ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
ランバネインと城戸たち上層部メンバーが集まって打ち合わせが行われた後、「謝罪
会場は入隊式にも使われる講堂で、市内巡回等の防衛任務に就いている隊員とどうしても出席したくない隊員以外は全員ここに集まっている。
大規模侵攻以降に入隊した隊員には関係ないようだが、ボーダーにとってエポック・メイキング的な出来事となるという意味で原則全員出席となったのだ。
しかし強制はできないために欠席する者もいて、その中には三輪もいた。
彼の
そんな三輪は本部基地の屋上にいた。
防衛任務でもしていれば気が紛れるだろうが、残念ながら防衛任務はないし学校も冬休みとなっていて手持ち無沙汰な状態で、特にすることもないからと誰もいない屋上へとやって来たのだ。
(
1週間前に隊長たちを集めた会議でツグミが自分の計画を披露してからというもの三輪はずっとイライラしていた。
内容はもちろんのことだが城戸が反対をせずにいて、おまけに隊長たちに協力するよう指示したこともイライラの原因のひとつである。
第一次
つまり彼らの家族や友人たちは大切な人を理不尽極まりない形で突然奪われてしまったことになる。
その数は犠牲者の何倍もいて、5年半経った今でも心の整理ができずにいる者も多い。
三輪もそのひとりであり、最愛の姉の命の灯が目の前で消えていくのを何もできずに見ているしかなかったのだった。
彼同様に
ボーダーが友好的な
ふたつの世界が繋がってしまうこと自体が不幸の元凶だと考えるとそのとおりなのだが、だからといって今さらお互いに交流できないようにするにしても
仮にこちら側で
だから交流を持つか断つかのどちらにしても双方で納得する結果が得られなければ無理なのである。
このまま両者が確執を続ければ双方とも疲弊するだけで、どこかで折り合いをつけなければいけないとは理解しているはずなのだが、そのタイミングがなかなか掴めずにいたのだった。
そんな状況の中、きっかけとなる事件が起きた。
敵としてツグミの前に現れたゼノンたちのことを彼女が許したことでボーダーはキオンとの良好な関係を築くことができ、そのおかげでアフトクラトル遠征は成功を収めた。
ボーダーがキオンと正式に手を結ぶ前にそれを阻止したいと考えたハイレインが敵としてではなく再びボーダーの前に現れ、関係を修復しようとしている。
まずはお互いに話し合う場を設けることが重要だ。
これまでは武力によって勝ち負けを決め、勝った方の要求を負けた方がのむという手段であったから結果は100かゼロのどちらかという極端なものとなる。
しかし話し合いによってお互いの要求を出し合い妥協点を見付ければ、どの勢力も100パーセントは無理でも誰もが納得できる答えが出るようになるはずなのだ。
これまでアフトクラトルは強大な軍事力を行使して強引に弱小国を従属させてきたのだが、これがきっかけとなって話し合いの場に引っ張り出すことが可能となった。
このチャンスを活かすも殺すもボーダー側の人間にかかっているのだ。
こういったことをきちんと説明すれば理解できるだけの頭を三輪は持っているのだが、なにより理性よりも感情に走ってしまう。
つまり聞く耳を持たないという状態になり、よほど尊敬しているとか信頼している人間の言葉ではないと彼には届かない。
これまでは
そんな時だった。
三輪はふと自分が正隊員になって間もない頃の出来事を思い出したのだ。
新体制が発足したばかりのボーダーは新入隊員の育成に必死で、忍田は東に「見込みはある問題児」の隊員を預けていて、三輪もそのひとりだった。
東の
だから
しかしそんな状況を変える出来事が起きる。
市内巡回任務の中、三輪がトリオン兵出現の報告を聞いて東の指示を聞かずに飛び出してしまい、東とツグミが現着した時にはすでに三輪が2体のバムスターを倒した後で、勝手な行動をした彼を東が叱りつけたのだった。
そしてしょぼくれている彼にイライラしたツグミが意外なことを言い出した。
それは正論をぶつけるのではなく「わたしは市民のために戦うなどという綺麗事ではなく自分のために戦っている」「どんな理由で戦うのであってもかまわない。ただしボーダーで戦うならボーダーの
それまで周囲の人間は両親も含めて三輪に対して腫れ物に触るような態度で接していた。
なにしろ精神が不安定で何をきっかけに
また彼のためにと積極的に接して「恨みは捨てろ」だとか「このままではお姉さんが哀しむ」などと綺麗事を言う人間に対しては逆に反発するばかりであった。
それを否定する人間ばかりであったから反発することも多かったというのに、ここで正面から肯定してくれる者が現れた。
正しくは肯定ではなく否定しないだけなのだが、三輪にとってツグミは「俺の苦しみや哀しみは理解できないだろうしする気もないだろうが、理解できないヤツが土足で俺の心の中に踏み込んで来るよりはるかにマシ」な存在だと認識されたことで、彼女に反抗する意思はなくなったのだった。
ここで「市民のために戦おう」とか「復讐なんて意味ない」などと言われたら反発しただろうが、彼女が自分と同じく「自分自身のために戦う」と堂々と言い切ったものだから耳を傾けることになった。
こうしたトラブルがきっかけとなり三輪はツグミのことを少しだけだが認めることになり、東隊は新たな一歩を踏み出した。
