ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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414話

 

 

ボーダー本部基地に到着したツグミたちは来賓用玄関を使って中へ入り、その足で「対近界民(ネイバー)戦闘用訓練室」へと案内した。

かつて三門市に侵攻して大きな被害を与えた敵国(アフトクラトル)の人間に訓練施設を見学させるなど正気の沙汰ではないが、ツグミは上層部メンバーに説明をして城戸の許可をもらっている。

だから人目を気にしながらこっそりとやることもないのだが、やはり近界民(ネイバー)に対して神経質になっている隊員・職員はいるために、余計な騒動を起こさないようにとの配慮によるものだ。

 

体育館のような空間に入ると、ツグミが説明をする。

 

「ここは対近界民(ネイバー)…といっても基本はバムスターなどのトリオン兵との戦闘を想定した訓練室です。主に入隊して間もない訓練生が使用し、周囲にある観覧席は他の訓練生がその様子を見学するために利用されています。そしてこの訓練室ではトリガーとコンピューターをリンクさせることでトリオンの働きを擬似的に再現する『仮想戦闘モード』を使用することでトリオン消費がないために延々と訓練を続けることができるんです」

 

「トリオンを消費しないで訓練ができるだと?」

 

「はい。戦闘中にトリオン体にダメージを受けてもそれは実際に受けているのではなく受けた時と同じ状態を再現していますので、トリオン体が破壊されて戦闘不能に陥ることはありません。さらにトリオン切れがありませんから継続的に戦闘訓練を行えるというわけです。これですとトリオン器官は鍛えられませんが、戦闘技術は通常の訓練よりも効率良くアップします。これこそが近界(ネイバーフッド)最大の軍事大国を相手にしても引けを取らない隊員たちを育成したシステムです。これは近界(ネイバーフッド)には存在せず、ボーダー独自の技術となっています。なぜならこの訓練システムは近界(ネイバーフッド)ではまだ再現できないものだからです」

 

「なぜ再現できないんだ?」

 

「それはこのシステムを稼働するためには電気というエネルギーを使用するからです。近界(ネイバーフッド)では照明、冷暖房、動力などすべてにおいてトリオンを使用しますが、玄界(ミデン)ではそれらにトリオンを使わずに済ませています。今この場所を明るくしている照明は電気を使っていますし、ホテルやショッピングモールでも同じ。また車はガソリンという燃料を使用していて、玄界(ミデン)ではあらゆるものにおいてトリオンを使用しておりません。トリオンを唯一のエネルギーとしている近界(ネイバーフッド)とトリオンを一切使わずに済ませている玄界(ミデン)。文明の根幹がまったく違うのですから当然なんです」

 

「そうか、実際にトリオンを消費するところを別のエネルギーに置き換えているわけだから、トリオン以外のエネルギーのない近界(ネイバーフッド)では再現ができない。トリオンを消費しない仮想戦闘訓練のためにトリオンを使用するのでは意味がないもんな」

 

「そのとおりです。つまりトリオンに代わるエネルギーがあれば非常に便利だということで、ボーダーには条件によってアフトクラトルに()玄界(ミデン)の技術を譲る意思があります」

 

するとランバネインの顔が険しくなった。

 

「我がアフトとキオンを天秤にかけようというんだな?」

 

「いいえ。どちらか一方だけではありません。ボーダー(わたしたち)と志を同じくする国には国の大小関わらず()()()()()()玄界(ミデン)のエネルギー関連の技術を譲ります。そうすれば(マザー)トリガーからトリオンを吸い上げる必要はなくなり、国土の維持のみにトリオンを注ぐことができるようになりますから『神』の寿命も延びるはず。さらに相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉を遵守して同盟国となれば互いの平和的な交流が進み、交易も発達することは明らかです。現時点ではキオンとエウクラートンの2国がボーダーと共に近界(ネイバーフッド)の変革を目指しています。ここにアフトクラトルが加わる意思があるのなら歓迎しますよ」

 

ランバネインは考え込んでしまった。

 

(エウクラートンという国…過去にはトリガー研究でかなり進んでいたと聞くが、キオンとの戦争に負けてからは従属国として細々と命を繋いでいるだけの小国のはずだ。同盟を結ぶってことは対等な関係でなければできないことで、つまりボーダーはキオンと同格として認めているというのか? あの国に何かボーダーにとって利得があるとなれば別だが、タダの農業国という印象しかないけどな)

