ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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416話

 

 

総司令執務室では城戸がツグミたちを待っていた。

ランバネインがランク戦ブースで模擬戦をしていたことを知っているので、城戸はそのことを話題として話しかける。

 

「仮想空間で模擬戦を経験した感想は?」

 

「そりゃぁ…こんな楽しい思いをさせてもらったのは初めてだ。トリオンを消費しない、誰も傷つかない。市街戦を想定してマップを作り、そこで戦うから建物を破壊してしまうこともあるが、それは仮想空間であるから実際には被害が出ない。なんとも理想的な訓練設備だ。ボーダーの戦士にとっては真剣に訓練する施設だが、俺は純粋に戦闘を楽しませてもらった。ツグミから説明してもらったが、これはトリオン以外のエネルギーが大量に必要とかで、現在の近界(ネイバーフッド)では再現できないものとか。だからこそこうして俺に見せたんだろ?」

 

「もちろんそれもあるが、玄界(ミデン)がトリオン以外のエネルギーを使用する技術によって発展してきたことと、それが近界(ネイバーフッド)の国々であっても可能であることを知ってもらいたかったからだ。キオンはすでにその技術に魅力を感じており、スカルキ総統は積極的に導入しようと動いている。それは私たちも異論はなく、同盟締結の条件として彼らに技術支援を行う予定でいる。その点でアフトクラトルを除外しようという気はない。過去に敵として戦った国ではあるが、そのような悲しい歴史はもう二度と繰り返したくはない。ならばトリオンとトリオン能力者を奪うための戦争をせずに済むよう働きかけるのが平和への近道である。そうは思わないかね?」

 

城戸の言葉にランバネインは大きく頷いた。

 

「俺はボーダーの考え方に賛成だが、兄者…アフト国王がどのように判断するかが問題だ。兄者も玄界(ミデン)のトリオンを使用しない文明に興味はあるものの、今の一番執着しているのは近界(ネイバーフッド)統一だ。軍事力を誇示して従属させた後にアフトが宗主国となる。各国の自治権は認めるが、宗主国国王の意思が絶対というもので、兄者に言わせればひとりの絶対的な権力を持つ()()がひとつの意思で世界を統一すれば争いも起こることもない…だそうだ。ツグミにこの話をしたが、玄界(ミデン)にも似たような国家形態があるそうだな。そしてキオンのスカルキ総統も同様な考えを持っているという。ただし大きく違うのはそいつがキオンの強大な軍事力を伴わず、従うのであればボーダーから得た玄界(ミデン)の技術を分け隔てなく広めようという点。ツグミはそれを玄界(ミデン)の童話の『北風と太陽』に似ていると言っていた。俺は強いヤツと戦うのは大好きだが、だからといって相手を殺したいとか苦しめたいわけじゃない。近界(ネイバーフッド)でもトリオンに代わるエネルギーさえあれば無用な戦いをせず、今日みたいに何のしがらみもなく戦うことを楽しめる世の中になってもらいたいって思っているんだ」

 

見た目こそ大柄で鬼のように見えるランバネインだが、彼の本質は太刀川のように純粋に戦闘を楽しみたい()()のトリガー使いである。

身分などに拘らず、庶民であろうとも気の合う仲間たちと酒を酌み交わして美味しいものを食べたいと、ごく普通の人間と変わらない。

そして家族を思う気持ちもツグミたちと同じであり、ハイレインの考え方ややり方に疑問を持っていてその板挟みで苦しんでいる。

 

ランバネインの気持ちを聞いた城戸は執務机の引き出しから1通の封書を取り出した。

 

「ならばこれをボーダー…玄界(ミデン)の代表者としてアフトクラトル国王への親書として託そう。ボーダーは界境防衛を目的として創設され、三門市と市民に対して害を及ぼそうとする近界民(ネイバー)と戦うために存在する組織であり、近界民(ネイバー)が攻めて来ることがなければこちらから積極的に近界(ネイバーフッド)へ赴く理由はない。この親書にはボーダーが近界(ネイバーフッド)へ遠征を行うのはエクトスにさらわれた約400人の三門市民を救出するためであり、軍事侵攻を行うつもりはないと書いてある。それを信じるか信じないかは国王次第だ。そしてボーダーは近いうちにキオンとエウクラートンの2国と同盟を結ぶことになっている。その条件についてもその親書に書かれているのだが、それをアフトクラトルでも承認するのであればこちらも受け入れる用意はある。条件はキオンとエウクラートンと同じもので、この2国からはほぼ同意を得ていて最終調整と調印をするだけになっている。幸いなことにアフトクラトルを含めたこれら3国は玄界(ミデン)に最接近している時期で、この機会を逃すのは得策ではない。したがって貴公には早急に国王を説得してもらいたいと思う」

