ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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406話

 

 

ランバネインと城戸たち上層部メンバーが集まって打ち合わせが行われた後、「謝罪()()()()」が開始された。

会場は入隊式にも使われる講堂で、市内巡回等の防衛任務に就いている隊員とどうしても出席したくない隊員以外は全員ここに集まっている。

大規模侵攻以降に入隊した隊員には関係ないようだが、ボーダーにとってエポック・メイキング的な出来事となるという意味で原則全員出席となったのだ。

しかし強制はできないために欠席する者もいて、その中には三輪もいた。

彼の近界民(ネイバー)に対する憎しみの感情は誰にも計り知ることのできないもので、城戸のそれに良く似ており誰にも彼を癒してやる手段を持たずにいる。

そんな三輪は本部基地の屋上にいた。

防衛任務でもしていれば気が紛れるだろうが、残念ながら防衛任務はないし学校も冬休みとなっていて手持ち無沙汰な状態で、特にすることもないからと誰もいない屋上へとやって来たのだ。

 

近界民(ネイバー)の謝罪を受け入れるだと? そんなバカなことがあるか! 奴らは勝手にやって来て街を破壊し、平気で人を殺すような輩だ。謝って済む問題じゃねえ! どうせ奴らには何か魂胆があって頭を下げたフリをするだけなんだ。それに城戸司令も何で霧科の言いなりになってんだよ! 城戸司令にとって近界民(ネイバー)は殲滅すべき対象だったはず。それなのに最近は玉狛の連中ほどじゃないが近界民(ネイバー)との協調路線に傾いている。そりゃあ奴らの情報や技術を借りたおかげでアフト遠征は被害ゼロで成功したが、ボーダーは近界民(ネイバー)と戦って倒す組織じゃなかったのかよ!)

 

1週間前に隊長たちを集めた会議でツグミが自分の計画を披露してからというもの三輪はずっとイライラしていた。

内容はもちろんのことだが城戸が反対をせずにいて、おまけに隊長たちに協力するよう指示したこともイライラの原因のひとつである。

 

第一次近界民(ネイバー)侵攻では約1200人の市民が犠牲となった。

つまり彼らの家族や友人たちは大切な人を理不尽極まりない形で突然奪われてしまったことになる。

その数は犠牲者の何倍もいて、5年半経った今でも心の整理ができずにいる者も多い。

三輪もそのひとりであり、最愛の姉の命の灯が目の前で消えていくのを何もできずに見ているしかなかったのだった。

彼同様に近界民(ネイバー)を憎む気持ちが生きる気力となっている市民の中にはボーダーに近界民(ネイバー)を殲滅してもらいたいと考えている者もいるし、自分の手で復讐したいと考えてボーダーに入隊した者もいるくらいだから、ボーダーのトップである城戸の方針転換には困惑するというよりも裏切り行為に思えるだろう。

ボーダーが友好的な近界民(ネイバー)と協力して拉致された市民を連れ戻す計画を進めていることに対しては「手段としては仕方がない」と諦められるが、同盟関係を結んでお互いに仲良くやっていこうと考えているボーダーに対しては「そんなものは必要ない」「(ゲート)を完全に封鎖してこちら側の世界に二度と足を踏み入れさせないようにしよう」と訴える者も出るかもしれない。

ふたつの世界が繋がってしまうこと自体が不幸の元凶だと考えるとそのとおりなのだが、だからといって今さらお互いに交流できないようにするにしても近界(ネイバーフッド)側と玄界(ミデン)側の双方の合意がなければ不可能だ。

仮にこちら側で(ゲート)を強制的に開かないようにしても近界民(ネイバー)たちが玄界(ミデン)へ来たいと考えればボーダーを上回るトリオン技術を持つ彼らなら簡単にこじ開けてしまうだろう。

だから交流を持つか断つかのどちらにしても双方で納得する結果が得られなければ無理なのである。

このまま両者が確執を続ければ双方とも疲弊するだけで、どこかで折り合いをつけなければいけないとは理解しているはずなのだが、そのタイミングがなかなか掴めずにいたのだった。

