりと近付いて行った。

 

「ようこそ、玄界(ミデン)へ。私が界境防衛機関ボーダー最高司令官城戸正宗です」

 

「俺はアフトクラトル国王ハイレイン・ベルティストンの代理のランバネイン・ベルティストンだ。…って俺のことはそっちも良く知ってんだよな。まあ、今回は前みたいに暴れる気はないから安心してくれ」

 

「その言葉を信じましょう。ひとまず彼らに自己紹介をしてもらいます」

 

城戸がそう言うと忍田から簡単な自己紹介をする。

そして最後にツグミが膝下10センチのスカートの裾を軽くつまんでカテーシー、つまり社会的ランクが下の者からランクが上である相手に対して行うお辞儀をした。

 

()()()()()。わたしはボーダー防衛隊員の霧科ツグミと申します。ランバネインさんの滞在中はわたしが玄界(ミデン)流のおもてなしをさせていただきます」

 

「おう、よろしくな」

 

ランバネインは上機嫌で答えた。

 

ツグミはアフトクラトルで2度ランバネインと出会っている。

特に2回目は会話も交わしていてランバネインに興味を持たれたほどだから、ツグミにとって彼の気持ちを掴むのはさほど難しくない。

彼の()()は把握しており、女性に関しても貴族の令嬢より庶民階層のおおらかで快活な若い女性に惹かれることは承知している。

さらにアフトクラトル随一の貴族であるベルティストン家当主への敬意を示している態度に気を良くしたようで、面倒な仕事や窮屈な服に対してのイライラも消え失せたようだ。

ツグミの役目はランバネインが滞在中に不自由なく過ごせるようにサポートをする専属のコンシェルジュのようなもので、憎むべき敵国であっても公式な使者である彼をぞんざいに扱うことはできず、玄界(ミデン)が野蛮な国ではないことを示すために世話係をすることとなった…というのが表向きの理由である。

しかし実際には短い滞在期間中にできるだけそばにいて彼の思想や価値観を変えようというツグミの策略の手段のひとつだ。

当然ハニートラップではないので色仕掛けはない。

 

「長旅でお疲れでしょうから、ひとまずボーダー本部基地へとお越しいただき、応接室でしばらく休んでから昼食。その後に打ち合わせをするというスケジュールになっています。それでよろしいでしょうか?」

 

「ああ、お任せする」

 

ツグミの印象が好ましいものだったので、ランバネインは素直に従ってくれている。

もっとも謝罪に来たのだから無用なトラブルで関係を悪化させてしまっては意味がなくなるし、この()()に失敗したらベルティストン家の当主の座を剥奪されることになっているので本人は必死なのだ。

ゼノンが自己紹介をした時に本心を隠して作り笑顔で我慢したことも無駄になってしまうのだから、多少のことでは腹を立てないしボーダー側の要求にも応える覚悟はできている。

そこのところはツグミも理解していて、城戸の指示であってもその間にツグミが入ってワンクッション置くことで事はスムーズに進むというもの。

だから彼女はランバネインに好かれる女性を演じているのである。

といっても()の彼女のままで十分なのだが。

 

 

 

 

再びゼノンのタキトゥスの(ブラック)トリガーによって(ゲート)を開き、本部基地の応接室へと繋ぐと全員でその中へと入って行った。

これで民間人どころかボーダーの人間にすら知られることなくランバネインを本部基地まで入れることができたわけだ。

これは非常に危険なことのように思えるだろう。

万が一ランバネインが雷の羽(ケリードーン)を起動して暴れたら本部基地内は破壊されることになるし、城戸たちを人質にして無茶な要求を突き付けてくることも考えられる。

しかしその対策も万全だ。

雷の羽(ケリードーン)(ブラック)トリガーではないのでリヌスの持つトリガーの「カテーナ」で無力化できる。

一定範囲内にある敵のノーマルトリガーが起動できない状態にするトリガーであるから、効果範囲内にリヌスがいてカテーナを起動していればランバネインはトリオン体に換装すらできない。

大規模侵攻の際にエネドラに侵入されて大きな被害を出してしまった記憶がまだ鮮明に残っているからランバネインを本部基地に入れることに鬼怒田や根付は反対していたが、ツグミの計画にはどうしてもランバネインに本部基地の中を見てもらわなければならない理由があった。

そこでヒュースにも協力してもらい蝶の楯(ランビリス)等の「アフトクラトルの強化トリガー」にもカテーナの効果があると証明して反対派のメンバーから許しを得たのだった。

