ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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42話

 

 

B級ランク戦Round2・昼の部。

今回から下位グループは四つ巴戦となり、前回一瞬で勝利を決めたツグミが出るということで、観客席はまたもや満席となっている。

 

「B級ランク戦第2戦、昼の部が間もなく始まります。実況担当は加古隊の小早川杏(こばやかわあん)、解説は千発百中を信条とした射手(シューター)2位・太刀川隊の出水隊員と、ボーダー唯一の槍型弧月の使い手・三輪隊の米屋隊員です」

 

「「どーぞ、よろしくー」」

 

出水と米屋は声を揃えて挨拶する。

 

「昼の部は暫定15位玉狛第3、17位海老名隊、18位早川隊、19位常盤隊の四つ巴の戦い。今回の注目株はやはり前回の戦いで格の差を見せつけた玉狛第3の霧科隊長でしょうか?」

 

「そうですね。戦闘員がたったひとりの部隊は非常に珍しいです。さらに彼女は完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)ですから、今日はどんな手を使って驚かせてくれるか楽しみです」

 

出水が言うと、続けて米屋も言った。

 

「前回の決め技は旋空弧月だったから、今回は違った技を見せてくれると思いますよ」

 

「どうやら転送準備が整ったようです。常盤隊が選んだステージは『市街地A』。広い場所も狭い場所もある、特に何の変哲もないごく普通の市街地。ノーマルなマップであるからこそどのような戦いになるのか想像できません。さあ、転送開始です」

 

 

 

 

ツグミたち11人は『市街地A』に転送され、戦闘開始となった。

ほぼ均等な距離にバラけ、ツグミはフィールドのほぼ中央に転送された。

転送直後はもっとも無防備な状態となるため、部隊(チーム)の合流を優先することが多い。

さらに狙撃手(スナイパー)はバッグワームを起動して身を隠し、狙撃に適当な地点に移動する。

ツグミも普段は使わないバッグワームを起動し、一旦レーダー上から姿を消した。

 

 

「さあ、始まりました。さっそく狙撃手(スナイパー)の斎藤隊員と乙川隊員、そして霧科隊長はバッグワームを使って姿を消しています。他の隊員はそれぞれ合流を目指して移動を開始しました」

 

ツグミは路地裏を走り抜けていく。

 

(まずは面倒な狙撃手(スナイパー)ふたりを始末しなきゃ…)

 

ツグミは狙撃手(スナイパー)としてもマスタークラスであるから、どのような場所に狙撃手(スナイパー)がいるのかを良く知っている。

そして狙撃手(スナイパー)は敵に接近されると手も足も出せないから、場所さえわかれば倒すのは容易だ。

まず標的(ターゲット)となったのは常盤隊の斎藤鴇哉(さいとうときや)だった。

合流し終えた早川隊と常盤隊がフィールドの中央に近い交差点で戦闘開始し、その援護のために交差点から80メートルほど離れた3階建てアパートの屋上でイーグレットを構えていた。

背後から近付いたツグミは弧月で斎藤の首を一瞬で斬り落とす。

たぶん本人は自分の身に何が起きたのか理解できないうちに緊急脱出(ベイルアウト)したから、作戦室のベッドの上に落ちたことでやっと気が付くのだろう。

 

「最初の緊急脱出(ベイルアウト)は常盤隊の斎藤隊員です。バッグワームで姿を消していた玉狛第3の霧科隊長が背後から弧月で首をはねました。目にも止まらぬ早業、さすがはマスタークラスの弧月使いです」

 

小早川は淡々と実況を続ける。

 

狙撃手(スナイパー)を失った常盤隊は早川隊と五分と五分。さて、どのような展開になるでしょうか? 米屋さんはどう思われますか?」

 

「両者の実力差はほとんどないから、どこかで均衡が破られたらあとは総崩れってとこっすね。それより海老名隊が危ないんじゃないかな?」

 

小早川の問いに米屋はそう答える。

 

「海老名隊が危ないというのは、霧科隊長の次の標的(ターゲット)が海老名隊ということでしょうか?」

 