 

ツグミとエウクラートンの関係をランバネインが知るはずもなく、ツグミもまたランバネインが何を考えているのかなどわからない。

ただツグミの話に興味があるというのは確かで、それだけわかれば十分だ。

 

 

続いてC級ランク戦のロビーへと向かった。

冬休みに入っているので普段よりも訓練生の数は多く、突然現れたランバネイン(角なしver.)に対して遠巻きで眺めている。

 

「先ほどご案内した訓練室で訓練生はトリオン兵との戦闘を学びます。そしてここは市街地における対人戦闘を前提とした模擬戦を行う場所です。ボーダーでは武器(トリガー)をどれだけ使いこなせるようになったのかを数値化してそれを『個人(ソロ)ポイント』と呼び、訓練や模擬戦の結果で一定数まで達すると正隊員に昇格して実戦投入されることになります。訓練生だけでなく正隊員もここで模擬戦をすることもありますが、もしよろしければひと勝負いかがですか?」

 

「模擬戦か…それは面白そうだな。おまえが相手をしてくれるのか?」

 

「それでもかまいませんが、あなたと対戦したいという隊員が待っていますから、そちらとの対戦をお願いしたいと思います」

 

「俺と戦いたい奴がいるのか…。もちろん俺を満足させられるような戦士なんだろ?」

 

「もちろんです。先ほどからそちらで待機しております」

 

そう言ってツグミがロビーを見回すと、出水、米屋、緑川の3人が彼女たちの方へ近付いて来るのを認めた。

 

「みなさん、お待たせしてすみません。ゲストを連れて来ました」

 

出水たちはやる気満々のようで、既に戦闘体に換装して準備万全である。

ランバネインとこの3人は大規模侵攻で戦っているから顔見知りなので、ランバネインもツグミの意図が理解できたようだ。

 

「これはまた粋な計らいをしてくれたものだ。玄界(ミデン)、アフトとこれで3度目だな」

 

「オレはアフト遠征には行ってないけどね」

 

ランバネインの言葉に緑川がツッコミを入れる。

ツグミは彼らが戦いたくてウズウズしている様子を察し、早く戦わせてあげたいと思った。

 

「その様子ですと異論はなさそうですね。前回と前々回はお互いに使命というものがあって思うように戦えなかったことでしょう。ですが今回はお好きなように思う存分戦ってください。これは恨み辛みや立場など関係なく、単純にトリガーによる戦闘を楽しんでもらうための模擬戦です。まずルールを決めましょう。いかがしますか?」

 

ツグミがランバネインの顔を見て訊く。

 

「俺は雷の羽(ケリードーン)を使っても構わないんだよな?」

 

「もちろんです。彼らもそのつもりでおります。ですが雷の羽(ケリードーン)はボーダーのノーマルトリガーと比べると圧倒的に強力で、一対一の勝負ではご満足していただけないと思うんです。そこで ──」

 

「3人まとめてかかってきていいぜ。別にこいつらを舐めてんじゃねえ。前に舐めてかかって散々な目に遭ったからな。特にそこのチビッコいのには油断をして足を1本持ってかれた」

 

そう言ってランバネインは緑川を見てニヤっと笑う。

 

「俺は強い奴と戦うのが大好きだ。言っておくが俺は誰かのことが嫌いだとか憎んでいて戦うのではなく、強い戦士との命懸けの戦いがしたいだけだぞ。まあ、トリオン体じゃ命を取るとか取られるってことはまずないが、それでも真剣勝負をする時の緊張感や高揚感、強い者を足元に跪かせる時の万能感がたまらないんだ」

 

「あー、それってものすげーよくわかる。おれも同じだから」

 

米屋が同志を見付けたとばかりに嬉しそうな顔で言う。

 

「おれがボーダーにいるのは別に近界民(ネイバー)が憎いからってことじゃない。そういった仲間がいてそいつらの気持ちもわかるが、おれ自身は強い奴と戦うのが楽しくて、近界民(ネイバー)には強い奴がいっぱいいそうだから腕を磨いて戦いに挑む。もちろんこの街を守りたいってのもあるが、トリオン兵相手じゃなく人型と戦いたい。大規模侵攻の時は必死で楽しむって余裕はなかったが、今日は思う存分()れるってことでずっと待ってたんだぜ。いや、おれだけじゃなくこいつらもだ」