 

「……」

 

「軍事力による統一を目指す国王の考え方とは真逆の手段で近界(ネイバーフッド)における戦争を終息させたいと考えているボーダーの意思をキオンとエウクラートンは理解してくれている。だからこそ手を取り合って共にやっていこうという気持ちになれるというもの。そのために彼らには玄界(ミデン)の技術援助を積極的に行うことにしている。トリオンに代わるエネルギーを手に入れることができれば無益な戦いはせずに済むからな。(マザー)トリガーから抽出するトリオンの量を国土の維持のみに限定すれば『神』の寿命も延びる。そして豊穣の大地と民の笑顔があればそれで充分ではないだろうか?」

 

城戸の問いかけにランバネインは頷いた。

 

「同感だ。帰国したらすぐに兄者と面会して経緯を話すことにしよう。ただし兄者は頭が良い人間で自分のやっていることに絶対の自信を持っているから他人の助言がよほど有意義なものではない限り聞き入れようとはしない。今回の謝罪に関してもキオンとボーダーの結び付きが強くなるのを恐れていて、邪魔をするのは無理だとしてもアフトも同盟に加わってキオンの影響力をこれ以上強めたくはないという考えで、別にボーダーと仲直りしたいと思っているわけじゃない。兄者の行動原理は『弱者は強者に従う』というものだから、自分が近界(ネイバーフッド)最強の国の王になることで自分の思い描く世界が造られると考えている。アフトの王になったから今度はアフトが最強の国でなければいけないことになり、キオンが目障りだという単純な理由で兄者は俺に()()()()()()()。兄者が指導者として優れているのは事実。だからアフトの王としてアフト国内を上手く統治してくれるだけで充分だと俺は考えているんだが兄者はそうじゃない。最終目標はアフトが頂点に立つ近界(ネイバーフッド)の統一で、兄者も積極的に戦争を進めたいのではないんだが、その手段が戦争だという矛盾を孕んでいる。兄者はそれに気付いていないような馬鹿ではない。ただ今のアフトには軍事力以外に誇れるものが何もない。そんな状態でキオンが玄界(ミデン)を味方にして優れた文明を近界(ネイバーフッド)へ持ち込もうとしているとなれば焦るのは無理もないんだ」

 

ランバネインはそう言ってため息をついた。

 

「それと二度にわたってボーダーにしてやられたのがまだ悔しいんだろうな。玄界(ミデン)のトリオンとトリガーの技術は比べるまでもなくアフトの方が格上で、事前調査も万全だった。そしてあれだけの数のトリオン兵を導入し、(ブラック)トリガー4本を含めたトリガー使いの精鋭を送り込んだというのに撤退に追い込まれたことは想定外で、ボーダーが()()を取り戻そうとしてやって来ることも想定していたのにそれを大きく裏切られた。ガロプラに遠征艇を破壊させたからもっと遅れると思っていたが、それ以上に驚いたのは()()の居場所を突き止めていて、手際の良く逃がすことができたことだ。いくらエネドラが裏切って情報をペラペラと喋ったとしても、未知の敵地であれだけ調子良く事が運んだという点が腑に落ちない。もっともキオンの諜報員が協力していたと知れば納得できる点もあるんだが、それでも地下道の存在を知ったとしても迷路のようになっているから詳細な地図がなければ成功はしなかったはず。兄者は今でもあの時の敗北を思い出すと荒れている。そんな兄者に玄界(ミデン)の素晴らしさを話したところで逆効果になりそうだ」

 

プライドの高いハイレインの顔に二度も泥を塗ったボーダーに対して謝罪をするということは彼にとってどうしても我慢できなかったことだろう。

しかしこのままではキオンが力を持ってしまうと恐れ、最終手段としてランバネインを玄界(ミデン)に送り込んで謝罪をさせることでなんとか体面を保つことになった。

ただしボーダー側は前もって「謝罪は公式に受け入れる。しかしだからといって和解したことにはならない」と釘を刺しているから、現状ではアフトクラトル…というよりもハイレインが次の行動をどのようなものにするかにかかっている。