「たぶん。狙撃手(スナイパー)に狙われていると行動に制限が加えられるから、真っ先に消すのは狙撃手(スナイパー)だろ。そうなると次は乙川…って、おいおい…」

 

メインモニターには既にツグミが海老名隊の乙川由紀人(おとかわゆきと)に斬りかかり、乙川が両防御(フルガード)で弧月を押さえている様子が映っている。

乙川も早川隊と常盤隊の戦闘に介入しようとしてすぐそばの建物の屋上で待機していたのだ。

両者の力は均衡していたが、ツグミが脚ブレードを展開し、左脚で乙川の腹を思い切り蹴りつけた。

(ブレード)は腹から背中へ突き抜け、彼は地に伏した。

そこをツグミが弧月でトドメを刺す。

そして乙川はトリオン漏出過多で緊急脱出(ベイルアウト)してしまった。

 

「弧月使いの霧科隊長がスコーピオン、それも脚ブレードを使いました。出水さん、霧科隊長が脚ブレードを使うことは想像できましたか?」

 

小早川が出水に訊く。

 

「彼女はたしかに弧月使いだけどスコーピオンでも6000点超えだからな。普段はスコーピオンなんてセットしていないから、この試合のためにセットしておいたんだろう。弧月を両防御(フルガード)で防がれた場合のことを考えて、サブトリガーにスコーピオンを入れて脚ブレード。彼女のオリジナルじゃないし別に凄い技ってわけじゃないけど、彼女がやると意外性があって面白いんだよな」

 

「なるほど…これが霧科隊長に期待する『驚き』や『面白さ』なんですね?」

 

「そう。彼女は普段は使わないトリガーでも状況に応じてセットし、すべての攻撃用トリガーを自由自在に使えるから怖いんだよね。ウチの隊長の太刀川さんとか、おれとか、二宮さんや当真さんみたいに一芸に秀でているタイプじゃなくて、どれも平均以上の力を出せる彼女だからできること。彼女自身は器用貧乏なんて言ってるけどね」

 

「どんな場合でも対応できるという点が彼女の強さの根幹だということでしょうか?」

 

「ま、そういうことだけど、それだけじゃない。彼女には常に余裕があるんだよ。その余裕が彼女を強くする」

 

「余裕…ですか?」

 

「彼女は旧ボーダーからの古株で、入隊は9歳。第一次近界民(ネイバー)侵攻に参戦した時には11歳だった。それから4年半、実戦の積み重ねと日々の鍛錬が彼女の余裕に繋がり、それらの経験によって彼女は様々な戦術や戦略を生み出すことができる…」

 

「「……」」

 

出水がいつになく真面目な顔で淡々と解説するものだから、小早川と米屋は驚いて言葉を失う。

しかし次の言葉で納得した。

 

「…って迅さんが言ってた」

 

「…ですよね」

「だよなー」

 

「だよなー、ってなんだよ、陽介。とにかく次に何をしてくれるのかが楽しみなんだよな。ものすごい神業を見せてくれるってわけじゃないのに、何をするのかって期待しちゃう。そしてちゃんと期待に応えてくれる。これが彼女の魅力であり強みだと思う。…あ、これはおれの見解ね」

 

 

解説席でこのような会話がされている間に、フィールドでは動きが出ていた。

海老名隊は非常に不利な状況に陥り、早川隊・常盤隊の乱戦に加わるよりもふたりがかりでツグミを潰そうということになったのだ。

それはツグミの想定内の動きで、バッグワームを解除して移動を開始した。

目的地は常盤隊の斎藤がいたアパートの屋上である。

 

ツグミが定位置についた段階で、早川隊・常盤隊はそれぞれ銃手(ガンナー)の船橋了午(ふなばしりょうご)と宇都宮和歌(うつのみやわか)が緊急脱出(ベイルアウト)して二対二の戦いを繰り広げていた。

そこにイーグレットを構えたツグミの姿がチラホラ見えるために気が散ってしまい、それまでの戦いより精彩さが失われている。

ツグミがバッグワームを解除したのは、海老名隊をおびき寄せるだけでなく、この「早川隊・常盤隊の意識を割く」というのが主たる目的であった。

そうすれば早川隊・常盤隊の隊員同士の戦闘に時間がかかり、海老名隊を始末した後に参戦することが可能となるからである。

 