リヌスがランバネインの視界に入ると警戒をされるだろうから、一定の距離を保ちながら彼が監視をすることになっている。

それは同時にツグミのボディガードにもなるわけで、城戸や忍田は大賛成であった。

応接室の隣にある部屋にリヌスが控え、すでにカテーナを起動しているのでランバネインは何もできないのだが、念のために迅が風刃を携帯している。

ここで城戸、忍田、林藤、唐沢、迅、ゼノンの6人が退出し、ツグミだけが応接室に残った。

 

「ここでお寛ぎください。お飲みものはいかがしますか? 近界(ネイバーフッド)ではなかなか入手できないコーヒーですとか、紅茶、新鮮な果物を使ったジュースなど何でもあります。お酒をご所望でしたら食事の際に料理に合わせて用意いたします」

 

ツグミがそう言うとランバネインはソファーに大きく背をもたれて答えた。

 

玄界(ミデン)の酒には非常に興味はあるが、これから重要な任務があるから酔っ払って失敗するといけないんでやめておくよ。それで飲みものなんだが、ジンジャーエールって美味い飲みものがあるだろ? それが飲みたい」

 

以前にセリウスが来訪した時の食事の際にノンアルコール飲料を飲みたいというのでジンジャーエールを出したことがあった。

彼はそれを気に入ったようで、缶入りのものを箱買いしてアフトクラトルに持ち帰っていた。

その一部をランバネインに土産として献上したのだろう。

 

「わかりました。隣の部屋に行って持って来ます」

 

そう言ってツグミはふたつの部屋をつなぐドアを開けて隣の部屋に行った。

その部屋は給湯室と付き添い人用の控え室を合わせたものとなっていて、簡易な応接セットが置かれている。

そこに迅とリヌスのふたりが待機しており、応接室にセットした監視カメラの映像をモニターで確認をしていた。

モニターにはランバネインの左斜め上から撮影された映像が映し出されていて、ちなみに同じものが城戸の執務室のモニターにも映っている。

 

「ツグミ、いざという時には俺たちがいるから安心しろ」

 

迅の言葉にツグミは笑う。

 

「今回の謝罪が失敗したとなれば帰国しても立場が悪くなるわけですからバカなことはしませんよ。それでも万が一の時のことを考えてジンさんたちに待機してもらっているんです。まだ始まったばかりですからそんなに根を詰めないで気楽にしていてくださいな」

 

すると今度はリヌスが言った。

 

「しかし相手はアフトクラトルのトリガー使い。それもハイレインの弟なんですから、どんな密命を帯びているかわかりません。まあ、生身ではトリオン体のあなたに不埒なマネをしようとしても逆に押さえ付けられておしまいでしょうけど、そうなった時には私たちに任せてください」

 

「大丈夫ですよ。アフトで会った時も紳士的な態度でいましたし、わたしみたいな小娘に何かしようだなんて考えもしませんから。じゃ、わたしは飲みものを持って行きますね。おふたりも冷蔵庫の中の飲みものは自由に飲んでかまいませんから」

 

ツグミはそう言って冷蔵庫の中から缶入りのジンジャーエールを取り出すと、グラスと一緒にトレイに載せて応接室へと戻って行った。

残された迅とリヌスはツグミの後ろ姿を見送ったが、姿が消えるとふたりは顔を見合わせて申し合わせたかのように同時にため息をつく。

 

「あいつ、こういう点では自己肯定感が低いんだよな…」

 

「そうですね。私たちがどれだけ心配しているのかわかってませんね」

 

「ああ」

 

そしてもうひとつ大きなため息をついてからモニターへと視線を戻したのだった。

 

 

 

 

「どうぞ、召しあがれ。わたしは隣の部屋で待機しておりますので、ご用がございましたらテーブルの上の呼び鈴を鳴らしてください」

 

ツグミがそう言って退出しようとすると、彼女の想定どおりにランバネインは彼女を引き止めた。

 

「待て。昼メシまで少し時間があるなら俺に付き合え」

 

「付き合うと言うと、話し相手になれとおっしゃるのでしょうか?」

 

「そのとおり。こんなトコでひとりでボーッとしていてもつまらん。何か面白い話でもしてくれ」

 

「面白い話…となると具体的にどんなことをお話すればよろしいでしょうか?」

 

「そりゃ…おまえたちが何を企んでいるか、だな。俺はおまえたちにとって敵国の使者だ。今は和解しようとこうして頭を下げてやって来て、おまえたちも表面上は俺を賓客として迎えてくれている。だが心の中では断じて許せねぇって思ってんだろ? 俺たちはおまえの仲間をさらったんだし、エネドラは命令無視してここで何人か殺したって話じゃないか。だったら俺たちは憎むべき仇ってもんだ。それなのに意外なほどこっちの要求を受け入れてくれた。そうなりゃ何か企んでいると思うだろ?」