テスタのように積極的にボーダーと手を組もうとしているなら難しいことはないのだが、キオン一強にしたくないという理由で頭を下げた()()をしているハイレインではボーダー側もどのように交渉するか方法は違ってくるというもの。

 

するとそれまでずっと黙って城戸とランバネインの会話を聞いていたツグミが口を開いた。

 

「城戸司令、3日後にわたしとゼノン隊の3人はキオンとエウクラートンへ発つことになっています。この2ヶ国を訪問した帰りにアフトクラトルへ立ち寄ってハイレイン陛下に謁見を申し込むというのはどうでしょう?」

 

「何だと?」

 

城戸は鋭い視線をツグミに向けた。

 

「そんな怖い顔をしないでください。別に戦争をしに行くのではないんですから。まあ、戦いではありますけど武器(トリガー)を使ったものではなく、双方の知恵を絞った戦術や戦略といったものを駆使したものですからご安心を。たぶん城戸司令が心配なさっているのはアフトクラトルがキオンの軍人を連れたボーダー隊員を歓迎するはずがない、と。別に歓迎されたいとは思いませんが、ここで最後通牒を突きつけようと考えているんです。アフトクラトル側から和解への道を作ろうとしているんですから、ボーダー側はそれを受け入れて条件を提示した。その条件に納得できないのなら共に歩むのは不可能。ボーダー側は別にアフトクラトルと協調路線を歩む必要はないんですから。ここでハイレイン陛下は自分で開いた交渉の道を自ら閉ざすことになるか否か判断していただくんですが、こちらもそう長くは待ってはいられません。時間を引き伸ばそうとすれば逆効果になるとランバネインさんには伝えてもらうことにしましょう」

 

「しかし敵の本拠地に乗り込むなど危険すぎる。そのまま拘束されて人質にでもされたら ──」

 

「そうなったらアフトクラトルはキオン・ボーダー連合との全面戦争になるでしょうね。今のアフトクラトルは回復の途上にあり、(マザー)トリガーから抽出するトリオンの大部分を国土の維持と農作物の生産につぎ込んでいるそうです。その状態で戦争勃発は厳しいでしょう。勝ち目のない戦を挑むほどハイレイン陛下はバカではないはず。それにボーダーの大使を人質にするなんて卑怯なマネをする人間のことをランバネインさんは肉親だといっても許せないと感じるでしょう。違いますか、ランバネインさん?」

 

「もちろんだ。仮にそんなことをしたら、俺はベルティストン家当主として国王軍への参加を拒否する。戦争をするにしても誰もが納得する理由がなければ誰も賛同しない。特に兄者は邪魔になる貴族たちを粛清したから味方がいない状態だ。さすがに俺が見限ったら兄者は孤立無援で、まず間違いなく自ら身を滅ぼすことになるだろう。俺はそんなことはさせたくない。不利な状況ではあるが何とかして説得してみよう」

 

「よろしくお願いします」

 

ツグミがランバネインに頭を下げると、城戸もそれ以上反対できなくなった。

 

「仕方がない。現地での判断はおまえに任せる」

 

「ありがとうございます。城戸司令はこういう時に話が早くて助かります。では早速準備を進めたいと思います」

 

「忙しいところすまないな。年越しに家族と一緒に過ごせないなど申し訳ないと思っている」

 

城戸の言うように26日に出発すれば帰って来るのは新年になってからで、毎年忍田と一緒に過ごしていた彼女にとって初めて家族のいない年越しになるのだ。

 

「長い人生の中でこういう時もありますよ。年が明けてから行動するよりも今すぐに行動した方が効果が高いとなればやるしかありません。たしかに残念ではありますが、わたしは自分の願いを一日でも早く叶えるためにやっていることなんです。先方も今か今かと待っているんですから、早く行って説明をしたいです。今なら片道3-4日で行くことができるほど近くまで来ているんです。同盟締結を急げば市民救出計画も加速するでしょうから、来年の年越しまでには行方不明となっている市民を全員連れ帰って家族と共に正月を過ごせるようにしてあげましょう。そうすればわたしだって来年は心置きなく家族と一緒に年越しができます」