そんな状況の中、きっかけとなる事件が起きた。

敵としてツグミの前に現れたゼノンたちのことを彼女が許したことでボーダーはキオンとの良好な関係を築くことができ、そのおかげでアフトクラトル遠征は成功を収めた。

ボーダーがキオンと正式に手を結ぶ前にそれを阻止したいと考えたハイレインが敵としてではなく再びボーダーの前に現れ、関係を修復しようとしている。

近界(ネイバーフッド)の軍事大国のふたつを交渉相手にする機会と手段を得た今、ボーダーのやるべきことはひとつしかない。

まずはお互いに話し合う場を設けることが重要だ。

これまでは武力によって勝ち負けを決め、勝った方の要求を負けた方がのむという手段であったから結果は100かゼロのどちらかという極端なものとなる。

しかし話し合いによってお互いの要求を出し合い妥協点を見付ければ、どの勢力も100パーセントは無理でも誰もが納得できる答えが出るようになるはずなのだ。

これまでアフトクラトルは強大な軍事力を行使して強引に弱小国を従属させてきたのだが、これがきっかけとなって話し合いの場に引っ張り出すことが可能となった。

このチャンスを活かすも殺すもボーダー側の人間にかかっているのだ。

こういったことをきちんと説明すれば理解できるだけの頭を三輪は持っているのだが、なにより理性よりも感情に走ってしまう。

つまり聞く耳を持たないという状態になり、よほど尊敬しているとか信頼している人間の言葉ではないと彼には届かない。

これまでは近界民(ネイバー)殲滅を掲げる城戸の思想に心酔していたが、その城戸が心変わりをしたようなものだから誰を信じて良いのかわからない状態になってしまったのだ。

 

そんな時だった。

三輪はふと自分が正隊員になって間もない頃の出来事を思い出したのだ。

新体制が発足したばかりのボーダーは新入隊員の育成に必死で、忍田は東に「見込みはある問題児」の隊員を預けていて、三輪もそのひとりだった。

東の部隊(チーム) ── 後に旧東隊と呼ばれる ── にはツグミが()()として在籍したのだが、三輪にとって彼女は「姉さんを助けてくれなかった奴らの仲間」であり、近界民(ネイバー)ほどではないが憎んでいた。

だから部隊(チーム)の雰囲気は最悪で、チームワークとか連携といったものは存在しなかった。

しかしそんな状況を変える出来事が起きる。

市内巡回任務の中、三輪がトリオン兵出現の報告を聞いて東の指示を聞かずに飛び出してしまい、東とツグミが現着した時にはすでに三輪が2体のバムスターを倒した後で、勝手な行動をした彼を東が叱りつけたのだった。

そしてしょぼくれている彼にイライラしたツグミが意外なことを言い出した。

それは正論をぶつけるのではなく「わたしは市民のために戦うなどという綺麗事ではなく自分のために戦っている」「どんな理由で戦うのであってもかまわない。ただしボーダーで戦うならボーダーの規定(ルール)に従え。規定(ルール)の範囲内であれば何をやっても許される」と持論を展開しただけだったのだ。

それまで周囲の人間は両親も含めて三輪に対して腫れ物に触るような態度で接していた。

なにしろ精神が不安定で何をきっかけに()()()かわからず、娘を亡くした両親は息子の言動に振り回されるだけで、彼がボーダーに入隊すると言い出した時も反対できずにいた。

また彼のためにと積極的に接して「恨みは捨てろ」だとか「このままではお姉さんが哀しむ」などと綺麗事を言う人間に対しては逆に反発するばかりであった。

近界民(ネイバー)への復讐しか頭にない彼は学校でも孤立しがちでいて、そこにまだまともな会話すらしたことのないツグミが遠慮なくズバズバと物言いしたものだから肝を潰すのは無理もないのだ。

近界民(ネイバー)への復讐のために入隊し、近界民(ネイバー)を殺す手段として武器(トリガー)を握る。

それを否定する人間ばかりであったから反発することも多かったというのに、ここで正面から肯定してくれる者が現れた。

正しくは肯定ではなく否定しないだけなのだが、三輪にとってツグミは「俺の苦しみや哀しみは理解できないだろうしする気もないだろうが、理解できないヤツが土足で俺の心の中に踏み込んで来るよりはるかにマシ」な存在だと認識されたことで、彼女に反抗する意思はなくなったのだった。