 

ランバネインは意味深な笑みを浮かべながらツグミに訊く。

それに対してツグミは少々挑発的な言い方で答えた。

 

「何か企む…? 当然ではありませんか。そちらが謝罪をして和解を求めているのはボーダーとキオンの関係をこれ以上密なものにしたくはないから。セリウスさんから教えてもらった情報ですと新しい王にハイレイン()()がなったそうで、(マザー)トリガーが勢いを取り戻したとなれば一気に戦闘準備を整えて近界(ネイバーフッド)の支配に動くのは誰にでもわかります。そうなると最大の敵がキオンとなり、そのキオンがボーダーと手を組んで玄界(ミデン)の技術や知識を活用した新しい『兵器』を装備するとなれば、アフトの最新技術による武器(トリガー)やトリオン兵だって太刀打ちできなくなります」

 

玄界(ミデン)の技術や知識を活用した新しい兵器だと? そんなものがもう開発されてんのか?」

 

「さすがにわたしのような下っ端の兵士にまでそんな機密情報は伝わってきません。でもトリオンだけに頼らない新しい概念の武器や兵器を開発中だということだけは耳にしています」

 

「まあ、そうだろうな」

 

「そういうことでボーダーとキオンが同盟を結ぼうとしていることはアフトの方でも耳にしていて、それを邪魔する…のは無理でも遅らせることはしたい。できることならアフトで玄界(ミデン)の技術を取り入れた兵器を作りたい。そうすれば近界(ネイバーフッド)で他の追随を許さない最強の軍事国家になれますからね。キオンが同盟締結を急いでいて、近いうちにボーダーとの首脳会談をするという噂を聞けばハイレイン陛下も焦りますよね。そこで大慌てであなたを使者として送り出し、謝罪をすることでボーダーとの関係を修復させたい。でも責任のある本人が来なくて代理人をよこすということは、この期に及んでまだボーダーの人間のことを見下しているのでしょうか?」

 

するとランバネインはムッとした顔で言う。

 

「兄者…いや王はボーダーを軽んじているのではない。おまえも知っているとおりアフトは国王の代替わりが行われたことで国内がまだ混乱している。そんな政情不安な状態で国王が国を離れるわけにはいかないのだ」

 

「そうでしたか。そうとは知らず大変失礼いたしました」

 

素直に謝罪するツグミ。

しかしこれは彼女の芝居の一環で、謝罪にランバネインがやって来たことに対して多くのボーダーの人間はそういう目で見ているのだということを教えたかっただけである。

それを頭に入れて行動をしてもらいたいという意味で、ランバネインも自分の言動ひとつで関係が悪化する可能性もあると理解できたはずだ。

この会話で「ボーダーの人間はハイレインのことを信用しておらず、謝罪に代理人を送り込んで来たことで不信感を抱いている」とわからないようではこの先の展開を第2案に変更せざるをえないと考えていたツグミだが、ランバネインの表情を見るとそのまま第1案で進めても大丈夫だと確信できたのだった。

 

「それはそうと先ほどの『企み』ですけど、その一部をこっそりお教えしますね。実はキオンとその友好国であるエウクラートンの2ヶ国とボーダーの3者で三国同盟を結ぶことを前提にボーダーは動いています。でも同盟とはお互いが同じ目的を持って共闘するものですが、それぞれ思惑が異なりますからこのままでは上手くいくはずがないんです。キオンのテスタ・スカルキ総統はアフトよりも優位に就き、近界(ネイバーフッド)における覇権を握ろうと考えています。エウクラートンは最近までキオンに従属していて、スカルキ総統の代になってようやく束縛から逃れられたようなもの。さらにボーダーは近界(ネイバーフッド)の勢力争いなど関係なく、こちら側の世界に干渉しなければどうでも良いというくらいです。ですから近界(ネイバーフッド)で戦争がなくなりさえすれば玄界(ミデン)も平和になりますから、近界(ネイバーフッド)の覇者がアフトでもキオンでもかまわないというのが本音なんです。もちろんこのことは誰にも言わないでください。内緒ですよ」

 