 

「おまえがそういう気持ちでいるのならもう何も言わぬ。自分の人生だ、後悔をしないように生きなさい」

 

「はい」

 

ツグミは満面の笑みで答えた。

 

 

◆◆◆

 

 

城戸とランバネインの話が終わると、ツグミは廊下を歩きながら時間を確認して言う。

 

「この時間だともう模擬戦をやっている暇はなさそうですね。今日の夕食はエリン夫妻の送別会も兼ねていて、わたしの住んでいる寮で行うことになっているんです。準備はできているので、このままジンさんの運転する車で寮まで行きます。参加メンバーはエリン家のご家族とヒュース、ゼノン隊の3人、わたしとジンさんですが、玉狛支部というところの隊員が数人参加します。彼らはヒュースと懇意にしていたものですから、送別会に加わりたいというんです。よろしいですか?」

 

「それはかまわねえぜ。宴会ってのは大勢の方が楽しい。それにエリン一家とヒュースが玄界(ミデン)で手厚く保護されていたって証拠だろ? 安心しだぜ」

 

ランバネインは穏やかな顔で答えた。

 

「ヒュースが捕虜になったのは金の雛鳥を捕獲できなかったからで、『神選び』でヒュースが邪魔になるからと置き去りにしたのだから心苦しく思ってた。拷問されてもヒュースなら絶対にアフトの情報を漏らすことはないと不安はなかったが、その代わりにあいつが酷い目に遭っているんじゃないかと気掛かりだったんだ。だが昨日の夜に少しだがあいつと話をして、玄界(ミデン)の人間が俺たちが想像していたよりもずっといいヤツらだと知った。食事も充分に与えられ、行動の自由さえあったと聞かされて驚いたぞ」

 

「ええ。でもそこまで親切にしてあげたのにアフトクラトルの情報は何も教えてくれなかったんですよ。死んだって話すものかという態度でいて、祖国への忠誠心が高いと思っていたんですけど、ディルクさんたちに再会した時の姿を見ていてわかりました。彼は祖国ではなくエリン家のご家族を大切にしていたのだと。人間というものは誰もが幸せになりたいと願って生きていますが、自分さえよければ良いというのではなく、自分の周りにいる最も近しい存在である家族が自分と同じくらい大事で愛おしい。その家族の犠牲があっての幸せであったなら何の意味もない。むしろ自分が身代わりに犠牲になりたいとさえ思ってしまうほどです。ヒュースにとってディルクさんたちは家族以上の存在。その人たちの身の安全を考えて何も言わなかったのだとようやくわかりました」

 

ヒュースやディルクたちの話は全部ツグミの作り話ではあるが、ランバネインは全部信じているようだ。

それくらい真実味に溢れていて違和感がないものであり、最も重要な点 ── ヒュースがエリン一家のことを心から愛している ── が真実であるからで、その真実に()()()脚色をしただけなのだからランバネインが騙されてしまうのも無理はないことである。

 

「ヒュースは無口で愛想がなくて可愛げがなかったのにディルクさんたちに再会した途端に態度が急変したんですよ。ディルクさんが『世話になった人たちにその態度はありえない』と言っただけで、これまでとは打って変わって素直な好青年になりました。でも結局アフトクラトルのことは最後まで一切話さなかったんですから本当に何も知らないタダの一兵卒だったんじゃないかって思えてきました。なにしろ何を聞いても『オレは何も知らない』なんですもの」

 

「あいつらしいな。まあ、あいつの知っていることは限られている。ハイレイン隊の一員とはいえ本格的な戦闘に参加したのは玄界(ミデン)侵攻が初めてだったくらいだからな。兄者は有望な若者だと期待をしていた」

 

「そんな期待をしていたヒュースを玄界(ミデン)に置き去りにするなんて…。でもエネドラを殺そうとしたことで彼が裏切って知る限りの情報を提供してくれましたから、遠征に必要な情報の多くは入手できました。事情はともかく彼に対して残酷な仕打ちをしなければボーダーは遠征に成功していたかどうかわかりません。そうなるとアフトクラトル遠征の成功の鍵はハイレイン陛下の采配のおかげ…ということになりそうですね。死人に口無しといいますが、彼は正確には死んでいなかったんですもの」

 