 

米屋と緑川が頷く。

 

「そうか、それはこっちも手を抜かずに全力で戦わないと非礼だってことだな。何のしがらみもなくただ勝つことだけを考えて戦う…。こりゃあ最高のご馳走だぜ」

 

「では、今回の模擬戦はランバネインさんを歓待するという意味もありますので、一対三での勝負でお願いします。もし時間が余るようでしたらご希望によって一対一(サシ)の勝負もありということで…双方、それでよろしいですか?」

 

「異論はない」

「いいぜ」

「ああ」

「もっちろん」

 

4人の意見が一致したところで、出水たち3人が一緒にひとつのブースに入り、ランバネインはツグミが案内をして入る。

 

「操作はわたしがここで行います。あなたは今の換装を解いて(ホーン)トリガーを起動させてください」

 

「ああ」

 

ランバネインはボーダーのトリガーを解除し、自身の(ホーン)トリガーを起動させる。

 

「これからあなたを『旧三門市立大学』という戦闘フィールドへと転送します。この『旧三門市立大学』のマップは以前にあなたが戦った場所を模したものです。あの時のように思い切り破壊してしまってかまいません。なにしろこの戦闘フィールドもすべてコンピューターによって再現されたもので、今回は特別にさっきの訓練室と同じくトリオン消費のないシステムに変更してあります。なので思い切り派手に戦ってもトリオン切れはありません。ただしトリオン体へのダメージは通常と同じようになっていますので、傷口からはトリオンが漏れ出しますし、それが過多となればトリオン体は破壊されてしまうように設定されています。それは相手方も同じですので、それはご承知ください」

 

「わかった」

 

「それとこの模擬戦は訓練生たちや正隊員たちも自由に見物できるようになっています。それは強者同士の戦いを見ることで彼らの勉強になるからです。ボーダーは積極的に近界(ネイバーフッド)へ進出しようなどとはまったく考えていませんが、あなた方のように攻め込んでくる敵がいるなら全力で街を守らなければなりません。そのための訓練にこの模擬戦を役立たせていただきます」

 

「ああ、いいぜ」

 

「それと今さら言うまでもありませんが、彼らはあなたの雷の羽(ケリードーン)の能力のことを把握しており、この模擬戦を行うことが決まってから作戦も立てていると思います。地の利があり、前もって作戦を立てていて、さらに仲間や後輩たちが観客となっている彼らは無様な戦いはできません。たぶんこれまでに相対した敵の中でもトップクラスの難敵となるでしょう。これだけ盛りに盛ったんですから勝っても負けても十分楽しんでいただけることでしょう。…あちらも準備ができたようですので転送を開始します。転送場所はランダムですのでどこに着くかわかりませんが、敵となる3人はバラバラの場所に転送されます。合流させる前に各個撃破も可能です。さあ、いきますよ!」

 

ツグミはコントロールパネルを操作してランバネインを戦闘フィールドへと転送させた。

「旧三門市立大学」のマップは以前に二宮隊と玉狛第2のA級昇格試験の際に用意したものだが、残念ながらその時は使用されずに()()()()になっていたものである。

ランバネインと出水・米屋・緑川組にとって因縁のある場所で、彼らが戦うには相応しい場所だということでツグミがセッティングしたのだった。

大規模侵攻では出水たちの他に東が率いたB級合同部隊(チーム)がいたが、彼らまで登場させてしまっては()()()()()楽しめないと考えて協力は断っている。

その代わりロビーでは非番の東隊と荒船隊のメンバーが観客(ギャラリー)として模擬戦の開始を待っていた。

 

 

「旧三門市立大学」のマップは中央の大部分を占めるのが大学のキャンパスで、その周辺は市街地となっている。

中央に広いグラウンドがあり、4階建ての本校舎といくつかの建物で構成されている立体的なマップだ。

そして転送された先はそれぞれ東西南北の四隅で、自然と中央のグラウンドに向かうことになる。

ランバネインは南の端に転送され、ツグミの指示によって真北へと向かって()()する。

東の米屋、北の出水、西の緑川の誰かを個別に撃破するという手もあるが、ランバネインは同時に相手をする自信があるようだ。

 