ツグミの言っていることは半分本音で半分嘘である。

近界(ネイバーフッド)で戦争がなくなりさえすれば玄界(ミデン)が平和になるからそれを望んでいるというのは本音。

でもアフトクラトルが覇者となればそれに至るまでに大勢の人間の犠牲が生じる。

だから武力を行使しないキオンを頼り、テスタのことを信用して同盟を結ぼうとボーダーは決めたのだ。

したがってハイレインが考え方を変えない限りボーダーはキオンと協力して近界(ネイバーフッド)の安定を目指す。

そうなれば必ずアフトクラトルと対立することになり、全面戦争となるのは自明の理。

しかしボーダーはアフトクラトルだけでなく他のいかなる国とも戦争を望んでいないので、アフトクラトルのように戦争によって近界(ネイバーフッド)を統一しようとする国は否定し、武力をちらつかせるだけで実際には使わないテスタのやり方に賛同したのだ。

ここでランバネインにボーダーはまだキオンと正式に国交を結んでいないのでアフトクラトルにもまだ可能性はあると匂わせておき、彼になぜキオンという大国が玄界(ミデン)に興味を持って手を組もうとしているのかを教えることで、考えを改めさせようというのがツグミの策である。

玄界(ミデン)には近界(ネイバーフッド)にはない様々な魅力があり、テスタが近界(ネイバーフッド)の平定と同時にそれらを手に入れようとしているとわかればハイレインがその立場を奪おうとするに決まっている。

直接ハイレインに対してプレゼンできないのだから、ランバネインにボーダーと玄界(ミデン)の実態を見てもらう。

もちろんここでランバネインの琴線に触れるものがなければそこまでだが、彼の好みや興味を持ちそうなものはリサーチ済であるから勝算はある。

彼女の()()はすでに始まっているのだ。

 

ランバネインはツグミの話を聞いていて理解した。

 

「つまり現状のボーダーはアフトとキオンを天秤にかけて条件の良い方と手を組むつもりでいる。だから俺をこうして招き入れたということか。そして俺の態度や行動によってどちらにつくか決めようというのだな?」

 

「そう受け取っていただいてよろしいかと。すべてはあなた次第ということです。この話はここだけのこととし、その胸の内に収めておいてくださいませ」

 

そう言ってツグミは微笑んだ。

 

ランバネインへの話だとボーダーはキオンとアフトクラトルのどちらと手を組むか決めかねていると匂わせており、キオンはあくまでもアフトクラトルに対する後ろ盾であるかのように勘違いさせている。

しかしアフトクラトル遠征の時の恩は忘れてはおらず、キオンを裏切るようなことは絶対にありえない。

アフトクラトルの情報はエネドラから聞いたものとしていて、ヒュースはアフトクラトルに関することは一切口にしなかったことにしている。

だからエリン家の家族を連れ去ったのもエネドラのリクエストに応えただけで、ヒュースとディルクがボーダーに加担した事実は一切ないということにしておくことで彼らが帰国したとしても罪には問われない。

すべてエネドラが悪いということにしておけば丸く収まるのだ。

本部基地に侵入して6人もの人間を殺したのだからすべての罪を被ってもらったところでツグミに罪悪感はない。

 

ランバネインはツグミと会話を交わしていて彼女のことを「面白い娘」だと感じていた。

それと同時にどこかで会ったような気になり、ツグミに尋ねた。

 

「ところでおまえ、以前に俺と会ったことはないか?」

 

「いいえ、そんなはずはありません。わたしがあの戦いで相見(あいまみ)えたのはハイレイン陛下とミラさんのおふたりだけです。ですからあなたとはこれが初対面ですよ」

 

「そうか…。兄者から手強い玄界(ミデン)の女兵士のことを聞いていたがおまえのことだったんだな。それでおまえの話を聞いていたから会ったような気になっていただけか」

 

「そうですよ、きっと。それよりも陛下がわたしのことを何とおっしゃっていたのですか?」

 

「面白い娘に会った。イルガーを砲撃1発で倒すトリオンの持ち主で、戦いの資質も申し分ない。連れて帰って部下にしたかった、とさ」

 

「それは光栄なことです。でももう二度と敵に回したくない人物ですから、次に会うことがあればその時にはこうして昔話を語り合うような関係でいたいと思います」

 

ツグミは自分が2度アフトクラトルへ行き、その時に会っているなどと絶対に知られてはならない。

あくまでも彼女はアフトクラトル遠征にすら参加していないということにしておかなければならないのだ。

 

それからふたりは他愛のない話題で会話をし、11時30分になったところで昼食の準備をすると言ってツグミは席を立った。

ランバネインの昼食はあえて豪勢なものではなくファストフードチェーン店のハンバーガー、フライドポテト、ドリンク、アップルパイという簡単なものにし、それが玄界(ミデン)でのごく普通の庶民の昼食であると説明すると面白がってあっという間に二人前をぺろりと平らげてしまったのだった。

 

 

 

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