「兄者もそこまでは想定していなかったんだろうな。兄者は自分の配下のトリガー使いのことは大事に扱っていた。家族同様に…とまではいかないが、それでもやつらの家族のことも含めて心配していたし、生活面で苦労はさせたくはないと報酬は充分に支払っていた。だから優秀なトリガー使いが集まってきて、四大領主の中でベルティストン家が一番力を持っていたんだ」

 

ランバネインはそこまで話したところで哀しそうな顔になった。

 

「だがもしかしたらそれはすべて自分が権力を握るためだったのかもしれないと思うようになってしまった。ディルク・エリンを生贄にするためにヒュースが邪魔になったから置き去りにした。エネドラはトリガーホーンが脳に作用して人格が崩壊し、兄者のことを軽視して暴言や独断専行が目立つようになったからもう不要だとしてミラに命じて殺させた。そのミラすらも王になるために生贄にした兄者だ、もしかしたら俺のことも必要であれば切り捨てるに違いないという疑いの目で見るようになってしまったよ。そんなはずはない。俺は唯一の肉親で、俺以上に兄者のことを愛している人間はいないと自信を持って言えなくなってしまったんだ」

 

「……」

 

「兄者は王になってから疑い深くなってしまい、俺が帰国して兄者を説得しようとしても自分に都合の悪いことであれば聞く耳持たずというか、俺がボーダーに寝返ったと考えるかもしれない。そうやって兄者は味方を減らしていくんだ。いくら(ブラック)トリガーあっても、優秀なトリガー使いがいても、強力なトリオン兵がたくさんあってもそばに心を許せる人間がいなきゃダメなんだ。兄者はそのことに気付いていない。王になって権力を手に入れたが、その代償として大切なものをたくさん失った。俺はそんな兄者のことを見ているのが辛くて距離を置くことにしたが、離れていても考えるのは祖国の未来よりも兄者の未来のことばかりだ」

 

辛い気持ちを吐露するランバネインにツグミは語りかける。

 

「わたしたちはあなた方ご兄弟を仲違いさせたいのではありません。ハイレイン陛下が武力よりも対話によって近界(ネイバーフッド)の安定を目指すという考え方を認めてくれさえすればいいんですが…。できることなら面会をしてこちらの気持ちを直接話してみたいです。そうすればあなたがどれだけ陛下のことを大切にしているのかを話すこともできます。人は他人の気持ちを100パーセント理解することは不可能ですが、理解しようとする努力さえすればわかり合えるとわたしは信じています。そんなの綺麗事だと言われたらそのとおりでしょうが、だからって何もせずにいるのはわたしの性に合わないんです」

 

「おまえ、やっぱ面白いやつだな。おまえに婚約者がいないのであればアフトへ連れて行こうかとも思ったが、おまえにはジンという男がいると教えられた」

 

「え?」

 

「それもヒュースだけでなくエリン夫妻にキオンのリヌスとかいう男も言っていた。さすがに俺も無体なことをするつもりは端からないが、そうやって何人もの人間がおまえのことを心配して忠告してくるくらいだ、よほど大事に思われてんだな」

 

「わたしもみなさんのことを大事に思ってますから」

 

「あのキドっていう最高司令官も同じだ。おまえみたいな若い娘に重要なことを一任するんだから信頼されていて、同時に愛されてもいる。羨ましいと思えるほどにな」

 

「城戸司令はわたしの父親みたいなものです。わたしは7歳の時に両親と死に別れ、ボーダーに所属していた父の関係で城戸司令や忍田本部長、林藤支部長といった人たちに育てられたようなものなんです。この3人にはボーダー隊員としても厳しく育てられましたから、わたしが自分の幸せを求める以上は自分自身の願いだけでなくボーダーや彼らの願いも一緒に叶えなければ意味ないんです。わたしは困難な問題に遭遇してもそれを乗り越えられるだけの力を彼らから与えられ、結果を出してきました。その結果の積み重ねが信頼になっているんですよ。こうしたものは一朝一夕には成しえないことで、やっとこうして()()に認めてもらえるようになったんですから、さらに彼らの期待には応えたい。そしてあなたがわたしに期待をしてくれるのなら、わたしは全身全霊で()()()()

 

はにかみながらも確固たる自信を持って言うツグミにランバネインは本気で()()()のだった。

 

 

 

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