(海老名隊のふたりがやっと追いついて来たみたいね…。じゃ、ささっとやっちゃいますか)

 

ツグミは弧月と(シールド)モードのレイガストに持ち替えて海老名隊の海老名貴大(えびなたかひろ)と茂手木翔(もてぎしょう)を迎えた。

 

「翔、呼吸を合わせて一気に行くぞ!」

 

「はい、隊長!」

 

ツグミの正面から突撃銃(アサルトライフル)型トリガーで通常弾(アステロイド)を撃つ海老名と、彼女の左側からグラスホッパーを展開してスコーピオンで斬りかかる茂手木。

しかしそれもツグミの想定内のことだ。

 

「スラスター、起動(オン)!」

 

ツグミはレイガストでシールド突撃(チャージ)をしながら海老名の通常弾(アステロイド)の弾を押し返す。

さらに身体を捻って襲いかかる茂手木のスコーピオンを弧月で受け太刀。

そして海老名をレイガストで壁際まで押し込んで彼を支えとし、茂手木の腹を両脚で思い切り蹴り飛ばした。

茂手木が十数メートル後ろに吹っ飛ばされると、その隙にツグミはレイガストの一部を開いて押さえ込んでいた海老名を弧月で刺し貫く。

海老名は避けることも防御することができずに地面に伏した。

残った茂手木は体勢を立て直して再びグラスホッパーを展開し、その勢いでツグミに斬りかかる。

 

「旋空弧月!」

 

茂手木のスコーピオンはツグミに届かず、逆に弧月で腹を一文字に斬り裂かれてしまった。

そして戦闘体を維持できずに緊急脱出(ベイルアウト)

海老名も倒れたまま動けず、トリオン漏出過多により緊急脱出(ベイルアウト)してしまった。

この一連の流れはあまりにも自然で、こうなることが運命づけられていたかのようである。

 

「海老名隊、茂手木隊員に続いて海老名隊長も緊急脱出(ベイルアウト)しました! 海老名隊は全滅。これで霧科隊長は4得点。たったひとりでガンガン点を稼いでいきます!」

 

小早川が少し興奮気味に実況する。

 

「それにしても海老名隊のふたりを相手にしてあっという間に両者を緊急脱出(ベイルアウト)させるとは見事ですね。特に同時攻撃を(シールド)モードのレイガストと弧月の受け太刀で防いだ後、一瞬にして攻撃に転じる動きはただ者ではありません。やはりこれは実戦経験の数がモノを言う…というところでしょうか?」

 

今度は米屋が答える。

 

「あれは頭で考えてじゃなくて、本能的に身体が動くってヤツだな。もちろん日々の鍛錬を欠かさないってのが重要で、敵がこう来たらこう返すってカンジで身体が自然に反応する。…ただスコーピオンと違って弧月はけっこう重量がある。同時にレイガストっていう重量級のトリガーを使うってとこが凄いよな」

 

「レイガスト片手に弧月って、他には鋼さんくらいだったけ?」

 

出水が会話に加わる。

 

「ああ。そもそもレイガストを使ってる隊員って少ないから…って、ああ!」

 

何かを思い出したかのように叫ぶ米屋。

 

「前に玉狛のメガネボーイが風間さんと模擬戦やった時、最後に相討ちに持ち込んだヤツ、アレってツグミの得意技じゃね?」

 

「メガネくんと風間さんの模擬戦…? ああ、例のアレか。そう言われればそうだよな。レイガストでのシールド突撃(チャージ)通常弾(アステロイド)のゼロ距離射撃。おれも前に個人ランク戦(ソロ)でやられたことがあるぜ。アレって初見だとビビって手も足も出ねえんだよな。…ってことはメガネくんの師匠ってツグミちゃん?」

 

「いや、京介だって話だぜ。まあ、いずれにしろ玉狛第2の連中にはいい先輩がいるってこと。今後が楽しみだよな」

 

出水と米屋が解説というよりは内輪の話で盛り上がっていた。

 

 

 

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