グラウンドに到着したランバネインは過去の経験から出水の「曲がる弾」、米屋の「曲がる槍先」、緑川の「グラスホッパー(ジャンプ台)を使う高機動性」に注意をしている。

しかしそれがわかっているからさほど驚異とは考えておらず、大規模侵攻の時のように時間稼ぎではなく本気で戦うことができることを喜んでいた。

また出水と米屋もアフトクラトル遠征ではC級隊員たちを遠征艇まで逃がすためにハイレイン隊を足止めする役目であったので、本気で戦うことができなかった。

模擬戦とはいえお互いに満足できる戦闘ができるとなれば張り切るのは無理もない。

そして勝つことだけが目的であるから、諸事情を鑑みずに戦える。

 

(ボーダー隊員の戦闘レベルはアフトの並のトリガー使いとほぼ変わらない。しかし連携を基本とした戦いは近界(ネイバーフッド)においてもトップレベルに近い。たった3人とはいえ連携させれば危険だが、だからといってひとりずつなら問題なく倒せるという認識でいたために敗北を喫した。今回はそんな無様な姿を見せるわけにはいかぬ。3人のうちふたりは近距離攻撃、ひとりが中距離攻撃。上空からの絨毯爆撃が最も効果は高いが、兄者と戦った弾トリガー使いには要注意だ。状況に応じて弾道の異なる弾を自由自在に扱う技術の高さは兄者が部下にしたいと思うほどだからな。今回は狙撃手がいないということだから一定の距離を保ってさえいれば危険はないが、それでは面白くない。さて、どうしたものか…)

 

単純に勝てばいいというのではなく、いかに面白い戦いをするかに重点を置いているようであった。

ハイレインのように勝負の先に目的があるというのではなく、ランバネインは勝負自体が目的であるから、そこに至るまでが重要なのだ。

それは出水たちも同じで、通常は「市民の生命と財産を守る」とか「さらわれた市民を救出する」という目的があり、その目的を達成するために戦うことになっているから、純粋に戦闘を行って勝負をつけるということが難しい。

もしアフトクラトル遠征で彼らが自分たちの欲求を優先して本気でハイレイン隊に勝負を挑んでいたら遠征は失敗に終わっていた可能性がある。

あれは時間稼ぎをしてC級隊員たち全員を遠征艇まで避難をさせ、それが完了したところで(ゲート)を開いてエスケープしたから全員無事に帰還することができたのだ。

仮に誰かひとりでも重傷を負ったり現地に置き去りにされでもすればC級隊員が全員生還しても市民からの非難はあったに違いない。

その点で出水と米屋は納得しているが、こうして何のしがらみもない戦闘となれば彼らもやる気はMAXともなるだろう。

 

 

ランバネインがグラウンドに到着した頃、出水、米屋、緑川の3人は内部通話で連絡を取り合っていた。

 

[いずみん先輩、今回はどうすんの?]

 

[前と同じで陽動作戦ってのは面白くねえよな。あいつもオレらが連携してくるって思ってるだろうから。こっちの手の内もバレて ──]

 

緑川の質問に出水が答えていると、そこに米屋が名案を思い付いたようで割り込んできた。

 

[いーじゃん、連携とか陽動とかカンケーなく、それぞれが好きに()るってのはどうだ? それは敵さんも考えちゃいねーし、奴を倒すってのが目的なんだからやり方はどーでもいいんじゃね?]

 

[あー、オレもよねやん先輩の意見にさんせー! 他のふたりの攻撃の邪魔をしないようにすれば自由にしていいよね? それでトドメを刺した人が勝ちで残りのふたりに何か奢ってもらえるってどう?]

 

[奢る奢らないは別として個別攻撃はいいんじゃないかな。じゃあ、個別に好きなように戦うって作戦、でいいだろ]

 

[それって作戦って言わないでしょ、いずみん先輩]

 

緑川がツッコミを入れるが、実際に三対一ではなく、一対一が3組となる戦闘でもいいわけだ。

ただし数の有利を生かせない戦いとなるため厳しいものになりそうだが、ここで負けたところで命を奪われるわけでもアフトクラトルへ連れ去られるわけでもない。

単純に戦闘を楽しむことができればそれで十分なのだ。

それはランバネインも同じで、真剣に楽しもうと戦端が開かれる瞬間を今か今かと待っていた。

 

 

 

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