ここで「市民のために戦おう」とか「復讐なんて意味ない」などと言われたら反発しただろうが、彼女が自分と同じく「自分自身のために戦う」と堂々と言い切ったものだから耳を傾けることになった。

こうしたトラブルがきっかけとなり三輪はツグミのことを少しだけだが認めることになり、東隊は新たな一歩を踏み出した。

 

(なんでこんなことを今になって思い出したんだろ? あいつの考えややってることはいつも理解に苦しむ。だがあいつが自分のために必死になってやっているということだけはわかる。そしてその時点では何をやっているのかわからなくとも、結果が出た時にはあいつの考え方が正しかったということは何度もあった。それに高みの見物を決め込んでいるのではなく、危険な作戦であっても自ら志願して必ず成功させている。その点は認めてやらないといけないな)

 

ツグミが口先だけではなく成果を上げていることは三輪も認めざるをえない。

かつてチームメイトとして共に東の薫陶を受けたふたりだが、考え方や目指すもの、そして戦う理由が違うからそりが合わないのは当然だが、互いに相手の進む道を否定することはなかった。

今回のアフトクラトルの謝罪を受け入れる件についても理解はできないし賛成もできないが、だからといって自分に名案があるわけではない。

 

(フッ、お手並拝見といこうじゃないか。俺は他の連中のように協力する気はないが邪魔をするつもりもない。せいぜいオレをがっかりさせんなよ)

 

苛立ちながら屋上へと来たというのに、いつの間にか誰に頼ることもなく心の整理ができてしまっていた三輪。

師走の冷たい風によって頭が冷えたのかもしれない。

首に巻いたマフラーの温もりを感じながら、もうしばらく復興の途上である三門市の風景をぼんやりと眺めてから戻ることにしたのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

ランバネインによる謝罪が行われることはすべての隊員・職員に1週間前に知らされていたから、これといった混乱はなく淡々と進んでいった。

ある者は大規模侵攻の張本人がどの面下げてやって来たのかを見たいから。

またある者は人型近界民(ネイバー)を見たことがないからという興味本位から。

それぞれ思うところは違うものの、壇上のランバネインを見上げている。

ランバネイン( 主役 )は500人近い人間が集まっている様子を見ながら咳払いとひとつしてから話を始めた。

 

「俺はアフトクラトルの国王であるハイレイン・ベルティストンの代理、ランバネイン・ベルティストンだ。こうしてここにいるのは先の侵攻において俺たちが全面的に悪かったと認め、謝罪をするためである。まず国王からの書状を読ませてもらおう」

 

物理的・精神的に少々上から目線ではあるが、本人にそういう気持ちはないことはわかっている。

 

「私ことアフトクラトル国王ハイレイン・ベルティストンは玄界(ミデン)へ侵攻し、ボーダー職員6人を殺害、4人に重傷を負わせ、32人の訓練生を拉致するという被害を与えたことをここに心からお詫び申し上げる。この侵攻はアフトクラトル政府とは無関係でベルティストン家個人の責任であるが、当時の当主が私であり、国王となったことで政府としての謝罪とさせてもらいたい。故にアフトクラトル政府は玄界(ミデン)及びボーダーに対して謝罪をすると同時にいかなる叱責でも甘んじて受け、要求があれば可能な限り応じるつもりである。その証としてアフトクラトルで所有している(ブラック)トリガー『夜の雫(オミクレー)』を譲渡する」

 

ランバネインはハイレインの書状を読み終えると懐から何かを取り出した。

それは長さが6センチ、幅が3センチほどの大きさのプレートのようなものが付いたチェーンだった。

軍隊において兵士の個人識別用に使用される認識票(ドッグタグ)に似ている。

観衆はもちろんのこと、事前に話を知らされていなかった上層部のメンバー、そしてツグミすらも驚いてしまった。

能力がどのようなものかはわからないが、(ブラック)トリガーを譲るというのだから驚くのは無理もない。

 