(なんでこんなことを今になって思い出したんだろ? あいつの考えややってることはいつも理解に苦しむ。だがあいつが自分のために必死になってやっているということだけはわかる。そしてその時点では何をやっているのかわからなくとも、結果が出た時にはあいつの考え方が正しかったということは何度もあった。それに高みの見物を決め込んでいるのではなく、危険な作戦であっても自ら志願して必ず成功させている。その点は認めてやらないといけないな)
ツグミが口先だけではなく成果を上げていることは三輪も認めざるをえない。
かつてチームメイトとして共に東の薫陶を受けたふたりだが、考え方や目指すもの、そして戦う理由が違うからそりが合わないのは当然だが、互いに相手の進む道を否定することはなかった。
今回のアフトクラトルの謝罪を受け入れる件についても理解はできないし賛成もできないが、だからといって自分に名案があるわけではない。
(フッ、お手並拝見といこうじゃないか。俺は他の連中のように協力する気はないが邪魔をするつもりもない。せいぜいオレをがっかりさせんなよ)
苛立ちながら屋上へと来たというのに、いつの間にか誰に頼ることもなく心の整理ができてしまっていた三輪。
師走の冷たい風によって頭が冷えたのかもしれない。
首に巻いたマフラーの温もりを感じながら、もうしばらく復興の途上である三門市の風景をぼんやりと眺めてから戻ることにしたのだった。
◆◆◆
ランバネインによる謝罪が行われることはすべての隊員・職員に1週間前に知らされていたから、これといった混乱はなく淡々と進んでいった。
ある者は大規模侵攻の張本人がどの面下げてやって来たのかを見たいから。
またある者は人型
それぞれ思うところは違うものの、壇上のランバネインを見上げている。
「俺はアフトクラトルの国王であるハイレイン・ベルティストンの代理、ランバネイン・ベルティストンだ。こうしてここにいるのは先の侵攻において俺たちが全面的に悪かったと認め、謝罪をするためである。まず国王からの書状を読ませてもらおう」
物理的・精神的に少々上から目線ではあるが、本人にそういう気持ちはないことはわかっている。
「私ことアフトクラトル国王ハイレイン・ベルティストンは
ランバネインはハイレインの書状を読み終えると懐から何かを取り出した。
それは長さが6センチ、幅が3センチほどの大きさのプレートのようなものが付いたチェーンだった。
軍隊において兵士の個人識別用に使用される
観衆はもちろんのこと、事前に話を知らされていなかった上層部のメンバー、そしてツグミすらも驚いてしまった。
能力がどのようなものかはわからないが、
「これは30年くらい前に適合者が死んで以降ずっと王家が管理していたもので、由来については俺だけでなく兄じゃ…じゃなく国王も知らない。能力は…これも良くわからないんだが、
ツグミはこの話を聞いていてハイレインの思考を推理した。
(適合者がいないといってもいつか見付かるかもしれないのに貴重な
ツグミは遊真にランバネインの言葉に嘘があるようなら合図をしてくれるよう頼んであった。
だから壇上にいる人間が良く見える最前列に待機していて、じっとランバネインの顔を見ているがツグミへの合図がないということは嘘をついていないということである。
しかしハイレインがランバネインに嘘をついていてそれを彼が信じているとなれば、彼自身は嘘を言っていないことになるのでハイレインの真意は想像するしかない。
(能力については良くわからないけど、少なくとも
ランバネインによる
これでハイレインの代理としての役目は終わり、ランバネインは自分自身の考えや謝罪の気持ちを自分の言葉で語り始めた。
「ここから話すことは俺個人の見解で、アフトクラトル政府の意思ではないということを頭に入れて聞いてもらいたい。…え~、こう言うと責任を別人に押し付けているように感じるだろうが、俺は
「……」
会場は静まり返っていて、ランバネインの言葉を聞き逃さないようにと耳を傾けている。
「トリオン量の多い人間を探して
「……」
「それで何が言いたいかっていうと、仕方がなかったとはいえおまえたちの仲間を殺し、連れ去り、街を破壊したことは事実だから謝罪はしなければいけない。だから俺はここにいて国王の代理として頭を下げた。これですべてをなかったことにしてくれとは言えない。ここには
そして付け加えた。
「今回の謝罪でおしまいではない。ボーダーがこの謝罪に対して納得してくれたら、アフトクラトルは
当初の予定ではランバネインがハイレインの書状を読み上げておしまいになるはずだったのだが、打ち合わせの際にツグミがランバネインにアフトクラトル国王の代理としてではなく自分自身の気持ちを正直に話してくれと依頼していた。
その要望に応えたわけだが、これはツグミの想像以上に効果があった。
この謝罪を端から「加害者による一方的な言い訳」だとして耳を貸さないのであれば意味はないが、この場に集まっている人間は少なくとも彼の言葉に耳を傾けた。
話を聞いてそれをどう解釈するかは個人の自由であって強制することはできないが、
今後アフトクラトルだけでなく
現に会場を出て行く隊員たちはそれぞれ真剣な面持ちでいて、上層部が主体で進めている
もし協調路線に傾けばこのまま進めていけばよいのだし、敵対する意見が多ければそれを前提として
とにかくランバネインの言葉のように「