「これは30年くらい前に適合者が死んで以降ずっと王家が管理していたもので、由来については俺だけでなく兄じゃ…じゃなく国王も知らない。能力は…これも良くわからないんだが、卵の冠(アレクトール)のようにトリオンにしか効果がないという話は聞いている。まあ、言ってみれば今のアフトには適合者がいないということで持っていても仕方がないからボーダーに譲ってしまおうということだ。適合者がいれば有効利用してもらえばいいし、いなければどこかの国との取引に使えばいい。俺たちも取引に使おうかと考えたが、適合者のいる国に渡って俺たちの敵として現れたら厄介だからな。その点ボーダーとはもう二度と戦う気はないから、その証ってことで譲ることにした。謝罪に来たのに手ぶらってわけにもいかないから、とっておきの土産を持って来た…と考えてほしい」

 

ツグミはこの話を聞いていてハイレインの思考を推理した。

 

(適合者がいないといってもいつか見付かるかもしれないのに貴重な(ブラック)トリガーを譲るというんだから、言葉どおりに戦う意思はなく和睦を望んでいるという証拠と考えてもいいのかしら? (ブラック)トリガーなんてどこの国でも喉から手が出るくらい欲しいんだから喜んで和睦を受け入れてくれるようになると考えたのかも。だけどボーダーがアフトに対して使わないとしても、キオンの手に渡ってしまったらどんなことになるかくらいわからないはずがない。ボーダーとアフトが戦わないとしてもキオンはアフトと戦う可能性は十分にあるんだもの。なにしろハイレインは軍事力によって近界(ネイバーフッド)を統一しようと考えているわけだから、いずれはキオンと対立することになる。その時にキオンに夜の雫(オミクレー)の適合者がいてアフトの軍にその刃を向けたらどうするのかしら? もしそれが絶対にありえないという確証でもあれば別だけど、何か裏があるような気がしてならない。ランバネインの言葉に嘘はないようだけど、ハイレインが彼に嘘を言っているという可能性はあるもの)

 

ツグミは遊真にランバネインの言葉に嘘があるようなら合図をしてくれるよう頼んであった。

だから壇上にいる人間が良く見える最前列に待機していて、じっとランバネインの顔を見ているがツグミへの合図がないということは嘘をついていないということである。

しかしハイレインがランバネインに嘘をついていてそれを彼が信じているとなれば、彼自身は嘘を言っていないことになるのでハイレインの真意は想像するしかない。

 

(能力については良くわからないけど、少なくとも卵の冠(アレクトール)のようなチートなトリガーであれば絶対に手放したりはしない。だから手放しても惜しいとは思わない程度のものなんだろうな。(ブラック)トリガーといってもピンからキリまであるからね。それに適合者だからといってその能力を十分に活かせるだけの技量がなければ意味はないし。あまり考えたくはないけどミリアムの(ブラック)トリガーのように使用者に負担がかかるものだってことも考えられる。適合者がいなくてお蔵入りになってたようなことを言っていたけど、実際は()()()トリガーだから門外不出にしていたってこともありえるわよ。30年くらい前に適合者が死んで…という点も気になる。自分の生まれる前に死んだトリガー使いの死因がどんなものかなんてランバネインは知らないだろうな…。まあ、とにかく正体不明の(ブラック)トリガーなんて貰っても使わないでいる方が賢明ね。受け取らなければ相手に対して失礼だから受け取っておくだけにして、ミリアムの(ブラック)トリガーみたいに封印しておけばいいのよ。…あっ、もしかしたらミリアムさんなら夜の雫(オミクレー)のことを知っているかもしれない。今夜にでも訊いてみよう)

 

ランバネインによる()()()()()で会場は騒然となったが、司会の忍田から一喝されて静まり返る。

これでハイレインの代理としての役目は終わり、ランバネインは自分自身の考えや謝罪の気持ちを自分の言葉で語り始めた。

 

「ここから話すことは俺個人の見解で、アフトクラトル政府の意思ではないということを頭に入れて聞いてもらいたい。…え~、こう言うと責任を別人に押し付けているように感じるだろうが、俺は玄界(ミデン)への侵攻には反対の意見を持っていた。なぜかって言うと当時のアフトは(マザー)トリガーの寿命が尽きかけていて国内は疲弊しきっていた。だからベルティストン家以外の領主たちは国民に不安を抱かせないように軍備を抑えて内政に力を入れていた。俺もそれが正しいと考えていたが、当主であり兄であるハイレインには何も言えなかった。だから俺は悪くないと言うつもりは毛頭ない。ただアフトの人間がすべて戦争をしたいと考えているわけではないことを知ってもらいたいと思ったんだ。エリン家のディルクなんて領民を救うためにトリオンを優先的に回すべきだと強く訴えていた。だからハイレインはディルクを目障りに感じていたんだろうな。もし遠征で生贄にできそうな金の雛鳥を捕まえられなかったらディルクを生贄にする気でいた」

 

「……」

 

会場は静まり返っていて、ランバネインの言葉を聞き逃さないようにと耳を傾けている。

 

「トリオン量の多い人間を探して(マザー)トリガーに放り込めば万事解決する。それが近界(ネイバーフッド)(ことわり)で、俺たち近界民(ネイバー)はずっとそれに従って生きてきた。玄界(ミデン)には(マザー)トリガーなんてものがなくても国を維持できるから俺たちの姿を見て残酷だとか身勝手だって感じるだろうな。だけど俺たちが生きていくためにはそういった犠牲が必要なんだ。だから自分からできるだけ遠い場所にいる縁もゆかりもない人間をさらって来て生贄にする。それを肯定する気はないが否定もできない。近界民(ネイバー)ってのはそういう世界で生きている人間なんだ」

 

「……」

 

「それで何が言いたいかっていうと、仕方がなかったとはいえおまえたちの仲間を殺し、連れ去り、街を破壊したことは事実だから謝罪はしなければいけない。だから俺はここにいて国王の代理として頭を下げた。これですべてをなかったことにしてくれとは言えない。ここには近界民(ネイバー)のことを絶対に許せないってヤツもいるはずだ。その気持ちは俺にもわかる。俺だって仲間を殺されたら相手のことを絶対に許せないからな。だから俺たち近界民(ネイバー)のことを憎み続けるならそれでもかまわない。でも近界民(ネイバー)だっておまえたちと同じ人間だ。何かの犠牲なくして生きてはいけない弱い生きものだということだけは頭の片隅に置いておいてくれ」

 

そして付け加えた。

 

「今回の謝罪でおしまいではない。ボーダーがこの謝罪に対して納得してくれたら、アフトクラトルは玄界(ミデン)との話し合いの舞台に上ることができるようになる。これは近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)のふたつの世界の今後を決めるための第一歩であり、この先どうなっていくかはおまえたちひとりひとりの意思と行動で変わるということをわかってもらいたい。それは必ずしも仲良くやっていこうというものに限らず、お互いに価値観が違うのだから手を取り合う必要はないというものでも俺はいいと思っている。人間が100人いれば100通りの考え方があるのだから別に他人に合わせる必要はない。だが他人の考え方も尊重して妥協点を見付けようというとだ。ま、これは他人の受け売りだが、俺もその意見には賛成だ」

 

当初の予定ではランバネインがハイレインの書状を読み上げておしまいになるはずだったのだが、打ち合わせの際にツグミがランバネインにアフトクラトル国王の代理としてではなく自分自身の気持ちを正直に話してくれと依頼していた。

その要望に応えたわけだが、これはツグミの想像以上に効果があった。

この謝罪を端から「加害者による一方的な言い訳」だとして耳を貸さないのであれば意味はないが、この場に集まっている人間は少なくとも彼の言葉に耳を傾けた。

話を聞いてそれをどう解釈するかは個人の自由であって強制することはできないが、()()を提供しなければ個人の判断を求めるのは無理というもの。

今後アフトクラトルだけでなく近界(ネイバーフッド)の国々とどう付き合っていくのかを考え、そのために自分が何をすべきかを考えさせる絶好の機会であるとツグミは判断し、一般隊員・職員に対し自ら考えるきっかけを与えたのだ。

現に会場を出て行く隊員たちはそれぞれ真剣な面持ちでいて、上層部が主体で進めている近界民(ネイバー)との同盟締結についても一般隊員・職員に意見を求めることができるようになるだろう。

もし協調路線に傾けばこのまま進めていけばよいのだし、敵対する意見が多ければそれを前提として近界民(ネイバー)との関わりについて再考する必要に迫られる。

とにかくランバネインの言葉のように「近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)のふたつの世界の今後を決めるための第一歩」であり、ツグミの目には手応えがあったように映っていたのだった。

 

 

 

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